説明

携帯用緊急人工呼吸器

【課題】 誰もが迅速容易に使用できる携帯用の小型軽量の緊急人工呼吸器を提供する。
【解決手段】 前後に口蓋(1)(2)を設けた中空管(3)の先端に患者の口内に挿入する空気吹込用ガイドノズル(4)を設け、他側に空気(息)を送る吹込み口(5)を設けた構成の人工呼吸器である。分解自在に或は一体的に作成される。吹込み口(5)にはフレキシブル延長管(9)が連結でき患者と距離をおいての人工呼吸ができる。また鼻を挟むクリップ(7)を連結している。この人工呼吸器は誰でも一見して用法が解り、緊急患者に、人工呼吸を施すとき、安全確実にセットできて、中空管(3)を握るだけで安定し、口による送気であるので、使いやすく救命率の向上に寄与できる。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、仮死状態や、窒息状態等の人事不省のときに応急的に使用される携帯用の人工呼吸器に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の人工呼吸は、殆どが専門家の分野で行なわれ、事故現場における一般人は救急車要請のみを頼り、後は手をこまねいているばかりである。
又、人工呼吸器についても専門的にセットされたものばかりであり、その取扱いは熟練を要し、一般人の操作は非常にむずかしい現状にある。
【0003】
事故、地震、火災、その他の原因により、人間が仮死や失神・人事不省に陥って呼吸障害がおきた場合にその生命は一刻一秒を争うものとなる。
一秒も早く肺の内部に空気を吸入させることが唯一必須の救命行為である。
因に、データによればこの処置が10分経過することにより90%の人が蘇生不可能となり、命を落すことになる。
一方これが5分以内に対処することにより80%の人が蘇生し生命が助かるのである。仮死やショック死等に対する早期人工呼吸が人命救助に際しては、これほどにも重要なことなのである。
できれば、2分以内に人工呼吸を行なうことが必要であり、この秒単位の要請に答える蘇生手段が求められる。
因に、平成7年度における実績データでは、救急車が通報を受けてから現場に到着するまでの平均時間は6分以上を経過しているので、20%前後は救命できないことになる。
【0004】
地震災害や交通事故その他の災害や、家庭内や工事現場等で事故等が発生し、仮死状態の患者がでた場合、そこに居合わせた人達の誰でもが素早く簡単に且つ有効に人工呼吸処置が出来るものであれば患者の殆どの命が救助されることになる。
人工呼吸技術の研修や修得は重要であるが、やはり普及には限界がある。
【0005】
従来、この人工呼吸方法や人工呼吸器は、種々のものが開発されている。
■用手人工呼吸 ;手を用いて人工呼吸する方法。
■口による人工呼吸 ;術者の口で、患者の肺に空気を吹き込む方法。
■インサフレーション;酸素を軽い圧力をかけて患者の気管に細管で送る方法。
■マスク・バッグ法 ;マスクと空気バッグを用いて、空気を肺に送る方法。
■人工蘇生器 ;酸素ボンベとマスクで、機械的に陰圧・陽圧を加えて 肺に空気を送る方法。
このような従来の手段は、術者の技量で行なう手段■と、器具を用いる手段■とに分類される。
しかし実際の緊急時は、病院や救急車に固定設置された人工呼吸器を使用するか、事故現場等においては救急隊員やその指定を受けた者、又それに準じた特定の人達が、直接患者に口による人工呼吸に頼っている。
図6は、横臥している患者に「口による人工呼吸」と「用手人工呼吸」を併用して人工呼吸をしている状態図であるが、人工呼吸技術を修得していないと、実施には躊躇がある。
【0006】
【考案が解決しようとする課題】
人間の仮死・窒息・人事不省時の生存度は、短時間内の処置で決定され、2〜10分間以内が必須であり、5分後では生存率は20%以下になる。
緊急時に救急車を要請しても、地震、火災、交通渋滞等の地域事情により到着は、10分を超過する場合が多く、助かるべきものが到着が遅れたというだけの事情で、あたら尊き生命が失われている現状にある。
緊急事故発生に対し、事故現場において、そこに居合わせた人が即応対処しなければならない重要性はここにある。
間髪を入れずに、即座に患者の肺に空気を送り込み吸入させなければならない。
しかし、図6のように人工呼吸に熟練した術者(専門家)がその場に都合よく居ることは稀であり、誰もが、数分以内に、容易に応急措置ができる何らかの方策が要請される。
【0007】
前記従来の器具は、救急車や病院に設置されているもので、比較的装置自体が大きくかつその使用法も修練が必要なものであるので、応急的に誰でもが対処できるとは限らない。
比較的確実な人工呼吸法といわれる「口による人工呼吸」も口を直接付着する違和感があったり、建物の下敷きで患者と距離があるときや患者の姿勢を直せないときなどもあり、普及はいま一歩である。
このように事故などの発生直後に、偶然でもその場に居合せた誰でもが、直ちに容易に効率的に人工呼吸ができる人工呼吸器の開発やその常備態勢・携帯態勢が望まれている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本考案は、前記要請に答えるもので、誰でもが迅速容易に使用できる携帯用の小型軽量の緊急人工呼吸器を提供するものである。
【0009】
本考案に係る携帯用緊急人工呼吸器は、例えば仮死状態の患者に、口から空気を吹き込むものであるので、基本的に「口による人工呼吸」を行なうもので、この方法に使用する器具である。
ただし、患者との口の接触がなく、電気的駆動部や、空気バッグ部や酸素ボンベ等の他の付属品を必要としないので、清潔性、携帯性や簡便性がある。
患者と所定距離をおいて、送気できるので、患者の表情を観察しながら対応できる。
又、用手人工呼吸法に比べて吹込み用ガイドノズルを使用して直接に気喉を介して肺に空気を送りこむので、しっかりと呼吸させることができ蘇生率が高い。
【0010】
ここに本考案は、前後に口蓋(1)(2)を設けた中空管(3)の先端に患者の口や気喉に挿入する空気吹込用ガイドノズル(4)を設け、他側に空気(息)
を送る吹込み口(5)を設けた人工呼吸器を提供するものである。
【0011】
中空管(3)の前後に設ける口蓋(1)(2)は、唇周囲を覆う略楕円形状で、その左右縁部を外側に湾曲して鍔を形成し、口の周囲にフィットして空気の漏れを少しでも防ぎ閉塞する形状である。
口蓋(1)は、術者の口に当てて空気を送る側に設けられ、口蓋(2)は患者の口に当てる側に設けられる。
患者の口に当てる口蓋(2)には、さらに患者の鼻を閉塞するための鼻マスク状の延設部(6)を設けたり、鼻をつまんで閉塞するクリップ(7)を紐(8)で連結しておくのが好ましい。
クリップ(7)は、バネで鼻孔を挟みつける態様や、略V字状の弾性ノーズピースなどが採用できる。
中空管(3)は、空気の送出をする通路であるが、中間部をグリップとして握ることもあるので、外形は適宜な太さに形成している。
口蓋(1)(2)のついた中空管(3)を設けたことで、その部分を握って空気を吹き込むという作業が直感でき、かつその部分を握るために口蓋(1)(2)が固定されて、人工呼吸を安全にかつスムーズに行なうことができる。
なお、中空管(3)の内部は、空気が滞留するような大きな空間はかえって空気の送出をスムーズにしないので、細いストレ−ト管形状である。
空気吹込用ガイドノズル(4)は、柔軟で若干先細の円筒形状であり、吹込み口(5)は短い円筒形状である。
中空管(3)の後端の吹込み口(5)にはフレキシブル延長管(9)が連結可能である。
【0012】
本考案に係る携帯用緊急人工呼吸器は、ともかく近くに備えてあり、患者の肺に空気を吹込んで自然呼吸を復活させることを認識していれば、誰でも容易に使用できる携帯用緊急人工呼吸器である。
その用法は、空気吹込用ガイドノズル(4)を患者の口に差し込み、反対側の吹込み口(5)から、空気(息)を送るだけでよい。
患者の肺は、空気が送入されると体内圧力で拡張収縮を行なうので、そのリズムで間欠的に吹き込みをすればよいのである。
患者の口に直接触れることなく、患者の気喉に空気を吹き込むので、誰でも容易に人工呼吸を施すことができる。
【0013】
【考案の実施の態様】
次に本考案に係る携帯用緊急人工呼吸器の実施態様を図面に基づいて説明する。
図1は、本考案に係る人工呼吸器の一部省略斜視図である。
図2は、中空管(3)の部分側面図である。
図3は、口蓋(2)の異なる態様の平面図である。
図4は、本考案に係る携帯用緊急人工呼吸器を使用して人工呼吸している状態の説明図である。
図5は、本考案に係る携帯用緊急人工呼吸器において後端の吹込み口にフレキシブル延長管を連結して使用して人工呼吸している状態の説明図である。
図6は、従来の「口による人工呼吸」と「用手人工呼吸」を併用している状態の説明図である。
【0014】
この実施態様の携帯用緊急人工呼吸器は、前方に口蓋(2)を設け、後方に口蓋(1)を設けた中空管(3)の先端に患者の気喉に挿入する空気吹込用ガイドノズル(4)を設け、他側に空気(息)を送る吹込み口(5)を設け、前記吹込み口(5)に、口蓋(11)を付設したフレキシブル延長管(9)を連結したものである。
術者の口からの空気漏れを防ぐ口蓋(1)は、フレキシブル延長管(9)を連結するときは、フレキシブル延長管(9)の端部に口蓋(11)を設けているので省略することもできる。
空気吹込用ガイドノズル(4)はある程度柔軟であることが必要で口内で自在に湾曲して気喉に向いて空気を送り込む。
空気吹込用ガイドノズル(4)は先細の円筒形状である。
吹込み口(5)は、短管を突出させた形状で、これに唇を被せて吹き込むために設けられている。
吹込み口(5)を前歯で噛んで軽く保持できるようにかつ少しの引っ掛かりとなるように、端縁に凹部(51)を設けるのが好ましい。
又、中空管(3)の空気通路に管内に空気の出入りが視認できるテープ状の極薄フィルム片(31)を付着している。
中空管(3)の空気通路を息が通ると、極薄フィルム片(31)は呼吸の息で揺れ、自然呼吸が容易に見て取れる。
フレキシブル延長管(9)を連結すると、患者との距離がおけるし、患者の口の向きや姿勢を問題とすることなく接続できる。
【0015】
前方の口蓋(2)は、患者の口に当てて使用され、唇の周囲を覆う略楕円の形状であり、唇周囲にフィットするような湾曲をもって形成される。
口蓋(2)は、図3のように患者の鼻を閉塞するための鼻マスク状の延設部(6)を設けることもできる。
また、鼻を閉塞するためには簡単なクリップ(7)を紐(8)で連結しておいてもよい。
クリップ(7)は、バネで鼻孔を挟みつけるノーズクリップを示している。
【0016】
口蓋(1)(2)、中空管(3)、空気吹込用ガイドノズル(4)、吹込み口(5)、口蓋(11)を付設したフレキシブル延長管(9)は夫々部品として分解連結自在に構成され、ゴム或はビニール等の合成樹脂材などの軟質材で作成されている。
夫々の部品の連結部には夫々雄ネジと雌ネジを切ってあり、組立ては各部品のネジ部を螺合して組立てられる。
材質は口中に入れる部分は、比較的柔らかい素材で作成し、又、口蓋(2)の部分は透明や半透明材で作成するのが閉塞状態が観察できて好ましい。
例えば、患者が唇を開いて空気を吐出す動きをしてきたときや空気通路に配置された前記極薄フィルム(31)が反対方向になびいたときには、口蓋(2)の押圧を緩めれば閉塞が解かれ、空気の吐き出しを補助することもでき、自然呼吸への回復を早めることにもなる。
勿論、人工呼吸器は、緊急を要するときに、組立てている時間はないので、通常は組立てた完成品で備えておくことになる。
因に、部品の組合わせではなく、同様の構成で、人工呼吸器全体を合成樹脂で、一体成型することも可能である。
【0017】
【実施例】
中空管(3)を、ビニール樹脂系の管で長さ15Cm・直径3Cmに作成し、口蓋(1)(2)は長手方向を10Cm・横幅5Cmにして、略楕円形にして左右側を少し湾曲させて唇の周囲にフィットするように透明軟質材で作成した。
空気吹込用ガイドノズル(4)は、患者の口中に深く喉先まで挿入するものであり、吹込み空気が無駄なくスムーズに肺に送り込まれる人間工学上の寸法や形状が要請されるが、唇から気喉までの標準的な長さより少し短めの長さ8Cm・直径2Cmの管体に設計した。
フレキシブル延長管(9)は、直径3Cm・長さ30Cmで屈曲自在な材質作成した。
実施品には、表示として「人工呼吸器」の文字を印刷し、「使用状態の説明写真」を中空管(3)の表面に貼付している。
上記はあくまで実施例であって、具体的寸法や材質はこれに限定されるものではない。
【0018】
【考案の効果】
本考案における携帯用緊急人工呼吸器は、前記のような構造であり、次のような特有な効果がある。
■現場で、この人工呼吸器を見ただけでその用法が直感できるきわめて簡単な構 成であるので、人工呼吸の技術を修得していない素人でも、誰でも容易に使用 できる。
特に実施例のように使用状態の写真を貼付したものは、児童でもその用法を正 確に理解でき、誤使用のおそれがないという利点がある。
■本考案の「人工呼吸器」は、基本として患者の口から空気を送る方法に使用す るもので、自然呼吸への回復には最も有効な方法を補助するものである。
口の直接の接触がないので、違和感がなく送気できる。
患者の顔色や呼吸などの様子を伺いながら対処できる点も優れている。
■患者は、常に人工呼吸がしやすい姿勢や位置に居るとは限らないが、本考案で はフレキシブル延長管を設けたので、例えば、物体の下敷きになっている患者 の口に差込んで、上方から人工呼吸を施すことも可能である。
以上のように、本考案にかかる携帯用緊急人工呼吸器は、小型軽量で、廉価に作成できる簡単な構成である。
使用時における故障や使用方法の誤認などもない普及に適する簡便性がある。
コンパクトであるので各自、各家庭・各会社に常備して、災害対策袋等に他の救急用品と一緒に保管することができる。
携帯用緊急人工呼吸器の存在自体が、人命救助の意識を高揚するものであり、実用的価値はきわめて高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案に係る人工呼吸器の一実施形態を示す一部省略斜視図。
【図2】中空管(3)の部分側面図。
【図3】口蓋(2)の異なる態様の平面図。
【図4】本考案に係る携帯用緊急人工呼吸器を使用して人工呼吸を施している状態の説明図。
【図5】本考案に係る携帯用緊急人工呼吸器において後端の吹込み口にフレキシブル延長管を連結して使用して人工呼吸している状態の説明図。
【図6】従来の「口による人工呼吸」と「用手人工呼吸」を併用している状態の説明図。
【符号の説明】
(1) 口蓋
(2) 口蓋
(3) 中空管
(31)極薄フィルム片
(4) 空気吹込用ガイドノズル
(5) 吹込み口
(51)凹部
(6) 鼻マスク状の延設部
(7) クリップ
(8) 紐
(9) フレキシブル延長管
(11)口蓋

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 前後に口蓋(1)(2)を設けた中空管(3)の先端に患者の口内に挿入する空気吹込用ガイドノズル(4)を設け、他側に空気(息)を送る吹込み口(5)を設けた携帯用緊急人工呼吸器。
【請求項2】 前方に口蓋(2)を設けた中空管(3)の先端に患者の口内に挿入する空気吹込用ガイドノズル(4)を設け、他側に空気(息)を送る吹込み口(5)を設け、前記吹込み口(5)にフレキシブル延長管(9)を連結した携帯用緊急人工呼吸器。
【請求項3】 前方に口蓋(2)を設けた中空管(3)の先端に患者の口内に挿入する空気吹込用ガイドノズル(4)を設け、他側に空気(息)を送る吹込み口(5)を設け、前記吹込み口(5)にはフレキシブル延長管(9)を着脱自在に連結し、更に鼻を挟むクリップ(7)を中空管(3)に紐(8)で連結した携帯用緊急人工呼吸器。
【請求項4】 前記口蓋(1)(2)、中空管(3)、空気吹込用ガイドノズル(4)、吹込み口(5)が分解連結自在である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の携帯用緊急人工呼吸器。
【請求項5】 前記口蓋(1)(2)、中空管(3)、空気吹込用ガイドノズル(4)、吹込み口(5)が一体成型された請求項1〜請求項3のいずれかに記載の携帯用緊急人工呼吸器。
【請求項6】 前記口蓋(2)が透明材で作成された請求項1〜請求項5のいずれかに記載の携帯用緊急人工呼吸器。
【請求項7】 前記中空管(3)が透明材で作成され、中空管(3)の通路に極薄フィルム片(31)を付設した請求項1〜請求項5のいずれかに記載の携帯用緊急人工呼吸器。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図4】
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【登録番号】第3045471号
【登録日】平成9年(1997)11月12日
【発行日】平成10年(1998)2月3日
【考案の名称】携帯用緊急人工呼吸器
【国際特許分類】
【評価書の請求】未請求
【出願番号】実願平9−6594
【出願日】平成9年(1997)7月12日
【出願人】(597107504)