説明

摩擦材

【課題】十分な母材強度を有するとともに、優れた高速効力とフェード特性を有する摩擦材を提供する。
【解決手段】繊維基材、摩擦調整材及び結合材を少なくとも含む摩擦材であって、摩擦調整材として、平均粒径3.5μm以上の、酸化鉄又はチタン酸カリウムを含有することを特徴とする摩擦材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速効力とフェード特性の向上した摩擦材に関し、特に自動車、鉄道車両、産業機械等のブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に用いられる摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキやドラムブレーキなどのブレーキ、或いはクラッチなどに使用される摩擦材は、補強作用をする繊維基材、摩擦作用を与え且つその摩擦性能を調整する摩擦調整材、及び、これらの成分を一体化する結合材などの材料からなっている。
摩擦材に摩擦作用を与え且つ摩擦性能を調整する材料として、一般に摩擦調整材、固体潤滑材、充填材等と呼ばれる種々の固体粉末状の材料が用いられている。これらはそれぞれの特徴があり、通常2種類以上のものを組み合わせて使用されている。
【0003】
このような摩擦調整材の一種として、酸化鉄が、モース硬度5.5〜6.5であり、相手材の鉄よりも若干硬いことから、弱研磨材として使用されてきている。特許文献1には、ブレーキ用摩擦材に粒径0.5μm以下の酸化鉄を1〜30体積%含有させることによって、鉄系のディスクロータとの軽い接触ではディスクロータを殆ど削らず、制動時の摩擦係数μが十分に大きく、高温履歴を受けた場合にも摩擦係数μが殆ど変化せずに制動効果を持続できることが記載されている。また、特許文献2には、モース硬度4〜6の3種以上の金属酸化物を合計で12体積%以上含有させることによって、低周波異音の発生を抑制し、ローター・ディスクパッドの摩耗量を少なくすることができ、摩擦係数μが高く、安定でバランスのとれた摩擦材を提供できることが記載されており、かかる金属酸化物として、実施例において、平均粒径0.6μm及びモース硬度6の黒酸化鉄が用いられている。
【0004】
一方、特許文献3には、粒径1〜100μmの磁性体を1〜50体積%含ませることで、耐熱性の低下原因となるゴムの添加や結合材樹脂の変性を行うことなく摩擦振動を減衰させることができ、耐熱性の確保と鳴きの抑制の両立が図れることが記載され、かかる磁性体の例として酸化鉄が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−273770号公報
【特許文献2】特開2005−8865号公報
【特許文献3】特開平8−85781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、摩擦調整材として酸化鉄を用いた従来の摩擦材においては、結合材である樹脂の量を従来通り且つ酸化鉄を十分な量用いようとすると、破壊摩耗によるフェードμ低下が引き起こされる問題があることが分かった。一方で、破壊摩耗抑制のために結合材である樹脂の量を多くすると、樹脂由来の発生ガス量が多くなり、その結果ガス潤滑特性が高くなるので、やはりフェードμが低下してしまうことも判明した。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、十分な母材強度を有するとともに、優れた高速効力とフェード特性を有する摩擦材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討の結果、従来、弱研削材として使用されていた酸化鉄の粒径が0.5μm程度と粒度が小さかったことに着目し、平均粒径が3.5μm以上の酸化鉄又はチタン酸カリウムを用いることにより、上記課題が解決されることを見出した。すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
【0009】
(1)繊維基材、摩擦調整材及び結合材を少なくとも含む摩擦材であって、摩擦調整材として、平均粒径3.5μm以上の、酸化鉄又はチタン酸カリウムを含有することを特徴とする摩擦材。
(2)結合材が、摩擦材全体の17体積%以下である、上記(1)記載の摩擦材。
(3)平均粒径3.5μm未満の摩擦調整材が、摩擦材全体の25体積%以下である、上記(1)又は(2)に記載の摩擦材。
【0010】
本発明者らは、粒度の小さい酸化鉄を多く用いると、結合材として使用している樹脂に対して表面積が大きくなり、高負荷試験において接合力不足による母材強度低下を引き起こし、その結果、破壊摩耗によるフェードμの低下を引き起こしていることを見出し、種々検討の結果、平均粒径3.5μm以上の酸化鉄を用いることにより、結合材の使用量を抑制しても母材強度を保ちつつ、十分な量の酸化鉄を用いることができ、その結果、破壊摩耗が緩和され、フェードμと高速効力の優れた摩擦材が得られることが判明した。更に、チタン酸カリウムについても同様の効果が得られることが判明し、本発明に到達したものである。
【0011】
なお、特許文献3には、摩擦振動を減衰させ、鳴きを抑制するための磁性体の一種として酸化鉄が用いられているが、特許文献1には、特許文献3の技術では酸化鉄が研削材としての効果を必要以上に発揮して、ディスクロータの回転振れ等による不均一摩耗を大きくし、ブレーキ振動を引き起こすと記載されており、粒径の大きい酸化鉄を研削材として使用することの不利益が記載されている。しかも、特許文献3の摩擦材は、多量の結合材を用いており、本発明の課題である高速効力とフェードμの向上について全く認識していない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、十分な母材強度を有し、優れた高速効力とフェードμを有する摩擦材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1、実施例2及び比較例1で得られた摩擦材の第1フェード平均μを示したグラフである。
【図2】実施例1、実施例2及び比較例1で得られた摩擦材の第1フェード瞬時最低μを示したグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の摩擦材は、少なくとも繊維基材、摩擦調整材及び結合材を含むものである。摩擦材には、摩擦材を補強する作用を有する繊維基材、摩擦材に含まれる材料を一体化させるための結合材とともに、摩擦材に摩擦作用を与え、且つその摩擦性能を調整するための種々の固体粉末材料が用いられており、場合によって、摩擦調整材、固体潤滑材、充填材等の名称で呼ばれている。本発明では、これらを特に区別することなく、繊維基材及び結合材以外の、摩擦材に摩擦作用を与え且つその摩擦性能を調整する固体粉末状の材料を、総称して「摩擦調整材」と称する。
【0015】
本発明で用いられる酸化鉄は、Feであっても、Feであってもよく、酸化鉄の粒径は3.5μm以上であればよく、好ましくは3.5μm〜20μmであり、より好ましくは3.5μm〜8μmである。酸化鉄の摩擦材全体における配合量は0.5〜15体積%であることが好ましく、5〜10体積%であることがより好ましい。また、本発明で用いられるチタン酸カリウムは、顆粒させたチタン酸カリウムであり、その一次粒子のメジアン径は3.5μm以上であればよく、好ましくは3.5μm〜20μmであり、より好ましくは3.5μm〜12μmである。チタン酸カリウムの摩擦材全体における配合量は5〜25体積%であることが好ましく、10〜20体積%であることがより好ましい。このような酸化鉄又はチタン酸カリウムを用いることにより、結合材の使用量を抑制しつつ、摩擦特性に十分な量の酸化鉄又はチタン酸カリウムを用いることができ、優れたフェードμと高速効力を得ることができる。
【0016】
本発明で用いられる繊維基材としては、特に限定されるものではなく、本分野で通常用いられるものが用いられる。例えば、芳香族ポリアミド繊維、耐炎化アクリル繊維等の有機繊維、銅繊維、スチール繊維等の金属繊維、チタン酸カリウム繊維やAl−SiO系セラミック繊維等の無機繊維が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。繊維基材の長さは100〜2500μm、直径は3〜100μmであることが好ましい。
繊維基材の配合量は、摩擦材全体に対して、好ましくは1〜30体積%、より好ましくは10〜20体積%である。
【0017】
本発明で用いられる結合材としては、通常摩擦材に用いられる公知のものを使用することができ、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、オイル変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂等の各種変性フェノール樹脂、NBR等の熱硬化性樹脂が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
結合材の配合量は、摩擦材全体に対して、好ましくは17体積%以下、より好ましくは14〜16体積%である。本発明により粒径が3.5μm以上の酸化鉄又はチタン酸カリウムを用いることにより、結合材の配合量を17体積%以下と低く抑えることができ、更に優れたフェードμと高速効力を達成することができる。
【0019】
本発明では、摩擦作用を与え且つその摩擦性能を調整するための摩擦調整材として、酸化鉄又はチタン酸カリウム以外に、種々の目的に応じて種々の摩擦調整材を用いることができ、通常摩擦材に用いられる、摩擦調整材、充填材、固体潤滑材等と呼ばれる種々の固体粉末材料を使用することができる。
【0020】
例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、硫化鉄、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、金属粉末(銅、アルミニウム、青銅、亜鉛等)、バーミキュライト、マイカ等の無機充填材、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化クロム等の無機摩擦調整材、各種ゴム粉末(ゴムダスト、タイヤ粉末等)、カシューダスト、メラミンダスト等の有機摩擦調整材、黒鉛、二硫化モリブデン等の固体潤滑材等を挙げることができる。これらは、製品に要求される摩擦特性、例えば、摩擦係数、耐摩耗性、振動特性、鳴き特性等に応じて、単独でまたは2種以上を組み合わせて配合することができる。
これらの摩擦調整材(酸化鉄又はチタン酸カリウムも含めて)の配合量は、摩擦材全体に対して、好ましくは53〜85体積%、より好ましくは64〜76体積%である。
【0021】
また、本発明では、これらの酸化鉄又はチタン酸カリウム以外の摩擦調整材の平均粒径も3.5μm以上であることが好ましく、摩擦調整材(結合材を除いた固体粉末材料)のうち、平均粒径が3.5μm未満の摩擦調整材の配合量は、摩擦材全体の25体積%以下であることが好ましく、20体積%以下であることがより好ましい。これにより、酸化鉄又はチタン酸カリウムの一次粒子のメジアン径を3.5μm以上としたことによる本発明の効果が更に有効に発揮され、使用する結合材の配合量を更に抑えることが可能となり、ガス潤滑によるフェードμ低下をより抑制することができる。
【0022】
本発明の摩擦材を製造するには、上記の繊維基材、摩擦調整材および結合材の所定量を配合し、その配合物を通常の製法に従って予備成形し、熱成形、加熱、研磨等の処理を施すことにより製造することができる。
【0023】
上記摩擦材を備えたブレーキパッドは、板金プレスにより所定の形状に成形され、脱脂処理およびプライマー処理が施され、そして接着剤が塗布されたプレッシャプレートと、摩擦材の予備成形体とを、熱成形工程において成形温度140〜170℃、成形圧力30〜80MPaで2〜10分間熱成形して両部材を一体に固着し、得られた成形品を150〜300℃の温度で1〜4時間アフタキュアを行い、最終的に仕上げ処理を施す工程により製造することができる。
【実施例】
【0024】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、平均粒径はレーザー回折粒度分布法により測定し、メジアン径は積算分布曲線の50%粒径の数値を用いた。
【0025】
実施例1及び2並びに比較例1及び2
表1で示すとおりの配合割合で原材料を混合し、成形温度150℃、成形圧力40MPaで成形し、その後250℃の温度で2時間アフタキュアを行い、摩擦材を作製した。
【0026】
【表1】

【0027】
なお、表1に示した原材料の平均粒径は下記の通りである。
・チタン酸カリウム(1)の平均粒径:2μm
・チタン酸カリウム(2)の平均粒径:8μm
・ジルコニア(1)の平均粒径1μm
・ジルコニア(2)の平均粒径100μm
【0028】
また、各材料の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、SALD−2000A)を使用して測定した。
【0029】
成形品として得られた上記実施例1、実施例2及び比較例2の各摩擦材のフェード試験の結果を図1及び図2に示し、その結果を下記表2にまとめた。また、高速効力試験の結果を表3に、フェード試験と高速効力実施後のパッド摩耗量の結果を表4にそれぞれ示す。なお、表3の高速効力試験において、低下率は、(液圧8MPa/2MPa)×100%で算出した。
【0030】
ここで、フェード特性及びパッドの摩耗量は、下記の通りにして測定した。
1)フェード特性
フェード試験は、JASO C406に準拠して行い、第1フェード試験時における最低μを測定した。
2)パッドの摩耗量の測定
JASO C406に準拠した130km/h高速効力試験終了時に、パッドの摩耗量を測定した。
【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
実施例1、実施例2及び比較例1の結果から、酸化鉄又はチタン酸カリウムの平均粒径が3.5μmより小さい場合には成形できなかった結合材(バインダー)配合量であっても、酸化鉄又はチタン酸カリウムの平均粒径を3.5μm以上とすることによって十分に成形可能となることが分かる。更に、酸化鉄又はチタン酸カリウムの平均粒径が3.5μmより小さい場合に、結合材(バインダー)の配合量を多くすることによって成形が可能となった比較例2と、実施例1及び2とを比較してみると、得られた成形品(摩擦材)のフェード特性及び高速効力は、本発明において格段と優れた効果が得られていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の摩擦材は、優れたフェード特性及び高速効力を有しており、自動車、大型トラック、鉄道車両、各種産業機械等のディスクパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材、摩擦調整材及び結合材を少なくとも含む摩擦材であって、摩擦調整材として、平均粒径3.5μm以上の、酸化鉄又はチタン酸カリウムを含有することを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
結合材が、摩擦材全体の17体積%以下である、請求項1記載の摩擦材。
【請求項3】
平均粒径3.5μm未満の摩擦調整材が、摩擦材全体の25体積%以下である、請求項1又は2に記載の摩擦材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−236332(P2011−236332A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108980(P2010−108980)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)