説明

携帯無線機

【課題】スライド構造の携帯無線機において、上下回路基板間を接続する接続線を原因とするアンテナ性能の劣化を抑制することができる携帯無線機を提供する。
【解決手段】下筐体2と、下筐体2内に設けられた第1の回路基板3と、第1の回路基板3上に構成された給電部4と、給電部4に電気的に接続されたアンテナ5と、上筐体6と、上筐体6内に設けられた第2の回路基板7と、第1の回路基板3と第2の回路基板7とを電気的に接続する接続線8と、を備え、第2の回路基板7に、接続線8と高周波的に結合するスリット部71を設けた。これにより、接続線8を原因とするアンテナ5の性能劣化を抑制することができる。更に、スリット部71と接続線8との結合状態を調整するスリット調整部12を第2の回路基板7に設けることで、接続線8の形状を変更することなく、接続線8を原因とするアンテナ5の性能劣化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話等の携帯無線機に関し、特に上筐体と下筐体の2つの筐体からなり、一方の筐体に対して他方の筐体をスライドさせることで開閉する構造を持つスライド式の携帯無線機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の携帯無線機では、デザインや使用時の利便性から小型化及び薄型化が求められるとともに、使用周波数の広帯域化や通信性能の向上などが求められている。
【0003】
携帯無線機の筐体構造は、上述したスライド構造の他、折畳み構造、ストレート構造の3種類に大別できる。スライド構造を持つ携帯無線機としては、例えば特許文献1〜4で開示されたものがある。折畳み構造の携帯無線機もそうであるが、スライド構造の携帯無線機は、上下2つの筐体で構成し、上筐体内に設けた回路基板と下筐体内に設けた回路基板とを接続線によって電気的に接続する構成を採る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−154507号公報
【特許文献2】特開2010−161715号公報
【特許文献3】特開2010−157833号公報
【特許文献4】特開2011−171907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、携帯無線機の小型化及び薄型化に伴い、上下回路基板間を接続する接続線を下筐体内に設けられたアンテナ素子から離すことが難しくなっており、アンテナ素子の近傍に接続線があるとアンテナ性能劣化を引き起こしてしまう。すなわち、筐体閉じ状態時に上下筐体が重なることによって、上下回路基板間を接続する接続線が折り返されて重なり、接続線上を流れる電流が折返し前後で逆相となり、接続線上の電流が打ち消しあうことにより、アンテナ性能の劣化が引き起こされる。なお、筐体開き時には接続線の折り返し部の重なりが少ない、または、ないため、接続線によるアンテナ性能の劣化は発生しない。
【0006】
上述した筐体閉じ時における課題に対し、上記した特許文献4で開示された携帯通信端末装置では、アンテナ素子のアンテナ特性を劣化させる電磁気的結合関係にある、携帯通信端末装置を構成する複数の電気的な導通性を有する部品を同一平面上にくるように重ね合わせて構成するようにして、アンテナ効率を改善するとある。しかしながら、複数の電気的な導通性を有する部品の中には上述した接続線も含まれるが、この接続線によるアンテナ性能の劣化を改善するためにはその接続線の物理的な変更(接続点や形状等の変更)が必要となり、設計が複雑化するという課題が発生する。
【0007】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、スライド構造の携帯無線機において、上下回路基板間を接続する接続線を原因とするアンテナ性能の劣化を接続線の物理的な変更を加えることなく、抑制することができる携帯無線機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の携帯無線機は、第1の筐体と、前記第1の筐体内に設けられた第1の回路基板と、前記第1の回路基板上に構成された給電部と、前記給電部に電気的に接続されたアンテナと、第2の筐体と、前記第2の筐体内に設けられた第2の回路基板と、前記第1の回路基板と前記第2の回路基板とを電気的に接続する接続線と、を備え、前記接続線と高周波的に結合するスリット部を前記第2の回路基板に設けたことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、第2の回路基板にスリット部を設けることで、折り返された接続線のうち第2の回路基板に近接する部分とスリット部を高周波的に結合させ、スリット部の大きさと接続線との距離に応じて、上筐体側の接続線の高周波的な電気長を変化させ、上筐体側の接続線の位相は変化し、下筐体側の接続線との逆相電流が低減し、折り返された他方の接続線部分に流れる電流との打ち消し量が低減され、第1の回路基板と第2の回路基板とを電気的に接続する接続線を原因とするアンテナの性能劣化を抑制することができる。
【0010】
上記構成において、前記スリット部は、前記接続線の少なくとも一部と筐体厚み方向において重なる程度の大きさを有することを特徴とする。
【0011】
上記構成において、更に、前記スリット部と前記接続線との結合状態を調整するスリット調整部を前記第2の回路基板に設けたことを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、スリット調整部を設けることで、接続線の形状を変更することなく、接続線を原因とするアンテナの性能劣化を抑制することができる。
【0013】
上記構成において、前記スリット調整部は、リアクタンス素子により構成されていることを特徴とする。
【0014】
上記構成において、更に、前記第2の筐体に固定された金属性の第1のスライドレール及び第2のスライドレールと、前記第1の筐体に固定され、かつ前記第1のスライドレール及び前記第2のスライドレールそれぞれに対して摺動可能に構成された金属性の第1のスライドベース及び第2のスライドベースと、を備えたことを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、第1,第2のスライドレールと第1,第2のスライドベースにより第1の筐体と第2の筐体を閉じ状態とスライド状態に設定することができる。本発明における構成では接続線に対して第1,第2のスライドレール及び第1,第2のスライドベースが接続線の平面部と重ならない構成となっており、このような構成においては、接続線に流れる電流が第1,第2のスライドレール及び第1,第2のスライドベースにより阻害されない為、接続線の折り返し部の影響が顕著となり、アンテナの性能劣化が発生しやすいことから、性能劣化を抑制することができるという効果がより顕著なものとなる。
【0016】
上記構成において、前記第1のスライドレール及び前記第2のスライドレールは前記第2の回路基板に対して導通していないことを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、第1の回路基板と第2の回路基板を電気的に接続する経路は、接続線のみとなり、より多くの電流が接続線に流れ、接続線の折り返し部の影響が顕著となる為、本発明の効果が高まる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、スライド構造の携帯無線機において、第1の回路基板と第2の回路基板間を接続する接続線を原因とするアンテナの性能劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態に係る携帯無線機の構成を模式的に示した図であり、(a)は閉じ状態における側面視図、(b)は閉じ状態における上筐体側の正面視図
【図2】図1の携帯無線機の接続線を拡大した斜視図
【図3】図1の携帯無線機と従来の携帯無線機のアンテナ性能の変化量を比較した結果の一例を示す図
【図4】図1の携帯無線機の応用例である、筐体両端にスライドユニットがある構造を持つ携帯無線機の構成を模式的に示した図であり、(a)は閉じ状態における側面視図、(b)は閉じ状態における上筐体側の正面視図
【図5】図4の携帯無線機における上筐体内の第2の回路基板と第1,第2のスライドレールの構成を模式的に示した図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態に係る携帯無線機の構成を模式的に示した図であり、(a)は閉じ状態における側面視図、(b)は閉じ状態における上筐体側の正面視図である。同図において、本実施の形態に係る携帯無線機1は、下筐体(第1の筐体)2と、下筐体2内に設けられた第1の回路基板3と、第1の回路基板3上に構成された給電部4と、給電部4に電気的に接続されたアンテナ5と、上筐体(第2の筐体)6と、上筐体6内に設けられた第2の回路基板7と、第1の回路基板3と第2の回路基板7とを電気的に接続する接続線8とを備える。
【0022】
接続線8は、平面部を有する帯状に形成された所謂フレキシブルケーブルと呼ばれるものであり、第1の回路基板3の電気信号を第2の回路基板7に伝達し、第2の回路基板に搭載される回路を機能させる。携帯無線機1の機能に応じて、接続線8は複数の電気信号を伝達する必要があり、この電気信号の数に応じて、接続線8は大きくなり、フレキシブルケーブルの幅が太くなる。接続線8は、下筐体2と上筐体6の間隙において折り返されており、下筐体2内において、第1の回路基板3と折り返し方向に沿って図1に示すZ方向である、厚み方向で面状に重なる。また、接続線8の折り返し部は、下筐体2に近い箇所と上筐体6に近い箇所において、互いに面状で重なっている。図2は、接続線8を拡大した斜視図である。接続線8の全長Lは、使用周波数が830MHzの場合、約λ/3(λ=約361mm)の約109mmとなる。
【0023】
図1に戻り、第2の回路基板7にはスリット部71が形成されている。スリット部71は、図1の(a)に示すように、筐体閉じ状態のときに、接続線8の折返し部分に対向する位置に形成されている。また、スリット部71は、図1の(b)に示すように、接続線8の少なくとも一部と筐体厚み方向において重なる程度の大きさを有している。接続線8の折返し部分に対向する位置にスリット部71を形成することで、スリット部71が接続線8と高周波的に結合し、スリット部71の大きさと接続線8との距離に応じて、上筐体6側の接続線8の高周波的な電気長を変化させ、上筐体6側の接続線8の位相は変化し、下筐体2側の接続線8との逆相電流が低減し、アンテナの性能劣化を抑制することが可能となる。図1の(b)中において点線で示した部分が、スリット部71と接続線8が高周波的に結合する結合部11である。
【0024】
また、第2の回路基板7には、スリット部71と接続線8との結合状態を調整するスリット調整部12が設けられている。このスリット調整部12は、スリット部71の外周部に挿入され、リアクタンス素子(例えばコイルやコンデンサ)により構成されている。スリット部71に対してスリット調整部12を設けることで、接続線8の形状を物理的に変更することなく、スリット部71の高周波的な電気長を変化させ、接続線8の対向する折り返し部の逆相電流を低減し、アンテナの性能劣化を抑制することが可能となる。なお、スリット部71と接続線8の結合状態を調整する他の手段として、スリット部71の面積の変更や、スリット部71と接続線8の間隔の変更も考えられる。
【0025】
図3は、使用周波数を830MHzとした筐体閉じ状態において、従来の携帯無線機と、本実施の形態の携帯無線機1のアンテナ性能の変化量(dB)を比較した結果の一例を示す図である。特に、本実施の形態の携帯無線機1ではスリット調整部12で結合状態を最適化しており、インダクタンスを大きくし、接続線8に起因する不要共振の周波数を830MHzより低い770MHzに移動させることにより筐体閉じ状態でのアンテナ性能が最大1.4dB改善されている。
【0026】
このように本実施の形態の携帯無線機1によれば、下筐体2と、下筐体2内に設けられた第1の回路基板3と、第1の回路基板3上に構成された給電部4と、給電部4に電気的に接続されたアンテナ5と、上筐体6と、上筐体6内に設けられた第2の回路基板7と、第1の回路基板3と第2の回路基板7とを電気的に接続する接続線8と、を備え、第2の回路基板7に、接続線8と高周波的に結合するスリット部71を設けたので、接続線8の対向する折り返し部の逆相電流を低減し、アンテナの性能劣化を抑制することができる。更に、スリット部71と接続線8との結合状態を調整するスリット調整部12を第2の回路基板7に設けたので、接続線8の形状を変更することなく、接続線8を原因とする不要共振によるアンテナの性能劣化を抑制することができる。
【0027】
なお、本実施の形態では、下筐体2と上筐体6とをスライドさせる機構については述べなかったが、例えば筐体両端にスライドユニットがある構造の携帯無線機においては、スライドユニット(スライドレールとスライドベースから構成されるユニット)を原因とするアンテナの性能劣化も発生しやすい。このような構造の携帯無線機においては、本発明による効果がより顕著なものとなる。
【0028】
図4は、筐体両端にスライドユニットがある構造を持つ携帯無線機の構成を模式的に示した図であり、(a)は閉じ状態における側面視図、(b)は閉じ状態における上筐体側の正面視図である。なお、同図において前述した図1と共通する部分には同一の符号を付けている。同図に示す携帯無線機20は、上筐体6に固定された金属性の第1のスライドレール21及び第2のスライドレール22と、下筐体2に固定され、かつ第1のスライドレール21及び第2のスライドレール22それぞれに対して摺動可能に構成された金属性の第1のスライドベース23及び第2のスライドベース24とを備える。第1のスライドレール21と第1のスライドベース23及び第2のスライドレール22と第2のスライドベース24は、それぞれスライドユニットを構成する。このような第1のスライドレール21および第2のスライドレール22と接続線8が重なっていない、かつ、第1のスライドベース23および第2のスライドベース24と接続線8が重なっていない構造の携帯無線機20においては、アンテナ性能劣化原因となる接続線8に対してのみ対策を講じることが出来るので、本発明による効果がより顕著なものとなる。
【0029】
図5は、図4の携帯無線機における上筐体内の第2の回路基板と第1,第2のスライドレールの構成を模式的に示した図である。この携帯無線機20に対して防水機能を持たせる為に、上筐体6を防水構造とし、密閉を保っている。そのため、第1,第2のスライドレール21,22は第2の回路基板7に接続できない。また、携帯無線機20を薄くする為に第1,第2のスライドレール21,22はZ軸方向である厚み方向において第2の回路基板7と重ならない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、スライド構造の携帯無線機において、上下回路基板間を接続する接続線を原因とするアンテナ性能の劣化を抑制することができるといった効果を有し、スライド構造の携帯電話等の携帯無線機への適用が可能である。
【符号の説明】
【0031】
1,20 携帯無線機
2 下筐体
3 第1の回路基板
4 給電部
5 アンテナ
6 上筐体
7 第1の回路基板
8 接続線
9 第1のコネクタ
10 第2のコネクタ
12 スリット調整部
21 第1のスライドレール
22 第2のスライドレール
23 第1のスライドベース
24 第2のスライドベース
71 スリット部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の筐体と、
前記第1の筐体内に設けられた第1の回路基板と、
前記第1の回路基板上に構成された給電部と、
前記給電部に電気的に接続されたアンテナと、
第2の筐体と、
前記第2の筐体内に設けられた第2の回路基板と、
前記第1の回路基板と前記第2の回路基板とを電気的に接続する接続線と、を備え、
前記接続線と高周波的に結合するスリット部を前記第2の回路基板に設けたことを特徴とする携帯無線機。
【請求項2】
前記スリット部は、前記接続線の少なくとも一部と筐体厚み方向において重なる程度の大きさを有することを特徴とする請求項1に記載の携帯無線機。
【請求項3】
更に、前記スリット部と前記接続線との結合状態を調整するスリット調整部を前記第2の回路基板に設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の携帯無線機。
【請求項4】
前記スリット調整部は、リアクタンス素子により構成されていることを特徴とする請求項3に記載の携帯無線機。
【請求項5】
更に、前記第2の筐体に固定された金属性の第1のスライドレール及び第2のスライドレールと、前記第1の筐体に固定され、かつ前記第1のスライドレール及び前記第2のスライドレールそれぞれに対して摺動可能に構成された金属性の第1のスライドベース及び第2のスライドベースと、を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の携帯無線機。
【請求項6】
前記第1のスライドレール及び前記第2のスライドレールは前記第2の回路基板に対して導通していないことを特徴とする請求項5に記載の携帯無線機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−106319(P2013−106319A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251032(P2011−251032)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】