説明

携帯通信端末を非接触鍵として利用する電子錠システム

【課題】携帯通信端末を鍵として利用する電子錠システムにおいて、解錠および施錠に用いる非接触鍵の使用可能区域を限定しながら、比較的安価かつ簡便に高い安全性を実現させる。
【解決手段】携帯通信端末と電子錠と、この携帯通信端末から発せられる開施錠要求に応じてこの電子錠の開施錠を行う開施錠手段とを備える電子錠システムを前提とする。そして、このような電子錠システムにおいて、上記携帯通信端末が発呼時に発する電磁波の強度が所定の閾値以上であることの検出をする検出手段と、この検出に応じて上記開施錠を制御する制御手段とを設ける。これにより、携帯通信端末(非接触鍵)が電子錠の近傍にある場合にのみ、この電子錠の開施錠ができるように制御可能となる。また、電子錠を設置管理する者としては、携帯通信端末が鍵として有効に使用可能である場所や範囲を随時更新変更することができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機に代表される携帯通信端末を開施錠のための非接触鍵として利用する電子錠システムの開施錠制御方式に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの携帯通信端末を、開施錠のための非接触鍵として利用する電子錠システムが普及してきている。このような電子錠システムは、建物や区域の出入りに使用する門扉、金庫、薬品庫等の扉の開閉、或いは自動車のような機器の運転の可否の等の制御を、非接触電子鍵の役割を果たす携帯通信端末と、制御対象機器に接続された錠制御装置との間の無線通信を利用して行うシステムである。
【0003】
図6は、従来の電子錠システム500のブロック構成図である。この電子錠システム500は、以下の3種に大別される機能要素を基本構成要素として持っている。即ち、(1)携帯電話などの非接触鍵510、(2)通信路520、(3)錠制御機構530の3つの要素である。
【0004】
このような構成の下、例えば、利用者は非接触鍵510から通信路520を通じて、開施錠要求(その内容は、例えば、携帯電話の電話番号でよい)を錠制御機構530に送信する。すると、錠制御機構530の認証手段531は、この電話番号がこの認証手段531に登録されているかどうか、認証を行う。この認証が行われた場合、次に、錠制御機構530の開施錠手段532が、例えば、この電話番号が鍵としての有効期間を経過していないかなどを判別する。そして経過していない場合には、電子錠533を開施錠するのである。
【0005】
なお、このような電子錠システムの例は、下記の特許文献1乃至3に開示されている。
【0006】
ところで、上記通信路520には携帯通信サービス会社によって提供される通信網である一般通信路521と、非接触鍵510が赤外線通信機能や非接触ICカード機能等により直接錠制御機構530と通信を行う直接通信路522とがある。
【0007】
直接通信路522としての赤外線通信機能や非接触ICカード機能は、携帯通信端末(非接触鍵)510の個別機能に強く依存し、利用できる端末機器が制限されるという問題がある。また、錠制御機構530側にもICカードリーダー等を導入する必要があるため、コストが高くなってしまうという問題もある。さらに、これらICカードリーダー等の制御に用いるためのソフトウェア導入のコストも一般的に高い。
【0008】
一方、通信サービス会社によって提供される一般通信路521を利用する方式は、携帯通信端末(非接触鍵)510の最も基本的な機能だけに依存し、利用できる端末機器に制限が少ないという利点を持っている。
【特許文献1】特開2001−132292号公報
【特許文献2】特開2002−147079号公報
【特許文献3】特開2001−045163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、携帯通信サービス会社によって提供される一般通信路521を利用する電子錠システムでは、非接触鍵510の有効距離が非常に長い(使用可能区域が広い)。即ち、携帯通信端末(非接触鍵)510の通信可能エリア内のどんな遠隔地からでも、携帯通信サービス会社の一般通信路(通信網)521を経由して、電子錠533の開施錠制御が原理的に可能であるという性質を持っている。
【0010】
もしも、電子錠533の実際の動作が直接確認できない遠隔地において、意図しない開施錠が行われると危険である。そこで、その危険性を最小限に止める方策を検討しなければならない。ここで、意図しない開施錠が行われる可能性として、例えば、利用者による携帯通信端末510の誤操作による場合、コンピュータウイルス等悪意のあるプログラムを実行による場合、あるいは機器誤動作による場合などが挙げられる。
【0011】
とりわけ電子錠533によって自動扉、シャッター、鎖、バーなどが開閉するような場合は、開施錠に際して周囲状況が確認できないと、人が門扉に挟まれることなどがあり危険であるから、有効距離を制限できるようにしておく必要性が高い。即ち、例えば、電子錠533の開施錠(上記門扉等の開閉)を目視できる範囲内に利用者がいる場合に限って、この電子錠533の開施錠ができるように、非接触鍵510の有効距離を制限しておきたいという要請が働くのである。
【0012】
具体的には、非接触鍵510の有効距離としては、電子錠533の近傍、即ちこの電子錠533の開施錠が容易に確認できる範囲である0メートルから10メートル以内に制限したいことが多い。このように有効距離を短くしても、上述のような意図しない開施錠は起こりうるが、門扉等の制御対象機器の動作が目視や音で直接確認できる範囲ならば、上記の危険性が著しく軽減される。
【0013】
携帯通信サービス会社によって提供される一般通信路521を利用する電子錠システムにおいて、非接触鍵510の有効距離を制限するための一法として、接触型電子錠システムを併用する方法が提唱されている。この方法では、非接触鍵510から上記錠制御機構30に開施錠要求を送信した上で、さらに、機械鍵等何らかの接触鍵を操作することで電子錠533の開施錠を行う。この方法ならば、利用者が実際に電子錠533の近傍で、接触鍵を操作しなければこの電子錠533の開施錠は行われない。このため、上記の危険性を低減することができる。なお、接触鍵の例としては、上記機械鍵のほかに、例えば、スイッチ、磁気カード、或いは暗証番号の直接打鍵機構、指紋等の生体情報認証機構などが挙げられる。
【0014】
また、非接触鍵510の有効距離を制限する別の方法として、全地球測位システム(GPS)を利用して、非接触鍵510の位置を検知する方法が考えられる。これにより、非接触鍵が(即ち利用者が)電子錠533の近傍にあるときのみ、この電子錠533の開施錠を行うのである。
【0015】
しかしながら、機械鍵等の接触鍵を併用する方法では、種類の異なる電子錠システムを併用する分、上記の危険性は確かに低減するが、携帯通信端末510を非接触鍵として用いる利便性を著しく損なってしまう問題がある。
【0016】
また、GPSによる位置検知を併用する方法では、鍵として利用可能な携帯通信端末510がGPS機能を保持していなければならない。このため、この電子錠システムは、携帯端末通信が可能であり、かつ、GPS衛星電波の受信が可能でなければならないという2重の要請を満たす区域でしか使えないことになる。さらに、この方法では、位置情報の送受信や、位置情報が偽造されたものでないと保障する仕組み等、複雑なソフトウェアを新たに用意する必要があり、導入コストや通信コストが高価になりやすいという問題がある。
【0017】
また、赤外線通信機能や、ICカード機能のような到達距離の短い非接触型の電子錠システムを併用する方法も考えられるが、既に述べたように、この方法では高機能な端末が必要となり、ICカードリーダーのような部品を錠制御機構530側に備える必要があり、制御ソフトウェアも複雑高価になりやすいという問題がある。
【0018】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって、携帯通信端末を鍵として利用する電子錠システムにおいて、解錠および施錠に用いる非接触鍵の使用可能区域を限定しながら、比較的安価かつ簡便に高い安全性を実現させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
以上の目的を達成するために、本発明では、以下のような手段を採用している。
【0020】
まず、本発明は、携帯通信端末と電子錠と、この携帯通信端末から発せられる開施錠要求に応じてこの電子錠の開施錠を行う開施錠手段とを備える電子錠システムを前提としている。
【0021】
そして、このような電子錠システムにおいて、上記携帯通信端末が発呼時に最寄基地局と交信する電磁波の強度が所定の閾値以上であることの直接検出をする検出手段と、この検出に応じて上記開施錠を制御する制御手段とを設ける。これにより、携帯通信端末(非接触鍵)が電子錠の近傍にある場合にのみ、この電子錠の開施錠ができるように制御可能となる。
【0022】
また、上記開施錠要求と上記電磁波が同時に発せられたことの判別をする判別手段を備え、上記制御手段がこの判別に応じて上記開施錠を制御するようにする。これにより、開施錠要求と発呼が同一の携帯通信端末から発せられたことを担保しつつ、開施錠を行うことができる。
【0023】
さらに、上記閾値を変更できるようにする。これにより、携帯通信端末(非接触鍵)の使用可能区域の広狭を適宜調整することができるようになる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、非接触鍵の使用可能区域を電子錠の近傍に制限できるので、この電子錠の開施錠に際して、門扉に人が挟まれるなどの危険性を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施形態を示す模式図である。利用者がドアD(電子錠533)の近傍で非接触鍵である携帯通信端末(例えば携帯電話)510から開施錠要求を発すると、ドアDの電子錠533が開施錠する仕組みとなっている。このように、利用者がドアDの近傍にいないと電子錠533を開施錠できない点が、本発明の特徴である。
【0027】
図2は、本発明の電子錠システム10のブロック構成図である。利用者は携帯通信端末(非接触鍵)510から一般通信路521を通じて、開施錠要求(その内容は、例えば、携帯電話の電話番号でよい)を錠制御機構530に送信する。すると、錠制御機構530の認証手段531は、この電話番号がこの認証手段531に登録されているかどうか、認証を行う。この認証が行われた場合、次に、錠制御機構530の開施錠手段532が、例えば、この電話番号が鍵としての有効期間を経過していないかなどを判別する。
【0028】
ここまでは上記背景技術と同様である。この背景技術では、この有効期間が経過していない場合には電子錠533を開施錠することとしていたが、本発明では、この場合に開施錠の第1条件が満たされたとする。
【0029】
なお、以上では利用者の電話番号を錠制御機構530に送信するとしている。電話番号は携帯通信業者が各携帯電話について1対1に対応して発行するため、この電話番号によって電子錠システム10の利用者を唯一に特定することができる。しかし、携帯電話が盗難にあった場合などに備えて、暗証番号を認証手段531に登録しておき、上記電話番号の送信後、さらにこの暗証番号を錠制御機構530に送信する構成としてもよい。
【0030】
さて、本発明では、利用者が電子錠533の近傍にいることを開施錠の第2条件とする。この第2条件が満たされているかどうかを、検知機構100の各手段によって以下のように判断する。
【0031】
まず、図1において、ドアD(電子錠533)の近傍に、この検知機構100を設置しておく。そして、この検知機構100の検出手段101は、携帯通信端末510が上記電話番号の送信に際して、発呼時に最寄基地局と交信する際のSETUP要求信号などの電磁波(以下「発呼電波」と略す)の強度が所定の閾値以上であることを検出する。この発呼電波は規格化された特定の波形(パターン)をもっており、上記検出手段はこの特定のパターンを認識することでこの発呼電波を検出する。そして、検出手段101が上記のように検出した段階で、例えば、この発呼電波の強度が所定の閾値以上であれば、携帯通信端末510が(利用者が)電子錠533の近傍にあると判断できる。なお、「近傍」の持つ意味合いについては後述する。
【0032】
このようにして、携帯通信端末510が電子錠533の近傍にある場合にのみ、この電子錠533の開施錠ができるように制御可能となる。なお、検出手段101は、発呼電波のパターンと物理的な強度を検出するのみであり、この発呼電波の通信内容などの解析は行わない。通信内容の解析を行うのは最寄基地局であって、解析結果である開施錠要求は、基地局から一般通信路522を通じて錠制御機構530に送信される。
【0033】
次に、検知機構100の判別手段102は、一般通信路522を通じて送信された上記開施錠要求と、上記発呼電波とが、同時に発せられたことを判別する。この同時性に基づいて、開施錠要求と発呼電波とが同一の携帯通信端末510から発せられたこと、換言すれば、開施錠要求を送信した携帯通信端末510がまさに電子錠533の近傍にあることが判断される。
【0034】
このような検出手段101の検出と判別手段102の判別とにより、携帯通信端末510がまさに電子錠533の近傍にあると判断された場合に、上記第2条件が満たされたとして、制御手段103が電子錠533の開施錠を行うように制御する。
【0035】
図3は、このような制御を行うための回路図であり、図4はこの回路における制御信号の生成を示す図である。
【0036】
アンテナ30が携帯通信端末510の発呼電波を受信して、回路K内で通信開始信号Aを生成する(図4)。この際、発呼電波の通信内容の解析は行わず、アンテナ30が受信した電波が上記閾値以上の強度を持つことと、特定のパターンを有することとが満たされれば、当該電波が発呼電波であると認識して上記通信開始信号Aを回路Kの端子31に出力する。この段階で、上記第2条件のうち、検出手段101による検出が満たされたことになる。
【0037】
すると、この通信開始信号Aに基づいて、一定時間のトリガーAaが生成され(図4)、回路Kの端子32に出力される。この一定時間は、アンテナ30が発呼電波を受信してから、一般通信路521を介して錠制御機構30が開施錠要求を受信するまでのタイムラグを考慮した時間で、数秒である。
【0038】
一方、携帯通信端末510から一般通信路521を通じて開施錠要求が送信され、錠制御機構530によりこの開施錠要求が認証されると、上記第1条件が満たされる。すると端子33に一定パルス幅(10秒程度)の認証信号Bが出力される。
【0039】
そして、アンドゲートGがこのトリガーAaと認証信号Bの論理積である制御信号Cを生成し、この制御信号Cに基づいて、電子錠533が開施錠される。なお、この論理積を取る段階で、上記第2条件のうち、判別手段102による判別が満たされ、最終的に第1条件と第2条件との双方が満たされたことになる。
【0040】
なお、上記アンドゲートGの代わりに、図5に示すような、上記トリガーAaと認証信号Bとにそれぞれ対応して投入される、直列スイッチS1,S2を用いた回路構成にしてもよい。
【0041】
また、上記回路Kは、必ずしもアンテナ30と一体に設置する必要はない。即ち、アンテナ30さえ電子錠533の近傍にあれば、つまり携帯通信端末510の発呼電波を受信できる位置にあればよい。しかし、いずれにしても回路Kは、上記発呼電波の干渉を受けないよう、コネクター等を介して、アンテナ30とは十分な距離をとって設置されていなければならない。これを敷衍すれば、先にドアDの近傍に、この検知機構100を設置すると述べたが、ドアDの近傍に設置するのはアンテナ30だけでよく、回路Kは遠隔地に設けてもよい。
【0042】
以上のように、本発明によれば、利用者が電子錠の近傍にいるときにのみ、この電子錠の開施錠を行うことができるので、誤った遠隔操作などが防止でき、電子錠の開施錠に際して、門扉に人が挟まれるなどの危険性を回避することができる。
【0043】
なお、これまでに述べてきた「近傍」の具体的範囲、即ち半径何メートル以内といった具体的な数値については、図3の抵抗Rを調節すれば上述した発呼電波の強度の閾値を変更することができる。従って、電子錠システムの設置される環境、例えば、工場の門扉であるとか、店舗のシャッターであるとかの具体的な環境や、セキュリティレベルに応じて適宜この近傍の範囲(非接触鍵の有効距離、使用可能区域)を設定することができる。例えば、金庫の鍵として本発明の電子錠システムを用いる場合、この有効距離を0メートルにしておけば、実質的にどの利用者もこの金庫を開けられないことになる。これは、例えば、休日等に金庫を誰にも利用させたくないような場合に有効な手段である。
【0044】
このように、本発明によれば、電子錠を設置管理する立場の者が、携帯通信端末が鍵として有効に使用可能である場所や範囲を随時更新変更することができるようになるのである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る電子錠システムは、非接触鍵の使用可能区域を電子錠の近傍に制限できるので、この電子錠の開施錠に際して、門扉に人が挟まれるなどの危険性を回避することができる。従って、建物や区域の出入りに使用する門扉、金庫、薬品庫等の扉の開閉等に用いる電子錠システムとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態を示す模式図。
【図2】本発明の電子錠システムのブロック構成図。
【図3】本発明の電子錠システムの制御回路図。
【図4】本発明の電子錠システムにおける制御信号の説明図。
【図5】本発明の電子錠システムの制御回路図。
【図6】従来の電子錠システムのブロック構成図。
【符号の説明】
【0047】
10 電子錠システム
100 検知機構
101 検出手段
102 判別手段
103 制御手段
510 携帯通信端末
520 通信路
521 一般通信路
522 直接通信路
530 錠制御機構
531 認証手段
532 開施錠手段
533 電子錠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯通信端末と電子錠と、該携帯通信端末から発せられる開施錠要求に応じて該電子錠の開施錠を行う開施錠手段とを備える電子錠システムにおいて、
上記携帯通信端末が発呼時に最寄基地局と交信する際の電磁波が、所定の閾値以上であることの直接検出をする検出手段と、
上記検出に応じて上記開施錠を制御する制御手段と、
を備える、電子錠システム。
【請求項2】
上記開施錠要求と上記電磁波が同時に発せられたことの判別をする判別手段を備え、上記制御手段が該判別に応じて上記開施錠を制御する、請求項1に記載の電子錠システム。
【請求項3】
上記閾値を変更できる、請求項2に記載の電子錠システム。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−275449(P2009−275449A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129335(P2008−129335)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(592142016)株式会社システック (1)
【出願人】(508147197)合資会社勘場工房 (1)
【Fターム(参考)】