説明

摩擦ローラ式減速機

【課題】各ローラ4b、19a、5bの周面同士の転がり接触部の面圧の調節を円滑に行う事ができ、しかも、両ローディングカム装置の7b、7b内の転がり接触部で、耐久性低下に結び付く金属接触が発生するのを防止できる構造を実現する。
【解決手段】ローディングカム装置7bを構成する転動体及び駆動側、被駆動側各カム面に潤滑油を供給する為に、入力軸2bとカム板15bとに、入力軸側、カム板側各給油通路43a、43b、45を設ける。このうち、前記入力軸2bの基端側の入力軸側給油通路43bを、鍔部47の先端側面に開口し、この入力軸2bの軸方向に対して傾斜した状態で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば電気自動車の駆動系に組み込んだ状態で、電動モータから駆動輪にトルクを伝達する、摩擦ローラ式減速機の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
[従来技術の説明]
近年普及し始めている電気自動車の利便性を向上させるべく、充電1回当りの走行可能距離を長くする為に、電動モータの効率を向上させる事が重要である。この効率を向上させるには、高速回転する小型の電動モータを使用し、この電動モータの出力軸の回転を減速してから駆動輪に伝達する事が効果がある。この場合に使用する減速機のうち、少なくとも前記電動モータの出力軸に直接繋がる第一段目の減速機は、運転速度が非常に速くなるので、運転時の振動及び騒音を抑える為に、摩擦ローラ式減速機を使用する事が考えられる。この様な場合に使用可能な摩擦ローラ式減速機として、例えば特許文献1〜3に記載されたものが知られている。このうちの特許文献3に記載された従来構造に就いて、図9〜11により説明する。
【0003】
この摩擦ローラ式減速機1は、入力軸2と、出力軸3と、太陽ローラ4と、環状ローラ5と、それぞれが中間ローラである複数個の遊星ローラ6、6と、ローディングカム装置7とを備える。
このうちの太陽ローラ4は、軸方向に分割された1対の太陽ローラ素子8a、8bを前記入力軸2の周囲に、互いの先端面同士の間に隙間を介在させた状態で互いに同心に、且つ、このうちの太陽ローラ素子8aを前記入力軸2に対する相対回転を可能に配置して成る。前記両太陽ローラ素子8a、8bの外周面は、それぞれの先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面であって、これら両傾斜面を転がり接触面としている。従ってこの転がり接触面の外径は、軸方向中間部で小さく、両端部に向かうに従って大きくなる。
【0004】
又、前記環状ローラ5は、全体を円環状としたもので、前記太陽ローラ4の周囲にこの太陽ローラ4と同心に配置した状態で、図示しないハウジング等の固定の部分に支持固定している。又、前記環状ローラ5の内周面は、軸方向中央部に向かうに従って内径が大きくなる方向に傾斜した転がり接触面としている。
又、前記各遊星ローラ6、6は、前記太陽ローラ4の外周面と前記環状ローラ5の内周面との間の環状空間9の円周方向複数箇所に配置している。前記各遊星ローラ6、6は、それぞれが前記入力軸2及び前記出力軸3と平行に配置された、自転軸である遊星軸10、10の周囲に、ラジアルニードル軸受を介して、回転自在に支持している。これら各遊星軸10、10の基端部は、前記出力軸3の基端部に結合固定された、支持フレームであるキャリア11に、支持固定されている。前記各遊星ローラ6、6の外周面は、母線形状が部分円弧状の凸曲面で、それぞれ前記太陽ローラ4の外周面と前記環状ローラ5の内周面とに転がり接触している。
【0005】
更に、前記ローディングカム装置7は、一方の太陽ローラ素子8aと、前記入力軸2との間に設けている。この為に、この入力軸2の中間部に、止め輪12により支え環13を係止し、この支え環13と前記一方の太陽ローラ素子8aとの間に、この支え環13の側から順番に、皿ばね14と、カム板15と、それぞれが転動体である複数個の玉16、16とを設けている。そして、互いに対向する、前記一方の太陽ローラ素子8aの基端面と前記カム板15の片側面との、それぞれ円周方向複数箇所ずつに、被駆動側カム面17、17と駆動側カム面18、18とを設けている。これら各カム面17、18はそれぞれ、軸方向に関する深さが円周方向に関して中央部で最も深く、同じく両端部に向かうに従って漸次浅くなる形状を有する。
【0006】
この様なローディングカム装置7は、前記入力軸2が停止している状態では、前記各玉16、16が、図11の(A)に示す様に、前記各カム面17、18の最も深くなった部分に位置する。この状態では、前記皿ばね14の弾力により、前記一方の太陽ローラ素子8aを前記他方の太陽ローラ素子8bに向け押圧する。これに対して、前記入力軸2が回転すると、前記各玉16、16が、図11の(B)に示す様に、前記各カム面17、18の浅くなった部分に移動する。そして、前記一方の太陽ローラ素子8aと前記カム板15との間隔を拡げ、前記一方の太陽ローラ素子8aを前記他方の太陽ローラ素子8bに向け押圧する。この結果、この一方の太陽ローラ素子8aはこの他方の太陽ローラ素子8bに向け、前記皿ばね14の弾力と、前記各カム面17、18に対して前記各玉16、16が乗り上げる事により発生する推力とのうちの、大きな方の力で押圧されつつ回転駆動される。
【0007】
上述の様な摩擦ローラ式減速機1の運転時には、前記ローディングカム装置7が発生する軸方向の推力により、前記両太陽ローラ素子8a、8bの間隔が縮まる。そして、これら両太陽ローラ素子8a、8bにより構成される前記太陽ローラ4の外周面と、前記各遊星ローラ6、6の外周面との転がり接触部の面圧が上昇する。この面圧上昇に伴ってこれら各遊星ローラ6、6が、前記太陽ローラ4及び前記環状ローラ5の径方向に関して外方に押される。すると、この環状ローラ5の内周面と前記各遊星ローラ6、6の外周面との転がり接触部の面圧も上昇する。この結果、前記入力軸2と前記出力軸3との間に存在する、動力伝達に供されるべき、それぞれがトラクション部である複数の転がり接触部の面圧が、これら両軸2、3同士の間で伝達すべきトルクの大きさに応じて上昇する。
【0008】
この状態でこの入力軸2を回転させると、この回転が、前記太陽ローラ4から前記各遊星ローラ6、6に伝わり、これら各遊星ローラ6、6がこの太陽ローラ4の周囲で、自転しつつ公転する。これら各遊星ローラ6、6の公転運動は、前記キャリア11を介して前記出力軸3により取り出せる。前記各トラクション部の面圧は、前記両軸2、3同士の間で伝達すべきトルクの大きさに応じた適正なものとなり、前記各トラクション部で過大な滑りが発生したり、或いは、これら各トラクション部の面圧が過大になる事に伴う転がり抵抗が徒に増大する事を防止できる。
【0009】
[先発明の説明]
上述の従来構造は、遊星ローラの公転運動をキャリアを介して取り出す、遊星ローラ式の摩擦ローラ式減速機であるが、環状ローラの回転を出力軸に取り出す構造によれば、キャリアを回転させずに済む。キャリアを回転させずに済む事は、各部の強度及び剛性を高くして、摩擦ローラ式減速機の耐久性を確保し易い事に加えて、各ローラの周面同士の転がり接触部である、各トラクション部等へのトラクションオイルの供給を行い易い等の利点がある。この様な、環状ローラを回転させる型式の摩擦ローラ式減速機として、特願2011−57869に係る発明がある。この先発明に係る摩擦ローラ式減速機に就いて、図12〜13により説明する。
【0010】
この先発明に係る摩擦ローラ式減速機1aは、入力軸2aにより太陽ローラ4aを回転駆動し、この太陽ローラ4aの回転を、複数個の中間ローラ19、19を介して環状ローラ5aに伝達し、この環状ローラ5aの回転を出力軸3aから取り出す様にしている。前記各中間ローラ19、19は、それぞれの中心部に設けた自転軸20、20を中心として自転するのみで、前記太陽ローラ4aの周囲で公転する事はない。この太陽ローラ4aは、互いに同じ形状を有する1対の太陽ローラ素子8c、8cを互いに同心に組み合わせて成り、これら両太陽ローラ素子8c、8cを軸方向両側から挟む位置に、1対のローディングカム装置7a、7aを設置している。これら各部は、軸方向中間部の径が大きく、両端部の径が小さくなった、段付円筒状のハウジング21内に収納している。
【0011】
前記入力軸2aの基半部(図12の右半部)はこのハウジング21の入力側小径円筒部22の内側に、多列玉軸受ユニット23により、前記出力軸3aは同じく出力側小径円筒部24の内側に複列玉軸受ユニット25により、それぞれ回転自在に支持している。この複列玉軸受ユニット25を構成する1対の玉軸受同士の間にラビリンスシール26を設け、外部空間側に位置する前記出力軸3aの設置部分を通じて、前記ハウジング21内に異物が入り込む事を防止している。又、この出力軸3aの基端部は、断面L字形の連結部27により、前記環状ローラ5aと連結している。
【0012】
前記両太陽ローラ素子8c、8cは、前記入力軸2aの先半部(図12の左半部)の周囲に、この入力軸2aと同心に、この入力軸2aに対する相対回転を可能に、且つ、互いの先端面(互いに対向する面)同士の間に隙間を介在させた状態で配置している。又、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する1対のカム板15a、15aは、前記入力軸2aの中間部と先端部との2箇所位置で、前記両太陽ローラ素子8c、8cを軸方向両側から挟む位置に外嵌固定して、前記入力軸2aと同期して回転する様にしている。そして、互いに対向する、前記両太陽ローラ素子8c、8cの基端面と前記両カム板15a、15aの片側面との、それぞれ円周方向複数箇所ずつに、被駆動側カム面17、17と駆動側カム面18、18とを設け、これら各カム面17、18同士の間にそれぞれ玉16、16を挟持して、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成している。前記各カム面17、18は、軸方向に関する深さが円周方向に関して漸次変化するもので、円周方向中央部で最も深く、同じく両端部に向かうに従って浅くなる。
【0013】
前記入力軸2aにトルクが入力されていない状態では、図13の(A)に示す様に、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する前記各玉16、16が、前記各カム面17、18の底部若しくは底部に近い側に存在する。この状態から、前記入力軸2aにトルクが入力される(前記摩擦ローラ式減速機1aが起動する)と、前記各玉16、16と前記各カム面17、18との係合に基づき、図13の(B)に示す様に、前記両ローディングカム装置7a、7aの軸方向厚さが増大する。そして、前記両太陽ローラ素子8c、8cが、前記摩擦ローラ式減速機1aの径方向に関して、前記各中間ローラ19の内側に食い込み、これら各中間ローラ19を、この径方向に関して外方に押す。この結果、前記各トラクション部の面圧が上昇して、これら各トラクション部に過大な滑りを発生させる事なく、前記太陽ローラ4aから前記環状ローラ5aに動力を伝達できる。尚、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する前記太陽ローラ素子8cと前記カム板15aとの間にばねを設けて、これら両部材8c、15a同士の間に、回転方向に関して相対回転させる方向の弾力を付している。そして、この弾力に基づき、前記各玉16、16を前記各カム面17、18の浅い側に乗り上げる傾向として、前記両ローディングカム装置7a、7aに、動力の非伝達時にも或る程度の推力を発生させている(予圧を付与している)。
【0014】
前記摩擦ローラ式減速機1aの運転時に前記各中間ローラ19、19は、それぞれの自転軸20、20を中心として回転すると同時に、伝達トルクの変動に伴って前記摩擦ローラ式減速機1aの径方向に変位する。この様な、前記各中間ローラ19、19の自転及び径方向変位を円滑に行わせる為に先発明の構造の場合には、これら各中間ローラ19、19の回転中心である前記各自転軸20、20を、前記ハウジング21の内側に支持固定した支持フレーム28に対し、前記太陽ローラ4a及び前記環状ローラ5aの径方向に関する変位を可能に支持している。
【0015】
上述の様に構成する先発明に係る摩擦ローラ式減速機1aの運転時に、前記入力軸2aを回転駆動すると、この入力軸2aに外嵌した前記両カム板15a、15aが回転し、前記両太陽ローラ素子8c、8cが、前記各玉16、16と前記各カム面17、18との係合に基づき、互いに近づく方向に押圧されつつ、前記入力軸2aと同方向に同じ速度で回転する。そして、前記両太陽ローラ素子8c、8cにより構成される前記太陽ローラ4aの回転が、前記各中間ローラ19、19を介して前記環状ローラ5aに伝わり、前記出力軸3aから取り出される。前記摩擦ローラ式減速機1aの運転時に、前記ハウジング21内には、トラクションオイルを循環させる為、前記各ローラ4a、19、5aの周面同士の転がり接触部(トラクション部)には、トラクションオイルの薄膜が存在する状態となる。又、これら各トラクション部の面圧は、前記両ローディングカム装置7a、7aにより適正に調節される。従って、前記摩擦ローラ式減速機1aの運転状態の変化に拘らず、前記各トラクション部で過大な滑りを発生させる事なく、動力伝達を行える。
【0016】
上述した先発明に係る摩擦ローラ式減速機1aの運転時に、前記入力軸2aが伝達するトルクが変動すると、前記各トラクション部の面圧を適切な値に調節する為に、前記各玉16、16が前記各カム面17、18同士の間で移動して前記両ローディングカム装置7a、7aの軸方向厚さを変化させる。又、前記各玉16、16及び前記各カム面17、18には、伝達するトルクの大きさに応じてスラスト荷重が加わる。この為、前記伝達するトルクが変動した場合に、前記各トラクション部の面圧の調節を円滑に行う為、更には転がり接触部に、金属接触に伴う著しい摩耗が発生するのを防止する為に、前記各玉16、16と前記各カム面17、18との係合部に、トラクションオイルの如き潤滑油を注ぐ(循環させる)必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開昭59−187154号公報
【特許文献2】特開昭61−136053号公報
【特許文献3】特開2004−116670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、入力軸が伝達するトルクが変動した場合に、各ローラの周面同士の転がり接触部の面圧の調節を円滑に行う事ができ、しかも、これら各転がり接触部で金属接触が発生するのを防止できる摩擦ローラ式減速機を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の摩擦ローラ式減速機は、前述した従来から知られている摩擦ローラ式減速機と同様に、出力軸と、太陽ローラと、環状ローラと、複数個の中間ローラと、ローディングカム装置とを備える。
特に、本発明の摩擦ローラ式減速機に於いては、前記ローディングカム装置を構成するカム板を、前記入力軸の基端側の大径部と、先端側の小径部との間の段差面に突き当てた状態で、この入力軸に対し固定している。そして、前記カム板と前記入力軸とに、前記ローディングカム装置を構成する各転動体に潤滑油を供給する為の給油通路を1乃至複数箇所にそれぞれ設けており、前記入力軸の内部に設けた潤滑油流路を通じて、前記各給油通路に潤滑油を送り込み自在としている。そして、これら各給油通路のうち、前記入力軸側の給油通路を、前記段差面に開口し、この入力軸の軸方向に対して傾斜した状態で設けている。
【発明の効果】
【0020】
上述の様に構成する本発明の摩擦ローラ式減速機によれば、各ローラの周面同士の転がり接触部(トラクション部)の面圧の調節を円滑に行う事ができ、しかも優れた耐久性を有する摩擦ローラ式減速機を実現できる。即ち、ローディングカム装置を構成し、発熱量の多い転動体と各カム面との転がり接触部に、入力軸及びカム板に設けた給油通路を介して潤滑油を供給する事で、この入力軸が伝達するトルクが変動した場合に、前記面圧の調節を円滑に行わせると共に、前記各転がり接触部で、金属接触に基づく著しい摩耗が発生するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の摩擦ローラ式減速機を組み込んだ、電気自動車用駆動装置の動力伝達装置を示す断面図。
【図2】図1のa部拡大図。
【図3】図1の右方から見た図。
【図4】摩擦ローラ式減速機を取り出し、太陽ローラ及び環状ローラを省略して、図1の右上方から見た状態で示す斜視図。
【図5】同じく図1の右方から見た正投影図。
【図6】同じく図5の左方から見た正投影図。
【図7】図6のb−b断面図。
【図8】入力軸側給油通路を形成する方向によって生じる問題を説明する為の、略断面図。
【図9】従来から知られている摩擦ローラ式減速機の1例を示す断面図。
【図10】一部を省略して示す、図9のc−c断面図。
【図11】ローディングカム装置が推力を発生していない状態(A)と同じく発生している状態(B)とをそれぞれ示す、図10のd−d断面に相当する模式図。
【図12】先発明に係る摩擦ローラ式減速機の断面図。
【図13】ローディングカム装置の作用に基づいて中間ローラが変位する状況を、トルクの非伝達時(A)と伝達時(B)とで示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態の1例]
図1〜7は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例の摩擦ローラ式減速機1bは、図12に示したハウジング21の如き減速機ケース内に収納される。そして、この減速機ケース外に設けた、図示しない電動モータの駆動軸に結合した入力軸2bにより太陽ローラ4bを回転駆動し、この太陽ローラ4bの回転を、複数個の中間ローラ19a、19aを介して環状ローラ5bに伝達し、この環状ローラ5bの回転を、出力軸3bを通じて取り出す様にしている。この出力軸3bを設置する為、前記減速機ケースの一端側壁部に軸受ケース29を、油密に固定する。そして、この軸受ケース29の内径側に前記出力軸3bを、出力側転がり軸受ユニット30と出力側シーリングユニット31とにより、油密を保持した状態で、回転自在に支持している。前記出力軸3bと前記環状ローラ5bとは、互いに同心に配置した状態で同期して回転する様に、連結ブラケット32により結合している。前記環状ローラ5bは、修理・交換作業を容易に行う事ができる様に前記連結ブラケット32に支持されているが、その構造に就いては、本発明の要旨と関係しない為、詳しい説明は省略する。
【0023】
前記入力軸2bは、前記減速機ケースの他端側壁部(図示せず)の内側に、入力側転がり軸受ユニット33と入力側シーリングユニット34とにより、油密を保持した状態で、回転自在に支持している。そして、前記入力軸2bの先端部に、前記太陽ローラ4bを設けて、この入力軸2bによりこの太陽ローラ5bを回転駆動する様にしている。この太陽ローラ4bは、前述の図12〜13に示した先発明構造の場合と同様に、互いに対称な形状を有する1対の太陽ローラ素子8d、8dから成り、前記入力軸2bの先半部(図1の左半部)に設けた小径部35の周囲に配置している。又、これら両太陽ローラ素子8d、8dと前記入力軸2bとの間にそれぞれローディングカム装置7b、7bを設け、これら両太陽ローラ素子8d、8dを互いに近付く方向に押圧しつつ、これら両太陽ローラ素子8d、8dを前記入力軸2bにより回転駆動する様にしている。即ち、前記両ローディングカム装置7b、7bを構成するカム板15b、15bをそれぞれ前記小径部35に対し締り嵌め外嵌固定して、前記入力軸2bと共に回転する様にしている。又、前記両カム板15b、15bの互いに反対側面を、前記小径部35と、前記入力軸2bの基半部(図1〜2の右半部)に設けた大径部36との間に形成した鍔部37、又は、この入力軸2bの先端部に螺合固定したローディングナット38にそれぞれ突き当てている。そして、互いに対向する、前記両太陽ローラ素子8d、8dの基端面と前記両カム板15b、15bの片側面との、それぞれ円周方向複数箇所ずつに、前述の図12〜13に示した先発明構造の場合と同様に、被駆動側カム面17、17と駆動側カム面18、18とを設け、これら各カム面17、18同士の間にそれぞれ玉16、16を狭持している。尚、前記両ローディングカム装置7b、7bには、それぞれ複数ずつの被駆動側、駆動側各カム面及び玉に加えて、予圧付与の為のばねを設けている。このばねは、前記両カム板15b、15bと前記両太陽ローラ素子8d、8dとを相対回転する方向に押圧し、前記各玉16、16を前記各カム面17、18の浅い側に移動させる。この部分の構造に関しては、本発明の要旨とは関係しないし、別の構造を採用する事もできる。
【0024】
本例の場合には、各摺動部に潤滑油を供給する為に、前記入力軸2bの内部に入力軸側潤滑油流路39を、前記出力軸3bの内部に出力軸側潤滑油流路40をそれぞれ設けている。この出力軸3bの軸方向中間部に形成した給油口41から送り込まれた潤滑油は、前記入力軸側、出力軸側両潤滑油流路39、40を通って前記各摺動部に送り込まれる。即ち、前記給油口41からこの出力軸側潤滑油流路40に送り込まれた潤滑油は、ノズル53から前記入力軸側潤滑油流路39内に送り込まれ、前記各玉16、16及び前記各カム面17、18を潤滑する。即ち、前記入力軸2bに形成した入力軸側給油通路43a、43bを介して、前記両ローディングカム装置7b、7bを構成するカム板15b、15bと、前記鍔部37、又は前記ローディングナット38との間部分に設けられた環状の空間44、44に、前記入力側潤滑油流路39内に送り込まれた潤滑油を送り込む。更に、これら両空間44、44に送り込まれた潤滑油を、前記両カム板15b、15bの軸方向に形成したカム板側給油通路45、45を介し、前記各玉16、16の転動面と前記各カム面17、18との転がり接触部(図12〜13参照)に送り込む。この様なカム板側給油通路45、45は、前記両カム板15b、15bに前記各玉16、16と同数ずつ、前記各駆動側カム面18、18を形成した位置から円周方向にずらせた位置に等間隔に、軸方向に形成している。或いは、前記両カム板15b、15bの外径が大きく、前記各駆動側カム面18、18が径方向外方に位置する場合には、前記各カム板側給油通路45、45をこれら各駆動側カム面18、18の径方向内方に形成する事もできる。又、前記ノズル53から吐出され、前記入力軸側潤滑油流路39内に入り切れなかった潤滑油は、前記出力軸3bの基端面に開口する状態で設けられた円形凹部54内に入り込み、この円形凹部54の内周面と、前記入力軸2bの先端部外周面との間に設けたラジアルニードル軸受42を潤滑する。
【0025】
前記両入力軸側給油通路43a、43bのうち、前記入力軸2bの先端側の入力軸側給油通路43aは、前記小径部35の軸方向中間部に径方向に形成している。一方、同じく基端側の入力軸側給油通路43bは、特許請求の範囲に記載した段差面である前記鍔部37の先端側面に開口し、前記入力軸2bの軸方向に関し先端側に向かう程径方向外方に傾斜した状態で形成している。この様な入力軸側給油通路43a、43bは、前記各玉16、16及び前記各カム面17、18に送り込む潤滑油の量に応じて、円周方向に1乃至複数箇所ずつ設ける事ができる。又、前記両入力軸側給油通路43a、43bの内径寸法に就いても、前記各玉16、16及び前記各カム面17、18に送り込む潤滑油の量に応じて決定する。
【0026】
尚、前記両カム板15b、15bの外周縁に、その内周面を前記両太陽ローラ素子8d、8dの基端部外周面に対向させた庇部46、46を設け、前記カム板側給油通路45、45から前記各玉16、16及び前記各カム面17、18に送り込まれた潤滑油が、径方向外方に漏れ出すのを防止する事もできる。即ち、前記両庇部46、46の内周面を前記両太陽ローラ素子8d、8dの基端部外周面に近接対向させる事により、前記両カム板15b、15bとこれら両太陽ローラ素子8d、8dとの間にラビリンスシールを構成する。或いは、前記両庇部46、46の内周面を、前記両カム板15b、15bの基端部外周面に形成した凹溝に装着したOリングに摺接させ、接触シールとしても良い。前記両庇部46、46の軸方向寸法は、前記両ローディングカム装置7b、7bの軸方向厚さが最も厚くなった状態に於いても、前記両庇部46、46の先端縁が前記両太陽ローラ素子8d、8dの基端部外周面に対向する様に規制している。
尚、庇部をこれら両太陽ローラ素子8d、8dの基端側外周縁に形成し、内周面を前記両カム板15b、15bの外周面に対向させる様に構成する事もできる。何れにしても、上述の様な庇部を設ける場合には、この庇部と、次述する揺動フレーム47、47等の他の部材とが干渉しない様にする必要がある。従って、上述の様な庇部46、46は、前記両太陽ローラ素子8d、8dと前記両カム板15bと15bとの外径側端部同士の隙間を十分に狭くして、前記両ローディングカム装置7b、7b内に十分量の潤滑油を供給できるのであれば、必ずしも設ける必要はない。
【0027】
又、前記各中間ローラ19a、19aは、前記減速機ケース内に支持固定される支持フレーム28aに対し、回転及びこの支持フレーム28aの径方向に関する若干の変位を可能に支持している。この径方向変位を可能にする理由は、前記両ローディングカム装置7b、7bに作用により前記両太陽ローラ素子8d、8dが互いに近付き、前記各中間ローラ19a、19aが前記支持フレーム28aの径方向外方に押圧された場合に、これら各中間ローラ19a、19aの変位を円滑に許容する為である。この様な理由で、前記径方向に関する変位を可能にする為の構造に就いては、例えば前記支持フレーム28aに対してそれぞれの基端部を枢支した揺動フレーム47、47の中間部に前記各中間ローラ19a、19aを、玉軸受48、48により回転自在に支持する構造を採用できる。或いは、前記支持フレーム28aに形成した径方向に長い長孔の内側に、前記各中間ローラ19a、19aの両端部に設けた玉軸受48、48の外輪を緩く内嵌する構造を採用する事もできる。何れにしても、前記径方向の変位を可能にする構造に関しては、本発明の要旨とは関係しない為、詳しい説明は省略する。
【0028】
又、前記支持フレーム28aの円輪状の連結部49の軸方向片側面の円周方向等間隔複数箇所(図示の例では3箇所)から前記各中間ローラ19a、19aの設置側に向けて、前記支持フレーム28aの軸方向に対し平行に突出した柱部50、50を設けている。そして、これら各柱部50、50の内側に、トラクションオイルの供給路51、51を設けて、前記各中間ローラ19a、19aの外周面と、前記太陽ローラ4bの外周面及び前記環状ローラ5bの内周面との転がり接触部(トラクション部)に、トラクションオイルを送り込める様にしている。この様な潤滑剤の供給路51、51に関しても、前記各トラクション部に必要とされるトラクションオイルを供給できる構造であれば良く、本発明の要旨とも関係しない為、図示のみで、詳しい説明は省略する。
【0029】
電気自動車用駆動装置等に組み込んだ摩擦ローラ式減速機1bの運転時には、図示しない電動モータにより前記入力軸2bを介して、前記太陽ローラ4bを回転駆動する。この太陽ローラ4bの回転は、前記各中間ローラ19a、19aを介して前記環状ローラ5bに伝わる。この太陽ローラ4bを構成する、前記両太陽ローラ素子8d、8dには、予圧ばねを組み込んで成る前記両ローディングカム装置7b、7bにより、互いに近付く方向の予圧が付与されている。従って、前記各ローラ4b、19a、5bの周面同士の転がり接触部(トラクション部)の面圧は、これら各ローラ4b、19a、5b同士の間でトルクを伝達しない状態でも或る程度確保されている。又、これら各ローラ4b、19a、5b同士の間で伝達するトルクが大きくなると、前記両ローディングカム装置7b、7bが前記両太陽ローラ素子8d、8d同士を互いに近付ける方向に押圧する力(推力)が大きくなり、前記各トラクション部の面圧が更に高くなる。前記各中間ローラ19a、19aは、前記支持フレーム28aに、径方向の変位を可能に支持されている為、これら各中間ローラ19a、19aの外周面と、前記太陽ローラ4bの外周面及び前記環状ローラ5bの内周面との転がり接触部の面圧は、効果的に上昇する。この結果、前記各ローラ4b、19a、5b同士の間で伝達するトルクの変動に拘らず、前記太陽ローラ4bから前記環状ローラ5bへの動力伝達を効率良く行える。この様にしてこの環状ローラ5bに伝達された動力は、前記連結ブラケット32を介して前記出力軸3bに伝達される。
【0030】
上述の様な摩擦ローラ式減速機1bは、前記入力軸側潤滑油供給路39から供給された潤滑油を、前記入力軸側、カム板側各給油通路43a、43b、45を通じて前記各玉16、16及び前記各カム面17、18(図12〜13参照)に送り込む事ができる。この為、前記入力軸2bの伝達するトルクが変動した場合に、前記各玉16、16が前記各カム面17、18同士の間で移動して前記ローディングカム装置7b、7bの軸方向厚さを変化させるのを円滑に行う事ができる。この結果、前記各ローラ4b、19a、5bの周面同士の転がり接触部(トラクション部)の面圧の調節を円滑に行える。又、前記各玉16,16の転動面と前記各カム面17、18との転がり接触部で金属接触が発生するのを防止して、これら各面に、著しい摩耗が発生する事を防止できる。
【0031】
又、前記両入力軸側給油通路43a、43bのうち、入力軸2bの基端側の入力軸側給油通路43bを図8の(A)に示す様に、前記鍔部37の先端側面に開口し前記入力軸2bの軸方向に対して傾斜した状態で設けている為、この入力軸2bの小径部35の基端部に応力が集中するのを防止できる。即ち、図8の(B)に示す様に、入力軸2bの基端側の入力軸側給油通路43cを前記小径部35の基端寄り部分に、前記入力軸側潤滑油流路39から前記空間44に向けて径方向に形成した場合、前記ローディングカム装置7bが発生する押圧力の反力に基づいて、前記小径部35の基端部{図8の(B)の鎖線αで囲んだ部分}に応力が集中してしまう。又、基端側の入力軸側給油通路を、この小径部35の軸方向中間部で前記各玉16、16及び前記各カム面17、18の内径側に位置する部分に径方向に形成する事も考えられる。しかし、本例の場合、前記入力軸2bの小径部35には、前記両カム板15b、15b同士の間隔を適切な寸法に規制すると共に、前記入力軸2bから、先端側(図1〜2の左側)のカム板15bにトルクを伝達する為のカラー52を外嵌している。この為、前記小径部35の軸方向中間部に入力軸側給油通路を設けただけでは、前記各玉16、16及び前記各カム面17、18に潤滑油を十分に送り込む事ができない可能性がある。前記カラー52の基端側縁に切り欠きを設けておく事も考えられるが、前記入力軸側給油通路の形成位置と円周方向の位相を合わせるのが面倒である。前記小径部35の外周面のうち、軸方向に関して前記入力軸側給油通路を設けた位置に全周に亙って環状凹溝を設ければ、前記位相合わせの必要はなくなるが、この環状凹溝を設けた部分の強度を十分に確保できなくなる可能性がある。これに対して本例の構造によれば、この様な問題を生じる事はない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の対象となる摩擦ローラ式減速機は、電気自動車の駆動系に限らず、各種回転機械装置の動力伝達装置として利用できる。
又、本発明の対象となる摩擦ローラ式減速機は、前述した図9に示す様な、遊星ローラ式の摩擦ローラ式減速機とする事もできる。
【符号の説明】
【0033】
1、1a、1b 摩擦ローラ式減速機
2、2a、2b 入力軸
3、3a、3b 出力軸
4、4a、4b 太陽ローラ
5、5a、5b 環状ローラ
6 遊星ローラ
7、7a、7b ローディングカム装置
8a〜8d 太陽ローラ素子
9 環状空間
10 遊星軸
11 キャリア
12 止め輪
13 支え環
14 皿ばね
15、15a、15b カム板
16 玉
17 被駆動側カム面
18 駆動側カム面
19、19a 中間ローラ
20 自転軸
21 ハウジング
22 入力側小径円筒部
23 多列玉軸受ユニット
24 出力側小径円筒部
25 複列玉軸受ユニット
26 ラビリンスシール
27 連結部
28、28a 支持フレーム
29 軸受ケース
30 出力側転がり軸受ユニット
31 出力側シーリングユニット
32 連結ブラケット
33 入力側転がり軸受ユニット
34 入力側シーリングユニット
35 小径部
36 大径部
37 鍔部
38 ローディングナット
39 入力軸側潤滑油流路
40 出力軸側潤滑油流路
41 給油口
42 ラジアルニードル軸受
43a〜43c 入力軸側給油通路
44 空間
45 カム板側給油通路
46 庇部
47 揺動フレーム
48 玉軸受
49 連結部
50 柱部
51 供給路
52 カラー
53 ノズル
54 円形凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、出力軸と、太陽ローラと、環状ローラと、複数個の中間ローラと、ローディングカム装置とを備え、
このうちの太陽ローラは、軸方向に分割された1対の太陽ローラ素子を前記入力軸の周囲に、互いの先端面同士の間に隙間を介在させた状態で互いに同心に、且つ、この入力軸に対する相対回転を可能に配置して成るもので、前記両太陽ローラ素子の外周面は、それぞれの先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面であって、これら両傾斜面を転がり接触面としており、
前記環状ローラは、前記太陽ローラの周囲にこの太陽ローラと同心に配置されたもので、内周面を転がり接触面としており、
前記各中間ローラは、前記太陽ローラの外周面と前記環状ローラの内周面との間の環状空間の円周方向複数箇所に、それぞれが前記入力軸と平行に配置された自転軸を中心とする回転自在に支持された状態で、それぞれの外周面を前記太陽ローラの外周面と前記環状ローラの内周面とに転がり接触させており、
前記ローディングカム装置は、前記両太陽ローラ素子のうちの少なくとも一方の太陽ローラ素子である可動太陽ローラ素子と前記入力軸との間に設けられて、この入力軸の回転に伴ってこの可動太陽ローラ素子を相手方の太陽ローラ素子に向けて軸方向に押圧しつつ回転させるものであって、この可動太陽ローラ素子の基端面の円周方向複数箇所に設けられた被駆動側カム面と、前記入力軸の一部に固定されてこの入力軸と共に回転するカム板のうちで前記可動太陽ローラ素子の基端面に対向する片側面の円周方向複数箇所に設けられた駆動側カム面との間に転動体を挟持して成るもので、これら各駆動側カム面及び前記各被駆動側カム面はそれぞれ、軸方向に関する深さが円周方向に関して漸次変化して端部に向かうに従って浅くなる形状を有するものであり、
前記環状ローラと前記各自転軸を支持した部材とのうちの一方の部材を、前記太陽ローラを中心とする回転を阻止した状態とし、他方の部材を前記出力軸に結合して、この他方の部材によりこの出力軸を回転駆動自在とした摩擦ローラ式減速機に於いて、
前記ローディングカム装置のカム板が、前記入力軸の基端側の大径部と先端側の小径部との間の段差面に突き当てられた状態で、この入力軸に対し固定されており、これらカム板と入力軸とに前記各転動体に潤滑油を供給する為の給油通路がそれぞれ1乃至複数箇所に設けられており、この入力軸の内部に設けられた潤滑油流路を通じて、前記各給油通路に潤滑油を送り込み自在としており、前記入力軸側の給油通路が前記段差面に開口し、この入力軸の中心軸に対して傾斜した状態で設けられている事を特徴とする摩擦ローラ式減速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−108572(P2013−108572A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254642(P2011−254642)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】