説明

摩擦音のしないポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子

【課題】 型内成形時の成形圧力の上昇や、発泡成形体の寸法精度の悪化、機械的強度の低下を引き起こすことなく、予備発泡粒子同士、発泡成形体同士、あるいは、発泡成形体と他のプラスチック製品、金属製品等との間で摩擦が生じたときに、周波数の高い耳障りな摩擦音(キュッキュッ音)が発生しないポリプロピレン樹脂発泡予備発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体を提供すること。
【解決手段】 JIS K7171に準拠して測定した曲げ弾性率が1300MPa以上1700MPa以下のポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、融点100℃以上130℃以下のポリエチレンワックスを2重量部以上12重量部以下含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝包装材、通函、断熱材、自動車のバンパー芯材などに用いられるポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の製造に好適に使用しうるポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子に関する。更に詳しくは高周波数である摩擦音を実質的に生じないポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂発泡成形体の用途として、緩衝包装材、バンパーコア材、自動車部材などに広く使われている。しかしこれらポリプロピレン系樹脂発泡成形体やポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子は、発泡成形体同士あるいは他のプラスチック製品、金属製品等との間で摩擦が生じたときに、周波数の高い耳障りな摩擦音(キュッキュッ音)が発生することがある。
【0003】
従来、これらの摩擦音を防止する方法として、特許文献1に融点40℃〜100℃のワックスで予備発泡粒子の表面をコーティング又は含浸した予備発泡粒子が開示されている。本特許文献1には予備発泡粒子が、発泡ポリプロピレン系樹脂であることが例示されているが、具体的には実施例に発泡性アクリロニトリル・スチレン共重合体の摩擦音防止することが開示されているに過ぎず、ポリプロピレン系樹脂は発泡温度や成形温度が高いため、融点40℃〜100℃のワックスを用いても摩擦音を防止させることは困難である。またこの特許文献には原料樹脂粒子とワックスを加熱槽に供給し、攪拌しながら加熱する方法でコーティングまたは含浸しながら予備発泡すると記載されているが、この方法は殆ど含浸されないため、ポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子に適用するとコーティングされたワックスが剥がれ落ちて、摩擦音防止の効果を失う恐れがある上、型内発泡成形を行う際に蒸気項が目詰まりを起こしやすいなどの問題がある。
【0004】
また、特許文献2に無機ガスの発泡剤を用いても予備発泡粒子のセル径を大きくすることを目的に、ポリオレフィン系樹脂粒子にワックス類を0.5〜5重量%含有させる方法が開示されている。ポリオレフィン系樹脂にポリエチレンワックスを多く含有させるほど予備発泡粒子や発泡成形体が柔らかくなる傾向にあり、5%を越えての添加は発泡粒子が柔らかくなりすぎることが記載されており、特にポリエチレンワックスを7重量部含有させると面方向の収縮率が4%以上になることが開示されている。
【0005】
以上のように、ポリオレフィンワックスを予備発泡粒子の表面にコーティングすることで摩擦音防止の効果があることは知られているが、ポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子に適用した場合、その効果は低い。また、ポリオレフィン系樹脂にワックスを添加することも知られているが、この場合は寸法精度が悪く、また、成形体の強度が弱くなるという問題があった。
【0006】
一方、発泡成形体の機械的強度の向上を目的に、特許文献3に0.4MPa(ゲージ圧)耐圧仕様の成形機で安定的に型内成形が可能な、高い剛性を持つ発泡成形体が開示されている。この特許文献の実施例で開示されている最低の成形圧力は0.26MPa(ゲージ圧)であり、高い剛性を持たせようとすると融点が高くなる傾向にあるため、成形圧力が高くなる傾向にある。
【0007】
以上のように、摩擦音が低減され、且つ発泡成形体の寸法精度と機械的強度が良好で、且つ型内成形時の成形圧力が0.26MPa未満でも表面美麗な発泡成形体が生産可能な、ポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子は未だない。
【特許文献1】特開2005−187715号公報
【特許文献2】特開平3−86737号公報
【特許文献3】特開2005−298769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、型内成形時の成形圧力の上昇や、発泡成形体の寸法精度の悪化、機械的強度の低下を引き起こすことなく、予備発泡粒子同士、発泡成形体同士、あるいは、発泡成形体と他のプラスチック製品、金属製品等との間で摩擦が生じたときに、周波数の高い耳障りな摩擦音(キュッキュッ音)が発生しないポリプロピレン樹脂発泡予備発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、JIS K7171に準拠して測定した曲げ弾性率が1300MPa以上1700MPa以下のポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、融点100℃以上130℃以下のポリエチレンワックスが2重量部以上12重量部以下含有されていることを特徴とするポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子とすることで、周波数の高い耳障りな摩擦音を発生しないポリプロピレン系予備発泡粒子が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1は、JIS K7171に準拠して測定した曲げ弾性率が1300MPa以上1700MPa以下のポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、融点100℃以上130℃以下のポリエチレンワックスを2重量部以上12重量部以下添加してなるポリプロピレン樹脂組成物を基材樹脂としてなるポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子に関する。
【0011】
本発明の第2は、前記記載のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子を金型内に充填し加熱して得られるポリプロピレン系樹脂発泡成形体に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子、及び該予備発泡粒子から得られるポリプロピレン系樹脂発泡成形体は、予備発泡粒子同士、発泡成形体同士あるいは発泡成形体と他のプラスチック製品、金属製品等との間で摩擦が生じたときに、周波数の高い耳障りな摩擦音(キュッキュッ音)が発生しない。
【0013】
本発明のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子は、ポリエチレンワックスを添加しているにもかかわらず、寸法精度が良く、機械的強度が高い。また、型内成形時の成形圧力を低くしても表面美麗な発泡成形体の生産が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において用いるポリプロピレン系樹脂は、プロピレンモノマー単位が50重量%以上、好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上からなる重合体であり、チーグラー型塩化チタン系触媒またはメタロセン触媒で重合された、立体規則性の高いものが好ましい。また、これらのポリプロピレン系樹脂は無架橋のものが好ましいが、架橋したものも使用できる。共重合成分としては、エチレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどの炭素数2または4〜12のα−オレフィン、シクロペンテン、ノルボルネンなどの環状オレフィン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンなどのジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどのビニル単量体などが挙げられる。中でも、本発明においては、コモノマーとして1−ブテンとエチレンを含むポリプロピレン系樹脂を使用することが好ましい。
【0015】
本発明に使用するポリプロピレン系樹脂はJIS K7171に準拠して測定した曲げ弾性率が1300MPa以上1700MPa以下であり、好ましくは1400MPa以上1600MPa以下である。曲げ弾性率が1300MPa未満ではポリエチレンワックスを含有した際に機械的強度の低下を引き起こす。また曲げ弾性率が1700MPaを越えると、型内成形時に成形圧力が高くなる。
【0016】
また、前記ポリプロピレン系樹脂は、JIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定したメルトインデックス(以下、MI)が、5g/10分以上20g/10分以下であることが好ましく、更に好ましくは6g/10分以上12g/10分以下である。MIが、5g/10分未満では、予備発泡粒子を製造する際の発泡力が低く、高発泡倍率の予備発泡粒子を得るのが難しくなる場合がある。また、発泡成形体としたときの予備発泡粒子間の融着強度を確保することが難しくなる場合がある。またMIが20g/10分を越えると予備発泡粒子を製造する際にセルが破泡する場合がある。
【0017】
また、前記ポリプロピレン系樹脂は、機械的強度、耐熱性に優れた発泡成形体を得るために、融点は、好ましくは130℃以上160℃以下、更に好ましくは135℃以上160℃以下、特に好ましくは140℃以上155℃以下である。融点が当該範囲内であると、型内成形時の成形圧力の上昇(成形性)と機械的強度、耐熱性のバランスが取り易い傾向が強い。
【0018】
本発明で使用するポリエチレンワックスとは、モノマー成分としてエチレンを含んでなるワックスを言い、融点は100℃以上130℃以下であり、好ましくは、105℃以上125℃以下である。融点が100℃よりも低いとポリプロピレン系樹脂と溶融混合した際にポリエチレンワックスが表面に現れず、摩擦音抑制効果が得られない。また融点が130℃よりも高いと、ポリプロピレン系樹脂との融点差があまりなくなるため、型内成形時の成形圧力低下の効果が得られにくくなる。
【0019】
本発明に使用するポリエチレンワックスは分子量5000以下のものが、ポリプロピレン系樹脂と溶融混合した際にポリエチレンワックスが表面に現れやすいため好ましい。
【0020】
ポリエチレンワックスを製造する際の重合方法としてチーグラー触媒法、メタロセン触媒法などが挙げられるが、中でもメタロセン触媒法にて重合されたポリエチレンワックスは、分子量が低く、更に分子量分布が狭いため、摩擦音抑制効果を得られやすくなるため特に好ましい。
【0021】
ポリプロピレン系樹脂、及びポリエチレンワックスの融点(以下、Tmと表記する場合がある)とは、示差走査熱量計によってポリプロピレン系樹脂、またはポリエチレンワックス1〜10mgを40℃から220℃まで10℃/分の速度で昇温し、その後40℃まで10℃/分の速度で冷却し、再度220℃まで10℃/分の速度で昇温した時に得られるDSC曲線における吸熱曲線のピーク温度をいう。
【0022】
また、前記ポリエチレンワックスの添加量としては、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、2重量部以上12重量部以下、好ましくは4重量部以上10重量部以下である。ポリエチレンワックスの添加量が2重量部より少ないと摩擦音の抑制効果が発揮されない。ポリエチレン系樹脂の添加量が12重量部を越えると、ポリプロピレン樹脂組成物の機械的強度の低下を引き起こす。
【0023】
ポリプロピレン系樹脂へポリエチレンワックスを添加する方法は公知の方法を用いることが出来るが、一般的にはポリプロピレン系樹脂とポリエチレンワックスをドライブレンドした後に溶融混合する方法、予め多量のポリエチレンワックスを含有させた樹脂ペレットとワックス類を含まないポリプロピレン系樹脂ペレットを溶融混合する方法等が挙げられる。
【0024】
次に、本発明のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法について述べる。ポリプロピレン系樹脂とポリエチレンワックスは、既知の方法を用いて、例えば、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー(商標)、ロール等を用いて溶融して、1粒の重量が0.2〜10mg、好ましくは0.5〜6mgのポリプロピレン系樹脂粒子に加工される。一般的には、押出機を用いて溶融し、ストランドカット法にて製造することが好ましい。例えば、円形ダイスからストランド状に押出されたポリプロピレン系樹脂を水、空気等で冷却、固化させたものを切断して、所望の形状のポリプロピレン系樹脂粒子を得る。
【0025】
また、前記樹脂粒子製造の際にセル造核剤を添加することにより、ポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子とする際にセル径を所望の値に調整することが出来る。セル造核剤としては、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、酸化チタン、ベントナイト、硫酸バリウム等の無機系造核剤が一般に使用される。セル造核剤の添加量は、使用するポリプロピレン系樹脂の種類、セル造核剤の種類により異なり一概には規定できないが、ポリプロピレン系樹脂粒子100重量部に対して、概ね0.001重量部以上2重量部以下であることが好ましい。
【0026】
更に、ポリプロピレン系樹脂粒子の製造の際、必要により種々の添加剤を、ポリプロピレン系樹脂の特性を損なわない範囲内で添加することができる。添加剤としては、例えば、アルキルジエタノールアミド、アルキルジエタノールアミン、ヒドロキシアルキルエタノールアミン、脂肪酸モノグリセライド、脂肪酸ジグリセライドなどのノニオン系界面活性剤からなる帯電防止剤;
【0027】
IRGANOX(登録商標)1010(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、IRGANOX(登録商標)1076(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、IRGANOX(登録商標)1330(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、IRGANOX(登録商標)1425WL(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、IRGANOX(登録商標)3114(チバ スペシャルティ ケミカルズ)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤;
【0028】
IRGAFOS(登録商標)168(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、IRGAFOS(登録商標)P−EPQ(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、IRGAFOS(登録商標)126(チバ スペシャルティ ケミカルズ)等のリン系加工安定剤;ラクトン系加工安定剤;ヒドロキシルアミン系加工安定剤;IRGANOX(登録商標)MD1024(チバ スペシャルティ ケミカルズ)等の金属不活性剤;
【0029】
TINUVIN(登録商標)326(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、TINUVIN(登録商標)327(チバ スペシャルティ ケミカルズ)等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;TINUVIN(登録商標)120(チバ スペシャルティ ケミカルズ)等のベンゾエート系光安定剤;CHIMASSORB(登録商標)119(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、CHIMASSORB(登録商標)944(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、TINUVIN(登録商標)622(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、TINUVIN(登録商標)770(チバ スペシャルティ ケミカルズ)等のヒンダードアミン系光安定剤;
【0030】
ハロゲン系難燃剤および三酸化アンチモン等の難燃助剤;FLAMESTAB(登録商標)NOR116(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、MELAPUR(登録商標)MC25(チバ スペシャルティ ケミカルズ)等の非ハロゲン系難燃剤;ハイドロタルサイト、ステアリン酸カルシウム等の酸中和剤;IRGASTAB(登録商標)NA11(チバ スペシャルティ ケミカルズ)の結晶核剤;メラミン等のトリアジン系化合物などが例示される。
【0031】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子は、ポリプロピレン系樹脂組成物を基材樹脂とするポリプロピレン系樹脂粒子と水、分散剤および発泡剤からなる水分散物を耐圧容器内に仕込み、所定の温度まで加熱した後、加圧下のもと、前記樹脂粒子と水との混合物を前記耐圧容器内よりも低圧の雰囲気下に放出することによって得られる。具体的には、密閉容器内に、前記樹脂粒子、発泡剤、分散剤および分散助剤を含む水系分散媒を仕込み、攪拌しながら昇温して所定温度(以下、発泡温度という場合がある)として樹脂粒子に発泡剤を含浸させ、必要に応じて発泡剤を追加添加して、密閉容器内を一定圧力(以下、発泡圧力という場合がある)に保持した後、密閉容器下部から内容物を密閉容器内圧より低圧雰囲気下に放出する方法が例示される。使用する密閉容器には特に限定はなく、予備発泡粒子製造時における容器内圧力、容器内温度に耐えられるものであればよいが、例えばオートクレーブ型の耐圧容器が挙げられる。
【0032】
前記発泡剤としては、プロパン、イソブタン、ノルマルブタン、イソペンタン、ノルマルペンタン等の脂肪族炭化水素およびそれらの混合物;空気、窒素、二酸化炭素等の無機ガスなどが挙げられる。
【0033】
前記発泡剤の使用量は、使用するポリプロピレン系樹脂の種類、発泡剤の種類、目的とする発泡倍率等により異なり、一概には規定できないが、ポリプロピレン系樹脂粒子100重量部に対して、概ね2重量部以上60重量部以下であることが好ましい。
【0034】
また、前記発泡剤の代わりに分散媒として用いている水を発泡剤として利用する方法を用いる場合もある。
【0035】
前記分散剤として、例えば、塩基性第三リン酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、カオリン等の難水溶性無機化合物が使用されることが好ましい。分散助剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ、直鎖アルキルフィンスルホン酸ソーダ等のアニオン系界面活性剤を使用することが好ましい。これらの中でも塩基性第三リン酸カルシウムと直鎖アルキルフィンスルホン酸ソーダの使用が良好な分散性を得る上で好ましい。これら分散剤及び分散助剤の使用量は、その種類や用いるポリエチレン系樹脂の種類・量、発泡剤の種類などによって異なるが、通常、水100重量部に対して、分散剤0.1重量部以上3重量部以下、分散助剤0.0001重量部以上0.1重量部以下であることが好ましい。また、予備発泡粒子に付着する分散剤量を低減する目的で前記水系分散媒に酸を混合して、水系分散媒を酸性にする場合もある。
【0036】
この様にして密閉容器内に調整されたポリプロピレン系樹脂粒子の水系分散物は、攪拌下、所定の発泡温度まで昇温され、一定時間、通常5〜180分間、好ましくは10〜60分間保持されるとともに、密閉容器内の圧力は上昇し、発泡剤が樹脂粒子に含浸される。この後、所定の発泡圧力になるまで発泡剤が追加供給され、一定時間、通常5〜180分間、好ましくは10〜60分間保持される。かくして、発泡温度、発泡圧力で保持されたポリプロピレン系樹脂粒子の水系分散物を、密閉容器下部に設けられたバルブを開放して低圧雰囲気下(通常は大気圧下)に放出することによりポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子を製造することができる。
【0037】
ポリプロピレン系樹脂粒子の水系分散物を低圧雰囲気に放出する際、流量調整、倍率バラツキ低減などの目的で2〜10mmφの開口オリフィスを通して放出することもできる。また、発泡倍率を高くする目的で、上記低圧雰囲気を飽和水蒸気で満たす場合もある。
【0038】
発泡温度は、用いるポリプロピレン系樹脂の融点[Tm(℃)]、発泡剤の種類等により異なり、一概には規定できないが、概ねTm−30(℃)〜Tm+10(℃)の範囲から決定される。また、発泡圧力は、用いるポリプロピレン系樹脂の種類、発泡剤の種類、所望の予備発泡粒子の発泡倍率によって異なり、一概には規定できないが、概ね1〜8MPa(ゲージ圧)の範囲から決定される。
【0039】
上記のようにして得たポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子は、従来から知られている成形方法により、ポリプロピレン系樹脂発泡成形体にすることができる。例えば、イ)予備発泡粒子を無機ガスで加圧処理して予備発泡粒子内に無機ガスを含浸させ所定の予備発泡粒子内圧を付与した後、金型に充填し、水蒸気で加熱融着させる方法、ロ)予備発泡粒子をガス圧力で圧縮して金型に充填し、予備発泡粒子の回復力を利用して、水蒸気で加熱融着させる方法、ハ)特に前処理することなく予備発泡粒子を金型に充填し、水蒸気で加熱融着させる方法、などの方法が利用し得る。
【0040】
前記無機ガスとしては、空気、窒素、酸素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、炭酸ガスなどが使用できる。これらは単独で用いても、2種以上混合使用してもよい。これらの中でも、汎用性の高い空気、窒素が好ましい。
【実施例】
【0041】
次に、本発明のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体の製造方法を実施例及び比較例を挙げて、詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。予備発泡粒子および発泡成形体の評価を以下の方法で述べる方法で行った。
【0042】
<最低成形加熱蒸気圧力>
320×320×60mmの金型内に、予め0.18〜0.22MPaの内圧を付与したポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子を充填し、任意の成形温度の蒸気で加熱することで成形することでポリプロピレン系樹脂発泡成形体を得る。このポリプロピレン系樹脂発泡成形体の表面状態を観察し、表面に凹凸がなく、かつ各粒子間の間隙も殆ど目立たない成形体を得ることのできる成形温度の蒸気圧力のうち、最低の圧力を最低成形加熱蒸気圧力とした。良好な表面美麗性を与える最も低い成形加熱蒸気圧力であり、表面美麗性、成形加工性の尺度である。
【0043】
<圧縮強度>
ポリプロピレン系樹脂発泡成形体から、縦50mm×横50mm×厚み25mmのテストピースを切り出し、NDZ−Z0504の準拠し、10mm/分の速度で圧縮した際の50%圧縮時の圧縮応力(MPa)を測定した。発泡成形体の剛性の尺度である。
【0044】
<発泡成形体の寸法精度>
成形直後のポリプロピレン系樹脂発泡成形体を75℃で24時間乾燥した後、23℃で24時間養生し、面方向の寸法を測定し、以下の式に従って面方向の収縮率を算出した。
収縮率(%)=(金型寸法320mm−発泡成形体の面方向の寸法)/発泡成形体の面方向の寸法×100
寸法精度の評価基準は下記による。
○ :面方向の収縮率が3.0%未満
△ :面方向の収縮率が3.0%以上3.5%未満
× :面方向の収縮率が3.5%以上
【0045】
<発泡成形体における摩擦音防止効果>
ポリプロピレン系樹脂発泡体の上にポリプロピレン系樹脂発泡成形体を乗せて、0.05MPaの荷重の下、50mm/秒で15mmの距離を往復移動させることにより、ポリプロピレン系樹脂発泡成形体同士を擦り合わせ、そのときの音の発生をそばで聴取した。摩擦音の発生の有無を観察した。評価基準は下記による。
◎ :全く摩擦音が発生しない
○ :殆ど摩擦音が発生しないが、数回移動させると僅かに発生する。
× :移動させた時に大きな摩擦音が発生する。
××:0.05MPaの荷重で圧縮するだけで、大きな摩擦音が発生する。
【0046】
(実施例1)
基材樹脂としてMI=9/10分、融点147℃、JIS K7171に準拠して測定した曲げ弾性率が1500MPaであり、コモノマーとして1−ブテン4%とエチレン0.5%を含むランダムポリプロピレン100重量部に対し、融点119℃、分子量1000のポリエチレンワックス(三井化学(株)製、エクセレックス10500)を6重量部、更にセル造核剤としてタルク0.3重量部用いて、上記ランダムポリプロピレンとポリエチレンワックスとタルクをドライブレンドした。ドライブレンドした混合物を押出機内で溶融混練し円形ダイよりストランド状に押出し、水冷後、カッターで切断し、一粒の重量が1.2mg/粒の樹脂粒子を得た。
【0047】
得られた樹脂粒子100重量部(50kg)、水200重量部、塩基性第三リン酸カルシウム1.0重量部、アルキルスルフォン酸ソーダ0.03重量部を容量0.35mの耐圧オートクレーブ中に仕込み、攪拌下、発泡剤としてイソブタンを15部添加した後、オートクレーブ内容物を昇温し、140℃の発泡温度まで加熱した。その後、イソブタンを追加圧入して2.0MPa(ゲージ圧)の発泡圧力まで昇圧し、該発泡温度、発泡圧力で30分間保持した後、オートクレーブ下部のバルブを開き、4.0mmφの開口オリフィスを通して、オートクレーブ内容物を大気圧下に放出して予備発泡粒子を得た。
【0048】
得られた予備発泡粒子に空気加圧処理により空気を含浸させて0.18〜0.22MPaの内圧を付与した後、320×320×60mmの金型内に充填し、0.30MPa(ゲージ圧)の成形温度の蒸気で加熱、融着させて発泡成形体とした。評価結果を表1に示す。寸法精度が良く、更に摩擦音のしないポリプロピレン系発泡成形体を製造することができた。
【0049】
【表1】

(実施例2)
ポリエチレンワックスの添加量を3重量部にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。寸法精度が良く、殆ど摩擦音のしないポリプロピレン系発泡成形体を製造することができた。
【0050】
(実施例3)
ポリエチレンワックスの添加量を12重量部にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。寸法精度が良く、更に摩擦音のしないポリプロピレン系発泡成形体を製造することができた。
【0051】
(実施例4)
融点128℃、分子量4000のポリエチレンワックス(三井化学(株)製、エクセレックス40800)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。寸法精度が良く、更に摩擦音のしないポリプロピレン系発泡成形体を製造することができた。
【0052】
(実施例5)
ポリエチレンワックスの添加量を3重量部にしたこと以外は、実施例4と同様の方法で、予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。寸法精度が良く、殆ど摩擦音のしないポリプロピレン系発泡成形体を製造することができた。
【0053】
(実施例6)
ポリエチレンワックスの添加量を12重量部にしたこと以外は、実施例4と同様の方法で、予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。寸法精度が良く、更に摩擦音のしないポリプロピレン系発泡成形体を製造することができた。
【0054】
(実施例7)
融点102℃、分子量2900のポリエチレンワックス(三井化学(株)製、エクセレックス30200B)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。寸法精度が良く、更に摩擦音のしないポリプロピレン系発泡成形体を製造することができた。
【0055】
(実施例8)
ポリエチレンワックスの添加量を3重量部にしたこと以外は、実施例7と同様の方法で、予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。寸法精度が良く、殆ど摩擦音のしないポリプロピレン系発泡成形体を製造することができた。
【0056】
(実施例9)
ポリエチレンワックスの添加量を12重量部にしたこと以外は、実施例7と同様の方法で、予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。寸法精度が良く、更に摩擦音のしないポリプロピレン系発泡成形体を製造することができた。
【0057】
(比較例1)
基材樹脂として、JIS K7171に準拠して測定した曲げ弾性率が1000MPaのランダムポリプロピレンを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。実施例1と比較すると、比較例1の発泡成形体は寸法精度が悪く、更に圧縮強度が弱くなった。
【0058】
(比較例2)
融点90℃、分子量4600のポリエチレンワックス(三井化学(株)製、エクセレックス48070B)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。実施例1と比較すると、比較例2の発泡成形体は大きな摩擦音が発生した。
【0059】
(比較例3)
ポリエチレンワックスを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で、予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。実施例1と比較すると、比較例3は最低成形蒸気加熱圧力が高くなり、更に発泡成形体は大きな摩擦音が発生した。
【0060】
(比較例4)
基材樹脂として、JIS K7171に準拠して測定した曲げ弾性率が1800MPaのポリプロピレンを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。実施例1と比較すると、比較例4は極端に最低成形蒸気加熱圧力が高くなった。
【0061】
(比較例5)
ポリエチレンワックスの添加量を1重量部にしたこと以外は、実施例7と同様の方法で、予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。実施例1と比較すると、比較例5は最低成形蒸気加熱圧力が高くなり、更に発泡成形体は摩擦音が発生した。
【0062】
(比較例6)
ポリエチレンワックスの添加量を14重量部にしたこと以外は、実施例7と同様の方法で、予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。実施例1と比較すると、比較例1の発泡成形体は寸法精度が悪く、更に圧縮強度が弱くなった。
【0063】
以上の結果から融点100℃以上130℃以下のポリエチレンワックスを添加することで、発泡成形体の摩擦音を防止する効果、及び、最低成形蒸気加熱圧力を下げることができる効果があることが明白である。
【0064】
また、ポリエチレンワックスを曲げ弾性率1300MPa以上1700MPa以下のポリプロピレン樹脂に添加して基材樹脂とすることで、寸法精度の悪化と圧縮強度の低下を実用に耐えられる程度に抑えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K7171に準拠して測定した曲げ弾性率が1300MPa以上1700MPa以下のポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、融点100℃以上130℃以下のポリエチレンワックスを2重量部以上12重量部以下添加してなるポリプロピレン樹脂組成物を基材樹脂としてなるポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子。
【請求項2】
請求項1記載のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子を金型内に充填し加熱して得られるポリプロピレン系樹脂発泡成形体。

【公開番号】特開2009−114359(P2009−114359A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290035(P2007−290035)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】