説明

摩擦を低減させる方法

表面の摩擦を低減させる方法であって、樹脂バインダ中に粒子を含むコーティング組成物を表面に塗布することを含み、粒子が、粒子の15体積%〜75体積%が10nm〜250nmの範囲の粒径を有し、かつ粒子の25体積%〜85体積%が3μm〜25μmの範囲の粒径を有する二峰性粒径分布を有するセラミック粒子であり、セラミック粒子の少なくとも90体積%が規定の範囲の粒径を有することを特徴とする、表面の摩擦を低減させる方法。該方法の前に、ケイ酸塩バインダ又は有機チタン酸塩バインダ中にアルミニウム粒子及び/又は亜鉛粒子を含む腐食防止コーティングによる表面のコーティングを行ってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、或る特定の減摩コーティング組成物を表面上に設けることによって摩擦を低減させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
減摩コーティング組成物は、従来の潤滑剤(鉱油及び合成グリース等)が耐えることができない作用条件下でメンテナンスフリーの永久的な潤滑をもたらす高性能ドライフィルム潤滑剤を提供することが、当該技術分野でよく知られている。減摩コーティングに関する典型的な用途としては、ボルト、ヒンジ、留め具、磁石及びエンジンパーツ及びギアパーツの永久的なドライ潤滑が挙げられる。
【0003】
減摩コーティング組成物は典型的に、樹脂及び溶媒中の固形潤滑剤の分散液である。例えば、特許文献1は、潤滑剤と、腐食防止剤と、溶媒とを含む減摩コーティング組成物を記載しており、該減摩コーティング組成物中、潤滑剤は、ポリオレフィンワックスと、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びポリビニルブチラール樹脂との混合物を含む。
【0004】
減摩コーティングは、腐食防止剤を含有していてもよく、かつ/又は腐食防止コーティング上に塗布されてもよい。特許文献2は、ケイ酸塩バインダ及び有機チタン酸塩バインダと、溶媒中の腐食防止剤としてアルミニウム粒子及び亜鉛粒子とを含むコーティング組成物を記載している。この腐食防止コーティングは、溶媒中にフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビニルブチラール樹脂及びポリテトラフルオロエチレンの潤滑剤混合物を含む減摩コーティングで、又はケイ酸塩及び有機チタン酸塩を含む、金属粒子を含まないトップコートでオーバーコーティングすることができる。
【0005】
特許文献3は、リン酸塩を溶解した液体中に機能性材料を分散させること、分散液を基体上にコーティングすること、及び加熱することによって、コーティングを、無機マトリックス相中に機能性材料が組み込まれる機能性コーティングへと変換させることを記載している。機能性材料は例えば、ケイ素、ZrO2、Al23、SiO2、TiO2、TiN、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリアミド、窒化ホウ素、窒化ケイ素、MoS2、MoSi2又は酸化クロムであり得る。
【0006】
特許文献4は、Al又はAl合金材料のための潤滑処理方法を記載しており、該潤滑処理方法は、材料の陽極酸化処理、並びに、ポリエステル樹脂(30質量部〜70質量部)、粒状PTFE(30質量部〜70質量部)及びセラミック(アルミナ)粒子(0.5質量部〜5質量部)を含み、厚さ2μm〜20μmを有する潤滑コーティングの形成により、優れた接着及び膠着(seizure)に対する耐性、並びにAl又はAl合金材料に対する低摩擦力がもたらされることを含む。セラミック粒子は、0.001μm〜0.2μmの平均粒径を有するアルミナ粒子であることが好ましいと記載されている。
【0007】
特許文献5は、プラスチックから成り、ローラの表面上にセラミックコーティングを有する用紙供給ローラを記載している。セラミックコーティングは、Al23、SiO2、ZrO2、SiC、TiC、TaC、B4C、Cr22、Si34、BiN、TiN、AlN、TiB2、ZrB2、TiO2又はMgF2を含む。コーティングは、セラミック粒子を含む処理ガスをプラスチックローラの表面上に噴射することによって形成される。
【0008】
特許文献6は、複数の薄層が上部に設けられた硬質の支持体を備える耐摩耗性コーティングを記載している。硬質の支持体は、硬質粒子が分散する金属合金マトリックスを含む。複数の薄層は互いに異なる特徴を有する。特許文献7は、硬質金属酸化物、炭化物、窒化物又はホウ化物を金属又は合金表面に400MPa〜5000MPaの圧力で塗布することによって、耐摩耗性コーティングを形成することを記載している。硬質金属酸化物、炭化物、窒化物又はホウ化物の粒度を小さくしながら手順を繰り返し得る。
【0009】
M. Kauttによる論文(非特許文献1)は、マイクロエレクトロニクス技術におけるナノ粒子(サイズが100nm未満の粒子)の使用を記載している。F. Haupert及びB. Wetzelによる論文(非特許文献2)は、エポキシサーモプラスチックを強化するためのアルミナナノ粒子の使用を記載しており、トライボロジーの観点から強化サーモプラスチックを評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願公開第976795号明細書
【特許文献2】国際公開第02/088262号
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0192511号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/0213698号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2003/0097945号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2007/0099027号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2005/121402号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】M. Kautt, 'Contribution of nanotechnology to the increased performance and expansion of applications of microsystems' in Galvanotech 4/2004
【非特許文献2】F. Haupert and B. Wetzel, 'Production and structure property relationship of nanoparticle-reinforced plastics and their effect on the tribological behaviour' presented at the Technische Akademie Esslingen during the 15th International Colloqium on Tribology "Automotive and Industrial Lubrication" in January 2006
【発明の概要】
【0012】
本発明の第一の態様において、樹脂バインダ中に粒子を含む減摩コーティング組成物を表面に塗布することによって表面の摩擦を低減させる方法であって、上記粒子が、粒子の15体積%〜75体積%が10nm〜250nmの範囲の粒径を有し、かつ粒子の25体積%〜85体積%が3μm〜25μmの範囲の粒径を有する二峰性粒径分布を有し、セラミック粒子の少なくとも90体積%が規定の範囲の粒径を有することを特徴とする、表面の摩擦を低減させる方法が提供される。
【0013】
表面の摩擦及び摩耗を低減させる方法では、1μm〜20μmの乾燥厚さを得るために、減摩コーティング組成物を塗布することが好ましい。
【0014】
本発明はまた、さらに別の態様において、粒子の15体積%〜75体積%が10nm〜250nmの範囲の粒径を有し、かつ上記粒子の25体積%〜85体積%が3μm〜25μmの範囲の粒径を有する二峰性粒径分布を有するセラミック粒子を樹脂バインダ中に含むコーティングの使用であって、表面の摩擦及び摩耗を低減させ、上記セラミック粒子の少なくとも90体積%が規定の粒径を有する、コーティングの使用を含む。
【発明を実施するための形態】
【0015】
米国特許出願公開第2006/0147674号明細書には、光学用途のためのディスプレイ装置用保護フィルムとして用いられるUV硬化性組成物が記載されており、該UV硬化性組成物は、二峰性粒径分布のZrO2粒子及び/又はシリカナノ粒子を含む樹脂混合物をベースとしている。しかしながら、摩擦の利益については何も言及されていない。
【0016】
本発明の方法又は使用に用いられる組成物中に存在し得るセラミック粒子は、大抵の溶媒に不溶性の傾向にある硬質無機粒子である。好ましいセラミック粒子は、セラミック酸化物粒子、特にアルミナ(Al23)粒子である。使用され得る他のセラミック酸化物粒子としては、ZrO2粒子、SiO2粒子及びTiO2粒子が挙げられる。セラミック粒子は代替的に、窒化物粒子、炭化物粒子又はホウ化物粒子、例えば、窒化ホウ素粒子、窒化ケイ素粒子又は炭化ケイ素粒子であり得る。また、2つ以上の異なるセラミック粒子の混合物を使用してもよい。
【0017】
セラミック粒子の平均一次粒径は、好ましくは1nm〜100nmの範囲、より好ましくは少なくとも5nmである。特に好ましい粒子は、10nm〜30nm又は50nmの平均一次粒径のアルミナ粒子である。それらとしては例えば、平均一次粒径18nmを有しかつ商品名「Aeroxide」で入手可能なDegussa AGの「Al23ナノ粒子」が挙げられる。しかしながら、このような微粒子は凝集する傾向にあり、その結果、本発明者らは、供給されるこれらの「Al23ナノ粒子」の測定粒径が約11.5μmであることを見出した。このような凝集した粒子は、特に平均一次粒径が200nm未満である場合に、本発明による方法又は使用に用いられる減摩コーティングにおいて有用であることが見出される。
【0018】
本発明による減摩コーティングにおいて使用する場合、二峰性粒径分布を有するセラミック粒子が、表面の摩擦及び摩耗を低減させる上で特に有効であることを本発明者らは見出した。粒径分布は、好ましくは粒子の15体積%〜75体積%が、250nm未満、好ましくは10nm〜250nm、より好ましくは200nm未満、最も好ましくは50nm〜200nmの範囲の粒径を有し、かつ粒子の25体積%〜85体積%が、3μm〜25μm、より好ましくは5μm〜15μmの範囲の粒径を有するようなものである。セラミック粒子の好ましくは少なくとも90体積%、より好ましくは少なくとも95%が規定の範囲の粒径を有する。最も好ましくは、粒子の30体積%〜50体積%が50nm〜200nmの範囲の粒径を有し、かつ粒子の70体積%〜50体積%が5μm〜15μmの範囲の粒径を有する。
【0019】
このような二峰性粒径分布を有するアルミナ粒子は、例えば6000rpm〜15000rpmで作動する高剪断ミキサにおいて剪断することによって、上記の凝集した「Al23ナノ粒子」から調製され得ることを本発明者らは見出した。このような高剪断ミキサの例としては、実験室用ミキサとして使用されるIKAにより販売されているUltraturrax(商標)T25高剪断ミキサ、及び工業用ミキサとして使用されるIKAにより販売されている高剪断ミキサCMS−UTL(商標)モデルが挙げられる。アルミナ粒子は例えば、減摩コーティング組成物に用いられる、樹脂バインダ、及び有機溶媒等の希釈剤の存在下で剪断することができる。しかしながら、本発明者らは、一般的により低い剪断でより長時間作動するボールミルは、二峰性粒径分布を作る傾向にないことを見出した。例えば、ナノ粒子に特に好適であるとしてNetzschにより販売されているボールミルは実際、「Al23ナノ粒子」における凝集体を全て微粉砕する上ではより有効であるが、二峰性粒径分布を作らない。
【0020】
下記表中、
・表6は、n−ブチルアセテートとエタノールとの溶媒混合物中に溶解させた、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂と、エポキシ樹脂と、シリコーン樹脂との混合物の溶液中に、低剪断混合により分散される「Al23ナノ粒子」の粒径分布を表す。
・表7は、10000rpmで作動する実験室用高剪断ミキサによる高剪断により、同一溶液中に分散される「Al23ナノ粒子」の粒径分布を表す。
・表8は、9000rpmで作動する工業規模の高剪断ミキサによる高剪断により、同一溶液中に分散される「Al23ナノ粒子」の粒径分布を表す。
・表9は、ナノ粒子に特に好適であるとして販売されているNetzsch(商標)ボールミルによる中程度の剪断により、同一溶液中に分散される「Al23ナノ粒子」の粒径分布を表す。
【0021】
粒径は、レーザ散乱粒径分布分析機によって測定した。表6に見られるように、低剪断でのみ処理した供給される「Al23ナノ粒子」の平均(凝集体)粒径は11.5μmであり、凝集粒子の略全てが5μm〜30μmのサイズ範囲内にあった。表7及び表8に見られるように、いずれかのタイプの高剪断ミキサにおいて剪断した後のAl23は二峰性粒径分布を有していた。粒子の30体積%〜50体積%は約110nmの平均粒径を有し、70%〜50%は約9.5μmの平均粒径を有していた。表7及び表8の両方において、粒子は実質的に全て80nm〜160nm及び3μm〜20μmの範囲のサイズを有していた。工業規模の高剪断ミキサにおいて剪断されたAl23ナノ粒子は、実験室用ミキサにおいて剪断されたAl23ナノ粒子に比べ、サイズ80nm〜160nmの粒子の割合がより高かった。
【0022】
Netzschボールミルにおいて剪断されたAl23ナノ粒子は、実質的に全て80nm〜300nmの粒径を有しており、この平均粒径は160nmであった。表9中の粒径分布は単一のピークを示すため、二峰性粒径分布を暗示しない。
【0023】
有機樹脂バインダは一般的に、コーティング組成物における既知のもののいずれかから選択することができる。バインダは例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びシリコーン樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂を含み得る。好ましいフェノール樹脂としては、フェノールとホルムアルデヒドとのコポリマー、及びフェノールとホルムアルデヒドとクレゾールとのコポリマーが挙げられる。好ましいエポキシ樹脂は、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとのコポリマーである。好ましいシリコーン樹脂は、(R3SiO0.5)シロキサン単位、(R2SiO)シロキサン単位、(RSiO1.5)シロキサン単位又は(SiO2)シロキサン単位(通例、各々Mシロキサン単位、Dシロキサン単位、Tシロキサン単位及びQシロキサン単位と称される)(式中、Rは、1個〜30個の炭素原子を含有する任意の有機基、好ましくは最大8個の炭素原子を有するアルキル基又はアリール基、より好ましくはメチル基、エチル基又はフェニル基であり得る)から独立して選択される1つ又は複数のシロキサン単位を含有する分岐状オルガノポリシロキサンである。とりわけ、Dシロキサン単位及びTシロキサン単位を両方とも含むシリコーン樹脂が好ましい。代替的に、バインダは、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、アミノ−ホルムアルデヒド樹脂、ビニル樹脂、例えば、ポリビニルブチラール又はポリアミドイミド樹脂であってもよい。また、好ましくはないが、相溶性である2つ以上の好適な樹脂の混合物を使用してもよい。
【0024】
通常、コーティング組成物は溶媒から塗布される。すなわち、セラミック粒子が有機樹脂バインダの液体有機溶媒溶液中に分散している。溶媒は例えば、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン)、エステル(例えば、ブチルアセテート)、芳香族炭化水素溶媒(例えば、トルエン、キシレン)、脂肪族炭化水素溶媒(例えば、ホワイトスピリット)、及び複素環式溶媒(例えば、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン又はγ−ブチロラクトン)から選択され得る。溶媒はまた、2つ以上の異なるタイプの溶媒の混合物であってもよい。バインダ樹脂がフェノール樹脂、エポキシ樹脂及び/又はシリコーン樹脂を含む場合、アルコール及び/又はエステルが特に有効な溶媒である。代替的に、コーティング組成物は、水性分散液又は非水性分散液から塗布してもよい。溶液又は分散液中の有機バインダ樹脂の濃度は例えば、10重量%〜50重量%、好ましくは15重量%〜50重量%の範囲内であり得る。
【0025】
コーティング組成物中のセラミック粒子、例えばアルミナ粒子の濃度は、例えば、本発明による減摩コーティング組成物の1重量%〜20重量%、好ましくは1重量%〜10重量%、最も好ましくは1重量%〜5重量%であり得る。これはそれぞれ、ドライコーティングフィルムの1体積%〜30体積%、1体積%〜15体積%及び1体積%〜8体積%と等価であり得る。
【0026】
本発明による方法又は使用で用いられる減摩コーティング組成物から得られるコーティングでコーティングされる基体の、対向する面(プラスチック表面、金属表面又は織布表面等)に対する摩擦係数が低減するため、コーティングがセラミックナノ粒子以外の固形潤滑剤を含有していない場合であっても、基体表面の摩耗は低減する。ナノ粒子が、潤滑剤よりも、サーモプラスチック用の補強充填剤として知られていることから、これは驚くべきことである。しかしながら、本発明による方法又は使用に用いられる減摩コーティング組成物はまた、さらなる摩擦減少をもたらすような固形潤滑剤を含有していてもよい。このような固形潤滑剤は例えば、ポリオレフィンワックス、例えば超微粉砕されたポリプロピレンワックス等の固形炭化水素ワックスであり得る。固形潤滑剤は代替的に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフルオロポリマー、PTFEとワックスとの混合物、二硫化モリブデン、グラファイト、硫化亜鉛若しくはリン酸三カルシウム、又はこれらの2つ以上の任意の組合せであってもよい。使用する場合、固形潤滑剤は、全コーティング組成物の最大50重量%、例えば、1重量%〜40重量%、特に1重量%〜25重量%で存在し得る。これは、塗布した場合のドライコーティングフィルムの1体積%〜50体積%と等価であり、結果としてこのような値となる。減摩コーティング中のセラミックナノ粒子の組込みは、配合コーティングの弾性及び可撓性の特徴又は摩擦係数を害することなく、減摩コーティグの硬度、耐引っ掻き性及び耐衝撃性を増大させることができる。
【0027】
本発明による方法又は使用に用いられるコーティング組成物は概して、1μm〜20μmのコーティング厚さ(乾燥時)をもたらす量で基体に塗布される。コーティング厚さは好ましくは、基体の表面粗さよりも大きく、それゆえ、好ましくは5μm〜20μmであり得る。コーティングは、任意のコーティング手段、例えば、エーロゾルスプレ、エアレススプレ、静電噴霧若しくは噴霧ドラムを含む噴霧により、又は刷毛により、ローラにより、コイルコーティングにより、浸漬により、又は浸漬回転により塗布することができる。コーティングは、本発明による減摩コーティング組成物の単一コート又は複数のコート(例えば、2つ又は3つのコーティング工程を使用)を塗布することによって達成され得る。塗布する場合、溶媒の蒸発を促すのに、コーティング組成物を加熱してもよい。有機バインダ樹脂が熱硬化性樹脂、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び/又はシリコーン樹脂を含む場合には、コーティング組成物を例えば100℃〜200℃でさらに加熱して、コーティングを硬化させてもよい。
【0028】
本発明による方法又は使用においてコーティングされ得る基体の例としては、自動車部品、例えば、ナット、ボルト及び他の締め具、ドア、ボンネット及びブーツ留め具(boot lock parts)、ヒンジ、ドアストッパ、ウィンドウガイド、シート及びシートベルト部品、ブレーキロータ及びブレーキドラム、並びに他の運送業関連部品が挙げられる。好ましい基体は、金属基体であり、所望であれば、初めに錆止め処理をしておいてもよい、例えば、リン酸化されかつ/又は腐食防止コーティングでコーティングしてもよい。
【0029】
それゆえ、本発明による好ましい一方法では、金属表面を腐食防止コーティングでコーティングし、続いて、重量平均一次粒径が100nm未満のセラミック粒子を含有する有機樹脂バインダを含む減摩コーティング組成物でコーティングする。腐食防止コーティングは例えば、特許文献2に記載されているように、例えばケイ酸塩バインダ又は有機チタン酸塩バインダ中に亜鉛粒子及び/又はアルミニウム粒子等の金属粒子を含み得る。このような腐食防止コーティングは一般的に、亜鉛粒子により過度に着色し(over-pigmented)(それらが臨界顔料体積濃度を超える顔料体積濃度を有する)、最も有効な防食をもたらすものの、このような高濃度の金属粒子によって、表面粗さ、それゆえ高摩擦係数、また低内部粘着力(internal cohesion)を導く傾向にあり、かなり脆性のコーティングがもたらされる。本発明による方法又は使用におけるコーティング組成物の塗布から得られる減摩コーティングは、このような腐食防止コーティングされた表面の摩擦係数を低減させ、また、腐食防止コーティングの耐食性を害することなく、コーティングした物品の引っ掻き、衝撃、運搬及び内部粘着力に対する耐性を増大させるのによく適する。本発明による方法によって提供されかつ二峰性粒径分布のセラミック(例えばアルミナ)粒子を含有する減摩コーティングは、クロスカット試験及び曲げ試験によって示されるように、腐食防止コーティングを損傷から保護する上で、特に有効である。代替的なタイプの腐食防止コーティングとしては、電気めっき層(galvanic plating layers)及び溶融亜鉛めっき層(hot dip galvanized layers)が挙げられ、本発明による方法によって提供される減摩コーティングは、これらの腐食防止コーティングをオーバーコーティングするのに好適である。
【0030】
以下の実施例によって本発明を例示する。実施例中、部及びパーセンテージは全て、特に規定のない限り重量に基づくものとする。
【実施例】
【0031】
比較例C1
本実施例のコーティング組成物は、固形潤滑剤を一切含まない樹脂バインダの溶液を含むものとした。溶液は、メチルエチルケトンと、n−ブチルアセテートとエタノールとの溶媒混合物78%中に、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂と、ビスフェノールAエピクロロヒドリンエポキシ樹脂と、シリコーンDT樹脂との混合物(約3:1:1の比率)22重量%を含むものとした。
【0032】
実施例1〜実施例5、並びに比較例C2及び比較例C3
これらの実施例では、以下の成分を表1に示す量で使用して、比較例C1の樹脂バインダ溶液中に分散させた。この樹脂バインダ溶液は、100%までの各コーティング組成物の残りを構成するものとした。
・ナノAl23−平均一次粒径18nmであるが、凝集体サイズは約11.5μmである「Al23ナノ粒子」(商品名「Aeroxide」でDegussa AGにより販売)。「Al23ナノ粒子」を、実験室用高剪断ミキサにおいて10000rpmで樹脂溶液と混合し、表7に示すような二峰性粒径分布のAl23を生成した。
・固形潤滑剤ワックス−超微粉砕されたポリプロピレンワックス
・黒色染料−樹脂溶液と相溶性の溶媒中のカーボンブラック染料
【0033】
比較例C4
比較例C4は、登録商標「Molykote D708」でDow Corningにより市販されている減摩コーティングである。
【0034】
実施例1〜実施例5及び比較例C1〜比較例C4に記載したような各減摩コーティング組成物を、0.8mm厚さの鋼板上に噴霧し、乾燥させ、200℃で20分間熱硬化させて、10μm〜12μm厚さのコーティングを得た。アセタールポリオキシメチレン(POM)に対する摩擦係数を、Polytester(商標)において測定した。ここで、POMのボールを、コーティングした鋼板表面上で荷重をかけて振動させる(oscillates:摺動させる)。かける荷重は2N及び5Nとした。測定した摩擦係数(COF)を表1に示す。幾つかの実施例及び比較例については、ポリエステル(PET)織布をローラに巻きつけてPolytesterにおいてコーティングした板に対して振動させて、PET織布に対するコーティングした鋼板の摩擦係数も測定した。PET織布に対する摩擦係数も表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
比較例C1と比べた実施例1及び実施例2の結果から、コーティング中のナノ粒子の存在、すなわち、二峰性粒径分布のアルミナ粒子が、摩擦係数の著しい低減をもたらすことが示される。比較例C2と比べた実施例1の結果から、4.9%のナノ粒子の組込みの方が、6.3%の固形潤滑剤ワックスの組込みよりも摩擦係数のはるかに大きな低減をもたらしたことが示される。実際、実施例1は、比較例C4で使用される商業用減摩コーティングよりも低い摩擦係数をもたらした。比較例C3と比較した実施例2の結果から、1.5%のナノ粒子の組込みの方が、1.9%の固形潤滑剤ワックスの組込みよりも摩擦係数のはるかに大きな低減をもたらしたことが示される。
【0037】
実施例4及び実施例5の結果から、ナノ粒子及び固形潤滑剤ワックスの組込みの方が、比較例C4で使用されるPTFEを含有する商業用減摩コーティングよりも有意に低い摩擦係数をもたらし得ることが示される。
【0038】
実施例6〜実施例10及び比較例C5
これらの実施例では、PTFEと超微粉砕されたポリプロピレンワックスとの固形潤滑剤混合物(重量比約1:1)、及び/又は商標Stapa Hydrolanで販売されている銀色染料と一緒に、「Al23ナノ粒子」を表2に示す量で使用し、比較例C1の樹脂溶液中に分散させた。この樹脂溶液は、100%までの減摩コーティング組成物の残りを構成するものとした。「Al23ナノ粒子」を、工業用高剪断ミキサにおいて9000rpmで樹脂溶液と混合し、Figure 3に示すような二峰性粒径分布のAl23を生成した。比較例C5は、商品名「Delta Protekt VH301GZ」でDoerkenにより市販されている減摩トップコートである。
【0039】
クロスカット試験及び曲げ試験
鋼板を、8μm及び14μmの2つの異なる膜厚において特許文献2の実施例1の耐食コーティングでコーティングした。これらのコーティングした板の各々を、本発明による実施例6〜実施例10の各々の減摩コーティング組成物でオーバーコーティングした。組成物をコーティングした後、得られる減摩コーティングを乾燥させ、200℃で20分間熱硬化させて、6μm厚のコーティングを得た。次に、コーティングしたパネルをそれぞれ、ASTM D−3359に準じてクロスカット試験にかけた。この試験では、標準的な切り込み器具(刃先間の距離1mm又は2mm)により、金属基体に達するのに十分な圧力で、互いに90°をなす複数の引っ掻き傷を作る。標準的な接着フィルムを、引っ掻き傷のある領域に貼った後、急激に剥がす。結果を表2に示す。
【0040】
8μm及び14μmにおいて特許文献2の実施例1の耐食コーティングでコーティングしかつ本発明による実施例6〜実施例10から得られる減摩コーティングの各々でオーバーコーティングした板をさらに、ASTM D−1737に準じて曲げ試験にかけた。この試験では、コーティングした板を、円柱形マンドレルに沿って180°曲げる。良好な弾性を有しないコーティング系は、曲げ領域に亀裂が生じる。この結果も表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
実施例6〜実施例10の減摩コーティング組成物でオーバーコーティングした板は、接着フィルムを剥がした際のコーティングの剥がれが極めて少なく、クロスカット試験において極めて良好な耐性を示した。なお、比較例C4又は比較例C5の商業用減摩コーティングでオーバーコーティングした板は、接着フィルムを剥がした際にコーティング(腐食防止コーティング及びトップコート)のかなり多くの剥がれを示した。
【0043】
実施例6〜実施例10の減摩コーティング組成物でオーバーコーティングした板は、極めて良好な弾性を示したのに対し、比較例C4又は比較例C5の商業用減摩コーティングでオーバーコーティングした板は、曲げ部においてより多くの亀裂を示した。
【0044】
塩水噴霧試験
鋼ボルトを、ベースコートとして特許文献2の実施例1の耐食コーティング、及び表2に記載したような様々なトップコートでコーティングした。コーティングしたボルトを、DIN 50021に準じて塩水噴霧試験にかけた。ここで、ボルトは、5%の塩水溶液を噴霧するチャンバ内に収容した。赤錆の形成までの時間の長さ(時間)を試験毎に記載し、表3に記録した。
【0045】
【表3】

【0046】
本発明による実施例7及び実施例9の組成物から得られる減摩コーティングは、耐食コーティングを保護したため、単独で又は比較例C4の減摩コーティングと一緒に用いられる耐食コーティングよりも耐塩水噴霧性が良好であった。比較として、商標「Geomet」で販売されている、耐食コーティングと減摩トップコートとの商業用コーティング系は、塩水噴霧試験において赤錆の形成までに約400時間を示した。
【0047】
潤滑試験
本発明による実施例7〜実施例10の組成物から得られる減摩コーティングの耐摩耗性及び摩擦係数(COF)は、DIN 51834に準じて測定した。薄い(flat)円柱形試験片を表4に記載の様々なトップコートでコーティングした。コーティング毎に、コーティングの膠着を示す摩擦係数の急増が記録されるまで、40℃及び40%相対湿度(RH)で、DIN 51834(耐荷重能試験方法(load carrying capacity method))に規定されているように、荷重を増大させながら、コーティングした円柱形被検体に対して16mm半径の球状鋼被検体を振動させた。膠着に至った時間(分)及び膠着前のCOFを表4に記録する。比較例4〜比較例6では、以下の商業用コーティングをDIN 51834試験にかけた。
・比較例C4は、商標「Molykote(登録商標)D708」でDow Corningにより市販されている減摩コーティングである。
・比較例C5は、商品名「Delta Protekt VH301GZ」でDoerkenにより市販されている減摩トップコートである。
・比較例C6は、商品名「Xylan 5230」でWhitfordより市販されている減摩トップコートである。
【0048】
【表4】

【0049】
本発明から得られるコーティングは、連続的に増大する荷重の下での耐久性の改善、したがって耐荷重能の改善、及び一貫してより低い摩擦係数をはっきりと示す。
【0050】
実施例7、実施例9及び実施例10の減摩コーティングでコーティングした試験片をさらに、80℃及び90%RHでDIN 51834試験(耐荷重能試験法)にかけた。結果を以下の表5に示す。
【0051】
【表5】

【0052】
比較例C6
「Al23ナノ粒子」を、Netzschボールミルにおいて樹脂溶液と混合した以外は、実施例6を繰り返し、表9に示すような、普通の粒径分布及び平均粒子直径160nmのAl23を生成した。
【0053】
実施例11のコーティング組成物でコーティングした鋼板の摩擦係数は、実施例1のものと同様に低かったが、クロスカット試験及び曲げ試験における比較例C6のコーティングの性能は、実施例6〜実施例10から得られるコーティングのものほど良好ではなかった。ASTM D−3359に準ずるクロスカット試験において、比較例C6のコーティング組成物でオーバーコーティングした板は、実施例6〜実施例10のコーティングでオーバーコーティングした板よりも脆弱であった。比較例C4及び比較例C5の系でコーティングした板と同程度、接着フィルムを剥がした際にコーティング(腐食防止コーティング及びトップコート)の剥がれがあった。ASTM D−1737に準ずる曲げ試験では、比較例C6のコーティング組成物でオーバーコーティングした板が、実施例6〜実施例10から得られる減摩コーティングでオーバーコーティングした板よりも多くの亀裂を示し、比較例C6のコーティングの可撓性がより低いことを示した。比較例C6のコーティング組成物でオーバーコーティングした板の亀裂の程度は、比較例C4及び比較例C5の系でコーティングした板のものと同様のものであった。
【0054】
【表6】

【0055】
【表7】

【0056】
【表8】

【0057】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の摩擦を低減させる方法であって、樹脂バインダ中に粒子を含むコーティング組成物を該表面に塗布することを含み、前記粒子が、粒子の15体積%〜75体積%が10nm〜250nmの範囲の粒径を有し、かつ粒子の25体積%〜85体積%が3μm〜25μmの範囲の粒径を有する二峰性粒径分布を有するセラミック粒子であり、該セラミック粒子の少なくとも90体積%が規定の範囲の粒径を有することを特徴とする、表面の摩擦を低減させる方法。
【請求項2】
3μm〜25μmの範囲の粒径を有する前記粒子が、200nm未満の一次粒径を有する凝集粒子であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
粒子が全て、200nm未満の重量平均一次粒径のセラミック粒子から構成されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
二峰性粒径分布の前記粒子が、高剪断混合によって、3μm〜25μmの範囲の粒径を有する凝集粒子から得られることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記セラミック粒子がアルミナ粒子であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記セラミック粒子を、液体中に溶解させた前記樹脂バインダの溶液又はエマルション中に分散させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記コーティング組成物が、基体のコーティングにおける前記組成物の使用により得られるドライフィルムに基づき前記セラミック粒子を1重量%〜20重量%もたらすのに十分なセラミック粒子を含有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記バインダが、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びシリコーン樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記コーティング組成物が固形潤滑剤材料をさらに含有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記固形潤滑剤材料が、ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレンを含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記コーティング組成物が、1重量%〜40重量%の固形ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレンを含有することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記コーティング組成物が、前記セラミック粒子以外の固形潤滑剤材料を含まないことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記表面に1μm〜20μmのドライフィルム厚さでコーティング組成物を塗布して、前記表面の摩擦及び摩耗を低減させることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
コーティングされる前記表面が、腐食防止コーティングでプレコーティングされた金属表面であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記腐食防止コーティングが金属粒子を含むことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
金属表面をコーティングする方法であって、ケイ酸塩バインダ又は有機チタン酸塩バインダ中にアルミニウム粒子及び/又は亜鉛粒子を含む腐食防止コーティングで前記表面をコーティングすること、及び請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法に従ってオーバーコーティングすることを含む、金属表面をコーティングする方法。
【請求項17】
粒子の15体積%〜75体積%が10nm〜250nmの範囲の粒径を有し、かつ前記粒子の25体積%〜85体積%が3μm〜25μmの範囲の粒径を有する二峰性粒径分布を有するセラミック粒子を樹脂バインダ中に含むコーティングの使用であって、表面の摩擦及び摩耗を低減させ、前記セラミック粒子の少なくとも90体積%が規定の範囲の粒径を有する、コーティングの使用。
【請求項18】
前記セラミック粒子がアルミナ粒子である、請求項17に記載の使用。

【公表番号】特表2011−522912(P2011−522912A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508926(P2011−508926)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055860
【国際公開番号】WO2009/138471
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(596012272)ダウ・コーニング・コーポレイション (347)
【Fターム(参考)】