説明

摩擦材

【課題】摩擦材の補強材として作業環境衛生上好ましくないウィスカー状のフィラーを使用することなく、また、自然環境上好ましくない銅成分を含有することなく、錆落とし性及び摩擦材強度に優れた、特に高温域での摩擦材強度が向上した摩擦材を得る。
【解決手段】複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の少なくとも1種と、生体溶解性無
機繊維とを含有する摩擦材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車、鉄道車両、産業機械等のブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に用いられる摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキやドラムブレーキなどのブレーキ、或いはクラッチなどに使用される摩擦材は、補強作用をする繊維基材、摩擦作用を与え且つその摩擦性能を調整する摩擦調整材、及び、これらの成分を一体化する結合材などの材料からなっている。
しかしながら、昨今の車両の高性能化、高速化に伴い、ブレーキの役割は益々過酷なものとなってきており、また、該車両軽量化の動きの中で、摩擦材の高温強度向上が早急に必要となってきている。
【0003】
従来の摩擦材においては、その強度を高めるために補強フィラーが使用されてきたが、作業環境衛生上の要請から、非ウィスカー状のフィラーや、生体溶解性の無機繊維を用いる技術が知られている。例えば、特許文献1には、非ウィスカー状のチタン酸化合物と生体溶解性の無機繊維を含有する摩擦材が、特許文献2には、生体溶解性の無機繊維を特定含有量かつ特定のモース硬度で規定した摩擦材が記載されている。
【0004】
ここでフィラーとは、例えばJISのプラスチック部門では、「強さ、耐久性、作業特性又はその他の性能を改質するため、又は価格を引下げるためにプラスチックに加える比較的不活性な固体材料。」(JIS K6900より引用)と記載されている。フィラーの分類は通常は化学組成別(例えば酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、窒化物、炭素類、有機物、チタン酸化合物、各種金属粉等)、形状別(例えば、繊維状、針状、板状、鱗片状、球・粒状等)、用途別(例えば、増量用、補強用、熱伝導率性、制振性、摺動性、難燃性等)に分類され、摩擦材の分野でもフィラーは繊維基材や摩擦調整材として使用されている。
【0005】
一方、不規則な方向に複数の突起(凸部)が延びる形状を有する不定形のチタン酸カリウムが、摩擦材の補強性能を有する摩擦調整材として知られている(特許文献3)。
【0006】
また、現在、一般的なNAO(Non-Asbestos Organic)の摩擦材には、銅繊維や銅粉が20重量%程度まで含まれており、このような銅成分は摩擦材の強度補強や摩擦係数向上、さらに400℃以上での摩擦係数の維持や放熱効率の向上、耐摩耗性に有効である。また、スチール繊維と異なり、相手材(ディスクロータ)の摩耗量を増やしたりする相手材攻撃性が小さい、錆を発生することが少ないなどの特徴がある。ところが、特許文献4に記載されるように摩擦材中に含まれる銅成分は、ブレーキ制動により摩耗粉として放出され、自然環境への影響が指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−277418号公報
【特許文献2】特開2009−91422号公報
【特許文献3】国際公開第2008/123046号
【特許文献4】特開2010−285558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、生体溶解性の無機繊維を用いても、チタン酸化合物によって得られる高い耐磨耗性をほとんど阻害することがないと記載されているが、ウィスカー状フィラーの代わりに板状や鱗片状フィラーが使用されているため、ウィスカー状フィラーを使用するのと比較し、高温高負荷において、摩擦材強度不足により摩耗増大やクラック、カケが発生し、ブレーキ機能を低下させる可能性があった。特に、ロータ温度400℃以上の高温域で強度が十分に確保される摩擦材が望まれている。
【0009】
また、特許文献2に記載されるように、生体溶解性無機繊維を用いると、生体非溶解性の無機繊維を用いたときに比して、相手材(ディスクローター)の錆落とし時の摩擦材の摩耗が多く錆落とし性に劣るという問題があった。
したがって本発明は、作業環境衛生や自然環境に配慮し、錆落とし性及び摩擦材強度に優れた、特に高温域での摩擦材強度を向上させた摩擦材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、下記の構成からなるものである。
(1)複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の少なくとも1種と、生体溶解性無機繊維を含有する摩擦材。
(2)生体溶解性無機繊維が、化学組成として二酸化ケイ素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)及び酸化ストロンチウム(SrO)のうちの少なくとも1種を含有する、前記(1)記載の摩擦材。
(3)生体溶解性無機繊維を0.5〜25体積%含有する、前記(1)又は(2)記載の摩擦材。
(4)複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の少なくとも1種を2〜35体積%含有する、前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の摩擦材。
(5)銅成分を含有しない、前記(1)記載の摩擦材。
【0011】
本発明は、板状や鱗片状のチタン酸化合物の代わりに複数の凸部形状を有するチタン酸化合物を用い、生体溶解性無機繊維と組み合わせて用いることにより、従来の板状や鱗片状チタン酸化合物では課題となっていた摩擦材強度を格段に向上すると共に、生体溶解性無機繊維において課題となっていた錆落とし性をも十分に改良し、両者の成分の組合せによってこれらの性能が格段に改良されることを見出し、本発明に至ったものである。これは、本発明に用いる複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の形状に着目すると、板状や鱗状のチタン酸化合物に比べ、その凸部形状によって、相手材(ディスクロータ)との摩擦の過程で生体溶解性無機繊維の3次元網目構造中に引っかかり定着しやすく、脱落しにくいため、結果として、チタン酸化合物の材料自体の耐摩耗性が持続しやすく、板状や鱗片状のチタン酸化合物を使用した従来の摩擦材と比べて相手材(ディスクロータ)の錆落とし時の摩擦材の摩耗が少なく、錆落とし性が改善されたものと推測される。また、本発明の特定形状のチタン酸化合物が上述のように脱落しにくいため、本発明の摩擦材は銅成分を含まずとも、400℃以上という高温域でも摩擦材強度が低下せず、耐摩耗性を示すと考えられる。なお、ここで、「銅成分を含まない」とは、銅繊維、銅粉、並びに銅を含んだ合金(真鍮又は青銅等)及び化合物を摩擦材の原材料として含んでいないことを言う。
【発明の効果】
【0012】
したがって本発明によれば、摩擦材の補強材として作業環境衛生上好ましくないウィスカー状のフィラーを使用することなく、錆落とし性及び摩擦材強度に優れた摩擦材が得られる。特にロータ温度400℃以上の高温域での摩擦材強度を向上させることができる、作業環境衛生や自然環境に配慮した優れた摩擦材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に用いる複数の凸部形状を有するチタン酸化合物を説明するための投影図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明の摩擦材は、複数の凸部形状を有するチタン酸化合物と、生体溶解性無機繊維とを含むことを特徴とする。以下、本願発明の摩擦材について詳述する。
【0015】
[摩擦調整材]
(複数の凸部形状を有するチタン酸化合物)
本発明は、複数の凸部形状を有する、チタン酸化合物の少なくとも1種を含む。本発明におけるチタン酸化合物とは、粒子の3次元形状が複数の凸部を有することを意味する。ここで、複数の凸部形状を有するとは、本発明のチタン酸化合物の平面への投影形状が少なくとも通常の多角形、円、楕円等とは異なり2方向以上に凸部を有する形状を取りうるものであることを意味する。具体的にはこの凸部とは、電子顕微鏡による写真(投影図)に多角形、円、楕円等(基本図形)を当てはめ、それに対して突出した部分に対応する部分を言う。本発明のチタン酸化合物1の投影図としては、例えば、図1に記載のものが例示され、凸部は2で示される。本発明のチタン酸化合物の具体的3次元形状としては、ブーメラン状、十字架状、アメーバ状、種々の動植物の部分(例えば、手、角、葉等)又はその全体形状、あるいはそれらの類似形状、金平糖状、等が挙げられる。
【0016】
本発明のチタン酸化合物としては、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸リチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等を挙げることができ、単独または2種以上で組み合わせて用いることができる。中でも、摩擦材の配合材料として使用する場合、摩擦材のマトリックスを構成する樹脂(結合材)の劣化を起こすことがあるアルカリ金属イオンの溶出が少ない六チタン酸カリウム、八チタン酸カリウム、六チタン酸ナトリウムが好ましい。
本発明のチタン酸化合物の平均粒子径は、1〜50μmが好ましく、5〜20μmが更に好ましい。
【0017】
本発明の複数の凸部形状を有するチタン酸化合物は、公知の無機摩擦調整材であり、例えば、国際公開第2008/123046号公報に記載の方法により得ることができる。例えば、通常形状のチタン酸カリウムを構成する原子の酸化物、塩等をヘンシェルミキサーで混合し、次いで振動ミルによりメカノケミカルに粉砕しながら混合することで、反応活性の高い混合物とし、これを焼成することで、本発明の特定形状のチタン酸カリウムを製造することができる。
本発明の複数の凸部を有するチタン酸化合物は、摩擦材全体中に2〜35体積%含有することが好ましく、10〜20体積%含有することが更に好ましい。2体積%以上において、本発明の効果を十分に得ることができる。また、35体積%以下において、十分なパッドの圧縮変形量が得られ、良好な振動特性を得ることができる。
【0018】
(その他の摩擦調整材)
本発明に用いられる摩擦調整材としては、例えば、上記チタン酸カリウム以外のアルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化クロム、二酸化モリブデン、ケイ酸ジルコニウム等の金属酸化物、合成ゴム、カシュー樹脂等の有機物ダスト、銅、アルミニウム、錫等の金属、バーミキュライト、マイカ等の鉱物、本発明のチタン酸化合物以外の板状、鱗片状、粉状のチタン酸カリウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を挙げることができ、単独または2種以上組み合わせて用いることができる。これらは、粉体等で用いられ、粒径等は種々選定される。ただし本発明では、上記のとおり自然環境への配慮の観点から、銅成分を含んでいないことが好ましい。
本発明において、摩擦調整材(本発明の複数の凸部を有するチタン酸化合物も含めて)は、摩擦材全体中、通常、30〜80体積%、好ましくは、60〜80体積%用いられる。
【0019】
[繊維基材]
(生体溶解性無機繊維)
本発明では、繊維基材として生体溶解性無機繊維を用いる。本発明における生体溶解性無機繊維は、人体内に取り込まれた場合でも短時間で分解され体外に排出される特徴を有する無機繊維であり、化学組成がアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物総量(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムの酸化物の総量)が18質量%以上でかつ、呼吸による短期バイオ永続性試験で、20μm以下の繊維の質量半減期が10日以内又は気管内注入時の短期バイオ永続性試験で、20μm以上の繊維の質量半減期が40日以内、又は腹膜内試験で過度の発癌性の証拠が無いか又は長期呼吸試験で関連の病原性や腫瘍発生が無いことを満たす無機繊維を意味する(EU指令97/69/ECのNote Q(発癌性適用除外))。
【0020】
このような生体溶解性無機繊維は、化学組成として、SiO、MgO及びSrOのうちの少なくとも1種を含むものが好ましく、具体的にはSiO−CaO−MgO系繊維やSiO−CaO−MgO−Al系繊維、SiO−MgO−SrO系繊維等の生体溶解性セラミック繊維や生体溶解性ロックウール等が挙げられる。本発明においては、アルミナシリカ繊維と同等な優れた耐熱性を有し、さらに優れた生体溶解性及び耐水性を有する点で、SiO−MgO−SrO系繊維が好ましい。また、これらの生体溶解性無機繊維は、無機繊維の原料を一般に使用される溶融紡糸法等により繊維化して製造される。
【0021】
SiO−CaO−MgO系繊維、SiO−CaO−MgO−Al系繊維、SiO−MgO−SrO系繊維等の生体溶解性セラミック繊維、生体溶解性ロックウールとして、市販のロックウール RB220-Roxul1000(ラピナス社製)、ファインフレックス−E バルクファイバーT(ニチアス社製)、BIOSTARバルクファイバー(ITM社製)等が使用可能である。
【0022】
本発明の生体溶解性無機繊維は、繊維径0.1〜10μm、繊維長1〜1000μmであることが好ましく、繊維径0.2〜6μm、繊維長10〜850μmであることが更に好ましい。この範囲で、本発明の効果を有効に発揮することができる。また、本発明の生体溶解性無機繊維は一般に、製造過程で繊維にならなかったショット(粒状物)を発生し、これらのショットが繊維中に含まれている。本発明の生体溶解性無機繊維中のショット含有量は0.1〜70%であることが好ましい。なお、本発明の生体溶解性無機繊維とショットを製造過程で分離し、任意の比率で配合し使用することも可能である。
【0023】
生体溶解性無機繊維としては、上記定義内であれば特に制限されない。また、本発明の生体溶解性無機繊維は、その表面にシランカップリング剤等により表面処理が施されていてもよい。
生体溶解性無機繊維含有量は、摩擦調整材全体に対して0.5〜25体積%が好ましく、1〜20体積%が更に好ましい。この範囲において、十分良好な錆落とし性と摩擦材強度を得ることができる。
【0024】
(その他の繊維基材)
本発明では、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の繊維基材を併用することができる。本発明で用いることができる繊維基材としては、有機系でも無機系でもよく、例えば、有機系としては、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、ポリアクリル系繊維等が挙げられ、無機系としては、銅、スチール等の金属繊維、チタン酸カリウム繊維、Al−SiO系セラミック繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ロックウール等が挙げられ、各々単独、または2種以上組み合わせて用いられる。ただし本発明では、上記のとおり自然環境への配慮の観点から、銅繊維等の銅成分を含んでいないことが好ましい。
本発明において、繊維基材(生体溶解性無機繊維も含めて)は、摩擦材全体中、通常、2〜35体積%、好ましくは、9〜28体積%用いられる。
【0025】
[結合材]
本発明に用いられる結合材としては、フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂、ゴム等による各種変性フェノール樹脂を含む)、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。
本発明において、結合材は、摩擦材全体中、通常、10〜30体積%、好ましくは、14〜20体積%用いられる。
【0026】
[摩擦材の製造]
本発明の摩擦材を製造するには、上記各成分を配合し、その配合物を通常の製法に従って予備成形し、熱成形、加熱、研摩等の処理を施すことにより製造することができる。
上記摩擦材を備えたブレーキパッドは、板金プレスにより所定の形状に成形され、脱脂処理及びプライマー処理が施され、そして接着剤が塗布されたプレッシャプレートと、上記摩擦材の予備成形体とを、熱成形工程において所定の温度及び圧力で熱成形して両部材を一体に固着し、アフタキュアを行い、最終的に仕上げ処理を施す工程により製造することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0028】
実施例1〜9
表1に示す組成(体積%)の摩擦材の配合材料を混合機にて均一に混合し、摩擦材混合物を得た。続いて摩擦材混合物を室温、圧力6MPaで予備成形した後、温度140〜170℃、成形面圧30〜80MPaで5分間加熱加圧成形し、次いで温度150〜300℃、締め付け980〜7840Nで1〜4時間熱処理し、摩擦材を得た。得られた摩擦材を以下により評価した。
【0029】
1)錆落とし性
下記に示す手順によって行った。
(a)5質量%の塩水溶液をディスクロータに噴霧する。
(b)上記(a)のディスクロータをJIS D4419に準拠して温度50℃±1℃、湿度95±1%に保たれた恒温恒湿槽にて3時間15分放置し、その後70±1℃、湿度15±1%の条件で2時間30分乾燥した。
(c)上記(b)の操作を錆厚み70μmになるまで繰り返した。
(d)上記(c)の錆付きロータをJASO C427に準拠したすり合わせ条件で制動した。
(e)制動回数100回目における錆落とし率にて、錆落とし性を評価した。
上記のようにして測定した錆落とし性が90%以上を◎、80%以上90%未満を○、70%以上80%未満を△、70%未満を×として評価した。
【0030】
2)400℃摩擦材摩耗性:JASO C427に準拠し、ダイナモ試験機で400℃での摩耗試験を実施した。
上記のようにして測定した400℃摩擦材摩耗量(単位:mm)が、1.0未満を◎、1.0以上1.5未満を○、1.5以上2.0未満を△、2以上を×として評価した。
【0031】
3)400℃せん断強度:上記摩擦材のテストピース(30×10×厚み4.8mm)を作製し、JIS D4422に準拠して実施した。
上記のようにして測定した400℃せん断強度(単位:kN)が、2.0以上を◎、1.5以上2.0未満を○、1.0以上1.5未満を△、1.0未満を×として評価した。
【0032】
4)作業環境性:摩擦材製造作業者の体内への影響を考えた場合、無機繊維であっても生体溶解性であれば望ましく、また、非ウィスカー状の摩擦調整材をさらに使用するのであれば尚更好ましい。人体への影響が少ない配合材料を繊維基材と摩擦調整材の両方において使用する場合は◎、繊維基材または摩擦調整材のどちらか一方で使用する場合は△として評価した。
【0033】
比較例1〜3及び参考例1
実施例2において、用いた生体溶解性無機繊維及びチタン酸カリウムの代わりに、それぞれ表2に示すとおりに非生体溶解性無機繊維及び/又は板状チタン酸カリウムを用いた以外は、実施例2と同様にして、比較例1〜3及び参考例1の摩擦材を得た。なお、参考例1は、生体溶解性無機繊維及びチタン酸カリウムの代わりに銅繊維及び板状チタン酸カリウムを用いたものであり、従来の一般的な銅成分を含む摩擦材に相当するものである。
【0034】
これらの結果を、表1〜表3に併せて示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
なお、表中、「チタン酸カリウム」は、平均粒子径10μmの本発明の複数の凸部形状を有するチタン酸カリウム(大塚化学(株)製「TERRACESS JP」)であり、「板状チタン酸カリウム」は、平均粒子径10μmの板状粒子(株式会社クボタ製「TXAX−MA」)であり、本発明のチタン酸カリウムとは異なるものである。また、表中、生体溶解性繊維は、ショット含有量60%のSiO−MgO−SrO系の生体溶解性繊維(株式会社ITM社製、Biostar200/50)であり、非生体溶解性繊維は、新日本サーマルセラミックス(株)製、セラミクスファイバーSCバルク1400である。
【0039】
上記の結果から、本発明の摩擦材(実施例1〜9)は、比較例1〜3に比べて、錆落とし性、耐摩耗性及び作業環境衛生の全ての点で優れた結果が得られることが分かる。特に表3の結果から、板状チタン酸カリウムを用いた場合には、生体溶解性または非生体溶解性無機繊維を用いた場合に高温度領域での摩擦材強度が低下しているのに対して(比較例1と比較例3)、本発明のチタン酸カリウムを用いた場合には、生体溶解性無機繊維を用いることにより、むしろ高温度領域での摩擦材強度が向上していることが分かる。そして、参考例1との比較から、本発明の摩擦材(実施例1〜9)は、銅成分を含有していないにもかかわらず、錆落し性、耐摩耗性及び作業環境衛生の全てにおいて、従来一般的な銅成分を含む摩擦材と同等の優れた結果が得られていることが分かる。
したがって、本発明によれば、複数の凸部形状を有するチタン酸化合物を用い、更に生体溶解性無機繊維を用いているにもかかわらず、錆落とし性が良好で、高温度領域における耐摩耗性及び摩擦材強度を有する、優れた摩擦材を得ることができる。
【符号の説明】
【0040】
1…本発明のチタン酸化合物
2…凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の少なくとも1種と、生体溶解性無機繊維を含有する摩擦材。
【請求項2】
生体溶解性無機繊維が、化学組成として二酸化ケイ素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)及び酸化ストロンチウム(SrO)のうちの少なくとも1種を含有する、請求項1記載の摩擦材。
【請求項3】
生体溶解性無機繊維を0.5〜25体積%含有する、請求項1または2記載の摩擦材。
【請求項4】
複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の少なくとも1種を2〜35体積%含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の摩擦材。
【請求項5】
銅成分を含有しない、請求項1記載の摩擦材。

【図1】
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【公開番号】特開2013−76058(P2013−76058A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−158743(P2012−158743)
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】