説明

摩擦材の解析方法

【課題】摩擦材の分析方法に関し、摩擦材の構成をより正確に分析可能な技術を提供する。
【解決手段】摩擦材の解析方法であって、電子が磁場で曲げられたときに発生する電磁波としての放射光を、前記摩擦材からなる試料の内部を通過させることで、前記摩擦材を構成する材料と該摩擦材の内部に存在する空隙とを含む該摩擦材の構成要素に関する構成情報を取得する取得ステップと、前記取得ステップで取得された構成情報に基づいて、前記摩擦材の構成要素を視覚的に写し出す出力ステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材の解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体試料を構成する材料やその内部に含まれる空隙を解析する技術として、水銀圧入法や表面構造解析法が知られている。水銀圧入法は、試料の空隙に水銀を圧入し、圧入する際の圧力と圧入された水銀容積とに基づいて固体試料の空隙を測定する。表面構造解析法は、固体試料の表面に細く絞った電子線やX線を照射することで発生する反射電子や特性X線等を分析する(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−116159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
自動車や産業機械等のブレーキやクラッチ等には、摩擦材が使用されている。摩擦材は、例えば自動車では重要保安部品に位置づけられるなど、重要な役割を担っている。そして、近年の摩擦材は、従来から重要視されてきた摩擦特性や振動特性に加えて、安全性、環境問題への対応、国際標準化への対応が求められつつある。このような要求に対応するために、摩擦材の構成要素を正確に分析する技術の確立が望まれる。しかし、摩擦材は、非常に多くの材料によって構成され、更に、材料同士の間には微細な空気孔(空隙)が複数形成されているという特徴を有している。その結果、従来の分析技術では、摩擦材を正確に分析することは困難とされていた。
【0004】
例えば、固体試料中に存在する空隙を解析する従来技術として、水銀圧入法や表面構造解析法が知られている。水銀圧入法によれば、空隙に水銀を圧入する際の圧力と圧入された水銀容積とに基づいて固体試料に存在する空隙の量や夫々の空隙の大きさを分析することができる。しかし、係る方法では、凡そ数μm以上の大きさの空隙が、全体積中の何%を占めているといったことしか分析できない。すなわち、水銀圧入法では、空隙が三次元的にどのような形状をしているか、また、空隙がどのように分布しているかといった情報を得ることはできない。更に、水銀圧入法では、水銀を固体試料の外側から圧入する為、外部につながっていない閉じた空隙は測定することができない。
【0005】
また、表面構造解析法によれば、固体試料の表面に細く絞った電子線やX線を照射する
ことで発生する反射電子や特性X線等を分析することで、固体試料に含まれる材料成分とその分布を特定することができる。しかし、表面構造解析法にて固体試料の構成要素を三次元的に解析する場合には、固体試料を薄くスライスするなど、破壊測定となってしまう。また、固体試料を薄くスライスするには、限界があり、また、薄く加工する際に、材料の形状や分布が破壊されてしまい、正確な分析を行うことができないといった問題がある。
【0006】
更に、X線を利用したCT(Computed Tomography)技術が知られている。しかし、上
述したように、摩擦材は、非常に多くの材料からなるとともに材料同士の間に微細な空隙を複数有することから、従来のCT技術では、摩擦材中における材料や空隙の状態を詳細に識別することができなかった。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、摩擦材の分析方法に関し、摩擦材の構成をより正確に分析可能な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、電子が磁場で曲げられたときに発生する電磁波としての放射光を摩擦材からなる試料の内部を通過させることで、摩擦材の構成を視覚的に映し出すこととした。
【0009】
より詳細には、本発明は、摩擦材の解析方法であって、電子が磁場で曲げられたときに発生する電磁波としての放射光を、前記摩擦材からなる試料の内部を通過させることで、前記摩擦材を構成する材料と該摩擦材の内部に存在する空隙とを含む該摩擦材の構成要素に関する構成情報を取得する取得ステップと、前記取得ステップで取得された構成情報に基づいて、前記摩擦材の構成要素を視覚的に写し出す出力ステップと、を備える。
【0010】
本発明によれば、電子が磁場で曲げられたときに発生する電磁波としての放射光を、摩擦材からなる試料の内部を通過させることで、構成要素を視覚化するときの分解能が向上する。その結果、従来よりも摩擦材の構成をより詳細に分析することができる。また、本発明によれば、試料を破壊することなく試料の分析を行うことができるので、より正確な摩擦材の構成を確認することができる。
【0011】
取得ステップでは、摩擦材の構成要素に関する情報が取得される。より具体的には、放射光を摩擦材からなる試料の内部を通過させることで、構成情報が取得される。放射光とは、高エネルギーの電子が磁場で曲げられたときに発生する電磁波を意味する。放射光には、X線から赤外線まで様々な波長領域が含まれるが、本発明では、短い波長のX線からなる放射光を用いることが好ましい。構成情報とは、摩擦材を構成する材料の種類や材料の大きさ、また、摩擦材の内部に存在する空隙の大きさや位置など、を含む構成要素に関する情報を意味する。
【0012】
放射光として、電子のエネルギーが高く、かつ、波長の短い電磁波を用いることで、非常に多くの材料によって構成され、また、材料同士の間に微細な空隙が形成されているといった特徴を有する摩擦材の分析における分解能を高めることができる。なお、このような放射光の照射は、既存の放射光実験施設において行うことができる。既存の放射光実験施設には、国内であれば、Spring-8(Super Photon ring-8)、海外であれば、APS(Advanced Photon Source)、ESRF(European Synchrotron Radiation Facility)が例示され
る。
【0013】
出力ステップでは、構成情報に基づいて摩擦材の構成要素が視覚的に映し出される。視覚的に映し出すとは、例えばディスプレイ等の表示装置を通じて、摩擦材の構成を二次元又は三次元的に映し出すことを意味する。本発明によれば、放射光を用いることで、摩擦材の構成要素に関するより詳細な情報を取得することができ、このような詳細な情報に基づいて視覚的に映し出すことで、摩擦材の構成要素をより正確に把握することが可能となる。
【0014】
ここで、本発明において、前記出力ステップでは、前記取得ステップで取得された構成情報に基づいて、二次元画像を生成する二次元画像生成ステップと、前記二次元画像生成ステップで生成された二次元画像に基づいて三次元画像を生成する三次元画像生成ステップと、を実行することで、前記摩擦材の構成要素を視覚的に映し出すようにしてもよい。
【0015】
取得ステップで取得された構成情報に基づいて、最終的に三次元画像を生成することで、摩擦材を立体的に捉えることが可能となる。なお、二次元画像の生成、三次元画像の生成は、既存のプログラムによって行うことができる。例えば、取得ステップで取得された構成情報に基づいてCT(Computed Tomography)画像を生成するプログラムとして、Filtered Back Projection法を利用したものが例示される。
【0016】
本発明によれば、従来、詳細が不明であった摩擦材中の空隙を含む構成要素の三次元的な構造や材料同士の相関分布などを明らかにすることができる。また、これにより、これまで明確に解明されていなかった成形パッドに含まれる材料の粒度や形状を解明することができる。更に、バインダ樹脂の熱硬化時の発砲など摩擦材の製造プロセスにおける影響因子の関係を解明することができる。その結果、摩擦材中の空隙を含む構成要素の三次元分布のコントロールが可能となり、更に、三次元分布のコントロールを可能とすることで摩擦性能のコントロールも可能となる。
【0017】
また、従来のCT技術では、試料の分析に非常に多くの時間を費やしていたが、本発明によれば、分析時間の大幅な短縮を図ることが可能となる。その結果、摩擦材の開発過程における工程数も大幅に削減することができ、摩擦材の製造コストの削減を図ることも可能となる。
【0018】
また、本発明は、前記三次元生成ステップで生成された三次元画像を分析し、前記摩擦材を構成する所定の構成要素を抽出し、抽出した構成要素を視覚的に映し出す抽出ステップを更に備える構成としてもよい。
【0019】
上述したように、摩擦材は、多くの材料と材料同士の間に形成される微細な空隙とを含む構成要素によって形成されている。従って、単に摩擦材を三次元的に映し出すだけでは、例えば各材料の粒径、空隙の配置位置や大きさ等を十分に把握できない虞もある。そこで、本発明では、摩擦材を構成する構成要素から所定の構成要素を抽出し、抽出した構成要素を視覚的に映し出すことで、材料の粒径や空隙の配置位置等をより明確に確認できるようにした。
【0020】
構成要素の抽出は、抽出したい材料や空隙に対応する、構成要素の線吸収係数μを抽出することで行うことができる。三次元画像の各画素の濃淡は、この線吸収係数μに対応している。各画素の濃淡は、摩擦材の構成要素に対応している。すなわち、摩擦材の構成要素と線吸収係数μとは、対応している。従って、例えば空隙に対応する画素値のみを抽出し、これを視覚的に映し出すことで、摩擦材の内部において空隙がどのように存在しているかを三次元的に確認することが可能となる。
【0021】
なお、本発明は、上述したいずれかの機能を実現させる装置、又はプログラムであってもよい。更に、本発明は、そのようなプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、摩擦材の分析方法に関し、摩擦材の構成をより正確に分析可能な技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明の摩擦材の解析方法の実施形態について、実際に行った実験を例に図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0024】
<分析フロー>
図1は、実施例1の摩擦材の分析方法のフローを示す。ステップS01では、摩擦材が所定の大きさに一次加工される。具体的には、摩擦材が3×3×10mmの直方体の試料に切断される。次にステップS02では、切断された試料に微細加工が施される。すなわち、直方体に切断された試料が、例えば、φ0.6×10mmの円筒形の試料に加工される。試料の加工が完了すると、ステップS03へ進む。ただし試料のサイズは放射光の波
長と構成要素の線吸収係数で決まるものであり、この限りではない。
【0025】
ステップS03では、試料に対して放射光が照射され、次に、ステップS04では、試料を透過する放射光が検出される。ステップS03における放射光を照射する工程と、ステップS04における透過する放射光が検出される工程は、本発明の取得ステップに相当する。すなわち、放射光を照射し、透過する放射光が検出されることで、試料(摩擦材)の構成要素に関する構成情報が取得される。
【0026】
(実験施設)
実施例1では、摩擦材の分析にSR(Synchrotron Radiation シンクロトロン放射光
)を用いた。日本国内で公共に利用できる硬X線波長領域のSR利用施設としては、PF(Photon Factory :高エネルギー加速器機構 物質構造化学研究所 放射光実験施設)と、Spring-8(Super Photon ring-8 :正式名称 Japan Synchrotron Radiation Research Institute)が知られている。実施例1では、十分なX線強度を有する放射光を照射
可能なSpring-8を用いた。
【0027】
実施例1では、Spring-8を利用したが、これに限定されるものではない。海外では、Spring-8と同様な性能を有する、いわゆる第三世代の放射光実験施設がいくつか知られている。ここで、図2は、海外の第三世代の放射光実験施設の性能比較を示す。図2に示す、APS(Advanced Photon Source)やESRF(European Synchrotron Radiation Facility)は、Spring-8と同等の機能を備えている。従って、Spring-8に替えて、これらの施設を利用してもよい。
【0028】
実施例1で使用したSpring-8において、CT測定を行えるビームラインには、BL20B2と、BL47XUが存在するが、実施例1ではBL47XUを使用した。ビームラインBL47XUの性能は、以下の通りである。すなわち、BL47XUは、光源が、真空封止アンジュレータ(磁場周期長:32mm、周期数:140Hz、磁極間隔:9.6mm〜50mm可変)、基本波エネルギー領域(5.9〜18.9keV)であり、分光器が、二結晶分光器(ブラッグ角可動範囲:3度〜22度)であり、利用可能X線エネルギーが、5.2〜37.7keV(S
i111 結晶面使用時)である。
【0029】
なお、実施例1で用いたビームライン(BL47XU)中のマイクロCT用の実験ハッチ(exp hutch2)の試料位置でのX線(放射光)の特性は、図3に示す通りである。
【0030】
(実験装置)
次に、実施例1で使用した実験装置(マイクロCT用の測定装置)について更に詳細に説明する。実施例1で用いたマイクロCT用の測定装置(以下、単にCT装置とする。)は、実施例1で利用した施設Spring-8内のBL47XUに常設されているものである。実施例1で用いたCT装置は、空間分解能が約1μmであり、光源、分光器、試料ステージ、検出器、CPU及び記憶部を有する制御部、測定結果や解析結果を表示する表示部によって構成されている。試料ステージの回転軸部回転精度は、0.2μm以下である。検出器は、可視光変更型の二次元検出器が用いられており、単結晶蛍光体による空間分解能は、1μm程度である。なお、上記CT装置は、摩擦材の他、金属、岩石、ポリマー等の測定も行うことができる。CT装置の測定時間は、上記試料を測定する場合、30分程度である。CT装置に設けられている記憶部は、測定データを記憶することができるが、この記憶部の容量は5GB程度である。
【0031】
(測定条件)
ここで、上述したCT装置によって行った実験条件の詳細について説明する。試料には、市販のブレーキパッドAと、同じく市販のブレーキパッドBとを用いた。これらの試料
は、上述したステップS01、02を実行することで所定の大きさの円筒形に加工されたものである。入射エネルギーは、20keVとし、アンジュレータ磁極間隔、すなわち放射光を発生するために配置される磁石の間隔は、10.56mmとした。検出器は、BM3(×20)+C4880-41Sであり、ピクセル数は、2000×1312とし、ピクセルサイズは、0.47μm/pixelとした。投影数は、1500とした。また、試料と検出器との距離は、15mm程度とし、露光時間は、300msecとした。なお、全スキャン時間は、35分程度を要した。
【0032】
ステップS04において試料を通過する放射光の検出が完了すると、ステップS05では、検出されたデータに基づいて画像の生成が行われる(本発明の出力ステップに相当する。)。実施例1では、CT装置の検出器で測定された測定データに基づいてimg形式の画像が生成される。次に、このimg形式の画像からTIFF形式のCT画像がCT画像変換プログラムによって変換される。実施例1では、Spring-8で得られたimg画像をCT画像に変換するプログラム(プログラム名:ct_manual.lzh)を用いた。なお、この
プログラムは、URLhttp://www-bl20.spring8.or.jp/xct/index.htmlより得ることができる。このプログラムは、CT実験で通常用いられることが多い、Filtered Back Projection法を利用したものである。なお、試料を透過した放射光に基づいて二次元画像を生成する技術や、生成された二次元画像に基づいて三次元画像を生成する技術としては、様々なものが知られている。従って、CT画像を生成する手順は、上記に限定されるものではない。既存の画像生成技術を適宜応用して、CT画像を生成することができる。
【0033】
ここで、図4は、生成されたCT像の一例を示す。図4Aは、パッドAのCT像であり、図4Bは、パッドBのCT像である。各画素の濃淡は、構成要素の線吸収係数μに対応しており、線吸収係数μは、試料を構成する各構成要素、すなわち、材料の密度と含有元素に対応している。すなわち、線吸収係数μは、各材料に含まれる元素と組成によって決定される質量吸収係数μ/ρと質量密度ρとの積によって評価することができる。従って、材料毎の線吸収係数を予め特定しておくことで、各画素値に対応する材料や空隙を特定することができる。
【0034】
なお、図4A、図4Bに示されるCT像の白黒濃淡諧調は、上記線吸収係数μの値に比例して設定されている。すなわち、白黒濃淡諧調は、線吸収係数μの値が大きいほど白く映し出され、線吸収係数μの値が小さいほど黒く映し出されるにように設定されている。白黒濃淡諧調は、解析の目的、試料に含まれる材料の大きさや種類等に応じて決定することができる。実施例1では、図4Aは、8bits(28=256)に設定され、図4B
は、16bits(216=65536)に設定されている。
【0035】
以上を踏まえて図4AのCT像と、図4BのCT像とを比較すると、図4Bに示すパッドBに比べて、図4Aに示すパッドAは、摩擦材を構成する材料の粒径が大きいことが確認できる。また、摩擦材を構成する材料の粒径に着目すると、図4Aに示すパッドAが、比較的等方的な粒子形状の材料によって構成されているのに対し、図4Bに示すパッドBが、比較的異方的、換言すると繊維状の材料によって構成されていることが分かる。また、試料に含まれる空隙に着目すると、例えば図4Aに示す領域Xにおいて空隙が存在していることが確認できた。図4Aに示すパッドAと図4Bに示すパッドBとを比較すると、パッドAに含まれる空隙の方が空隙率が高く、また、夫々の空隙が大きいことが確認できた。
【0036】
以上説明した実施例1の摩擦材の分析方法によれば、Spring-8内に設置されているCT装置によって、所定の放射光を照射し、その結果得られる測定データに基づいてCT像を生成することで、従来のCT技術では難しいとされていた、摩擦材中における材料や空隙の状態を詳細に識別することができる。すなわち、これまで明確に解明されていなかった
成形パッドに含まれる材料の粒度や形状を解明することができる。更に、バインダ樹脂の熱硬化時の発砲など摩擦材の製造プロセスにおける影響因子の関係を解明することができる。その結果、摩擦材中の空隙を含む構成要素の三次元分布のコントロールが可能となり、更に、三次元分布のコントロールを可能とすることで摩擦性能のコントロールも可能となる。また、実施例1の摩擦材の分析方法によれば、分析時間の大幅な短縮を図ることが可能となる。その結果、摩擦材の開発過程における工程数も大幅に削減することができ、摩擦材の製造コストの削減を図ることも可能となる。
【実施例2】
【0037】
次に、実施例2の摩擦材の分析方法について説明する。図5は、実施例2の摩擦材の分析方法のフローを示す。まず、実施例1摩擦材の分析方法と同じく、ステップS01からステップS05までの工程が実行される。次に、ステップS06では、ステップS05で生成されたCT像の分析が行われる。
【0038】
すなわち、実施例1では、ステップS01からステップS05の処理を実行することで摩擦材からなる試料のCT像が生成された。そして、生成されたCT像は、例えばパッドAとパッドBといったように二種の試料を比較することで、夫々の違いを確認することができた。これに対し、実施例2の摩擦材の分析方法では、ステップS05で生成されたCT像をより詳細に分析するものである。
【0039】
なお、CT像の詳細な分析は、例えば、摩擦材を構成する材料や摩擦材同士の間に形成される空隙の画素値に対応する座標や領域の画素値、又はそれらの統計値(平均値や偏差値)等を解析することで行うことができる。このような解析は、既存のCT画像解析プログラムによって行うことができる。実施例2では、画像解析プログラム(プログラム名:ImageJ)により行った。なお、画像解析プログラム(プログラム名:ImageJ)は、URL
http://rsb.info.nih.gov/ij/ により取得することができる。
【0040】
ここで、図6は、解析プログラム(プログラム名:ImageJ)による解析例を示す。図6は、図4Aにおける領域X部分の画素値のヒストグラムを示す。このように、解析プログラム(プログラム名:ImageJ)によれば、例えば、所定の領域の画素値のヒストグラムを表示することができる。また、図7は、パッドBを構成する材料の線吸収係数μを示す。同図に示すようにパッドBは、金属繊維1、金属粉1、研削材1といったように複数の材料によって構成されているが、材料毎に線吸収係数μが設定されている。従って、予め材料毎の線吸収係数μを算出しておき、これとCT像における画素値とを対応させることで、CT像における材料を特定することが可能となる。
【0041】
また、CT画像の相対のヒストグラムを作成することで、配合組成の凡その値を把握することができる。ここで、図8は、パッドA及びパッドBのCT像の画素値の出現頻度を示す。図8において、パッドAの出現頻度は、○で表示されている。一方、パッドBの出現頻度は、□で表示されている。なお、図8に示す例では、パッドBに関しては、16bitsデータを8bitsデータに変化した値を用いた。
【0042】
ここで、ステップS06で行われるCT像の分析は、試料を構成する所定の材料を抽出し、これを表示するようにしてもよい。なお、このような処理は、本発明の抽出ステップに相当する。具体的には、例えばステップS05で得られたCT画像について、2値化処理を行うことで特定の材料や空隙等を抽出する。
【0043】
このような2値化処理は、既存の様々なプログラムによって行うことができる。実施例では、プログラム(プログラム名:Slice)を用いた。プログラム(プログラム名:Slice)は、URL http://www-bl20.spring8.or.jp/slice/ によって取得することができる
。図9は、プログラム(プログラム名:Slice)によって空隙の分布を解析した例を示す
。図9は、図4Aに示すパッドAのCT像のうち、一定範囲の画素値の部分のみを抽出したものである。図4Aと図9とを比較すると、図4Aにおいて画素値が小さかった部分が表示されていることが確認できる。すなわち、画素値の小さい部分が空隙であることが分かる。
【0044】
実施例では、空隙を抽出することとしたが、同様の手順により、摩擦材を構成する材料の粒径や分布等を確認することができる。そして、空隙のみならず、全ての材料の分析を実行することで、従来難しいとされていた摩擦材を構成する構成要素の三次元的な存在量、粒度分布、均一性などの統計量を定量的に求めることが可能となる。そして、これらの結果に基づいて、材料間でのこのような統計量の相関を得ることも可能となる。
【0045】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の摩擦材の解析方法はこれらに限らず、可能な限りこれらの組合せを含むことができる。なお、本実施例では放射光実験施設内の実験装置を用いてCT像の生成や解析を行った。すなわち、実験装置のコンピュータに上述した所定のプログラムを実行させることでCT像の生成や解析等を行った。但し、CT像の生成や解析の方法は、これに限定されるものではない。実験装置で得られた測定データを可搬型の記録媒体等に保存し、実験装置とは異なるコンピュータに上記所定のプログラムを実行させることでCT像の生成等を行ってもよい。コンピュータは、CPU、メモリ、ディスプレイを備えるものであって、上記所定のプログラムを実行可能なものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1の摩擦材の分析方法のフローを示す。
【図2】海外の第三世代の放射光実験施設の性能比較を示す。
【図3】BL47XU中のマイクロCT用の実験ハッチ(exp hutch2)の試料位置でのX線(放射光)の特性を示す。
【図4A】パッドAのCT像を示す。
【図4B】パッドBのCT像を示す。
【図5】実施例2の摩擦材の分析方法のフローを示す。
【図6】解析プログラム(プログラム名:ImageJ)による解析例を示す。
【図7】パッドBを構成する材料の線吸収係数μを示す。
【図8】パッドA及びパッドBのCT像の画素値の出現頻度を示す。
【図9】プログラム(プログラム名:Slice)によって空隙の分布を解析した例を示す。
【符号の説明】
【0047】
X・・・領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦材の解析方法であって、
電子が磁場で曲げられたときに発生する電磁波としての放射光を、前記摩擦材からなる試料の内部を通過させることで、前記摩擦材を構成する材料と該摩擦材の内部に存在する空隙とを含む該摩擦材の構成要素に関する構成情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得された構成情報に基づいて、前記摩擦材の構成要素を視覚的に写し出す出力ステップと、
を備える摩擦材の解析方法。
【請求項2】
前記出力ステップでは、
前記取得ステップで取得された構成情報に基づいて、二次元画像を生成する二次元画像生成ステップと、
前記二次元画像生成ステップで生成された二次元画像に基づいて三次元画像を生成する三次元画像生成ステップと、を実行することで、前記摩擦材の構成要素を視覚的に映し出す、請求項1に記載の摩擦材の解析方法。
【請求項3】
前記三次元生成ステップで生成された三次元画像を分析し、前記摩擦材を構成する所定の構成要素を抽出し、抽出した構成要素を視覚的に映し出す抽出ステップを更に備える、請求項2に記載の摩擦材の解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−85732(P2009−85732A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254829(P2007−254829)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】