説明

摩擦点接合方法

【課題】鋼製部材と軽金属製部材の固相状態での点接合強度を高めると共に、接合部の接触腐食に対する耐食性を確実に確保することができる摩擦点接合方法を提供する。
【解決手段】Zn−Fe合金メッキ鋼板19とアルミニウム合金板17との間に接着剤層20を介在させて重ね合わせ、接着剤層20が加熱され、接着剤層20の粘度が低下した温度域に達した後、回転ツール7を回転させながらアルミニウム合金板17の接合部をZn−Fe合金メッキ鋼板19側に押圧し、この回転ツール7の押圧により粘度が低下した状態の接着剤層21が接合部の外周側へ押出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製部材と軽金属製部材を重ね合わせて点接合する摩擦点接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミニウム製部材と鋼製部材の接合方法においては、アルミニウム製部材と鋼製部材とを摩擦熱を利用して接合する摩擦点接合方法が知られている。この摩擦点接合方法においては、アルミニウム製部材と鋼製部材とを重ね合わせた状態で、摩擦点接合装置の回転ツールを回転させながらアルミニウム製部材に押圧して摩擦熱を発生させ、アルミニウム製部材の接合部を軟化させ塑性流動を生じさせてアルミニウム製部材と鋼製部材の接合部を固相状態で点接合する。
【0003】
ところで、アルミニウム製部材と鋼製部材の異種金属部材を摩擦点接合した場合、その接合部に水が付着すると接触電位差により接触腐食(電触)が生じ、金属部材が急速に腐食するという問題がある。特許文献1の摩擦点接合方法においては、接合部の接触腐食を防止する為に、接着剤がアルミニウム合金板と鋼板の接合部を囲繞するように塗布され接着剤層が形成される。
【特許文献1】特開2007−160342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接合時に、アルミニウム合金板と鋼板の接合部に接着剤が介在する場合、摩擦熱により接着剤が炭化して接合界面に残るため接着性能が低下すると共に、接着剤の影響により接合部の固相状態での点接合強度を高められない等の問題がある。特許文献1においては、鋼板とアルミニウム合金板の接合部を囲繞するように接着剤層が形成されているので、接着剤が炭化することがなく、接合部の固相状態での点接合強度も高めることができる。しかし、接着剤層が接合部近傍に存在しないことにより、接合部近傍へ水が浸入した場合、接合部に水が付着して接触電位差による接触腐食が発生する虞がある。
【0005】
本発明の目的は、鋼製部材と軽金属製部材の固相状態での点接合強度を高めると共に、接合部の接触腐食に対する耐食性を確実に確保することができる摩擦点接合方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の摩擦点接合方法は、鋼製部材と軽金属製部材との間に接着剤を介在させて重ね合わせ、回転ツールを回転させながら軽金属製部材に押圧して摩擦熱を発生させ、軽金属製部材を軟化させ塑性流動を生じさせて鋼製部材と軽金属製部材を固相状態で点接合する摩擦点接合方法において、鋼製部材と軽金属製部材との間に接着剤を介在させて鋼製部材と軽金属製部材とを重ね合わせる第1工程と、次に接着剤の粘度が低下する温度域に接着剤を加熱処理する第2工程と、次に回転ツールを回転させながら軽金属製部材の接合部を鋼製部材側に押圧して接合部から接着剤を押出す第3工程と、次に回転ツールを引き続き回転させながら軽金属製部材の接合部を押圧して摩擦熱を発生させ、軽金属製部材を軟化させて塑性流動を生じさせて鋼製部材と軽金属製部材とを固相状態で点接合する第4工程とを備えたことを特徴としている。
【0007】
この摩擦点接合方法では、鋼製部材と軽金属製部材との間に接着剤を介在させて重ね合わせて接着剤が加熱され、接着剤の粘度が低下した温度域に達した後、回転ツールを回転させながら軽金属製部材の接合部を鋼製部材側に押圧し、この回転ツールの押圧により接合部から粘度が低下した状態の接着剤が押出される。
【0008】
その後、回転ツールを引き続き回転させながら軽金属部材の接合部を押圧して摩擦熱を発生させ、軽金属製部材を軟化させ塑性流動を生じさせて接合界面に接着剤がほとんど介在しない状態で鋼製部材と軽金属製部材を固相状態で点接合できる。
【0009】
請求項2の摩擦点接合方法は、請求項1の発明において、加熱処理は、回転ツールを回転させながら軽金属製部材の接合部を押圧して摩擦熱を発生させ、この摩擦熱により接着剤の粘度が低下する温度域に接着剤を加熱する処理であることを特徴としている。
【0010】
請求項3の摩擦点接合方法は、請求項1又は2の発明において、鋼製部材の接合部の表面には、Zn−Fe合金メッキ層が形成され、鋼製部材と軽金属製部材の接合部が固相状態で点接合されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、第1工程において鋼製部材と軽金属製部材との間に接着剤を介在させて鋼製部材と軽金属製部材とを重ね合わせ、第2工程において接着剤の粘度が低下する温度域に接着剤を加熱し、第3工程において回転ツールを回転させながら軽金属製部材の接合部を鋼製部材側に押圧して接合部から接着剤を押出し、第4工程において回転ツールを引き続き回転させながら軽金属製部材の接合部を押圧して摩擦熱を発生させ、軽金属製部材を軟化させて塑性流動を生じさせて鋼製部材と軽金属製部材とを固相状態で点接合するので、次の効果が得られる。
【0012】
加熱処理で接着剤の粘度を低下させた状態で回転ツールの押圧により接合部から接着剤を押出し、その後接合処理するので、接合界面に接着剤がほとんど介在しない状態で鋼製部材と軽金属製部材との固相状態での点接合強度を高めることができる。また、接合時の熱による接着剤の炭化を低減することができる。
【0013】
さらに、接着剤が鋼製部材と軽金属製部材の接合部近傍に存在するので、接合部近傍への水の浸入を防止でき、接合部の接触腐食に対する耐食性を確実に確保することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、加熱処理は、回転ツールを回転させながら軽金属製部材の接合部に押圧して摩擦熱を発生させ、この摩擦熱により接着剤の粘度が低下する温度域に接着剤を加熱する処理であるので、接合部からの接着剤の押出しを促進させることができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、鋼製部材の接合部の表面には、Zn−Fe合金メッキ層が形成され、鋼製部材と軽金属製部材の接合部が固相状態で点接合されるので、融点の高いZn−Fe合金メッキ層を形成した場合でも、鋼製部材と軽金属製部材の接合部の固相状態での点接合強度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本実施例は、鋼製部材と軽金属製部材との間に接着剤を介在させて重ね合わせ、鋼製部材と軽金属製部材を点接合する摩擦点接合方法に、本発明を適用した場合の一例である。
【実施例1】
【0017】
以下、本発明の実施例1について図面に基づいて説明する。
図1,2に示すように、摩擦点接合装置1は、接合ガン2を装備したロボット3と、ロボット3と接合ガン2を駆動制御する制御装置5と、接合ガン2でスポット接合する2枚(又は3枚)の金属構成部材を重ね合わせた状態で位置決め保持するワーク保持装置(図示略)とを備えている。
【0018】
ロボット3は汎用の6軸垂直多関節型ロボットであり、そのロボットハンドの先端部に接合ガン2が装備されている。このロボット3が、接合ガン2をワーク保持装置(図示略)で位置決め保持された金属構成部材をスポット接合動作位置と、この接合動作位置から退避した待機位置とに亙って移動させる。
【0019】
図2に示すように、接合ガン2は、受け具6と、回転ルーツ7と、回転ツール駆動機構8とを有する。受け具6と回転ツール7は上下に対向状に配設され、受け具6は逆L字状のアーム9の下先端部に着脱可能に上向きに取付られ、アーム9の上部側に回転ツール駆動機構8が設けられ、この回転ツール駆動機構8に回転ツール7が着脱可能に下向きに取付られている。回転ツール駆動機構8は、回転ツール7を接合軸Xを中心として回転させる回転モータ10と、回転ツール7を接合軸Xに沿って昇降させて複数の金属構成部材を押圧する昇降モータ11とを有する。
【0020】
図3に示すように、回転ツール7の胴体部7aの先端面(下端面)にはショルダ部7bが形成されている。このショルダ部7bは平坦な形状をなし、ショルダ部7bの中心部に細径のピン部7cが突設されている。受け具6は、回転ツール7と略同径に形成され、その先端面(上端面)は平坦に形成されている。
【0021】
図1に示すように、制御装置5は、ロボット3の各種電動アクチュエータ(図示略)にハーネス12を介して接続されて、それらアクチュエータを夫々駆動制御し、また、接合ガン2の回転モータ10と昇降モータ11にハーネス13と中継ボックス14とハーネス15を介して接続され、これら回転モータ10と昇降モータ11を夫々駆動制御する。
【0022】
次に、上記の摩擦点接合装置1を用いて鋼製部材と軽金属製部材を固相状態で点接合する摩擦点接合方法について、図4に示す接合工程図に基づいて説明する。尚、図4中のPi(i=1,2,・・・)は各工程を示す。この摩擦点接合方法においては、鋼製部材として鋼板16、軽金属製部材としてアルミニウム合金板17を用いて、これらの接合部を摩擦点接合した。
【0023】
P1において、鋼板16の接合部の表面に溶融亜鉛メッキを施した後、合金化処理して亜鉛−鉄合金メッキ層(以下、Zn−Fe合金メッキ層)18を有する、Zn−Fe合金メッキ鋼板(合金化亜鉛メッキ鋼板)19が形成される。
【0024】
合金化処理においては、所定の加熱条件下(温度・時間・加熱速度)で鋼板16の鉄を亜鉛メッキ層中に拡散させてZn−Fe合金メッキ層18が形成される。Zn−Fe合金メッキ鋼板19は、従来の溶融亜鉛メッキ鋼板と比較して、軟化温度(例えば、530℃〜600℃)が高く、防錆性能を持ちつつ、複雑な形状をプレス成形する際の成形性、溶接性、塗装耐食性などに優れ、主に自動車の車体などに使用されている。
【0025】
Zn−Fe合金メッキ層18を形成後、Zn−Fe合金メッキ層18の接合部の表面が例えばレーザーにより加熱され、その表面の油分やコンタミなどが除去されると共に、棒状や粒状の金属結晶が破壊され平滑化される。そのため、接合時のアルミニウム合金板17とZn−Fe合金メッキ層18の接合界面においてAlとZnの拡散を促進させ、アルミニウム合金板17と鋼板16の接合強度を向上させることができる。
【0026】
次に、P2において、Zn−Fe合金メッキ層18の接合部の表面に接着剤を適量塗布して接着剤層20が形成される。接着剤として、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤などの熱硬化性接着剤が用いられる。Zn−Fe合金メッキ層18の接合部の表面には、熱硬化性接着剤が、約数100μm程度薄く塗布された接着剤層20が形成される。熱硬化性接着剤としてのエポキシ系接着剤は、約60℃〜70℃程度の加熱により粘性が低下し軟化状態となる。また、例えば、金属鋼製部材同士の間に介在させて、約170℃で20分間程度加熱して硬化させることで高い接着性能を発揮する。
【0027】
次に、P3において、図5に示すように、アルミニウム合金板17を上板、Zn−Fe合金メッキ鋼板19を下板とし、アルミニウム合金板17とZn−Fe合金メッキ層18の接合部の間に接着剤層20を介在させた状態で重ね合わせ、P4において、回転ツール駆動機構8により回転ツール7を回転させつつ下降駆動させる。
【0028】
P5において、図6に示すように、回転ツール7が回転されつつ接合軸Xに沿って下降すると、最初に回転ツール7のピン部7cがアルミニウム合金板17の接合部に当接して回転ツール7を位置決めし、次にショルダ部7bがその接合部に当接して、アルミニウム合金板17の接合部が回転ツール7により押圧される。
【0029】
このとき、回転ツール7のショルダ部7bがアルミニウム合金板17の接合部に所定接合時間当接した状態で回転ツール7が回転し押圧し続けることで摩擦熱が発生する。この摩擦熱により、接着剤層20が粘度の低下する温度域(例えば、60℃〜70℃)に加熱される。接着剤層20は、粘度が低下したことで軟化状態となり、Zn−Fe合金メッキ層18の接合部の外周側へ押し出される。
【0030】
P6において、回転ツール7の押圧力(加圧力)を上げて、回転ツール7を回転させつつ更に下降させ、回転ツール7がアルミニウム合金板17の接合部を鋼板16側に押圧していく。回転ツール7とアルミニウム合金板17の接合部とが接触することで摩擦熱の温度も高くなり(約400℃〜500℃)、アルミニウム合金板17の接合部が軟化する。なお、回転ツール7のショルダ部7bは平坦なので、摩擦熱が発生しやすくなっている。
【0031】
図7に示すように、回転ツール7が更に下降を続けて軟化したアルミニウム合金板17の接合部に進入し、これに伴い、回転ツール7と接触圧力の高い部分のアルミニウム合金板17の接合部がせん断され、その接合部に塑性流動が生じてせん断部が外周へ広がる。
【0032】
このとき、回転ツール7の押圧により、粘度の低下により軟化した状態の接着剤層20が接合部の外周側へ一気に押出される。これにより、接合界面には接着剤層21がほとんど介在しなくなり、接合時の熱による接着剤層21の硬化及び炭化も殆ど生じなくなる。
【0033】
次に、回転ツール7を回転させつつ押圧力を下げ、ピン部7cがZn−Fe合金メッキ層18部分にまで至らないように回転ツール7を下降させる。Zn−Fe合金メッキ層18は、摩擦熱よりも軟化温度が高いので軟化しない。アルミニウム合金板17とZn−Fe合金メッキ層18の接合界面において、Zn−Fe合金メッキ層18のZnがアルミニウム合金板17内に拡散してZn拡散層が形成されると共に、アルミニウム合金板17のAlがZn−Fe合金メッキ層18内に拡散してAl−Fe中間層22が形成される。
【0034】
このとき、Zn−Fe合金メッキ層18のZnは、ほとんどアルミニウム合金板17内に拡散する。このため、Al−Fe中間層22は、Zn成分が少なく、Al及びFeを主成分とするものとなる。また、Al−Fe中間層22が形成された箇所以外の領域には、Zn−Fe合金メッキ層18が残留する。
【0035】
P7において、アルミニウム合金板17内の塑性流動を所定時間継続させ、アルミニウム合金板17と鋼板16の接合部がAl−Fe中間層22を介して固相状態で点接合される。図8に示すように、昇降モータ11により回転ツール7が上昇駆動され、回転ツール7がアルミニウム合金板17内から離間される。その後、P8において、接合部が冷却されて硬化し、Al−Fe中間層22を介してアルミニウム合金板17と鋼板16の接合部の接合が完了する。この摩擦点接合方法において、P2及びP3が第1工程、P5が第2工程、P6が第3工程、P7が第4工程に相当する。
【0036】
以上説明した実施例1の摩擦点接合方法の作用効果について説明する。
Zn−Fe合金メッキ鋼板19とアルミニウム合金板17との間に熱硬化性接着剤を介在させた状態で重ね合わせ、回転ツール7を回転させながらアルミニウム合金板17の接合部に回転ツール7のショルダ部7bを当接させた状態でアルミニウム合金板17とショルダ部7bとの接触により発生した摩擦熱により、接着剤層20の粘度が低下する温度域に接着剤層20が加熱される。
【0037】
接着剤層20が加熱されて軟化状態になった後、回転ツール7を回転させつつ押圧力を上げ、回転ツール7でアルミニウム合金板17を鋼板16側の接合部に押圧し、この回転ツール7の押圧により接着剤層21が接合部の外周側へ一気に押出される。その後、回転ツール7を引き続き回転させながらアルミニウム合金板17の接合部を押圧して、その接合部を軟化させ塑性流動を生じさせ、鋼板16とアルミニウム合金板17の接合部がAl−Fe中間層22を介して固相状態で点接合される。
【0038】
接合部に介在する接着剤層21の粘度を低下させた状態で回転ツール7の押圧により接着剤層21を接合部の外周側に押出し、その後、接合界面に接着剤層22がほとんど介在しない状態でこれら接合部が接合されるので、Al−Fe中間層22を介しての鋼板16とアルミニウム合金板17の接合部の固相状態での点接合強度を高めることができる。また、接合時の熱による接着剤層20の炭化及び硬化を低減することができる。
【0039】
さらに、接着剤層20が鋼板16とアルミニウム合金板17の接合部近傍に存在するので、接合部近傍への水の浸入を防止でき、接合部の接触腐食に対する耐食性を確実に確保することができる。
【実施例2】
【0040】
次に、実施例2に係る摩擦点接合方法について図9〜図13に基づいて説明する。なお、実施例1の摩擦点接合方法と同様の部材に同一の符号を付してその説明を省略する。
摩擦点接合装置1を用いて鋼板16とアルミニウム合金板17を固相状態で点接合する摩擦点接合方法について、図9に示す接合工程図に基づいて説明する。尚、図9中のPi(i=11,12,・・・)は各工程を示す。この摩擦点接合方法においては、鋼板16の表面に亜鉛メッキ層24を形成して、亜鉛メッキ鋼板25とアルミニウム合金板17を摩擦点接合にて点接合した。
【0041】
P11において、鋼板16の接合部の表面に溶融亜鉛メッキを施した溶融亜鉛メッキ層(以下、Znメッキ層)24を有する、Znメッキ鋼板25が形成される。
【0042】
次に、P12において、Znメッキ層24の接合部の表面に熱硬化性接着剤が約数100μm程度薄く塗布された接着剤層20が形成される。次に、P13において、図10に示すように、アルミニウム合金板17を上板、Znメッキ鋼板25を下板とし、アルミニウム合金板17とZnメッキ層24の接合部の間に接着剤層20を介在させた状態で重ね合わせ、P14において、回転ツール駆動機構8により回転ツール7を回転させつつ下降駆動させる。
【0043】
P15において、図11に示すように、回転ツール7が回転されつつ接合軸Xに沿って下降すると、最初に回転ツール7のピン部7cがアルミニウム合金板17の接合部に当接して回転ツール7を位置決めし、次にショルダ部7bがその接合部に当接する。
【0044】
このとき、回転ツール7のショルダ部7bがアルミニウム合金板17の接合部に所定接合時間当接した状態で回転ツール7が回転し押圧し続けることで摩擦熱が発生する。この摩擦熱により、接着剤層20が粘度の低下する温度域(例えば、60℃〜70℃)に加熱される。接着剤層20は、粘度が低下したことで軟化状態となり、Zn−Fe合金メッキ層18の接合部の外周側へ押し出される。
【0045】
P16において、回転ツール7の押圧力を上げて、回転ツール7を回転させつつ更に下降させ、回転ツール7がアルミニウム合金板17の接合部を鋼板16側に押圧していく。回転ツール7とアルミニウム合金板17の接合部とが接触することで摩擦熱の温度も高くなり(約400℃〜500℃)、アルミニウム合金板17の接合部が軟化する。
【0046】
図12に示すように、回転ツール7が更に下降を続けて軟化したアルミニウム合金板17の接合部に進入し、これに伴い、回転ツール7と接触圧力の高い部分のアルミニウム合金板17の接合部がせん断され、その接合部に塑性流動が生じてせん断部が外周へ広がる。また、摩擦熱を受けたZnメッキ層24が軟化する。
【0047】
このとき、回転ツール7の押圧により、粘度の低下により軟化した状態の接着剤層20が接合部の外周側へ一気に押出される。これにより、接合界面には接着剤層20がほとんど介在しなくなり、接合時の熱による接着剤層20の硬化及び炭化も殆ど生じなくなる。
【0048】
P17において、回転ツール7を回転させつつ押圧力を下げ、ピン部7cがZnメッキ層24部分にまで至らないように、回転ツール7を下降させる。これにより、溶融したZnメッキ層24は、一部がアルミニウム合金板17内に取り込まれ、残りは接合部の周囲に押し出される。こうして、Znメッキ層24が解消した範囲では、表面の酸化被膜が破壊されて新生面が露出したアルミニウム合金板17と鋼板16の新生面の接合部が接触して固相状態で点接合される。
【0049】
図13に示すように、昇降モータ11により回転ツール7が上昇駆動され、回転ツール7がアルミニウム合金板17内から離間される。その後、P18において、接合部が冷却されて硬化し、アルミニウム合金板17と鋼板16の接合部の接合が完了する。
【0050】
次に、上述した実施例2の摩擦点接合方法により形成されるアルミニウム製部材17と鋼製部材16の接合部の効果検証試験について図14〜図17に基づいて説明する。
[接合ガン]
接合ガンとして位置制御型ユニットを使用した。回転ツールは、ショルダ部の直径が10mm、ピン部7cの直径が2mm、長さが0.3mmのものを使用した。
【0051】
[ワーク材料]
アルミニウム製部材として、厚み1.2mmの6000系アルミニウム合金板を準備し、鋼製部材として、Znメッキ層を形成した、厚み0.8mmのZnメッキ鋼板を準備した。
【0052】
[接合方法]
実施例2で説明した摩擦点接合方法に基づいて、アルミニウム合金板とZnメッキ鋼板を接合した。また、比較例として、接合処理前の接着剤層の加熱処理を行わずに、アルミニウム合金板とZnメッキ鋼板を接合した。
【0053】
[接合条件]
回転ツールの回転数を2500rpmとし、図14に示すように、回転ツールの押圧力をアルミニウム合金板の上面、中部、下部の接合部に応じて1000N、4500N、1500Nとした。また、前記の押圧力に応じて、接合時間をそれぞれ2.3s、1.0s、2.7とした。
【0054】
一方、比較例については、回転ツールの回転数を2500rpmとし、図15に示すように、回転ツールの押圧力をアルミニウム合金板の上面、中部、下部に応じて2500N、4500N、1500Nとした。また、前記の押圧力に応じて、接合時間をそれぞれ1.0s、1.0s、2.7とした。
【0055】
図14に示すように、回転ツールを回転させながらアルミニウム合金板の表面(上面)を押圧する場合、回転ツールの押圧力は、比較例よりも低く、また接合時間が長い。これは、接着剤層を粘度が低下する約60℃〜70℃に加熱して軟化状態とするためである。この接着剤層としてはエポキシ系接着剤を使用する。表1及び図17は、エポキシ系接着剤の加熱温度に対する粘度特性を示し、エポキシ系接着剤は、約60℃から低い粘度特性となる。
【0056】
【表1】

【0057】
[接合強度の試験及び評価]
接合部の剪断強度を測定した。図16に示すように、剪断強度は、比較例の剪断強度よりも高い剪断強度を示した。これは、粘度低下状態の接着層が、Znメッキ層の接合部の表面から接合部の外周側へ押出され、接合の際、接合界面に接着剤層がほとんど介在しない状態でアルミニウム板と鋼板の接合部が接合されたため、これら接合部の固相状態での点接合強度が高まったと考えられる。一方、比較例の場合、接合部からの接着剤層の押出しが促進されず接合界面に接着剤層が介在したため、その接着剤層の影響で、接合部の固相状態での点接合強度を高めることができなっかったと考えられる。
【0058】
以上説明した実施例2の摩擦点接合方法の作用効果について説明する。
Znメッキ鋼板25とアルミニウム合金板17との間に熱硬化性接着剤を介在させた状態で重ね合わせ、回転ツール7を回転させながらアルミニウム合金板17の接合部に回転ツール7のショルダ部7bを当接させた状態で発生した摩擦熱により、接着剤層20の粘度が低下する温度域に接着剤層20が加熱される。
【0059】
接着剤層20が加熱されて軟化状態になった後、回転ツール7の押圧力を上げ、回転ツール7を回転させつつ、アルミニウム合金板17の接合部を鋼板16側の接合部に押圧し、この回転ツール7の押圧により接着剤層20が接合部の外周側へ一気に押出される。その後、回転ツール7を引き続き回転させながらアルミニウム合金板17の接合部を押圧して、その接合部を軟化させ塑性流動を生じさせ、鋼板16とアルミニウム合金板17の接合部が点接合される。
【0060】
接合部に介在する接着剤層20の粘度を低下させた状態で回転ツール7の押圧により接着剤層20を接合部の外周側へ押出し、その後、接合界面に接着剤層20がほとんど介在しない状態でこれら接合部が接合されるので、鋼板16とアルミニウム合金板17の接合部の固相状態での点接合強度を高めることができる。また、接合時の熱による接着剤層20の炭化及び硬化を低減することができる。
【0061】
さらに、接着剤層20が鋼板16とアルミニウム合金板17の接合部近傍に存在するので、接合部近傍への水の浸入を防止でき、接合部の接触腐食に対する耐食性を確実に確保することができる。
【0062】
次に、前記実施例1,2を部分的に変更した変更例について説明する。
1〕実施例の摩擦点接合方法は、例えば、自動車の車体の製造において前記アルミニウム合金板17及びZn−Fe合金メッキ鋼板19やZnメッキ鋼板25を車体構成部材として使用し、これら部材を接合する際に採用してもよい。
【0063】
2〕前記実施例において、接合処理前に接着剤層21は回転ツール7による摩擦熱により加熱されたが、その他、レーザー等により接着剤層21を加熱してもよい。
【0064】
3〕前記実施例においては、回転ツール7のショルダ部7bを平坦にしているが、これに限らず、例えば、ショルダ部の形状を円錐台状に窪んだ形状にしてもよい。但し、平坦にしている方が、摩擦熱が発生しやすい。
【0065】
4〕前記実施例においては、軽金属製部材としてアルミニウム合金板17を用いたが、その他、アルミニウム板、マグネシウム合金板などを用いてもよい。
【0066】
5〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】摩擦点接合装置の側面図である。
【図2】摩擦点接合装置の接合ガン周辺の要部拡大側面図である。
【図3】回転ツールの要部部分断面図である。
【図4】実施例1の摩擦点接合方法の接合工程図である。
【図5】アルミニウム板とZn−Fe合金メッキ鋼板の間に接着剤層を介在させて重ね合わせた状態を示す断面図である。
【図6】回転ツールのショルダ部がアルミニウム合金板の接合部の表面に当接した状態を示す断面図である。
【図7】回転ツールがアルミニウム合金板内の接合部に進入した状態を示す断面図である。
【図8】接合完了後の接合状態を示す断面図である。
【図9】実施例2の摩擦点接合方法の接合工程図である。
【図10】アルミニウム板とZnメッキ鋼板の間に接着剤層を介在させて重ね合わせた状態を示す断面図である。
【図11】回転ツールのショルダ部がアルミニウム合金板の接合部の表面に当接した状態を示す断面図である。
【図12】回転ツールがアルミニウム合金板内の接合部に進入した状態を示す断面図である。
【図13】接合完了後の接合状態を示す断面図である。
【図14】実施例の接合方法における回転ツールの加圧力と接合時間を説明する図である。
【図15】比較例の接合方法における回転ツールの加圧力と接合時間を説明する図である。
【図16】接合部の剪断強度を示すデータである。
【図17】接着剤の加熱温度による粘度特性を示す温度粘度曲線である。
【符号の説明】
【0068】
7 回転ツール
16 鋼板
17 アルミニウム合金板
18 Zn−Fe合金メッキ層
20 接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製部材と軽金属製部材との間に接着剤を介在させて重ね合わせ、回転ツールを回転させながら軽金属製部材に押圧して摩擦熱を発生させ、軽金属製部材を軟化させ塑性流動を生じさせて鋼製部材と軽金属製部材を固相状態で点接合する摩擦点接合方法において、
前記鋼製部材と軽金属製部材との間に接着剤を介在させて鋼製部材と軽金属製部材とを重ね合わせる第1工程と、
次に前記接着剤の粘度が低下する温度域に接着剤を加熱処理する第2工程と、
次に前記回転ツールを回転させながら軽金属製部材の接合部を鋼製部材側に押圧して接合部から接着剤を押出す第3工程と、
次に前記回転ツールを引き続き回転させながら軽金属製部材の接合部を押圧して摩擦熱を発生させ、軽金属製部材を軟化させて塑性流動を生じさせて鋼製部材と軽金属製部材とを固相状態で点接合する第4工程と、
を備えたことを特徴とする摩擦点接合方法。
【請求項2】
前記加熱処理は、回転ツールを回転させながら軽金属製部材の接合部に押圧して摩擦熱を発生させ、この摩擦熱により接着剤の粘度が低下する温度域に接着剤を加熱する処理であることを特徴とする請求項1に記載の摩擦点接合方法。
【請求項3】
前記鋼製部材の接合部の表面には、Zn−Fe合金メッキ層が形成され、前記鋼製部材と軽金属製部材の接合部が固相状態で点接合されることを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦点接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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