説明

摩擦材

【課題】ライニング材が接着される金属製のベースの接着面にクロム化合物を用いることなく防錆処理を施した摩擦材を提供する。
【解決手段】所定形状に形成されたライニング材14が金属製のベース12の一面側に接着されて成る摩擦材10において、該ベース12の一面側に下地層としてのジルコニア層が形成されていると共に、前記ジルコニア層が形成されたベース12の一面側とライニング材14とが、ライニング材14中を浸透してきた浸透水の水路を形成し得る連続気泡が実質的に不存在の接着層によって接着されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦材に関し、車両等のブレーキに使用される摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等のブレーキに使用される摩擦材としては、例えばドラムブレーキに用いられる図1に示すブレーキシュー10がある。かかるブレーキシュー10は、アルミニウム等の金属から成るベース12とライニング材14とから構成される。このベース12は円弧状のリム部16と、リム部16の内周面側に配設された弓形のウエブ部18とから構成され、ライニング材14はリム部16の外周面側に配設されている。
図1のブレーキシュー10を製造する際には、リム部16の外周面に、下記特許文献1に記載されている如く、クロム化合物を用いた防錆処理を施した後、図2に示す様に、所定形状に形成したライニング材14を、ベース12のリム部16の防錆処理を施した外周面に接着剤によって接着する。
【特許文献1】特開昭59−144836号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ベース12のリム部16の外周面にクロム化合物を用いた防錆処理を施すことによって、リム部16の外周面に発錆することを効果的に防止できる。
しかし、クロム化合物は環境上問題となるため、 ベース12のリム部16の外周面にクロム化合物を用いることなく防錆処理を施すことが望まれている。
そこで、本発明の課題は、ライニング材が接着される金属製のベースの接着面にクロム化合物を用いることなく防錆処理を施した摩擦材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、前記課題を解決すべく、先ず、クロム化合物を用いない防錆処理について検討したところ、ベース12にジルコニア処理を施して、リム部16の外周面にジルコニア層を形成することによって、防錆効果をベース12に付与できることを知った。
しかしながら、リム部16の外周面に形成したジルコニア層のみでは、クロム化合物を用いた防錆処理に匹敵する防錆効果を呈し得ないことが判明した。
このため、本発明者等は、その原因を検討した結果、リム部16の外周面とライニング材14とを接着する接着層に、多数の気泡が形成されており、その気泡が連続して水路を形成していることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、所定形状に形成されたライニング材が金属製のベースの一面側に接着されて成る摩擦材において、該ベースの一面側に下地層としてのジルコニア層が形成されていると共に、前記ジルコニア層が形成されたベースの一面側とライニング材とが、前記ライニング材中を浸透してきた浸透水の水路を形成し得る連続気泡が実質的に不存在の接着層によって接着されていることを特徴とする摩擦材にある。
かかる本発明において、ライニング材として、カルシウム成分を含有するライニング材を用いても、金属製のベースの防錆を充分に図ることができる。
また、接着層を、ニトリルゴム又はエポキシ系接着剤によって形成することにより、気泡が極めて少ない接着層を形成できる。
更に、金属製のベースとして、アルミニウム製のベースを好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0005】
摩擦材を形成するライニング材中には種々の成分が含有されており、ライニング材中を浸透してきた浸透水には、種々の成分が溶解されている。このため、かかる浸透水には、金属製のベースに錆を発生させる発錆成分も含有されている。
また、ベースの一面側とライニング材とを接着する接着層は、通常、熱硬化性樹脂等の樹脂によって形成されており、ライニング材の浸透水に対する耐久性を有している。しかし、接着層の形成過程で気泡が形成され易く、接着層中に多数の気泡が形成される。このため、連続気泡によって浸透水が通過し得る水路が接着層中に形成され易い。
この点、本発明では、金属製のベースの一面側に、ある程度の防錆効果を有するジルコニア層を形成すると共に、浸透水の水路を形成し得る連続気泡が実質的に不存在の接着層によってライニング材とジルコニア層を形成したベースの一面側とを接着している。
その結果、ライニング材中を浸透してきた浸透水は、金属製のベースの一面側表面に実質的に到達できず、この一面側表面にクロム化合物を用いた強い防錆処理以外の処理を用いることでも錆の発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に係る摩擦材の一例を図1に示すブレーキシュー10によって説明する。本発明においては、金属製のベースとしてのアルミニウム製のベース12を構成する円弧状のリム部16の外周面に下地層としてのジルコニア層が形成されていることが必要である。
かかるジルコニア層は、ある程度の防錆効果を呈するため、リム部16の外周面に微量の水分が到達しても、リム部16の外周面に錆の発生を防止できる。
更に、本発明では、所定形状に形成されたライニング材14と円弧状のリム部16の外周面とを接着する接着層に、浸透水の水路を形成し得る連続気泡が実質的に不存在であることが必要である。
このライニング材14には、pH調整剤としての水酸化カルシウムが含有されていてもよく、接着層として、ニトリルゴム又はエポキシ系接着剤によって形成されている接着層が好ましい。
ここで、連続気泡によって水路が形成された接着層では、ライニング材14を透過してきた透過水が接着層を通過してリム部16の外周面に到達する。このため、この外周面にジルコニア層が形成されていても、その防錆効果が充分でなく、リム部16の外周面に錆が発生し易い。
【0007】
図1に示すブレーキシュー10を製造する際には、先ず、アルミニウム製のベース12と所定形状に形成されたライニング材14とを準備する。
プレス加工等によって形成されたベース12には、各種の表面処理が施される。先ず、ベース12をアルカリ溶液に浸漬して脱脂処理を施した後、洗浄してからリム部16の外周面に表面調整処理を施す。この表面調整処理では、アルミニウム製のベース12の場合、エッチング処理してアルミニウムの酸化膜を除去する。
次いで、表面調整処理を施したベース12に洗浄を施した後、リム部16の外周面にジルコニア被膜から成るジルコニア層を形成する下地処理を施す。この下地処理は、市販されているジルコニア浸漬液にベース12を浸漬することによって施すことができる。かかる下地処理によって形成されたジルコニア被膜は、ZrOx又はZrFxから成るものである。
その後、下地処理を施したベース12は、洗浄されて乾燥される。
【0008】
一方、ライニング材14は、黒鉛、無機繊維、金属粉、その他の無機材、有機繊維、結合材等の有機材、及びpH調整剤としての水酸化カルシウム等を混合した混合物を所定形状に仮成形した後に、加熱加圧して得ることができる。
この様にして得たライニング材14とベース12とは、接着剤によって接着する。かかる接着剤としては、熱硬化性接着剤を好適に用いることができ、接着面であるリム部16の外周面とライニング材14の内周面とにスプレー等によって吹き付けることによって塗布できる。
この接着剤として、後述する加熱処理を施した際に、気泡を発生する接着剤、例えばフェノール樹脂系の接着剤を用いると、形成される接着層内に連続気泡から成る水路が形成され易く、ライニング材14を浸透してきた浸透水が接着層内の水路を経由してリム部16の外周面に到達し、発錆の原因と成り易い。
かかる気泡の発生の少ない接着剤、具体的にはニトリルゴム又はエポキシ系接着剤を好適に用いることができる。
【0009】
次いで、図2に示す様に、リム部16の外周面とライニング材14の内周面とを密着させて熱圧着することによって、ライニング材14とベース12とを接着層によって一体化できる。
この接着層には、気泡が極めて少なく、接着層を通過する水路を形成するおそれのある連続気泡が実質的に形成されておらず、ライニング材14に含まれている水酸化カルシウム等からの水酸イオン(OH-)を含有する腐食性の浸透水が通過する水路は存在しない。このことは、ブレーキシュー10の複数箇所の断面を顕微鏡観察することによって確認した。
また、ライニング材14とベース12とを接着層によって一体化する際の熱圧着によって、ベース12のリム部16の外周面に形成されたジルコニア被膜の少なくとも一部を結晶質のジルコニアとすることができる。
この様にして得られたブレーキシュー10では、ライニング材14中を浸透してきた浸透水は、ベース12のリム部16の外周面に実質的に到達できず、この外周面にクロム化合物を用いた強い防錆処理以外の処理を用いることでも錆の発生を防止できる。
尚、これまで述べてきた摩擦材は、ブレーキシュー10についてであるが、ディスクブレーキ用の摩擦材にも本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る摩擦材の一例を示す正面図である。
【図2】図1に示す摩擦材の組立図である。
【符号の説明】
【0011】
10 ブレーキシュー
12 ベース
14 ライニング材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定形状に形成されたライニング材が金属製のベースの一面側に接着されて成る摩擦材において、
該ベースの一面側に下地層としてのジルコニア層が形成されていると共に、前記ジルコニア層が形成されたベースの一面側とライニング材とが、前記ライニング材中を浸透してきた浸透水の水路を形成し得る連続気泡が実質的に不存在の接着層によって接着されていることを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
ライニング材が、カルシウム成分を含有するライニング材である請求項1記載の摩擦材。
【請求項3】
接着層が、ニトリルゴム又はエポキシ系接着剤によって形成されている請求項1又は請求項2記載の摩擦材。
【請求項4】
金属製のベースが、アルミニウム製のベースである請求項1〜3のいずれか一項記載の摩擦材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−266407(P2006−266407A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85843(P2005−85843)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】