説明

摩擦材の製造方法

【課題】 短時間で成形可能な摩擦材の製造方法を提供する。
【解決手段】 繊維状物質、結合材及び摩擦調整剤を含む摩擦材組成物を用いた摩擦材の製造方法であって、
(i)少なくとも繊維状物質及び摩擦調整剤を含む原料を混合し、原料混合物を得る工程
(ii)前記原料混合物にゴム状物質を加え混錬し、摩擦材組成物を得る工程
(iii)前記摩擦材組成物を常温で加圧成形する工程
を含む摩擦材の製造方法又は(ii)の工程の後に、さらに結合材を含む原料を加え混合する工程を含む摩擦材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキ、クラッチ等に用いられる摩擦材は、結合材を含む摩擦材原料を混合した摩擦材組成物を100〜200℃で加熱加圧成形し、熱処理、加工して製造される。ここで100〜200℃の温度は摩擦材組成物中の結合材がゲル化及び硬化する為の温度である。通常、成形中に結合材がゲル化することで、結合材が摩擦材組成物を覆い、その後硬化することで所定の形状を保つことが出来る。
【0003】
一般的に、摩擦材の製造方法においては、製造コストの低減などの観点から、成形時間は出来るだけ短い方が良い。
成形時間を短くする手法としては、成形温度を高くして結合材の反応を促進することや、熱伝導の高い素材を摩擦材組成物として使用することなどがある。
【0004】
また、成形金型の材質の選定及びガス抜き方法の変更により成形時間の短縮を行った例が挙げられる(特許文献1参照)。
しかし、成形時に結合材がゲル化を経て硬化する必要がある為、成形時間の短縮には限界があり、数分以内の短時間で成形することは困難である。
【0005】
また、短時間で成形する方法として、液状樹脂を摩擦材組成物表面に被覆し、その粘着性により常温にて短時間で加圧成形する方法が挙げられる。
しかし、液状樹脂は有機溶剤を含む物が殆どであり、環境悪化の懸念がある。
【0006】
また、液状樹脂は粘着性が弱い為、成形時の膨張量の小さいロースチール材では適用出来るが、非石綿系摩擦材の製造方法として適用した場合、摩擦材組成物の粘着性より成形時の膨張量が勝ってしまい、必要な気孔率を得ることが出来ない。
【特許文献1】特開2003−145568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、短時間で成形可能な摩擦材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、粘着性の強いゴムを特定の方法で摩擦材組成物に被覆することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を解決するに至った。
すなわち、本発明は、次の事項に関する。
(1) (i)少なくとも繊維状物質及び摩擦調整剤を含む原料を混合し、原料混合物を得る工程
(ii)前記原料混合物にゴム状物質を加え混錬し、摩擦材組成物を得る工程
(iii)前記摩擦材組成物を常温で加圧成形する工程
を含む摩擦材の製造方法。
【0009】
(ii)の工程の後に、さらに結合材を含む原料を加え混合する工程を含む摩擦材の製造方法。
(ii)の工程で加えるゴム状物質が、摩擦材組成物全量に対して、0.5〜15質量%である上記の摩擦材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、短時間で成形可能な摩擦材の製造方法を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の摩擦材の製造方法について詳述する。
本発明の摩擦材の製造方法は、繊維状物質、結合材及び摩擦調整剤を含む摩擦材組成物を用いた摩擦材の製造方法であって、
(i)少なくとも繊維状物質及び摩擦調整剤を含む原料を混合し、原料混合物を得る工程
(ii)前記原料混合物にゴム状物質を加え混錬し、摩擦材組成物を得る工程
(iii)前記摩擦材組成物を常温で加圧成形する工程
を含むことを特徴とする。
【0012】
上記方法により、従来数分〜数十分を要していた成形工程を数秒〜数十秒程度で行うことが可能となる。
本発明の摩擦材の製造方法におけるそれぞれの工程について説明する。
[(i)少なくとも繊維状物質及び摩擦調整剤を含む原料を混合し、原料混合物を得る工程]
本発明の摩擦材の製造方法に使用される繊維状物質としては、通常、摩擦材組成物に用いられる、有機繊維、金属繊維、無機繊維等が挙げられる。
【0013】
有機繊維としては、例えば、アラミド繊維、アクリル繊維、セルロース繊維、炭素繊維、フェノール樹脂繊維、ポリイミド繊維等が挙げられる。
金属繊維としては、例えば、銅繊維、真鍮繊維、スチール繊維、黄銅繊維、アルミ繊維等が挙げられる。
【0014】
無機繊維としては、例えば、アルミナ繊維、アルミナ−シリカ繊維、ガラス繊維、鉱物繊維、セラミック繊維等が挙げられる。
これらの繊維状物質は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
本発明の摩擦材の製造方法に使用される繊維状物質の含有量は、本発明の摩擦材組成物中に1〜80質量%が好ましく、2〜50質量%であることがより好ましい。
【0016】
本発明の摩擦材の製造方法に使用される摩擦材調整剤としては、通常、摩擦材組成物に用いられる無機充填剤、有機充填剤等が挙げられる。
無機充填剤としては、例えば、ジルコニア、アルミナ、シリカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、雲母、チタン酸カリウム、黒鉛(グラファイト)、三酸化アンチモン、二硫化アンチモン等が挙げられる。
【0017】
有機充填剤としては、例えば、カシューダスト、ゴム粉などが挙げられる。
これらの摩擦調整剤は単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
本発明の摩擦材の製造方法に使用される摩擦調整剤としての無機充填剤の含有量は、本発明の摩擦材組成物中に2〜95質量%が好ましく、10〜80質量%であることがより好ましい。
また、摩擦調整剤としての有機充填剤の含有量は、本発明の摩擦材組成物中に2〜95質量%が好ましく、10〜80質量%であることがより好ましい。
【0019】
本発明の摩擦材の製造方法において、少なくとも繊維状物質及び摩擦調整剤を含む原料を混合する方法としては、原料が均一に混合できる方法であれば特に制限はないが、例えば、レディゲミキサー、アイリッヒミキサー等で混合することが挙げられる。
【0020】
[(ii)上記原料混合物にゴム状物質を加え混錬し摩擦材組成物を得る工程]
本発明の摩擦材の製造方法に使用されるゴム状物質としては、常温(25℃)で固体形状を保つゴムであれば特に制限はなく、粘着性の強い未架橋の固形ゴムを使用することが好ましい。
【0021】
上記の常温にて固形状のゴムとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリル二トリルブタジエンンゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0022】
これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも耐熱性に優れているアクリルニトリルブタジエンゴム、ブチルゴムを用いることが好ましい。
【0023】
また、上記未架橋のゴムに架橋剤及び架橋促進剤を練りこんで使用することも可能である。この場合、成形後に熱処理を施すことにより、架橋反応を起こすことが出来るため耐熱性の点で好ましい。架橋剤及び架橋促進剤としては、一般的なゴムの架橋剤及び架橋促進剤が使用出来る。
【0024】
(i)の工程で得られた原料混合物にゴム状物質を混練する方法としては、例えば、一般的なゴム混練装置を用いて上記ゴム成分と原料混合物とを混練することにより行うことができる。
【0025】
一般的なゴム混練装置としては、例えば、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等が挙げられる。加圧ニーダーを使用する場合は、0.5〜5MPa加圧の条件下で、5〜60分間混練することが好ましい。
【0026】
本発明の摩擦材の製造法において使用するゴム状物質の含有量は、全摩擦材組成物100質量%に対して、0.5〜15質量%であることが好ましい。より好ましくは1〜10質量%であり、さらに好ましくは2〜8質量%である。0.5質量%以上であれば、充分な粘着性が得られ、目標の気孔率の摩擦材が得られる傾向にある。また15質量%以下であれば、摩擦材として充分な強度、耐摩耗性が得られる傾向にある。
【0027】
また、本発明の摩擦材の製造方法においては、(ii)原料混合物にゴム状物質を加え混錬し摩擦材組成物を得る工程の後に、さらに結合材を含む原料を加え混合する工程を含むことが好ましい。
【0028】
本発明の摩擦材の製造方法に使用される結合材は、通常、摩擦材組成物に用いられる熱硬化性樹脂を用いることができる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、イミド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの結合材は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
本発明の摩擦材の製造方法に使用される結合材の含有量は、本発明の摩擦材組成物中に2〜30質量%が好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。
上記結合材を混合する方法としては、例えば、レディゲミキサー、アイリッヒミキサー等で混合することにより行うことができる。
【0030】
本発明の摩擦材の製造法においては、工程(i)において一部の結合材を混合し、工程(ii)の後に更に追加して結合材を混合しても構わない。このような方法を採用する場合、工程(ii)の後に追加混合する樹脂の配合量としては、2〜30質量%が好ましく、5〜15質量%がよりで好ましい。
【0031】
[(iii)上記(ii)で得られた摩擦材組成物を常温で加圧成形する工程]
本発明の摩擦材の製造方法においては、上記方法によって得られた摩擦材組成物を加圧成型する工程を含む。
【0032】
本発明の摩擦材の製造方法においては、ゴムの粘着性により所定の形状(又は気孔率)に押し固めることが出来るため成形時に樹脂の反応を伴わず、成形を常温で行うことが可能である。このように加圧成形時に樹脂の反応を伴わない常温で行うため、数秒〜数十秒で成形することができる。
【0033】
ここで本発明における「常温」とは、通常、結合材として用いる樹脂がゲル化若しくは溶融しない温度であり、その温度範囲であれば環境温度及び成形温度に制限は無いが、一般的には0〜100℃である。また成形安定性を考慮し、成形金型を一定温度に保温し加圧成形することが好ましい。金型保温温度は環境温度の影響及び作業性を考慮し、40〜60℃が好ましい。
【0034】
従来、加熱加圧成形は成形中にガスが発生する為、成形中に除圧等のガス抜き工程を必要とするが、ガスの発生状況の制御は難しく、成形バラツキが生じ易い問題がある。
さらに、ガス発生は成形品のクラック発生の主要因であり、製品のヒビ不良のほとんどは成形時のガス発生によるものである。本発明においては成形を常温で行うことが可能であるため、常温で成型した場合。ガス発生がない。このため、バラツキの小さく、ヒビ不良を減少させることが可能となる。
【0035】
成形圧力としては、50〜150MPaが好ましく、70〜130MPaがさらに好ましい。得られた成形物を150〜300℃で1〜10時間熱処理することにより、摩擦材を得ることができる。
また、必要に応じて目的形状に加工したり、塗装、スコーチ処理、研磨処理を行ってもよい。
【0036】
本発明の摩擦材の製造方法により製造された摩擦材は、例えば、自動車などのディスクブレーキパッド、ブレーキライニング等の摩擦材として、クラッチフェーシング、電磁ブレーキ、保持ブレーキ等の摩擦材として使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。本発明は何らこれらに制限するものではない。
[実施例1〜5及び比較例1〜2]
(摩擦材組成物の製造)
実施例1〜5及び比較例1〜2の摩擦材組成物は表1に示す原料成分及び配合量とし、下記に示す工程にてそれぞれの摩擦材組成物を得た。
【0038】
[1]表1に一次混合素材として示した材料をレディゲミキサーにて7分間乾式混合した。なお、比較例1は本工程のみで作製された摩擦材組成物である。
[2]次に、上記[1]で得られた一次混合素材及び塩素化ブチルゴム(JSR製「CHLOROBUTYL1066」(表1にはCllRと記載))を加圧ニーダー(森山製作所製、型式D3−5)にて1MPaで30分間混錬した。
【0039】
[3]次に、上記[2]で得られた混合物及び表1に記載の二次混合用原料をレディゲミキサーにて7分間乾式混合した。実施例1〜5は本工程までで作製された摩擦材組成物である。
【0040】
(摩擦材の製造)
上記で得られたそれぞれの摩擦材組成物を成形温度50℃、成形面圧100MPa及び成形時間10秒の条件で加圧成形し、その後、電気炉にて温度225℃で5時間熱処理し、バーチカル研磨機にて研磨し、摩擦材を得た。
【0041】
比較例2は、比較例1と同様の摩擦材組成物にて成形温度150℃、成形面圧20MPa及び成形時間5分の条件で加熱加圧成形し、その後、電気炉にて温度225℃で5時間熱処理し、バーチカル研磨機にて研磨し、摩擦材を得た。
【0042】
上記のように作製した実施例1〜5及び比較例1〜2の摩擦材の特性を測定し、表1にまとめた。
各特性は以下のように測定した。
【0043】
(クラック発生の有無の評価方法)
上記方法で作製した実施例及び比較例の摩擦材のクラック発生量を目視によって確認し、下記基準で評価した。
◎:目視にてクラックの発生が確認されない。
○:若干のクラック(シワ)が目視にて確認された(従来製法摩擦材と同等。)
×:目視にてクラックが確認され、製品としてNGと判断。
【0044】
(気孔率の測定方法)
上記方法で作製した実施例及び比較例の摩擦材の気孔率をJIS D4418−1996に従い測定した。
【0045】
上記方法で作製した実施例及び比較例の摩擦材から幅25mm、長さ25mm及び厚み5mmの試料片を切り出し、試験試料とした。
作製した試料片を90±10℃の試験油(新日本石油社製、商品名プロ・レーシング)に8時間浸し、そのときの試験油の浸透した量により気孔率を算出した。
【0046】
(せん断強度の測定方法)
上記方法で作製した実施例及び比較例の摩擦材のせん断強度をJIS D4422−2007に従い測定した。
【0047】
上記方法で作製した実施例及び比較例の摩擦材をパッドせん断試験機(新日本特機社製)により、クロスヘッド移動速さ10mm/分で試料が完全に破壊するまで加圧し、破壊したときの最大荷重を測定した。
【0048】
【表1】

【0049】
(測定結果)
表1の測定結果から、以下のことが分かった。
クラック発生量は、50℃で成形した実施例1〜5及び比較例1が良好であり、150℃で成形した比較例2のみ若干のクラック発生が確認された。
よって、樹脂が硬化反応しない温度で成形することで、クラック発生を抑制出来ることが明らかである。
【0050】
気孔率は、CIIR量が8%でコート量が95%と多い実施例4が最も小さく、良好であった。次いで、IIR量が5%でコート量が95%である実施例1が小さい結果であった。
次に、実施例5、2、3及び比較例1の順で気孔率が小さい結果であり、CIIR量が同じ場合、そのコート量が多いほど気孔率が小さくなることが明らかである。
よって、コート用ゴム量及びゴムコートする摩擦材組成物の量を調整することにより、気孔率を安易に調整出来る。
【0051】
しかし、実施例4は実施例1と比較してせん断強度が低い結果であり、CIIR量が多いほどせん断強度が低くなることが明らかである。
また、実施例5は実施例1よりせん断強度が高い結果であり、二次混合用原料の樹脂量が多いほどせん断強度が高くなることが明らかであった。
よって、固形ゴム量と二次混合用原料の樹脂量を調整することにより、せん断強度を調整することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状物質、結合材及び摩擦調整剤を含む摩擦材組成物を用いた摩擦材の製造方法であって、
(i)少なくとも繊維状物質及び摩擦調整剤を含む原料を混合し、原料混合物を得る工程
(ii)前記原料混合物にゴム状物質を加え混錬し、摩擦材組成物を得る工程
(iii)前記摩擦材組成物を常温で加圧成形する工程
を含む摩擦材の製造方法。
【請求項2】
(ii)の工程の後に、さらに結合材を含む原料を加え混合する工程を含む摩擦材の製造方法。
【請求項3】
(ii)の工程で加えるゴム状物質が、摩擦材組成物全量に対して、0.5〜15質量%である請求項1又は2記載の摩擦材の製造方法。

【公開番号】特開2009−220495(P2009−220495A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69395(P2008−69395)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(391033078)日本ブレーキ工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】