説明

携帯用気密性能測定装置

【課題】完成された既設の測定対象室の気密性能を非破壊で測定することが可能であるとともに、室内の様々な部位を自由自在に測定することが可能で、可搬性にも富む携帯用気密性能測定装置を提供する。
【解決手段】既設の測定対象室の測定対象部位2に密封部材3を介して着脱自在に取り付けられ、測定対象部位に面して測定用空間Vを形成する携帯用のチャンバー4と、チャンバーに気密に取り付けられた配管5に接続され、測定用空間内圧力P1を変化させる携帯用の空気ポンプ6と、チャンバーに気密に取り付けられた測定用空間内圧力導入管7に接続され、導入される測定用空間内圧力と測定対象室内圧力P2との差圧値を検出して出力する携帯用の差圧計8と、差圧計に接続され、差圧計から入力される差圧値を用いて測定対象部位の気密性能をリアルタイムで算出し表示する携帯用のコンピュータ9とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、完成された既設の測定対象室の気密性能を非破壊で測定することが可能であるとともに、室内の様々な部位を自由自在に測定することが可能で、可搬性にも富む携帯用気密性能測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種素材の通気性等を調べるにあたっては、例えば特許文献1や特許文献2に開示されているように、取り扱いが便利な素材のサンプルを用い、測定用機材でこのサンプルを表裏両側から挟み込み、この状態でサンプルの一方から他方へと洩れ出ていく気体の透過状態を測定するようにしている。また、特許文献1や2と類似する構成を備え、クリーンルームに用いる建築部材の試験体に対して同様な測定試験を実施し、通気量の測定結果を、クリーンルームの性能設計に役立てるようにした特許文献3も知られている。
【特許文献1】特開昭49−60992号公報
【特許文献2】特開昭54−60994号公報
【特許文献3】特開昭62−80536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記クリーンルームや厳密な空調制御が要求される室などに対しては、これら室を構成する建築部材から切り出される試験体に止まらず、完成された実際の室自体の気密性能、別の言い方をすれば、室の圧力減衰状態を測定することが好ましい。このためには、室内外を仕切って室を区画している壁や天井などを介して室内外に生じる漏洩状態を測定する必要がある。
【0004】
上記いずれの特許文献にあっても、サンプルや試験体を測定対象としていて、測定装置も、実験室での測定操作を前提として構成されていて、完成された既設の室を対象として測定操作を行うには不向きなものであった。すなわち、いずれの特許文献も、測定対象を測定用機材で表裏両側から挟み込む形態の装置構成であるのに対し、既設の室では、壁や天井などに開口部が設備されていない、あるいは開口部は形成されているけれども、測定したい箇所が開口部から遠い位置にあるなどの事情で、測定が必要な部位を測定用機材で表裏両側から挟み込むことができず、このため、いずれの特許文献に開示の測定装置にあっても、室全体を自由自在に測定することはできない、従って室の気密性能を適切に計測することができないという課題があった。
【0005】
測定装置を設置する便宜のために、上述した開口部のない壁面や測定したい箇所の近くに貫通孔等を形成することは、完成された室に損傷を与えるものであり、またこのような貫通孔の形成により、室の気密性能が劣化するおそれがあるなど、好ましいものではない。
【0006】
また、相当に広い室空間の様々な部位を必要に応じて自由自在に測定するには、測定装置として可搬性もしくは携帯性に富むものであることも必要であった。
【0007】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、完成された既設の測定対象室の気密性能を非破壊で測定することが可能であるとともに、室内の様々な部位を自由自在に測定することが可能で、可搬性にも富む携帯用気密性能測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる携帯用気密性能測定装置は、既設の測定対象室の圧力減衰状態を非破壊で測定するための装置であって、上記測定対象室の測定対象部位に密封部材を介して着脱自在に取り付けられ、該測定対象部位に面して測定用空間を形成する携帯用のチャンバーと、該チャンバーに気密に取り付けられた配管に接続され、測定用空間内圧力を変化させる携帯用の空気ポンプと、上記チャンバーに気密に取り付けられた測定用空間内圧力導入管に接続され、導入される測定用空間内圧力と測定対象室内圧力との差圧値を検出して出力する携帯用の差圧計と、該差圧計に接続され、差圧計から入力される差圧値を用いて上記測定対象部位の気密性能をリアルタイムで算出し表示する携帯用のコンピュータとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる携帯用気密性能測定装置にあっては、完成された既設の測定対象室の気密性能を非破壊で測定することができるとともに、室内の様々な部位を自由自在に測定することができ、また可搬性にも富んで、良好な操作性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明にかかる携帯用気密性能測定装置の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。本実施形態にかかる携帯用気密性能測定装置は基本的には、図1から図3に示すように、既設の測定対象室1の圧力減衰状態を非破壊で測定するための装置であって、測定対象室1の測定対象部位2に密封部材3を介して着脱自在に取り付けられ、測定対象部位2に面して測定用空間Vを形成する携帯用のチャンバー4と、チャンバー4に気密に取り付けられた配管5に接続され、測定用空間内圧力P1を変化させる携帯用の空気ポンプ6と、チャンバー4に気密に取り付けられた測定用空間内圧力導入管7に接続され、導入される測定用空間内圧力P1と測定対象室内圧力P2との差圧値を検出して出力する携帯用の差圧計8と、差圧計8に接続され、出力される差圧値を用いて測定対象部位2の気密性能をリアルタイムで算出し表示することが可能な携帯用のコンピュータ9とを備えて構成される。
【0011】
既設の測定対象室1は図2に示すように一般に、当該室の内外を仕切る壁1aや天井1b、床1cから主に区画形成される。そして、測定対象室1の気密性能は、換言すれば室内圧の減衰は、室外と接するこれら壁1aや天井1b、床1c、ドア1d等の通気性によって左右される。本実施形態の携帯用気密性能測定装置は後述する構成を備えていることで、構造、形態、並びに素材的にどのような室であっても、測定対象として、また壁1aや天井1b、床1cなど、室を区画する任意の部位を測定対象部位として、気密性能を測定することができるようになっている。
【0012】
携帯用のチャンバー4は、測定対象室1の測定対象部位2と向かい合う広口の開口部4aを有する容器様の形態であって、もちろん携帯可能な外径寸法・重量で形成される。図示例にあっては、中空箱体状に形成されている。チャンバー4は、金属材料で不透明に形成してもよいが、内部を見通せるように、透明な素材で形成することが好ましく、従って例えば合成樹脂材料やガラスなどによっても形成される。
【0013】
特に、本実施形態にかかる携帯用気密性能測定装置は、室内外を仕切る測定対象室1の壁1aや天井1b等に対し、その表裏両面ではなく、一方の面に単一のチャンバー4を配置するようになっている。このチャンバー4は、その開口部4aに周方向に沿って外向きのフランジ部4bが形成され、このフランジ部4bが測定対象室1の室内に面する測定対象部位2に接離可能に当接されることで、チャンバー4で取り囲んで測定対象部位2に面する測定用空間Vが形成される。また、フランジ部4bと測定対象部位2との間には、これらの圧接部分を気密に密閉するための密封部材3として、真空グリースが介設される。真空グリースは、フランジ部4bに予め塗布しておけば、チャンバー4を測定対象部位2に押し当てることで、当該測定対象部位2とチャンバー4との間に設けることができる。この真空グリースにより、チャンバー4で形成した測定対象部位2の測定用空間Vを、測定対象室1の室内空間から気密に遮断することができる。
【0014】
また、チャンバー4には、これを測定対象部位2に押し当てた状態で支持するための脚部10が設けられる。図1にあっては、測定対象部位2が立て面である場合にチャンバー4を支持する脚部10が示されていて、この脚部10は、支持ロッド11と、支持ロッド11の両端それぞれに回転継ぎ手12を介して設けられた粘着性を有する一対の接地プレート13とから構成され、一方の接地プレート13をチャンバー4に取り付けた状態で、他方の接地プレート13が固定系14に取り付けられ、これによりチャンバー4の取り付け状態が維持されるようになっている。水平面に対する脚部10によるチャンバー4の支持状態は、同図を右に90°回転させた態様となる。
【0015】
チャンバー4には、フレキシブルチューブなどの配管5が気密にかつ一体的に取り付けられ、この配管5の先端には、測定用空間内の圧力P1を変化させる携帯用の空気ポンプ6が接続される。携帯用の空気ポンプ6は周知である。空気ポンプ6は、吸気孔6aと排気孔6bとを備え、吸引した空気を排出する機能を有していて、吸気孔6aに配管5を接続すれば測定用空間内圧力P1は減圧され、排気孔6bに配管5を接続すれば測定用空間内圧力P1が昇圧されるように、測定用空間内圧力P1を変化させることができる。真空グリース等の密封部材3を介して測定対象部位2に取り付けたチャンバー4の気密性を安定的に維持するには、空気ポンプ6による減圧作用で測定用空間内圧力P1を変化させることが好ましい。
【0016】
チャンバー4にはまた、フレキシブルチューブなどの測定用空間内圧力導入管7が気密にかつ一体的に取り付けられ、この圧力導入管7の先端には、携帯用の差圧計8が接続される。携帯用の差圧計8は周知である。差圧計8は、計測すべき圧力を取り入れる一対の連通管8aを備え、一方の連通管8aに圧力導入管7が接続されるとともに、他方の連通管8aが大気開放される。そして差圧計8は、圧力導入管7から導入される測定用空間内圧力P1と大気開放されている連通管8aから導入される測定対象室内圧力P2との差圧値を順次継続的に検出し、当該差圧値をメータ8cに表示するとともに、当該検出値を電気信号として順次連続的に出力するようになっている。
【0017】
差圧計8には、ノートパソコンなどの携帯用のコンピュータ9が接続される。このコンピュータ9には、差圧値から気密性能を算出して表示する解析用ソフトウエアが搭載され、差圧計8から順次入力される差圧値を用いて、測定対象部位2の気密性能をリアルタイムで算出し、モニタに表示したり、さらにプリンタが接続されている場合には、印字出力するようになっている。このコンピュータ9には、空気ポンプ6や差圧計8を制御する制御プログラムを組み込むことができ、当該制御プログラムにより空気ポンプ6や差圧計8の作動を制御するようにしてもよいことはもちろんである。
【0018】
次に、本実施形態にかかる携帯用気密性能測定装置の作用について説明すると、測定を実施するに際しては、測定対象室1の室内の測定対象部位2、例えば壁1aの室内面のみに対して、単一のチャンバー4を、真空グリースなどの密封部材3を介して取り付け、脚部10でチャンバー4を支持させることで、測定対象部位2に面して気密な測定用空間Vを形成する。次いで、配管5に空気ポンプ6を接続するとともに、測定用空間内圧力導入管7を差圧計8に接続し、さらに差圧計8にコンピュータ9を接続する。
【0019】
設置作業が完了したならば、例えば図3に示すフローチャートに従って、計測作業を実施する。まず、空気ポンプ6を作動させて、測定用空間V内の空気を吸引し、測定用空間内圧力P1を減圧させる(S1)。この減圧状態は、圧力導入管7を介して測定用空間内圧力P1が導入される差圧計8のメータ8cやコンピュータ9のモニタ表示を見ることで、確認することができる。次いで、予め設定した所定の圧力まで減圧されたか否かを判定する(S2)。所定の圧力に達していない場合は、吸引を継続し、達した場合には空気ポンプ6による吸引を中止する(S3)。吸引中止後は、減圧した測定用空間Vの圧力P1が測定対象部位2の通気性に従って徐々に昇圧していき、この状態は差圧計8等を見ることで確認することができる。その後、この昇圧によって測定用空間内圧力P1が、予め設定した所定の圧力まで復圧したか否かを判定(S4)し、復圧したならば、測定操作を終了する。
【0020】
空気ポンプ6の起動による測定開始から測定終了までに検出される差圧値は、連続的に差圧計8で検出され、また検出値が検出時刻とともにコンピュータ9に出力される。そして、検出値が入力されたコンピュータ9により、解析用ソフトウエアで測定対象部位2の気密性能が算出され、表示されることになる。このような測定手順における各種の判定や、空気ポンプ6による吸引の継続・中止、測定動作の終了などの様々な測定操作は、人手によってもよいが、上述したように、コンピュータ9に制御プログラムを搭載することで、自動制御することができる。
【0021】
以上説明したように、本実施形態にかかる携帯用気密性能測定装置は、携帯用のチャンバー4を測定対象部位2の一方の面に取り付けて測定するものであるので、完成された既設の室であっても、これを測定対象として、自由自在に測定することができ、そして試験体などを測定するのとは異なり、当該測定対象室1自体の気密性能を適切に計測することができる。またその際、測定の便宜のために測定対象室1に貫通孔などを形成する必要はまったくなく、非破壊で測定を行うことができる。また、携帯可能なチャンバー4や空気ポンプ6、差圧計8、並びにコンピュータ9で構成したので、可搬性に富み、測定対象室1が相当に広い室空間を有していても、必要に応じ良好な操作性で、様々な測定対象部位2を自由自在に測定することができる。
【0022】
上記実施形態にあっては、中空箱体状のチャンバー4を例示して説明したが、チャンバー4としては、筒状や半球体状であってもよい。また、測定対象室1の室内側から測定する場合を例示して説明したが、室外側の壁1aなどにチャンバー4を取り付けて、測定対象室1外から測定作業を行うこともできる。さらに、上記実施形態にあっては、減圧操作による測定作業を例示して説明したが、昇圧操作によって測定を実施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかる携帯用気密性能測定装置の好適な一実施形態を示す構成図である。
【図2】図1の携帯用気密性能測定装置によって測定される既設の測定対象室の一例を示す側面図である。
【図3】図1の携帯用気密性能測定装置による測定手順の一例を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0024】
1 既設の測定対象室
2 測定対象部位
3 密封部材
4 携帯用のチャンバー
5 配管
6 携帯用の空気ポンプ
7 測定用空間内圧力導入管
8 携帯用の差圧計
9 携帯用のコンピュータ
P1 測定用空間内圧力
P2 測定対象室内圧力
V 測定用空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の測定対象室の圧力減衰状態を非破壊で測定するための装置であって、
上記測定対象室の測定対象部位に密封部材を介して着脱自在に取り付けられ、該測定対象部位に面して測定用空間を形成する携帯用のチャンバーと、
該チャンバーに気密に取り付けられた配管に接続され、測定用空間内圧力を変化させる携帯用の空気ポンプと、
上記チャンバーに気密に取り付けられた測定用空間内圧力導入管に接続され、導入される測定用空間内圧力と測定対象室内圧力との差圧値を検出して出力する携帯用の差圧計と、
該差圧計に接続され、差圧計から入力される差圧値を用いて上記測定対象部位の気密性能をリアルタイムで算出し表示する携帯用のコンピュータとを備えたことを特徴とする携帯用気密性能測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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