説明

摩擦低減剤及び該摩擦低減剤を用いた潤滑油組成物

【課題】優れた摩擦低減剤、特に、摺動面が鉄基材などの金属である場合及びダイヤモンドライクカーボン膜である場合に、摩擦低減効果が著しい摩擦低減剤、及び該摩擦低減剤を配合してなる摩擦低減効果に優れる潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】 下記一般式(I)


(式中、R1は、炭素数20以上の脂肪族炭化水素基を示し、m及びnはそれぞれ1〜6の整数を示す。)
で表されるアミノ化合物を含有することを特徴とする摩擦低減剤、及び該摩擦低減剤を含有する潤滑油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦低減剤及び該摩擦低減剤を用いた潤滑油組成物に関し、さらに詳しくは、鋼等の鉄基材及びダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を有する摺動面に対しても有効な摩擦低減剤及び該摩擦低減剤を含有する摩擦低減効果に優れる潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化やオゾン層破壊など、地球規模での環境問題が大きくクローズアップされ、特に、地球全体の温暖化対策に大きな影響があるといわれる二酸化炭素の削減が急務の課題とされている。この二酸化炭素の発生は、自動車が使用する燃料の燃焼によるものがかなりの割合を占めるため、二酸化炭素の削減を達成するためには、自動車の省燃費性を向上させることが求められている。したがって、自動車の省燃費性に大きな影響を与える潤滑油の果たす役割は極めて大きい。
【0003】
潤滑油における省燃費対策としては、(1)低粘度化による流体潤滑領域における粘度抵抗及び攪拌抵抗の低減、及び(2)最適な摩擦低減剤と各種添加剤の配合による境界潤滑領域下での摩擦損失の低減、が試みられており、摩擦低減剤としては、MoDTCやMoDTPなどの有機モリブデン化合物を中心に様々な研究がなされている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、MoDTCやMoDTPなどの有機モリブデン化合物を配合した潤滑油は、新油時の摩擦低減効果は極めて優れるものの、持続性に劣り、潤滑油が経時変化して劣化したり、潤滑油に自動車排ガス中のスーツが混入したりすると摩擦低減効果を発揮できないという欠点がある。また、潤滑油中にモリブデンなどの金属やリンが存在すると、排ガス浄化装置のフィルターの目詰りや触媒被毒の原因にもなる。したがって、潤滑油が劣化したり、潤滑油中にスーツが存在する場合であっても、摩擦低減効果を持続的に発揮し、しかも金属やリンを含まない無灰系の摩擦低減剤が切望されている。
【0004】
このようなことから、これまでに無灰系の摩擦低減剤やそれを含む潤滑油組成物の開発が盛んに行われてきた。例えば、無灰系の摩擦低減剤として、脂肪族モノアミンやそのアルキレンオキシド付加物、脂肪族ポリアミンなどが知られている(例えば、特許文献2第段落〔0037〕参照)。しかしながら、具体的に開示されている摩擦低減剤は、鉄基材及びDLC膜を有する摺動部材のいずれに対しても摩擦低減効果が不十分であり、また、耐摩耗性や耐焼付性についても良好な性能は得られない。
したがって、鉄基材及びDLC膜を有する摺動面に対しても一層優れた摩擦低減効果を有する無灰系の摩擦低減剤や低摩擦係数を有する潤滑油組成物、さらには摩擦低減効果とともに耐摩耗性や耐焼付性についても優れる無灰系の摩擦低減剤や潤滑油組成物の出現が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3650635号公報
【特許文献2】特開2008−56735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、さらに優れた摩擦低減剤、特に、摺動面が鉄基材などの金属である場合及びダイヤモンドライクカーボン膜である場合に、摩擦低減効果が著しい摩擦低減剤、及び該摩擦低減剤を配合してなる摩擦低減効果に優れる潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の化学構造を有するアミノ化合物を摩擦低減剤、及び該摩擦低減剤を配合した潤滑油組成物が、前記課題が解決することを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち本発明は、
1.下記の一般式(I)
【0009】
【化1】

(式中、R1は、炭素数20以上の脂肪族炭化水素基を示し、m及びnはそれぞれ1〜6の整数を示す。)
で表されるアミノ化合物を含有することを特徴とする摩擦低減剤、
2.R1が、炭素数20以上30以下の脂肪族炭化水素基である上記1に記載の摩擦低減剤、
3.R1が、不飽和脂肪族炭化水素基である上記1又は2に記載の摩擦低減剤、
4.R1が炭素数22の不飽和脂肪族炭化水素基である上記1〜3のいずれかに記載の摩擦低減剤、
5.m及びnが、それぞれ2〜3の整数である上記1〜4のいずれかに記載の摩擦低減剤、
6.鉄基材用またはダイヤモンドライクカーボン膜用摩擦低減剤である上記1〜5のいずれかに記載の摩擦低減剤、
7.ダイヤモンドライクカーボン膜が水素含有量5〜50原子%の水素アモルファスカーボン系材料である上記6に記載の摩擦低減剤、
8.上記1〜7のいずれかに記載の摩擦低減剤を含有する潤滑油組成物、
9.内燃機関用潤滑油組成物もしくは駆動系用潤滑油組成物である上記8に記載の潤滑油組成物、
10.摺動部の摺動面の少なくとも一部にダイヤモンドライクカーボン膜を有し、摺動面に上記8又は9に記載の潤滑油組成物を用いることを特徴とする低摩擦摺動部材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、さらに優れた摩擦低減剤、特に、摺動面が鉄基材などの金属である場合及びダイヤモンドライクカーボン膜である場合に、摩擦低減効果が著しい摩擦低減剤、及び該摩擦低減剤を配合してなる摩擦低減効果に優れる潤滑油組成物を提供することができる。
また、本発明の摩擦低減剤は、優れた摩擦低減効果とともに耐摩耗性や耐焼付性においても優れる無灰系摩擦低減剤であり、該摩擦低減剤を配合してなる潤滑油組成物は、低摩擦、耐摩耗性及び耐焼付性において優れる潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、摩擦低減剤、該摩擦低減剤を用いた潤滑油組成物に関する。以下、これらについて詳細に説明する。
1.摩擦低減剤
本発明は、下記一般式(I)
【0012】
【化2】

【0013】
で表されるアミノ化合物を含有する摩擦低減剤である。
式中、R1は、炭素数20以上の脂肪族炭化水素基を示す。また、m及びnは、それぞれ1〜6の整数を示す。
前記脂肪族炭化水素基R1の炭素数が20以上であれば、摩擦低減効果、耐摩耗性及び耐焼付性が著しく向上する。脂肪族炭化水素基R1の炭素数は、22以上であることがより好ましい。一方、脂肪族炭化水素基R1の炭素数は、生成物の取扱いや溶解性、原料炭化水素の入手性の点から、30以下であることが好ましく、26以下であることがより好ましく、24以下であることが特に好ましい。
従って、R1の炭素数は、20以上30以下が好ましく、22以上24以下がさらに好ましい。
【0014】
また、前記脂肪族炭化水素基R1は、直鎖状もしくは分岐鎖を有する飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基が含まれる。そして脂肪族炭化水素基R1が不飽和脂肪族炭化水素の場合の不飽和結合の数は特に制限はないが、通常、分子内に二重結合を1〜5個、好ましくは1〜3個有するものが好ましく、特に、二重結合を1個有するもの、即ちアルケニル基が好ましい。
これらの脂肪族炭化水素基の中でも、直鎖状もしくは分岐鎖を有する不飽和脂肪族炭化水素基、特に、アルケニル基が摩擦低減効果の点で好ましい。
【0015】
前記一般式(I)のm及びnは、それぞれ1〜6の整数を示すが、それぞれ2〜3の整数であることがより好ましい。また、m及びnは、互いに同一であっても異なっても良いが、製造が容易である点で同一であるものが好ましい。
【0016】
本発明で用いるアミノ化合物の代表例としては、例えば、mとnが2の場合、いずれも直鎖状又は分岐鎖を有してもよい、N‐イコシルジエタノールアミン、N‐イコセニルジエタノールアミン、N‐ヘンイコシルジエタノールアミン、N‐ヘンイコセニルジエタノールアミン、N‐ドコシルジエタノールアミン、N‐ドコセニルジエタノールアミン、N‐トリコシルジエタノールアミン、N‐トリコセニルジエタノールアミン、N‐テトラコシルジエタノールアミン、N‐テトラコセニルジエタノールアミン、N‐ヘキサコシルジエタノールアミン、N‐ヘキサコセニルジエタノールアミン等のアルキルジエタノールアミン、及びアルケニルジエタノールアミンが挙げられる。また、mとnが3の場合、N‐イコシルジプロパノールアミン、N‐イコセニルジプロパノールアミン、N‐ヘンイコシルジプロパノールアミン、N‐ヘンイコセニルジプロパノールアミン、N‐ドコシルジプロパノールアミン、N‐ドコセニルジプロパノールアミン、N‐トリコシルジプロパノールアミン、N‐トリコセニルジプロパノールアミンN‐テトラコシルジプロパノールアミン、N‐テトラコセニルジプロパノールアミン、N‐ヘキサコシルジプロパノールアミン、N‐ヘキサコセニルジプロパノールアミン等のアルキルジプロパノールアミン、及びアルケニルジプロパノールアミンが挙げられる。
【0017】
これらのアルキル及びアルケニルジエタノールアミンとアルキル及びアルケニルジプロパノールアミンの中でも、炭素数22〜24のアルキル及びアルケニルジエタノールアミンとアルキル及びアルケニルジプロパノールアミンが好ましく、特に炭素数22のアルケニルジエタノールアミンとアルケニルジプロパノールアミンが、摩擦低減効果の観点から好ましい。
本発明においては、前記アルキル又はアルケニルジエタノールアミンとアルキル及びアルケニルジプロパノールアミンを含む一般式(I)で表わされるアミノ化合物から選ばれる一種を単独で、又は2種以上を混合して摩擦低減剤として用いることができる。
【0018】
前記一般式(I)で表わせる化合物の製造方法については特に制限はないが、例えば一般式(II)
1−Br ・・・(II)
(式中、R1は、一般式(I)のR1と同じである。)
で表させる臭化脂肪族炭化水素と、m、nに対応するアルカノールアミン、例えばm、nが2の場合、ジエタノールアミン(HN(CH2CH2OH)2)、m、nが3の場合、ジプロパノールアミン(HN(CH2CH2CH2OH)2)とを、塩基の存在下で反応させることにより得ることができる。
この反応においては、臭化脂肪族炭化水素とジエタノールアミンやジプロパノールアミンなどアルカノールアミンとの割合は、通常、臭化脂肪族炭化水素1モルに対して、アルカノールアミン1.0〜5.0モル程度であり、好ましくは1.0〜3.0モル、さらに好ましくは1〜1.5モルの範囲である。
また、反応温度(内温)は、通常、−20〜150℃、好ましくは0〜130℃、さらに好ましくは5〜110℃の範囲で選ばれる。
また、塩基としては、例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが使用される。水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを使用する場合は、必要量の水を加える。なお、この反応を行うにあたって使用する溶媒は、例えば、キシレン、トルエン、THF(テトラヒドロフラン)、DMF(ジメチルホルムアミド)などが好ましい。
【0019】
2.潤滑油組成物
本発明の潤滑油組成物は、通常、潤滑油基油に上記摩擦低減剤を配合する。
上記摩擦低減剤の配合量は、特に制限はないが、潤滑油組成物全量基準で、通常0.01〜10質量%、好ましくは、0.05〜5質量%、より好ましくは、0.1〜2質量%になるように配合する。0.01質量%以上とすることにより、摩擦低減効果が発揮され、10質量%以下とすることにより、コスト増を避け、かつ、潤滑油基油が有する本来の特性を低下させることを防止することができ、貯蔵安定性が問題となる恐れもない。
【0020】
本発明の潤滑油組成物は、内燃機関用潤滑油、駆動系潤滑油など種々の潤滑油組成物として使用できる。したがって、潤滑油組成物は、上記摩擦低減剤以外に、内燃機関用潤滑油、駆動系潤滑油など、それぞれの潤滑油組成物に必要とされる、その他の添加剤を含有することができる。
【0021】
[その他の添加剤]
そのような他の添加剤の代表例としては、例えば以下のものが挙げられる。( )内は、好ましい配合量及びより好ましい配合量を示す(いずれも組成物全量基準の質量%)。
・アルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート、ナフテネート等の金 属系清浄剤(0.1〜10、0.5〜5)、
・コハク酸イミド、ホウ素系イミド等の無灰系分散剤(0.5〜15、1〜10)
・ポリメタクリレート、オレフィン共重合体等の粘度指数向上剤(0.5〜15、1〜 10)、
・ポリメタクリレート等の流動点降下剤(0.1〜2、0.1〜1)、
・アルキル化ジフェニルアミン等のアミン系、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ− t−ブチルフェノール)等のフェノール系、ジオクタデシルチオジプロピオネート等 の硫黄系の酸化防止剤(0.05〜5、0.1〜3)、
・リン酸エステル系、チオリン酸エステル系等の摩耗防止剤(0.001〜5、0.0 1〜2.0)、
・脂肪酸系、脂肪酸エステル系、脂肪族アミン系等の油性向上剤(0.01〜10、0 .1〜5)
・ベンゾトリアゾール系、ベンゾチアゾール系等の腐食防止剤(0.01〜3、0.0 1〜1)、
・アルケニルコハク酸エステル系等の防錆剤(0.01〜1,0.05〜0.5)、
・その他
消泡剤、シール膨潤剤、界面活性剤・抗乳化剤等
【0022】
[潤滑油基油]
潤滑油基油としては、特に限定されることなく、鉱油系および合成系の各種の潤滑油基油を使用することができる。
鉱油系潤滑油基油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を適宜組み合わせて精製した炭化水素油など挙げられる。この炭化水素油は、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、芳香族系鉱油などいずれでも使用することができる。さらにはワックス異性化油も用いることができる。
【0023】
一方、合成系の潤滑油基油としては、ポリフェニルエーテルのようなフェニルエーテル系合成油、ポリα―オレフィン(ポリブテン、1―オクテンオリゴマー、1―デセンオリゴマー等またはこれらの水添物)のようなポリオレフィン系合成油、アルキルベンゼンのようなベンゼン系合成油、アルキルナフタレンのようなナフタレン系合成油、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ―2―エチルヘキシルアジペート、ジイソデシアジペート、ジトリデシアジペート、ジ―2―エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリエート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2―エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)のようなエステル系合成油、ポリオキシアルキレングリコールのようなグリコール系合成油、ポリフェニルエーテルのようなエーテル系合成油、シリコーンフッ素化油のようなシリコーン系合成油等を使用することができる。これらの基油は単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物として用いても良い。
【0024】
前記潤滑油基油は、100℃における動粘度が、通常2〜50mm2/s、好ましくは3〜30mm2/s、特に好ましくは3〜15mm2/sであるものが有利である。100℃における動粘度が2mm2/s以上であると蒸発損失が少なく、また50mm2/s以下であると、粘性抵抗による動力損失が抑制され、燃費改善効果が良好に発揮される。
また、潤滑油基油は、粘度指数が80以上、さらには100以上のものが好ましい。粘度指数が80以上であると、基油の温度による粘度変化が小さく、安定した潤滑性能を発揮する。
さらに、潤滑油基油は、硫黄含有量が、1000質量ppm以下であることが好ましく、500質量ppm以下がより好ましく、100質量ppm以下が特に好ましい。硫黄含有量が、1000質量ppm以下であれば、酸化安定性が向上する効果がある。
【0025】
3.潤滑油組成物の利用方法
本発明の潤滑油組成物は、種々の摺動面に適用される。特に鉄基材やDLC材料を有する摺動面に適用され、優れた低摩擦性と耐摩耗性、耐焼付性を付与することができ、とりわけ内燃機関や駆動系機械装置に適用した場合には、摩擦低減効果などの効果を付与することができる。
【0026】
本発明の潤滑油組成物は、さらに、少なくとも一方の側にDLC材料を有する摺動面で用いるのが好ましい。この場合、他方の摺動面の材料については、例えば、DLC材料、鉄基材料、アルミニウム合金材料、樹脂あるいはゴム材料などがあげられる。
つまり、2つの摺動面がともにDLC材料、一方の摺動面がDLC材料で他方の摺動面が鉄基材料、一方の摺動面がDLC材料で他方の摺動面がアルミニウム合金材料、樹脂あるいはゴム材料である場合が例示できる。
【0027】
ここで、上記DLC材料は、表面にDLC膜を有するものである。該膜を構成するDLC材料は、炭素元素を主として構成された非晶質であり、炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)の両方から成る。
具体的には、炭素元素だけから成るa−C(アモルファスカーボン)、水素を含有するa−C:H(水素アモルファスカーボン)、及びチタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含むMeCが挙げられる。
これらの中でも、a−C:H(水素アモルファスカーボン)、特に、水素を5〜50原子%含有するa−C:Hが好ましい。
【0028】
一方、鉄基材料としては、例えば浸炭鋼SCM420やSCr420(JIS)などを挙げることができる。アルミニウム合金材料としては、ケイ素を4〜20質量%及び銅を1.0〜5.0質量%を含む亜共晶アルミニウム合金又は過共晶アルミニウム合金を用いることが好ましい。具体的にはAC2A、AC8A、ADC12、ADC14(JIS)などを挙げることができる。
また、前記DLC材料及び鉄基材料、あるいはDLC材料及びアルミニウム合金材料のそれぞれの表面粗さは、算術平均粗さRaで、0.1μm以下であることが摺動の安定性の面から好適である。0.1μm以下であると局部的なスカッフィングが形成しにくく、摩擦係数の増大を抑制することができる。更に、上記DLC材料は、表面硬さが、マイクロビッカーズ硬さ(98mN荷重)でHv1000〜3500、厚さが0.3〜2.0μmであることが好ましい。
【0029】
一方、前記鉄基材料は、表面硬さがロックウェル硬さ(Cスケール)でHRC45〜60であることが好ましい。この場合は、カムフォロワー部材のように700MPa程度の高面圧下の摺動条件においても、膜の耐久性を維持できるので有効である。
また、前記アルミニウム合金材料は、表面硬さがブリネル硬さHB80〜130であることが好ましい。
DLC材料の表面硬さ及び厚さが上記範囲にあると摩滅や剥離が抑制される。また、鉄基材料の表面硬さがHRC45以上であると、高面圧下で座屈し剥離するのを抑制することができる。一方、アルミニウム合金材料の表面硬さが上記範囲にあれば、アルミニウム合金の摩耗が抑制される。
また、樹脂として、ポリアミドイミド、PTEF等を、ゴム材としてNBR、HNBR、EPDM、DR等も相手材として使用できる。DLC膜を有する摺動部材の母材はなんら制限されることなく、金属、樹脂、ゴム材等いずれの材料でも使用できる。
【0030】
本発明の摩擦低減剤およびそれを含む潤滑油組成物を、摺動部の少なくとも一部にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を有する擦摺動部材の適応箇所として以下のような例が挙げられる。
内燃機関においては、ピストンリングとシリンダー、ピストンスカートとシリンダー、ピストンピンとコンロッド、ピストンピンとブッシュ、カムとシム、カムとロッカーアーム、カムジャーナルとカムシャフト、ローラーロッカーアームのニードルベアリング部、ロッカーアームとロッカーシャフト、ローラータペットとカム、クラクシャフトのピンとコンロッド、クラクシャフトの軸受部、タイミングチェーンを構成するプレートとピン、タイミングチェーンとスプロケット、タイミングチェーンガイド用シューとチェーン、タイミングチェーンのテンショナー用シューとチェーン、バルブシート面とバルブフェース面、バルブのステム面とステムガイド、ステム面とステムシール、ステムエンドとバルブリフター、オイルポンプのアウターギアとインナーギア、オイルポンプのアウターロータとインナーロータ、ターボチャージャーの転がり部、ターボチャージャーのスラスト軸受部等を挙げることができる。
【0031】
自動変速機においては、歯車の歯面、歯車の軸受部、オイルポンプのドリブンギアとドライブギア等が挙げられる。
無段変速機とは、連続的に変速可能な自動変速機のことであり、本明細書では駆動軸と従動軸に固定プーリーと可動プーリーを取付け、この2つのプーリー間を金属ベルトあるいは金属チェーンを介して動力を伝達し、無段階に変速する無段変速機を意味する。無段変速機においては、歯車の歯面、歯車の軸受部、オイルポンプのドリブンギアとドライブギア、金属ベルトのスチールブロックとスチールバンド、金属チェーンのブロックとピン、ピンとリンク、ブロックとリンク等が挙げられる。
手動変速機用においては、歯車の歯面、歯車の軸受部、シフトフォーク爪部とスリーブ、シフトフォークのヘッドとインナーレバー等が挙げられる。
終減速機においては、歯車の歯面、歯車の軸受部、入力および出力軸のシール部等が挙げられる。
車両用ショックアブソーバーにおいては、ピストンロッドとブッシュ、ピストンロッドとシュー等が挙げられる。
【0032】
電動パワーステアリングにおいては、ウォームホイールとウォームが挙げられる。
冷媒圧縮機は主なタイプとして、レシプロタイプ、斜板タイプ、ベーンロータリータイプ、ローリングピストンタイプ、スクロールタイプがある。レシプロタイプにおいては、ピストンリングとシリンダー、ピストンとシリンダー、ピストンとピストンピン、ピストンピンとコンロッド、コンロッドとクランクシャフト、クランクシャフトの軸受部等が挙げられる。斜板タイプにおいては、斜板とシュー、ピストンの球面座とシュー、シャフトのスラスト軸受部、シャフトのジャーナル軸受部、ピストンとシリンダー、ピストンリングとシリンダー等が挙げられる。ベーンロータリータイプにおいては、ベーン先端とシリンダー、ベーンとローター、ベーン側面とシリンダー、ローターとシリンダー等が挙げられる。
ローリングピストンタイプにおいては、ベーンとローリングピストン、ローリングピストンとシリンダー、ベーンとシリンダー等が挙げられる。
スクロールタイプにおいては、ラップ先端と平板、シャフトの軸受部、オルダム機構の場合はオルダムリングと旋回スクロール、オルダムリングとフレーム、ピンクランク機構の場合はドライブベアリング、駆動ピンと偏芯ブッシュ等が挙げられる。
油圧ポンプ・モーターにおいては、シリンダーとピストン、アキシャル型のロッドレス型におけるピストンとカム、ピストンとスリッパ、カムとスリッパ、ロット型ピストンにおけるロッドとピストン、ロッドと軸受部等が挙げられる。
【0033】
4.低摩擦摺動部材
摺動部材の摺動面の少なくとも一部にダイヤモンドライクカーボン膜を有し、摺動面に前記潤滑油組成物を用いた低摩擦摺動部材である。
本発明の低摩擦摺動部材に用いるダイヤモンドライクカーボン膜や摺動面は、前述の通りである。
【実施例】
【0034】
以下に本発明の実施例及び比較例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、潤滑油組成物の評価は下記の方法で行った。
<評価方法>
〔摩擦実験I〕
下記の試験装置及び試験条件で、摩擦係数を測定した。
試験装置
試験機 :TE77往復動摩擦試験機(キャメロンプリント社製)
試験板 :SUJ−2
試験球 :SUJ−2(φ10mm)
試験条件
油温 :100℃
振幅 :15mm
周波数 :2.5〜5Hz
荷重 :50N
〔摩擦実験II〕
試験板「SUJ−2」を「DLC(水素20原子%含有)」に置換えた以外は摩擦実験Iと同じ方法で,摩擦係数を測定した。
【0035】
〔摩擦実験III〕
以下の試験機及び試験条件で摩耗痕径(mm)を測定した。
試験装置
試験機 :シェル4球試験機
試験条件
油温 :80℃
回転数 :1200rpm
荷重 :294N
試験時間:30分
〔摩擦実験IV〕
以下の試験機及び試験条件で焼付荷重(N)を測定した。
試験装置
試験機 :ファレックス試験
試験条件
油温 :室温
回転数 :290rpm
【0036】
製造例1
窒素気流下、1L四つ口フラスコにジエタノールアミン39.08g(0.37mol)、トリエチルアミン47g(0.47mol)、トルエン300mlを加える。10℃を超えないようにトルエン50mlに溶かした臭化エルシル120g(0.31mol)をゆっくり滴下する。10℃以下で30分、室温で1時間撹拌する。その後、加熱還流しながら6.5時間撹拌する。TLCで反応が終了していることを確認できたら、室温まで放冷し、水洗、乾燥をしてアミノ化合物aを得た。
製造例2
窒素気流下、1L四つ口フラスコにジプロパノールアミン49.28g(0.37mol)、トリエチルアミン47g(0.47mol)、トルエン300mlを加える。10℃を超えないようにトルエン50mlに溶かした臭化エルシル120g(0.31mol)をゆっくり滴下する。10℃以下で30分、室温で1時間撹拌する。その後、加熱還流しながら6.5時間撹拌する。TLCで反応が終了していることを確認できたら、室温まで放冷し、水洗、乾燥をしてアミノ化合物bを得た。
比較製造例1
臭化エルシルのかわりに臭化ステアリルを用いた以外は製造例1と同様に行い、アミノ化合物cを得た。
比較製造例2
臭化エルシルのかわりに臭化オレイルを用いた以外は製造例1と同様に行い、アミノ化合物dを得た。
【0037】
比較製造例3
窒素気流下、500mlの四つ口フラスコにジエタノールアミン5.9g(0.056mol)とTHF60mlと水20mlを入れて撹拌する。THF20mlに溶解させたエルカ酸クロライド22g(0.06mol)をゆっくり滴下する。室温で4時間撹拌する。TLCで反応が終了していることを確認し、セライトを加えて吸引ろ過をする。ろ液を留去後酢酸エチルに溶かして水洗、乾燥、溶媒留去をしてアミノ化合物eを得た。
比較製造例4
窒素気流下,500ml四つフラスコにジエタノールアミン10.5g(0.1mol)を加える。80℃で撹拌しながらイソオクタン50mlに溶解した1,2−エポキシオクタデカン26.8g(0.1mol)を1時間かけて滴下する。滴下後,100℃に昇温して4時間撹拌する。イソオクタンを留去後,反応物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製しアミノ化合物fを得た。
【0038】
実施例1、2及び比較例1〜5
100ニュートラル留分の鉱油に製造例1、2で得られたアミノ化合物(化合物a、b)を1質量%配合した潤滑油組成物A,Bを調製した。また、無添加の100ニュートラル留分の鉱油を潤滑油組成物X−0、100ニュートラル留分の鉱油に比較製造例1〜4で得られたアミノ化合物(化合物c〜f)を1質量%を配合した潤滑油組成物X−1〜X−4を調製した。
潤滑油組成物A、Bを実施例1、2、潤滑油組成物X−0〜X−4を比較例1〜5の試料として用い、これらの潤滑油組成物の性能を、上記〔摩擦実験I〕及び〔摩擦実験II〕により評価した。その結果を第1表に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例3及び比較例6〜9
0W‐20相当油(100℃動粘度8.011mm/s、40℃動粘度34.16mm/s、粘度指数220)に製造例1で得られたアミノ化合物(化合物a)を1質量%配合した潤滑油組成物Cを調製した。また、無添加の0W‐20相当油を潤滑油組成物Y−0、0W‐20相当油に比較製造例1〜3で得られたアミノ化合物(化合物c〜e)を1質量%を配合した潤滑油組成物Y−1〜Y−3を調製した。
潤滑油組成物Cを実施例3、潤滑油組成物Y−0〜Y−3を比較例6〜9の試料として用い、これらの潤滑油組成物の性能を、上記〔摩擦実験III〕及び〔摩擦実験IV〕により評価した。その結果を第2表に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
(1)第1表より、実施例1、2の本願発明の摩擦低減剤a、bを配合した潤滑油組成物A、Bは、いずれも摩擦実験I(摺動面が鋼−鋼)における摩擦係数が0.101以下であり、また、摩擦実験II(摺動面が鋼−水素含有量20原子%DLC)における摩擦係数が0.072以下であり、いずれの場合も良好な摩擦低減効果を有することが分る。
これに対して、本発明の一般式(I)のR1の炭化水素基の炭素数が18の摩擦低減剤であるステアリン酸ジエタノールアミンやオレイン酸ジエタノールアミンを配合した潤滑油組成物X−1,X−2(比較例2,3)などは、摩擦実験Iにおける摩擦係数が0.104以上であり、摩擦実験IIにおける摩擦係数が0.075以上であって、いずれも潤滑油添加剤を配合しない比較例1のX−1(それぞれ0.177と0.107)と比較して添加効果が小さい。
(2)第2表より、実施例3の本願発明の潤滑油添加剤aを配合した潤滑油組成物Cは、摩擦実験III(摺動面が鋼−鋼)における摩耗痕幅0.31mmであり、摩擦実験IV(摺動面が鋼−鋼)における焼付荷重が5670Nであり、良好な耐摩耗性能と耐焼付性能を有することが分る。これに対して、本発明の一般式(I)のR1の炭化水素基の炭素数が18の摩擦低減剤であるステアリン酸ジエタノールアミンやオレイン酸ジエタノールアミンを配合した潤滑油組成物Y−1,Y−2(比較例7,8)は、摩擦実験IIIの摩耗痕幅0.43mm、0.33mmであり、また摩擦実験IVの焼付荷重が4780N、4650Nであって、潤滑油添加剤を配合しない比較例6のY−0(それぞれ0.43mmと3900N)と比較して添加効果が小さい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の摩擦低減剤は、摺動面が鉄基材などの金属である場合及びダイヤモンドライクカーボン膜である場合に、摩擦低減効果が著しい優れた摩擦低減剤であって、その摩擦低減剤を含有する潤滑油組成物は、内燃機用潤滑油組成物や駆動系用潤滑油組成物など各種潤滑油組成物に優れた省燃費効果を付与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(式中、R1は、炭素数20以上の脂肪族炭化水素基を示し、m及びnはそれぞれ1〜6の整数を示す。)
で表されるアミノ化合物を含有することを特徴とする摩擦低減剤。
【請求項2】
1が、炭素数20以上30以下の脂肪族炭化水素基である請求項1に記載の摩擦低減剤。
【請求項3】
1が、不飽和脂肪族炭化水素基である請求項1又は2に記載の摩擦低減剤。
【請求項4】
1が炭素数22の不飽和脂肪族炭化水素基である請求項1〜3のいずれかに記載の摩擦低減剤。
【請求項5】
m及びnが、それぞれ2〜3の整数である請求項1〜4のいずれかに記載の摩擦低減剤。
【請求項6】
鉄基材用またはダイヤモンドライクカーボン膜用摩擦低減剤である請求項1〜5のいずれかに記載の摩擦低減剤。
【請求項7】
ダイヤモンドライクカーボン膜が水素含有量5〜50原子%の水素アモルファスカーボン系材料である請求項6に記載の摩擦低減剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の摩擦低減剤を含有する潤滑油組成物。
【請求項9】
内燃機関用潤滑油組成物もしくは駆動系用潤滑油組成物である請求項8に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
摺動部の摺動面の少なくとも一部にダイヤモンドライクカーボン膜を有し、摺動面に請求項8又は9に記載の潤滑油組成物を用いることを特徴とする低摩擦摺動部材。

【公開番号】特開2013−18873(P2013−18873A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153337(P2011−153337)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】