説明

摩擦材

【課題】高い効き(高摩擦係数)と高寿命(耐摩耗性)とを両立できる摩擦材を提供する。
【解決手段】摩擦材に、チタン酸化合物と酸化セリウムとを含有させ、当該酸化セリウムの平均粒径を1μm以下とする。化学的に安定な金属酸化物として、平均粒径が1μm以下の酸化セリウムをチタン酸化合物と共に含有させておくことにより、表面に形成する被膜を緻密な組織とすることができる摩擦材。酸化セリウムを摩擦材に1〜15体積%の範囲で含有させることにより、生成する被膜の組織をより緻密にすることができ、チタン酸化合物を摩擦材に3〜20体積%の範囲で含有させることにより、生成する被膜を比較的剥がれ難いものとすることができると共に、その被膜自体を形成し易くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等のブレーキ等に使用される摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等のブレーキパッドやブレーキシュー等に使用される摩擦材には、高い効き(高摩擦係数)と高寿命(耐摩耗性)との両立が求められている。特に近年では、大型乗用車(ミニバン)の普及やブレーキシステムの小型軽量化に伴い、摩擦材におけるこのような特性がますます求められるようになってきている。
【0003】
この種の摩擦材としては、繊維基材と摩擦調整剤とを熱硬化性樹脂で結合してなる摩擦材において、摩擦調整剤の一部として平均粒径が2〜20μmの希土類の酸化物を摩擦材全量に対して1〜20体積%添加したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような摩擦材では、アブレーシブ材として用いる希土類の酸化物のモース硬度が6であり、従来多用されているモース硬度7以上のアブレーシブ材に比べてその硬度が低いため、相手材(ローター)への攻撃性を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3509307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された摩擦材では、アブレーシブ材の硬度、粒径、添加量等の関係においては適した条件を設定しているものの、高い効き(高摩擦係数)と高寿命(耐摩耗性)とを両立するという観点では不十分であり、さらなる性能の向上が求められていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高い効きと高寿命とを両立できる摩擦材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一般に、摩擦材と相手材との摩擦状態としては、摩擦材が相手材を引っかくことによって生じる摩擦状態であるアブレーシブ摩擦と、摩擦材の表面に形成された摩擦生成物による被膜が相手材と移着・せん断破壊によって生じる摩擦状態である凝着摩擦とがある。アブレーシブ摩擦では相手材の表面は常に削り取られる。一方、凝着摩擦では形成した被膜によって摩擦面を保護できるが、効きの低下を招き易い。
【0008】
このような状況の中、本発明者らは、高寿命の観点から、摩擦面を被膜によって保護できる凝着摩擦に着目し、摩擦材に形成される被膜の生成過程や被膜組織の状態等を調査すると共に検討を行った。その結果、本発明者らは、摩擦生成物による被膜を形成し得る摩擦材に、化学的に安定な微細な金属酸化物を予め添加しておくことで、摩擦材の表面に形成される被膜が緻密な組織となり、摩擦材の効きの低下を招くことなく摩耗量を低減できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
即ち、上記目的を達成するための本発明に係る摩擦材の第1特徴構成は、チタン酸化合物と酸化セリウムとを含有し、当該酸化セリウムの平均粒径を1μm以下とする点にある。
【0010】
本構成のように、摩擦材にチタン酸化合物を含有させることで、相手材との摩擦によって生成する被膜を摩擦材の表面に形成することができる。そして、化学的に安定な金属酸化物として、平均粒径が1μm以下の酸化セリウムをチタン酸化合物と共に摩擦材に含有させておくことにより、摩擦材の表面に形成する被膜を緻密な組織とすることができる。このため、本構成による摩擦材は、高い効き(高摩擦係数)と高寿命(耐摩耗性)との両立を実現することができる。
【0011】
本発明に係る摩擦材の第2特徴構成は、前記酸化セリウムを1〜15体積%の範囲で含有する点にある。
【0012】
本構成のように、酸化セリウムを摩擦材に1〜15体積%の範囲で含有させることにより、生成する被膜の組織をより緻密にすることができる。このため、高い効きと高寿命とをより高いレベルで両立させることができる。
【0013】
本発明に係る摩擦材の第3特徴構成は、前記チタン酸化合物を3〜20体積%の範囲で含有する点にある。
【0014】
本構成のように、チタン酸化合物を摩擦材に3〜20体積%の範囲で含有させることにより、生成する被膜を比較的剥がれ難いものとすることができると共に、その被膜自体を形成し易くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る摩擦材は、チタン酸化合物と酸化セリウムとを含有し、当該酸化セリウムの平均粒径を1μm以下とするものである。この摩擦材によれば、高い効きと高寿命とを両立させることができる。
【0016】
摩擦材に含有させるチタン酸化合物としては、特に限定されないが、チタン酸アルカリ金属塩、チタン酸アルカリ金属・第二族塩等が挙げられ、例えば、チタン酸リチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等が挙げられる。チタン酸化合物は、摩擦材に対し、例えば、3〜20体積%の範囲で含有することが好ましく、8〜20体積%の範囲で含有させることがより好ましい。これにより、摩擦材の表面に形成する被膜を比較的剥がれ難いものとすることができると共に、その被膜自体を形成し易くすることができる。
【0017】
摩擦材に含有させる酸化セリウムとしては、平均粒径が1μm以下のものを用いる。添加する酸化セリウムの平均粒径が1μmよりも大きくなると、摩擦材に表面における被膜の生成・緻密化が阻害され、このような摩擦材の摩擦状態はアブレーシブ摩擦となる。このため、摩擦材の相手材への攻撃性が増し、特に寿命(耐摩耗性)が低下することになる。酸化セリウムの平均粒径は、1μm以下であれば特に限定はされないが、小さくなり過ぎるとコストが高くなること及びパッドの成型性が悪化することから0.4μm以上であることが好ましい。
【0018】
酸化セリウムは、特に制限はないが、摩擦材に対し、例えば、1〜25体積%の範囲で含有させることが好ましい。酸化セリウムの含有割合が少なくなり過ぎると酸化セリウムの影響が小さくなるため、被膜の組織の緻密化が難くなる。また、酸化セリウムの含有割合が多くなり過ぎると被膜が生成し難くなり、摩擦材の摩擦状態がアブレーシブ摩擦となる傾向にある。このような観点から、酸化セリウムは、摩擦材に対し、1〜15体積%の範囲で含有させることがより好ましい。
【0019】
本発明に係る摩擦材を構成するその他の材料としては、特に限定されないが、例えば、金属系繊維、無機系繊維、有機系繊維等の繊維基材や金属チップ等の基材、充填材、結合材等、一般に摩擦材に使用されるものが適用できる。金属系繊維としては、銅、真鍮、鉄等、無機系繊維としては、ガラス繊維やセラミックス繊維等、有機系繊維としては、アラミド繊維等が例示される。充填材としては、カシューダスト等の有機充填材、珪酸ジルコニウム、マイカ、硫酸バリウム、硫化アンチモン、水酸化カルシウム、黒鉛等の無機充填材、金属粉等が例示される。結合材としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が例示される。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明に係る摩擦材を用いた実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
実施例1〜6及び比較例1〜6として、表1及び2に示す原料、配合組成により作製した摩擦材をブレーキパッドに用い、酸化セリウム(CeO2)の粒径、配合割合(硫酸バリウムとの割合で調整)を変えた場合のパッドの成型性、走行シミュレーション摩耗試験、低面圧のローター攻撃性、及び被膜の緻密度について調べた。
パッドの成型性については、良好を○、使用可能を△、好ましくないを×と判定した。
走行シミュレーション磨耗試験としては、ロサンゼルス(L.A.)の市街地走行を模擬した台上試験機による試験(通称LACTシミュレーション試験)を行い、パッド推定寿命(パッド摩耗量と相関する)(km)、平均摩擦係数、ローター摩耗量(g)を調べた。ここでは、下記の基準にて判定した。
パッド推定寿命
○:22000km以上、△:20000km以上22000km未満、×:20000km未満
平均摩擦係数
○:0.41以上、△:0.39以上0.41未満、×:0.39未満
ローター摩耗量
○:5g未満、△:5g以上10g未満、×:10g以上
また、低面圧のローター攻撃性を調べるため、JASO C406に従って相手材(鋳鉄製ディスクローター)に摩擦材を低面圧(0.5MPa)で押圧して制動させ、制動試験後における相手材の摩耗量を測定し、制動回数1000回あたりの摩耗量を換算し、下記の基準によって判断した。
低面圧のローター摩耗量
○:6μm未満、△:6μm以上10μm未満、×:10μm以上
また、被膜の緻密度については、摩擦材の摩擦面から試料を切り出し、精密機械研磨及びイオンミリングを実施したうえで走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて断面観察を行った。緻密度については、被膜の粒界が所定の基準に対して多いものを×、少ないものを○と判定した。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
その結果、実施例1〜6では、表3に示すように、いずれの試験も△以上であり、高い効きと高寿命とを両立できていることが分かった。これに対し、比較例1〜6では、表4に示すように、いずれかの試験で×となるものがあり、高い効きと高寿命とを両立できるものはなかった。特に比較例6から、平均粒径1μmの酸化セリウムを配合していても、チタン酸化合物を含まない場合には良好な性能が得られないことが分かった。
また、パッドの成型性については、酸化セリウムの平均粒径が小さくなると、また酸化セリウムの配合割合が多くなると、低下する傾向にあることが分かった。
摩擦材の摩擦面に形成された被膜の緻密度については、実施例ではいずれも粒界が少なく、緻密であることが確認できた。
【0025】
以上により、本実施例に係るブレーキ用パッドでは、チタン酸化合物と共に平均粒径が0.3〜1.0μmの酸化セリウムを、摩擦材に対して1〜25体積%の範囲で含有させることにより、効きを低下させることなく、高寿命化できることが分かった。そして、その性能は、平均粒径が0.4〜1.0μmの酸化セリウムを、摩擦材に対して1〜15体積%の範囲で含有させた場合に、特に良好であることが分かった。
【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係る摩擦材は、例えば、車両用等のブレーキパッド、ブレーキシュー等に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸化合物と酸化セリウムとを含有し、当該酸化セリウムの平均粒径が1μm以下である摩擦材。
【請求項2】
前記酸化セリウムを1〜15体積%の範囲で含有する請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記チタン酸化合物を3〜20体積%の範囲で含有する請求項1または2に記載の摩擦材。

【公開番号】特開2013−112712(P2013−112712A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258330(P2011−258330)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)