摩擦係数算出システム及び算出プログラム並びにプレス成形シミュレーションシステム及びシミュレーションプログラム
【課題】摩擦係数の計算量を少なくすることができるとともにシミュレーション精度を向上させることができる摩擦係数を算出する。
【解決手段】摩擦係数の算出システムは、モーションデータを取得するモーション取得手段と、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段と、モーションデータと摩擦係数特性データとからプレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間に応じた摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段とを有し、モーションデータが、プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして摩擦係数特性データから算出する。
【解決手段】摩擦係数の算出システムは、モーションデータを取得するモーション取得手段と、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段と、モーションデータと摩擦係数特性データとからプレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間に応じた摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段とを有し、モーションデータが、プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして摩擦係数特性データから算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板のプレス成形をシミュレーションするプレス成形シミュレーションで用いられる摩擦係数の算出システム及び算出プログラム、並びに、その摩擦係数を適用して金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションシステム及びシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属板をプレス成形してプレス成形品を製造する場合、プレス成形品に割れなどの成形不良が生じないような最適なプレス成形型の設計や成形条件の設定などを行うために、コンピュータを用いて、事前に金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションすることが行われている。
【0003】
このプレス成形シミュレーションでは、金属板とプレス成形型との間の摩擦係数をどのように設定するかが重要となっているが、従来のシミュレーションでは、プレス成形時、金属板とプレス成形型との間の摩擦係数を一定の所定値に設定してシミュレーションすることが行われていた。
【0004】
これに対し、摩擦係数を一定の所定値に設定する場合に比してシミュレーションの精度を向上させるものとして、例えば特許文献1には、摩擦係数を、面圧、摩擦仕事量及び塑性ひずみをパラメータとして用いた多項式近似式によって算出し、摩擦係数を経時的に変化させるようにしたものが開示されている。
【0005】
一方、近年では、金属板をプレス成形してプレス成形品を製造する場合に、クランク機構によってプレス成形型を移動させるクランクプレスに代えて、サーボモータによってプレス成形型を移動させるサーボプレスが用いられており、かかるサーボプレスでは、クランクプレスを用いて製造する場合には割れが生じる形状であっても、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形によって割れが生じないように成形できることが知られている。
【0006】
ここで、金属板から同一形状のプレス成形品を製造する場合に、クランクプレスを模擬したクランクモーションと、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションとをそれぞれ用いてプレス成形したプレス成形品の成形性の違いについて説明する。
【0007】
図21は、クランクプレスを模擬したクランクモーションを示す図であり、図22は、クランクモーションによってプレス成形したプレス成形品の写真である。また、図23は、逐次成形を有するモーションを示す図であり、図24は、逐次成形を有するモーションによってプレス成形したプレス成形品の写真である。
【0008】
なお、図22及び図24に示すプレス成形品は、金属板をプレス成形型のダイとブランクホルダとにより挟持した状態でダイとブランクホルダとをプレス成形型のパンチに対して相対的に移動させることにより成形したものであり、同一のプレス成形型を用いてプレス成形型のモーション以外の成形条件や潤滑油の塗布条件などを同一にして成形したものである。
【0009】
図21に示すようなクランクプレスを模擬したクランクモーションによってプレス成形した場合には、図22に示すように、プレス成形品の先端部の周縁部に割れが発生しているが、図23に示すような金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションによってプレス成形した場合には、図24に示すように、プレス成形品の先端部の周縁部に割れが発生することなく成形することができ、逐次成形を有するモーションによってプレス成形品の成形性を向上させることができることが分かる(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4231426号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】菅沼、久野、「サーボプレスのスライドモーション活用」、プレス技術、2009年1月、第47巻、第1号、p.48−51
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、同一形状のプレス成形品を製造する場合においても、プレス成形時のモーションの違いによって成形性が異なることから、これらの違いをシミュレーションにおいて解析することができるように、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形をシミュレーションする際にも適用することができ、シミュレーションの精度を向上させることができるプレス成形シミュレーションが望まれている。
【0013】
一方、本願発明者等は、鋭意検討した結果、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションによってプレス成形した場合に割れが抑制される理由として、プレス成形型のプレス工具が金属板に接してからのプレス工具のストロークが大きくなるにつれて潤滑油が少なくなるので、摩擦係数が大きくなって割れが発生しやすくなるが、間欠的に金属板への負荷を除去してプレス工具と金属板とを離間させると、潤滑油が再流入して摩擦係数が低減されるからであると考えた。
【0014】
かかる仮説に基づいて、金属板のプレス成形をシミュレーションする際に用いる摩擦係数を、プレス工具が金属板に接してからのプレス工具のストロークが大きくなるにつれて大きくなるように変化させることで、シミュレーションの精度を向上させることができると考えられる。
【0015】
また、前記特許文献1に記載されるものは、摩擦係数を、面圧、摩擦仕事量及び塑性ひずみを用いた多項式近似式によって算出しているが、この多項式近似式における係数を特定するために多数の実験を要するものであり、また、シミュレーションにおいてもプレス成形時の状態に応じて各パラメータを計算する必要があるので、計算量が非常に多くなるものである。
【0016】
さらに、前記特許文献1に記載のものは、クランクモーションによるプレス成形を前提とするものであると考えられ、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形をシミュレーションする際には、精度の良いシミュレーション結果を得ることが難しいものと思われる。
【0017】
そこで、本発明は、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形をシミュレーションする際にも適用することができ、摩擦係数の計算量を少なくすることができるとともにシミュレーションの精度を向上させることができる摩擦係数算出システム及び算出プログラム、並びにプレス成形シミュレーションシステム及びシミュレーションプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このため、本願の請求項1に係る発明は、
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションで用いられる摩擦係数を算出する摩擦係数算出システムであって、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段と、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段と、
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段と、
を有し、
該摩擦係数算出手段は、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出する、
ことを特徴とする。
【0019】
また、本願の請求項2に係る発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記摩擦係数特性取得手段は、前記距離がゼロであるときの摩擦係数と、少なくとも1つの前記距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とを取得し、
前記摩擦係数算出手段は、前記距離が、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された摩擦係数特性データにおいて隣り合う前記距離の間では、補間法を用いて前記摩擦係数を算出する、
ことを特徴とする。
【0020】
更に、本願の請求項3に係る発明は、
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションであって、
プレス成形品の図形データを取得する図形データ取得手段と、
該図形データ取得手段によって取得された図形データに基づいて、有限要素分割したプレス成形品の解析モデルを作成する解析モデル作成手段と、
有限要素解析で用いるプレス成形型のプレス工具と金属板との間の摩擦係数を取得する摩擦係数取得手段と、
前記解析モデル作成手段によって作成された解析モデルについて、前記摩擦係数取得手段によって取得された摩擦係数を用いて有限要素解析を行う有限要素解析手段と、
を有し、
前記摩擦係数取得手段は、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段と、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段と、
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段と、
を有し、
該摩擦係数算出手段は、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出する、
ことを特徴とする。
【0021】
また更に、本願の請求項4に係る発明は、
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションで用いられる摩擦係数を算出する摩擦係数算出プログラムであって、
コンピュータを、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段、及び、
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段として機能させると共に、
前記摩擦係数算出手段として機能させるときは、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出するように機能させる、
ことを特徴とする。
【0022】
また更に、本願の請求項5に係る発明は、前記請求項4に記載の発明において、
コンピュータを、
前記摩擦係数特性取得手段として機能させるときは、前記距離がゼロであるときの摩擦係数と、少なくとも1つの前記距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とを取得するように機能させると共に、
前記摩擦係数算出手段として機能させるときは、前記距離が、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された摩擦係数特性データにおいて隣り合う前記距離の間では、補間法を用いて前記摩擦係数を算出するように機能させる、
ことを特徴とする。
【0023】
また更に、本願の請求項6に係る発明は、
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションプログラムであって、
コンピュータを、
プレス成形品の図形データを取得する図形データ取得手段、
該図形データ取得手段によって取得された図形データに基づいて、有限要素分割したプレス成形品の解析モデルを作成する解析モデル作成手段、
有限要素解析で用いるプレス成形型のプレス工具と金属板との間の摩擦係数を取得する摩擦係数取得手段、及び、
前記解析モデル作成手段によって作成された解析モデルについて、前記摩擦係数取得手段によって取得された摩擦係数を用いて有限要素解析を行う有限要素解析手段として機能させると共に、
前記摩擦係数取得手段として機能させるときは、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段、及び
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段として機能させ、且つ、
該摩擦係数算出手段として機能させるときは、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出するように機能させる、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上の構成により、本願各請求項の発明によれば、次の効果が得られる。
【0025】
先ず、本願の請求項1に係る発明によれば、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションする際に用いられるプレス工具と金属板との間の摩擦係数が、モーションデータと、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データとを用いて算出されることとなる。したがって、摩擦係数の計算量を少なくすることができるとともに、プレス工具が金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離が大きい場合には該距離が小さい場合に比して潤滑油が少なくなることを考慮して摩擦係数を大きくすることができ、シミュレーションの精度を向上させることができる。
【0026】
また、モーションデータが、プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして摩擦係数特性データから算出されることになる。したがって、プレス工具の金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形時にプレス工具と金属板との間に潤滑油が再流入することを考慮して摩擦係数を算出することができるので、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形をシミュレーションする際にも適用することができる。
【0027】
更に、本願の請求項2に係る発明によれば、前記距離がゼロであるときの摩擦係数と、少なくとも1つの前記距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とを取得し、前記距離が、摩擦係数特性取得手段によって取得された摩擦係数特性データにおいて隣り合う前記距離の間では、補間法を用いて摩擦係数が算出されるので、予め入力する摩擦係数データを少なくすることができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0028】
一方、本願の請求項3に係る発明によれば、前記請求項1に記載のモーション取得手段、摩擦係数特性取得手段及び摩擦係数算出手段と同様の手段によって算出された摩擦係数を用いて、金属板のプレス成形が有限要素法を用いてシミュレーションされることにより、シミュレーションを短時間で精度良く行うことができる。
【0029】
そして、本願の請求項4〜6に記載のプログラムに関する発明によれば、これをコンピュータで実行することにより、システムに関する前記請求項1〜3に記載の発明と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係るシステムの全体構成を示す図である。
【図2】図1に示すプログラム記録部の構成を示す図である。
【図3】図1に示すデータ記録部の構成を示す図である。
【図4】モーションデータテーブルを示す図である。
【図5】本実施形態に係るシミュレーションにおける金属板のプレス成形を説明するための説明図である。
【図6】プレス成形時のモーションを示すグラフである。
【図7】摩擦係数特性データテーブルを示す図である。
【図8】摩擦係数特性を示すグラフである。
【図9】摩擦係数算出データテーブルを示す図である。
【図10】本実施形態に係るシミュレーションにおける摩擦係数を示すグラフである。
【図11】モーションデータ入力画面を示す図である。
【図12】摩擦係数特性データ入力・計算画面を示す図である。
【図13】プレス成形をシミュレーションする動作を示すフローチャートである。
【図14】摩擦係数を算出する動作を示すフローチャートである。
【図15】有限要素を解析する動作を示すフローチャートである。
【図16】シミュレーション解析結果画面を示す図である。
【図17】モーションデータ入力画面の別の画面を示す図である。
【図18】シミュレーション解析結果画面の別の画面を示す図である。
【図19】摩擦係数特性データテーブルの別の例を示す図である。
【図20】摩擦係数特性の別の例を示すグラフである。
【図21】クランクプレスを模擬したクランクモーションを示す図である。
【図22】クランクモーションによってプレス成形したプレス成形品の写真である。
【図23】逐次成形を有するモーションを示す図である。
【図24】逐次成形を有するモーションによってプレス成形したプレス成形品の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るシステムの全体構成を示す図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係るシステムは、コンピュータ10を中心として構成され、コンピュータ10は、中央処理装置11と、摩擦係数の算出やプレス成形シミュレーションの計算に必要なデータなどを入力するキーボードなどの入力装置12と、DVDなどの記録媒体20からプレス成形品の図形データであるCADデータを読込むためのCADデータ読込み装置13と、摩擦係数の算出やプレス成形シミュレーションの計算に必要なプログラム及びデータを記録するプログラム記録部14a及びデータ記録部14bを有するメモリなどの記録装置14と、入力画面や解析結果などを表示するためのディスプレイなどの表示装置15と、プレス成形シミュレーションの解析結果などを出力するプリンタなどの印刷装置16とを有している。
【0032】
中央処理装置11は、入力装置12、表示装置15及び印刷装置16を制御するとともに、CADデータ読込み装置13及び記録装置14にアクセス可能に構成され、入力装置12やCADデータ読込み装置13を介して入力された情報と、記録装置14に記憶されているプログラム及びデータを用いて、摩擦係数の算出やプレス成形シミュレーションをすることができるように構成されている。
【0033】
図2は、図1に示すプログラム記録部の構成を示す図である。図2に示すように、プログラム記録部14aには、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするためのメインプログラム、プレス成形品の図形データに基づいて、有限要素分割したプレス成形品の解析モデルを作成するための解析モデル作成プログラム、プレス工具と金属板との間の摩擦係数を算出するための摩擦係数算出プログラム、解析モデルについて、摩擦係数算出プログラムを用いて算出された摩擦係数を適用して有限要素解析を行うための有限要素解析プログラム、及び、入力画面や解析結果などを表示するための表示プログラムなどが記録されている。
【0034】
また、図3は、図1に示すデータ記録部の構成を示す図である。図3に示すように、データ記録部14bには、CADデータ読込み装置13を介して入力されたプレス成形品の図形データが記録される図形データファイル、プレス成形品の図形データに基づいて有限要素分割したプレス成形品の解析モデルデータが記録される解析モデルデータファイル、 プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とするプレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータが記録されるモーションデータテーブル、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離(以下、「摺動距離」という)と、プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データが記録される摩擦係数特性データテーブル、モーションデータと摩擦係数特性データとから算出されたプレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間に応じたプレス工具と金属板との間の摩擦係数が記録される摩擦係数算出データテーブル、及び、解析モデルについて有限要素解析を行った解析結果データが記録される解析結果データファイルなどが設けられている。
【0035】
図4は、モーションデータテーブルを示す図であり、図4では、モーションデータの一例が示されている。図4に示すように、モーションデータテーブルには、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とするプレス工具のストロークとが記録され、前記経過時間と前記ストロークとの関係が記録される。また、モーションデータテーブルには、プレス工具の移動方向が負荷方向であるか負荷方向と反対方向である除荷方向であるかを示す負荷・除荷フラグが記録される。
【0036】
図5は、本実施形態に係るシミュレーションにおける金属板のプレス成形を説明するための説明図である。本実施形態では、金属板Wへの負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションによって、図5に示すようなプレス成形型20を移動させ、金属板Wをプレス成形する場合についてシミュレーション解析を行った。
【0037】
具体的には、金属板Wをプレス成形型20のダイ21とブランクホルダ22とにより挟持した状態で、プレス成形型20のパンチ23に対してダイ21とブランクホルダ22とを下方へ移動させてパンチ23をダイ21の成形空間21a内に相対的に移動させることにより、金属板Wをプレス成形する場合についてシミュレーション解析を行った。
【0038】
このようなプレス成形においては、モーションデータに記録される時間は、プレス工具としてのパンチ23が負荷方向への移動により金属板Wに最初に接してからの経過時間が記録され、ストロークは、パンチ23が最初に金属板Wに接したときの位置を原点とするパンチ23の金属板Wに対する荷重負荷・除荷方向へのストロークが記録され、負荷・除荷フラグは、パンチ23が金属板Wに対して負荷方向に移動するときは「+1」とし、除荷方向に移動するときは「−1」として記録される。
【0039】
図6は、プレス成形時のモーションを示すグラフである。図6では、図4に示すモーションデータに記録されたモーションがグラフとして表示され、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間を横軸にとり、最初に接したときの位置を原点とするプレス工具のストロークを縦軸にとって表示している。
【0040】
本実施形態では、パンチ23に対してダイ21とブランクホルダ22とを移動させてパンチ23をダイ21の成形空間21a内に相対的に移動させるので、パンチ23が負荷方向への移動により金属板Wに最初に接してからの経過時間を横軸にとり、パンチ23が最初に金属板Wに接したときの位置を原点とするパンチ23のストロークを縦軸にとって表示している。
【0041】
また、図6では、各経過時間のストロークを直線でつないで表示し、各経過時間における負荷・除荷フラグを白丸印及び黒丸印で表示している。この図6から明らかなように、金属板Wへの負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションによって金属板Wをプレス成形する場合についてシミュレーション解析を行った。
【0042】
なお、本実施形態では、パンチ23に対して金属板Wを挟持するダイ21とブランクホルダ22とを移動させて金属板Wをプレス成形するようにしているが、金属板Wを挟持するダイ21とブランクホルダ22とに対してパンチ23を移動させて金属板Wをプレス成形するようにしてもよい。
【0043】
図7は、摩擦係数特性データテーブルを示す図であり、図7では、摩擦係数特性データの一例が示されている。図7に示すように、摩擦係数特性データテーブルには、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離である摺動距離と、プレス工具と金属板との間の摩擦係数とが記録され、前記摺動距離と前記摩擦係数との関係が記録される。
【0044】
具体的には、摩擦係数特性データテーブルには、前記摺動距離がゼロであるときの摩擦係数である初期値が記録されるとともに、少なくとも1つの前記摺動距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数が記録される。図7に示す摩擦係数特性データテーブルでは、前記摺動距離が0mm、40mm、100mmであるときの摩擦係数が記録され、前記摺動距離が最も大きいときの摩擦係数が最終値として記録されている。
【0045】
本実施形態では、パンチ23をダイ21の成形空間21a内に相対的に移動させることにより、金属板Wをプレス成形する場合についてシミュレーションするので、プレス工具としてのパンチ23と金属板Wとの間の摩擦係数が記録される。この摩擦係数特性データテーブルに入力される摩擦係数特性データは、摩擦係数試験や、既存の摩擦係数データ等から得ることができる。
【0046】
なお、後述するように、前記摺動距離がゼロであるときの摩擦係数と、少なくとも1つの前記摺動距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とが入力され、摩擦係数特性データにおいて隣り合う前記摺動距離の間では、補間法を用いて摩擦係数が算出され、前記摺動距離が摩擦特性データにおける最終値の摺動距離よりも大きいときは、最終値であるときの摩擦係数が算出される。
【0047】
図8は、摩擦係数特性を示すグラフである。図8では、図7に示す摩擦係数特性データに記録された摩擦特性がグラフとして表示され、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離である摺動距離を横軸にとり、プレス工具と金属板との間の摩擦係数を縦軸にとって表示している。
【0048】
図8では、摩擦係数特性について、初期値である摺動距離が0mmであるときの摩擦係数μ0と、摺動距離が40mmであるときの摩擦係数μ1とを直線でつないで表示するとともに、摺動距離が40mmであるときの摩擦係数μ1と、最終値である摺動距離が100mmであるときの摩擦係数μ2とを直線でつないで表示している。
【0049】
また、図9は、摩擦係数算出データテーブルを示す図であり、図9では、摩擦係数算出データの一例が示されている。本実施形態では、モーションデータと摩擦係数特性データとから、プレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間に応じたプレス工具と金属板との間の摩擦係数が算出され、図9に示すように、摩擦係数算出データテーブルに、プレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間と、プレス工具と金属板との間の摩擦係数が記録される。
【0050】
また、摩擦係数算出データテーブルでは、モーションデータが、プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数が、摺動距離をゼロにリセットして摩擦係数特性データから算出されて記録される。
【0051】
本実施形態では、パンチ23をダイ21の成形空間21a内に相対的に移動させることにより、金属板Wをプレス成形する場合についてシミュレーションするので、モーションデータと摩擦係数特性データとから、パンチ23が金属板Wに最初に接してからの経過時間に応じたパンチ23と金属板Wとの間の摩擦係数が算出されて記録される。
【0052】
図10は、本実施形態に係るシミュレーションにおける摩擦係数を示すグラフである。図10では、図4に示すモーションデータと、図7に示す摩擦係数特性データとから算出された摩擦係数がグラフとして表示され、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間を横軸にとり、プレス工具と金属板との間の摩擦係数を縦軸にとって表示している。
【0053】
パンチ23と金属板Wとの間の摩擦係数は、パンチ23が負荷方向への移動により金属板Wに接してからの経過時間に応じて、すなわちパンチ23のストロークに応じて、図7に示す摩擦係数特性データから算出され、図10に示すように、パンチ23が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数が、摺動距離をゼロにリセットして摩擦係数特性データから算出される。
【0054】
前述したように、摩擦係数の算出においては、入力された摩擦係数特性データにおいて隣り合う摺動距離の間では、補間法を用いて摩擦係数が算出され、また、摺動距離が摩擦特性データにおける最終値の摺動距離よりも大きいときは、最終値であるときの摩擦係数が算出される。
【0055】
なお、本実施形態では、プレス工具としてのパンチ23が除荷方向に移動されるときには、パンチ23と金属板Wとが完全に離間すると想定される位置まで移動するように設定される。
【0056】
次に、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションする動作について具体的に説明する。
金属板のプレス成形をシミュレーションする前に、コンピュータ10には、先ず、CADデータ読込み装置13を介して記録媒体20に記録されたプレス成形品の図形データが読み込まれ、データ記録部14bに設けられた図形データファイル(不図示)に記録される。
【0057】
また、コンピュータ10には、入力装置12を介してプレス成形のモーションデータがユーザによって入力される。図11は、モーションデータ入力画面を示す図である。図11に示すように、モーションデータを入力する際には、表示装置15にモーションデータ入力画面30が表示され、該モーションデータ入力画面30には、データ入力部31及びモーション表示部32が設けられるとともに、登録ボタン31が設けられている。
【0058】
データ入力部31には、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、プレス工具が最初に金属板に接したときの位置を原点とするプレス工具のストロークと、プレス工具の移動方向が負荷方向であるか除荷方向であるかを示す負荷・除荷フラグとを入力することができるようになっている。
【0059】
また、モーション表示部32には、データ入力部31に入力されたモーションデータに基づいて、モーションがグラフとして表示されるとともに、負荷及び除荷フラグを白丸印及び黒丸印によって表示されるようになっている。そして、データ入力部31にデータを入力した後に、ユーザによって登録ボタン33が押されると、モーションデータがモーションデータテーブルに記録される。
【0060】
コンピュータ10にはまた、入力装置12を介して摩擦係数特性データがユーザによって入力される。図12は、摩擦係数特性データ入力・計算画面を示す図である。図12に示すように、摩擦係数特性データを入力する際には、表示装置15に摩擦係数特性データ入力・計算画面40が表示され、該摩擦係数特性データ入力・計算画面40には、データ入力部41及び摩擦係数特性表示部42が設けられるとともに、登録ボタン43及び計算ボタン44が設けられている。
【0061】
データ入力部41には、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離である摺動距離と、プレス工具と金属板との間の摩擦係数とを入力することができるようになっている。
【0062】
また、摩擦係数特性表示部42には、データ入力部41に入力された摩擦係数特性データに基づいて、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離である摺動距離と摩擦係数との関係がグラフとして表示されるようになっている。そして、データ入力部41にデータを入力した後に、ユーザによって登録ボタン43が押されると、摩擦係数特性データが摩擦係数特性データテーブルに記録される。
【0063】
このようにして、プレス成形品の図形データ、モーションデータ及び摩擦係数特性データがそれぞれデータ記憶部14bに記録された状態で、図12に示す摩擦係数特性データ入力・計算画面40において計算ボタン44が押されると、金属板のプレス成形をシミュレーションするプレス成形シミュレーションで用いられる摩擦係数の算出、及びその摩擦係数を適用したプレス成形シミュレーションが行われる。
【0064】
図13は、プレス成形をシミュレーションする動作を示すフローチャートであり、プログラム記憶部14aに記録されているメインプログラムの動作を示している。摩擦係数特性データ入力・計算画面40において計算ボタン44が押されると、コンピュータ10では、先ず、プログラム記録部14aに記録されている解析モデル作成プログラムにより、図形データファイルからプレス成形品の図形データが読み込まれ、該図形データに基づいて、有限要素分割されたプレス成形品の解析モデルが作成され(ステップS1)、作成された解析モデルがデータ記録部14の解析モデルデータファイルに記録される。
【0065】
プレス成形品の解析モデルが作成されると、次に、モーションデータファイルに記録されたモーションデータと、摩擦係数特性データファイルに記録された摩擦特性データが読み込まれ、モーションデータと摩擦係数特性データとから、プレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間に応じたプレス工具と金属板との摩擦係数が算出される(ステップS2)。
【0066】
図14は、摩擦係数を算出する動作を示すフローチャートであり、プログラム記録部14aに記録されている摩擦係数算出プログラムの動作を示している。図14に示すように、ステップS2における摩擦係数の算出について、具体的には、コンピュータ10では、摩擦係数特性データテーブルから摩擦係数特性データが読み込まれ(ステップS11)、次に、モーションデータテーブルから1レコードが読み込まれ(ステップS12)、すなわちモーションデータテーブルに記録されたプレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間毎にモーションデータが読み込まれる。
【0067】
そして、負荷・除荷フラグが「−1」であるか否かが判定される(ステップS13)。ステップS13での判定結果がノー(NO)の場合、すなわち負荷・除荷フラグが「−1」でない場合、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離である摺動距離dが、入力された摩擦係数特性データにおける最終値の摺動距離dn未満であるときは、そのときの摩擦係数μは以下の数1で示す式で算出され、入力された摩擦係数特性データにおける最終値の摺動距離dn以上であるときは、そのときの摩擦係数μは以下の数2で示す式で算出され(ステップS14)、算出された摩擦係数μが、摩擦係数算出データテーブルの対応するレコードに書き込まれる(ステップS15)。
【0068】
【数1】
【0069】
【数2】
【0070】
前記数1及び数2では、摺動距離がdiであるときの摩擦係数をμiとして示し、添え字iは、0≦i≦nの自然数を示し、最終値である摺動距離がdnであるときの摩擦係数をμnとして示している。また、後述する数3では、初期値である摺動距離がゼロであるときの摩擦係数をμ0として示している。
【0071】
前述したように、ステップS14では、入力された摩擦係数特性データにおいて隣り合う摺動距離の間では、補間法、具体的には直線補間を用いて摩擦係数が算出され、摺動距離が摩擦特性データにおける最終値の摺動距離よりも大きいときは、最終値であるときの摩擦係数が算出される。
【0072】
一方、ステップS13での判定結果がイエス(YES)の場合、すなわち負荷・除荷フラグが「−1」である場合、摩擦係数μは、以下の数3で示す式で算出され(ステップS16)、算出された摩擦係数μが、摩擦係数算出データテーブルの対応するレコードに書き込まれる(ステップS15)。
【0073】
【数3】
【0074】
ステップS15において、モーションデータテーブルから読み込まれた1レコードについて算出された摩擦係数μが、摩擦係数算出データテーブルの対応するレコードに書き込まれると、モーションデータデーブルに記録された全レコードが終了したか否かが判定され(ステップS17)、ステップS17での判定結果がノーの場合、すなわち全レコードが終了していない場合はステップS12〜S16が繰り返され、ステップS17での判定結果がイエスの場合、すなわち全レコードが終了した場合は、摩擦係数の算出が終了される。
【0075】
このようにして、プレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間に応じたプレス工具と金属板との摩擦係数が算出されると、コンピュータ10では次に、解析モデルデータファイルに記録された解析モデルについて、摩擦係数算出データファイルに記録された摩擦係数を用いて有限要素解析が行われる(ステップS3)。
【0076】
図15は、有限要素を解析する動作を示すフローチャートであり、プログラム記録部14aに記録されている有限要素解析プログラムの動作を示している。図15に示すように、ステップS3における有限要素の解析について、具体的には、コンピュータ10では、摩擦係数算出データファイルから摩擦係数算出データが読み込まれ(ステップS21)、ステップS21で読み込まれた摩擦係数算出データに基づいて補間法により有限要素解析における現時点の摩擦係数が算出される(ステップS22)。
【0077】
そして、ステップS22で算出された現時点での摩擦係数を用いて有限要素解析が行われ(ステップS23)、ステップS24において、金属板のプレス成形のシミュレーション解析が終了したか否かが判定される。ステップS24での判定結果がノーの場合、すなわちシミュレーション解析が終了していない場合はステップS22〜S23が繰り返され、ステップS24での判定結果がイエスになると、すなわちシミュレーション解析が終了すると、有限要素の解析が終了される。
【0078】
このようにして、金属板のプレス成形の有限要素解析を終了すると、コンピュータ10では、解析結果であるプレス成形品のシミュレーション解析結果が解析結果データファイルに記録されるとともに、プログラム記録部14aに記録されている表示プログラムにより表示装置15に出力される(ステップS4)。
【0079】
図16は、シミュレーション解析結果画面を示す図である。図16に示すように、プレス成形のシミュレーション解析結果画面50には、金属板からプレス成形されたプレス成形品の解析結果が表示され、プレス成形品の形状及び板厚の減少率が表示されるようになっている。
【0080】
図16では、図4に示すモーションデータと図7に示す摩擦係数特性データとから図9に示す摩擦係数が算出され、かかる摩擦係数を用い、図4に示すモーションによって金属板をプレス成形した場合についての解析結果が示されている。また、図16に示す解析結果画面50では、金属板の板厚に対するプレス成形品の板厚の減少率の大小を色の濃淡で表すとともに板厚の減少率の最大値及びその箇所を表示することができるようになっている。
【0081】
図16に示すように、この解析結果から、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションによって金属板をプレス成形する際には、プレス成形品の板厚減少率の最大値が31.59%であり、板厚減少率の最大箇所がプレス成形品の先端部の周縁部であることが分かった。
【0082】
また、本実施形態では、図22及び図24に示した実際に金属板からプレス成形したプレス成形品と比較するために、クランクプレスを模擬したクランクモーションによって金属板をプレス成形する場合についても同様にシミュレーション解析を行った。なお、プレス成形のモーション以外の条件は同一にしてシミュレーション解析を行った。
【0083】
図17は、モーションデータ入力画面の別の画面を示す図である。クランクプレスを模擬したクランクモーションとして、図17に示すモーションデータ入力画面30のデータ入力部31に入力されたモーションを用いて金属板のプレス成形のシミュレーション解析を行った。
【0084】
図18は、シミュレーション解析結果画面の別の画面を示す図である。図18では、図17に示すモーションデータと、図7に示す摩擦係数特性データとから摩擦係数が算出され、かかる摩擦係数を用い、図17に示すモーションによって金属板をプレス成形した場合について解析した結果が示されている。
【0085】
図18に示すように、この解析結果から、クランクプレスを模擬したクランクモーションによって金属板をプレス成形する際には、プレス成形品の板厚減少率の最大値が40.23であり、板厚減少率の最大箇所がプレス成形品の先端部の周縁部であることが分かった。
【0086】
これら図16及び図18に示す解析結果から、同一形状のプレス成形品をプレス成形する際に、図17に示すクランクモーションでは図4に示す逐次成形を有するモーションに比べてプレス成形品の板厚が薄くなり割れが発生する可能性が高いことが分かる。そして、これら解析結果は、図22及び図24に示す実際のプレス成形品と一致しており、シミュレーションの精度を向上させることができることが分かる。
【0087】
このように、本実施形態によれば、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションする際に用いられるプレス工具と金属板との間の摩擦係数が、モーションデータと、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データとを用いて算出されることとなる。したがって、摩擦係数の計算量を少なくすることができるとともに、プレス工具が金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離が大きい場合には該距離が小さい場合に比して潤滑油が少なくなることを考慮して摩擦係数を大きくすることができ、シミュレーションの精度を向上させることができる。
【0088】
また、モーションデータが、プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして摩擦係数特性データから算出されることになる。したがって、プレス工具の金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形時にプレス工具と金属板との間に潤滑油が再流入することを考慮して摩擦係数を算出することができるので、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形をシミュレーションする際にも適用することができる。
【0089】
更に、前記距離がゼロであるときの摩擦係数と、少なくとも1つの前記距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とを取得し、前記距離が、摩擦係数特性取得手段によって取得された摩擦係数特性データにおいて隣り合う前記距離の間では、補間法を用いて摩擦係数が算出されるので、予め入力する摩擦係数データを少なくすることができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0090】
前述した実施形態では、図7に示すように、摩擦係数特性データに、初期値と最終値とそれ以外の1つの中間値の3つのレコードが入力されているが、前述したように、摩擦係数特性データには、摺動距離がゼロであるときの摩擦係数である初期値と、少なくとも1つの摺動距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とが記録され、例えば、摺動距離がゼロであるときの摩擦係数である初期値と、摺動距離がゼロより大きい所定距離であるときの4つの摩擦係数との5つのレコードが記録されるようにすることも可能である。
【0091】
図19は、摩擦係数特性データテーブルの別の例を示す図である。図19に示すように、摩擦係数特性データテーブルに、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離である摺動距離がゼロであるときの摩擦係数である初期値が記録されるとともに、摺動距離がゼロより大きい所定距離、具体的には20mm、40mm、80mm、100mmであるときの4つの摩擦係数が記録されるようにすることも可能である。
【0092】
図20は、摩擦係数特性の別の例を示すグラフであり、図20では、図19に示す摩擦係数特性データに記録された摩擦係数特性がグラフとして表示されている。図20では、摩擦係数特性について、摺動距離が0、20、40、80、100mmであるときの摩擦係数データについてそれぞれ隣り合う摺動距離の摩擦係数が直線でつないで表示されている。
【0093】
図19に示す摩擦係数特性データを用いて、モーションデータに基づいて、プレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間に応じたプレス工具と金属板との間の摩擦係数を算出する場合においても、入力された摩擦係数特性データにおいて隣り合う摺動距離の間では、補間法を用いて摩擦係数が算出され、摺動距離が摩擦特性データにおける最終値の摺動距離よりも大きいときは、最終値であるときの摩擦係数が算出される。
【0094】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上のように、本発明によれば、摩擦係数の計算量を少なくすることができるとともにシミュレーション精度を向上させることができる摩擦係数を算出することができ、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションする場合に、好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0096】
10 コンピュータ
11 中央演算装置
12 入力装置
13 読込み装置
14 記録装置
15 表示装置
16 印刷装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板のプレス成形をシミュレーションするプレス成形シミュレーションで用いられる摩擦係数の算出システム及び算出プログラム、並びに、その摩擦係数を適用して金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションシステム及びシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属板をプレス成形してプレス成形品を製造する場合、プレス成形品に割れなどの成形不良が生じないような最適なプレス成形型の設計や成形条件の設定などを行うために、コンピュータを用いて、事前に金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションすることが行われている。
【0003】
このプレス成形シミュレーションでは、金属板とプレス成形型との間の摩擦係数をどのように設定するかが重要となっているが、従来のシミュレーションでは、プレス成形時、金属板とプレス成形型との間の摩擦係数を一定の所定値に設定してシミュレーションすることが行われていた。
【0004】
これに対し、摩擦係数を一定の所定値に設定する場合に比してシミュレーションの精度を向上させるものとして、例えば特許文献1には、摩擦係数を、面圧、摩擦仕事量及び塑性ひずみをパラメータとして用いた多項式近似式によって算出し、摩擦係数を経時的に変化させるようにしたものが開示されている。
【0005】
一方、近年では、金属板をプレス成形してプレス成形品を製造する場合に、クランク機構によってプレス成形型を移動させるクランクプレスに代えて、サーボモータによってプレス成形型を移動させるサーボプレスが用いられており、かかるサーボプレスでは、クランクプレスを用いて製造する場合には割れが生じる形状であっても、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形によって割れが生じないように成形できることが知られている。
【0006】
ここで、金属板から同一形状のプレス成形品を製造する場合に、クランクプレスを模擬したクランクモーションと、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションとをそれぞれ用いてプレス成形したプレス成形品の成形性の違いについて説明する。
【0007】
図21は、クランクプレスを模擬したクランクモーションを示す図であり、図22は、クランクモーションによってプレス成形したプレス成形品の写真である。また、図23は、逐次成形を有するモーションを示す図であり、図24は、逐次成形を有するモーションによってプレス成形したプレス成形品の写真である。
【0008】
なお、図22及び図24に示すプレス成形品は、金属板をプレス成形型のダイとブランクホルダとにより挟持した状態でダイとブランクホルダとをプレス成形型のパンチに対して相対的に移動させることにより成形したものであり、同一のプレス成形型を用いてプレス成形型のモーション以外の成形条件や潤滑油の塗布条件などを同一にして成形したものである。
【0009】
図21に示すようなクランクプレスを模擬したクランクモーションによってプレス成形した場合には、図22に示すように、プレス成形品の先端部の周縁部に割れが発生しているが、図23に示すような金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションによってプレス成形した場合には、図24に示すように、プレス成形品の先端部の周縁部に割れが発生することなく成形することができ、逐次成形を有するモーションによってプレス成形品の成形性を向上させることができることが分かる(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4231426号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】菅沼、久野、「サーボプレスのスライドモーション活用」、プレス技術、2009年1月、第47巻、第1号、p.48−51
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、同一形状のプレス成形品を製造する場合においても、プレス成形時のモーションの違いによって成形性が異なることから、これらの違いをシミュレーションにおいて解析することができるように、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形をシミュレーションする際にも適用することができ、シミュレーションの精度を向上させることができるプレス成形シミュレーションが望まれている。
【0013】
一方、本願発明者等は、鋭意検討した結果、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションによってプレス成形した場合に割れが抑制される理由として、プレス成形型のプレス工具が金属板に接してからのプレス工具のストロークが大きくなるにつれて潤滑油が少なくなるので、摩擦係数が大きくなって割れが発生しやすくなるが、間欠的に金属板への負荷を除去してプレス工具と金属板とを離間させると、潤滑油が再流入して摩擦係数が低減されるからであると考えた。
【0014】
かかる仮説に基づいて、金属板のプレス成形をシミュレーションする際に用いる摩擦係数を、プレス工具が金属板に接してからのプレス工具のストロークが大きくなるにつれて大きくなるように変化させることで、シミュレーションの精度を向上させることができると考えられる。
【0015】
また、前記特許文献1に記載されるものは、摩擦係数を、面圧、摩擦仕事量及び塑性ひずみを用いた多項式近似式によって算出しているが、この多項式近似式における係数を特定するために多数の実験を要するものであり、また、シミュレーションにおいてもプレス成形時の状態に応じて各パラメータを計算する必要があるので、計算量が非常に多くなるものである。
【0016】
さらに、前記特許文献1に記載のものは、クランクモーションによるプレス成形を前提とするものであると考えられ、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形をシミュレーションする際には、精度の良いシミュレーション結果を得ることが難しいものと思われる。
【0017】
そこで、本発明は、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形をシミュレーションする際にも適用することができ、摩擦係数の計算量を少なくすることができるとともにシミュレーションの精度を向上させることができる摩擦係数算出システム及び算出プログラム、並びにプレス成形シミュレーションシステム及びシミュレーションプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このため、本願の請求項1に係る発明は、
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションで用いられる摩擦係数を算出する摩擦係数算出システムであって、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段と、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段と、
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段と、
を有し、
該摩擦係数算出手段は、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出する、
ことを特徴とする。
【0019】
また、本願の請求項2に係る発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記摩擦係数特性取得手段は、前記距離がゼロであるときの摩擦係数と、少なくとも1つの前記距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とを取得し、
前記摩擦係数算出手段は、前記距離が、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された摩擦係数特性データにおいて隣り合う前記距離の間では、補間法を用いて前記摩擦係数を算出する、
ことを特徴とする。
【0020】
更に、本願の請求項3に係る発明は、
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションであって、
プレス成形品の図形データを取得する図形データ取得手段と、
該図形データ取得手段によって取得された図形データに基づいて、有限要素分割したプレス成形品の解析モデルを作成する解析モデル作成手段と、
有限要素解析で用いるプレス成形型のプレス工具と金属板との間の摩擦係数を取得する摩擦係数取得手段と、
前記解析モデル作成手段によって作成された解析モデルについて、前記摩擦係数取得手段によって取得された摩擦係数を用いて有限要素解析を行う有限要素解析手段と、
を有し、
前記摩擦係数取得手段は、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段と、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段と、
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段と、
を有し、
該摩擦係数算出手段は、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出する、
ことを特徴とする。
【0021】
また更に、本願の請求項4に係る発明は、
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションで用いられる摩擦係数を算出する摩擦係数算出プログラムであって、
コンピュータを、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段、及び、
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段として機能させると共に、
前記摩擦係数算出手段として機能させるときは、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出するように機能させる、
ことを特徴とする。
【0022】
また更に、本願の請求項5に係る発明は、前記請求項4に記載の発明において、
コンピュータを、
前記摩擦係数特性取得手段として機能させるときは、前記距離がゼロであるときの摩擦係数と、少なくとも1つの前記距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とを取得するように機能させると共に、
前記摩擦係数算出手段として機能させるときは、前記距離が、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された摩擦係数特性データにおいて隣り合う前記距離の間では、補間法を用いて前記摩擦係数を算出するように機能させる、
ことを特徴とする。
【0023】
また更に、本願の請求項6に係る発明は、
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションプログラムであって、
コンピュータを、
プレス成形品の図形データを取得する図形データ取得手段、
該図形データ取得手段によって取得された図形データに基づいて、有限要素分割したプレス成形品の解析モデルを作成する解析モデル作成手段、
有限要素解析で用いるプレス成形型のプレス工具と金属板との間の摩擦係数を取得する摩擦係数取得手段、及び、
前記解析モデル作成手段によって作成された解析モデルについて、前記摩擦係数取得手段によって取得された摩擦係数を用いて有限要素解析を行う有限要素解析手段として機能させると共に、
前記摩擦係数取得手段として機能させるときは、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段、及び
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段として機能させ、且つ、
該摩擦係数算出手段として機能させるときは、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出するように機能させる、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上の構成により、本願各請求項の発明によれば、次の効果が得られる。
【0025】
先ず、本願の請求項1に係る発明によれば、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションする際に用いられるプレス工具と金属板との間の摩擦係数が、モーションデータと、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データとを用いて算出されることとなる。したがって、摩擦係数の計算量を少なくすることができるとともに、プレス工具が金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離が大きい場合には該距離が小さい場合に比して潤滑油が少なくなることを考慮して摩擦係数を大きくすることができ、シミュレーションの精度を向上させることができる。
【0026】
また、モーションデータが、プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして摩擦係数特性データから算出されることになる。したがって、プレス工具の金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形時にプレス工具と金属板との間に潤滑油が再流入することを考慮して摩擦係数を算出することができるので、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形をシミュレーションする際にも適用することができる。
【0027】
更に、本願の請求項2に係る発明によれば、前記距離がゼロであるときの摩擦係数と、少なくとも1つの前記距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とを取得し、前記距離が、摩擦係数特性取得手段によって取得された摩擦係数特性データにおいて隣り合う前記距離の間では、補間法を用いて摩擦係数が算出されるので、予め入力する摩擦係数データを少なくすることができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0028】
一方、本願の請求項3に係る発明によれば、前記請求項1に記載のモーション取得手段、摩擦係数特性取得手段及び摩擦係数算出手段と同様の手段によって算出された摩擦係数を用いて、金属板のプレス成形が有限要素法を用いてシミュレーションされることにより、シミュレーションを短時間で精度良く行うことができる。
【0029】
そして、本願の請求項4〜6に記載のプログラムに関する発明によれば、これをコンピュータで実行することにより、システムに関する前記請求項1〜3に記載の発明と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係るシステムの全体構成を示す図である。
【図2】図1に示すプログラム記録部の構成を示す図である。
【図3】図1に示すデータ記録部の構成を示す図である。
【図4】モーションデータテーブルを示す図である。
【図5】本実施形態に係るシミュレーションにおける金属板のプレス成形を説明するための説明図である。
【図6】プレス成形時のモーションを示すグラフである。
【図7】摩擦係数特性データテーブルを示す図である。
【図8】摩擦係数特性を示すグラフである。
【図9】摩擦係数算出データテーブルを示す図である。
【図10】本実施形態に係るシミュレーションにおける摩擦係数を示すグラフである。
【図11】モーションデータ入力画面を示す図である。
【図12】摩擦係数特性データ入力・計算画面を示す図である。
【図13】プレス成形をシミュレーションする動作を示すフローチャートである。
【図14】摩擦係数を算出する動作を示すフローチャートである。
【図15】有限要素を解析する動作を示すフローチャートである。
【図16】シミュレーション解析結果画面を示す図である。
【図17】モーションデータ入力画面の別の画面を示す図である。
【図18】シミュレーション解析結果画面の別の画面を示す図である。
【図19】摩擦係数特性データテーブルの別の例を示す図である。
【図20】摩擦係数特性の別の例を示すグラフである。
【図21】クランクプレスを模擬したクランクモーションを示す図である。
【図22】クランクモーションによってプレス成形したプレス成形品の写真である。
【図23】逐次成形を有するモーションを示す図である。
【図24】逐次成形を有するモーションによってプレス成形したプレス成形品の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るシステムの全体構成を示す図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係るシステムは、コンピュータ10を中心として構成され、コンピュータ10は、中央処理装置11と、摩擦係数の算出やプレス成形シミュレーションの計算に必要なデータなどを入力するキーボードなどの入力装置12と、DVDなどの記録媒体20からプレス成形品の図形データであるCADデータを読込むためのCADデータ読込み装置13と、摩擦係数の算出やプレス成形シミュレーションの計算に必要なプログラム及びデータを記録するプログラム記録部14a及びデータ記録部14bを有するメモリなどの記録装置14と、入力画面や解析結果などを表示するためのディスプレイなどの表示装置15と、プレス成形シミュレーションの解析結果などを出力するプリンタなどの印刷装置16とを有している。
【0032】
中央処理装置11は、入力装置12、表示装置15及び印刷装置16を制御するとともに、CADデータ読込み装置13及び記録装置14にアクセス可能に構成され、入力装置12やCADデータ読込み装置13を介して入力された情報と、記録装置14に記憶されているプログラム及びデータを用いて、摩擦係数の算出やプレス成形シミュレーションをすることができるように構成されている。
【0033】
図2は、図1に示すプログラム記録部の構成を示す図である。図2に示すように、プログラム記録部14aには、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするためのメインプログラム、プレス成形品の図形データに基づいて、有限要素分割したプレス成形品の解析モデルを作成するための解析モデル作成プログラム、プレス工具と金属板との間の摩擦係数を算出するための摩擦係数算出プログラム、解析モデルについて、摩擦係数算出プログラムを用いて算出された摩擦係数を適用して有限要素解析を行うための有限要素解析プログラム、及び、入力画面や解析結果などを表示するための表示プログラムなどが記録されている。
【0034】
また、図3は、図1に示すデータ記録部の構成を示す図である。図3に示すように、データ記録部14bには、CADデータ読込み装置13を介して入力されたプレス成形品の図形データが記録される図形データファイル、プレス成形品の図形データに基づいて有限要素分割したプレス成形品の解析モデルデータが記録される解析モデルデータファイル、 プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とするプレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータが記録されるモーションデータテーブル、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離(以下、「摺動距離」という)と、プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データが記録される摩擦係数特性データテーブル、モーションデータと摩擦係数特性データとから算出されたプレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間に応じたプレス工具と金属板との間の摩擦係数が記録される摩擦係数算出データテーブル、及び、解析モデルについて有限要素解析を行った解析結果データが記録される解析結果データファイルなどが設けられている。
【0035】
図4は、モーションデータテーブルを示す図であり、図4では、モーションデータの一例が示されている。図4に示すように、モーションデータテーブルには、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とするプレス工具のストロークとが記録され、前記経過時間と前記ストロークとの関係が記録される。また、モーションデータテーブルには、プレス工具の移動方向が負荷方向であるか負荷方向と反対方向である除荷方向であるかを示す負荷・除荷フラグが記録される。
【0036】
図5は、本実施形態に係るシミュレーションにおける金属板のプレス成形を説明するための説明図である。本実施形態では、金属板Wへの負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションによって、図5に示すようなプレス成形型20を移動させ、金属板Wをプレス成形する場合についてシミュレーション解析を行った。
【0037】
具体的には、金属板Wをプレス成形型20のダイ21とブランクホルダ22とにより挟持した状態で、プレス成形型20のパンチ23に対してダイ21とブランクホルダ22とを下方へ移動させてパンチ23をダイ21の成形空間21a内に相対的に移動させることにより、金属板Wをプレス成形する場合についてシミュレーション解析を行った。
【0038】
このようなプレス成形においては、モーションデータに記録される時間は、プレス工具としてのパンチ23が負荷方向への移動により金属板Wに最初に接してからの経過時間が記録され、ストロークは、パンチ23が最初に金属板Wに接したときの位置を原点とするパンチ23の金属板Wに対する荷重負荷・除荷方向へのストロークが記録され、負荷・除荷フラグは、パンチ23が金属板Wに対して負荷方向に移動するときは「+1」とし、除荷方向に移動するときは「−1」として記録される。
【0039】
図6は、プレス成形時のモーションを示すグラフである。図6では、図4に示すモーションデータに記録されたモーションがグラフとして表示され、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間を横軸にとり、最初に接したときの位置を原点とするプレス工具のストロークを縦軸にとって表示している。
【0040】
本実施形態では、パンチ23に対してダイ21とブランクホルダ22とを移動させてパンチ23をダイ21の成形空間21a内に相対的に移動させるので、パンチ23が負荷方向への移動により金属板Wに最初に接してからの経過時間を横軸にとり、パンチ23が最初に金属板Wに接したときの位置を原点とするパンチ23のストロークを縦軸にとって表示している。
【0041】
また、図6では、各経過時間のストロークを直線でつないで表示し、各経過時間における負荷・除荷フラグを白丸印及び黒丸印で表示している。この図6から明らかなように、金属板Wへの負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションによって金属板Wをプレス成形する場合についてシミュレーション解析を行った。
【0042】
なお、本実施形態では、パンチ23に対して金属板Wを挟持するダイ21とブランクホルダ22とを移動させて金属板Wをプレス成形するようにしているが、金属板Wを挟持するダイ21とブランクホルダ22とに対してパンチ23を移動させて金属板Wをプレス成形するようにしてもよい。
【0043】
図7は、摩擦係数特性データテーブルを示す図であり、図7では、摩擦係数特性データの一例が示されている。図7に示すように、摩擦係数特性データテーブルには、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離である摺動距離と、プレス工具と金属板との間の摩擦係数とが記録され、前記摺動距離と前記摩擦係数との関係が記録される。
【0044】
具体的には、摩擦係数特性データテーブルには、前記摺動距離がゼロであるときの摩擦係数である初期値が記録されるとともに、少なくとも1つの前記摺動距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数が記録される。図7に示す摩擦係数特性データテーブルでは、前記摺動距離が0mm、40mm、100mmであるときの摩擦係数が記録され、前記摺動距離が最も大きいときの摩擦係数が最終値として記録されている。
【0045】
本実施形態では、パンチ23をダイ21の成形空間21a内に相対的に移動させることにより、金属板Wをプレス成形する場合についてシミュレーションするので、プレス工具としてのパンチ23と金属板Wとの間の摩擦係数が記録される。この摩擦係数特性データテーブルに入力される摩擦係数特性データは、摩擦係数試験や、既存の摩擦係数データ等から得ることができる。
【0046】
なお、後述するように、前記摺動距離がゼロであるときの摩擦係数と、少なくとも1つの前記摺動距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とが入力され、摩擦係数特性データにおいて隣り合う前記摺動距離の間では、補間法を用いて摩擦係数が算出され、前記摺動距離が摩擦特性データにおける最終値の摺動距離よりも大きいときは、最終値であるときの摩擦係数が算出される。
【0047】
図8は、摩擦係数特性を示すグラフである。図8では、図7に示す摩擦係数特性データに記録された摩擦特性がグラフとして表示され、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離である摺動距離を横軸にとり、プレス工具と金属板との間の摩擦係数を縦軸にとって表示している。
【0048】
図8では、摩擦係数特性について、初期値である摺動距離が0mmであるときの摩擦係数μ0と、摺動距離が40mmであるときの摩擦係数μ1とを直線でつないで表示するとともに、摺動距離が40mmであるときの摩擦係数μ1と、最終値である摺動距離が100mmであるときの摩擦係数μ2とを直線でつないで表示している。
【0049】
また、図9は、摩擦係数算出データテーブルを示す図であり、図9では、摩擦係数算出データの一例が示されている。本実施形態では、モーションデータと摩擦係数特性データとから、プレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間に応じたプレス工具と金属板との間の摩擦係数が算出され、図9に示すように、摩擦係数算出データテーブルに、プレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間と、プレス工具と金属板との間の摩擦係数が記録される。
【0050】
また、摩擦係数算出データテーブルでは、モーションデータが、プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数が、摺動距離をゼロにリセットして摩擦係数特性データから算出されて記録される。
【0051】
本実施形態では、パンチ23をダイ21の成形空間21a内に相対的に移動させることにより、金属板Wをプレス成形する場合についてシミュレーションするので、モーションデータと摩擦係数特性データとから、パンチ23が金属板Wに最初に接してからの経過時間に応じたパンチ23と金属板Wとの間の摩擦係数が算出されて記録される。
【0052】
図10は、本実施形態に係るシミュレーションにおける摩擦係数を示すグラフである。図10では、図4に示すモーションデータと、図7に示す摩擦係数特性データとから算出された摩擦係数がグラフとして表示され、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間を横軸にとり、プレス工具と金属板との間の摩擦係数を縦軸にとって表示している。
【0053】
パンチ23と金属板Wとの間の摩擦係数は、パンチ23が負荷方向への移動により金属板Wに接してからの経過時間に応じて、すなわちパンチ23のストロークに応じて、図7に示す摩擦係数特性データから算出され、図10に示すように、パンチ23が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数が、摺動距離をゼロにリセットして摩擦係数特性データから算出される。
【0054】
前述したように、摩擦係数の算出においては、入力された摩擦係数特性データにおいて隣り合う摺動距離の間では、補間法を用いて摩擦係数が算出され、また、摺動距離が摩擦特性データにおける最終値の摺動距離よりも大きいときは、最終値であるときの摩擦係数が算出される。
【0055】
なお、本実施形態では、プレス工具としてのパンチ23が除荷方向に移動されるときには、パンチ23と金属板Wとが完全に離間すると想定される位置まで移動するように設定される。
【0056】
次に、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションする動作について具体的に説明する。
金属板のプレス成形をシミュレーションする前に、コンピュータ10には、先ず、CADデータ読込み装置13を介して記録媒体20に記録されたプレス成形品の図形データが読み込まれ、データ記録部14bに設けられた図形データファイル(不図示)に記録される。
【0057】
また、コンピュータ10には、入力装置12を介してプレス成形のモーションデータがユーザによって入力される。図11は、モーションデータ入力画面を示す図である。図11に示すように、モーションデータを入力する際には、表示装置15にモーションデータ入力画面30が表示され、該モーションデータ入力画面30には、データ入力部31及びモーション表示部32が設けられるとともに、登録ボタン31が設けられている。
【0058】
データ入力部31には、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、プレス工具が最初に金属板に接したときの位置を原点とするプレス工具のストロークと、プレス工具の移動方向が負荷方向であるか除荷方向であるかを示す負荷・除荷フラグとを入力することができるようになっている。
【0059】
また、モーション表示部32には、データ入力部31に入力されたモーションデータに基づいて、モーションがグラフとして表示されるとともに、負荷及び除荷フラグを白丸印及び黒丸印によって表示されるようになっている。そして、データ入力部31にデータを入力した後に、ユーザによって登録ボタン33が押されると、モーションデータがモーションデータテーブルに記録される。
【0060】
コンピュータ10にはまた、入力装置12を介して摩擦係数特性データがユーザによって入力される。図12は、摩擦係数特性データ入力・計算画面を示す図である。図12に示すように、摩擦係数特性データを入力する際には、表示装置15に摩擦係数特性データ入力・計算画面40が表示され、該摩擦係数特性データ入力・計算画面40には、データ入力部41及び摩擦係数特性表示部42が設けられるとともに、登録ボタン43及び計算ボタン44が設けられている。
【0061】
データ入力部41には、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離である摺動距離と、プレス工具と金属板との間の摩擦係数とを入力することができるようになっている。
【0062】
また、摩擦係数特性表示部42には、データ入力部41に入力された摩擦係数特性データに基づいて、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離である摺動距離と摩擦係数との関係がグラフとして表示されるようになっている。そして、データ入力部41にデータを入力した後に、ユーザによって登録ボタン43が押されると、摩擦係数特性データが摩擦係数特性データテーブルに記録される。
【0063】
このようにして、プレス成形品の図形データ、モーションデータ及び摩擦係数特性データがそれぞれデータ記憶部14bに記録された状態で、図12に示す摩擦係数特性データ入力・計算画面40において計算ボタン44が押されると、金属板のプレス成形をシミュレーションするプレス成形シミュレーションで用いられる摩擦係数の算出、及びその摩擦係数を適用したプレス成形シミュレーションが行われる。
【0064】
図13は、プレス成形をシミュレーションする動作を示すフローチャートであり、プログラム記憶部14aに記録されているメインプログラムの動作を示している。摩擦係数特性データ入力・計算画面40において計算ボタン44が押されると、コンピュータ10では、先ず、プログラム記録部14aに記録されている解析モデル作成プログラムにより、図形データファイルからプレス成形品の図形データが読み込まれ、該図形データに基づいて、有限要素分割されたプレス成形品の解析モデルが作成され(ステップS1)、作成された解析モデルがデータ記録部14の解析モデルデータファイルに記録される。
【0065】
プレス成形品の解析モデルが作成されると、次に、モーションデータファイルに記録されたモーションデータと、摩擦係数特性データファイルに記録された摩擦特性データが読み込まれ、モーションデータと摩擦係数特性データとから、プレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間に応じたプレス工具と金属板との摩擦係数が算出される(ステップS2)。
【0066】
図14は、摩擦係数を算出する動作を示すフローチャートであり、プログラム記録部14aに記録されている摩擦係数算出プログラムの動作を示している。図14に示すように、ステップS2における摩擦係数の算出について、具体的には、コンピュータ10では、摩擦係数特性データテーブルから摩擦係数特性データが読み込まれ(ステップS11)、次に、モーションデータテーブルから1レコードが読み込まれ(ステップS12)、すなわちモーションデータテーブルに記録されたプレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間毎にモーションデータが読み込まれる。
【0067】
そして、負荷・除荷フラグが「−1」であるか否かが判定される(ステップS13)。ステップS13での判定結果がノー(NO)の場合、すなわち負荷・除荷フラグが「−1」でない場合、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離である摺動距離dが、入力された摩擦係数特性データにおける最終値の摺動距離dn未満であるときは、そのときの摩擦係数μは以下の数1で示す式で算出され、入力された摩擦係数特性データにおける最終値の摺動距離dn以上であるときは、そのときの摩擦係数μは以下の数2で示す式で算出され(ステップS14)、算出された摩擦係数μが、摩擦係数算出データテーブルの対応するレコードに書き込まれる(ステップS15)。
【0068】
【数1】
【0069】
【数2】
【0070】
前記数1及び数2では、摺動距離がdiであるときの摩擦係数をμiとして示し、添え字iは、0≦i≦nの自然数を示し、最終値である摺動距離がdnであるときの摩擦係数をμnとして示している。また、後述する数3では、初期値である摺動距離がゼロであるときの摩擦係数をμ0として示している。
【0071】
前述したように、ステップS14では、入力された摩擦係数特性データにおいて隣り合う摺動距離の間では、補間法、具体的には直線補間を用いて摩擦係数が算出され、摺動距離が摩擦特性データにおける最終値の摺動距離よりも大きいときは、最終値であるときの摩擦係数が算出される。
【0072】
一方、ステップS13での判定結果がイエス(YES)の場合、すなわち負荷・除荷フラグが「−1」である場合、摩擦係数μは、以下の数3で示す式で算出され(ステップS16)、算出された摩擦係数μが、摩擦係数算出データテーブルの対応するレコードに書き込まれる(ステップS15)。
【0073】
【数3】
【0074】
ステップS15において、モーションデータテーブルから読み込まれた1レコードについて算出された摩擦係数μが、摩擦係数算出データテーブルの対応するレコードに書き込まれると、モーションデータデーブルに記録された全レコードが終了したか否かが判定され(ステップS17)、ステップS17での判定結果がノーの場合、すなわち全レコードが終了していない場合はステップS12〜S16が繰り返され、ステップS17での判定結果がイエスの場合、すなわち全レコードが終了した場合は、摩擦係数の算出が終了される。
【0075】
このようにして、プレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間に応じたプレス工具と金属板との摩擦係数が算出されると、コンピュータ10では次に、解析モデルデータファイルに記録された解析モデルについて、摩擦係数算出データファイルに記録された摩擦係数を用いて有限要素解析が行われる(ステップS3)。
【0076】
図15は、有限要素を解析する動作を示すフローチャートであり、プログラム記録部14aに記録されている有限要素解析プログラムの動作を示している。図15に示すように、ステップS3における有限要素の解析について、具体的には、コンピュータ10では、摩擦係数算出データファイルから摩擦係数算出データが読み込まれ(ステップS21)、ステップS21で読み込まれた摩擦係数算出データに基づいて補間法により有限要素解析における現時点の摩擦係数が算出される(ステップS22)。
【0077】
そして、ステップS22で算出された現時点での摩擦係数を用いて有限要素解析が行われ(ステップS23)、ステップS24において、金属板のプレス成形のシミュレーション解析が終了したか否かが判定される。ステップS24での判定結果がノーの場合、すなわちシミュレーション解析が終了していない場合はステップS22〜S23が繰り返され、ステップS24での判定結果がイエスになると、すなわちシミュレーション解析が終了すると、有限要素の解析が終了される。
【0078】
このようにして、金属板のプレス成形の有限要素解析を終了すると、コンピュータ10では、解析結果であるプレス成形品のシミュレーション解析結果が解析結果データファイルに記録されるとともに、プログラム記録部14aに記録されている表示プログラムにより表示装置15に出力される(ステップS4)。
【0079】
図16は、シミュレーション解析結果画面を示す図である。図16に示すように、プレス成形のシミュレーション解析結果画面50には、金属板からプレス成形されたプレス成形品の解析結果が表示され、プレス成形品の形状及び板厚の減少率が表示されるようになっている。
【0080】
図16では、図4に示すモーションデータと図7に示す摩擦係数特性データとから図9に示す摩擦係数が算出され、かかる摩擦係数を用い、図4に示すモーションによって金属板をプレス成形した場合についての解析結果が示されている。また、図16に示す解析結果画面50では、金属板の板厚に対するプレス成形品の板厚の減少率の大小を色の濃淡で表すとともに板厚の減少率の最大値及びその箇所を表示することができるようになっている。
【0081】
図16に示すように、この解析結果から、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するモーションによって金属板をプレス成形する際には、プレス成形品の板厚減少率の最大値が31.59%であり、板厚減少率の最大箇所がプレス成形品の先端部の周縁部であることが分かった。
【0082】
また、本実施形態では、図22及び図24に示した実際に金属板からプレス成形したプレス成形品と比較するために、クランクプレスを模擬したクランクモーションによって金属板をプレス成形する場合についても同様にシミュレーション解析を行った。なお、プレス成形のモーション以外の条件は同一にしてシミュレーション解析を行った。
【0083】
図17は、モーションデータ入力画面の別の画面を示す図である。クランクプレスを模擬したクランクモーションとして、図17に示すモーションデータ入力画面30のデータ入力部31に入力されたモーションを用いて金属板のプレス成形のシミュレーション解析を行った。
【0084】
図18は、シミュレーション解析結果画面の別の画面を示す図である。図18では、図17に示すモーションデータと、図7に示す摩擦係数特性データとから摩擦係数が算出され、かかる摩擦係数を用い、図17に示すモーションによって金属板をプレス成形した場合について解析した結果が示されている。
【0085】
図18に示すように、この解析結果から、クランクプレスを模擬したクランクモーションによって金属板をプレス成形する際には、プレス成形品の板厚減少率の最大値が40.23であり、板厚減少率の最大箇所がプレス成形品の先端部の周縁部であることが分かった。
【0086】
これら図16及び図18に示す解析結果から、同一形状のプレス成形品をプレス成形する際に、図17に示すクランクモーションでは図4に示す逐次成形を有するモーションに比べてプレス成形品の板厚が薄くなり割れが発生する可能性が高いことが分かる。そして、これら解析結果は、図22及び図24に示す実際のプレス成形品と一致しており、シミュレーションの精度を向上させることができることが分かる。
【0087】
このように、本実施形態によれば、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションする際に用いられるプレス工具と金属板との間の摩擦係数が、モーションデータと、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データとを用いて算出されることとなる。したがって、摩擦係数の計算量を少なくすることができるとともに、プレス工具が金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離が大きい場合には該距離が小さい場合に比して潤滑油が少なくなることを考慮して摩擦係数を大きくすることができ、シミュレーションの精度を向上させることができる。
【0088】
また、モーションデータが、プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして摩擦係数特性データから算出されることになる。したがって、プレス工具の金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形時にプレス工具と金属板との間に潤滑油が再流入することを考慮して摩擦係数を算出することができるので、金属板への負荷及び除荷を繰り返す逐次成形を有するプレス成形をシミュレーションする際にも適用することができる。
【0089】
更に、前記距離がゼロであるときの摩擦係数と、少なくとも1つの前記距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とを取得し、前記距離が、摩擦係数特性取得手段によって取得された摩擦係数特性データにおいて隣り合う前記距離の間では、補間法を用いて摩擦係数が算出されるので、予め入力する摩擦係数データを少なくすることができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0090】
前述した実施形態では、図7に示すように、摩擦係数特性データに、初期値と最終値とそれ以外の1つの中間値の3つのレコードが入力されているが、前述したように、摩擦係数特性データには、摺動距離がゼロであるときの摩擦係数である初期値と、少なくとも1つの摺動距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とが記録され、例えば、摺動距離がゼロであるときの摩擦係数である初期値と、摺動距離がゼロより大きい所定距離であるときの4つの摩擦係数との5つのレコードが記録されるようにすることも可能である。
【0091】
図19は、摩擦係数特性データテーブルの別の例を示す図である。図19に示すように、摩擦係数特性データテーブルに、プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離である摺動距離がゼロであるときの摩擦係数である初期値が記録されるとともに、摺動距離がゼロより大きい所定距離、具体的には20mm、40mm、80mm、100mmであるときの4つの摩擦係数が記録されるようにすることも可能である。
【0092】
図20は、摩擦係数特性の別の例を示すグラフであり、図20では、図19に示す摩擦係数特性データに記録された摩擦係数特性がグラフとして表示されている。図20では、摩擦係数特性について、摺動距離が0、20、40、80、100mmであるときの摩擦係数データについてそれぞれ隣り合う摺動距離の摩擦係数が直線でつないで表示されている。
【0093】
図19に示す摩擦係数特性データを用いて、モーションデータに基づいて、プレス工具が金属板に最初に接してからの経過時間に応じたプレス工具と金属板との間の摩擦係数を算出する場合においても、入力された摩擦係数特性データにおいて隣り合う摺動距離の間では、補間法を用いて摩擦係数が算出され、摺動距離が摩擦特性データにおける最終値の摺動距離よりも大きいときは、最終値であるときの摩擦係数が算出される。
【0094】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上のように、本発明によれば、摩擦係数の計算量を少なくすることができるとともにシミュレーション精度を向上させることができる摩擦係数を算出することができ、金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションする場合に、好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0096】
10 コンピュータ
11 中央演算装置
12 入力装置
13 読込み装置
14 記録装置
15 表示装置
16 印刷装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションで用いられる摩擦係数を算出する摩擦係数算出システムであって、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段と、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段と、
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段と、
を有し、
該摩擦係数算出手段は、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出する、
ことを特徴とする摩擦係数算出システム。
【請求項2】
前記摩擦係数特性取得手段は、前記距離がゼロであるときの摩擦係数と、少なくとも1つの前記距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とを取得し、
前記摩擦係数算出手段は、前記距離が、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された摩擦係数特性データにおいて隣り合う前記距離の間では、補間法を用いて前記摩擦係数を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の摩擦係数算出システム。
【請求項3】
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションであって、
プレス成形品の図形データを取得する図形データ取得手段と、
該図形データ取得手段によって取得された図形データに基づいて、有限要素分割したプレス成形品の解析モデルを作成する解析モデル作成手段と、
有限要素解析で用いるプレス成形型のプレス工具と金属板との間の摩擦係数を取得する摩擦係数取得手段と、
前記解析モデル作成手段によって作成された解析モデルについて、前記摩擦係数取得手段によって取得された摩擦係数を用いて有限要素解析を行う有限要素解析手段と、
を有し、
前記摩擦係数取得手段は、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段と、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段と、
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段と、
を有し、
該摩擦係数算出手段は、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出する、
ことを特徴とするプレス成形シミュレーション。
【請求項4】
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションで用いられる摩擦係数を算出する摩擦係数算出プログラムであって、
コンピュータを、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段、及び、
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段として機能させると共に、
前記摩擦係数算出手段として機能させるときは、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出するように機能させる、
ことを特徴とする摩擦係数算出プログラム。
【請求項5】
コンピュータを、
前記摩擦係数特性取得手段として機能させるときは、前記距離がゼロであるときの摩擦係数と、少なくとも1つの前記距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とを取得するように機能させると共に、
前記摩擦係数算出手段として機能させるときは、前記距離が、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された摩擦係数特性データにおいて隣り合う前記距離の間では、補間法を用いて前記摩擦係数を算出するように機能させる、
ことを特徴とする請求項4に記載の摩擦係数算出プログラム。
【請求項6】
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションプログラムであって、
コンピュータを、
プレス成形品の図形データを取得する図形データ取得手段、
該図形データ取得手段によって取得された図形データに基づいて、有限要素分割したプレス成形品の解析モデルを作成する解析モデル作成手段、
有限要素解析で用いるプレス成形型のプレス工具と金属板との間の摩擦係数を取得する摩擦係数取得手段、及び、
前記解析モデル作成手段によって作成された解析モデルについて、前記摩擦係数取得手段によって取得された摩擦係数を用いて有限要素解析を行う有限要素解析手段として機能させると共に、
前記摩擦係数取得手段として機能させるときは、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段、及び
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段として機能させ、且つ、
該摩擦係数算出手段として機能させるときは、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出するように機能させる、
ことを特徴とするプレス成形シミュレーションプログラム。
【請求項1】
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションで用いられる摩擦係数を算出する摩擦係数算出システムであって、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段と、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段と、
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段と、
を有し、
該摩擦係数算出手段は、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出する、
ことを特徴とする摩擦係数算出システム。
【請求項2】
前記摩擦係数特性取得手段は、前記距離がゼロであるときの摩擦係数と、少なくとも1つの前記距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とを取得し、
前記摩擦係数算出手段は、前記距離が、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された摩擦係数特性データにおいて隣り合う前記距離の間では、補間法を用いて前記摩擦係数を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の摩擦係数算出システム。
【請求項3】
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションであって、
プレス成形品の図形データを取得する図形データ取得手段と、
該図形データ取得手段によって取得された図形データに基づいて、有限要素分割したプレス成形品の解析モデルを作成する解析モデル作成手段と、
有限要素解析で用いるプレス成形型のプレス工具と金属板との間の摩擦係数を取得する摩擦係数取得手段と、
前記解析モデル作成手段によって作成された解析モデルについて、前記摩擦係数取得手段によって取得された摩擦係数を用いて有限要素解析を行う有限要素解析手段と、
を有し、
前記摩擦係数取得手段は、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段と、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段と、
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段と、
を有し、
該摩擦係数算出手段は、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出する、
ことを特徴とするプレス成形シミュレーション。
【請求項4】
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションで用いられる摩擦係数を算出する摩擦係数算出プログラムであって、
コンピュータを、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段、及び、
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段として機能させると共に、
前記摩擦係数算出手段として機能させるときは、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出するように機能させる、
ことを特徴とする摩擦係数算出プログラム。
【請求項5】
コンピュータを、
前記摩擦係数特性取得手段として機能させるときは、前記距離がゼロであるときの摩擦係数と、少なくとも1つの前記距離がゼロより大きい所定距離であるときの摩擦係数とを取得するように機能させると共に、
前記摩擦係数算出手段として機能させるときは、前記距離が、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された摩擦係数特性データにおいて隣り合う前記距離の間では、補間法を用いて前記摩擦係数を算出するように機能させる、
ことを特徴とする請求項4に記載の摩擦係数算出プログラム。
【請求項6】
金属板のプレス成形を有限要素法を用いてシミュレーションするプレス成形シミュレーションプログラムであって、
コンピュータを、
プレス成形品の図形データを取得する図形データ取得手段、
該図形データ取得手段によって取得された図形データに基づいて、有限要素分割したプレス成形品の解析モデルを作成する解析モデル作成手段、
有限要素解析で用いるプレス成形型のプレス工具と金属板との間の摩擦係数を取得する摩擦係数取得手段、及び、
前記解析モデル作成手段によって作成された解析モデルについて、前記摩擦係数取得手段によって取得された摩擦係数を用いて有限要素解析を行う有限要素解析手段として機能させると共に、
前記摩擦係数取得手段として機能させるときは、
プレス工具が負荷方向への移動により金属板に最初に接してからの経過時間と、最初に接したときの位置を原点とする該プレス工具のストロークとの関係を示すモーションデータを取得するモーション取得手段、
前記プレス工具が負荷方向への移動により金属板に接したときの位置からの負荷方向の距離と、該プレス工具と金属板との間の摩擦係数との関係を示す摩擦係数特性データを取得する摩擦係数特性取得手段、及び
前記モーション取得手段によって取得された前記モーションデータと、前記摩擦係数特性取得手段によって取得された前記摩擦係数特性データとから、前記プレス工具が前記金属板に最初に接してからの経過時間に応じた前記プレス工具と前記金属板との間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段として機能させ、且つ、
該摩擦係数算出手段として機能させるときは、前記モーションデータが、前記プレス工具が除荷方向に所定距離移動した後、再び負荷方向に移動することを示すときには、前記プレス工具が再び負荷方向へ移動するときからの摩擦係数を、前記距離をゼロにリセットして前記摩擦係数特性データから算出するように機能させる、
ことを特徴とするプレス成形シミュレーションプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図23】
【図16】
【図18】
【図22】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図23】
【図16】
【図18】
【図22】
【図24】
【公開番号】特開2012−212193(P2012−212193A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76153(P2011−76153)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(507228172)株式会社JSOL (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(507228172)株式会社JSOL (23)
【Fターム(参考)】
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