説明

摩擦低減材

【課題】 鋼矢板などの埋設物自体の沈下を最小限に抑え遮断効果の低下を防ぎ、周辺地盤への悪影響を防止させ、しかも施工性、経済性を向上させるようにする。
【解決手段】 鋼矢板などの埋設物表面に形成させる摩擦低減材であって、軟弱層の途中まで挿入される埋設物に塗布または貼付けなどで形成させる摩擦低減材を提供する。摩擦低減材は、吸水性樹脂とアルカリ水可溶性樹脂とを必須成分とする組成物が好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤中等に埋設されている埋設部の摩擦低減材に関し、更に詳しく述べると、地盤内の支持層まで到達させない埋設物(フローティング鋼矢板工法またはフローティング鋼矢板と着低鋼矢板の組み合わせである支柱鋼矢板工法等で使用される杭など)の摩擦を低減する摩擦低減材に関するものである。
【0002】
河川下流部では厚い軟弱土が分布していることが多く、このような軟弱地盤上に築堤盛土を行った場合には、長期間にわたって圧密沈下を生じるために、周辺家屋に傾斜や変位・亀裂等を与える他、水田に対しても水たまりを発生させるなどの様々な沈下障害を引き起こすことになる。
そこで、従来、周辺地盤へ及ぼす地盤沈下などの悪影響を防止するために、盛土のり尻に、多数枚の長尺の鋼矢板を、軟弱層を貫通し支持層に達するまで打設する工法(着底鋼矢板工法)が行われてきた。つまり従来の着底型の鋼矢板工法は、ほぼ同じ長さの多数の鋼矢板を使用し、全ての鋼矢板を軟弱層の下位の支持層まで一列に打設して壁面(矢板壁)を構築する工法である。
このような着底型の鋼矢板工法を施工した後の沈下、変形などの動態測定結果によれば、沈下の縁切りは顕著であり、対策の効果は明瞭であった。
【0003】
これまで、着底型の鋼矢板工法の有効性は立証されているが、反面、極めて不経済であるという大きな欠点があった。例えば、支持層まで打設するためには40m以上の打設長が必要である場合もあった。我が国においては、関東平野をはじめとして各地の平野でも、このように40m程度もしくはそれ以上の軟弱層が存在する地域は多く見られる。このような長尺の鋼矢板を打設するには、鋼矢板の運搬や打設等の観点から、最大でも20〜30m程度の長さの鋼矢板を用い、その鋼矢板を打設し、現場で溶接して継ぎ足し、更に打設するという作業が必要となる。このような作業を全ての鋼矢板について行わねばならない。従って、1枚の長尺鋼矢板の打設に煩瑣な作業が要求される。途中で溶接継ぎ足し作業のために一旦打設作業を中断することから、その後の打設が困難となる場合も生じ、作業時間が長くかかる。そのため、矢板壁の構築に膨大な工事費用を必要とし、工期も長くかかる。
ところで、このような着底型の鋼矢板工法とその後の観測によって、築堤盛土により沈下が生じるのは、軟弱層約40mの約半分の20mより浅い地層に限られるという重要な知見が得られた。そこで、軟弱層の中途まで鋼矢板を打設する工法(フローティング鋼矢板工法)が提案され、その実験が試みられた。しかし、このようなフローティング鋼矢板工法は、工事期間の短縮、工事費用の削減には有効であるが、着底型の鋼矢板工法と比べて沈下低減効果は小さく、また鋼矢板長が短いほど、沈下の縁切り効果は小さかった。築堤盛土により沈下が生じるのは、軟弱層約40mの約半分の20mより浅い地層に限られるという点では、着底型の鋼矢板工法同様であったが、当初の予想に反して、単に鋼矢板を短くするだけでは、沈下の縁切り効果が十分ではないことが知られている。
【0004】
上記したフローティング鋼矢板工法の課題を解決するための提案として、連続打設されるフローティング鋼矢板の一部に支持層まで到達させる着低鋼矢板(支柱鋼矢板)を配設する工法(支柱鋼矢板工法)で、つまりフローティング鋼矢板と一部の着低鋼矢板との組み合わせの工法である。この工法の基本的な考え方は、(1)築堤盛土によって沈下が生じない深度までフローティング鋼矢板を打設すること、(2)築堤による引き込みが生じても、鋼矢板が沈下しないような構造にすること、の2条件を満足することとされている(特許文献1)。
しかし、多数の着底支柱を設ける必要があり、依然として工事費用の削減、工期の短縮という面で十分なものとは言えない。また、全て鋼矢板を支持層まで打設する従来の完全な着底鋼矢板工法と比べると、その遮断効果はまだ不十分であった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−317043
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、フローティング鋼矢板工法などにおいて、遮断効果の低下を防ぎ、周辺家屋や地下の用水路、電路管等の傾斜や変位・亀裂などの周辺地盤への悪影響を防止させるために、連続打設された埋設物自体の沈下を最小限に抑える手段と、これを達成する為に有用な埋設物表面の処理剤を提供することにある。
本発明の目的は、支柱鋼矢板工法などにおいて、作業安全性、経済性を向上させる為に、沈下時の支柱鋼矢板工法の先端支持力を最小化し、支柱となる部分的な着底鋼矢板の本数を更に減らしても、連続打設された埋設物自体の沈下を最小限に抑える手段と、これを達成する為に有用な埋設物表面の処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、埋設物表面に形成させる摩擦低減材であって、軟弱層の途中まで挿入される埋設物に形成させる摩擦低減材である。これにより、地盤内の支持層まで到達させない埋設物を多数枚連続打設して地盤沈下を遮断する工法(フローティング鋼矢板工法など)において、埋設物の沈下を抑制することができる。また、支柱鋼矢板工法などにおいても支柱鋼矢板工法の先端支持力を最小化し、支柱となる部分的な着底鋼矢板の本数を更に減らしても、連続打設された埋設物自体の沈下を抑制することができる。
【0008】
また、本発明は、摩擦低減材を、吸水性樹脂とアルカリ水可溶性樹脂とを必須成分とする組成物であることが好ましい構成である。吸水性樹脂は、地下水を吸水し膨潤することで極めて高い潤滑性の含水ゲルを形成する。この含水ゲルの層が埋設物表面と地盤との境界面に形成され、地盤との摩擦力を最も最小化する材料である。また、一般に吸水性樹脂は粉体形状で、埋設物表面に形成させるためには接合用のバインダーが必要である。このバインダーとしてはアルカリ水可溶性樹脂が吸水性樹脂を埋設物に強固に接着させつつ、吸水膨潤を妨げない最適なバインダーである。この構成によれば、地盤内の支持層まで到達させない埋設物を多数枚連続打設して地盤沈下を遮断する工法(フローティング鋼矢板工法など)において、埋設物の沈下をより抑制することができる。また、支柱鋼矢板工法などにおいても支柱鋼矢板工法の先端支持力を最小化し、支柱となる部分的な着底鋼矢板の本数を更に減らしても、連続打設された埋設物自体の沈下をより抑制することができる。
【0009】
また、本発明は、埋設物が鋼矢板であることが好ましい構成である。鋼矢板は地中に多数の埋設物を連続的に打設することに最も施工性が高く、経済的な埋設物である。この構成によれば、地盤内の支持層まで到達させない埋設物を多数枚連続打設して地盤沈下を遮断する工法(フローティング鋼矢板工法など)において、埋設物の沈下をより抑制することができる。また、支柱鋼矢板工法などにおいても支柱鋼矢板工法の先端支持力を最小化し、支柱となる部分的な着底鋼矢板の本数を更に減らしても、連続打設された埋設物自体の沈下をより抑制することができる。
【0010】
更に、本発明は、埋設物表面への形成方法が、塗布または貼付けであることが好ましい構成である。摩擦低減材を埋設物に直接塗布することは施工作業性が良好でしかも経済的である。また、貼付けの場合は、例えば、布等のシート状基材に摩擦低減材をコーティング(塗布)して得られるシート状摩擦低減材を埋設物表面に接着剤等で貼付ける。この場合、更に施工作業性は向上し、現場の作業時間を短縮できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の構成によれば、フローティング鋼矢板工法または支柱鋼矢板工法などに使用される埋設物表面の摩擦を大幅に低減させることで、埋設物の沈下を最小限に抑制することができる。これにより、以下の効果を奏する。
(1)連続打設された埋設物自体の沈下を最小限に抑え遮断効果の低下を防ぎ、周辺家屋や地下の用水路、電路管等の傾斜や変位・亀裂などの周辺地盤への悪影響を抑制させる。
(2)埋設物へかかる荷重(摩擦抵抗)を小さくさせ、杭の必要な強度を最小化させ、埋設物の厚みを小さくしたり、埋設物の形状を単純な平板などの簡易な形状に変えることができ、埋設物の軽量化や取り扱い性を向上させ、作業安全性、経済性も向上させる。
(3)沈下時の支柱鋼矢板工法の先端支持力を最小化でき、支柱となる部分的な着底鋼矢板の本数を更に減らすことができ、施工作業性、作業安全性、経済性を向上させる。
(4)鋼矢板等の埋設物は、沈下安定後には引抜き回収することが経済面に好ましいが、その引抜き撤去回収時の土付着(共上がり)を防止でき、埋設物撤去時の周辺地盤への悪影響を防止させる。
(5)本格工事着工前に行われる、盛土等の沈下体の両側に埋設物を連続打設して行われる、地盤安定化のための地盤の圧密促進を加速することができ、工期短縮化を実現する。
(6)埋設物がボックスカルバートやタンク、管体などの地下構造体である場合には、所定の位置に配置されたボックスカルバートやタンク、管体などの変位・亀裂・損傷を防止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に使用される埋設物としては、地中に鋼矢板等を連続打設して構築される、遮断壁や土留め擁壁、圧密沈下促進壁、また、地中に埋設されるボックスカルバートや鋼管、タンクなどの沈下を防止したいものであれば特に制限はない。
また、具体的な埋設物の種類としては、例えば、鋼矢板(シートパイル)、鋼管、ヒューム管、H形鋼、I型鋼、鋼管杭(鋼管パイル)、鉄柱、コンクリート杭、ポール、筒状のパイル(中空パイル)、平板、波板等が挙げられる。中でも、連続打設が容易な鋼矢板や鋼管杭が好適である。尚、埋設物の形状、材質、表面の粗度等は特に限定されず、表面に錆びや汚れが付着したものであっても、汚れ等のない平滑な表面を有するものであってもよい。
【0013】
また、埋設物の深さ方向の長さは、支持層まで到達せず、軟弱層の途中までの長さであり、地上から支持層までの長さの5%以上95%以下の範囲である。5%未満であると、例えば、遮断壁として用いた場合では、その遮断効果が小さくなるなど、本来の目的の効果を発現しなくなる。一方、95%を越えると、極めて長尺の長さの埋設物が必要となり、施工作業性や経済性の観点で問題が生じる。好ましくは、10%以上90%以下の範囲であり、更に好ましくは、25%以上75%以下の範囲であり、特に好ましくは、40%〜60%である。
【0014】
本発明の表面に摩擦低減材が形成された埋設物の厚みは、従来の工法で必要であった厚みに対して薄くすることができる。従来の厚みに対して90%以下の厚み、好ましくは75%以下の厚み、更に好ましくは50%以下の厚みにすることも可能である。
【0015】
本発明の表面に摩擦低減材が形成された埋設物は、摩擦を切りたい様々な用途に使用され特に制限はされないが、周辺地盤の沈下防止用途または埋設物の引抜き回収時の土付着防止用途(土の共上がり防止)に好適に使用される。中でも、盛土による周辺地盤の沈下防止用途が好ましく。河川・港湾における築堤盛土または軟弱地盤に構築される道路の盛土による周辺地盤の沈下防止用途に使用されることが更に好ましい。
また、盛土のり尻や地下構造体の両側または周囲に本発明の表面に摩擦低減材が形成された埋設物を連続打設することで、埋設物表面との土の摩擦抵抗を小さくできることから土の沈下速度を向上させ、地盤の圧密沈下を促進させることができるので、圧密沈下促進用途に好適に使用される。
【0016】
次に、本発明の摩擦低減材について以下に説明する。
摩擦低減材としては、潤滑性を発揮できるものであれば特に限定されないが、例えば、吸水性樹脂やフッ素系樹脂、オレフィン系樹脂等の潤滑性の樹脂類、ワックス、グリース、タール、アスファルト等の油類や、ベントナイト等の鉱物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。中でも、吸水性樹脂が好適であり、吸水性樹脂と水とを含む樹脂組成物や、吸水性樹脂と、これを鋼材等に密着させるためのバインダー樹脂とを含む樹脂組成物もまた好適である。バインダー樹脂としては、アルカリ水可溶性樹脂であることが特に好ましく、吸水性樹脂とアルカリ水可溶性樹脂とを含む樹脂組成物を含有するものである形態は、本発明の好適な形態の1つである。なお、必要に応じて溶剤を含んでもよい。
上記吸水性樹脂とアルカリ水可溶性樹脂とを含む樹脂組成物を用いることにより、吸水性樹脂が水を吸収して膨潤する際の体積膨張を阻害するおそれが低減され、吸水性樹脂の吸水性能を充分に発揮させることが可能となり、吸水性樹脂が水で充分に膨潤することとなる。その結果、埋設物表面の摩擦を大幅に低減させることができる。
上記吸水性樹脂とアルカリ水可溶性樹脂とを含む樹脂組成物において、吸水性樹脂とアルカリ水可溶性樹脂との質量比(吸水性樹脂/アルカリ水可溶性樹脂)としては、これらの組成や組み合わせ、作業環境等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1/99〜99/1であることが好ましい。より好ましくは、10/90〜90/10であり、更に好ましくは、25/75〜75/25である。
【0017】
上記吸水性樹脂としては、水を吸水することによって膨潤し、かつ、自重に対するイオン交換水の吸水倍率が3倍以上(25゜C、1時間)の樹脂であることが好適である。より好ましくは、吸収倍率が10倍以上のものである。このような吸水性樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸架橋体、ポリ(メタ)アクリル酸塩架橋体、スルホン酸基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステル架橋体、ポリオキシアルキレン基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステル架橋体、ポリ(メタ)アクリルアミド架橋体、(メタ)アクリル酸塩と(メタ)アクリルアミドとの共重合架橋体、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルと(メタ)アクリル酸塩との共重合架橋体、ポリジオキソラン架橋体、架橋ポリエチレンオキシド、架橋ポリビニルピロリドン、スルホン化ポリスチレン架橋体、架橋ポリビニルピリジン、デンプン−ポリ(メタ)アクリロニトリルグラフト共重合体のケン化物、デンプン−ポリ(メタ)アクリル酸(塩)グラフト架橋共重合体、ポリビニルアルコールと無水マレイン酸(塩)との反応生成物、架橋ポリビニルアルコールスルホン酸塩、ポリビニルアルコール−アクリル酸グラフト共重合体、ポリイソブチレンマレイン酸(塩)架橋重合体等の水溶性又は親水性化合物(単量体及び/又は重合体)を架橋剤で架橋させた合成吸水性樹脂;ゼラチン、寒天等の天然水膨潤性物等の1種又は2種以上が好適である。中でも、水溶性又は親水性化合物を架橋剤で架橋させた合成吸水性樹脂を用いることが好ましく、これにより、膨潤倍率、水可溶分、吸水速度、強度等のバランスが良好となり、更にそのバランスの調整も容易に行うことが可能となる。
【0018】
上記吸水性樹脂の好ましい形態としては、ノニオン性基及び/又はスルホン酸(塩)基を有する吸水性樹脂である。より好ましくは、アミド基又はヒドロキシアルキル基を有する吸水性樹脂であり、例えば、(メタ)アクリル酸塩と(メタ)アクリルアミドとの共重合架橋体、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルと(メタ)アクリル酸塩との共重合架橋体等が挙げられる。これらの形態では、アルカリ水や海水等の金属イオンを含む水に対する吸水性が向上することになり、土質の影響による摩擦低減性能の低下を防ぐことができる。
上記吸水性樹脂としてはまた、水溶性を有するエチレン性不飽和単量体と、必要に応じて架橋剤とを含む単量体成分を重合することにより得られる樹脂を用いることができる。エチレン性不飽和単量体を(共)重合してなる吸水性樹脂は、水に対する膨潤性により優れ、かつ一般的に安価であるため、このような吸水性樹脂を用いることにより、摩擦低減性能を向上させ、かつ経済的に行うことができる。なお、上記架橋剤は、特に限定されるものではない。また、直鎖状の高分子に架橋剤を添加して架橋することにより、又は、電子線を照射して架橋することにより、吸水性樹脂を形成することもできる。
【0019】
上記エチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、並びに、これら単量体のアルカリ金属塩やアンモニウム塩;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、並びに、その四級化物;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等の(メタ)アクリルアミド類、並びに、これら単量体の誘導体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルスクシンイミド等のN−ビニル単量体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニル−N−メチルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド等のN−ビニルアミド単量体;ビニルメチルエーテル;等の1種又は2種以上を使用することができる。
【0020】
上記エチレン性不飽和単量体の中でも、ノニオン性基及び/又はスルホン酸(塩)基を有するエチレン性不飽和単量体が好ましく、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の1種又は2種以上を使用することができる。これらを含む単量体成分を重合して得られる吸水性樹脂は、アルカリ水や海水等の金属イオンを含む水に対する膨潤性に特に優れているため好ましく、該吸水性樹脂を用いることにより、摩擦低減性能を向上させる。
【0021】
上記吸水性樹脂において、単量体成分としてエチレン性不飽和単量体を2種類以上併用する場合においては、全単量体成分に占める、ノニオン性基及び/又はスルホン酸(塩)基を有するエチレン性不飽和単量体の割合を1質量%以上にすることが好適である。1質量%未満であると、鋼材等の引抜き作業の作業性を更に向上することができないおそれがある。より好ましくは、10質量%以上である。
尚、単量体成分としてエチレン性不飽和単量体を2種類以上併用する場合における好適な組み合わせとしては、例えば、アクリル酸ナトリウム等の(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とアクリルアミドとの組み合わせ、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートとの組み合わせ等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0022】
上記吸水性樹脂としては、上述した単量体成分を(共)重合することにより得ることができるが、その(共)重合方法は特に限定されず、通常用いられている方法により行うことができる。また、吸水性樹脂の平均分子量や形状、平均粒子径、更に、このような吸水性樹脂等を有する潤滑層の厚みや塗布量は、使用用途や作業環境等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。例えば、平均粒子径としては、上限が1000μmであることが好ましい。1000μmを超えると、潤滑層を形成させるための塗布性(コーティング性)が充分とはならず、また、潤滑層における吸水性樹脂の分布が均一とはならず、潤滑性能に優れたものとすることができないおそれがある。より好ましい上限は500μmであり、更に好ましい上限は200μmである。また、下限は1μmであることが好ましい。より好ましい下限は5μmであり、更に好ましい下限は10μmである。
上記摩擦低減材の好適な形態の樹脂組成物において、アルカリ水可溶性樹脂としては、酸性又は中性を呈する水には溶解せず、アルカリ性を呈する水には溶解する樹脂を意味する。ここで、「中性を呈する水」とは、pH値が6〜8の範囲内の水であり、「酸性を呈する水」とは、pH値が該中性の範囲未満の水であり、「アルカリ性を呈する水」とは、pH値が該中性の範囲よりも大きい水である。
尚、上記アルカリ水可溶性樹脂としては、アルカリ水への溶解性の程度として、下記評価試験によって求められる減少率が50〜100%のものが好ましい。より好ましくは、60〜100%であり、更に好ましくは、70〜100%である。
【0023】
(アルカリ水への溶解性の評価試験)
二軸押出機を用いて得ることができるアルカリ水可溶性樹脂を、直径5mm、長さ5mmの円筒状のペレット形状に成形したものを用いて測定する。この成形体10gを、1Lのビーカーに入れた0.4質量%濃度のNaOHの水溶液500gに投入し、25℃にて、直径が40mm、4枚はねを用い、300rpmで24時間攪拌を行う。その後のアルカリ水可溶性樹脂の成形体におけるアルカリ水へ溶解した質量の、元の成形体からの減少率で評価する。すなわち、24時間攪拌後に溶解せずに残った樹脂分について、ろ別等を行い、水で洗浄し、乾燥後の質量を求め、溶解性試験にかける前における元のアルカリ水可溶性樹脂の質量からの減少率(%);(元の質量−溶解性試験後の質量)/(元の質量)で評価する。また、ペレット化されていなくても、5mm角以下の任意の形状の成形品であっても、アルカリ水への溶解性を示す場合には、上記アルカリ水可溶性樹脂の範囲である。
【0024】
上記アルカリ水可溶性樹脂としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の置換基を有する樹脂;フェノール性ヒドロキシル基を含むノボラック樹脂;ポリビニルフェノール樹脂等の1種又は2種以上を用いることができる。中でも、アルカリ水に対する溶解性や経済性、樹脂組成物の各種物性等に優れる点で、α,β−不飽和カルボン酸系単量体と、α,β−不飽和カルボン酸系単量体以外のビニル系単量体とを共重合して得られる樹脂が好適である。
【0025】
なお、カルボン酸基を有する樹脂であるヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートヘキサヒドロフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースヘキサヒドロフタレート等のセルロース誘導体を用いることもできる。
上記α,β−不飽和カルボン酸系単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸無水物;マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル、イタコン酸モノエステル等のα,β−不飽和ジカルボン酸モノエステル等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。中でも、柔軟性や靭性に優れることから、アクリル酸及び/又はメタクリル酸が好適である。
【0026】
上記ビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ステアリル等の炭素数1〜18の一価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系単量体;アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等の水酸基含有ビニル系単量体;メタクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有ビニル系単量体;アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛等のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;酢酸ビニル等の脂肪族ビニル系単量体;塩化ビニル、臭化ビニル、ヨウ化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン基含有ビニル系単量体;アリルエーテル類;無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル等のマレイン酸誘導体;フマル酸モノアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル等のフマル酸誘導体;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ステアリルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド誘導体;イタコン酸モノアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル、イタコンアミド類、イタコンイミド類、イタコンアミドエステル類等のイタコン酸誘導体;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン類等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。
これらのビニル系単量体の中でも、柔軟性、耐候性及び靭性に優れる点で、アクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルが好適である。より好ましくは、これら炭素数1〜18の一価アルコールと(メタ)アクリル酸とをエステル化して得られる(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの使用量を、用いられるビニル系単量体全量100質量%に対して、30〜100質量%とすることが好ましく、これにより、樹脂組成物の柔軟性や耐候性、靭性を更に向上できることとなる。より好ましくは、50〜100質量%である。
【0027】
上記α,β−不飽和カルボン酸系単量体とビニル系単量体との質量比としては、これらの合計量100質量%に対して、α,β−不飽和カルボン酸系単量体が9質量%以上であることが好ましく、これにより、アルカリ水に対する溶解性をより向上することが可能となる。また、α,β−不飽和カルボン酸系単量体の範囲としては、9〜40質量%であることが好適であり、この場合には、アルカリ水に対する溶解性のみならず、柔軟性や耐候性、靭性に特に優れたアルカリ水可溶性樹脂を得ることができる。
上記アルカリ水可溶性樹脂としては、上述したα,β−不飽和カルボン酸系単量体及びビニル系単量体等の単量体成分を(共)重合することにより得ることができるが、(共)重
合方法は、通常用いられている方法により行うことができる。
上記アルカリ水可溶性樹脂等のアルカリ水可溶性樹脂において、重量平均分子量(Mw)としては、地盤を構成する土壌や水硬性組成物の組成、アルカリ水のpH、作業環境等に応じて適宜設定すればよいが、下限が1万、上限が200万であることが好ましい。この範囲においては、鋼材への密着性及び作業性がより充分に発揮されることとなる。より好ましい下限は3万であり、更に好ましい下限は5万であり、特に好ましい下限は10万である。また、より好ましい上限は150万であり、更に好ましい上限は100万であり、特に好ましい上限は90万である。
尚、上記重量平均分子量(Mw)は、分子量校正用標準物質としてTSK標準ポリスチレンPS−オリゴマーキット(東ソー社製)を使用し、溶媒としてテトラヒドロフラン(安定剤含有(和光純薬工業社製、試薬特級)を使用して、高速GPC装置・HLC−8120GPC(東ソー社製)にて測定した値である。
【0028】
上記アルカリ水可溶性樹脂の酸価(mgKOH/g)としては、15以上であることが好ましい。15未満であると、アルカリ水に対する溶解性が低下するので、杭の引抜き性や摩擦低減効果が低下するおそれがあり、また、引抜き作業をより容易化することができないおそれがある。より好ましくは、30以上であり、更に好ましくは、50以上であり、特に好ましくは、70以上である。また、500以下であることが好ましい。500を超えると、アルカリ水可溶性樹脂の耐水性が充分とはならず、雨等の中性域又は酸性域のpHを示す水と接触すると溶解して損傷するおそれがあり、鋼材埋設作業や引抜き作業等をより効率的に行うことができないおそれがある。
【0029】
上記アルカリ水可溶性樹脂のガラス転移温度としては、鋼材表面への密着性及び鋼材を土中へ埋設する際における樹脂組成物の強靭性の両立という点から、−80〜120℃にガラス転移温度(Tg)を少なくとも1つ有することが好ましく、より好ましくは、2つ以上有することである。ガラス転移温度を上記範囲内に設定することにより、摩擦低減材層の強度や柔軟性を充分なものとすることが可能となり、作業効率をより高めることができる。上記アルカリ水可溶性樹脂の特に好ましい形態としては、−30〜20℃の範囲内に低温側のTgを有し、併せて40〜100℃の範囲内に高温側のガラス転移温度の2つ以上のTgを有することが好適であり、これにより、柔軟化成分と形状保持成分とのバランスをより向上することができる。
尚、ガラス転移温度とは、示差走査熱量測定(DSC;differential scanning calorimetry)によって得られるDSC微分曲線のピークトップ(DSC曲線の変曲点)である。
【0030】
上記摩擦低減材層の好適な形態の樹脂組成物において、含有してもよい溶剤としては特に限定されず、例えば、通常の塗料等に用いられる溶剤を使用すればよい。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール誘導体、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のプロピレングリコール誘導体等の1種又は2種以上を用いることができる。なお、溶剤として、アルカリ水可溶性樹脂中に含まれる溶媒を使用することもできる。
上記溶剤(溶媒)としてはまた、アルカリ水可溶性樹脂を溶解する性質を有することが好ましく、溶剤がアルカリ水可溶性樹脂を溶解することにより、アルカリ水可溶性樹脂が樹脂組成物中により均一に分散することができ、アルカリ水可溶性樹脂としての性能を好ましく発現することができることとなる。アルカリ水可溶性樹脂を溶解する溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましい。より好ましくは、アルカリ水可溶性溶解性の点から、アルコール、ケトン、脂肪族エステル、アルキレングリコールから選択される少なくとも1種である。
上記樹脂組成物としてはまた、その作用効果を阻害しない範囲内で、他の樹脂や、顔料、界面活性剤、各種安定剤、各種充填材等の添加剤を含んでもよい。
【0031】
本発明の摩擦低減材の形態は、液体や粘性体(分散体も含む)、粉体、シート形態などがあり、埋設物表面の摩擦を低減できれば特に制限されるものではないが、埋設物表面に形成させる観点から、液体またはシート形態が好ましい。
摩擦低減材が液体の場合、直接、埋設物表面に塗布でき、経済的で好ましい。
本発明の摩擦低減材が液体の摩擦低減材である場合、塗布可能な適度な粘度を持った液体にする必要があり、好適なバインダー樹脂の選択や溶剤の選択により調製する。アルカリ水可溶性樹脂がバインダー樹脂として好適である。
また、摩擦低減材がシート形態の場合は、接着剤等を介して、埋設物表面に貼付ける。
【0032】
シート状の摩擦低減材は、潤滑性の樹脂を溶融や成型などの加工によりシート形状にする方法や、粉体状の摩擦低減材を布などのシート状基材にバインダー樹脂と共に塗布(コーティング)する方法などで得られる。シート状の摩擦低減材は、摩擦低減材を直接埋設物に塗布する場合に比べて、埋設物表面への貼付け施工が簡便で施工作業性を向上させ、塗り斑が発生せず均一な摩擦低減材層を形成できるので、好ましい形態の一つである。
シート状基材表面に摩擦低減材層を形成する方法としては、潤滑性の物質(潤滑剤)や基材の材質等に応じて適宜選択すればよく特に限定されないが、例えば、塗布機による塗布、噴霧(スプレー)塗り、刷毛塗り、ローラー塗りの他、基材に潤滑剤を含む溶液を含浸させる方法等が挙げられる。具体的には、例えば、アルカリ水可溶性樹脂と吸水性樹脂とを含む樹脂組成物を用いる場合においては、両者を有機溶剤や水等の分散媒に分散(又は溶解)してなる分散液(樹脂溶液)を基材表面に、噴霧(スプレー)する方法;樹脂溶液を刷毛塗り又はローラーを用いて塗布する方法;基材に樹脂溶液を含浸させる方法等;アルカリ水可溶性樹脂を含む溶液又は分散液を基材表面に噴霧又は塗布した後、該表面に吸水性樹脂を均一に撒布し、更にこの上に該溶液又は分散液を噴霧又は塗布する方法等が挙げられる。
【0033】
上記摩擦低減材層の膜厚としては、その成分等に応じて適宜設定すればよく特に限定されないが、例えば、下限が0.01mm、上限が5mmであることが好ましい。0.01mm未満であると、それぞれの層の作用効果を充分に発揮できないおそれがあり、5mmを超えると、シートの取り扱い性や保存性が充分とはならないおそれがある。より好ましい下限は0.02mm、上限は1mmであり、更に好ましい下限は0.05mm、上限は0.5mmである。
また、基材に対する摩擦低減材層の割合、すなわち基材の単位面積当たりに対する潤滑剤の付着量は、両者の組成や組み合わせ、作業環境等に応じて設定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、1〜10000g/m2の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、10〜5000g/m2であり、更に好ましくは、20〜1000g/m2である。なお、基材100重量部に対する潤滑剤の割合としては、1〜10000重量部であることが好ましい。より好ましくは、10〜1000重量部であり、更に好ましくは、20〜500重量部である。
【0034】
本発明の摩擦低減材が適用される地盤は、地盤沈下を引き起こす地盤であれば特に制限はないが、N値が40以下の軟弱層に適用するときにその効果は顕著であり好ましい。N値が25以下の軟弱層に適用することが更に好ましい。N値が10以下の軟弱層に適用することがさらに好ましい。N値が5以下の軟弱層に適用することが特に好ましい。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0036】
以下において、重量平均分子量(Mw)は、分子量校正用標準物質としてTSK標準ポリスチレンPS−オリゴマーキット(東ソー社製)を使用し、溶媒としてテトラヒドロフラン(安定剤含有(和光純薬工業社製、試薬特級)を使用して、高速GPC装置・HLC−8120GPC(東ソー社製)で測定した。また、ガラス転移温度(Tg)の測定は、JIS K7121−1987のプラスチックの転移温度測定方法に準じ、示差走査熱量計・DSC6200(セイコー電子工業社製)で測定(加熱速度:10℃/min)した。
【0037】
〔アルカリ水可溶性樹脂の調製〕
アルカリ水可溶性樹脂を以下の方法で以て調製した。すなわち、温度計、攪拌翼、還流冷却器及び滴下装置を備えた容量100Lの槽型反応器に、アクリル酸1.8kg、アクリル酸エチル10.2kg、重合開始剤である2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)24g、および、溶媒であるメチルアルコール28kgを仕込んだ。また、滴下装置に、アクリル酸2.7kg、アクリル酸メチル5.4kg、メタクリル酸メチル9.9kg、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)66g、および、メチルアルコール2kgからなる混合溶液を仕込んだ。
上記のメチルアルコール溶液を窒素ガス雰囲気下、攪拌しながら65℃に加熱し、20分間反応させた。これにより、内容物の重合率を72%に調節した。続いて、内温を65℃に保ちながら、滴下装置から上記の混合溶液を2時間かけて均等に滴下した。滴下終了後、内容物を65℃でさらに3時間熟成させた。反応終了後、内容物にメチルエチルケトン60kgを混合することにより、アルカリ水可溶性樹脂の25質量%溶液を得た。
得られたアルカリ可溶性樹脂の酸価は117mgKOH/gであった。また、該アルカリ水可溶性樹脂の重量平均分子量Mwは15.6万、数平均分子量Mnは6.9万であった。さらに、示差走査熱量機で測定したところ、ガラス転移温度(Tg)が10℃と67℃とに観測された。また、上記バインダー樹脂の、25℃のイオン交換水への溶解性は、0.5%未満であり、また、アルカリ水可溶性は100%であった。
【0038】
〔吸水性樹脂〕
吸水性樹脂としては、市販のポリアクリル酸ナトリウム塩架橋体(商品名:アクアリックCA ML−70、平均粒径50μm、日本触媒社製)を使用した。
【0039】
〔摩擦低減材の作製〕
アルカリ水可溶性樹脂(以下、ASPと称す)固形分と、吸水性樹脂(以下、SAPと称す)とが重量比1:1となるようにASP溶液とSAPとを混合することにより、潤滑層となるべき組成物(樹脂溶液)を得た。そして、75×40mmの大きさに裁断した織布(90g/m2、厚み0.23mm、ポリエステル/綿=60/40、混紡織布)に組成物を樹脂固形分塗布量が120g/m2となるように塗布し、乾燥前に補助材のワリフ基材(秤量41g/m2、厚み0.08mm、細長フィルム(繊維)幅0.5〜2mm、格子孔幅2mm)を組成物層の上から合わせ、乾燥して試料のシート状の摩擦低減材を作製した。
【0040】
〔摩擦試験〕
図2および図3に示した試験機を使って、圧力がかかった状態での土(地盤)と杭(埋設物)との摩擦力を測定した。
まず、内径80mm、高さ180mmのステンレス製の本体容器の中央部に摩擦低減材を表面に貼り付けた杭を垂直に挿入し、その内部にある内径80mm高さ80mmの土充填部に土を充填した。次に蓋をして、天板と底板で本体容器を挟み込み、加圧機で20kg/cm2の圧力をかけた状態で杭を1分間当たり10mmの速度で回転させるときに生じる摩擦力を1年間測定した。
試験で使用した杭は、長さ300mm、外径21mmの鋼管であり、試験で使用した土は、豊浦標準砂840gと水190gを混合した土である。
また、試験で使用した加圧機は、 RIKEN SEIKI CO.LTD.(理研)製の油圧ポンプである。(測定限界100MPa)
尚、天板と底板は、外径200mm、厚み24mmの鉄板であり、その天板と底板との間に本体を設置し、天板と底板を長尺ボルトとナットで固定することができ、下部からは加圧機により圧力をかけることができる。
結果を図1に示した。
【0041】
1年後のデータで比較すると、摩擦低減材を使用しなかった無処理の杭に比べ、摩擦低減材を処理(FRC処理)した杭の摩擦力は1/10になり、大幅に土と杭との摩擦抵抗を低減させることが判明した。
【0042】
この結果から、埋設物面の摩擦を非常に小さくすることができることが分かった。従って、埋設物自体の沈下を最小限に抑えることが可能となり、周辺地盤への悪影響の抑制が可能となり、また、杭へかかる荷重を小さくさせることが可能であるので、杭の必要な強度も小さくて済み、厚みを小さくしたり、埋設物の形状も簡易な形に変えることができる。
また、支柱鋼矢板の場合に適用した場合は、沈下時の必要な着底鋼矢板の先端支持力を小さくすることが可能であり、着底鋼矢板の本数を減らすことがが可能であり、また、埋設物の引抜き回収を行う場合には、土付着(共上がり)を抑制が可能となり、更には、本格工事着工前に行われる地盤安定化のための地盤の圧密促進を加速することを可能にするので工期短縮化を実現できる。更には、地中に埋設され所定の位置に配置されたボックスカルバートやタンク、管体などの変位・亀裂・損傷を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】杭に生ずる摩擦力を測定した結果を示す図である。図中、実線1は、本発明の摩擦低減材を塗布した杭に生ずる摩擦力を測定した結果、破線2は、本発明の摩擦低減材を塗布していない杭に生ずる摩擦力を測定した結果である。
【図2】摩擦力測定試験に使用した試験機の形状を示す図である。なお、図中の数字の単位は、ミリメートルである。
【図3】摩擦力測定試験に使用した試験機の外観を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋設物表面に形成させる摩擦低減材であって、軟弱層の途中まで挿入される埋設物に形成させることを特徴とする摩擦低減材。
【請求項2】
摩擦低減材が、吸水性樹脂とアルカリ水可溶性樹脂とを必須成分とする組成物である請求項1記載の摩擦低減材。
【請求項3】
埋設物が鋼矢板である請求項1又は2記載の摩擦低減材。
【請求項4】
埋設物表面への形成方法が、塗布または貼付けである請求項1乃至3のいずれかに記載の摩擦低減材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−303628(P2008−303628A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152412(P2007−152412)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)