説明

携帯端末、音像制御装置及び音像制御方法

【課題】 パンポットが設定されている場合に、再生する音声の音質の劣化やレベルの低下を防止できるようにする。
【解決手段】 CPU12は、着信を検出すると、ROM11から着信メロディの音源データを抽出し、音源13に出力する。音源13は、音源データからLチャネル及びRチャネルのメロディデータ及びパンポット情報を抽出し、DSP部16に出力する。DSP部16は、パンポット情報に基づいて、パンポットの設定値Xが0であるか否かを判断する。設定値Xが0であると判断すると、DSP部16は、音像定位処理を行わずに、各メロディデータをそのまま出力する。そして、各スピーカ19L,19Rは、スピーカアンプ18からの信号に基づいて、着信メロディをモノラル再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声データを再生する際に音像の定位を行う携帯端末、音像制御装置及び音像制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
音源が出力する音声データ(例えば、楽曲データ)に対して所定の信号処理を行い、音像を定位させて、近接した複数のスピーカを用いて音声をステレオ再生することが行われている。例えば、特許文献1には、着信メロディ等をステレオとして再生可能な複数のスピーカを備えた折り畳み式携帯電話機が記載されている。また、例えば、特許文献2には、複数のスピーカ間で高精度且つ再現性をもたせて音像を定位させ、常に一様の速度で音像の移動を制御できる音像移動装置が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−96573号公報(段落0029−0038、図1−3)
【特許文献2】特開平8−205296号公報(段落0017−0028、図1−3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された携帯電話機等の携帯端末において、PANPOT(パンポット)を設定してステレオ効果を与えた音声データに対して信号処理を行い、着信メロディ等をステレオ再生させることがある。この場合、一般に、携帯端末は、音源からのパンポット情報に示される設定値にかかわらず、全ての音声データについて信号処理を行う。そのため、パンポットの設定値が0の場合(すなわち、ユーザが認識する音源位置が正面になるように音像を定位させる場合)、携帯端末は、ステレオ効果が得られないにもかかわらず信号処理を行うことになる。従って、携帯端末が行う処理の無駄が大きい。また、信号処理を行う信号処理部のフィルタ特性によって、音声データの音質やレベルが変化してしまい、着信メロディを再生する際の音質の劣化やレベルの低下を生じてしまう。
【0005】
また、特許文献2に記載された音像移動装置を携帯端末に用いれば、複数のスピーカ間で音像の移動を高精度に一様に制御して音声再生することができる。しかし、パンポットが設定された音声データにおいて、パンポットの設定値が0である場合に、音声を再生する際の音質の劣化やレベルの低下を防止することはできない。
【0006】
そこで、本発明は、パンポットが設定されている場合に、再生する音声の音質の劣化やレベルの低下を防止できる携帯端末、音像制御装置及び音像制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による携帯端末は、音声データをステレオ再生する際に音像の定位を行う携帯端末(例えば、携帯電話機)であって、処理対象の音声データ(例えば、ROM11が記憶する音源データ)に含まれるパンポットの設定値に基づいて、音像を定位するための信号処理である音像定位処理を行うか否かを判断する処理実行判断手段(例えば、DSP部16によって実現される)と、処理実行手段が音像定位処理を行うと判断すると、処理対象の音声データに対して音像定位処理を行う信号処理手段(例えば、DSP部16によって実現される)と、信号処理手段が出力した音声データに基づいて、音声を再生する音声再生手段(例えば、スピーカ19L,19Rによって実現される)とを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、携帯端末において、処理実行判断手段は、処理対象の音声データに含まれるパンポットの設定値が0であるか否かを判断し、信号処理手段は、処理実行判断手段がパンポットの設定値が0であると判断すると、音声定位処理を行わずに処理対象の音声データをそのまま出力し、処理実行判断手段がパンポットの設定値が0でないと判断すると、処理対象の音声データを音像定位処理を行って出力するものであってもよい。
【0009】
また、携帯端末は、パンポットの設定値を含む着信メロディの音声データを記憶する音声記憶手段(例えば、ROM11によって実現される)と、着信の有無を検出する着信検出手段(例えば、CPU12によって実現される)と、着信検出手段が着信を検出すると、音声記憶手段から着信メロディの音声データを抽出する音声抽出手段(例えば、CPU12によって実現される)とを備え、音声再生手段は、信号処理手段が出力した音声データに基づいて、着信メロディを再生するものであってもよい。
【0010】
また、携帯端末は、着信メロディをステレオ再生する際に音像の定位を行う携帯端末であって、着信メロディの音声データに含まれるパンポットの設定値に基づいて、音像を定位するための信号処理である音像定位処理を行うか否かを判断する処理実行判断手段と、処理実行手段が音像定位処理を行うと判断すると、処理対象の音声データに含まれる左側チャネルのデータ及び右側チャネルのデータに対して、それぞれ音像定位処理を行う信号処理手段と、信号処理手段が出力した左側チャネルのデータ及び右側チャネルのデータに基づいて、近接した2つのスピーカによる着信メロディの再生を行う音声再生手段とを備えたものであることが望ましい。
【0011】
本発明による音像制御装置は、音声データをステレオ再生する際に音像の定位を行う音像制御装置であって、処理対象の音声データに含まれるパンポットの設定値に基づいて、音像を定位するための信号処理である音像定位処理を行うか否かを判断する処理実行判断手段と、処理実行手段が音像定位処理を行うと判断すると、処理対象の音声データに対して音像定位処理を行う信号処理手段と、信号処理手段が出力した音声データに基づいて、音声を再生する音声再生手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、音像制御装置は、パンポットの設定値を含む音声データを記憶する音声記憶手段を備え、処理実行判断手段は、音声記憶手段が記憶する音声データに含まれるパンポットの設定値に基づいて、音像定位処理を行うか否かを判断するものであってもよい。
【0013】
また、音像制御装置において、処理実行判断手段は、処理対象の音声データに含まれるパンポットの設定値が0であるか否かを判断し、信号処理手段は、処理実行判断手段がパンポットの設定値が0であると判断すると、音声定位処理を行わずに処理対象の音声データをそのまま出力し、処理実行判断手段がパンポットの設定値が0でないと判断すると、処理対象の音声データを音像定位処理を行って出力するものであってもよい。
【0014】
また、音像制御装置において、音声再生手段は、信号処理手段が音声定位処理を行わずに処理対象の音声データをそのまま出力すると、信号処理手段が出力した音声データに基づいて、音声をモノラル再生し、信号処理手段が処理対象の音声データを音像定位処理を行って出力すると、信号処理手段が出力した音声データに基づいて、音声をステレオ再生するものであってもよい。
【0015】
本発明による音声制御方法は、音声データをステレオ再生する際に音像の定位を行う音像制御方法であって、処理対象の音声データに含まれるパンポットの設定値に基づいて、音像を定位するための信号処理である音像定位処理を行うか否かを判断する処理実行判断ステップと、音像定位処理を行うと判断すると、信号処理回路が処理対象の音声データに対して音像定位処理を行う信号処理ステップと、信号処理回路が出力した音声データに基づいて、音声を再生する音声再生ステップとを含むことを特徴とする。
【0016】
また、音声制御方法は、パンポットの設定値を含む音声データを記憶する音声記憶ステップを含み、処理実行判断ステップで、記憶した音声データに含まれるパンポットの設定値に基づいて、音像定位処理を行うか否かを判断するものであってもよい。
【0017】
また、音声制御方法は、処理実行判断ステップで、処理対象の音声データに含まれるパンポットの設定値が0であるか否かを判断し、信号処理ステップで、パンポットの設定値が0であると判断すると、信号処理回路が音声定位処理を行わずに処理対象の音声データをそのまま出力し、パンポットの設定値が0でないと判断すると、信号処理回路が処理対象の音声データを音像定位処理を行って出力するものであってもよい。
【0018】
また、音声制御方法は、音声再生ステップで、信号処理回路が音声定位処理を行わずに処理対象の音声データをそのまま出力すると、信号処理回路が出力した音声データに基づいて、音声をモノラル再生し、信号処理回路が音声データを音像定位処理を行って出力すると、信号処理回路が出力した音声データに基づいて、音声をステレオ再生するものであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、音声データに含まれるパンポットの設定値に基づいて、音像定位処理を行うか否かを判断する。そのため、ステレオ効果が得られない場合に、音声定位を行わないようにすることによって、音圧を確保しつつ良好な音質で音声を再生することができる。従って、パンポットが設定されている場合に、再生する音声の音質の劣化やレベルの低下を防止することができる。
【0020】
また、本発明によれば、パンポットの設定値が0であるか否かを判断する。そして、パンポットの設定値が0であると判断すると、音声定位処理を行わすに音声データをそのまま出力する。従って、ステレオ効果が得られないパンポットの設定値が0である場合に、音声定位を行わないようにすることによって、音圧を確保しつつ良好な音質で音声を再生することができる。
【0021】
また、本発明によれば、携帯端末は、着信を検出すると、着信メロディの音声データに含まれるパンポットの設定値に基づいて、音声定位処理を行うか否かを判断する。従って、パンポットが設定されている場合に、携帯端末が再生する着信メロディの音質の劣化やレベルの低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明による音像制御装置の構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、音像制御装置は、ROM11、CPU12、音源13、DSP部16、D/Aコンバータ17、スピーカアンプ18及びスピーカ19L,19Rを含む。本実施の形態では、一例として、音像制御装置を携帯電話機に用いる場合を説明する。なお、音像制御装置は、携帯電話機に限らず、PHS等他の携帯端末に用いてもよい。
【0023】
本実施の形態において、音像制御装置は、携帯電話機が着信メロディ等の音声データをステレオ再生する際に、音像の定位を行うための信号処理である音像定位処理を行って音声を出力する。一般に、人間は、2つの耳によって音声を認識する際に、一方の耳と他方の耳との間に生じる微妙な音圧差と位相差とに基づいて脳が処理及び解析することによって、音源の方向を認識する。本実施の形態において、「音像を定位する」とは、音声データを信号処理して音圧差及び位相差を与えることによって、人間が認識する音源位置の方向を制御することをいう。
【0024】
ROM11は、音声データ(楽曲データ)を予め記憶する。本実施の形態では、ROM11は、音声データとして、着信音として出力する着信メロディの音源データを記憶する。また、ROM11は、予めPANPOT(パンポット)の設定値Xを含むパンポット情報を付加された音源データを記憶する。本実施の形態では、「パンポット」とは、ステレオ出力時の音源の定位を示す楽音パラメータである。また、本実施の形態では、パンポット情報は、パンポットの設定値Xを含むことによって、音源の左右への定位を設定するための情報である。本実施の形態では、ROM11が記憶する音源データは、パンポットの設定値Xとして、「+7」から「−7」までの値を含むパンポット情報が付加されている。
【0025】
なお、本実施の形態において、携帯電話機は、例えば、ユーザの指示操作に従って、着信メロディを配信するWebサイトから音源データをダウンロードし、予めROM11に記憶している。
【0026】
CPU12は、プログラムに従って携帯電話機の各種制御を行う機能を備える。例えば、CPU12は、携帯電話機の発信処理や着信処理等の各種処理を行う。また、CPU12は、着信を検出すると、ROM11から着信メロディの音源データを抽出し、音源13に出力する機能を備える。
【0027】
音源13は、CPU12からの音源データに基づいて、2系統のメロディデータをDSP部16に出力する機能を備える。本実施の形態では、音源13は、音源データに含まれる左側チャネル(以下、Lチャネルという)のメロディデータと、右側チャネル(以下、Rチャネルという)のメロディデータとを抽出し、DSP部16に出力する。また、音源13は、CPU12から入力した音源データからパンポット情報を抽出し、DSP部16に出力する機能を備える。
【0028】
DSP部(信号処理部)16は、音源13からの2系統のメロディデータを信号処理する機能を備える。本実施の形態では、DSP部16は、Lチャネル及びRチャネルのメロディデータに対して、音像を定位させるための信号処理(音像定位処理)を行う。例えば、DSP部16は、各メロディデータのレベルや位相を制御することによって音像定位処理を行う。
【0029】
本実施の形態では、DSP部16は、例えば、Lチャネルのメロディデータを、Rチャネルのメロディデータに対して振幅及び位相を所定量だけずらす。そして、DSP部16は、Rチャネルのメロディデータと、振幅及び位相をずらしたLチャネルのメロディデータとを合成して、D/Aコンバータ17に出力する。また、DSP部16は、例えば、Rチャネルのメロディデータを、Lチャネルのメロディデータに対して振幅及び位相を所定量だけずらす。そして、DSP部16は、Lチャネルのメロディデータと、振幅及び位相をずらしたRチャネルのメロディデータとを合成して、D/Aコンバータ17に出力する。
【0030】
また、DSP部16は、音源13からのパンポット情報に基づいて、パンポットの設定値が0であるか否かを判断する機能を備える。また、DSP部16は、パンポットの設定値の判断結果に基づいて、音像定位処理を行うか否かを判断する機能を備える。本実施の形態では、DSP部16は、パンポットの設定値の判断結果に基づいて、音像定位処理をオン又はオフに設定する。
【0031】
D/Aコンバータ17は、DSP部16が信号処理したデータをアナログ信号に変換する機能を備える。スピーカアンプ18は、D/Aコンバータ17からの信号のレベルを増減する機能を備える。スピーカ19L,19Rは、スピーカアンプ18からの信号に基づいて音声を出力する機能を備える。本実施の形態では、携帯電話機は、図1に示すように、近接した2つのスピーカ19L,19Rを備える。スピーカ(以下、Lスピーカという)19Lは、Lチャネルの信号に基づいて音声を出力する。また、スピーカ(以下、Rスピーカという)19Rは、Rチャネルの信号に基づいて音声を出力する。
【0032】
次に、動作について説明する。図2は、携帯電話機において着信があった場合に、着信メロディの音像を定位させて音声出力する処理の一例を示す流れ図である。携帯電話機が基地局から着信信号を受信すると、CPU12は、着信を検出する(ステップS11)。すると、CPU12は、ROM11から着信メロディの音源データを抽出し、抽出した音源データを音源13に出力する(ステップS12)。
【0033】
音源13は、CPU12から入力した音源データから、LチャネルのメロディデータとRチャネルのメロディデータとを抽出する。また、音源13は、音源データに含まれるパンポット情報を抽出する。そして、音源13は、Lチャネル及びRチャネルのメロディデータと、パンポット情報とをDSP部16に出力する。
【0034】
DSP部16は、音源13から入力したパンポット情報に基づいて、パンポットの設定値Xが0であるか否かを判断する(ステップS13)。
【0035】
設定値が0でないと判断すると、DSP部16は、Lチャネル及びRチャネルのメロディデータに対して、所定の音像定位処理を行う(ステップS14)。この場合、DSP部16は、パンポット情報に示されるパンポットの設定値Xに従って、各メロディデータのレベルや位相を制御する。
【0036】
例えば、パンポットの設定値Xがプラスの値(すなわち、0<X<+7)である場合、DSP部16は、RチャネルよりLチャネルの出力レベルが大きくなるように、各メロディデータを処理する。また、例えば、パンポットの設定値Xがプラスの最大値(すなわち、X=+7)である場合、DSP部16は、Lチャネルだけから出力するように、各メロディデータを処理する。また、例えば、パンポットの設定値Xがマイナスの値(すなわち、−7<X<0)である場合、DSP部16は、LチャネルよりRチャネルの出力レベルが大きくなるように、各メロディデータを処理する。また、例えば、パンポットの設定値Xがマイナスの最大値(すなわち、X=−7)である場合、DSP部16は、Rチャネルだけから出力するように、各メロディデータを処理する。
【0037】
DSP部16は、各メロディデータを信号処理すると、処理した各メロディデータをD/Aコンバータ17に出力する。すると、D/Aコンバータ17は、各メロディデータをアナログ信号に変換し、スピーカアンプ18に出力する。また、スピーカアンプ18は、D/Aコンバータ17から入力した各信号のレベル調整を行い、各スピーカ19L,19Rに出力する。そして、各スピーカ19L,19Rは、Lチャネル及びRチャネルの信号に基づいてそれぞれ鳴動し、着信メロディの音声を出力する(ステップS15)。
【0038】
ステップS13で設定値Xが0であると判断すると、DSP部16は、各メロディデータの信号処理を行わないと判断する。そして、DSP部16は、各メロディデータを信号処理せずに、そのままD/Aコンバータ17に出力する。すると、D/Aコンバータ17が各メロディデータをアナログ信号に変換し、スピーカアンプ18がレベル調整を行い、各スピーカ19L,19Rが音声を出力する。すなわち、音像制御装置は、音声定位処理を行わずに、Lチャネル及びRチャネルから同一の信号に基づいて、着信メロディの音声をモノラル再生する。
【0039】
次に、図2に示す処理に従って行われる音像定位の概念について説明する。図3は、パンポットの設定値に基づく音像定位の概念を示す説明図である。本実施の形態では、パンポットの設定値として、「−7」から「+7」までのいずれかの値が設定されている。パンポットの設定値が「+7」である場合、携帯電話機は、メロディデータに基づいてLチャネルだけから音声を出力する。この場合、図3(a)に示すように、DSP部16がLチャネルのメロディデータを左側に定位させるための信号処理を行うことによって、携帯電話機は、Lチャネルだけから音声を出力する。そのため、視聴者から見ると、恰も仮想音源が左側45度方向にあるかのように、音像が左側に定位して着信メロディが聞こえる。
【0040】
パンポットの設定値が「−7」である場合、携帯電話機は、メロディデータに基づいてRチャネルだけから音声を出力する。この場合、図3(c)に示すように、DSP部16がRチャネルのメロディデータを右側に定位させるための信号処理を行うことによって、携帯電話機は、Rチャネルだけから音声出力する。そのため、視聴者から見ると、恰も仮想音源が右側45度方向にあるかのように、音像が右側に定位して着信メロディが聞こえる。
【0041】
パンポットの設定値が0である場合、携帯電話機は、図3(b)に示すように、Lチャネル及びRチャネルから、同一のモノラル信号に基づいて音声出力する。モノラル再生であるので、視聴者から見ると、音源が視聴者に対して正面方向にあるように着信メロディが聞こえる。
【0042】
図3に示すように、着信メロディの音源データにパンポットの値を予め設定することによって、近接したスピーカを用いる場合であっても、音像を左側又は右側に定位させることができ、ステレオ効果を得ることができる。
【0043】
次に、図2に示す処理に従って、携帯電話機が信号処理を行う動作を具体的に説明する。図4は、携帯電話機において、2つの近接したスピーカを用いて音像定位処理を行う場合の動作を示す説明図である。図4に示すように、DSP部16は、4つの信号処理回路16A,16B,16C,16Dを含む。なお、図4では、説明の便宜上、ROM11、CPU12、D/Aコンバータ17及びスピーカアンプ18を省略して示しているが、DSP部16は、実際には、D/Aコンバータ17及びスピーカアンプ18を介して各スピーカ19L,19Rに接続される。
【0044】
本実施の形態では、信号処理回路16Aは、音源13から入力したRチャネルのメロディデータを信号処理して、Rスピーカ19R側に出力する。また、信号処理回路16Bは、音源13から入力したLチャネルのメロディデータを信号処理して、Rスピーカ19R側に出力する。また、信号処理回路16Cは、音源13から入力したRチャネルのメロディデータを信号処理して、Lスピーカ19L側に出力する。また、信号処理回路16Dは、音源13から入力したLチャネルのメロディデータを信号処理して、Lスピーカ19L側に出力する。
【0045】
まず、メロディ音源13からのLチャネルのメロディデータに対して、近接した2つのスピーカ19L,19Rを用いて音像定位処理を行う場合を説明する。信号処理回路16Dは、音源13からのLチャネルのメロディデータに対して、レベル及び位相を制御して信号処理を行い、Lスピーカ19L側に出力する。すると、Lスピーカ19Lは、処理後の信号に基づいて鳴動し音声を出力する。同様に、信号処理回路16Bは、音源13からのLチャネルのメロディデータに対して、レベル及び位相を制御して信号処理を行い、Rスピーカ19R側に出力する。すると、Rスピーカ19Rは、処理後の信号に基づいて鳴動し音声を出力する。
【0046】
Lスピーカ19Lから出力された音声は、経路27を介して視聴者の左耳22に伝わる。また、Lスピーカ19Lから出力された音声は、経路26を介して視聴者の右耳21に伝わる。また、同様に、Rスピーカ19Rから出力された音声は、経路28を介して左耳22に伝わり、経路25を介して右耳21に伝わる。そのため、視聴者は、左耳22で、Lスピーカ19Lから経路27を介して伝えられた音と、Rスピーカ19Rから経路28を介して伝えられた音とを聞くことになる。また、同様に、視聴者は、右耳21で、Lスピーカ19Lから経路26を介して伝えられた音と、Rスピーカ19Rから経路25を介して伝えられた音とを聞くことになる。
【0047】
例えば、パンポットの設定値が「+7」である場合、音像を左側45度方向に定位させるために、信号処理回路16B及び信号処理回路16Dは、Lスピーカ19L及びRスピーカ19Rから両耳21,22に伝わる音の伝達特性を考慮して、所定の音圧差と所定の時間差とが両耳21,22に生じるように信号処理を行う。この場合、Lスピーカ19Lからの音とRスピーカ19Rからの音とを空間で相互に干渉させて音を定位させるために、信号処理回路16Bと信号処理回路16Dとは、相互に逆相に近い位相となるように、それぞれメロディデータを信号処理してスピーカ19L,19R側に出力する。そのように、音圧差と時間差とが両耳21,22に生じるようにレベル及び位相を処理することによって、両耳21,22で恰も左側45度方向から音が聞こえるように視聴者に感じさせることができる。
【0048】
また、同様に、パンポットの設定値が「−7」である場合、音像を右側45度方向に定位させるために、信号処理回路16A及び信号処理回路16Cは、Lスピーカ19L及びRスピーカ19Rから両耳21,22に伝わる音の伝達特性を考慮して、所定の音圧差と所定の時間差とが両耳21,22に生じるように信号処理を行う。そして、Lスピーカ19Lが出力した音と、Rスピーカ19Rが出力した音とを空間上で干渉させることによって、音像を右側に定位させる。
【0049】
パンポットの設定値が0である場合、DSP部16は、音像定位処理を行わずに、そのまま各メロディデータを出力する。本実施の形態では、DSP部16は、音声の音質や音圧の変化を防止するために、パンポットの設定値に基づいて、音像定位処理のオン又はオフの設定を行う。本実施の形態では、DSP部16は、音源13から、Lチャネル及びRチャネルのメロディデータに加えてパンポット情報を入力する。そして、DSP部16は、各チャネルのメロディデータ及びパンポット情報に基づいて音像定位処理を行う。
【0050】
例えば、DSP部16は、パンポット情報に含まれるパンポットの設定値が0であるか否かを判断する。設定値が0であると判断すると、DSP部16は、音像定位処理をオフに設定し、各メロディデータを信号処理せずに、そのままスピーカ19L,19R側に出力する。設定値が0でないと判断すると、DSP部16は、音像定位処理をオンに設定し、各メロディデータを信号処理してスピーカ19L,19R側に出力する。
【0051】
図5は、DSP部16が音像定位処理のオン又はオフの設定を行う場合の例を示す説明図である。図5(a)は、DSP部16が音源13から入力する各メロディデータの例を示す。また、図5(b)は、DSP部16が音源13から入力するパンポット情報に含まれるパンポットの設定値の例を示す。また、図5(c)は、DSP部16による音像定位処理のオン又はオフの設定状態の例を示す。
【0052】
図5に示す例では、例えば、区間t1では、パンポットの設定値が0であるので、図5(c)に示すように、DSP部16は、音像定位処理をオフに設定する。すなわち、音像定位の効果が得られないので、DSP部16は、出力する音の音質や音圧の変化を防止するために、音像定位処理を行わずにそのままスピーカ19L,19R側に出力する。また、例えば、区間t2では、パンポットの設定値が「+7」であるので、図5(c)に示すように、DSP部16は、音像定位処理をオンに設定する。すなわち、DSP部16は、各メロディデータを信号処理して音像を左側に定位させる。また、例えば、区間t3では、パンポットの設定値が「−7」であるので、図5(c)に示すように、DSP部16は、音像定位処理をオンに設定する。すなわち、DSP部16は、各メロディデータを信号処理して音像を右側に定位させる。
【0053】
また、同様に、区間t4では、パンポットの設定値が「+7」であるので、DSP部16は、メロディデータを信号処理して音像を左側に定位させる。また、区間t5では、パンポットの設定値が0であるので、DSP部16は、信号処理を行わずにモノラルで出力する。また、区間t6では、パンポットの設定値が「−7」であるので、DSP部16は、メロディデータを信号処理して音像を右側に定位させる。
【0054】
以上に示す処理を実行することによって、DSP部16は、音源データのパンポット情報に基づいて、パンポットの設定値が0でない場合には音像定位によるステレオ効果が得られるで、信号処理を行って音像を左側又は右側に定位させる。また、パンポットの設定値が0の場合には、信号処理を行っても音像は定位しないので、DSP部16は、信号処理を行わずに各メロディデータをそのまま出力する。
【0055】
例えば、一般に、携帯電話機は、着信メロディ等を音像定位して音声出力する場合、パンポットの設定値が0であっても、各メロディデータの信号処理を行う。この場合、信号処理回路16Dは、Lチャネルのメロディデータに対して、レベル及び位相制御を行いLスピーカ19L側に出力する。また、信号処理回路16Cは、Rチャネルのメロディデータに対して、レベル及び位相制御を行いLスピーカ19L側に出力する。そして、Lスピーカ19Lは、信号処理回路16D側からの信号と信号処理回路16C側からの信号とを合成して、合成した信号に基づいて鳴動し音声を出力する。
【0056】
また、同様に、信号処理回路16Aは、Rチャネルのメロディデータに対して、レベル及び位相制御を行いRスピーカ19R側に出力する。また、信号処理回路16Bは、Lチャネルのメロディデータに対して、レベル及び位相制御を行いRスピーカ19R側に出力する。そして、Rスピーカ19Rは、信号処理回路16A側からの信号と信号処理回路16B側からの信号とを合成して、合成した信号に基づいて鳴動し音声を出力する。
【0057】
パンポットの設定値が0である場合に信号処理を行って音声出力すると、例えば、Lスピーカ19Lは、信号処理回路16D側からのLチャネルの信号と、信号処理回路16CがLチャネルの信号に対して逆相になるように信号処理したRチャネルの信号とを合成して、鳴動し音声出力することになる。そのため、Lチャネルの信号とRチャネルの信号とが同一で逆相に近い位相であるので、合成することによって信号レベルが低下する。また、同様に、Rスピーカ19Rも、相互に逆相に近い信号を合成するので、信号レベルが低下する。そのため、パンポットの設定値が0の場合、音像の定位効果が得られないにもかかわらず信号処理してしまうと、出力する音の音質や音量が変化してしまう。
【0058】
本実施の形態では、音源データに含まれるパンポット情報に基づいて、パンポットの設定値が0である場合には、信号処理を行わずに左右のスピーカ19L,19Rからモノラルで音声出力する。そのため、パンポットが0である場合であっても、スピーカ19L,19Rから出力する音の音質や音量を確保することができる。
【0059】
以上のように、本実施の形態によれば、DSP部16は、パンポット情報に含まれるパンポットの設定値Xが0であるか否かを判断する。また、DSP部16は、パンポットの設定値Xが0であると判断すると、音像定位処理を行わずに、そのままLチャネル及びRチャネルのメロディデータを出力する。そして、各スピーカ19L,19Rは、それぞれLチャネル及びRチャネルの信号に基づいて鳴動し、着信メロディをモノラル再生する。本実施の形態によれば、ステレオ効果が得られないパンポットの設定値Xが0の場合に、音声定位を行わないようにすることによって、音圧を確保しつつ良好な音質で着信メロディを再生することができる。従って、パンポットが設定されている場合に、再生する着信メロディの音質の劣化やレベルの低下を防止することができる。
【0060】
なお、本実施の形態では、携帯電話機が着信メロディを再生出力する場合を説明したが、音像制御装置が音像定位処理を行って再生する音声は、着信メロディに限られない。例えば、音像制御装置は、携帯電話機がゲームの効果音等の他の音声をスピーカから出力する際に、ゲームの効果音等の音声を音像定位して再生出力する場合にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、近接する複数のスピーカを備えた携帯電話機において、着信時に着信メロディをステレオ再生する用途に適用できる。また、本発明は、携帯電話機において、ゲームの効果音をステレオ再生する用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明による音像制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】携帯電話機において着信があった場合に、着信メロディの音像を定位させて音声出力する処理の一例を示す流れ図である。
【図3】パンポットの設定値に基づく音像定位の概念を示す説明図である。
【図4】携帯電話機において、2つの近接したスピーカを用いて音像定位処理を行う場合の動作を示す説明図である。
【図5】DSP部16が音像定位処理のオン又はオフの設定を行う場合の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0063】
11 ROM
12 CPU
13 音源
16 DSP部
16A,16B,16C,16D 信号処理回路
17 D/Aコンバータ
18 スピーカアンプ
19L,19R スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声データをステレオ再生する際に音像の定位を行う携帯端末であって、
処理対象の音声データに含まれるパンポットの設定値に基づいて、音像を定位するための信号処理である音像定位処理を行うか否かを判断する処理実行判断手段と、
前記処理実行手段が音像定位処理を行うと判断すると、前記処理対象の音声データに対して前記音像定位処理を行う信号処理手段と、
前記信号処理手段が出力した音声データに基づいて、音声を再生する音声再生手段とを
備えたことを特徴とする携帯端末。
【請求項2】
処理実行判断手段は、処理対象の音声データに含まれるパンポットの設定値が0であるか否かを判断し、
信号処理手段は、
前記処理実行判断手段がパンポットの設定値が0であると判断すると、音声定位処理を行わずに処理対象の音声データをそのまま出力し、
前記処理実行判断手段がパンポットの設定値が0でないと判断すると、処理対象の音声データを音像定位処理を行って出力する
請求項1記載の携帯端末。
【請求項3】
パンポットの設定値を含む着信メロディの音声データを記憶する音声記憶手段と、
着信の有無を検出する着信検出手段と、
前記着信検出手段が着信を検出すると、前記音声記憶手段から着信メロディの音声データを抽出する音声抽出手段とを備え、
音声再生手段は、信号処理手段が出力した音声データに基づいて、着信メロディを再生する
請求項1又は請求項2記載の携帯端末。
【請求項4】
着信メロディをステレオ再生する際に音像の定位を行う携帯端末であって、
着信メロディの音声データに含まれるパンポットの設定値に基づいて、音像を定位するための信号処理である音像定位処理を行うか否かを判断する処理実行判断手段と、
前記処理実行手段が音像定位処理を行うと判断すると、前記処理対象の音声データに含まれる左側チャネルのデータ及び右側チャネルのデータに対して、それぞれ前記音像定位処理を行う信号処理手段と、
前記信号処理手段が出力した左側チャネルのデータ及び右側チャネルのデータに基づいて、近接した2つのスピーカによる着信メロディの再生を行う音声再生手段とを
備えたことを特徴とする携帯端末。
【請求項5】
音声データをステレオ再生する際に音像の定位を行う音像制御装置であって、
処理対象の音声データに含まれるパンポットの設定値に基づいて、音像を定位するための信号処理である音像定位処理を行うか否かを判断する処理実行判断手段と、
前記処理実行手段が音像定位処理を行うと判断すると、前記処理対象の音声データに対して前記音像定位処理を行う信号処理手段と、
前記信号処理手段が出力した音声データに基づいて、音声を再生する音声再生手段とを
備えたことを特徴とする音像制御装置。
【請求項6】
パンポットの設定値を含む音声データを記憶する音声記憶手段を備え、
処理実行判断手段は、前記音声記憶手段が記憶する音声データに含まれるパンポットの設定値に基づいて、音像定位処理を行うか否かを判断する
請求項5記載の音像制御装置。
【請求項7】
処理実行判断手段は、処理対象の音声データに含まれるパンポットの設定値が0であるか否かを判断し、
信号処理手段は、
前記処理実行判断手段がパンポットの設定値が0であると判断すると、音声定位処理を行わずに処理対象の音声データをそのまま出力し、
前記処理実行判断手段がパンポットの設定値が0でないと判断すると、処理対象の音声データを音像定位処理を行って出力する
請求項5又は請求項6記載の音像制御装置。
【請求項8】
音声再生手段は、
信号処理手段が音声定位処理を行わずに処理対象の音声データをそのまま出力すると、前記信号処理手段が出力した音声データに基づいて、音声をモノラル再生し、
前記信号処理手段が処理対象の音声データを音像定位処理を行って出力すると、前記信号処理手段が出力した音声データに基づいて、音声をステレオ再生する
請求項7記載の音像制御装置。
【請求項9】
音声データをステレオ再生する際に音像の定位を行う音像制御方法であって、
処理対象の音声データに含まれるパンポットの設定値に基づいて、音像を定位するための信号処理である音像定位処理を行うか否かを判断する処理実行判断ステップと、
前記音像定位処理を行うと判断すると、信号処理回路が前記処理対象の音声データに対して音像定位処理を行う信号処理ステップと、
前記信号処理回路が出力した音声データに基づいて、音声を再生する音声再生ステップとを含む
ことを特徴とする音像制御方法。
【請求項10】
パンポットの設定値を含む音声データを記憶する音声記憶ステップを含み、
処理実行判断ステップで、前記記憶した音声データに含まれるパンポットの設定値に基づいて、音像定位処理を行うか否かを判断する
請求項9記載の音像制御方法。
【請求項11】
処理実行判断ステップで、処理対象の音声データに含まれるパンポットの設定値が0であるか否かを判断し、
信号処理ステップで、
前記パンポットの設定値が0であると判断すると、信号処理回路が音声定位処理を行わずに処理対象の音声データをそのまま出力し、
前記パンポットの設定値が0でないと判断すると、前記信号処理回路が処理対象の音声データを音像定位処理を行って出力する
請求項9又は請求項10記載の音像制御方法。
【請求項12】
音声再生ステップで、
信号処理回路が音声定位処理を行わずに処理対象の音声データをそのまま出力すると、前記信号処理回路が出力した音声データに基づいて、音声をモノラル再生し、
前記信号処理回路が音声データを音像定位処理を行って出力すると、前記信号処理回路が出力した音声データに基づいて、音声をステレオ再生する
請求項11記載の音像制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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