説明

摩擦攪拌接合方法および摩擦攪拌接合装置

【課題】硬さが異なる異種金属材料の端縁を突き合わせて摩擦攪拌接合する際に、接合部分の寸法誤差に拘らず接合強度やビード外観等に関する所定の接合品質が安定して得られるようにする。
【解決手段】接合工具10を接合ラインWに沿って移動させて摩擦攪拌接合を行う際に、接合ラインWに対して略直角なX方向荷重Fxが予め定められた目標荷重(最適荷重fxbest)となるように、その接合工具10のX方向位置Lxを調整しながら接合ラインWに沿って移動させる。これにより、一対の被接合部材42、44の材質(硬さ等)の相違や接合ラインWが表す接合部分の寸法誤差に拘らず、目標荷重に応じた優れた接合品質が安定して得られるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦攪拌接合方法に係り、特に、硬さが異なる異種金属材料の端縁を突き合わせて摩擦攪拌接合する際に所定の接合品質が安定して得られるようにする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先端に攪拌用突部が突設された接合工具を軸心Sまわりに回転駆動しつつ、一対の被接合部材の端縁が互いに突き合わされた接合ラインW上にその攪拌用突部を押圧し、摩擦熱でその被接合部材を軟化させて攪拌用突部を没入させるとともに、その接合ラインWに沿ってその接合工具を相対移動させることにより、その一対の被接合部材の端縁近傍をその攪拌用突部で攪拌して混ぜ合わせて一体的に接合する摩擦攪拌接合方法(FSW:Friction Stir Welding )が、アルミニウム合金などの金属板材の接合方法として提案されている(特許文献1参照)。具体的には、鉄道車両や自動車などの車体を構成している金属板の接合などに利用されており、金属を融点温度以下で軟化させて混ぜ合わせることにより接合するため、レーザー溶接やスポット溶接のように金属を溶かして接合する場合に比較して加工温度が低く、変形や歪が小さい等の利点がある。
【0003】
図7は、このような摩擦攪拌接合方法の一例を説明する図で、(a) は一対の被接合部材30、32の端縁を突き合わせて接合工具10により摩擦攪拌接合する際の斜視図、(b) は(a) におけるVIIB−VIIB断面の拡大図である。接合工具10は、円柱形状の軸部12と、その軸部12の先端中央部に軸部12と同心に突設された小径の攪拌用突部14とを一体に備えている。攪拌用突部14は、略円柱形状(図では先端側程やや小径のテーパ形状)を成しており、その外周面には、例えば工具回転方向と逆ねじれのおねじ等の凹凸が設けられているとともに、先端面(突部先端面)18は部分球面形状を成している。また、軸部12の先端面であって攪拌用突部14よりも外周側に位置する円環状部分には、その外周縁から攪拌用突部14に向かうに従って徐々に深くなる凹所20が設けられている。
【0004】
一対の被接合部材30、32は、その端縁が互いに接するように突き合わされる状態で平坦な支持台34上に位置決めして載置されており、その突き合わされた端縁部分すなわち接合すべき接合ラインWが前記接合工具10によって摩擦攪拌接合される。すなわち、接合工具10が軸心Sの右まわりに回転駆動されつつ接合ラインW上に押圧されると、摩擦熱で被接合部材30、32の端縁近傍が軟化させられ、攪拌用突部14がその軟化部分36内に没入させられることにより、軟化部分36がその攪拌用突部14により攪拌されて混ぜ合わされる。そして、その状態で接合工具10が矢印Aで示すように接合ラインWに沿って相対移動させられると、軟化部分36がその接合ラインWに沿って連続的に移動し、移動元の軟化部分36が順次冷却硬化させられることにより、両被接合部材30、32が接合ラインWの全長に亘って順次一体的に接合される。図7(a) の符号38は、軟化部分36が冷却硬化した攪拌接合部である。
【特許文献1】特開2001−198683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような摩擦攪拌接合方法は、従来、一対の被接合部材が同一の金属材料の板材にて構成されている場合に用いられていたが、硬さが異なる異種金属から成る一対の被接合部材を接合しようとすると、工具の軸心Sと接合ラインWとの位置関係により、接合強度やビード外観等の接合品質が大きく変化するという問題を見い出した。すなわち、本発明者等の実験、研究によれば、図8の(a) 〜(c) に示すように、一対の被接合部材30、32が同一の金属材料(例えばアルミニウム合金)の場合には、接合工具10の軸心Sが接合ラインWの左右にずれても摩擦攪拌接合が可能で、且つ接合強度やビード外観等の接合品質に関して略同じ品質が安定して得られるのに対し、図8の(d) 〜(f) に示すように異種金属の場合、すなわち一方の被接合部材30が鉄鋼材料で他方の被接合部材32がアルミニウム合金の場合には、接合工具10の軸心Sと接合ラインWとの位置関係により、攪拌用突部14の摩耗で接合部に空隙(巣)が生じたり接合強度が低下したりするなどして接合品質が大きく変化し、実質的に接合不可となる場合があった。具体的には、図8の(e) に示すように、攪拌用突部14が被接合部材(鉄鋼材料)30側へ少しだけ侵入するように接合工具10の軸心Sが接合ラインWよりも被接合部材(アルミニウム合金)32側へずれている場合には接合可能であるが、(d) や(f) のように攪拌用突部14の被接合部材(鉄鋼材料)30側への侵入寸法が大きくなると、接合工具10に大きな偏荷重が生じるようになって攪拌用突部14の摩耗が激しくなり、前記攪拌接合部38に空隙が生じるなどして接合品質が大きく損なわれる。
【0006】
したがって、一対の被接合部材30、32が異種金属の場合には、図8の(e) に示すように、硬質の被接合部材(鉄鋼材料)30に対する攪拌用突部14の侵入寸法が小さくなるように接合工具10の軸心Sを接合ラインWよりも反対側、すなわち被接合部材(アルミニウム合金)32側へずらして摩擦攪拌接合を行うようにすれば良いが、実際の被接合部材30、32の端縁すなわち接合ラインWは必ずしも設計通りでなく誤差を有するとともに、その接合ラインWを検出して接合工具10の位置をコントロールすることは困難であるため、略一定の接合品質を安定して得ることは難しい。なお、図8の(a) 〜(f) は、何れも図7の(b) に対応する断面図であるが、特に軸心Sと接合ラインWとの位置関係を説明するためのもので、前記軟化部分36の図示を省略するとともに各部の形状を単純化した概略図である。
【0007】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、硬さが異なる異種金属材料の端縁を突き合わせて摩擦攪拌接合する際に、接合部分の寸法誤差に拘らず接合強度やビード外観等に関する所定の接合品質が安定して得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、第1発明は、先端に攪拌用突部が突設された接合工具を軸心Sまわりに回転駆動しつつ、一対の被接合部材の端縁が互いに突き合わされた接合ラインW上にその攪拌用突部を押圧し、摩擦熱でその被接合部材を軟化させてその攪拌用突部を没入させるとともに、その接合ラインWに沿ってその接合工具を相対移動させることにより、その一対の被接合部材の端縁近傍をその攪拌用突部で攪拌して混ぜ合わせて一体的に接合する摩擦攪拌接合方法において、(a) 前記一対の被接合部材は、互いに硬さが異なる異種金属にて構成されており、(b) 前記接合工具を前記接合ラインWに沿って相対移動させて摩擦攪拌接合を行う際に、その接合ラインWに対して交差するX方向荷重Fxが予め定められた目標荷重となるように、その接合工具のそのX方向の位置を調整しながら前記接合ラインWに沿って相対移動させることを特徴とする。
【0009】
第2発明は、第1発明の摩擦攪拌接合方法において、(a) 前記接合ラインWを基準とする前記接合工具のX方向位置Lxと、その接合工具に作用する前記X方向荷重Fxとの関係を表す荷重特性データ、および適切な接合状態が得られる前記X方向位置Lxとして設定された最適工具位置lxbestが予め記憶されたデータ記憶手段を備えており、(b) 前記接合工具を前記接合ラインWに沿って相対移動させて摩擦攪拌接合を行う際に、実際のX方向荷重Fxを検出する荷重検出工程と、(c) 前記荷重特性データに基づいて前記X方向荷重Fxに対応するX方向位置Lxを算出する位置算出工程と、(d) そのX方向位置Lxと前記最適工具位置lxbestとの位置偏差Mxを算出する位置偏差算出工程と、を有し、(e) その位置偏差Mxだけ前記接合工具の前記X方向位置Lxを変位させることを特徴とする。
【0010】
第3発明は、先端に攪拌用突部が突設された接合工具を軸心Sまわりに回転駆動しつつ、一対の被接合部材の端縁が互いに突き合わされた接合ラインW上にその攪拌用突部を押圧し、摩擦熱でその被接合部材を軟化させてその攪拌用突部を没入させるとともに、その接合ラインWに沿ってその接合工具を相対移動させることにより、その一対の被接合部材の端縁近傍をその攪拌用突部で攪拌して混ぜ合わせて一体的に接合する摩擦攪拌接合装置において、(a) 前記一対の被接合部材は、互いに硬さが異なる異種金属にて構成されており、(b) 前記接合工具を前記接合ラインWに沿って相対移動させて摩擦攪拌接合を行う際に、その接合ラインWに対して交差するX方向荷重Fxを検出する荷重検出手段と、(c) その荷重検出手段によって検出された前記X方向荷重Fxが予め定められた目標荷重となるように、前記接合工具の前記X方向の位置を調整するX方向位置調整手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
第4発明は、第3発明の摩擦攪拌接合装置において、(a) 前記接合ラインWを基準とする前記接合工具のX方向位置Lxと、その接合工具に作用する前記X方向荷重Fxとの関係を表す荷重特性データ、および適切な接合状態が得られる前記X方向位置Lxとして設定された最適工具位置lxbestが予め記憶されたデータ記憶手段を備えており、(b) 前記X方向位置調整手段は、(b-1) 前記接合工具を前記接合ラインWに沿って相対移動させて摩擦攪拌接合を行う際に、前記荷重検出手段によって検出された実際のX方向荷重Fxに対応するX方向位置Lxを前記荷重特性データに基づいて算出する位置算出手段と、(b-2) そのX方向位置Lxと前記最適工具位置lxbestとの位置偏差Mxを算出する位置偏差算出手段と、を有し、(b-3) その位置偏差Mxだけ前記接合工具の前記X方向位置Lxを変位させることを特徴とする。
【0012】
第5発明は、第3発明または第4発明の摩擦攪拌接合装置において、前記接合工具を前記接合ラインWに沿って相対移動させながら実際の接合条件に従って摩擦攪拌接合する際に、前記接合ラインWを基準とする前記接合工具のX方向位置Lxを変化させるとともに、その接合工具に作用する前記X方向荷重Fxを検出して、それ等のX方向位置LxとX方向荷重Fxとの関係を表す荷重特性データを取得するデータ取得手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1発明の摩擦攪拌接合方法によれば、接合工具を接合ラインWに沿って相対移動させて摩擦攪拌接合を行う際に、その接合ラインWに対して交差するX方向荷重Fxが予め定められた目標荷重となるように、その接合工具のX方向の位置を調整しながら接合ラインWに沿って相対移動させるため、一対の被接合部材の材質(硬さ等)の相違や接合ラインWが表す接合部分の寸法誤差に拘らず、目標荷重に応じた優れた接合品質が安定して得られるようになる。すなわち、接合工具の軸心Sと接合ラインWとの位置関係に応じてX方向荷重Fxは変化し、X方向荷重Fxが略一定であれば接合工具の軸心Sと接合ラインWとの位置関係も略一定に維持され、略一定の接合品質が安定して得られるようになるのである。特に、X方向荷重Fxは、実際の接合ラインWすなわち一対の被接合部材の突合せ位置を検出する場合に比較して、簡単に且つ高い精度で検出することができるため、優れた接合品質が安定して得られる摩擦攪拌接合を簡便に実施することができる。
【0014】
また、このようにX方向荷重Fxが目標荷重となるようにX方向の位置が調整されることから、X方向荷重Fxが目標荷重を大きく上回って過大になることが防止され、偏荷重による攪拌用突部の摩耗が抑制されて接合工具の寿命が向上する。
【0015】
第2発明では、接合工具を前記接合ラインWに沿って相対移動させて摩擦攪拌接合を行う際に実際のX方向荷重Fxを検出し、予め設定された荷重特性データに基づいてそのX方向荷重Fxに対応するX方向位置Lxを算出するとともに、そのX方向位置Lxと予め定められた最適工具位置lxbestとの位置偏差Mxを求め、その位置偏差Mxだけ接合工具のX方向位置Lxを変位させるため、例えばX方向荷重Fxが目標荷重と一致するようにX方向位置Lxをフィードバック制御する場合に比較して、そのX方向位置Lxが最適工具位置lxbestへ速やかに変位させられ、接合工具が最適工具位置lxbestに良好に保持されるようになって、接合品質が一層安定する。
【0016】
なお、上記最適工具位置lxbestはX方向荷重Fxの目標荷重に対応するもので、接合工具のX方向位置Lxを最適工具位置lxbestへ変位させる制御は、X方向荷重Fxが目標荷重となるようにX方向位置Lxを調整することと実質的に同じである。言い換えれば、接合工具のX方向位置LxとX方向荷重Fxとの関係を表す荷重特性データにおいて、最適工具位置lxbestに対応するX方向荷重Fxが目標荷重である。
【0017】
第3発明の摩擦攪拌接合装置は、第1発明の摩擦攪拌接合方法を好適に実施できる装置に関するもので、実質的に第1発明と同様の作用効果が得られる。第4発明は、第2発明の摩擦攪拌接合方法を好適に実施できる装置に関するもので、実質的に第2発明と同様の作用効果が得られる。
【0018】
第5発明は、接合ラインWを基準とする接合工具のX方向位置Lxを変化させるとともに、その接合工具に作用するX方向荷重Fxを検出して、それ等のX方向位置LxとX方向荷重Fxとの関係を表す荷重特性データを取得するデータ取得手段を備えているため、被接合部材の材質が異なるなど種々の接合条件で摩擦攪拌接合を行う場合でも、実際の接合条件で予備的に摩擦攪拌接合を行うことにより、実際の接合条件に応じた荷重特性データを簡単に取得できるとともに、接合ラインW上の各部の接合品質を調べることにより、最良の接合品質が得られる前記目標荷重や最適工具位置lxbestなどを容易に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の摩擦攪拌接合方法および摩擦攪拌接合装置は、一対の被接合部材として例えばアルミニウム合金と鉄鋼材料とを摩擦攪拌接合する場合に好適に用いられるが、他の異種金属を接合する場合にも同様に適用され得る。接合工具の材質としては、被接合部材よりも高硬度で耐熱性に優れた材料を採用する必要があり、超硬合金が好適に用いられるが、被接合部材の材質に応じて適宜定められる。
【0020】
接合工具としては、例えば前記図7の接合工具10のように、先端側程やや小径のテーパ形状乃至は円柱形状の攪拌用突部を有し、その攪拌用突部の外周面には、例えば工具回転方向と逆ねじれのおねじ等の凹凸が設けられるとともに、攪拌用突部の先端面は部分球面形状を成しており、且つ軸部の先端面であって攪拌用突部よりも外周側に位置する円環状部分には、その外周縁から攪拌用突部に向かうに従って徐々に深くなる凹所が設けられているものが好適に用いられるが、角柱形状の攪拌用突部を採用したりおねじ以外の凹凸を設けたり軸部の先端面(攪拌用突部の外周側)を平坦面としたりしても良いなど、種々の態様が可能である。
【0021】
一対の被接合部材の端縁が突き合わされた接合ラインWは、その接合ラインWに沿って接合工具を相対移動させる関係で一直線であることが望ましく、例えばその一直線に対して直角となる方向がX方向とされるが、複数の直線を接続した折れ線状や連続的に湾曲した曲線状等の接合ラインW、すなわち端縁形状を採用することもできる。折れ線状の場合は、例えば複数の直線部分に分割してそれぞれX方向や目標荷重、最適工具位置lxbest等を別個に設定すれば良く、曲線状の場合は、例えばその曲線に沿って接合工具の移動経路を多数の直線部分に分割し、その直線部分毎にX方向や目標荷重、最適工具位置lxbest等を別個に設定すれば良いなど、種々の態様が可能である。なお、X方向荷重FxやX方向位置LxのX方向は、接合ラインWに対して直角な方向が望ましいが、直角以外の所定の角度で交差する方向をX方向とすることもできる。
【0022】
第2発明、第4発明では、予め設定された荷重特性データに基づいて実際のX方向荷重Fxに対応するX方向位置Lxを算出するとともに、そのX方向位置Lxと予め定められた最適工具位置lxbestとの位置偏差Mxを求め、その位置偏差Mxだけ接合工具のX方向位置Lxを変位させるが、第1発明や第3発明の実施に際しては、X方向荷重Fxが目標荷重と一致するように、それ等の偏差に応じてX方向位置Lxをフィードバック制御するようにしても良いなど、種々の態様が可能である。接合ラインWに沿う接合工具の相対移動を、予め定められた移動経路データに従ってNC制御等により制御する場合、その移動経路データそのものや学習補正値を上記位置偏差Mx等によって書き換えることもできるなど、周知の学習制御を採用することも可能である。
【0023】
第5発明のデータ取得手段は、例えば接合ラインWが一直線の場合、攪拌用突部がその一直線の接合ラインWを跨いで一方から他方へ移動するように、その接合ラインWに対して小さな所定の角度(例えば10°以下)で交差するように定められた一直線のデータ取得ラインに沿って接合工具を相対移動させることにより、接合ラインWに沿って摩擦攪拌接合する際の実際の接合条件と略同じ条件で、接合ラインWを基準とする接合工具のX方向位置Lxを連続的に変化させて荷重特性データを簡便に取得することができる。但し、X方向位置Lxを段階的に変化させたり、そのX方向位置Lxが異なる複数の摩擦攪拌接合を別々に実施したりして、そのX方向位置LxとX方向荷重Fxとの関係を表す荷重特性データを取得するとともに、攪拌接合部の接合状態を調べて目標荷重を定めることもできるなど、種々の態様が可能である。
【0024】
一対の被接合部材の接合ラインWに沿って摩擦攪拌接合する際の接合工具の回転方向および相対移動方向は、本発明者等の実験によれば硬質側の被接合部材に対してアップカットで攪拌するように設定することが望ましい。例えば、前記図7に示すように接合工具10を上方から見て軸心Sの右まわりに回転駆動しつつ矢印Aで示すように向こう側へ移動させて摩擦攪拌接合する場合、左側の被接合部材30を鉄鋼材料等の比較的硬質の金属材料とし、右側の被接合部材32をアルミニウム合金等の比較的軟質の金属材料とするのである。但し、回転速度や移動速度(送り速度)、両被接合部材の材質等の接合条件によっては、硬質側の被接合部材をダウンカットで攪拌するようにして摩擦攪拌接合を行うことも可能である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である摩擦攪拌接合装置40により前記接合工具10を用いて一対の被接合部材42、44を摩擦攪拌接合する際の概略斜視図で、前記図7の従来例と同様にして摩擦攪拌接合を行うものであるが、一方の被接合部材40は鉄鋼材料等の比較的硬質の金属材料であるのに対し、他方の被接合部材42はアルミニウム合金等の比較的軟質の金属材料である。接合工具10は、電動モータ等の回転駆動装置50により軸心Oまわりに回転駆動されるとともに、三次元移動装置52によりX、Y、Zの各軸方向へ予め定められた移動経路データに従って移動させられるようになっており、電子制御装置54によるNC制御で前記攪拌用突部14が所定寸法だけ被接合部材42、44内に没入させられた状態で、矢印Aで示すように接合ラインWに沿って移動させられる。
【0026】
接合ラインWは略一直線で、一対の被接合部材42、44は、支持台34上に略水平、すなわち三次元移動装置52のZ軸方向に対して略垂直となる姿勢で載置され、且つ接合ラインWがY軸方向と略一致する姿勢に位置決めされており、接合工具10の移動方向である前記矢印AはY軸方向と略一致する。また、接合工具10の回転方向および移動方向Aは、硬質側の被接合部材42に対してアップカットで攪拌するように定められ、接合工具10は、上方から見て軸心Sの右まわりに回転駆動されるとともに、図の右奥方向へ接合ラインWに沿って移動させられる。接合工具10は、硬質側の被接合部材42よりも高硬度で且つ耐熱性に優れた材料製で、本実施例ではK種の超硬合金にて構成されている。
【0027】
一方、本実施例の摩擦攪拌接合装置40は、接合工具10の攪拌用突部14を被接合部材42、44内に没入させ、移動方向Aへ移動させて接合ラインWに沿って摩擦攪拌接合を行う際に、接合ラインWに対して略直角なX軸方向に作用するX方向荷重Fxを検出する動力計等の荷重センサ56を備えており、そのX方向荷重Fxを表す信号を前記電子制御装置54に供給する。この荷重センサ56は荷重検出手段に相当する。
【0028】
電子制御装置54は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って所定の信号処理を行うことにより、図2のブロック線図に示す各機能を実行する。図2において、三次元位置制御手段66は、前記接合ラインWに沿って摩擦攪拌接合を行うために予め設定された移動経路データに従って前記接合工具10をNC制御により移動させるもので、X方向位置補正手段64は、前記荷重センサ56から供給される実際のX方向荷重Fxと、データ記憶手段60に予め記憶された荷重特性データおよび最適工具位置lxbestとに基づいて、接合工具10の実際のX方向位置Lxがその最適工具位置lxbestと略一致するように、上記三次元位置制御手段66によって制御されるX方向位置Lxを補正する。このX方向位置補正手段64はX方向位置調整手段に相当する。
【0029】
上記荷重特性データは、図3の(a) に示すように接合工具10のX方向位置LxとX方向荷重Fxとの関係で、データ取得手段62により予め取得されて、RAM等にて構成されるデータ記憶手段60に記憶されている。データ取得手段62は、例えば図3の(b) に示すように、接合工具10の攪拌用突部14が一直線の接合ラインWを跨いで一方から他方へ移動するように、その接合ラインWに対して小さな所定の角度(例えば10°以下)で交差するように定められた一直線のデータ取得ラインWdに沿って接合工具10を移動させながら、回転速度nや移動速度f等の接合条件を実際に摩擦攪拌接合する時と同じ条件として事前(予備的)に摩擦攪拌接合を行い、前記荷重センサ56によって検出されるX方向荷重Fxを連続的に読み込むことにより、上記荷重特性データを取得する。X方向位置Lxは、接合ラインWを基準とする接合工具10のX軸方向の位置で、本実施例では攪拌用突部14が硬質の被接合部材42側へ侵入する侵入寸法であり、接合工具10がデータ取得ラインWdに沿って直線移動させられることにより連続的に変化させられる。この荷重特性データは、データマップや演算式等によりデータ記憶手段60に記憶される。
【0030】
また、上記データ記憶手段60に予め記憶される最適工具位置lxbestは、最良の接合品質が得られるX方向位置Lxで、上記データ取得手段62によって荷重特性データを取得する際にデータ取得ラインWdに沿って摩擦攪拌接合された攪拌接合部38の複数箇所の接合状態、例えば接合強度や空隙の有無、ビード形状などを調べることにより、最良の接合品質が得られる最適ポイントQを求め、その最適ポイントQのX方向位置Lxを最適工具位置lxbestとして作業者により入力設定される。因みに、図4に示すように一方の被接合部材42が鉄鋼材料「S45C」(JIS記号)で、他方の被接合部材44がアルミニウム合金「A6063」(JIS記号)で、それ等の板厚bが6mmの場合に、以下の接合条件で摩擦攪拌接合を行う場合の最適工具位置lxbestは約0.1mmで、攪拌用突部14が0.1mmだけ鉄鋼材料の被接合部材42側へ侵入した状態、言い換えれば残りの3.9mmがアルミニウム合金の被接合部材44側に位置する状態で摩擦攪拌接合する場合に、最良の接合品質が得られた。また、その最適工具位置lxbest≒0.1mmで摩擦攪拌接合する際のX方向荷重Fx、すなわち最適荷重fxbest(図3(a) 参照)は約20MPaであった。
(接合条件)
・攪拌用突部14の径寸法φ:4mm
・攪拌用突部14の没入寸法a:4mm
・接合工具10の回転速度n:4000rpm
・接合工具10の移動速度f:1000mm/min
【0031】
一方、前記X方向位置補正手段64は、上記データ取得手段62によって荷重特性データが取得されてデータ記憶手段60に記憶されるとともに、上記最適工具位置lxbestが設定された後に、実際に接合工具10を軸心Sまわりに回転駆動しつつ攪拌用突部14を接合ラインW上において被接合部材42、44内に没入させ、接合ラインWに沿って移動させて摩擦攪拌接合する際に、図5に示すフローチャートに従って信号処理を行う。このフローチャートのステップS1は荷重検出工程に相当し、ステップS2は位置算出工程に相当し、ステップS3は位置偏差算出工程に相当する。また、ステップS2は位置算出手段として機能し、ステップS3は位置偏差算出手段として機能する。
【0032】
図5のステップS1では、前記荷重センサ56からX方向荷重Fxを表す信号を読み込み、ステップS2では、X方向荷重Fxに対応するX方向位置Lxをデータ記憶手段60に記憶された荷重特性データから算出する。図6は、この荷重特性データの一例で、前記図3(a) と同じものであり、実際のX方向荷重FxがFxrの場合、実線で示す荷重特性データに基づいてX方向位置LxとしてLxrが算出される。続くステップS3では、データ記憶手段60に予め記憶された前記最適工具位置lxbestと上記X方向位置Lx(=Lxr)との差である位置偏差Mxを算出し、ステップS4で、その位置偏差MxだけX方向位置Lxを変更する指令を前記三次元位置制御装置66に出力する。これにより、接合工具10のX方向位置Lxが位置偏差Mx分だけ変位させられ、最適工具位置lxbestと一致させられ、前記最適荷重fxbestで摩擦攪拌接合が行われるようになる。この最適荷重fxbestは目標荷重に相当する。
【0033】
このように、本実施例の摩擦攪拌接合装置40によれば、接合工具10を接合ラインWに沿って移動させて摩擦攪拌接合を行う際に、その接合ラインWに対して略直角なX方向荷重Fxが予め定められた目標荷重(最適荷重fxbest)となるように、その接合工具10のX方向位置Lxを調整しながら接合ラインWに沿って移動させるため、一対の被接合部材42、44の材質(硬さ等)の相違や接合ラインWが表す接合部分の寸法誤差に拘らず、目標荷重に応じた優れた接合品質が安定して得られるようになる。特に、X方向荷重Fxは、実際の接合ラインWすなわち被接合部材42、44の突合せ位置を検出する場合に比較して、簡単に且つ高い精度で検出することができるため、優れた接合品質が安定して得られる摩擦攪拌接合を簡便に実施することができる。
【0034】
また、このようにX方向荷重Fxが目標荷重(最適荷重fxbest)となるようにX方向位置Lxが調整されることから、X方向荷重Fxが目標荷重(最適荷重fxbest)を大きく上回って過大になることが防止され、偏荷重による攪拌用突部14の摩耗が抑制されて接合工具10の寿命が向上する。
【0035】
また、本実施例では、接合工具10を接合ラインWに沿って移動させて摩擦攪拌接合を行う際に実際のX方向荷重Fxを検出し、予め設定された荷重特性データに基づいてそのX方向荷重Fxに対応するX方向位置Lxを算出するとともに、そのX方向位置Lxと予め定められた最適工具位置lxbestとの位置偏差Mxを求め、その位置偏差Mxだけ接合工具10のX方向位置Lxを変位させるため、例えばX方向荷重Fxが目標荷重(最適荷重fxbest)と一致するようにX方向位置Lxをフィードバック制御する場合に比較して、そのX方向位置Lxが最適工具位置lxbestへ速やかに変位させられ、接合工具10が最適工具位置lxbestに良好に保持されるようになって、接合品質が一層安定する。
【0036】
また、本実施例では、接合ラインWを基準とする接合工具10のX方向位置Lxを連続的に変化させるとともに、その接合工具10に作用するX方向荷重Fxを連続的に検出して、それ等のX方向位置LxとX方向荷重Fxとの関係を表す荷重特性データを取得するデータ取得手段62を備えているため、被接合部材42、44の材質が異なるなど種々の接合条件で摩擦攪拌接合を行う場合でも、実際の接合条件で例えば図3の(b) に示すデータ取得ラインWdに沿って予備的に摩擦攪拌接合を行うことにより、実際の接合条件に応じた荷重特性データを簡単に取得できるとともに、接合ラインW上の各部の接合品質を調べて最適ポイントQを求めることにより、その荷重特性データから最良の接合品質が得られる最適工具位置lxbestを求めて容易に設定することができる。
【0037】
なお、上記実施例では実際のX方向荷重Fxを検出し、予め設定された荷重特性データに基づいてそのX方向荷重Fxに対応するX方向位置Lxを算出するとともに、そのX方向位置Lxと予め定められた最適工具位置lxbestとの位置偏差Mxを求め、その位置偏差Mxだけ接合工具10のX方向位置Lxを変位させるようになっていたが、前記最適荷重fxbestを目標荷重として、X方向荷重Fxがその目標荷重(最適荷重fxbest)と一致するように、それ等の荷重の偏差に応じてX方向位置Lxをフィードバック制御するようにしても良い。この場合は、最良の接合品質が得られる最適荷重fxbestが分かれば良いため、前記荷重特性データや最適工具位置lxbestは必ずしも必要ない。
【0038】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明方法に従って異種金属材料から成る一対の被接合部材を摩擦攪拌接合する際の要部を説明する概略斜視図である。
【図2】図1の電子制御装置が備えている機能を説明するブロック線図である。
【図3】図2のデータ記憶手段に記憶されている荷重特性データを説明する図で、(a) は荷重特性データの一例を示す図、(b) は荷重特性データの取得方法を説明する図である。
【図4】図3の(b) のデータ取得方法に従って実際に荷重特性データを取得した際の各部の寸法や接合条件等を具体的に説明する図である。
【図5】図2のX方向位置補正手段の機能を具体的に説明するフローチャートである。
【図6】図5のステップS2で荷重特性データを用いてX方向荷重FxからX方向位置Lxを算出する際の手順を説明する図である。
【図7】摩擦攪拌接合を説明する図で、(a) は概略斜視図、(b) は(a) におけるVIIB−VIIB断面の拡大図である。
【図8】図7の摩擦攪拌接合で一対の被接合部材を接合する際の接合ラインWと工具の軸心Sとの位置関係、および被接合部材の材質をそれぞれ変更し、摩擦攪拌接合の可否を調べた結果を説明する図である。
【符号の説明】
【0040】
10:接合工具 14:攪拌用突部 40:摩擦攪拌接合装置 42、44:被接合部材 56:荷重センサ(荷重検出手段) 60:データ記憶手段 62:データ取得手段 64:X方向位置補正手段(X方向位置調整手段) S:工具の軸心 W:接合ライン Lx:X方向位置 Fx:X方向荷重 fxbest:最適荷重(目標荷重) lxbest:最適工具位置 ステップS1:荷重検出工程 ステップS2:位置算出工程、位置算出手段 ステップS3:位置偏差算出工程、位置偏差算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に攪拌用突部が突設された接合工具を軸心Sまわりに回転駆動しつつ、一対の被接合部材の端縁が互いに突き合わされた接合ラインW上に該攪拌用突部を押圧し、摩擦熱で該被接合部材を軟化させて該攪拌用突部を没入させるとともに、該接合ラインWに沿って該接合工具を相対移動させることにより、該一対の被接合部材の端縁近傍を該攪拌用突部で攪拌して混ぜ合わせて一体的に接合する摩擦攪拌接合方法において、
前記一対の被接合部材は、互いに硬さが異なる異種金属にて構成されており、
前記接合工具を前記接合ラインWに沿って相対移動させて摩擦攪拌接合を行う際に、該接合ラインWに対して交差するX方向荷重Fxが予め定められた目標荷重となるように、該接合工具の該X方向の位置を調整しながら前記接合ラインWに沿って相対移動させる
ことを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項2】
前記接合ラインWを基準とする前記接合工具のX方向位置Lxと、該接合工具に作用する前記X方向荷重Fxとの関係を表す荷重特性データ、および適切な接合状態が得られる前記X方向位置Lxとして設定された最適工具位置lxbestが予め記憶されたデータ記憶手段を備えており、
前記接合工具を前記接合ラインWに沿って相対移動させて摩擦攪拌接合を行う際に、実際のX方向荷重Fxを検出する荷重検出工程と、
前記荷重特性データに基づいて前記X方向荷重Fxに対応するX方向位置Lxを算出する位置算出工程と、
該X方向位置Lxと前記最適工具位置lxbestとの位置偏差Mxを算出する位置偏差算出工程と、
を有し、該位置偏差Mxだけ前記接合工具の前記X方向位置Lxを変位させる
ことを特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項3】
先端に攪拌用突部が突設された接合工具を軸心Sまわりに回転駆動しつつ、一対の被接合部材の端縁が互いに突き合わされた接合ラインW上に該攪拌用突部を押圧し、摩擦熱で該被接合部材を軟化させて該攪拌用突部を没入させるとともに、該接合ラインWに沿って該接合工具を相対移動させることにより、該一対の被接合部材の端縁近傍を該攪拌用突部で攪拌して混ぜ合わせて一体的に接合する摩擦攪拌接合装置において、
前記一対の被接合部材は、互いに硬さが異なる異種金属にて構成されており、
前記接合工具を前記接合ラインWに沿って相対移動させて摩擦攪拌接合を行う際に、該接合ラインWに対して交差するX方向荷重Fxを検出する荷重検出手段と、
該荷重検出手段によって検出された前記X方向荷重Fxが予め定められた目標荷重となるように、前記接合工具の前記X方向の位置を調整するX方向位置調整手段と、
を有することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項4】
前記接合ラインWを基準とする前記接合工具のX方向位置Lxと、該接合工具に作用する前記X方向荷重Fxとの関係を表す荷重特性データ、および適切な接合状態が得られる前記X方向位置Lxとして設定された最適工具位置lxbestが予め記憶されたデータ記憶手段を備えており、
前記X方向位置調整手段は、
前記接合工具を前記接合ラインWに沿って相対移動させて摩擦攪拌接合を行う際に、前記荷重検出手段によって検出された実際のX方向荷重Fxに対応するX方向位置Lxを前記荷重特性データに基づいて算出する位置算出手段と、
該X方向位置Lxと前記最適工具位置lxbestとの位置偏差Mxを算出する位置偏差算出手段と、
を有し、該位置偏差Mxだけ前記接合工具の前記X方向位置Lxを変位させる
ことを特徴とする請求項3に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項5】
前記接合工具を前記接合ラインWに沿って相対移動させながら実際の接合条件に従って摩擦攪拌接合する際に、前記接合ラインWを基準とする前記接合工具のX方向位置Lxを変化させるとともに、該接合工具に作用する前記X方向荷重Fxを検出して、該X方向位置Lxと該X方向荷重Fxとの関係を表す荷重特性データを取得するデータ取得手段を有する
ことを特徴とする請求項3または4に記載の摩擦攪拌接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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