説明

携帯電話装置

【課題】消費電流の増加を抑制しつつ、デジタル回路ブロックから発生する輻射ノイズの影響を低減することができる携帯電話装置の提供。
【解決手段】PMW信号2の経路中に単にローパスフィルタ5を挿入するのではなく、ローパスフィルタ5を含む経路とローパスフィルタ5を含まない経路とを設け、これらの経路をスイッチ3、6によって切り替え可能に構成し、受信タイミング信号10に同期させてスイッチを制御し、受信フレーム中はローパスフィルタ5に切替わり、それ以外の場合はスルーパス4に切替わるように経路の切り替えを行う。これにより、受信フレーム中はPWM信号2からの輻射ノイズがローパスフィルタ5により低減されるため、受信妨害問題の発生を防止することができ、受信フレーム中のみローパスフィルタ5を通るため、ローパスフィルタ5による電流増加も低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話装置に関し、特に、DDコンバータのEMI対策のための回路に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の携帯電話装置は、小型軽量化のための高密度実装により、デジタル回路ブロックと無線部やアンテナが近接する実装を強いられており、デジタル回路ブロックの輻射ノイズが無線部やアンテナにおよぼす影響が問題となっている。
【0003】
このデジタル回路ブロックからの輻射ノイズは、トランジスタのスイッチングで発生する貫通電流、およびスイッチングを制御する方形波信号が主な原因である。特に、バックライト用電源生成などに使われるDDコンバータは、特定のチャネルではなく、広い帯域にわたってノイズが発生するため、受信帯域全体で感度劣化が発生するといった問題がある。
【0004】
そのため、回路設計にあたってはデジタル回路ブロックから発生する輻射ノイズへの配慮が必要であり、一般的には信号ラインへのEMI(Electro Magnetic Interference)対策素子の追加、シールドの追加、電磁吸収シートの追加などが行われている。このようなEMI対策として、例えば、下記特許文献1には、放電灯点灯装置に高調波防止用のフィルタ回路を設ける構造が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−78171号公報(第4−6頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、データバスのライン数が多いほど上記追加部品の数が多くなり、高密度実装と低コスト化が要求される携帯電話機にとって大きな負担であった。また、DDコンバータなどはEMI対策素子を追加することにより効率の劣化を引き起こし、消費電流が増加するといった2次的な問題も発生する。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、消費電流の増加を抑制しつつ、デジタル回路ブロックから発生する輻射ノイズの影響を有効に抑制することができる携帯電話装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の携帯電話装置は、高調波ノイズが重畳された制御信号の経路に、ノイズ除去素子を含む第1の経路と前記ノイズ除去素子を含まない第2の経路とを切り替える切り替え手段を少なくとも備えるものである。
【0009】
また、本発明の携帯電話装置は、負荷に供給する電圧を生成するDDコンバータの制御信号の経路に、ノイズ除去素子を含む第1の経路と前記ノイズ除去素子を含まない第2の経路とを切り替える切り替え手段を少なくとも備えるものである。
【0010】
また、本発明の携帯電話装置は、液晶画面を備える携帯電話装置において、スイッチングパルスを利用して昇圧動作を行う昇圧回路と、前記昇圧回路で生成された電圧で点灯する前記液晶画面のバックライトと、前記バックライトのフィードバック電圧に基づいて、前記昇圧回路のON/OFFを制御するPWM信号を出力するフィードバック制御回路と、前記PWM信号の経路に設けられた、ノイズ除去素子を含む第1の経路と前記ノイズ除去素子を含まない第2の経路とを切り替える切り替え手段と、を少なくとも備えるものである。
【0011】
本発明においては、更に、通話中のタイムスロットの受信タイミング信号を前記切り替え手段に出力するタイミング制御回路を備え、前記受信タイミング信号に同期して、前記切り替え手段の切り替え動作が制御される構成とすることができる。
【0012】
また、本発明においては、前記切り替え手段は、受信スロット時に前記第1の経路に切り替え、非受信スロット時に前記第2の経路に切り替える制御を行うことが好ましい。
【0013】
また、本発明においては、前記ノイズ除去素子をローパスフィルタとすることが好ましく、前記ローパスフィルタにより、前記制御信号又は前記PWM信号に起因する輻射ノイズが抑制されるようにする。
【0014】
このように、本発明は、通信品質に係わる受信動作タイミングでのみローパスフィルタを使用することにより、電流の増加を抑えつつ、デジタル回路ブロックに対するノイズ輻射対策を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の携帯電話装置によれば、電流の増加を抑えつつ、DDコンバータなどのデジタル回路ブロックで発生する輻射ノイズを有効に抑制することができるため、携帯電話装置としての通話品質と電池持ち時間の双方を満足することができる。
【0016】
その理由は、ローパスフィルタなどのEMI対策素子を常に使用するのではなく、EMI対策素子を含む経路と含まない経路とをスイッチで切り替え可能とし、通信品質に係わる受信動作タイミングではEMI対策素子を使用することにより通話品質の向上を図り、上記以外のタイミングではEMI対策素子を使用しないことによりDDコンバータの効率の劣化を防止して消費電流の増加を抑制することができるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
携帯電話における従来のDDコンバータ回路は、図6に示すように、バックライトLED9に指定の電圧が掛かるように制御するフィードバック制御部1と、スイッチングパルスを利用して昇圧動作をする昇圧回路ブロック8と、昇圧した電圧にて発光するバックライトLED9とで構成され、フィードバック制御部1から出力されるPWM(Pulse Width Modulation)信号2によりスイッチングされる昇圧回路ブロック8により昇圧電圧が生成され、生成された昇圧電圧によりバックライトLED9は点灯する。また、フィードバック回路1はフィードバック電圧7を監視し、バックライトLED9への供給電圧が一定に保たれるようにPWM信号2を制御する。
【0018】
このPWM信号2は昇圧効率を上げるために非常に急峻に立ち上がり立ち下がるため、輻射ノイズの支配的要因となっている。そのため、バックライトLED9の点灯中は常にPWM信号2からノイズ輻射が発生している。
【0019】
このPWM信号からのノイズ輻射を抑制するために、従来は、図7に示すようにPWM信号2の経路中にEMI対策素子としてローパスフィルタ5を挿入していたが、ローパスフィルタ5によってPWM信号2の波形が鈍り昇圧回路ブロック8の効率が劣化してしまい、その結果、消費電流が増加するといった2次的な問題が発生していた。
【0020】
ここで、携帯電話装置の通話品質を良好に保つためには、受信スロット時にのみノイズ輻射を抑制すれば十分であり、常にノイズ輻射を抑制する必要はない。そこで、本発明では、PWM信号2の経路中に単にローパスフィルタ5を挿入するのではなく、ローパスフィルタ5を含む経路とローパスフィルタ5を含まない経路とを設け、これらの経路をスイッチによって切り替え可能に構成し、受信タイミング信号に同期させてスイッチを制御し、受信フレーム中はローパスフィルタのパスに切り替わり、それ以外の場合はスルーパスに切り替わるように経路の切り替えを行う。
【0021】
これにより、受信フレーム中はPWM信号からの輻射ノイズがローパスフィルタにより低減されるため、受信妨害問題の発生を防止することができ、また、受信フレーム中のみローパスフィルタを通るため、ローパスフィルタによる昇圧回路ブロックの効率劣化に起因する電流増加も低減することができる。また、常にノイズ輻射を抑制する必要がないため、EMI対策のための構成を簡略化することができる。
【実施例1】
【0022】
上記した本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明すべく、本発明の第1の実施例に係る携帯電話装置について、図1乃至図4を参照して説明する。図1は、第1の実施例に係るバックライトLED用昇圧DDコンバータの例を示す回路図であり、図2は、ローパスフィルタブロックの例を示す回路図である。また、図3は、PWM信号と受信タイミング信号の関係を示す図であり、図4は、DDコンバータ回路におけるTDMA方式の通信中動作を示すフローチャート図である。
【0023】
図1に示すように、本実施例のバックライトLED用昇圧DDコンバータは、バックライトLED9に指定の電圧が掛かるように制御するフィードバック制御部1と、昇圧回路ブロックの電流ON/OFFを制御するPWM信号2をスルーパスかローパスフィルタ5のパスかに切り替えるスイッチ3及びスイッチ6と、PWM信号2の高周波成分を除去するためのローパスフィルタ5と、スイッチングパルスを利用して昇圧動作をする昇圧回路ブロック8と、昇圧した電圧にて発光するバックライトLED9と、通信時の受信タイミングを生成するタイミング制御部11とを備えており、フィードバック制御部1から出力されるPWM信号2を元に昇圧回路ブロック8で昇圧を行い、バックライトLED9に必要な電圧を供給する。また、フィードバック制御部1が、バックライトLED9にかかる電圧が一定になるようにモニタされるフィードバック電圧7を常に監視することによりバックライトLED9への供給電圧は一定に保たれる。
【0024】
ここで、PWM信号2は昇圧効率を上げるために非常に急峻に立ち上がり立ち下がるため、輻射ノイズの支配的要因となっている。そこで、本実施例のバックライトLED用昇圧DDコンバータでは、スイッチ3及びスイッチ6を受信タイミング信号10に同期してスイッチングし、受信フレーム中はローパスフィルタ5の経路に切り替わり、それ以外の場合はスルーパス4に切り替わるようにする。この仕組みにより、受信フレーム中はPWM信号2からの輻射ノイズがローパスフィルタ5により低減されるため、受信妨害の問題の発生を防ぐことができる。また、受信フレーム中のみローパスフィルタ5を通るため、ローパスフィルタ5による電流増加量を低減することができ、例えば、PDC(Personal Digital Cellular)フルレート方式(1つの周波数帯域を3台の携帯電話装置で共有する方式)の場合であれば、電流増加量を1/3に低減することができる。
【0025】
このローパスフィルタブロック(ローパスフィルタ5とスイッチ3及びスイッチ6で構成されるブロック)の具体的構成は、図2のようになり、受信タイミング信号10及びインバータ15により反転された信号により制御されるスイッチ12、スイッチ13及びスイッチ14によって、入力されるPWM信号2をスルーパス4か、ローパスフィルタ5を通る経路かに切り替える。なお、図2の回路は例示であり、受信タイミング信号10に基づいて経路を切り替えることができる構成であればよい。
【0026】
次に、PWM信号2と受信タイミング信号10との関係について、図3を参照して説明する。受信タイミング信号10は、TDMA(Time Division Multiple Access:時分割多元接続)タイムスロットの受信ONのタイミングに合わせてHighとなり、送信、IdleスロットではLowとなる信号である。また、PWM信号2は図に示す様に、受信タイミング信号10がHighつまり受信ONのタイミングでのみ、ローパスフィルタ5を通過した高周波成分を含まない波形となり、それ以外のタイミング(受信OFFのタイミング)ではスルーパス4となるため、高周波成分を含む波形のままとなる。
【0027】
次に、TDMA方式(PDCフルレート方式)の通信中動作について、図4のフローチャートを用いて説明する。
【0028】
通信中、バックライトLED9が点灯(ステップS101)し、受信フレームに同期した受信タイミング信号10が、受信スロット時はHigh、非受信スロット時はLowに変化する。そして、受信タイミング信号10がHighの場合(ステップS102)、ローパスフィルタ5が使用される経路が選択されるため(ステップS103)、輻射ノイズは発生しない。また、受信タイミング信号10がLowの場合(ステップS102)、スルーパス4が選択されるため(ステップS104)、輻射ノイズは発生するが、非受信タイミングであるため輻射ノイズは問題にはならない。また、DDコンバータの効率劣化は発生しないため、消費電流の増加が抑えられる。
【0029】
このように、バックライトLED用昇圧DDコンバータに、PWM信号2の高周波成分を除去するためのローパスフィルタ5と、PWM信号2の経路をスルーパス4又はローパスフィルタ5のパスのいずれかに切り替えるスイッチ3及びスイッチ6とを設け、スイッチ3及びスイッチ6を受信タイミング信号10に同期させてスイッチングし、受信フレーム中はローパスフィルタ5の経路に切り替え、それ以外の場合はスルーパス4に切り替えることにより、受信フレーム中の受信妨害の問題の発生を防ぐことができると共に、ローパスフィルタ5による昇圧回路ブロック8の効率劣化に起因する電流増加を抑制することができる。
【実施例2】
【0030】
次に、本発明の第2の実施例に係る携帯電話装置について、図5を参照して説明する。図5は、第2の実施例の構成例を示す回路図である。なお、基本的な構成は第1の実施例と同じであるが、本実施例では、バックライト用DDコンバータのみでなく複数のDDコンバータの制御に対して本発明のEMI対策を拡張することを特徴としている。
【0031】
例えば、図5に示すように、タイミング制御部11で生成された受信タイミング信号10をn個のDDコンバータ16に対して並列接続することによって、全てのDDコンバータ16に対して第1の実施例と同様の制御が可能となる。このように、本実施例の携帯電話装置では、さらにDDコンバータ16の回路が増加した場合であっても、輻射ノイズの低減と消費電流の低減とを両立させることが可能である。
【0032】
なお、上記各実施例では、DDコンバータを使用する場合を例にして説明したが、本発明は上記各実施例の記載に限定されるものではなく、輻射ノイズが発生する他のデジタル回路ブロックに対しても同様に適用することができる。また、上記各実施例では、EMI対策素子としてローパスフィルタ5を使用する場合を例にして説明したが、ローパスフィルタ5に代えて高調波ノイズを除去できる他の素子や回路を使用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、携帯電話装置に限らず、所定のタイミングでのみデジタル回路ブロックで発生する輻射ノイズを抑制することが求められる任意の回路及び該回路を備える装置に対して適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施例に係る携帯電話装置のDDコンバータの例を示す回路図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る携帯電話装置のローパスフィルタブロックの例を示す回路図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係る携帯電話装置におけるPWM信号と受信タイミング信号との関係を示すである。
【図4】本発明の第1の実施例に係る携帯電話装置におけるTDMA方式の通信中動作を示すフローチャート図である。
【図5】本発明の第2の実施例に係る携帯電話装置の構成例を示す回路図である。
【図6】従来の携帯電話装置のDDコンバータを示す回路図である。
【図7】従来の携帯電話装置のDDコンバータの他の例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0035】
1 フィードバック制御部
2 PWM信号
3 スイッチ
4 スルーパス
5 ローパスフィルタ
6 スイッチ
7 フィードバック電圧
8 昇圧回路ブロック
9 バックライトLED
10 受信タイミング信号
11 タイミング制御部
12 スイッチ
13 スイッチ
14 スイッチ
15 インバータ
16 DDコンバータ
17 スイッチング回路
18 負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯電話装置において、
高調波ノイズが重畳された制御信号の経路に、ノイズ除去素子を含む第1の経路と前記ノイズ除去素子を含まない第2の経路とを切り替える切り替え手段を少なくとも備えることを特徴とする携帯電話装置。
【請求項2】
携帯電話装置において、
負荷に供給する電圧を生成するDDコンバータの制御信号の経路に、ノイズ除去素子を含む第1の経路と前記ノイズ除去素子を含まない第2の経路とを切り替える切り替え手段を少なくとも備えることを特徴とする携帯電話装置。
【請求項3】
液晶画面を備える携帯電話装置において、
スイッチングパルスを利用して昇圧動作を行う昇圧回路と、
前記昇圧回路で生成された電圧で点灯する前記液晶画面のバックライトと、
前記バックライトのフィードバック電圧に基づいて、前記昇圧回路のON/OFFを制御するPWM信号を出力するフィードバック制御回路と、
前記PWM信号の経路に設けられた、ノイズ除去素子を含む第1の経路と前記ノイズ除去素子を含まない第2の経路とを切り替える切り替え手段と、を少なくとも備えることを特徴とする携帯電話装置。
【請求項4】
更に、通話中のタイムスロットの受信タイミング信号を前記切り替え手段に出力するタイミング制御回路を備え、前記受信タイミング信号に同期して、前記切り替え手段の切り替え動作が制御されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の携帯電話装置。
【請求項5】
前記切り替え手段は、受信スロット時に前記第1の経路に切り替え、非受信スロット時に前記第2の経路に切り替える制御を行うことを特徴とする請求項4記載の携帯電話装置。
【請求項6】
前記ノイズ除去素子はローパスフィルタであり、前記ローパスフィルタにより、前記制御信号又は前記PWM信号に起因する輻射ノイズが抑制されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一に記載の携帯電話装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−196935(P2006−196935A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−3345(P2005−3345)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(390010179)埼玉日本電気株式会社 (1,228)
【Fターム(参考)】