説明

携帯用局部洗浄器具

【課題】携帯用品として必要最低限度の構造及び重量を保ちながらも、わずかな握力で最大の洗浄効果を奏する携帯用の局部洗浄器具を提供すること。
【解決手段】噴射口を形成したノズル2と一体形成したキャップ1と、キャップ1と着脱可能かつキャップ1を取り外すことにより洗浄液を充填可能な容器本体3と、を有する局部洗浄器具を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にトイレ等で用便を終えた後に、お尻等局部を流水にて洗浄する携帯用の洗浄器具に係り、特に携帯の便宜を考慮し、コンパクトかつ軽量で故障の少ないシンプルな構造を採用しながらも高圧水流を保つ技術を新たに提案するものである。
【背景技術】
【0002】
用便後、紙で拭く行為は、原理的には一回拭く毎に汚れを紙との間で平滑化するものに過ぎず、数回拭かなければ必ずしも衛生的な手段ではない。そのため主に日本ではトイレにて、予め電動式の局部洗浄装置が備え付けられている便器が普及しつつある。しかし、完全に普及するには至っていないため、該便器の使用に慣れた者にとっては、外出時に不利不便をきたしている。特に、痔等の疾病をもった患者にとっては、局部洗浄装置の設置無き便器での用便は、実は人知れず苦労を伴うものである。
【0003】
また、不特定多数の者が使用する共用便器の局部洗浄装置に対して衛生上の観点から使用を躊躇する者も多い。更に海外では用便後に高圧水流で洗浄するニーズが未だに希薄であるため、局部洗浄装置の設置無き便器が普通である。したがって、日本国内で局部洗浄装置での用便に慣れた者による海外滞在にて不利不便をきたしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】特開2004−337548号公報
【特許文献2】特開2009−142615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる事情から、携帯用の局部洗浄器具につき、様々な製品が開発され、既に市販されている。代表的な製品として、乾電池を動力源とする電気式の局部洗浄器具がある。かかる製品は、電源コードを必要とせず携帯可能であるうえ、水流も高圧を保つことが出来、ある程度は使用者のニーズを満足するものである。しかし、携帯用であるにもかかわらず乾電池自体が重量を有する。しかも、水回りの製品であるため、常時微弱な漏電が生じてしまい、使用有無にかかわらず、短期間で電池が寿命を迎えてしまう欠点がある。更に、器具内部には複雑な電子回路基板を包含するため、前述した電池重量とも相まって、落下によって容易に破損してしまう欠陥も有し、携帯するうえでは実は極めて不便である。
【0005】
そのような電気式の局部洗浄器具の携帯用における限界を解消すべく、また安価に局部洗浄器具を提供する観点から、上述した特許文献1及び特許文献2の技術が開示されている。いずれも、人間の握力により水タンクから細長い導管パイプを経て先端のノズルから流水を噴き出す手動式の局部洗浄器具であり、特許文献1は、握力を有効に引き出すべく、水を満たした押圧部を蛇腹構造とせしめるものである。特許文献2も、流水を噴き出すノズル部を細長い導管を介して構成したものであるが、導管の一端部は内径部分に雌ねじを切ったキャップとし、ペットボトル或いは専用容器と着脱自在とし、水を満たしたこれらの容器を握力で押圧することにより導管の他端部のノズルから流水を噴き出す構造となっている。
【0006】
しかしながら、特許文献1、特許文献2の技術いずれも、本願の発明者が実際に購入或いは試作して実験してみたところ、現実には余程強い握力がなければ高圧の水流を得ることが困難であった。発明者にて原因を調査したところ、いずれも水の吸引口から細長い導管を介してノズルを有する構造であるため、細長い導管により流体摩擦を生ぜしめ、無視出来ないレベルの流管抵抗が存在することが想定される。なお、流管抵抗を少なくするためには流管断面積に対しての流管壁の占める割合が最小(すなわち断面が円形)であることが重要であるものの、特許文献1による導管では全く流管抵抗低減の工夫がなされていない。
【0007】
しかも、細長い導管は、局部洗浄とともに跳ね返る汚水も浴びるため、先端のノズル部を含めて非衛生であり、携帯用品としても不適切な構造である。これは、従来型の携帯用局部洗浄器具全てについて言える共通の課題である。
【0008】
また、特許文献2の技術では、専用の樹脂ボトル以外に、市販のペットボトルをも用いることが出来る点では携帯用品として画期的なアイデアである。ところが、これらの樹脂ボトルは、本来液体を収容する構造体である。そのため、円柱構造が形状的にも構造的にも安定している。外力に対する柔軟性を多少は有し変形可能ではあるものの、握力による押圧を印加すれば同時に反作用としての抗力が生じてしまい、かかる抗力にも対抗し得る強力な握力を余分に必要とする問題がある。しかも、握力によって、ノズルからの流水のみならず、ネジ部からの水漏れも無視出来ない量であった。かかるネジ部からの水漏れと、強力な握力を必要とする技術課題は、その他の多くの従来型の市販品についても解決されていない課題であり、携帯用局部洗浄器具の市場への普及化を困難とする問題である。
【0009】
また、特許文献1の技術では、押圧に際して蛇腹式を採用する点では高圧水流を得るには適しているが、蛇腹式は普段は立体的にかさばるものであり、適度な押圧を得るための製造工程も意外に複雑である。また、水漏れ防止のための弁を備える等、必要時に水を入れて用いる局部洗浄器具にもかかわらず無用な構造を有し、いたずらに故障原因となるものである。
【0010】
本発明では、上記問題点に鑑みてなされたものであり、携帯用品として必要最低限度の構造及び容積及び重量を保ちながらも、人間による握力を最大限度発揮せしめて高圧の水流を得る、衛生的な携帯用の局部洗浄器具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明ではかかる課題を解決するために、最適な洗浄効果を奏するための所定の口径を有する噴射口を形成したノズルと一体成型したキャップと、前記キャップと確実なネジ締めにより着脱可能であり、かつキャップを取り外すことにより洗浄液を充てん可能な容器本体と、を有する局部洗浄器具を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明における携帯用の局部洗浄器具は、携帯時には水を捨てて、軟体性材質から構成された容器本体は減容可能であるため、軽量かつコンパクトである。しかも流管抵抗を生ずる非衛生な導管を敢えて必要構成とせず、容器本体は人間の握力を最大限度発揮し得る、押圧容易な形状とした。そのため、使用時はわずかな握力であっても高圧水流を得ることが可能となる。また噴射口径を常温の水の粘度に応じて構成することで臨界レイノルズ数を調整し、局部の洗浄効果を最大限度発揮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係る携帯用局部洗浄器具の全体構造図である。
【図2】図2は、本発明に係るキャップの断面構造図である。
【図3】図3は、本発明に係る容器本体につきキャップを取り外した状態図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明に係る携帯用局部洗浄器具の実施形態について説明する。図1は、本発明における携帯用局部洗浄器具の全体構造を、図示するものである。ここで、図2に示すキャップ1には端部に噴射口を形成したノズル2が設けられているとともに、容器本体3と着脱自在となるよう、キャップ内部に雌ねじが切ってある。材質については軽量かつ耐腐食性、ある程度の硬度(剛性)と耐水性を有する合成樹脂であることが望ましい。
【0015】
本発明における容器本体3及びキャップ1に使用するプラスチック材料は、低密度、中密度、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド等通常汎用される材料、或いはこれらの共重合体、ポリマーブレンド、積層体でよく、容器本体とキャップは同一材料でも異種材料でもよい。
【0016】
容器本体3は握力によって容易に変形し得る柔軟性を要し、その柔軟性は重合度、可塑剤の配合量、厚さ等によって適宜調節できる。その形状はやや狭窄した開口部を吐出口4とする。一般的形状は図1に示したが、これに限定するものではなく、片手で握ったとき握力が全体に加わり易い拳骨型であって、水平面に載置できる平坦な底部を有するものが更に好ましい。開口部外周には雌ねじを設けるため、断面円形とし、容器本体3より肉厚に成形する。本発明者は、長いノズルを敢えて不要とし、キャップ1の頂部中央近傍に断面円形の貫通孔を設ける構成を採用することで、高圧流水を得るとともに衛生的なものとした。
【0017】
しかし、押圧時の水漏れ防止のために、容器本体3の吐出口4とのネジ結合の際にキャップ1がシール材としての機能をも同時に発揮し得る程度の柔らかさも必要である。そのため、キャップ1の材質のヤング率(縦弾性係数)は、3.1×10の5乗乃至2.3×10の4乗の範囲内であることが必要である。
【0018】
次に、ノズル口径について説明する。ノズル2を一箇所成型する場合、噴出口の口径が2ミリ(具体的にはπ平方ミリメートルであり、以下便宜上「最大口径」とする)より小さいことが望ましい。口径がこの最大口径を越えると、容器本体3を使用者の握力で押圧する際に、水量が多過ぎるため水圧が足りなくなってしまうからである。特に使用者が握力の弱い高齢者である場合等には、流水の圧力不足により、肝心の洗浄機能が損なわれてしまう。
【0019】
ここで、流体として常温の水(約298ケルビン)を用いて詳細に実験したところ、噴出口径が小さくなる程、噴き出される高圧流体の臨界レイノルズ数が小さくなり、流体が噴出後直ぐに層流から乱流に遷移する。具体的には、ノズル2の噴出口径が0.8ミリメートルである場合、流体が噴出直後2センチ前後で乱流に遷移した。逆に、噴出口径が2.0ミリメートルであると、流体が14センチ前後の長距離に亘って層流を保持した。
【0020】
洗浄器としては、的(まと)である局部に命中する際に、流体が層流ではなく乱流である方が洗浄能力は高かった。層流であるか乱流であるかは、あくまでも流体の状態を意味し、エネルギー高低としては、流体力学の理論上無関係である。あくまでも発明者による推測であるが、いわば、エロージョン(機械浸食)と同様の破壊力によって、局部の洗浄作用が発揮されるものと考える。
【0021】
一方、ノズル2からの噴出直後に流体が層流から乱流に遷移してしまう場合には、局部に命中する際には肝心の洗浄能力が何故か損なわれてしまった。これについても流体力学の理論上エネルギー的には無関係であるが、おそらく、流体が長く乱流状態にある場合、流体を構成する分子の乱れ及び周囲との空気抵抗により流体の内部エネルギ−が欠損するためと推測する。結果論ではあるが、常温の水の場合、噴出口径が0.8ミリメートルの場合には洗浄作用が損なわれることが実験により確認された。
【0022】
かかる観点から、用便後に使用する洗浄器として最適な位置(ノズル2からの距離が約4センチメートルから10センチメートル)にて、流水が乱流に遷移する噴出口径としては、一般の成人女性を基準とした通常の握力による場合、1.0ミリメートルから1.5ミリメートルであることが望ましいことが判明した。より多くの試験者による様々な握力モードや使用パターンを想定して実験した結果、より望ましくは1.2ミリメートルから1.4ミリメートルの範囲が望ましいことも確認した。
【0023】
すると、ノズル2の噴出口径として1.3ミリ±0.1ミリ前後で形成し、このノズル2をキャップ1に一箇所だけ形成しても良いが、1.2ミリから1.4ミリの噴出口径を二箇所成形しても良い。但し、ノズルを二箇所成形する場合には、上述した最大口径以下の条件を満たすことが必須条件である。かかる場合には、全体水量としても噴出圧力が低下することなく、流水の乱流遷移としても適正であることに加え、的(まと)が広くなり、洗浄効果が最適化する。
【0024】
図3は、本発明における容器本体3を説明する図面である。これはキャップ1を取り外した状態を示す。キャップ1の内径の雌ねじに対応するべく容器本体3の吐出口4には雄ねじが成形されている。かかる叶出口4の部材は製造便宜上容器本体3と同一樹脂であることが望ましいが、キャップ1とのねじ結合にて水漏れしない程度の剛性及び硬度を保つために、やや肉厚に成型することが重要である。可能であれば、キャップ1の素材と類似の物理的性質を有する樹脂であることが望ましい。気温や湿度等の異なる様々な環境条件下であっても、膨張や収縮を共にし、水漏れを確実に防止し得るからである。なお、吐出口4上部は水等の洗浄液を入れるための開口部であり、本実施形態ではキャップ1にてカバーし得るようにして構造の簡略化を図った。
【0025】
容器本体3は、叶出口4と一体型で水を貯めておくための容器であるが、ペットボトル等と異なり構造体としての強度よりも、人間の握力による押圧に対して柔軟に形状変形し得る弾力性と気密性とが要求される。しかも、人間の握力を最大限度有効発揮せしめるためには、洗浄液を満タンにした状態にて、やや細身のラグビーボールのような形状、すなわち偏重楕円体であることが望ましい。
【0026】
また、容器本体3の材質は、やや厚みを有するビニール状の弾性樹脂が望ましい。基本的には、上述の〔0015〕で列挙した樹脂で良いが、キャップ1の材質とは異なりやや柔らかいながらも上述したようにキャップ1とのねじ結合にて水漏れしない程度の剛性は必要なため、最低限度の硬さを有する材質、すなわちヤング率が、8.6×10の4乗乃至1.5×10の3乗であることが必要である。何故なら、余りにも柔らか過ぎる場合、キャップ1とのネジ結合に際して吐出口4にある程度の厚みをもたせて剛性を与えても水漏れを生じてしまうからである。
【0027】
ところで、様々な合成樹脂素材を容器本体3に用いて実験したところ、柔軟さ、すなわち高い弾力性(ヤング率は逆に低い)を有する素材であるほど水流が高圧となることが確認できた。おそらく、弓矢と同様に、容器本体3自体の弾力性による弾性エネルギーが、一挙に解放される原理に基くものと推測する。
【0028】
また、キャップ1には主にプラスチック製のフタを着脱自在に備えても良い。このフタにはキャップ1のノズル(貫通孔)2を塞ぐ栓が予め備えられており、フタがかぶされた状態では容器本体3内に充填した洗浄液が漏洩しないように設計してある。携帯に際しては、水などの洗浄液をトイレで充填して使用することが望ましいが、予めトイレに水道が設置されていない場合には、洗浄液を充填したまま携帯する必要も生ずるためである。
【0029】
ところで、図1に示すように、容器本体3が偏重楕円体であれば、叶出口4は容器本体3のどの部分に取り付けても良いが、現実には個人のクセや手の平のサイズにもよるが、可能であれば片側サイドの縦方向にて2分或いは3分の箇所近傍に吐出口4を設置することが望ましい。一般のユーザにとっては手の平によるグリップが最大限度有効に発揮するためである。
【0030】
なお、本実施形態においては、主に用便後の洗浄使用便宜について言及してきたが、現実にはビデの他、陰部洗浄等にて本発明に係る携帯用洗浄器具を用いても優れた洗浄機能を発揮する。また、洗浄を目的とする洗浄液は一般に水であることが多いため、本実施形態では水として統一して記述した。しかし、洗浄の目的を達成するものであれば、洗浄液は界面活性剤を含んだ溶液等であっても良い。また、消毒目的をも兼ねるのであれば逆性セッケンを含んだ溶液であっても良い。
【0031】
本発明は、基本的には、最小の握力で最大の高圧水流を得ることを目的とするものであるため、仮に水圧が高過ぎるのであれば、個人的好みに応じて握力を弱めれば良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0032】
1 キャップ
2 貫通孔(ノズル)
3 容器本体
4 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
やや狭窄した開口部からなる吐出口を有する容器本体と、該吐出口と螺合し、噴射口ノズルを穿設したキャップとを設けたプラスチック製容器であって、
容器本体は自己保形性と片手の握力で容易に変形し得る柔軟性とを併有し、キャップには頂部に内径1.0〜1.5ミリメートルの吐出口が穿設されていることを特徴とする携帯用局部洗浄器具。
【請求項2】
前記容器本体は、100ミリリットル乃至200ミリリットルの容積を有し、偏重楕円体であることを特徴とする請求項1記載の携帯用局部洗浄器具。
【請求項3】
前記キャップに、穿設した噴射口径は、1.2ミリメートルから1.4ミリメートルであって、そのノズル数を、一又は二箇所形成し、かつ合計口径がπミリ平方メートル以下であることを特徴とする請求項1記載の携帯用局部洗浄器具。
【請求項4】
前記キャップ材質のヤング率は3.1×10の5乗乃至2.3×10の4乗の範囲内であり、かつ、前記容器本体材質のヤング率は8.6×10の4乗乃至1.5×10の3乗であることを特徴とする請求項1記載の携帯用局部洗浄器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−194197(P2011−194197A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89003(P2010−89003)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(510092410)
【Fターム(参考)】