説明

摩擦材

【課題】高温特性に優れた摩擦材を提供する。
【解決手段】本発明の摩擦材2は、強化繊維と、充填材と、ゴム組成物と、バインダ樹脂と、を含む摩擦材である。ゴム組成物は、マトリックスであるニトリルゴムに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温特性に優れた摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のディスクブレーキ用のパッド、ドラムブレーキ用のシュー、クラッチ用のクラッチフェーシング等に使用する摩擦材としては、熱硬化性のフェノール樹脂をマトリックス(基材)として、無機繊維や有機繊維などの強化繊維と、加硫ゴム粉末を含む充填材と、を含有する摩擦材が知られている(例えば、特許文献1参照)。充填材として用いられる加硫ゴム粉末は、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)、ニトリルゴム(NBR)などが挙げられるが、ニトリルゴムが一般的に用いられていた。摩擦材におけるニトリルゴムは、その柔軟性によって例えば摩擦材とディスクロータとの接触を均一にすることで摩擦係数を増大化し、また、その減衰特性(損失正接(tanδ))によって例えばディスクブレーキの鳴きを低減していた。しかしながら、ニトリルゴムは、常温付近の減衰特性や動的弾性率に優れているが、高温例えば120℃以上での減衰特性(損失正接(tanδ))が低く、劣化開始温度が比較的低かった。そのため、例えばディスクブレーキの連続制動によって摩擦材が高温になると、摩擦材に含まれるニトリルゴムの動的弾性率及び減衰特性が低下してしまい、摩擦材の摩擦係数が低下したり、偏当たりによる偏摩耗が発生することがあった。
【0003】
また、熱硬化性樹脂をマトリックスとして、カーボンナノファイバーを充填材として含有する摩擦材が提案された(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、カーボンナノファイバーは高価であり、摩擦材の機械的強度を向上させる充填材としての利用は未だ進んでいない。特に、カーボンナノファイバーは凝集し易く、樹脂マトリクス中に均一に分散させることが難しく、その結果カーボンナノファイバーの配合比率を上げないと全体に十分な効果が得られなかった。
【0004】
本発明者等が先に提案した炭素繊維複合材料の製造方法によれば、これまで困難とされていたカーボンナノファイバーの分散性を改善し、エラストマーにカーボンナノファイバーを均一に分散させることができた(例えば、特許文献3参照)。このような炭素繊維複合材料の製造方法によれば、エラストマーとカーボンナノファイバーを混練し、剪断力によって凝集性の強いカーボンナノファイバーの分散性を向上させている。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合し、この状態で、分子長が適度に長く、分子運動性の高い(弾性を有する)エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの変形に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散していた。このように、マトリックスへのカーボンナノファイバーの分散性を向上させることで、高価なカーボンナノファイバーを効率よく複合材料の充填材として用いることができるようになった。
【特許文献1】特開2005−336340号公報
【特許文献2】特開2004−217828号公報
【特許文献3】特開2005−97525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高温特性に優れた摩擦材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる摩擦材は、
強化繊維と、充填材と、ゴム組成物と、バインダ樹脂と、を含む摩擦材であって、
前記ゴム組成物は、マトリックスであるニトリルゴムに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である。
【0007】
本発明にかかる摩擦材によれば、ゴム組成物のT2n及びfnnがこのような範囲にあることからニトリルゴム中にカーボンナノファイバーが均一に分散されており、これによってゴム組成物の劣化開始温度が高くなり、したがってゴム組成物は高温においても優れた減衰特性及び高い動的弾性率を維持することができる。その結果、本発明にかかる摩擦材によれば、高温における高摩擦係数を有すると共に、被摩擦部材との接触による高温における鳴きを低減させることができる。また、本発明にかかる摩擦材によれば、被摩擦部材との均一接触によって摩耗量を低減させることができる。
【0008】
本発明にかかる摩擦材において、前記ゴム組成物は、無架橋体であることができる。
【0009】
本発明にかかる摩擦材において、前記ゴム組成物は、架橋体であることができる。
【0010】
本発明にかかる摩擦材において、前記ゴム組成物は、前記ニトリルゴム100重量部に対して、前記カーボンナノファイバー5〜100重量部を含むことができる。
【0011】
本発明にかかる摩擦材において、前記ゴム組成物は、前記ニトリルゴム100重量部に対して、カーボンブラック40〜80重量部と、前記カーボンナノファイバー5〜20重量部と、を含むことができる。
【0012】
本発明にかかる摩擦材において、前記ゴム組成物は、200℃における損失正接(tanδ)が0.05〜1.00であることができる。
【0013】
本発明にかかる摩擦材において、前記ゴム組成物は、200℃における動的弾性率(E’)が10MPa〜1000MPaであることができる。
【0014】
本発明にかかる摩擦材において、前記ゴム組成物は、熱機械分析における劣化開始温度が160℃〜300℃であることができる。
【0015】
本発明にかかる摩擦材において、前記バインダ樹脂は、フェノール樹脂であることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態にかかる摩擦材2を用いたパッド1を示す正面図である。図2は、本実施の形態にかかる摩擦材2を用いたパッド1を示す一部切り欠き平面図である。図3は、本実施の形態にかかる摩擦材2を用いたパッド1の背面図である。図4は、車両のブレーキに用いられるディスクブレーキ10の一例を示す縦断面図である。
【0018】
本実施の形態にかかる摩擦材2は、強化繊維と、充填材と、ゴム組成物と、バインダ樹脂と、を含む摩擦材であって、前記ゴム組成物は、マトリックスであるニトリルゴムに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である。
【0019】
(パッド)
図4に示すように、自動車等に用いられるディスクブレーキ10の構造は、例えば油圧装置による油圧によってキャリパボディ11の液圧室14に伝えられてピストン12を押圧し、その押圧する力によって、パッド1、1の摩擦材2、2を円板状のディスクロータ13を挟み込むように押圧して、ディスクロータ13の回転をその摩擦作用によって制動する。図1〜図3に示すように、ディスクブレーキ10のパッド1は、キャリパボディ11及びピストン12にシム板5を介して押圧される金属製のバックプレート3(以下、「プレート3」という)と、ディスクロータ13と接触して摩擦力を発生する摩擦材2から構成されている。摩擦材2は、ディスクロータ13に接触する平坦面21を有し、プレート3に穿設された二つの結着孔4,4に摩擦材2の一部が入りこむことでプレート3に強固に結着されている。なお、ディスクブレーキ10の形式は、本実施の形態のようなピンスライド式に限らず、ピストンがディスクロータの両側に配置された対向型ディスクブレーキでもよく、ピストンの数やシム板の形状も本実施の形態に限定されない。また、本実施の形態においては、ディスクブレーキ10のパッド1に用いる摩擦材2について説明したが、例えば、ドラムブレーキ(図示しない)のシューの摩擦材やクラッチ用のクラッチフェーシング等としても適用可能である。
【0020】
(強化繊維、充填材、バインダ樹脂)
バインダ樹脂に混合する強化繊維や充填材として、従来から用いられている材料を適宜選択して用いることができる。このような強化繊維としては、例えば、アルミナ繊維、ガラス繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維、セラミック繊維、シリカ繊維、カオリン繊維、ボーキサイト繊維、カヤノイド繊維、ホウ素繊維、マグネシア繊維、金属繊維などの無機繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリイミド系繊維、ポリビニルアルコール変性繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、アクリル繊維、炭素繊維、フェノール繊維、ナイロン繊維、セルロース繊維などの有機繊維から選ばれる1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、充填材としては、例えば、カシューダスト、メラミンダストなどの有機充填材、カーボンブラック、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭化珪素、炭化ホウ素、炭化チタン、窒化珪素、窒化ホウ素、アルミナ、シリカ、ジルコニア、黒鉛、タルク、金属粉末などの無機充填材、潤滑剤、pH調整剤から選ばれる1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
本実施の形態にかかる摩擦材2の強化繊維や充填材の結着材であるバインダ樹脂は、熱硬化性のフェノール樹脂が好ましいが、他の硬化性樹脂例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アリルエステル樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、ユリア樹脂等の樹脂を用いることができる。また、フェノール樹脂としては、具体的には、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等が挙げられるが、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。このようなフェノール樹脂は、変性されていてもよく、変性されていなくともよい。バインダ樹脂は、1種単独でまたは2種以上混合して用いることができる。中でも気密性が要求される分野では、エポキシ樹脂とフェノール樹脂の組み合わせなど、硬化反応においてガスが発生しない樹脂を選択することが好ましい。これらの樹脂を用いることによって硬化体中に空隙がない、気密性の高い成形体を得ることができる。
【0022】
(ゴム組成物)
ゴム組成物は、マトリックスであるニトリルゴムに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である。ゴム組成物は、無架橋体のままで摩擦材に配合することができる。また、ゴム組成物は、架橋して摩擦材に配合することができる。ゴム組成物は、架橋体において、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし2000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることが好ましい。
【0023】
ゴム組成物のT2n,fnnは、マトリックスであるニトリルゴムにカーボンナノファイバーが均一に分散されていることを表すことができる。つまり、ニトリルゴムにカーボンナノファイバーが均一に分散されているということは、ニトリルゴムがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、カーボンナノファイバーによって拘束を受けたニトリルゴム分子の運動性は、カーボンナノファイバーの拘束を受けない場合に比べて小さくなる。そのため、本実施の形態にかかるゴム組成物の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーを含まないニトリルゴム単体の場合より短くなり、特にカーボンナノファイバーが均一に分散することでより短くなる。なお、架橋体におけるスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーの混合量に比例して変化する。
【0024】
また、ニトリルゴム分子がカーボンナノファイバーによって拘束された状態では、以下の理由によって、非ネットワーク成分(非網目鎖成分)は減少すると考えられる。すなわち、カーボンナノファイバーによってニトリルゴムの分子運動性が全体的に低下すると、非ネットワーク成分は容易に運動できなくなる部分が増えて、ネットワーク成分と同等の挙動をしやすくなること、また、非ネットワーク成分(末端鎖)は動きやすいため、カーボンナノファイバーの活性点に吸着されやすくなること、などの理由によって、非ネットワーク成分は減少すると考えられる。そのため、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は、カーボンナノファイバーを含まないニトリルゴム単体の場合より小さくなる。なお、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する成分の成分分率(fn)は、fn+fnn=1であるので、カーボンナノファイバーを含まないニトリルゴム単体の場合より大きくなる。
【0025】
以上のことから、本実施の形態にかかるゴム組成物は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が上記の範囲にあることによってカーボンナノファイバーが均一に分散されていることがわかる。
【0026】
パルス法NMRを用いた反転回復法により測定されたスピン−格子緩和時間(T1)は、スピン−スピン緩和時間(T2)とともに物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、ニトリルゴムのスピン−格子緩和時間が短いほど分子運動性が低く、ニトリルゴムは固いといえ、そしてスピン−格子緩和時間が長いほど分子運動性が高く、ニトリルゴムは柔らかいといえる。
【0027】
ゴム組成物は、200℃における損失正接(tanδ)が0.05〜1.00であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.5である。損失正接(tanδ)は、動的粘弾性試験を行い、動的剪断弾性率(E’、単位はdyn/cm)と動的損失弾性率(E’’、単位はdyn/cm)とを求め、損失正接(tanδ=E’’/E’)を計算して得ることができる。200℃における損失正接(tanδ)が0.05以上となることで、高温領域(200℃)における高い減衰特性を有するゴム組成物を得ることができる。
【0028】
ゴム組成物は、200℃における動的弾性率(E’)が10MPa〜1000MPaであることが好ましく、さらに好ましくは10MPa〜300MPaである。
【0029】
ゴム組成物は、熱機械分析における劣化開始温度が160℃〜300℃であることが好ましく、さらに好ましくは200℃〜300℃である。熱機械分析における劣化開始温度は、軟化劣化(膨張)及び硬化劣化(収縮)を含む劣化現象が開始する温度であって、熱機械分析によって得られた温度−線膨張係数微分値の特性グラフから劣化現象が開始した温度を測定して得られる。ゴム組成物の劣化開始温度が高いということは、高温においてもゴム組成物の劣化が始まらないので、摩擦材2を使用することのできる最高温度が高くなるため望ましい。ゴム組成物は、ニトリルゴムにカーボンナノファイバーが良好に分散されているため、ニトリルゴムがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。したがって、ニトリルゴムは、カーボンナノファイバーを含まない場合に比べて、その分子運動が小さくなり、その結果、劣化開始温度が高温側へ移動する。
【0030】
(ゴム組成物の製造方法)
ゴム組成物の製造方法について説明する。図5は、オープンロール法によるゴム組成物の製造方法を模式的に示す図である。
【0031】
図5に示すように、第1のロール100と第2のロール200とは、所定の間隔d、例えば0.5mm〜1.0mmの間隔で配置され、図5において矢印で示す方向に回転速度V1,V2で正転あるいは逆転で回転する。オープンロールに投入されるニトリルゴムは、未架橋体であって、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100〜3000μ秒、より好ましくは200〜1000μ秒である。まず、第2のロール200に巻き付けられたニトリルゴム30の素練りを行ない、ニトリルゴム分子鎖を適度に切断してフリーラジカルを生成する。カーボンナノファイバーは、通常、側面は炭素原子の6員環で構成され、先端は5員環が導入されて閉じた構造となっているが、構造的に無理があるため、実際上は欠陥を生じやすく、その部分にラジカルや官能基を生成しやすくなっているため、素練りによってニトリルゴムのフリーラジカルがカーボンナノファイバーと結びつきやすい状態となる。
【0032】
次に、第2のロール200に巻き付けられたニトリルゴム30のバンク32に、平均直径が0.5ないし500nmのカーボンナノファイバー40を投入し、混練する。ニトリルゴム30とカーボンナノファイバー40とを混合する工程は、オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。
【0033】
さらに、第1のロール100と第2のロール200とのロール間隔dを、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0ないし0.5mmの間隔に設定し、混合物をオープンロールに投入して薄通しを複数回行なう。薄通しの回数は、例えば5回〜10回程度行なうことが好ましい。第1のロール100の表面速度をV1、第2のロール200の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05ないし3.00であることが好ましく、さらに1.05ないし1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。薄通しされたゴム組成物は、ロールで圧延されてシート状に分出しされる。この薄通しの工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、ロール温度を好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の比較的低い温度に設定して行われ、ニトリルゴム30の実測温度も0ないし50℃に調整されることが好ましい。このようにして得られた剪断力により、ニトリルゴム30に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバー40がニトリルゴム分子に1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、ニトリルゴム30中に分散される。特に、ニトリルゴム30は、弾性と、粘性と、カーボンナノファイバー40との化学的相互作用と、を有するため、カーボンナノファイバー40を容易に分散することができる。そして、カーボンナノファイバー40の分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れたゴム組成物を得ることができる。
【0034】
より具体的には、オープンロールでニトリルゴムとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するニトリルゴムがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、ニトリルゴムの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。次に、ニトリルゴムに強い剪断力が作用すると、ニトリルゴム分子の移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるニトリルゴムの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、ニトリルゴム中に分散されることになる。本実施の形態によれば、ゴム組成物が狭いロール間から押し出された際に、ニトリルゴムの弾性による復元力でゴム組成物はロール間隔より厚く変形する。その変形は、強い剪断力の作用したゴム組成物をさらに複雑に流動させ、カーボンナノファイバーをニトリルゴム中に分散させると推測できる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、ニトリルゴムとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0035】
ニトリルゴムにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、前記オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離できる剪断力をニトリルゴムに与えることができればよい。特に、オープンロール法は、ロール温度の管理だけでなく、混合物の実際の温度を測定し管理することができるため、好ましい。
【0036】
ゴム組成物の製造方法は、薄通し後の分出しされたゴム組成物に架橋剤を混合し、架橋して架橋体のゴム組成物として用いてもよいし、架橋させずに無架橋体のまま摩擦材に成形してもよい。ゴム組成物は、オープンロール法によって得られたシート状であるので、粒子状の充填材と混合し易いように粒子状に粉砕することが好ましい。ゴム組成物を粒子状にする方法は、公知の方法を採用することができ、例えばロールの剪断力によるロール粉砕やカッティング刃によるカット粉砕などがあり、ゴム組成物を予め冷却もしくは冷凍した状態で粉砕してもよい。
【0037】
本実施の形態にかかるゴム組成物の製造方法において、通常、ニトリルゴムの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。これらの配合剤は、例えばオープンロールにおけるカーボンナノファイバーの投入前にニトリルゴムに投入することができる。
【0038】
なお、本実施の形態にかかるゴム組成物の製造方法においては、ゴム弾性を有した状態のニトリルゴムにカーボンナノファイバーを直接混合したが、これに限らず、以下の方法を採用することもできる。まず、カーボンナノファイバーを混合する前に、ニトリルゴムを素練りしてニトリルゴムの分子量を低下させる。ニトリルゴムは、素練りによって分子量が低下すると、粘度が低下するため、凝集したカーボンナノファイバーの空隙に浸透しやすくなる。原料となるニトリルゴムは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、未架橋体における、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし3000μ秒のゴム状弾性体である。この原料のニトリルゴムを素練りしてニトリルゴムの分子量を低下させ、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が3000μ秒を越える液体状のニトリルゴムを得る。なお、素練り後の液体状のニトリルゴムの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は、素練りする前の原料のニトリルゴムの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)の5〜30倍であることが好ましい。この素練りは、ニトリルゴムが固体状態のままで行なう一般的な素練りとは異なり、強剪断力を例えばオープンロール法で与えることによってニトリルゴムの分子を切断し分子量を著しく低下させ、混練に適さない程の流動を示すまで、液体状態になるまで行なわれる。この素練りは、例えばオープンロール法を用いた場合、ロール温度20℃(素練り時間最短60分)〜150℃(素練り時間最短10分)で行なわれロール間隔dは例えば0.1mm〜1.0mmで、素練りして液体状態のニトリルゴムにカーボンナノファイバーを投入する。しかしながら、ニトリルゴムは液体状で弾性が著しく低下しているため、ニトリルゴムのフリーラジカルとカーボンナノファイバーが結びついた状態で混練しても凝集したカーボンナノファイバーはあまり分散されない。
【0039】
そこで、液体状のニトリルゴムとカーボンナノファイバーとを混練して得られた混合物中におけるニトリルゴムの分子量を増大させ、ニトリルゴムの弾性を回復させてゴム状弾性体の混合物を得た後、先に説明したオープンロール法の薄通しなどを実施してカーボンナノファイバーをニトリルゴム中に均一に分散させる。ニトリルゴムの分子量が増大したゴム状弾性体の混合物は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が3000μ秒以下である。また、ニトリルゴムの分子量が増大したゴム状弾性体の混合物の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は、素練りする前の原料ニトリルゴムの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)の0.5〜10倍であることが好ましい。ゴム状弾性体の混合物の弾性は、ニトリルゴムの分子形態(分子量で観測できる)や分子運動性(T2nで観測できる)によって表すことができる。ニトリルゴムの分子量を増大させる工程は、混合物を加熱処理例えば40℃〜100℃に設定された加熱炉内に混合物を配置し、10時間〜100時間行なわれることが好ましい。このような加熱処理によって、混合物中に存在するニトリルゴムのフリーラジカル同士の結合などによって分子鎖が延長され、分子量が増大する。また、ニトリルゴムの分子量の増大を短時間で実施する場合には、架橋剤を少量、例えば架橋剤の適量の1/2以下を混合させておき、混合物を加熱処理(例えばアニーリング処理)し架橋反応によって短時間で分子量を増大させることもできる。架橋反応によってニトリルゴムの分子量を増大させる場合には、この後の工程で混練が困難にならない程度に架橋剤の配合量、加熱時間及び加熱温度を設定することが好ましい。
【0040】
ここで説明したゴム組成物の製造方法によれば、カーボンナノファイバーを投入する前にニトリルゴムの粘度を低下させることで、ニトリルゴム中にカーボンナノファイバーを従来よりも均一に分散させることができる。より詳細には、先に説明した製造方法のように分子量が大きいニトリルゴムにカーボンナノファイバーを混合するよりも、分子量が低下した液体状のニトリルゴムを用いた方が凝集したカーボンナノファイバーの空隙にニトリルゴム分子が侵入しやすく、薄通しの工程においてカーボンナノファイバーをより均一に分散させることができる。また、ニトリルゴムが分子切断されることで大量に生成されたニトリルゴムのフリーラジカルがカーボンナノファイバーの表面とより強固に結合することができるため、さらにカーボンナノファイバーを均一に分散させることができる。したがって、ここで説明した製造方法によれば、先の製造方法よりも少量のカーボンナノファイバーでも同等の性能を得ることができ、高価なカーボンナノファイバーを節約することで経済性も向上する。
【0041】
(ニトリルゴム)
ゴム組成物のマトリックス原料となるニトリルゴムは、NBRと略記することができ、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体系の合成ゴムであって、室温においてゴム状弾性を有するものであれば、比較的広範囲のものを用いることができる。ニトリルゴムは、アクリロニトリル量を約15〜50%に含めることで、その物性を変化させることができ、例えば低ニトリル24%未満、中ニトリル24〜30%、中高ニトリル30〜36%、高ニトリル36〜42%、極高ニトリル42%を越えるものというようにニトリル量で分類できる。ニトリルゴムの平均分子量は、通常5万以上のものが望ましく、より好ましくは7万以上、特に好ましくは10〜50万程度のものを用いることができる。
【0042】
ニトリルゴムは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、未架橋体におけるネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100〜3000μ秒、より好ましくは200〜1000μ秒である。上記範囲のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)を有することにより、ニトリルゴムは、柔軟で充分に高い分子運動性を有することができ、すなわちカーボンナノファイバーを分散させるために適度な弾性を有することになる。また、エストラマーは粘性を有しているので、ニトリルゴムとカーボンナノファイバーとを混合したときに、ニトリルゴムは高い分子運動によりカーボンナノファイバーの相互の隙間に容易に侵入することができる。スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が100μ秒より短いと、ニトリルゴムが充分な分子運動性を有することができない。また、スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が3000μ秒より長いと、ニトリルゴムが液体のように流れやすく、弾性が小さいため、そのままではカーボンナノファイバーを分散させることが困難となる。
【0043】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法によって得られるスピン−スピン緩和時間は、物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、パルス法NMRを用いたハーンエコー法によりニトリルゴムのスピン−スピン緩和時間を測定すると、緩和時間の短い第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する第1の成分と、緩和時間のより長い第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する第2の成分とが検出される。第1の成分は高分子のネットワーク成分(骨格分子)に相当し、第2の成分は高分子の非ネットワーク成分(末端鎖などの枝葉の成分)に相当する。そして、第1のスピン−スピン緩和時間が短いほど分子運動性が低く、ニトリルゴムは固いといえる。また、第1のスピン−スピン緩和時間が長いほど分子運動性が高く、ニトリルゴムは柔らかいといえる。
【0044】
パルス法NMRにおける測定法としては、ハーンエコー法でなくてもソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)あるいは90゜パルス法でも適用できる。ただし、本発明にかかるニトリルゴムは中程度のスピン−スピン緩和時間(T2)を有するので、ハーンエコー法が最も適している。一般的に、ソリッドエコー法および90゜パルス法は、短いT2の測定に適し、ハーンエコー法は、中程度のT2の測定に適し、CPMG法は、長いT2の測定に適している。
【0045】
(カーボンナノファイバー)
カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5〜500nmであり、平均直径が0.5ないし100nmであることが好ましい。また、カーボンナノファイバーは、平均長さが0.01〜1000μmであることが好ましい。カーボンナノファイバーの配合量は、摩擦材に配合されるゴム組成物の量や摩擦材に要求される高温特性などによって適宜設定できるが、ニトリルゴム100重量部に対してカーボンナノファイバー5〜100重量部を含むことが摩擦材の優れた高温特性を得るために好ましい。特に、ゴム組成物に補強剤としてのカーボンブラックを配合することでカーボンナノファイバーの配合量を少なくしても摩擦材の優れた高温特性を得ることができ、ニトリルゴム100重量部に対してカーボンブラック40〜80重量部を配合した場合、カーボンナノファイバー5〜20重量部を含むことが好ましい。
【0046】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラファイトの1枚面を1層に巻いた単層カーボンナノチューブ(シングルウォールカーボンナノチューブ:SWNT)、2層に巻いた2層カーボンナノチューブ(ダブルウォールカーボンナノチューブ:DWNT)、3層以上に巻いた多層カーボンナノチューブ(MWNT:マルチウォールカーボンナノチューブ)などが適宜用いられる。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。また、カーボンナノファイバーは、ホウ素、炭化ホウ素、ベリリウム、アルミニウム、ケイ素等の黒鉛化触媒と共に約2300℃〜3200℃で黒鉛化処理したものを用いてもよい。
【0047】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。なお、カーボンナノファイバーは、ニトリルゴムと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、ニトリルゴムとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0048】
(摩擦材の製造方法)
本実施の形態にかかる摩擦材2の製造方法としては、特に限定されないが、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形または射出圧縮成形など一般的に知られている成形法を用いて所望の形状に成形するとともに、加熱して硬化させることができる。本実施の形態にかかる摩擦材2の製造方法について、図6〜図8を参照しながら詳細に説明する。図6は、本発明の実施の形態にかかる摩擦材2の製造工程を示す工程図である。図7は、本発明の実施の形態にかかる摩擦材2を製造する仮成形工程を説明するための説明図である。図8は、本発明の実施の形態にかかる摩擦材2を製造する加熱・加圧工程を説明するための説明図である。
【0049】
本実施の形態にかかる摩擦材2は、図6に示す製造工程によって製造することができる。この製造工程において、先ず、金属製のプレート3に結着孔4、4を穿設してから各種の表面処理を施した後、乾燥を施す。かかる表面処理には、プレート3を脱脂する脱脂工程、プレート3の表面に向けて粒状物を噴射し、摩擦材2とプレート3との結着強度を高めるためのショット加工工程、摩擦材2とプレート3とを接着する例えば熱硬化性接着剤をプレート3の表面に塗布する接着剤塗布工程が含まれる。他方、摩擦材2の成形がプレート3の加工工程と別工程で行われる。摩擦材2の成形においては、摩擦材2の原料を混合してから所定量計量し、仮成形して板状体の仮成形体とする。この際に、原料として用いられる摩擦材2の原料は、前述した強化繊維、充填材、ゴム組成物及びバインダ樹脂が含まれる。
【0050】
図7に示すように、あらかじめ混合機で十分に混合した摩擦材2の原料(強化繊維、充填材の粒子、ゴム組成物の粒子、バインダ樹脂)を、載置台54上に配置された仮成形型52内に充填する。そして、摩擦材2の原料をプレス型50によって押圧して仮成形を行って仮成形体65を得る。
【0051】
仮成形で得られた仮成形体65は、図8に示すように、プレス機によって加熱・加圧成形されてプレート3と一体化した摩擦材2に成形される。加熱・加圧成形は、まずプレス機の載置台64上の金型62内に仮成形体65を配置し、さらにその仮成形体65上の所定位置にプレート3をセットし、押型60によって仮成形体65を押圧しつつ加熱する。この加熱・加圧成形によって、仮成形体65の原料中に配合されたバインダ樹脂が溶解され流動した後、硬化して仮成形体65の原料同士を強固に結着すると共に、プレート3の表面とも強固に結着して摩擦材2を形成する。この様な加熱・加圧成形を施して得られた摩擦材2は、摩擦材2とプレート3との結着を更に一層完全なものとすべく、オーブン中で数時間の焼成が施される。焼成工程を経た摩擦材は、摩擦材2に溝を形成する溝加工、摩擦材2の表面を研磨する研磨加工、塗装等の後加工工程などを経て製品(パッド1)となる。
【0052】
摩擦材2に配合されるゴム組成物は、摩擦材2に要求される高温特性によって適宜配合量を調整することができるが、摩擦材2の高温特性を改善するためには2〜10重量%含むことが好ましい。
【0053】
摩擦材2は、ゴム組成物が高温においても優れた減衰特性及び高い動的弾性率を有するので、高温における高摩擦係数を有すると共に、被摩擦部材との接触による高温における鳴きを低減させることができる。また、本発明にかかる摩擦材によれば、被摩擦部材との均一接触によって摩耗量を低減させることができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
(1)実施例1〜8及び比較例1、2のサンプルの作製
6インチオープンロール(ロール温度10〜20℃、ロール間隔1.5mm)に、表1に示す所定量のニトリルゴム(100重量部(phr))を投入して、ロールに巻き付かせ、5分間素練りした後、表1に示す量のカーボンナノファイバー及び/もしくはカーボンブラックを投入し、混合物をオープンロールから取り出した。そして、ロール間隔を1.5mmから0.3mmへと狭くして、混合物を再びオープンロールに投入して薄通しを繰り返し5回行なった。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。さらに、ロール間隙を1.1mmにセットして、薄通しして得られたゴム組成物を投入し、分出しした。
【0056】
この分出しされたゴム組成物は90℃、5分間プレス成形し、それぞれ厚さ1mmのシート状の無架橋体のゴム組成物サンプルに成形した。また、分出しされたゴム組成物の内、実施例1〜6、8及び比較例1、2のゴム組成物に架橋剤としてパーオキサイドを配合し、オープンロールで混合して、ロール間隙を1.1mmで分出しした。そして、分出しされたゴム組成物を175℃、20分間プレス架橋し、実施例1〜6,8及び比較例1、2の架橋体のゴム組成物サンプルを成形した。
【0057】
このゴム組成物サンプルを、表1に示す強化繊維、粒子状の充填材及びバインダ樹脂と混合し、プレス機によって加熱・加圧成形されて摩擦材に成形する。そして、成形されて得られた摩擦材はさらに焼成され、実施例1〜8及び比較例1、2の摩擦材を得た。
【0058】
表1において、摩擦材の原料のバインダ樹脂は粒子状の「フェノール樹脂」、強化繊維は「アラミド繊維」と「無機繊維」、充填材は粒子状の「カシューダスト」、「金属材料」、「無機材料」、「潤滑剤」及び「pH調整剤」であった。また、表1において、ゴム組成物の原料の「NBR」は中高ニトリルのニトリルゴム、「MWNT13」は平均直径が約13nmの気相成長マルチウォールカーボンナノチューブであり、「MWNT100」は平均直径が約100nmの気相成長マルチウォールカーボンナノチューブであり、「HAF」はHAFグレードのカーボンブラックであった。なお、表1における「摩擦材の配合割合」は重量%で示し、「ゴム組成物の配合割合」は重量部(phr)で示した。
【0059】
(2)パルス法NMRを用いた測定
実施例1〜8及び比較例1,2の原料ゴム及び各無架橋体のゴム組成物サンプルについて、パルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核がH、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜x)にて、Piをいろいろ変えて減衰曲線を測定した。また、サンプルは、磁場の適正範囲までサンプル管に挿入して測定した。測定温度は表1のカッコ内に示すように、30℃と150℃であった。この測定によって、原料ゴムの第1のスピンースピン緩和時間(T2n/30℃)と、各無架橋体のゴム組成物サンプルについて第1のスピン−スピン緩和時間(T2n/150℃)及び第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn/150℃)を有する成分の成分分率(fnn/150℃)とを求めた。測定結果を表1に示した。
【0060】
(3)熱機械分析(TMA)
実施例1〜6,8及び比較例1,2の架橋体のゴム組成物サンプルと実施例7の無架橋体のゴム組成物サンプルを1.5mm×1.0mm×10mmに切り出した試験片について、SII社製熱機械分析機(TMA−SS6100)を用いて、側長荷重は25KPa、測定温度は−100〜300℃、昇温速度は3℃/分で大気中における線膨張係数を測定し、得られた線膨張係数の温度変化特性から軟化劣化もしくは硬化劣化が開始する劣化開始温度(℃)を測定した。より詳細に説明すると、劣化開始温度は、各ゴム組成物サンプルの温度(℃)−微分線膨張係数(ppm/K)のグラフにおいて、線膨張係数が極端に増大している点で架橋型の硬化劣化(収縮)または線膨張係数が極端に低下している点で鎖切断型の軟化劣化(膨張)が開始していると判断し、劣化開始温度とした。これらの結果を表1に示す。
【0061】
(4)動的粘弾性試験
実施例1〜6,8及び比較例1,2の架橋体のゴム組成物サンプルと実施例7の無架橋体のゴム組成物サンプルを短冊形(40×1×5(巾)mm)に切り出した試験片について、SII社製の動的粘弾性試験機DMS6100を用いて、チャック間距離20mm、測定温度−100〜300℃、動的ひずみ±0.05%、周波数10HzでJIS K6394に基づいて動的粘弾性試験を行い動的弾性率(E’、単位はMPa)と損失正接(tanδ)を測定した。測定温度が30℃と200℃における動的弾性率(E’)の測定結果を表1に示す。また、測定温度が−10℃、30℃及び200℃における損失正接(tanδ)の測定結果を表1に示す。さらに、ガラス転移点(Tg)付近の領域における損失正接(tanδ)のピーク温度を使用最低温度(℃)として表1に示す。使用最低温度は、これよりも低温の領域ではゴム組成物が硬くなりすぎるためクッション性を失うので、ゴム組成物としての使用限界温度である。
【0062】
(5)フェード試験
実施例1〜8及び比較例1、2の摩擦材を、回転するFC250(黒鉛鋳鉄、比重7.2)製ディスクロータに押接して制動するフェード試験を下記試験条件でロードセルを用いて実施した。
(試験条件)
車速:(初速度)60km/h−(終速度)0km/h
減速度:0.4G
制動インターバル:20sec
制動回数:24回
フェード試験におけるディスクロータの最高温度(℃)、24回目のフェード試験における摩擦係数(μ)、フェード試験における摩擦材の総摩耗量(mm)を表1に示す。なお、ディスクロータの温度はディスクロータが停止している間に測定した温度であり、摩擦係数は制動時の最高値である。また、実施例2,8及び比較例1のフェード試験における制動回数−ディスクロータ最高温度のグラフを図9に示し、制動回数−摩擦係数の最高値のグラフを図10に示す。図9において、実施例2の制動回数−ディスクロータ温度(℃)特性をA、実施例8の制動回数−ディスクロータ温度(℃)特性をB、比較例1の制動回数−ディスクロータ温度(℃)特性をCで示した。図10において、実施例2の制動回数−摩擦係数(μ)特性をD、実施例8の制動回数−摩擦係数(μ)特性をE、比較例1の制動回数−摩擦係数(μ)特性をFで示した。
【0063】
【表1】

【0064】
表1から、本発明の実施例1〜8によれば、以下のことが確認された。すなわち、本発明の実施例1〜8のゴム組成物サンプルの劣化開始温度は、比較例1、2のゴム組成物サンプルの劣化開始温度よりも高く、160℃以上であった。また、本発明の実施例1〜8のゴム組成物サンプルによれば、200℃における動的弾性率(E’)が10MPa以上であり、高温においても高い剛性を維持していることがわかった。なお、比較例1,2のゴム組成物サンプルは、劣化開始温度が115℃及び152℃であったので、200℃では軟化して測定できなかった。本発明の実施例1〜8によれば、常温(30℃)における動的弾性率(E’)が25MPa以上で比較例1,2よりも高く、常温(30℃)においても高い剛性を有していた。したがって、実施例1〜8の摩擦材は、低温から高温まで高い動的弾性率を維持したゴム組成物を含むため高摩擦係数を維持することができる。図9に示すように、制動回数が増えるとディスクロータの温度も上昇し、ディスクロータに接触する摩擦材の温度も上昇する。しかしながら、図10に示すように、摩擦材の温度が上昇しても、比較例1の摩擦材サンプルの低い摩擦係数に比べ、実施例2,8の摩擦材サンプルは高い摩擦係数を維持したままほとんど変化が無かった。
【0065】
さらに、本発明の実施例1〜8によれば、200℃における損失正接(tanδ)が0.05以上であり、特に高温において高い減衰特性を維持していることがわかった。なお、比較例1,2のゴム組成物は、劣化開始温度が115℃及び152℃であったので、200℃では軟化して測定できなかった。本発明の実施例1〜8によれば、低温(−10℃)における損失正接(tanδ)が0.2以上であり、常温(30℃)においても損失正接(tanδ)が0.1以上で比較的高い減衰特性を有していた。したがって、実施例1〜8の摩擦材は、低温から高温まで優れた減衰特性を有するゴム組成物を含むため例えばブレーキにおける鳴きを低温から高温までの広範囲で低減することができる。
【0066】
また、本発明の実施例1〜8の摩擦材によれば、比較例1、2の摩擦材に比べて摩耗量が少なかった。本発明の実施例4と実施例8は、ゴム組成物の配合は同じで、摩擦材におけるゴム組成物の含有割合が異なるが、摩擦係数及び摩耗量とも大きな差はなかった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施の形態に係るディスクブレーキ用のパッドの正面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るディスクブレーキ用のパッドの一部切欠き平面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係るディスクブレーキ用のパッドの背面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係るディスクブレーキの構造を示す縦断面図である。
【図5】オープンロール法によるゴム組成物の製造方法を模式的に示す図である。
【図6】本発明の一実施の形態にかかる摩擦材の製造工程を示す工程図である。
【図7】本発明の一実施の形態にかかる摩擦材を製造する仮成形工程を説明するための説明図である。
【図8】本発明の一実施の形態にかかる摩擦材を製造する加熱・加圧工程を説明するための説明図である。
【図9】実施例2、8、比較例1のフェード試験による制動回数−ディスクロータ温度(℃)を示す図である。
【図10】実施例2、8、比較例1のフェード試験による制動回数−摩擦係数(μ)を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 パッド
2 摩擦材
3 プレート
5 シム板
10 ディスクブレーキ
11 キャリパボディ
12 ピストン
13 ディスクロータ
14 液圧室
30 ニトリルゴム
40 カーボンナノファイバー
100 第1のロール
200 第2のロール
d ロール間隔
V1 第1のロールの表面速度
V2 第2のロールの表面速度
A 実施例2の制動回数−ディスクロータ温度(℃)特性
B 実施例8の制動回数−ディスクロータ温度(℃)特性
C 比較例1の制動回数−ディスクロータ温度(℃)特性
D 実施例2の制動回数−摩擦係数特性
E 実施例8の制動回数−摩擦係数特性
F 比較例1の制動回数−摩擦係数特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と、充填材と、ゴム組成物と、バインダ樹脂と、を含む摩擦材であって、
前記ゴム組成物は、マトリックスであるニトリルゴムに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である、摩擦材。
【請求項2】
請求項1において、
前記ゴム組成物は、無架橋体である、摩擦材。
【請求項3】
請求項1において、
前記ゴム組成物は、架橋体である、摩擦材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記ゴム組成物は、前記ニトリルゴム100重量部に対して、前記カーボンナノファイバー5〜100重量部を含む、摩擦材。
【請求項5】
請求項4において、
前記ゴム組成物は、前記ニトリルゴム100重量部に対して、カーボンブラック40〜80重量部と、前記カーボンナノファイバー5〜20重量部と、を含む、摩擦材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記ゴム組成物は、200℃における損失正接(tanδ)が0.05〜1.00である、摩擦材。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記ゴム組成物は、200℃における動的弾性率(E’)が10MPa〜1000MPaである、摩擦材。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記ゴム組成物は、熱機械分析における劣化開始温度が160℃〜300℃である、摩擦材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかにおいて、
前記バインダ樹脂は、フェノール樹脂である、摩擦材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−208314(P2008−208314A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49125(P2007−49125)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】