説明

摩擦材

【課題】ロータ温度400℃以上の高温域での摩擦材強度を向上させた摩擦材を提供すること
【解決手段】少なくとも繊維基材、結合材及び摩擦調整材を含む摩擦材であって、該摩擦調整材の一部として、アミノシランカップリング剤により処理が施された金属酸化物粒子を含む摩擦材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材に関するものであり、特に自動車、鉄道車両、産業機械などに用いられるディスクブレーキパッド、ブレーキライニング等の摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の車両の高性能化、高速化に伴い、ブレーキの役割は益々過酷なものとなっている。
特許文献1は、モース硬度5以上7未満の無機粉を摩擦材組成物全重量に対して7〜30重量%、モース硬度7以上の無機粉を摩擦材組成物全重量に対して0.5〜4重量%及び硫化錫を摩擦材組成物全重量に対して2〜10重量%含む、良好な摩擦係数を示し、かつメタルキャッチ発生や対面材表面の荒れを防止し、環境負荷の少ない摩擦材を提案している。
しかしながら、昨今の車両軽量化の動きの中で、摩擦材の高温強度向上が早急に必要となってきている。
摩擦材の組成物中に無機粉等の粒度の細かい原材料が存在する場合、材料の結合材への接着性が低下し、高温高負荷の状況にさらされると摩擦材強度は極端に落ち、摩擦材強度不足により摩耗増大やクラック、カケが発生し、ブレーキ機能を著しく低下させる危険がある。特に、ロータ温度400℃以上の高温域で強度が十分に確保される摩擦材が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−174705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ロータ温度400℃以上の高温域での摩擦材強度を向上させた摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の摩擦材は、少なくとも繊維基材、結合材及び摩擦調整材を含む摩擦材であって、該摩擦調整材の一部として、アミノシランカップリング剤により処理が施された金属酸化物粒子を含むものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、ロータ温度400℃以上の高温域での摩擦材強度を向上させるとともに同温度での摩擦材摩耗量を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本願発明の摩擦材は、アミノシランカップリング剤により処理が施された金属酸化物粒子を含むことを特徴とする。以下、アミノシランカップリング剤により処理が施された金属酸化物粒子を本願金属酸化物粒子ともいう。
本願発明は、摩擦調整材の一部に本願金属酸化物粒子を用いることで、本願金属酸化物粒子により、それ自身及び他の粉体と結合材との親和性、結合性乃至分散性が金属酸化物粒子表面に存在するアミノシランカップリング剤修飾物により増大し、上記本願発明の効果が発揮されるものと考えられる。
以下、本願発明の摩擦材について、各成分毎に記載する。
【0008】
(金属酸化物粒子)
本願金属酸化物粒子に用いられる金属酸化物粒子について説明する。
金属酸化物としては、上記本願発明の効果を発揮し得るものであれば、特に制限されない。金属酸化物の構成金属原子としては、例えば、Al、Zn、Si、Cr、Fe、Mg、Zr等が挙げられ、単独又は組み合わせて用いて独立した金属酸化物とすることができる。このような金属酸化物は単独又は組み合わせて用いてアミノシランカップリング剤により処理が施され、本願金属酸化物粒子とすることができる。金属酸化物粒子としては、アルミナ、ジルコニア、シリカ、クロマイト、酸化鉄、酸化クロム、酸化マグネシウム、及び珪酸ジルコニウムの少なくとも1種を含むことが好ましい。
金属酸化物粒子の形状としては、特に制限されず、針状、棒状、板状、立方体状、球状、楕円体状、断面が不定な形状等が挙げられる。金属酸化物粒子のサイズとしては、その平均粒子径が、通常、1〜150μm、好ましくは、1〜70μmである。本願明細書において、平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される値である。
また、金属酸化物粒子のモース硬度は、モース硬度5以上が好ましく、5〜13が更に好ましい。
本願金属酸化物粒子は、摩擦材全体中に0.5〜15.0体積%含有することが好ましく、2.0〜13.0体積%含有することが更に好ましい。
本願金属酸化物粒子は、上記金属酸化物の種類、形状、サイズの内、特定の好ましい範囲を採用することにより本願発明の効果をより有効に発揮させることができる。
【0009】
(アミノシランカップリング剤)
本発明において、本願金属酸化物粒子を得るために金属酸化物粒子をアミノシランカップリング剤(カップリング剤ともいう)で処理する方法としては、次の方法が挙げられる。
(1)直接処理法
(a)乾式法
(b)スラリー法
(c)スプレー法
(2)インテグラルブレンド法
(a)直接法
(b)マスターバッチ法
(3)DSC(Dry Silane Concentrate)法
上記(1)(a)の乾式法について以下、詳述するが、他の方法も基本的な原理は同様である。
以下、ヘンシェルミキサーまたはスーパーミキサーを用いる場合の乾式法の処理順序を説明する。
1)金属酸化物粒子に対し、0.5〜1.0質量%のカップリング剤を用いる。
2)カップリング剤を2〜5倍の水、又はアルコール水溶液(水/アルコールの比を1/9とする)に加え、完全に分散するまで混合する。
3)所定量の金属酸化物粒子をミキサーに入れる。
4)金属酸化物粒子を均一に攪拌しながら、上記のカップリング剤溶液を数分間にわたって添加する。
5)カップリング剤を全量添加してから、さらに5〜10分間攪拌混合する。
6)混合が終わったら、湿っている金属酸化物粒子を取り出し、浅いトレー(厚手のアルミ箔で作るとよい)に均一に広げる。
7)100〜150℃で1時間乾燥することにより、カップリング剤により処理が施された本願金属酸化物粒子を得る。
8)乾燥後、よくほぐしてから用いる。
【0010】
本願金属酸化物粒子は、その粒子表面に未反応のアミノシランカップリング剤、その加水分解物、その縮合物、並びにその加水分解物と金属酸化物との反応物の少なくとも1者以上が存在するものと考えられ、それらはアミノシランカップリング剤修飾物を構成する。当該修飾物は、金属酸化物粒子表面の少なくとも一部、好ましくは全部に被覆される。
当該修飾物の被覆量は、本発明の効果を得るために、アミノシランカップリング剤換算で金属酸化物粒子に対して、0.2〜2.0質量%が好ましく、0.5〜1.0質量%が更に好ましい。なお、アミノシランカップリング剤の使用量は、以下の式で求めることができる。
使用量(g)=金属酸化物粒子質量(g)×同比表面積(m/g)/アミノシランカップリング剤の最小被覆面積(m/g)
使用されるアミノシランカップリング剤は、反応性官能基として、アミノ基とアルコキシ基を有するものであれば、特に制限はないが、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、などが挙げられ、単独又は組み合わせて使用できる。
本願金属酸化物粒子に被覆されたアミノシランカップリング剤修飾物に存在するアミノ基、水酸基、アルコキシ基が、金属酸化物表面、結合材等に存在する官能基と反応乃至相互作用することにより、上記効果が発揮されるものと考えられる。該反応は摩擦材の加熱硬化時に促進されるものと考えられる。
【0011】
(繊維基材)
本発明に用いられる繊維基材としては、有機系でも無機系でもよく、例えば、有機系としては、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、ポリアクリル系繊維等が挙げられ、無機系としては、銅、スチール等の金属繊維、チタン酸カリウム繊維、Al−SiO系セラミック繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ロックウール等が挙げられ、各々単独、または2種以上組み合わせて用いられる。
本発明において、繊維基材は、摩擦材全体中、通常、2〜40体積%、好ましくは、5〜20体積%用いられる。
【0012】
(結合材)
本発明に用いられる結合材としては、フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂、ゴム等による各種変性フェノール樹脂を含む)、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。
本発明において、繊維基材は、摩擦材全体中、通常、10〜30体積%、好ましくは、14〜20体積%用いられる。
【0013】
(摩擦調整材)
本発明に用いられる本願金属酸化物粒子以外の摩擦調整材としては、例えば、アミノシランカップリング剤で処理されていない、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、ムライト、酸化クロム、ケイ酸ジルコニウム等の金属酸化物粒子、それら以外のモース硬度が5未満の金属酸化物、例えば、二酸化モリブデン等の金属酸化物、合成ゴム、カシュー樹脂等の有機物、銅、アルミニウム、亜鉛等の金属、バーミキュライト、マイカ等の鉱物、硫酸バリウム、、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム等の塩、黒鉛を挙げることができ、単独または2種以上組み合わせて用いることができる。これらは、粉体等で用いられ、粒径等は種々選定される。
本発明において、摩擦調整材は、摩擦材全体中、通常、30〜80体積%、好ましくは、60〜80体積%用いられる。ここで、摩擦調整材は、本願金属酸化物粒子を含む。
【0014】
本発明の摩擦材を製造するには、上記各成分を配合し、その配合物を通常の製法に従って予備成形し、熱成形、加熱、研摩等の処理を施すことにより製造することができる。
上記摩擦材を備えたブレーキパッドは、板金プレスにより所定の形状に成形され、脱脂処理及びプライマー処理が施され、そして接着剤が塗布されたプレッシャプレートと、上記摩擦材の予備成形体とを、熱成形工程において所定の温度及び圧力で熱成形して両部材を一体に固着し、アフタキュアを行い、最終的に仕上げ処理を施す工程により製造することができる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0016】
実施例1〜3、比較例1〜2
表1に示す組成(体積%)の摩擦材の配合材料を攪拌機にて均一に混合し、摩擦材混合物を得た。続いて摩擦材混合品を室温、圧力6MPaで予備成形した後、温度150℃、圧力9MPaで6.5分間加熱加圧成形し、次いで温度250℃、締め付け3920Nで3.5時間熱処理し、摩擦材を得た。得られた摩擦材を以下により評価した。
1)400℃せん断強度:上記摩擦材のテストピース(サイズ:30×10×厚み4.8mm)を作製し、JIS D4422に準拠して実施した。
2)400℃摩擦材摩耗量:JASO C427に準拠し、ダイナモ試験機で400℃での摩耗試験を実施した。
【0017】
【表1】

【0018】
なお、表中、ジルコニア(処理品)は、平均粒子径3.0μmのジルコニアに対してアミノシランカップリングとして、3−アミノプロピルトリエトキシシランを用いて前記乾式法にて被覆処理したものである。ジルコニア(無処理)は、上記被覆処理をすることなく上記ジルコニアそのものを用いたものである。
上表より、ジルコニア(処理品)を用いた実施例は、ジルコニア(無処理)を用いた比較例に比べて400℃でのせん断強度が高くかつ摩擦材摩耗量が小さいことから、ロータ温度400℃以上の高温域での強度を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも繊維基材、結合材及び摩擦調整材を含む摩擦材であって、該摩擦調整材の一部として、アミノシランカップリング剤により処理が施された金属酸化物粒子を含む摩擦材。
【請求項2】
前記金属酸化物粒子は、モース硬度が5以上である、請求項1の摩擦材。
【請求項3】
前記処理が施された金属酸化物粒子は、摩擦材全体中に0.5〜15.0体積%含有する、請求項1又は2の摩擦材。
【請求項4】
前記金属酸化物粒子は、アルミナ、ジルコニア、シリカ、クロマイト、ムライト、酸化鉄、酸化クロム、酸化マグネシウム、及び珪酸ジルコニウムの少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれか1項の摩擦材。

【公開番号】特開2011−252130(P2011−252130A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128716(P2010−128716)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】