説明

摩擦材

【課題】 摩擦材原料に玄武岩繊維のチョップドストランドを添加して混合しても、ファイバーボールの発生がなく、かつ、対面攻撃性を小さくしつつ、効きを向上させた、バランスのとれた摩擦材を提供する。
【解決手段】 本発明の摩擦材は、玄武岩繊維のチョップドストランドを含有する繊維基材、結合材、充填材を主成分とする摩擦材組成物を成形後、硬化してなる摩擦材で、玄武岩繊維100質量部に対し、0.2質量部以上0.5質量部未満の集束剤で集束した玄武岩繊維のチョップドストランドを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のディスクブレーキパッド、ブレーキライニング及びクラッチフェーシング等に使用される摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦材を構成する繊維基材として、金属繊維、有機繊維、無機繊維等を使用するが、近年の自動車等の高速化、高性能化から摩擦材全体の強度や、耐熱性を高め耐摩耗性を向上させるためや、高速制動時等に高い摩擦係数を確保するため、ガラス繊維等の無機繊維のチョップドストランドの使用が必須となっている。なお、チョップドストランドとは、溶融紡糸法により連続的に作成された円柱状のフィラメント(単繊維)50〜200本を集束剤で集束し、所定の長さに切断したものである。
【0003】
摩擦材には製造工程に摩擦材組成物を混合機で混合する混合工程があり、チョップドストランドの集束力が弱いと、混合時にチョップドストランドが開繊し、繊維どうしが絡ってファイバーボールを形成し、混合不良を起こすという問題がある。
【0004】
そこで、チョップドストランドを集束する集束剤の量を、繊維100質量部に対して0.5質量部以上にし、充分なチョップドストランドの集束力を付与することで、ファイバーボールの形成を防止している。
【0005】
特開昭58−7475号(特許文献1)には、ガラス繊維のチョップドストランドに樹脂またはラテックスを0.5〜20質量部含浸させたものを含む摩擦材が開示されている。
【0006】
特公平7−72575号(特許文献2)には、繊維長1〜3mmの短繊維50〜200本を束ねたガラス繊維の質量に対し、0.5質量部以上の酢酸ビニルで固めたガラス繊維のチョップドストランドを5〜30体積%含む摩擦材が開示されている。
【0007】
特開平10−280279(特許文献3)には、複数本の繊維を、該繊維に対して0.5〜50質量部の水溶性有機高分子を過酸化物で処理してなる有機高分子で被覆することにより、混合時にファイバーボールの形成を防止した繊維集束体が開示されている。
【0008】
一方で、摩擦材の強度、耐熱性、耐摩耗性の更なる向上が希求されており、ガラス繊維に替わる無機繊維として、特開2004−331861号(特許文献4)に開示されているように玄武岩繊維のチョップドストランドが好適に使用されるようになってきている。
【0009】
しかしながら、玄武岩繊維のチョップドストランドにおいては、玄武岩繊維100質量部に対し0.5質量部以上の集束剤で集束したチョップドストランドを摩擦材に添加すると、混合時にチョップドストランドが開繊しないので、ファイバーボールの形成は防止できるものの、それが繊維束の状態で相手材(ロータ、ドラム等)を研削するので、対面攻撃性が著しく大きくなるという問題がある。
【0010】
【特許文献1】特開昭58−7475号公報
【特許文献2】特公平7−72575号公報
【特許文献3】特開平10−280279号公報
【特許文献4】特開2004−331861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、摩擦材に玄武岩繊維のチョップドストランドを添加しても、混合時にファイバーボールの発生がなく、かつ、対面攻撃性を小さくしつつ、効きを向上させたバランスのとれた摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一般的にガラス繊維等、無機繊維のチョップドストランドは混合時に開繊すると、ファイバーボールを形成し、混合不良を起こすことは先にも述べたとおりであるが、その他にも繊維自体の強度が低下して加圧成形時に折れ、繊維基材としての役割を果たさなくなり、せん断強度、耐摩耗性が著しく低下するという問題があるので混合時に開繊されないほうが好ましいと考えられていた。しかし、本発明者が上記課題を達成するため鋭意研究を行った結果、無機繊維の中でも玄武岩繊維のチョップドストランドは強度、耐熱性が高いので、チョップドストランドが開繊してもせん断強度、耐摩耗性が著しく低下することはなく、むしろ、混合時にファイバーボールを形成しない範囲で適度に開繊された方が、対面攻撃性が小さくなることを知見して、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、
<1>玄武岩繊維のチョップドストランドを含有する繊維基材、結合材、充填材を主成分とする摩擦材組成物を成形後、硬化してなる摩擦材において、玄武岩繊維100質量部に対し、0.2質量部以上0.5質量部未満の集束剤で集束した玄武岩繊維のチョップドストランドを含有することを特徴とする摩擦材、
<2>前記玄武岩繊維のチョップドストランドを1〜20体積%含有する<1>に記載の摩擦材、
である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明により、
<1>玄武岩繊維のチョップドストランドのファイバーボールの発生(混合不良)を無くすことが出来る。
<2>ロータ又はドラムへの対面攻撃性を小さくしつつ、効きを向上させたバランスのとれた摩擦材を提供することができる。
【0015】
本発明の摩擦材は、石綿を除く繊維基材、結合材、充填材を主成分とする摩擦材組成物を成形後、硬化してなるものである。ここで、本発明では上記繊維基材として、玄武岩繊維100質量部に対し、0.2質量部以上0.5質量部未満の集束剤で集束した玄武岩繊維のチョップドストランドの含有を特徴とする。
【0016】
集束剤が玄武岩繊維100質量部に対し、0.2質量部以上0.5質量部未満であると、混合時に玄武岩繊維のチョップドストランドがファイバーボールを形成しないで適度に開繊されるので、対面攻撃性を小さくすることができる。
また、集束剤の量が玄武岩繊維のチョップドストランド100質量部に対し0.2質量部未満であると、混合時に玄武岩繊維のチョップドストランドが開繊され過ぎてファイバーボールが形成され、混合不良が発生しやすくなり、また、集束剤の量が玄武岩繊維100質量部に対し0.5質量部以上では、玄武岩繊維のチョップドストランドが混合時に開繊されないので、対面攻撃性が著しく大きくなる。
【0017】
上述した集束剤としては、ラテックス、合成樹脂を好適に使用することができる。ラテックスは、アクリル系、SBR系、NBR系が挙げられる。合成樹脂としては、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0018】
上述した玄武岩繊維のチョップドストランドに加えてさらに含有してもよい繊維基材としては、摩擦材に通常用いられる石綿(アスベスト)以外の繊維基材が挙げられる。例えばスチール、銅、真鍮、青銅、アルミニウム、ステンレス等の金属繊維;セラミック繊維、チタン酸カリウム繊維、ガラス繊維、ロックウール、人工鉱物繊維、ウォラストナイト、セピオライト、アタパルジャイト等の無機繊維;アラミド繊維、炭素繊維、ポリイミド繊維、フェノール繊維、セルロース繊維、アクリル繊維等の有機繊維;等である。これらは1種又は2種以上用いることが出来る。繊維基材の添加量は、摩擦材全量に対して好ましくは10〜40体積%である。
【0019】
上述した結合材としては、通常摩擦材に用いられる公知のものを使用することができる。たとえば、フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、NBRゴム変性ハイオルソフェノール樹脂、NBRゴム変性フェノール樹脂、アクリルゴム変性樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、NBR、アクリルゴム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上用いることが出来る。この結合材の添加量は摩擦材全量に対して好ましくは5〜30体積%である。
【0020】
上述した充填材としては、有機充填材と無機充填材が挙げられる。有機充填材として、たとえばカシューダスト、タイヤリク、ゴムダスト(ゴム粉末、粒)、ニトリルゴム(未加硫品)、アクリルゴムダスト(加硫品)、黒鉛、コークス等が挙げられる。これらは1種又は2種以上用いることが出来る。この有機充填材の添加量は、摩擦材全量に対して好ましくは5〜30体積%である。一方無機充填材としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、グラファイト、マイカ等の他、鉄、銅、アルミニウム等の金属粉が挙げられる。これらは1種又は2種以上用いることが出来る。この無機充填材は、摩擦材全量に対して20〜75体積%である。
【0021】
本発明の摩擦材の製造方法は、上記成分をヘンシェルミキサー、レディゲミキサー、アイリッヒミキサー等の混合機を用いて均一に混合して成形金型内で予備成形し、この予備成形物を成形温度140〜180℃、成形圧力20〜50MPaで、5〜15分成形するものである。
次に、得られた成形品を140〜250℃の温度で2〜48時間熱処理(後硬化)した後、必要に応じてスプレー塗装、焼き付け、研磨処理を施して完成品が得られる。
【0022】
なお、自動車等のディスクパッドを製造する場合には、予め洗浄、表面処理、接着剤を塗布した鉄製又はアルミニウム製プレート上に予備成形物を載せ、この状態で熱成形用金型内にて成形した後、熱処理、スプレー塗装、焼き付け、研磨することにより製造することができる。
【0023】
本発明の摩擦材は、自動車等のディスクブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等の各種用途に幅広く用いることができるものである。
【実施例】
【0024】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、記載のものに制限されものではない。
【0025】
表1に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーにて5分間混合し、成形金型内で10MPaにて1分加圧して予備成形をした。この予備成形物を熱成形型内で成形温度150℃、成形圧力40MPaの条件下で10分間成形した後、200℃で5時間熱処理(後硬化)を行い、研磨して摩擦材を作製した(実施例1〜7、比較例1,2)。その摩擦材を、混合性、対面攻撃性(ロータ摩耗)及び効力(摩擦係数)について評価を行い、結果を表1に記載した。
【0026】
【表1】

評価については、下記基準にて行った。なお、評価不能とは、混合時にファイバーボールが形成され、性能評価できる摩擦材を得られなかったことを意味する。
(1)混合性:混合後のファイバーボール形成の有無を目視にて確認した。判定基準は下記の通り。
○:ファイバーボール形成無し
×:ファイバーボール形成有り
(2)対面攻撃性:テストピース型対面攻撃性試験機を使用し、スケールイナーシャ0.35Kgm2、初速60km/h、終速40km/h、ロータ温度80℃、面圧1.5MPa、制動回数2000回後の対面(ロータ)の最大摩耗量を測定した。判定基準は下記の通り。
◎:5μm未満
○:5μm以上10μm未満
△:10μm以上30μm未満
×:30μm以上
(3)効力(摩擦係数):JASO C406 準拠。第2効力の平均値を求めた。判定基準は下記の通り。
◎:0.42以上
○:0.37以上0.42未満
△:0.32以上0.37未満
×:0.32未満

【特許請求の範囲】
【請求項1】
玄武岩繊維のチョップドストランドを含有する繊維基材、結合材、充填材を主成分とする摩擦材組成物を成形後、硬化してなる摩擦材において、
玄武岩繊維100質量部に対し、0.2質量部以上0.5質量部未満の集束剤で集束した玄武岩繊維のチョップドストランドを含有することを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
前記玄武岩繊維のチョップドストランドを1〜20体積%含有する請求項1に記載の摩擦材。

【公開番号】特開2008−231172(P2008−231172A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69972(P2007−69972)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)