説明

摩擦円板

セラミック又は金属のような硬質材料から成る摩擦円板は、通常、摩耗委を生ぜしめ、ゆえにポリウレタン製の軟質の摩擦円板に比べて強く糸を負荷することになる。硬質材料から成る摩擦円板が通常7年以上にわたって保つのに対して、ポリウレタン製の摩擦円板は約8〜9ヶ月の使用後に交換する必要がある。そこで本発明による摩擦円板では、摩擦円板(1)がその摩擦面(4)に、該摩擦面(4)を減じる少なくとも1つの切欠きを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行するマルチフィラメント糸、特に合成糸において仮撚りを生ぜしめるための仮撚り装置において使用される摩擦円板であって、糸が摩擦円板の摩擦面の上を通過する形式のものに関する。
【0002】
巻縮された合成糸を製造する場合に、マルチフィラメント糸において摩擦によって仮撚りを生ぜしめることが公知である。この仮撚りはテクスチャード加工ゾーンにおいて、熱処理によって糸のフィラメントにおいて固定される。仮撚りを生ぜしめるためには、通常、仮撚り装置が使用されるが、仮撚り装置において糸は、互いにオーバラップしている回転する摩擦円板の周面、つまり摩擦面を介して、引っ張られる。摩擦円板の回転数は、14,000回転/分にも達することがある。このような仮撚り装置は例えばDE2708204Bに基づいて公知である。
【0003】
摩擦円板は種々様々な材料から成っていることができ、この場合摩擦面の粗さ及び材料に関連して、糸は種々異なった強さの負荷を受ける。セラミック又は金属のような硬質の材料から成る摩擦円板は、通常、摩耗を生ぜしめ、ゆえに、ポリウレタン製の軟質の摩擦円板よりも糸を強く負荷することになり、ポリウレタン製の軟質の摩擦円板は、それ自体が糸によって摩耗してしまう。硬質材料製の摩擦円板が通常7年以上保つのに対して、ポリウレタン製の摩擦円板は、約8〜9ヶ月後には交換しなくてはならない。しかしながら硬質材料性の摩擦円板には次のような欠点、すなわち糸の摩耗によって、周面、つまり摩擦面の表面構造もしくは表面パターンが、徐々に埋まって、平滑になってしまう、という欠点がある。このような現象は「グレーシング効果(Glacing-Effekt)」と呼ばれる。
【0004】
ゆえに本発明の課題は、軟質材料製の摩擦円板のように糸に対して優しくて、しかも硬質材料製の摩擦円板のような長い耐用寿命を有している摩擦円板を提供することである。
【0005】
この課題を解決するために本発明の構成では、冒頭に述べた形式の摩擦円板において、摩擦円板がその摩擦面に、該摩擦面を減じる少なくとも1つの切欠きを有しているようにした。
【0006】
本発明の別の有利な構成は、請求項2以下に記載されている。
【0007】
本発明におけるように、摩擦円板がその摩擦面に、該摩擦面を減じる少なくとも1つの切欠きを有していると、糸との摩擦円板の接触面が中断され、複数の区分に分割される。摩擦面の摩耗、ひいては摩擦面全体の平滑になるおそれ、つまりグレーシング効果は、本発明の構成により完全に回避されるか又は少なくとも著しく減じられる。なぜならば、縁部、つまり摩擦円板の摩擦面から平らな上側面及び下側面への移行部における摩耗は、もはや生じないからである。各切欠きによって摩擦面は中断され、これによって各2つの新たな移行部が形成され、これによって摩耗の発生が複数の箇所に分割される。このことは、糸の損傷を減じるために極めて役立つ。
【0008】
有利な実施形態では、切欠きは溝である。この溝は有利には、摩擦円板の周面に環状に延びるように形成されており、つまり摩擦円板は、摩擦円板の全数にわたって延びている少なくとも1つの溝を有している。しかしながらまた、複数の環状の溝が設けられていてもよい。別の実施形態では、摩擦面は2つの溝を有している。この場合両方の溝は、摩擦円板の縁部と摩擦円板の間に等しい間隔をおいて配置されていることができる。溝の数、溝の深さ及び溝の幅に応じて、間隔は適宜設定可能である。複数の溝は同じ形式で形成されることが可能である。また溝は無端に形成されていてもよい。
【0009】
溝を備えた本発明による摩擦円板は、汎用の摩擦円板と同じ幅を有している。しかしながら溝によって、糸によって巻き掛けられる面積、つまり摩擦面が減じられる。摩擦円板が例えば9mmの幅を有している場合、理論的に巻き掛けられる面は引き続き9mmであるにもかかわらず、実際の摩擦面は、1.5mm幅の溝が2つ設けられていると、6mmに減じられる。この理由から本発明による摩擦円板は特に、1000m/分以上の高いテクスチャード加工速度のため及びマイクロフィラメントのために適している。
【0010】
溝の横断面は例えばV字形、U字形又は方形であってよい。溝の種々異なった配置形式、溝の幅又は溝の深さは、糸走路及び糸材料に関連して設定することができる。
【0011】
単数又は複数の溝によって、糸との円板の接触面は中断され、複数の区分に分割される。摩擦面の摩耗、ひいては摩擦面全体の平滑になるおそれ、つまりグレーシング効果は、本発明により完全に回避されるか又は少なくとも著しく減じられる。なぜならば、縁部、つまり摩擦円板の摩擦面から平らな上側面及び下側面への移行部における摩耗は、もはや生じないからである。各溝によって摩擦面は中断され、これによって各2つの新たな移行部が形成され、これによって摩耗の発生が複数の箇所に分割される。このことは、糸の損傷を減じるために極めて役立つ。
【0012】
溝によって、汎用の摩擦円板に比べて、滑り効果(Rutscheffekt)又はグリップ損失(Gripaverlust)は著しく減じられる。
【0013】
本発明による摩擦円板によってさらに、例えばポリアミド糸(PA678/18 黒)及びポリブチレン・テレフタレート(PBT 42/24 光沢)における仮撚り発生時に証明されたように、糸の緊張が等しいままの均一な糸走路が得られる。糸の緊張は本発明による摩擦円板の前後において、ポリウレタン製の円板におけると同じか又はそれよりも幾分低いレベルであり、長い運転時間の後においても一定のままである。
【0014】
糸材料、摩擦円板の材料及び摩擦円板の幅に合わせて、溝の数、溝の幅及び溝の深さは調節することができる。
【0015】
摩擦面への溝の移行部は、糸が鋭い縁部の上を走行しないように、丸く面取りされている。
【0016】
糸走路に合わせられて、摩擦円板の平らな面つまり側面に対する、摩擦面の面取り半径もまた設定されている。
【0017】
摩擦面の表面粗さRaは、糸材料に合わせられて、有利には0.1〜2μmの間、特に有利には0.85μmである。
【0018】
摩擦円板の材料は有利には、例えば酸化アルミニウムのような酸化セラミックである。
【0019】
摩擦円板の材料は金属又はプラスチックであってもよい。
【0020】
次に図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による摩擦円板の周囲もしくは周面を示す図である。
【図2】図1に示した摩擦円板の周面をさらに拡大してその輪郭を示す図である。
【0022】
図1には、本発明による摩擦円板1が拡大して、かつ部分的に断面されて示されている。直径2は50mmであり、幅3は9mmである。周面、つまり摩擦面4は、図示の実施形態(図2)では、約6mmの半径5をもって、丸く面取りされている。この半径によって生ぜしめられる巻掛け角度は、糸を傷付けない糸走行を可能にする。図示の実施形態では摩擦円板1は、摩擦面4に2つの溝6を有している。
【0023】
図2には、摩擦面4がさらに拡大されて示されている。溝6は両方とも同様に形成されていて、約1.5mmの幅7と、約3mmの深さ8と、摩擦面4に対する側壁10の、10°の開放角9とを有している。両方の溝6相互の中心間隔11は、4mmであり、縁部13からの各溝6の中心間隔12は、2.5mmである。図2からさらに分かるように、摩擦面4への溝6の側壁10の移行部14は、丸く面取りされている。これらの移行部14の半径は、有利な実施形態では0.3mmと同じかそれよりも小さい。この場合移行部14の半径のためには0.2mmが特に有利である、ということが判明している。
【0024】
図示の実施形態の摩擦円板の材料は、99.7%よりも高い純度と、3.92g/cm以上の密度、2%以下の有孔率、0.01%以下の吸水性、22000N/mm2以上のビッカース硬度(P=2N)、10μm以下の平均的な粒子サイズ、320N/mm2以上の平均的な強度、4000N/mm2以上の圧縮強さ及び160N/mm2以上の引張り強さを有する焼結された酸化アルミニウムである。糸走路の領域における摩擦面の表面粗さRaは、図示の実施形態では有利には0.85±0.2μmである。
【0025】
例えば本発明による摩擦円板のために適している別の材料としては、酸化ジルコンや酸化ケイ素のような酸化セラミック又は、窒化ケイ素又はSiAlONeのような窒化セラミックが挙げられる。例えばモリブデン・ニッケル鋼又はクロム・ニッケル鋼から成る金属製材料では、摩擦面を、セラミック又はダイアモンド製の硬質組成物の混合によって摩耗を防止することができる。摩擦円板の摩擦面に溝を形成するという本発明による思想は、しかしながら本来、摩擦円板のために適したすべての材料において使用することができる。
【0026】
通常の回転数において本発明による摩擦円板の前後において測定された糸張力は、同じ材料から成っているが溝を有していない汎用の摩擦円板において測定された糸張力よりもほぼ5cN〜30cN小さく、前記汎用の摩擦円板では糸張力は、20cN〜100cN又はそれ以上の値の間で変化する。仮撚り装置の前における糸張力T1は、汎用の摩擦円板に対して10%〜20%だけ低減させることができた。
【0027】
2つの溝を備えた本発明による摩擦円板は、D/Y比における変化、円板周速度と糸速度との比における変化に対して著しく鈍感である。
【0028】
単数又は複数の溝のバリエーションを挙げれば、溝は、ねじ山のような螺旋形状に摩擦円板の周面において延びていることができる。溝の延在もしくは経過は、摩擦円板の回転方向と同じであっても、又はそれとは逆であってもよい。また溝は単条であっても複数条(これらの条は互いに平行に延びている)であってもよい。単数又は複数の溝の始端部及び終端部は、軸方向で見て、互いに合致していても又は互いにずらされていてもよい。1つの溝の螺条は、1回転よりも短くても、1回転であっても、又は1回転よりも長くてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行するマルチフィラメント糸、特に合成糸において仮撚りを生ぜしめるための仮撚り装置において使用される摩擦円板であって、糸が摩擦円板の摩擦面の上を通過する形式のものにおいて、摩擦円板(1)はその摩擦面(4)に、該摩擦面(4)を減じる少なくとも1つの切欠きを有していることを特徴とする摩擦円板。
【請求項2】
前記切欠きは溝(6)である、請求項1記載の摩擦円板。
【請求項3】
前記溝(6)は、摩擦円板(1)の周面に環状に延びるように形成されている、請求項1記載の摩擦円板。
【請求項4】
前記摩擦面(4)は2つの溝(6)を有している、請求項2又は3記載の摩擦円板。
【請求項5】
前記摩擦面(4)は丸く面取りされている、請求項1から4までのいずれか1項記載の摩擦円板。
【請求項6】
糸走路の領域において前記摩擦面(4)の表面粗さRaは、0.1〜2μmの間、有利には0.85μmである、請求項1から5までのいずれか1項記載の摩擦円板。
【請求項7】
摩擦円板の材料が酸化セラミックである、請求項1から6までのいずれか1項記載の摩擦円板。
【請求項8】
前記材料は酸化アルミニウムである、請求項7記載の摩擦円板。
【請求項9】
摩擦円板の材料が金属又はプラスチックである、請求項1から6までのいずれか1項記載の摩擦円板。
【請求項10】
単数又は複数の溝が、ねじ山のように螺旋形状に、摩擦円板の周面に延在して設けられている、請求項2から9までのいずれか1項記載の摩擦円板。
【請求項11】
単数又は複数の溝の延在方向が、摩擦円板の回転方向と同方向又は逆方向である、請求項10記載の摩擦円板。
【請求項12】
単数又は複数の溝が、単条又は複数条である、請求項10又は11記載の摩擦円板。
【請求項13】
単数又は複数の溝の始端部と終端部とが、軸方向で見て、互いに合致しているか又は互いにずらされて位置している、請求項10から12までのいずれか1項記載の摩擦円板。
【請求項14】
1つの溝の螺条が、1回転よりも短いか、1回転か、又は1回転よりも長い、請求項10から12までのいずれか1項記載の摩擦円板。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−507642(P2012−507642A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535097(P2011−535097)
【出願日】平成21年11月3日(2009.11.3)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064536
【国際公開番号】WO2010/052213
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(511004645)セラムテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (16)
【氏名又は名称原語表記】CeramTec GmbH
【住所又は居所原語表記】CeramTec−Platz 1−9, D−73207 Plochingen, Germany
【Fターム(参考)】