説明

摘出生体組織載置装置及び摘出生体組織の固定方法

【課題】摘出された生体組織断端の固定過程で組織断端が変形することがなく、固定完了後、これに割を入れて検査標本を作製したとき、組織断端全体が適切に観察できるようにすることにある。
【解決手段】前記課題を解決するため、摘出生体組織6を固定液に浸漬して固定するとき、その変形を制御する手段として、該摘出生体組織6を載置する摘出生体組織載置板1と、該摘出生体組織載置板1を水平方向に複数挿着脱可能に収容する籠状体2とからなる摘出生体組織載置装置を提案するとともに、載置された摘出生体組織6の変形を制御するため、その周囲に沿って形状保持材7で囲んで布8を覆い、該布8が前記形状保持材7と接するよう磁石で取着して固定液へ水平に浸漬することを特徴とする摘出生体組織の固定方法を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療における摘出生体組織検査の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療を進めるには、臨床上疑われる病変の実態を確認することと、該病変が除去されたか如何かを確認することが極めて重要である。このため、生体組織の検査においては、これ等の情報を的確に求め得る必要がある。例えば、腫瘍性病変の摘出組織検査において、該病変が完全に切除されていることが確認できれば、再手術、薬物療法、放射線治療などの追加的治療の必要がないと判断できることになる。これに反し、切除された組織断端の一部のみから標本が作製され、該断端全体が検査できないと、検査結果を信頼して治療を進めることができない。従って、切除断端全体が観察できる標本を作製することが、不可欠となる。
【0003】
摘出生体組織検査にあたり、顕微鏡による観察に適した組織標本を作製するには、まず組織を固定液(例えばホルマリン液)に浸漬しその固定を行なうが、これは摘出後の変化、自家溶解や腐敗をくいとめるとともに、もとの形態や構造内容物をできるだけ変化させないようにすることで、該固定操作における考慮すべき問題点として、柔らかい生体組織は、固定が進行して硬化する過程で変形しやすく、固定操作時に摘出組織が変形すると、切除断端全体の観察に適した標本の作製を困難にすることにある。そこで、従来行なわれわれてきたように、切除された状態のまま又は固定板を用いて固定液に浸漬し固定する手技の欠点が指摘され、組織の周囲の曲線的形状及び切除面の垂直性の状態を維持することが困難であるとし、切除断端の固定にあたり立体的な型枠を用いた、所謂パンケーキ法或いはペンタゴン法等が提案されているが、前者にあっては板上に固定枠を設け、これに蝶番により取着された可動翼と称する扇形に開閉可能な枠を設けた器具を用いるもので、該器具に収容された切除断端の垂直性を枠によって維持することは可能であるが、組織本来の形状や周囲の曲線的形状は前記従前の手技と同様維持が困難であり、後者にあっても、固定に際し、組織本来の形状とは異なる可能性がある。例えば、平面5角形の筒状型枠に嵌めることにより、固定完了後の組織の形状は型枠の囲む多面体となる。切除組織の形状は、病変の位置や数によって円形、楕円形、ひょうたん形など多彩となるが、これを型に嵌めることで病変の位置も切除組織の中で移動する可能性も考えられる。
【0004】
例えば、乳癌の標準的な治療として行なわれる乳房温存手術の場合、その摘出組織の切除断端の状態が摘出手術後の局所再発リスクを予測するための最も重要な手掛かりとなるので、日本乳癌学会の乳癌取扱い規約のガイドラインによれば、乳頭と癌腫瘤を結ぶ線に直角に5mm間隔で割を入れ、すべてを病理標本として断端の検索を行なうことを推奨しているが、その処理及び診断に多くの時間と労力を費やすこととなる。そこで提案されたのが、上記型枠を用いる方法(以下「型枠法」と略称する。)であり、パンケーキ法の場合全割標本に比べ作成ブロック数は平均55.2%となったとするが、これには幾つかの問題が考えられる。まず、型枠法では、型枠と組織との間になじまない部分が生じる可能性があり、接着させても1mm前後の凹凸が生ずる可能性もあり、真の5mm幅の標本を作ることは困難である。断端面から5mmの部位の病変について判定することは可能としても、断端から5mm未満の病変の有無の確認、断端からの5mm未満の距離の計測は不可能である。断端陽性の判断基準は、5mm、2mm、1mmと様々であり、これらの基準に合わせるためには、実測が必要になるがこれが困難であることは、上記の点から明らかであろう。
【0005】
上記問題を解決するため、特願2006−281041は、摘出生体組織を板上に載置し、その変形を制御するメッシュ状に形成した帯体、又は多数の孔を穿設した板状体で、用手的に屈曲でき、かつ屈曲形状を維持できる形状保持材で囲んでその端部を閉止し、該形状保持材の上縁にまで満るように前記摘出生体組織上に綿又は布を載せ、この状態で形状保持材、摘出生体組織及び綿又は布の全てを布に包み、適宜の板上に取着し、固定液に浸漬する手段を提案している。しかし、この提案では、未解決の問題が残る。即ち、用いる板を木材やコルク製にし、前記形状保持材、摘出生体組織及び綿又は布を包括した布の周囲を釘で前記板に取着すると、摘出生体組織の固定処理後該釘を抜く手間が煩雑であるし、また、固定液に浸漬する際、前記板の浮力で浮いてしまうので、鉛などの有害な金属を用い、浮かないようにする手段を要した。また、浸漬にあたり、前記板を固定液の垂直方向に入れると、前記のように形状保持材の上縁まで綿又は布を載せているが、摘出生体組織の自重による偏りのため変形するおそれがあった。
【特許文献1】特開2002−365185号公報
【非特許文献1】鈴木啓仁外著 「専用固定器具を用いた乳房扇状切除術のための新しい断端検索法(パンケーキ法)」乳癌の臨床15巻6号 篠原出版新社 2000年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、摘出された生体組織断端の固定過程で該組織断端が変形することなく、固定完了後、これに割を入れて検査標本を作製したとき、組織断端全体が適切に観察できるようにする点にあるが、従来提案されている方法では、変形を十分に防止できない点と手技が煩雑である欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、摘出生体組織を固定液に浸漬して固定する場合、該摘出生体組織を載置するに用いる載置板は、多数の孔を穿設し、又はメッシュ状に形成された、強磁性体からなる板状体とし、摘出生体組織を後に述べる形状保持材に収容し、載置板へ布を用いて取着する際、該布が形状保持材周囲に接するよう磁石により容易に着脱可能に構成するとともに、浸漬に際し摘出生体組織の変形を防止するため、固定液中において水平を維持できるよう、前記載置板を水平に収納する装置を提案する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、固定にあたり、摘出生体組織断端周囲側面の曲線的形状及び垂直性の状態が摘出時の形状をほぼ維持でき、切除断端と病変の位置関係を損なうことなく検査標本を作製でき、従って、組織断端全体を的確に観察できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の前記載置板の特徴は、強磁性体材例えば、鉄或いはステンレススチールを用い、多数の孔を穿設し、又はメッシュ状に形成したので、固定液に浸漬しても浮き上がることはなく、かつ、固定液が載置された摘出生体組織に過不足なく浸透できることにある。従って、設ける孔等の形状及び大きさは、この点の配慮が必要である。
【実施例1】
【0010】
図1は、多数の孔を穿設し、又はメッシュ状に形成した強磁性体材からなる板状体である摘出生体組織載置板1と、互いに対向する位置に支柱3に固着し、前記摘出生体組織載置板1を水平方向に挿着脱可能に形成した複数の棚4を設けるとともに、上部に固定液へ浸漬する手技に用いる取っ手5を設けた籠状体2からなる摘出生体組織載置装置の構成を示す斜視図である。図示しないが、前記のとおり、摘出生体組織載置板1はメッシュ状に形成してもよい。本図に示すように、固定液浸漬にあたり、摘出生体組織6に固定液が過不足なく接するように籠状に形成してある。材質は、固定液に浸食されない物を適宜選択可能である。
【実施例2】
【0011】
図2は、摘出生体組織6を前記摘出生体組織載置板1に載置し、摘出生体組織6の側面周囲形状に沿ってメッシュ状に形成した帯体又は多数の孔を穿設した板状体である形状保持材7で囲み、その端部を閉止した状態を示す説明図である。図3は、摘出生体組織6を形状保持材7で囲み、この状態で布8で覆い、該布8が形状保持材7の周囲に接するように、複数の磁石9で前記摘出生体組織載置板1に取着した状態を示す斜視図である。布8は、容易に固定液が浸透する例えばガーゼなどが好ましく、また、磁石9は、浸食を防ぐため合成樹脂などで被覆したものなどが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明に係る摘出生体組織形状保持材1及び生体組織の固定方法は、種々の病変の実態を的確に把握するうえで極めて有用であるから、手術後の再手術、薬物療法、放射線治療などの追加的治療の必要性の有無を判断する有力な資料を獲得できるので、患者の予後が幸福なものになるし、また社会的規模でみるときは、必要な医療費を低く抑えることができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】摘出生体組織載置装置の構成を示す斜視図
【図2】摘出生体組織6を摘出生体組織載置板1に載置し、摘出生体組織6の周囲を形状保持材 7で囲み、その端部を閉止した状態を示す説明図
【図3】摘出生体組織6を形状保持材7で囲んで布8で覆い、複数の磁石9で摘出生体組織載置 板1に取着した状態を示す斜視図
【符号の説明】
【0014】
1 摘出生体組織載置板
2 籠状体
3 支柱
4 棚
5 取っ手
6 摘出生体組織
7 形状保持材
8 布
9 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の孔を穿設し、又はメッシュ状に形成した、強磁性体材からなる板状体である摘出生体組織載置板1と、互いに対向する位置に支柱3へ固着し、前記摘出生体組織載置板1を水平方向に挿着脱可能に形成した複数の棚4を設けるとともに、上部に取っ手5を設けた籠状体2からなることを特徴とする摘出生体組織載置装置
【請求項2】
摘出生体組織標本作製のため摘出生体組織6を固定液に浸漬して固定する場合において、前記摘出生体組織6を請求項1記載の摘出組織載置板1に載置し、前記摘出生体組織6の側面周囲形状に沿ってメッシュ状に形成した帯体又は多数の孔を穿設した長方形の板状体である形状保持材7で囲んでその端部を閉止し、この状態で前記形状保持材7、摘出生体組織6を布8で覆い、該布8が前記形状保持材7の周囲に接するように複数の磁石9で取着し固定液へ水平に浸漬することを特徴とする摘出生体組織の固定方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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