説明

摩擦材

【課題】摩擦材の結合材として熱硬化性樹脂を配合する際、前記樹脂に表面改質処理したフィラー(充填材)を含有させた使用することにより、高温における強度、耐摩耗性及び耐衝撃性に優れた摩擦材を提供することである。
【解決手段】少なくとも補強繊維、摩擦調整材、及び熱硬化性樹脂からなる結合材より構成してなる摩擦材において、表面改質されたフィラーを含む熱硬化性樹脂を結合材として用いたことを特徴とする摩擦材。前記表面改質されたフィラーが黒鉛、炭酸カルシウムの少なくともいずれか一種を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材に関するものであり、特に産業機械、鉄道車両、荷物車両、乗用車などに用いられる摩擦材に関するものであり、より具体的には前記の用途に使用されるブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキ用摩擦材は、繊維基材、摩擦調整材、充填材及び結合材を用い、それらを配合し、予備成形、熱成形、仕上げなどの工程からなる製造プロセスによって製造されている。ブレーキ用摩擦材としては、有機繊維、ガラス繊維などの無機繊維、銅繊維などの金属繊維等の繊維基材、炭酸カルシウム、やゴムダスト、カシューダスト等の充填材、金属粒子、セラミックス粒子や黒鉛等の摩擦調整材、フェノールレジン等の結合材が使用されているが、前記の繊維基材に使用されている有機繊維、ガラス繊維などの無機繊維、銅繊維などの金属繊維は比較的硬く、結合材のフェノール樹脂が付着しにくいために、これらを用いる場合にはフェノール樹脂等の配合量を増やす必要があるため、摩擦材の硬度が大きくなりやすい。
【0003】
摩擦材の結合材としては、優れた成形性のためフェノール樹脂が使用されることが多いが、ストレートフェノール樹脂では機械的強度、耐熱性重視のため、耐衝撃性、柔軟性に劣り、エラストマー変性フェノール樹脂とした場合、柔軟性は向上するが、強度及び耐熱性が低下するという問題がある。
【0004】
フェノール樹脂を使用して更に耐摩耗性を向上させるために、「特許文献1」では、繊維基材、結合材、充填材を主成分とする摩擦材組成物を成形、硬化してなる摩擦材において、摩擦材の強度を大きくするために無機質充填材である平均粒径1〜10μmの鱗片状8チタン酸カリウムをγ−アミノプロピルトリエトキシシランのようなシランカップリング剤をチタン酸塩に対し0.1〜1質量%で表面処理し、結合材等と配合している。
「特許文献2」では、無機質充填材として二酸化チタン粒子をシランカップリング剤及びフェノール樹脂の少なくとも一つで表面処理した摩擦材を使用し、結合材として上記「特許文献1」と同様にフェノール樹脂を配合して耐摩耗性を改善したことが報告されている。
【0005】
「特許文献3」でも、平均粒径0.1〜100μm、アスペクト比3以下のシランカップリング剤で表面処理した非ウィスカー状チタン酸アルカリ金属塩、無機多孔質充填材及び結合材として18体積%フェノール樹脂を配合した摩擦材を使用すると、異音や異常摩擦が抑制できると記載されている。
上記したように、フェノール樹脂を含む摩擦材では摩擦材の配合処方が多面的に改良されているが、フェノール樹脂の特性は維持したまま、更に高温時の摩耗を抑制することが解決すべき課題のひとつとして残されている。
【特許文献1】特開2003−82331号公報
【特許文献2】特開2004−218840号公報
【特許文献3】特開2005−36157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、熱硬化性樹脂、特にフェノール樹脂を摩擦材の結合材として使用する場合、各種フェノール樹脂の組み合わせを選択するだけでは摩擦材の性能に限界が生じるため、表面改質処理あるいは表面をコーティングしたフィラー(充填材)を摩擦材の成形用原料として配合することにより、高温における強度、耐摩耗性及び耐衝撃性に優れた摩擦材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の手段により前記の課題を解決した。
(1)少なくとも補強繊維、摩擦調整材、及び熱硬化性樹脂からなる結合材より構成してなる摩擦材において、表面改質されたフィラーを含む熱硬化性樹脂を結合材として用いたことを特徴とする摩擦材。
(2)前記表面改質されたフィラーが黒鉛、炭酸カルシウムの少なくともいずれか一種を含むことを特徴とする前記(1)に記載の摩擦材。
(3)前記黒鉛が、表面酸化による酸素含有官能基導入後にシランカップリング剤処理されてなることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の摩擦材。
(4)前記炭酸カルシウムが、熱可塑性変性樹脂又は熱硬化性樹脂でコーティングされてなることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の摩擦材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表面を活性化処理した後、カップリング剤処理した、あるいは熱可塑性変性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂で薄膜コーティングしたフィラーを充填材(フィラー)とする本発明の摩擦材は、従来の表面処理しない摩擦材に比して、低温(100〜200℃)における摩擦特性は変わらないものの、高温(300〜400℃)においては摩耗量が著しく少なく、耐衝撃性(ヒートショック性)も向上し、その上、ブレーキノイズ発生率も減少する。又、平均摩擦係数は高温においても従来の摩擦材と同程度である。
表面酸化によって酸素含有官能基を導入後カップリング剤処理した黒鉛あるいは熱可塑性変性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂で薄膜コーティングした炭酸カルシウムを充填材として用いた摩擦材は、優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、少なくとも繊維基材、結合材及び充填材を成形、硬化して製造された摩擦材において、結合材として、表面を活性化処理した後、カップリング剤処理した、あるいは熱可塑性変性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂で薄膜コーティングしたフィラー含む熱硬化性樹脂を用いたことを特徴とする、強度、耐熱性耐衝撃性に優れた摩擦材である。
【0010】
本発明では、結合材となる熱硬化性樹脂にフィラー(充填材)含有させることにより、結合材そのものの強度、耐熱性、耐衝撃性が優れたものとなるので、その結合材を用いて得られる摩擦材もその強度、耐熱性、耐衝撃性が優れたものとなる。
フィラーの表面を活性化処理するのは、黒鉛の場合には、表面を酸化することによって酸素含有官能基を導入することにより行うことができる。黒鉛は耐酸化性が大きいので、表面を酸化するためには硫酸と硝酸との混酸を用いることが必要である。フィラーがシリカやアルミナのような金属酸化物の場合には、それに適合する活性化処理を行うことができる。
フィラーの表面を活性化処理した後、カップリング剤処理をすることにより、フィラーの表面が熱硬化性樹脂を結合材として熱成形する際において、熱硬化性樹脂との結合力を大きくすることができる。
【0011】
また、フィラーの表面を熱可塑性変性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂で薄膜コーティングしたものも、熱硬化性樹脂を結合材として熱成形する際において、フィラーの表面が熱硬化性樹脂との結合力を大きくすることができる。この手段は、フィラーの表面が黒鉛のように滑らかでない物質の場合に適しており、例えば炭酸カルシウムがその例に当る。
ここで用いられる熱可塑性変性樹脂としては、例えば、ポリビニルブチラール、ポリイミドを挙げることができる。
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミドが挙げられるが、特にフェノール樹脂が好ましい。フェノール樹脂としたは、各種のフェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂、エラストマー変性フェノール樹脂、炭化水素樹脂変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等を含む)が挙げられる。
これらの樹脂を薄膜コーティングするときの薄膜の厚みは0.1〜1μmの範囲が好ましい。
【0012】
本発明で結合材となる熱硬化性樹脂に含有させるフィラー(充填材)として好ましいのは、表面改質された黒鉛あるいは炭酸カルシウムである。前記処理改質は黒鉛あるいは炭酸カルシウムを表面処理あるいはコーティングすることによって行われる。
本発明で使用する炭酸カルシウムの表面のコーティング(表面処理)は、BET法による比表面積が1.0〜60m/gの炭酸カルシウムを使用する。炭酸カルシウムとしては、特に沈降炭酸カルシウムが好ましい。
炭酸カルシウムの表面処理には熱可塑性変性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂を使用することが好ましい。その場合、前記樹脂のみを用いてもよく、また前記樹脂に加えて、公知の他の表面処理剤、例えば、脂肪酸、樹脂酸及びこれらの金属塩などを用いることもできる。他の表面処理剤を併用するときには、熱可塑性変性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂と他の表面処理剤とを適宜組み合わせて用いることができる。本発明で好適に用いることができるのはフェノール樹脂であり、好ましくは、変性フェノール樹脂である。
【0013】
炭酸カルシウムの表面処理は、炭酸カルシウム100質量部に対して変性フェノール樹脂を通常0.5〜50質量部、好ましくは5〜30質量部程度となる量で行う。表面処理剤として用いる変性フェノール樹脂の中で、特に好ましいのはポリビニルブチラール(PVB)変性フェノール樹脂である。
また、炭酸カルシウムの表面処理方法は、特に限定されないが、通常水スラリー中、含水ケーキ中、あるいは溶剤中で炭酸カルシウムと変性フェノール樹脂とをミキサーなどで撹拌するか、あるいは炭酸カルシウムと変性フェノール樹脂とを乾式で十分混合した後、加熱するなどの方法を利用することができる。このような表面処理は、通常20〜120℃、0.5〜3時間の処理条件で行うことができる。
【0014】
次に、表面改質された黒鉛について簡単に説明する。使用する黒鉛の種類は特に限定されないが、天然鱗状黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等がある。
黒鉛の表面改質は、あらかじめ、黒鉛を酸化して黒鉛の層間に酸素原子(酸素含有官能基)を導入し、化学的に共有結合を形成し得る官能基を導入する。その後、シランカップリング剤で表面処理する。
【0015】
黒鉛の酸化は、通常、天然黒鉛等を硫酸、硝酸などの強酸、あるいは酸化剤を添加して処理した後、水洗、乾燥工程を経て製造することができる。このため、製造後に酸化された黒鉛は十分水洗して、残留する硫酸イオンや硝酸イオンを除去する必要がある。
具体的な黒鉛の酸化方法としては、まず、原料である天然黒鉛に、強酸を溶かした溶液を加えて混合する。ここで、溶媒としては、触媒と共存することから耐酸化性を有するものが好ましく、水、酢酸等が使用可能である。またこれらの2種以上の混合溶液を用いても良い。使用する溶媒量は、黒鉛100質量部に対して、200〜1000質量部を用いる。
【0016】
次に、この混合溶液に酸化剤を加えて反応させ、原料である黒鉛を酸化させる。反応に用いる酸化剤は、特に制限はないが、一般的には黒鉛100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲で使用することが好ましい。反応温度は、50〜100℃の範囲が好ましい。温度が低いと酸化反応速度が遅くなり、一方温度が高すぎると、黒鉛が熱劣化するおそれがある。そして、反応時間は数時間程度で行う。酸化剤としては、酸素、過酸化水素、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム及び塩素酸カルシウムなどの塩素酸塩などを使用することが可能であるが、過酸化水素又は塩素酸カリウムを用いた場合には、反応後に得られる酸化黒鉛中の金属イオンの残留が少なく、良質な酸化黒鉛が得られるため好ましい。
【0017】
酸化反応終了後は反応液を吸引ろ過により溶剤を取り除く。この時、残留している強酸及び酸化剤を除去するため、必要量の溶媒又は水を加えながら繰り返しろ過を行う。
そして、得られた酸化黒鉛の生成物を、加熱、必要に応じて真空乾燥することにより完全に溶媒を除去し、目的の酸化黒鉛を得る。乾燥は50〜180℃程度、時間としては0.5〜3時間程度で行う。
【0018】
酸素含有官能基を導入した後、シランカップリング剤により酸化された黒鉛の表面処理を行う。この反応操作は通常の方法で行うことができるが、一例を示せば、シランカップリング剤を水と反応させてその一部を加水分解させたものを表面処理した黒鉛に添加して混合後、乾燥させる方法が挙げられる。本発明で用いるシランカップリング剤の使用量は特に制限されないが、使用する黒鉛の比表面積を考慮して決めることが好ましい。具体的に説明するなら、シランカップリング剤の量は、使用する黒鉛100質量部に対して、0.01質量部から20質量部が好ましく、さらに好ましくは0.1質量部から10質量部である。処理反応の終了後、処理した黒鉛をろ過水洗して、室温〜180℃で乾燥し、粉砕して粒度をそろえる。
【0019】
又、本発明で使用されるシラン系カップリング剤は、下記一般式で表される化合物を使用することができる。
一般式 Y−Si(X)
式中、Yは炭素数が1から20の炭化水素基又はアリール基である。炭化水素基又はアリール基は無置換でも置換基を有していてもよい。置換基を有する場合の置換基としては、例えば、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、クロル基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、水酸基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、ニトリル基、アクリロキシ基、等である。Xは加水分解基又は水酸基であり、例えば、クロル基、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基または水酸基である。
本発明で好ましく用いられるカップリング剤は、Yがアルキル基又はアミノ基を有するアルキル基であり、Xがアルコキシ基を有するシラン系カップリング剤である。
【0020】
具体的化合物としては、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシプロピルシランあるいはγ−アミノプロピルトリエトキシシラン等を用いることができる。中でも、トリエトキシメチルシラン及びγ−アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0021】
具体的には、シランカップリング剤処理した黒鉛、あるいは熱可塑性変性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂で薄膜コーティングした炭酸カルシウムの少なくともいずれか一種をフィラー(充填材)として熱硬化性樹脂に含有させた結合材を用いて得られた摩擦材は、強度、耐熱性耐衝撃性に優れた摩擦材である。
【0022】
摩擦材全般について説明すると、摩擦材の基材である繊維基材としては、スチール繊維、銅繊維、真鍮繊維、アルミニウム繊維等の金属繊維;芳香族ポリアミド繊維(アラミドパルプ等:市販品ではデュポン社製、商品名ケブラー等がある)、アクリル繊維、セルロース繊維、耐炎化アクリル繊維等の有機繊維;チタン酸カリウム繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、ロックウール等の非アスベスト系無機繊維等が挙げられる。これらのうち一種又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
この繊維基材は、短繊維状、粉末状等の形態で使用することができ、その添加量は、摩擦材用組成物全体に対して好ましくは10〜50体積%、より好ましくは15〜40体積%である。
【0023】
結合材としては、例えば、各種のフェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂、エラストマー変性フェノール樹脂、炭化水素樹脂変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等を含む)、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、NBR、ニトリルゴム、アクリルゴム等の熱硬化性樹脂等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、本発明においては、摩擦材組成物全体に対し、15〜30体積%含有せしめる。この場合、上記樹脂以外の結合材を配合しても差し支えないが、結合材総量は40体積%以下とすることが好ましい。
本発明の摩擦材には、結合材としてノボラック型フェノール樹脂を使用することが好ましい。もちろん、レゾール型フェノール樹脂、変性フェノール樹脂等の他の樹脂と併用しても差し支えない。
【0024】
本発明におけるノボラックフェノール樹脂は、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、キシレノール、p−t−ブチルフェノール等のアルキル置換フェノール、p−フェニルフェノール等の芳香族置換フェノール類などのフェノール類とアルデヒド化合物との反応で得られる通常のノボラック型フェノール樹脂が用いられる。具体的には、フェノール、ナフトール、ビスフェノールF、ビスフェノールAなどの一価のフェノール性化合物、又はレゾルシン、キシレノールなどの二価のフェノール性化合物、又はピロガロール、ヒドロキシヒドロキノンなどの三価のフェノール性化合物、及びこれらフェノール性化合物のアルキル、カルボキシル、ハロゲン、アミンなどの誘導体の単独又は二種以上の混合物からなるフェノール性化合物とホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどの脂肪族アルデヒドあるいはベンズアルデヒドなどの芳香族アルデヒドのアルデヒド化合物とを所定のモル比に配合し、塩酸、硫酸、蓚酸、燐酸などの酸性触媒下で反応して得られる、質量平均分子量200〜10000程度、フェノール核の平均核体数は、2〜100程度の通常のノボラック型フェノール樹脂である。
【0025】
充填材(フィラー)としては、有機質充填材と無機質充填材があり、有機質充填材としては、例えばカシューダスト、ゴムダスト(ゴム粉末、粒)、ニトリルゴムダスト(加硫品)、アクリルゴムダスト(加硫品)などが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。この有機質充填材の添加量は摩擦材組成物全体に対して、好ましくは、5〜30体積%である。
一方、無機質充填材としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、マイカ、コークス、黒鉛等のほか、鉄、銅、アルミニウム等の金属粉を使用することができ、この無機質充填材は、摩擦材組成物全体の30〜70体積%配合することができる。
【0026】
摩擦調整材としては、例えばアルミナやシリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化クロム、石英等の金属酸化物等を、固体潤滑剤としては、例えばグラファイトや二硫化モリブデン等を挙げることができる。
【0027】
一方、摩擦材の製造は上記の原材料を配合し、予備成形する工程から出発する。例えば、有機繊維や無機繊維、金属繊維等の補強繊維と、無機充填材、摩擦調整材、固体潤滑材及び熱硬化樹脂バインダ等の粉末原料とを所定の割合で配合し、攪拌により十分に均質化して成形原料を調製する。
次いで、成形原料を、成形金型に投入し、常温で、面圧10〜100MPa程度の圧力にて成形して、摩擦材の予備成形体を作製する。次いで、プレッシャープレート及び摩擦材の予備成形体は熱成形工程に移行される。熱成形工程では、先ず、熱プレス機内に予備加熱されたプレッシャープレートを高温を維持した状態でセットし、その上に予備成形体を載せる。所定の熱成形温度(140〜160℃)と所定の圧力下で所定時間保持して予備成形体を熱硬化するとともに、プレッシャープレートと予備成形体とを接着剤により一体に固着させる。熱成形が完了し後は、従来の方法に従って加熱工程でアフタキュア、仕上げ工程で仕上げ処理が施されて摩擦パッドが完成する。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0029】
実施例1
1.充填材(フィラー)の表面処理
(a)黒鉛の表面処理
天然燐状黒鉛5質量部(平均粒度150μm)を濃硝酸(65%)100質量部に常温で5時間浸漬後、水洗でpHを6〜7とし、ろ過乾燥した。次いで、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(TEAPS)の2%水溶液100質量部に浸漬した。その後、ろ過し、150℃で5時間乾燥した。
【0030】
(b)炭酸カルシウムの表面処理
炭酸カルシウムの表面処理は、PVB(ポリビニルブチラール)変性フェノール樹脂を溶媒をエタノールとする10%溶液100質量部に炭酸カルシウム粒子(平均粒度1μm)10質量部を1時間浸漬し、取り出した後、100℃で30分乾燥後、粉砕により平均粒度15μmの表面処理した炭酸カルシウム粒子15質量部を得た。
2.樹脂結合材の調製
次に、上記の処理で得た黒鉛15mass%及び炭酸カルシウム30mass%をノボラックフェノール樹脂(Mw:3000)150mass%と110℃で溶融混合し、粉砕により平均粒度30μmの樹脂粉体とした。その後、硬化剤であるヘキサミン10mass%と乾式混合を行なった。
【0031】
3.摩擦材の作成
本発明の摩擦材は、上記の樹脂結合材の調製で得られた、黒鉛と炭酸カルシウムを含有する樹脂結合材8.0質量部と共に、下記配合処方で乾式混合後、予備成形、熱成形、熱処理を行ない、摩擦材を作成した。
【0032】
(摩擦材配合処方)
結合材(樹脂) ・・・・ 8.0質量部
有機ダスト(摩擦調整材) ・・・・ 8.0質量部
硫酸バリウム(充填材) ・・・・ 36.5質量部
ジルコニア(研削材) ・・・・ 2.0質量部
黒鉛 (固体潤滑材) ・・・・ 5.5質量部
アラミドパルプ(補強繊維) ・・・・ 4.0質量部
チタン酸カリウム(研削材) ・・・・ 23.0質量部
銅繊維(補強繊維) ・・・・ 13.0質量部
【0033】
実施例2
実施例1で使用した表面処理済みの黒鉛15質量%含有する樹脂結合材を上記と同様な摩擦材配合処方に添加し、実施例1と同じ工程で摩擦材を作成した。
【0034】
比較例1
表面処理したフィラーを含有していない、実施例1で使ったフェノール樹脂を結合材をとして、上記と同様な配合処方で同様に摩擦材を作成した。
(性能試験)
作成した実施例1〜2及び比較例1の摩擦材は下記条件で摩耗試験し、摩耗量(mm)の温度依存性を測定した。測定結果を第1表に示す。
・相手材: 鋳鉄
・摩擦温度(相手材): 100℃、200℃、300℃、400℃
・摩擦回数: 500回
・減速度: 2.94m/S(0.3G)(一定)
【0035】
【表1】

【0036】
第1表に示された測定結果から、本発明の表面処理をした充填材(フィラー)を含有する樹脂結合材を使用した摩擦材は、高温(300〜400℃)における摩耗量が比較用の摩擦材に比べ約20%低下し、耐衝撃性(ヒートショック性)が著しく向上していることが分かった。その上、ブレーキノイズの発生率も減少している。又、平均摩擦係数は高温においても従来の摩擦材と同程度の数値を維持できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、高温における摩耗量が著しく少なく、耐衝撃性(ヒートショック性)も向上し、機械的強度や耐熟性等の特性が向上した摩擦材を提供できるので、自動車、鉄道車輌、各種産業機械等の制動に用いられるディスクブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等の摩擦材として利用範囲が拡大すると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも補強繊維、摩擦調整材、及び熱硬化性樹脂からなる結合材より構成してなる摩擦材において、表面改質されたフィラーを含む熱硬化性樹脂を結合材として用いたことを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
前記表面改質されたフィラーが黒鉛、炭酸カルシウムの少なくともいずれか一種を含むことを特徴とする請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記黒鉛が、表面酸化による酸素含有官能基導入後にシランカップリング剤処理されてなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摩擦材。
【請求項4】
前記炭酸カルシウムが、熱可塑性変性樹脂又は熱硬化性樹脂でコーティングされてなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摩擦材。

【公開番号】特開2008−37951(P2008−37951A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212065(P2006−212065)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】