説明

摩耗検知装置および摩耗検知方法

【課題】対移動する摩耗側部品と対向側部品を配線等で接続することなく、対向側部品に設置された制御装置により摩耗側部品の摩耗状態を適切に検知する。
【解決手段】本発明の摩耗検知装置は、摩耗側部品2に設けられ、摩耗側部品2の摺動面21に沿って配置された先端部41に摩耗検知用ライン43が設けられた摩耗ゲージ4と、対向側部品3に設けられる対向側コイル7と、摩耗側部品2に設けられ、摩耗検知用ライン43に接続され、摩耗側部品2の摺動に伴って対向側コイル7に対して摺動方向に接近または離隔する摩耗側コイル5と、対向側部品3に設けられ、対向側コイル7を含む対向側閉回路11に流れる電流に基づいて摩耗ゲージ4の摩耗状態を検知する制御装置9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗検知装置および摩耗検知方法に関し、特に、産業機械の摺動部の摩耗を検知する摩耗検知装置および摩耗検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械の摺動部の摩耗を検知するための摩耗ゲージとして、例えば特許文献1記載の摩耗ゲージが提案されている。この特許文献1記載の摩耗ゲージは、複数の摩耗検知用ラインを含む摩耗検知回路を絶縁板上に設けたものであり、摺動部の摩耗に伴い摩耗検知用ラインが段階的に摩滅することを利用して、摺動部の摩耗状態を検知する。つまり、摩耗ゲージ先端部の摩耗検知用ラインが摩滅して断線すれば、摩耗ゲージから測定部に電気信号が流れなくなるので、当該断線した摩耗検知用ラインの位置まで摺動部の摩耗が進行したことを把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−164377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、各種の産業機械の摺動部を構成する摩耗側部品と、それに対向する対向側部品のうち、摩耗側部品の摩耗状態を検知する場合、上記特許文献1記載のような摩耗ゲージを、摩耗検知対象である摩耗側部品に設置する必要がある。一方、摩耗ゲージにより得られる摩耗状態の情報を処理する制御装置(特許文献1の測定部)等については、設置スペースや、動作の安定性、装置保護等の観点から、対向側部品に設置することが望ましい。
【0005】
しかしながら、上記のように摩耗側部品に摩耗ゲージを設置し、対向側部品に制御装置等を設置する場合、特許文献1記載のように摩耗ゲージと制御装置の間を電気的に接続することが困難であるという問題があった。例えば、レシプロコンプレッサにおいてシリンダ(対向側部品に相当する。)に対して高速で摺動するピストン(摩耗側部品に相当する。)の摩耗を検知したい場合を考える。この場合、ピストンに設けられた摩耗ゲージと、シリンダに設けられた制御装置とを、配線や接触端子等を用いて電気的に接続することは、非常に困難である。したがって、産業機械の稼働中(摩耗側部品の摺動中)に、摩耗側部品の摩耗ゲージで得られる情報を対向側部品の制御装置に対して好適に伝達し、摩耗側部品の摩耗状態を適切に検知可能な方法が希求されていた。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、相対移動する摩耗側部品と対向側部品を配線等で接続することなく、対向側部品に設置された制御装置により摩耗側部品の摩耗状態を適切に検知することが可能な摩耗検知装置および摩耗検知方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、対向側部品との摺動に伴う摩耗側部品の摩耗を検知する本発明の摩耗検知装置は、摩耗側部品に設けられ、摩耗側部品の摺動面に沿って配置された先端部に摩耗検知用ラインが設けられた摩耗ゲージと、対向側部品に設けられる対向側コイルと、摩耗側部品に設けられ、摩耗検知用ラインに接続され、摩耗側部品の摺動に伴って対向側コイルに対して摺動方向に接近または離隔する摩耗側コイルと、対向側部品に設けられ、対向側コイルを含む対向側閉回路に流れる電流に基づいて摩耗ゲージの摩耗状態を検知する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0008】
摩耗側コイルのコイル軸および対向側コイルのコイル軸は、摩耗側部品の摺動方向に対して平行であるようにしてもよい。
【0009】
対向側閉回路は、交流電源と電流計測用抵抗をさらに含み、摩耗検知装置は、対向側閉回路の電流計測用抵抗に流れる交流電流を直流電流に整流する整流回路と、整流回路により整流された直流電流に対応する直流電圧を基準値と比較し、当該比較結果を示す計測信号を制御装置に出力するコンパレータと、直流電圧を所定時間だけ遅延させることにより、制御装置による検出タイミングを示す検出タイミング信号を生成する遅延回路と、をさらに備え、制御装置は、検出タイミング信号が示す検出タイミングにおける計測信号に基づいて、摩耗ゲージの摩耗状態を検知するようにしてもよい。
【0010】
上記課題を解決するために、対向側部品に設けられる対向側コイルと、対向側部品との摺動に伴って摩耗する摩耗側部品に設けられ、摩耗側部品の摺動面に沿って配置された先端部に摩耗検知用ラインが設けられた摩耗ゲージと、摩耗側部品に設けられ、摩耗検知用ラインに接続され、摩耗側部品の摺動に伴って対向側コイルに対して摺動方向に接近または離隔する摩耗側コイルと、により摩耗側部品の摩耗を検知する、本発明の摩耗検知方法は、摩耗側コイルが対向側コイルに対して摺動方向に接近または離隔したときの対向側コイルを含む対向側閉回路に流れる電流を検出し、検出した電流に基づいて摩耗ゲージの摩耗状態を検知することを特徴とする。
【0011】
上記摩耗検知装置や摩耗検知方法によれば、摩耗側部品の摺動面とともに、摩耗ゲージの先端部が摩耗するので、当該摩耗が進行すれば、摩耗検知用ラインが摩滅して断線する。摩耗検知用ラインが断線していないときには、摩耗側部品の摩耗側コイルと対向側部品の対向側コイルとが電磁的に結合して、対向側閉回路に電流低下が発生するので、対向側部品の制御装置は、摩耗検知用ラインが断線しておらず、摩耗ゲージの摩耗量が摩耗検知用ラインにまで達していないことを検知する。一方、摩耗検知用ラインが断線したときには、摩耗側コイルと対向側コイルとが電磁的に結合せず、対向側閉回路に電流低下が発生しないので、対向側部品の制御装置は、摩耗検知用ラインが断線し、摩耗ゲージの摩耗量が摩耗検知用ラインを超えたことを検知する。これにより、摩耗側部品と対向側部品の間で、摩耗側コイルと対向側コイルによる電磁的結合を利用して、摩耗ゲージの摩耗量を伝達できるので、対向側部品側から摩耗側部品の摺動面の摩耗状態を適切に検知可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、相対移動する摩耗側部品と対向側部品を配線等で接続することなく、対向側部品に設置された制御装置により摩耗側部品の摩耗状態を適切に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る摩耗検知装置が適用されるレシプロコンプレッサのシリンダ機構を示す縦断面図である。
【図2】同実施形態に係る摩耗検知装置の回路構成を示す図である。
【図3】同実施形態に係るコイルがすれ違うときに、閉回路の電流計測用抵抗に印可される電圧波形を示す波形図である。
【図4】同実施形態に係る計測回路の回路構成例を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る摩耗ゲージを示す平面図である。
【図6】同実施形態に係る摩耗検知装置の第1の回路構成例を示す図である。
【図7】同実施形態に係る摩耗検知装置の第2の回路構成例を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る摩耗検知装置の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
[1.第1の実施形態]
【0015】
[1.1.摩耗検知対象の産業機械]
まず、本発明の第1の実施形態に係る摩耗検知装置が適用される産業機械の具体例について説明する。
【0016】
一般に、産業機械は、複数の部材を相対移動させる各種の機構を具備している。このうち、一方の部材を他方の部材に対して接触させながら摺動させる摺動機構では、その摺動部における摩擦により、双方の部材が摩耗する。本実施形態に係る摩耗検知装置は、かかる産業機械の摺動部の摩耗状態、特に、当該摺動部を構成する摩耗側部品と対向側部品のうち摩耗側部品(摺動部材)の摩耗状態を検知するためのものである。以下では、対向側部品に対して摩耗側部品が摺動する例を挙げて説明するが、例えば、レール上を走行体(自動走行台車、気動車等)が移動するシステムにおいて、レールに摩耗側部品を構成し、走行体に対向側部品を構成し、レールの摩耗側部品の構成部位を通過する際に摩耗を検知するといったように、対向側部品が摩耗側部品に対して摺動する場合も本実施形態に含まれる。
【0017】
ここで、産業機械の摺動機構とは、ある部材と他の部材が相対的に摺動するものであれば、任意の機構であってよいが、例えば、往復運動機構や回転機構などが含まれる。ここで、往復運動機構は、レシプロコンプレッサ、レシプロエンジン等におけるシリンダ機構、工作機械等におけるガイドレールを用いたスライド機構などである。回転機構は、コンプレッサ、ガスタービン等に用いられる各種の軸受(例えばスラストベアリング)、工作機械の切削工具、自動車のタイヤやブレーキパッド、工作機械のクラッチやブレーキパッド、圧延機のロールなどが含まれる。
【0018】
以下の説明では主に、産業機械の摺動機構として、レシプロコンプレッサのピストンとシリンダの例を挙げ、摩耗検知対象の摩耗側部品がピストンリングであり、対向側部品がシリンダである場合について説明するが、本発明の摩耗検知対象はかかる例に限定されるものではない。
【0019】
ここで、図1を参照して、本実施形態に係る摩耗検知装置が適用されるレシプロコンプレッサの概略構成について説明する。図1は本実施形態に係る摩耗検知装置が適用されるレシプロコンプレッサ100のシリンダ機構を示す縦断面図である。
【0020】
図1に示すように、レシプロコンプレッサ100は、シリンダ101と、ピストン102と、ピストンロッド103と、ピストンリング104と、プルリング105と、吸入弁106と、排出弁107とを備える。レシプロコンプレッサ100は、無給油式でも給油式であってもよいが、本実施形態では、無給油式のコンプレッサの例について説明する。
【0021】
シリンダ101は、例えば円筒形状を有し、その内部にピストン102が往復運動可能に設置される。シリンダ101やピストン102は、例えば鋳鉄、アルミニウム合金などで形成される。シリンダ101の内周面は、ハードクロームメッキまたは金属溶射を施した後、ホーニング仕上げが施されている。
【0022】
ピストン102は、ピストンロッド103に支持されており、当該ピストンロッド103の下端に連結された不図示のクランク機構により、シリンダ101内を上下に往復する。ピストン102の外周面には、例えば、上下2つのピストンリング104と、中央部に1つのプルリング105が設けられている。ピストンリング104およびプルリング105は、素材自体に潤滑性のあるカーボンまたはポリテトラフルオロエチレン等で形成されている。ピストンリング104は、例えば4または6分割のギャップレスタイプであり、その内側にエキスパンダースプリング(図示せず。)が設けられている。これにより、ピストンリング104の摩耗が進行しても、ギャップができず、スプリングの作用により最低限必要な面圧を維持することができるので、許容摩耗代を大きくとることができ、長寿命化が図れる。また、プルリング105は、ピストン102とシリンダ101とが直接接触することを防止する機能を有する。
【0023】
吸入弁106および排出弁107は、シリンダ101内の空間で気体を圧縮するようにピストン102の往復動作に合わせて開閉する。
【0024】
上記構成のレシプロコンプレッサ100の稼働時には、吸入弁106および排出弁107が適宜開閉しながら、シリンダ101内でピストン102が上下に摺動(往復運運)する。これにより、シリンダ101内に吸入された気体(例えば空気)を圧縮して、高圧の気体を製造することができる。
【0025】
ところで、上記ピストン102の摺動動作中には、ピストン102外周のピストンリング104およびプルリング105がシリンダ101の内周面と接触して摩擦する。したがってピストン102の摺動動作が繰り返されると、ピストンリング104およびプルリング105の外周部が徐々に摩耗していく。このため、ピストンリング104およびプルリング105の摩耗量が許容摩耗代に達したときには、これらリングを交換する必要があり、そのためには、当該摩耗量を検知するための装置を設ける必要がある。以下の説明では、本実施形態に係る摩耗検知装置により、上記レシプロコンプレッサ100のピストンリング104の摩耗量を検知する例について説明する。
【0026】
[1.2.摩耗検知装置の構成]
次に、図2を参照して、本実施形態に係る摩耗検知装置の全体構成について説明する。図2は、本実施形態に係る摩耗検知装置の回路構成を示す図である。
【0027】
図2に示すように、本実施形態に係る摩耗検知装置は、産業機械の摺動部1付近に設置される。この産業機械の摺動部1は、摩耗側部品2と対向側部品3とからなり、摩耗側部品2は、対向側部品3に対して少なくとも一部を接触させながら周期的に摺動する。図示の例では、摩耗側部品2は、対向側部品3に対して所定の摺動方向(例えば図の上下方向)に所定の摺動ストロークで往復運動する。このとき、摩耗側部品2の摺動面21と、対向側部品3の摺動面31とは接触しており(図2では説明の便宜のため非接触で表している。)、上記摺動動作が繰り返されると、摺動面21と摺動面31が擦り合わされて摩耗する。例えば、産業機械がレシプロコンプレッサ100であり、摩耗側部品2が、当該レシプロコンプレッサ100のピストン102外周に設けられたピストンリング104であり、対向側部品3が、当該レシプロコンプレッサ100のシリンダ101である場合を考える。この場合、シリンダ101内でピストン102が往復運動すると、ピストンリング104の外周面(即ち、摺動面21)がシリンダ101の内周面(即ち、摺動面31)と摩擦して、徐々に摩耗する。
【0028】
本実施形態に係る摩耗検知装置は、上記のような摺動動作に伴って摩耗する摩耗側部品2の摺動面21の摩耗状態を検知するためのものである。図2に示すように、摩耗検知装置は、摩耗ゲージ4と、摩耗側コイル5と、マッチング抵抗6と、対向側コイル7と、計測回路8と、制御装置9とを主に備える。これら摩耗検知装置の各構成要素は、産業機械の摩耗側部品2と対向側部品3に分散して配置される。
【0029】
摩耗側部品2には、摩耗ゲージ4と、当該摩耗ゲージ4に接続された摩耗側コイル5およびマッチング抵抗6とが設置される。摩耗ゲージ4は、摩耗側部品2の摺動面21の摩耗を検知する機能を有する。摩耗ゲージ4は、摩耗側部品2の摺動部1付近に設けられ、当該摩耗ゲージ4の先端部41の先端面41aは、摩耗側部品2の摩耗面(即ち、摺動面21)に沿って配置される。この摩耗ゲージ4の先端部には、後述する摩耗検知用ライン43が設置されている。摩耗ゲージ4の先端部41が摩耗して摩耗検知用ライン43が断線すると、摩耗側コイル5が対向側コイル7と電磁的に結合しなくなるが、その詳細については後述する。
【0030】
摩耗側コイル5は、摩耗側部品2に設けられるコイルである。この摩耗側コイル5は、対向側部品3に設けられた対向側コイル7と電磁的に結合することで、摩耗ゲージ4の摩耗検知用ライン43の断線の有無を摩耗側部品2から対向側部品3に伝達する機能を有する。
【0031】
また、マッチング抵抗6は、摩耗側部品2に設けられる抵抗であり、摩耗側コイル5と対向側コイル7の電磁的結合をマッチングする機能を有する。このマッチング抵抗6の抵抗値は、対向側部品3の対向側閉回路11全体の抵抗値に合わせて設定される。例えば、摩耗側コイル5の巻き数と対向側コイル7の巻き数とが同程度であれば、マッチング抵抗6の抵抗値は、電流計測用抵抗13の抵抗値と、交流電源12の内部抵抗の抵抗値との和であることが好ましい。これにより、摩耗側閉回路10全体の抵抗値と、対向側閉回路11全体の抵抗値とが同程度になるので、対向側部品3による検出感度を上昇させることができる。
【0032】
かかる摩耗側コイル5とマッチング抵抗6は、摩耗ゲージ4に接続されて、摩耗側閉回路10(以下、閉回路10という。)を構成する。この閉回路10では、摩耗側コイル5とマッチング抵抗6が直列に接続されている。また、摩耗側コイル5とマッチング抵抗6は、対向側部品3に対する摩耗側部品2の対向面22に沿って配置されている。対向面22と摺動面21は平行であり、図示のように摩耗側部品2の対向面22と摺動面21の間に段差があってもよいし、或いは面一であってもよい。
【0033】
一方、対向側部品3には、対向側コイル7と、計測回路8と、制御装置9が設置される。また、対向側コイル7は、上記摩耗側部品2に設けられた摩耗側コイル5と電磁的に結合することで、摩耗ゲージ4の摩耗検知用ライン43の断線の有無を摩耗側部品2から受信する機能を有する。この対向側コイル7は、交流電源12および電流計測用抵抗13に接続されて、対向側閉回路11(以下、閉回路11という。)を構成する。交流電源12は、閉回路11に交流電圧を印可する。また、電流計測用抵抗13は、交流電源12により閉回路11に流れる電流を電圧換算値として計測するための抵抗である。
【0034】
上記対向側コイル7は、摩耗側部品2に対する対向側部品3の対向面32に沿って配置されている。対向面32と摺動面31は平行であり、図示のように対向側部品3の対向面32と摺動面31とが面一であってもよいし、或いは対向面32と摺動面31の間に段差があってもよい。なお、対向面22と対向面32の間には所定の隙間が設けられるが、摺動部1の構造的制約から対向面22と対向面32が接触していてもよい。対向側コイル7は、摩耗側部品2の摩耗側コイル5と対をなしている。そして、摩耗側部品2が摺動して所定位置に移動したときに、摩耗側コイル5と対向側コイル7とが所定の距離範囲内に接近して対向するように、摩耗側部品2および対向側部品3における当該摩耗側コイル5と対向側コイル7の配置が調整されている。さらに、上記摩耗側コイル5のコイル軸と対向側コイル7のコイル軸とが相互に平行になるように、摩耗側コイル5と対向側コイル7が配置されている。
【0035】
かかる配置により、摩耗側部品2が摺動方向(例えば図の上下方向)に摺動するときに、摩耗側コイル5と対向側コイル7とが当該摺動方向に相互に相対移動して、接近または離隔する。これにより、摩耗側コイル5と対向側コイル7とが所定の距離内に接近したときには、相互に電磁的に結合するが、ある程度離隔したときには、当該電磁的結合が無くなる。
【0036】
この電磁的結合についてより詳細に説明する。対向側部品3の摺動中は、対向側部品3の閉回路11には交流電源12により交流電圧が印可されているため、対向側コイル7には定常の交流電流が流れている。そして、摩耗側部品2に対する対向側部品3の摺動に伴い、摩耗側コイル5が対向側コイル7に対して摺動方向に接近していき、摺動方向にすれ違う。このとき、対向側コイル7により摩耗側コイル5が励起されて、対向側コイル7にとって誘導負荷が生じ、対向側コイル7を含む閉回路11に流れる電流が一時的に低下する。この状態が、対向側コイル7と摩耗側コイル5が電磁的に結合している状態である。その後、摩耗側コイル5が対向側コイル7からある程度離隔すれば、上記誘導負荷も消滅し、対向側コイル7に流れる交流電流も定常状態に戻る。
【0037】
上記のようにして摩耗側コイル5と対向側コイル7とが電磁的に結合可能であるのは、摩耗ゲージ4の摩耗検知用ライン43が断線しておらず、閉回路10が導通しているときである。即ち、摩耗検知用ライン43が断線しているときは、閉回路10に電流が流れないので、対向側コイル7による摩耗側コイル5の励起がほぼ生じず、対向側コイル7にも誘導負荷が生じない。一方、摩耗検知用ライン43が断線していないときは、上記のように摩耗側コイル5が励起されて、対向側コイル7に誘導負荷が生じる。
【0038】
ここで、図3を参照して、上記摩耗側コイル5と対向側コイル7の電磁的な結合により、閉回路11に流れる電流が低下する具体例について説明する。図3は、摩耗側コイル5と対向側コイル7がすれ違うときに、閉回路11の電流計測用抵抗13の両端に生じる電位差の波形(後述する計測回路8による整流後の電圧波形)を示す。図3(a)は、摩耗検知用ライン43が断線しているため、コイル間の電磁的結合が生じない場合の電圧波形であり、図3(b)は、摩耗検知用ライン43が断線していないため、コイル間の電磁的結合が生じる場合の電圧波形である。
【0039】
摩耗検知用ライン43が断線している場合、摩耗側コイル5と対向側コイル7がすれ違ったとしても、両者が電磁的に結合せず、対向側コイル7に誘導負荷が発生しない。このため、図3(a)に示すように、電流計測用抵抗13の両端の電圧は、多少は増減するがほぼ一定値Vである。これに対し、摩耗検知用ライン43が断線していない場合、摩耗側コイル5と対向側コイル7がすれ違うときに、両者が電磁的に結合するので、対向側コイル7に誘導負荷が発生する。このため、図3(b)に示すように、電流計測用抵抗13の両端の電圧が大きく低下する。この際、電圧値は、両コイルがすれ違う当初に大きく立ち下がった後に、多少回復して定常時よりも低い電圧値Vを所定時間維持し、その後、両コイルのすれ違いが完了した時点で、大きく立ち上がり、定常時の電圧値Vとなる。したがって、このようなVからVへの電圧の低下(即ち、閉回路11に流れる電流の低下)を検知すれば、摩耗検知用ライン43が断線していないと判定できる。
【0040】
以上のように、摩耗側コイル5と対向側コイル7は、相互に電磁的に結合することで、摩耗ゲージ4で検知される摩耗に関する情報を摩耗側部品2から対向側部品3に非接触方式で伝達する手段として機能する。
【0041】
また、上記の電磁的結合を確実に行うためには、摩耗側部品2が摺動ストロークのうちの所定位置に移動したときに、摩耗側コイル5のコイル軸と対向側コイル7のコイル軸が相互に平行であり、かつ、摩耗側コイル5と対向側コイル7が所定距離内に接近可能であればよい。さらに、この電磁的結合をできるだけ長時間継続するためには、図2に示すように、摩耗側コイル5のコイル軸および対向側コイル7のコイル軸が、摩耗側部品2の摺動方向に対して平行であることが好ましい。これにより、摩耗側部品2の摺動時に、摩耗側コイル5と対向側コイル7がコイル軸方向にすれ違うので、両者が相互に電磁的に結合する時間を長く確保できる。したがって、閉回路11に流れる電流が低下する時間が長くなり、後述する制御装置9による検知可能時間も長くなるので、当該対向側コイル7の電流低下を容易かつ的確に検知可能となる。しかし、かかる例に限定されず、摩耗側コイル5のコイル軸および対向側コイル7のコイル軸が、摺動方向に対して直交または傾斜していてもよく、この場合でも、上記電磁的な結合により電流低下を実現させることは可能である。
【0042】
また、対向側部品3の対向側コイル7を含む閉回路11には、計測回路8を介して制御装置9が接続されている。計測回路8は、電流計測用抵抗13の両端に接続されており、当該電流計測用抵抗13に流れる交流電流を電圧換算値として計測し、計測信号を制御装置9に出力する。
【0043】
ここで、図4を参照して、計測回路8の具体例について説明する。図4に示す例の計測回路8は、整流回路81と、コンパレータ82と、遅延回路83と、コンパレータ84とを備える。整流回路81は、例えば4つのダイオードからなるブリッジ整流回路で構成され、電流計測用抵抗13の両端に接続される。整流回路81は、電流計測用抵抗13に流れる交流電流を直流電流に整流する。この整流回路81には、遅延回路83、コンパレータ82、84が接続されている。
【0044】
コンパレータ82は、整流回路81により整流された直流電流に対応する直流電圧を、所定の基準電圧値Vrefと比較し、当該比較結果を示す信号(以下、計測信号という)を制御装置9に出力する。例えば、コンパレータ82は、当該直流電圧の電圧値が基準電圧値Vref以上であればHigh信号を、当該基準電圧値Vref未満であればLow信号を出力する。ここでは、基準電圧値VrefをV<Vref<Vに設定するとよい。
【0045】
遅延回路83およびコンパレータ84は、整流回路81で得られる直流電圧の信号を所定時間だけ遅延させることで、制御信号9による検出タイミングを示す検出タイミング信号を生成する。図3(b)に示したように、電流計測用抵抗13に流れる電流の低下(即ち、電流計測用抵抗13に印可される電圧の低下)が開始した時点から所定時間経過後には、当該電圧低下が一定時間安定し、電圧値がVとなる。上記検出タイミング信号は、当該電流低下が安定した時点(例えば、上記図3(b)のA時点)を示す、例えば、立ち上がりまたは立ち下がり信号である。制御装置9には、上記コンパレータ82から計測信号が入力されるが、制御装置9は、その計測信号のうちのどの時点での値を用いて、閉回路11の電圧低下を判断するかを決定する必要がある。そこで、遅延回路83により、上記整流された直流電圧の信号を遅延させ、さらにコンパレータ84により、その遅延信号を基準電圧値Vrefと比較することで、上記検出タイミング信号を生成し、制御装置9に判断するタイミングを提供する。
【0046】
制御装置9は、例えば、マイクロコンピュータなどの演算装置で構成される。この制御装置9は、上記閉回路11の電流計測用抵抗13に流れる電流に基づいて、摩耗ゲージ4の摩耗状態(即ち、摩耗側部品2の摩耗状態)を検知する機能を有する。具体的には、制御装置9は、上記遅延回路83から入力される検出タイミング信号に基づき、上記計測回路8のコンパレータ82から入力される計測信号のうち、当該検出タイミングにおける信号値に基づいて、摩耗ゲージ4の摩耗状態を検知する。
【0047】
上記図3を用いて説明したように、閉回路11に流れる電流値(即ち、電流計測用抵抗13の両端の電圧差)は、摩耗ゲージ4の断線状態(即ち、摩耗ゲージ4の摩耗状態)と相関がある。摩耗ゲージ4が摩滅して断線し、閉回路10が導通していない場合には、摩耗側コイル5と対向側コイル7が電磁的に結合しないので、閉回路11に流れる電流値は低下しない。一方、摩耗ゲージ4が断線していない場合には、摩耗側コイル5と対向側コイル7が電磁的に結合するので、閉回路11に流れる電流値が低下する。
【0048】
したがって、制御装置9は、摩耗側部品2の1回の摺動ストローク中に、閉回路11に流れる電流値が低下したか否かを検知することで、摩耗ゲージ4の摩耗状態を判断することができる。例えば、1回の摺動ストローク中において上記検出タイミングで電流低下が生じている場合には、制御装置9は、摩耗ゲージ4の先端部41が摩耗検知ライン43の位置まで摩耗していないと判断する。一方、1回の摺動ストローク中において上記検出タイミングで電流低下が生じていない場合には、制御装置9は、摩耗ゲージ4の先端部41が少なくとも摩耗検知ライン43の位置以上に摩耗していると判断する。
【0049】
[1.3.摩耗ゲージの構成]
次に、図2を参照して、本実施形態に係る摩耗ゲージ4の構成について説明する。
【0050】
図2に示したように、摩耗ゲージ4は、摩耗検知対象である摩耗側部品2に設置され、その先端部41の摩耗を計測する。摩耗ゲージ4の先端部41が摩耗検知対象部位(即ち、摩耗側部品2の摺動面21)に露出していれば、摩耗ゲージ4は、摩耗側部品2に埋設されてもよいし、摩耗側部品2の側面に貼り付けられてもよい。摩耗ゲージ4の先端部41は、摩耗ゲージ4の長手方向の一側端部であって、摩耗検知対象部位とともに摩耗する部分である。本実施形態では、摩耗ゲージ4の先端部41は、摩耗側部品2の摺動面21に沿って配置され、摩耗ゲージ4の先端面41a(先端部41の端面)が摩耗側部品2の摺動面21と面一となっている。
【0051】
摩耗ゲージ4の本体は、例えば、矩形板状のプリント基板からなり、一般的なプリント基板製造技術を用いて製造可能である。プリント基板の材質は、絶縁材料であれば、ガラスエポキシ等、摩耗検知対象である摩耗側部品2の材質に応じて適宜選択することができる。かかるプリント基板は、リジッド基板またはフレキシブル基板のいずれであってもよい。リジッド基板を用いた場合には、摩耗ゲージ4自体がある程度の剛性を有することとなるので、特殊な保持部材を別途使用することなく、摩耗ゲージ4を摩耗側部品2の検知対象部位に固定可能となる。一方、フィルム状のフレキシブル基板を用いた場合には、摩耗ゲージ4が変形自在となるので、摩耗側部品2の検知対象部位に自由に取り付け可能となる。また、フィルム状であるため、摩耗ゲージ4から発生する摩耗粉は微小であり、摩耗側部品2より柔らかい素材で構成することが可能であるため、摩耗側部品2や対向側部品3の摩耗に及ぼす影響は極めて小さい。
【0052】
かかる摩耗ゲージ4の基板面にはプリントライン42が形成されている。プリントライン42は、電気信号を伝達する配線の一例であり、摩耗ゲージ4の基板外縁部を周回するように延設される。このプリントライン42のうち、摩耗ゲージ4の先端部41に配置される部分が、摩耗検知用ライン43を構成する。この摩耗検知用ライン43は、摩耗ゲージ4の先端部41において摩耗側部品2の摺動面21と平行に延びている。摩耗検知用ライン43は、摩耗ゲージ4の先端面41aに露出して配置されてもよいし、所望する摩耗量に応じた所定距離Lだけ当該先端面41aよりも内側に配置されてもよい。この摩耗検知用ライン43と摩耗ゲージ4の先端面41aとの距離Lが、摩耗ゲージ4で検知可能な摩耗量(基準摩耗量)となる。
【0053】
なお、本実施形態に係る摩耗検知用ライン43は直線状であるが、かかる例に限定されない。摩耗検知用ラインの少なくとも一部が摩耗ゲージ4の先端面41aに沿って配置されていれば、摩耗検知用ラインの形状は、摩耗検知対象部位の形状や範囲に合わせて、曲線状、波状、V字状、コの字型など、任意の形状であってよい。
【0054】
摩耗ゲージ4のプリントライン42の両端部は、一対の端子44、44を介して上記摩耗側コイル5およびマッチング抵抗6を含む閉回路10に接続されている。したがって、摩耗検知用ライン43が断線していなければ、摩耗側コイル5と対向側コイル7が電磁的に結合し、摩耗側コイル5が励起されて摩耗側コイル5に誘導起電力が生じ、閉回路10およびプリントライン42に電流が流れる。これにより、対向側コイル7にとって摩耗側コイル5が誘導負荷となり、対向側部品3の閉回路11に流れる電流を低下させることが可能となる。
【0055】
また、上記摩耗側コイル5およびマッチング抵抗6を含む閉回路10が搭載される基板と、摩耗ゲージ4が搭載される基板を分離し、できるだけ両者を離隔配置してもよい。これにより、摩耗側部品2の摺動面21や摩耗ゲージ4の摩耗粉が、摩耗側コイル5近傍に到達しにくくなるので、当該摩耗粉が摩耗側コイル5と対向側コイル7の電磁的な結合を妨害することを抑制して、当該電磁的な結合を安定的に実現できる。さらに、摩耗ゲージ4や閉回路10が搭載される基板を個々にメンテナンス(交換)することができるので、便利である。
【0056】
以上、摩耗ゲージ4の構成および配置について説明した。上記の摩耗ゲージ4を摩耗側部品2に設置することにより、摩耗側部品2の摺動時に、摩耗側部品2の摺動面21の摩耗に伴って、摩耗ゲージ4の先端部41も同様に摩耗する。したがって、当該摩耗が進行すれば、摩耗ゲージ4の先端部41の摩耗検知用ライン43が摩滅して断線し、閉回路10およびプリントライン42に電流が流れなくなる。このように、本実施形態に係る摩耗ゲージ4は、摩耗検知用ライン43の断線の有無を利用して、先端部41の摩耗状態、即ち、摩耗検知対象部位である摩耗側部品2の摺動面21の摩耗状態を検知する。さらに、摩耗ゲージ4は、その内部回路に電流が流れるか否かによって、摩耗状態を表す情報を伝達する。
【0057】
[1.4.摩耗検知装置による摩耗検知方法]
次に、本実施形態に係る摩耗検知装置を用いて、摩耗側部品2の摺動面21の摩耗状態を検知する方法について説明する。
【0058】
産業機械、例えば図1に示したレシプロコンプレッサ100が稼働して、シリンダ101内をピストン102が繰り返し摺動すると、当該摺動動作により、ピストンリング104の外周面(摩耗側部品2の摺動面21)がシリンダ101の内周面(対向側部品3の摺動面31)と摩擦して、当該摺動面21の摩耗が徐々に進行する。
【0059】
この際、摩耗側部品2の摺動面21の摩耗量が基準摩耗量未満である場合には、上記摩耗ゲージ4の摩耗検知用ライン43が断線していない。したがって、摩耗側部品2においては、摩耗側コイル5に対向側コイル7が接近すれば、摩耗側コイル5に誘導起電力が生じて、閉回路10に電流が流れることが可能な状態である。一方、対向側部品3においては、交流電源12からの電力供給により常時、閉回路11に交流電流が流れている。
【0060】
上記摺動動作中は、摩耗側部品2は対向側部品3に対して摺動方向(例えば図2の上下方向)に所定の摺動ストロークで往復運動しており、両者の対向面22、32は相互に平行でありつつも、摺動方向に相対移動する。このため、摩耗側部品2の摩耗側コイル5は、対向側部品3の対向側コイル7に対して対向する位置に配置されたり、図中の上方または下方にずれた位置に配置されたりすることを繰り返す。
【0061】
そして、上記摺動動作途中に、摩耗側部品2の摩耗側コイル5と対向側部品3の対向側コイル7とが正対するようにして、すれ違う。このとき、摩耗側コイル5は、対向側コイル7と電磁的に結合して誘導起電力を生じ、この誘導起電力により閉回路10およびプリントライン42に電流が流れる。つまり、摩耗側コイル5と対向側コイル7の電磁的な結合により、対向側部品3の交流電源12から摩耗側部品2のマッチング抵抗6に対して給電が生じる。
【0062】
このように摩耗側コイル5と対向側コイル7が周期的にすれ違うときには、対向側コイル7にとって電気的な負荷(結合先の摩耗側コイル5の誘導負荷)が生じるため、対向側部品3の閉回路11に流れる電流が低下する。この結果、計測回路8により計測された閉回路11の電流値が制御装置9に伝達され、制御装置9は、閉回路11の電流低下を検知することで、摩耗ゲージ4の摩耗検知用ライン43が断線していないこと、即ち、摩耗ゲージ4の先端部41および摩耗側部品2の摺動面21の摩耗量が基準摩耗量に達していないことを検知できる。
【0063】
一方、摩耗側部品2の摺動により、摩耗側部品2の摺動面21の摩耗が進行して、その摩耗量が基準摩耗量以上となった場合には、上記摩耗ゲージ4の摩耗検知用ライン43が摩滅して断線する。このように摩耗検知用ライン43が断線すると、プリントライン42の電気抵抗が無限大(絶縁状態)となり、閉回路10が導通しなくなる。したがって、たとえ摩耗側コイル5が対向側コイル7に接近したとしても、両者が電磁的に結合しないので、対向側部品3の閉回路11の電流低下も生じない。
【0064】
したがって、この場合には、摩耗側部品2が1ストローク以上摺動しても、対向側部品3の閉回路11の電流が低下せず、ほぼ一定値を維持する。よって、制御装置9は、閉回路11の一時的な電流の低下が無いことを検知することで、摩耗検知用ライン43が断線したこと、即ち、摩耗ゲージ4の先端部41および摩耗側部品2の摺動面21の摩耗量が基準摩耗量を超えたことを検知することができる。
【0065】
[1.5.効果]
以上説明したように、第1の実施形態に係る摩耗検知装置によれば、摩耗検知用ライン43が摩耗したときの回路の断線を検出することにより、摩耗側部品2の摺動面21の摩耗量が基準摩耗量以上であることを検知することができる。摩耗検知方式としては、摩耗検知用ライン43の断線を利用する単純な方式であるため、振動や水分付着等の外乱に強く、摩耗判定が容易である。また、摩耗ゲージ4を用いて摩耗検知対象の実際の摩耗量を測定するため、誤差のない正確な測定が可能となる。
【0066】
さらに、本実施形態によれば、相対移動する摩耗側部品2と対向側部品3の間において、上記一対のコイルの電磁的結合を利用して、摩耗ゲージ4で得た摩耗状態に関する情報を非接触で伝達することが可能である。このため、対向側部品3に設置された制御装置9は、摩耗側部品2の摺動ストローク中に、対向側部品3の閉回路11に流れる電流を連続的に計測して、当該電流の一時的な低下の有無を検知することにより、摩耗ゲージ4の断線有無、即ち、摩耗側部品2の摩耗有無を検知することができる。したがって、摩耗側部品2と対向側部品3を配線や端子等を用いて電気的に接続することなく、対向側部品3の制御装置9により、摩耗側部品2の摩耗状態を適切に検知することが可能となる。
【0067】
また、摩耗側部品2に摩耗側コイル5を設置し、対向側部品3に対向側コイル7と交流電源12を設置することで、対向側部品3から摩耗側部品2に対して非接触で給電することができる。したがって、摩耗側部品2と対向側部品3を、給電ラインを用いて電気的に接続しなくてもよいので、摺動部材である摩耗側部品2に対する給電構造を簡素化および安定化できる。さらに、摩耗側部品2に電池等の電源を設置しなくてもよいので、摩耗側部品2における電池の交換等といったメンテナンス作業を省略でき、電池の寿命を気にすることなく、摩耗側部品2に安定的に給電することができる。
【0068】
また、本実施形態に係る摩耗検知方法は、産業機械の稼働中、即ち摩耗側部品2の摺動動作中に、摩耗側部品2の摺動面21の摩耗状態を検知することができる。したがって、摩耗側部品2の摺動動作を停止することなく、当該摩耗側部品2の摩耗状態をリアルタイムで検知できるので、産業機械の稼働率を向上でき、摩耗検知のための時間と費用を削減できる。
【0069】
[2.第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る摩耗検知装置について説明する。第2の実施形態に係る摩耗検知装置は、上記第1の実施形態と比べて、摩耗ゲージに複数の摩耗検知用ラインを設け、摩耗側部品の摩耗量を段階的に検知する点で相違し、その他の機能構成は上記第1の実施形態と同様であるので、その詳細説明は省略する。
【0070】
[2.1.摩耗ゲージの構成]
まず、図5を参照して、本発明の第2の実施形態に係る摩耗ゲージ40について説明する。図5は、本実施形態に係る摩耗ゲージ40を示す平面図である。
【0071】
図5(a)に示すように、第2の実施形態に係る摩耗ゲージ40の本体は、例えば、矩形板状のプリント基板からなり、一般的なプリント基板製造技術を用いて製造可能である。このプリント基板の種類や材質は、第1の実施形態に係る摩耗ゲージ4と同様のものを使用できる。
【0072】
かかる摩耗ゲージ40の基板面には、複数のプリントライン42A〜42E(以下、「プリントライン42」と総称する場合がある。)が形成されている。これらのプリントライン42A〜42Eのうち、摩耗ゲージ40の先端部41に配置される部分がそれぞれ、摩耗検知用ライン43A〜43Eを構成する。また、上記各プリントライン42の一端部(即ち、各摩耗検知用ライン43A〜43Eの端部)はそれぞれ、外部接続用の端子47A〜47Eに接続されている。当該各プリントライン42の他端部はともに、1本の共通プリントライン45に接続されており、当該共通プリントライン45の端部は、外部接続用の共通端子46に接続されている。
【0073】
このように、第2の実施形態に係る摩耗ゲージ40の先端部41には、複数の摩耗検知用ライン43A〜43E(以下、「摩耗検知用ライン43」と総称する場合がある。)が相互に間隔を空けて配置されている。これら複数の摩耗検知用ライン43はいずれも、摩耗側部品2の摺動方向および先端面41aに対して平行に配置されている。
【0074】
摩耗検知用ライン43Aは、摩耗ゲージ40の先端面41aに最も近い位置(距離L1)に形成されている。図示の例では、摩耗検知用ライン43Aと先端面41aの距離L1はゼロ超であるが、L1=0として、摩耗検知用ライン43Aを先端面41aに露出させてもよい。摩耗検知用ライン43Bは、先端面41aから距離L2の位置に形成されている。同様に、他の摩耗検知用ライン43C、43D、43Eは、先端面41aから距離L3、L4、L5の位置にそれぞれ形成されている。距離L1〜L5はそれぞれ、序数が大きいほど距離が長くなっている。これら摩耗検知用ライン43A〜43Eと摩耗ゲージ40の先端面41aとの距離L1〜L5が、摩耗ゲージ40で検知可能な摩耗量となる。
【0075】
なお、図示の例では、5本の摩耗検知用ライン43が設けられているが、かかる例に限定されず、任意の複数本の摩耗検知用ライン43を設けてもよい。また、摩耗検知用ライン43の形状も、図示のような直線状に限られず、摩耗検知対象部位の形状や範囲に合わせて、曲線状、波状、V字状、コの字型など、任意の形状であってよい。さらに、摩耗検知用ライン43の相互間隔も、検知したい摩耗量に合わせて任意に設定可能である。
【0076】
かかる摩耗ゲージ40は、第1の実施形態と同様に、摩耗検知対象である摩耗側部品2に設置される。この際、摩耗ゲージ40の先端部41は、摩耗側部品2の摺動面21に沿って配置され、摩耗ゲージ40の先端面41aは、摩耗検知対象部位である摩耗側部品2の摺動面21と面一となる。かかる摩耗ゲージ40の先端部41は、摩耗検知対象部位とともに摩耗し、複数の摩耗検知用ライン43が段階的に摩滅することで、摩耗検知対象部位の摩耗量を段階的に計測する。
【0077】
図5(b)は、摩耗ゲージ40の先端部41が、先端面41aから距離L6(L1<L6<L2)だけ摩耗した状態を示す。この場合、最も外側の摩耗検知用ライン43Aは摩滅しているので、プリントライン42Aは断線するが、その内側の摩耗検知用ライン43B〜43Eはいずれも摩耗しておらず、プリントライン42B〜42Eは導通している。このように、摩耗ゲージ40は、複数の摩耗検知用ライン43の断線の有無によって、摩耗検知対象部位(摩耗側部品2の摺動面21)の摩耗量を段階的に計測することができる。
【0078】
産業機械の稼働時には、摩耗側部品2と対向側部品3との摺動により、摩耗側部品2の摺動面21の摩耗が進行し、それに伴い、摩耗ゲージ40の先端部41も摩耗する。そして、摩耗量がL1を超えたときに、摺動面21に最も近い摩耗検知用ライン43Aが摩滅して断線し、プリントライン42Aの導通が遮断される。さらに、摩耗側部品2の摩耗とともに、摩耗ゲージ40がさらに摩耗し、摩耗量がL2を超えたときに、次の摩耗検知用ライン43Bも摩滅して断線する。同様に、摩耗ゲージ40の摩耗がさらに進行するにつれ、摩耗検知用ライン43C、43D、43Eが順次摩滅して、断線することにより、摩耗量がL3〜L5を超えたことを計測できる。
【0079】
この摩耗ゲージ40の先端部41の摩耗量L1〜L5は、摩耗側部品2の摺動面21の摩耗量と同一であるため、摩耗ゲージ40の先端部41の摩耗量を段階的に計測することにより、摩耗側部品2の摩耗量を段階的に検知することができる。以上のように、本実施形態に係る摩耗ゲージ40は、複数の摩耗検知用ライン43の断線を利用して、摩耗側部品2の摩耗量を連続的に多段階で計測できることを特徴としている。以下に、かかる摩耗ゲージ40による計測情報を制御装置9に伝達するための回路構成について説明する。なお、以下の回路構成例では、説明の便宜上、摩耗ゲージ40に3本の摩耗検知ライン43を設ける例について説明するが、上記図5のように5本の摩耗検知ライン43A〜43Eを設ける場合や、その他任意の複数本の摩耗検知ライン43を設ける場合も同様である。
【0080】
[2.2.摩耗検知装置の第1の回路構成例および動作]
まず、図6を参照して、上記摩耗ゲージ40に対応した摩耗検知装置の第1の回路構成例について説明する。図6は、本実施形態に係る摩耗検知装置の第1の回路構成例を示す図である。
【0081】
図6に示すように、第1の回路構成例では、摩耗ゲージ40の複数の摩耗検知用ライン43A〜43Cにそれぞれ対応するように、摩耗側部品2に、複数の摩耗検知用回路が設置されている。一方、対向側部品3においては、摩耗検知用回路は1つだけ設置され、共通化されている。即ち、第1の回路構成例の摩耗検知装置は、摩耗側部品2に設置される複数対の摩耗側コイル5A〜5Cおよびマッチング抵抗6A〜6Cと、対向側部品3に設置される一対の対向側コイル7および計測回路8とを備える。
【0082】
摩耗側部品2においては、3本の摩耗検知用ライン43A〜43Cに対応して、3つの閉回路10A〜10Cが設けられている。各閉回路10A〜10Cには、一対の摩耗側コイル5A〜5Cおよびマッチング抵抗6A〜6Cがそれぞれ設置される。例えば、閉回路10Aは、摩耗側コイル5Aとマッチング抵抗6Aを含み、当該閉回路10Aの両端は、摩耗ゲージ40の共通端子46と端子47Aを介して、摩耗検知用ライン43Aに接続されている。摩耗検知用ライン43Aの導通時には、閉回路10Aに電流が流れるため、摩耗側コイル5Aは対向側コイル7と電磁的に結合可能であるが、摩耗検知用ライン43Aの断線時には、閉回路10Aに電流が流れないため、摩耗側コイル5Aは対向側コイル7と電磁的に結合不能である。他の摩耗検知用ライン43B〜43Cおよび摩耗側コイル5B〜5Cについても同様である。
【0083】
一方、対向側部品3においては、上述の第1の実施形態と同様に1つの閉回路11のみが設けられており、当該閉回路11には、対向側コイル7、交流電源12および電流計測用抵抗13が設置される。上記摩耗側部品2の3つの摩耗側コイル5A〜5Cは、摩耗側部品2の摺動方向に並んで配列されており、対向側部品3の対向側コイル7は、摩耗側部品2の摺動中に3つの摩耗側コイル5A〜5Cに対してそれぞれ対向可能に配置されている。また、閉回路11の電流計測用抵抗13の両端に、計測回路8(図4参照。)が接続されており、閉回路11は当該計測回路8を介して制御装置9に接続されている。これにより、閉回路11の電流計測用抵抗13に流れる電流値を計測した計測信号が、制御装置9の入力端子に入力される。
【0084】
以上のような回路構成により、摩耗側部品2の摺動中に、対向側部品3の対向側コイル7は、摩耗側部品2の各摩耗側コイル5A〜5Cと順次対向してすれ違う。この際、摩耗検知ライン43A〜43Cが断線していなければ、対向側コイル7と各摩耗側コイル5A〜5Cが順次、電磁的に結合し、それぞれの結合時において、対向側部品3の閉回路11に流れる交流電流が一時的に低下する。図示の例では、1回の摺動ストローク中において対向側コイル7が3つの摩耗側コイル5A〜5Cとすれ違うときに、それぞれ1回、合計3回の電流低下が発生する。
【0085】
一方、摩耗検知ライン43A〜43Cの少なくともいずれかが断線している場合、当該断線した摩耗検知ライン43に接続された摩耗側コイル5は、対向側コイル7と電磁的に結合しない。このため、当該摩耗側コイル5と対向側コイル7がすれ違っても、対向側部品3の閉回路11の電流低下が発生しない。例えば、摩耗検知用ライン43Aが断線している場合には、摩耗側コイル5Aと対向側コイル7とがすれ違ったとしても、摩耗側コイル5Aは対向側コイル7と電磁的に結合しないので、閉回路11の電流低下は発生しない。他の摩耗検知用ライン43B〜43Cや摩耗側コイル5B〜5Cについても同様である。
【0086】
したがって、摩耗により断線した摩耗検知ライン43の本数分だけ、閉回路11の電流低下の発生回数が減少する。例えば、摩耗検知ライン43Aが断線し、摩耗検知ライン43B、43Cが導通している場合、1回の摺動ストローク中における閉回路11の電流低下の発生回数は2回である。また、摩耗検知ライン43Aおよび43Bが断線し、摩耗検知ライン43Cが導通している場合、1回の摺動ストローク中における閉回路11の電流低下の発生回数は1回である。そして、摩耗検知ライン43A〜43Cの全てが断線すると、閉回路11の電流低下が発生しなくなる。
【0087】
このように、各摩耗側コイル5A〜5Cと対向側コイル7の電磁的な結合による閉回路11の電流低下の発生回数を利用して、摩耗ゲージ40の各摩耗検知用ライン43A〜43Cの断線の有無を、摩耗側部品2から対向側部品3に伝達することができる。したがって、制御装置9は、1回の摺動ストローク中における閉回路11の電流低下の発生回数に基づいて、摩耗検知用ライン43A〜43Cの断線の有無を検知して、摩耗側部品2の摩耗量が、0〜L3の範囲内のどの程度であるかを段階的に検知できる。
【0088】
上記のように、計測回路8は、閉回路11の電流低下の計測結果を示す計測信号を制御装置9に出力する。摩耗検知用ライン43A〜43Cがいずれも断線していない場合、制御装置9の入力端子には、1回の摺動ストローク中に3回の電流低下を示す計測信号が入力される。当該3回の電流低下は、対向側コイル7が各摩耗検知用ライン43A〜43Cに接続された全ての摩耗側コイル5A〜5Cと電磁的に結合したことを表す。
【0089】
制御装置9は、上記計測回路8から入力された検知タイミング信号に基づき計測信号の値を検出し、当該検出した値を、予め設定された閾値と比較することで、電流低下の有無を判定する。そして、制御装置9は、1回の摺動ストロークにおける電流低下の発生回数をカウントすることで、3本の摩耗検知用ライン43A〜43Cの断線の有無を判定する。例えば、電流低下の発生回数が3回である場合には、制御装置9は、全ての摩耗検知用ライン43A〜43Cが断線しておらず、摩耗側部品2の摩耗量がL1未満であると判定する。一方、電流低下の発生回数が2回である場合には、制御装置9は、摩耗検知用ライン43Aのみが断線し、その他の摩耗検知用ライン43B、43Cが断線しておらず、摩耗側部品2の摩耗量がL1以上、L2未満であると判定する(図5参照。)。なお、図示はしないが、電流低下の発生回数が1、0である場合も同様にして、制御装置9は、摩耗検知用ライン43A〜43Cの断線の有無と、摩耗量を判定することができる。
【0090】
以上のように、制御装置9は、1回の摺動ストローク中における閉回路11の電流低下の発生回数に基づいて、摩耗検知用ライン43A〜43Cの断線の有無を検知することができる。このような対向側部品3の制御装置9によって、摩耗側部品2の摩耗状態を多段階で検知することができる。
【0091】
また、第1の回路構成例によれば、対向側部品3の摩耗検知用回路(対向側コイル7、交流電源12、閉回路11および計測回路8)が共通化されている。これにより、対向側部品3に摩耗検知用回路を1つだけ設けることによって、次に説明する第2の回路構成例よりも、電子部品数を削減して低コスト化を実現できる。さらに、制御装置9に対する入力が1つで済むので、安価な制御装置を適用でき、適用幅が広がる。
【0092】
[2.3.摩耗検知装置の第2の回路構成例および動作]
次に、図7を参照して、上記摩耗ゲージ40に対応した摩耗検知装置の第2の回路構成例について説明する。図7は、本実施形態に係る摩耗検知装置の第2の回路構成例を示す図である。
【0093】
図7に示すように、第2の回路構成例では、摩耗ゲージ40の複数の摩耗検知用ライン43A〜43Cにそれぞれ対応するように、摩耗側部品2に、複数の摩耗検知用回路が設置されるとともに、対向側部品3にも、複数の摩耗検知用回路が設置されている。即ち、第2の回路構成例の摩耗検知装置は、摩耗側部品2に設置される複数対の摩耗側コイル5A〜5Cおよびマッチング抵抗6A〜6Cと、対向側部品3に設置される複数対の対向側コイル7A〜7Cおよび計測回路8A〜8Cとを備える。
【0094】
摩耗側部品2においては、3本の摩耗検知用ライン43A〜43Cに対応して、3つの閉回路10A〜10Cが設けられ、各閉回路10A〜10Cには、一対の摩耗側コイル5A〜5Cおよびマッチング抵抗6A〜6Cがそれぞれ設置されている。この摩耗側部品2の回路構成は、上記第1の回路構成例(図6参照。)と同様であるので、詳細説明は省略する。
【0095】
一方、対向側部品3においては、3本の摩耗検知用ライン43A〜43Cに対応して、3つの閉回路11A〜11Cが設けられており、当該各閉回路11A〜11Cには、対向側コイル7A〜7C、交流電源12A〜12Cおよび電流計測用抵抗13A〜13Cがそれぞれ設置される。各対向側コイル7A〜7Cは摩耗側部品2の摩耗側コイル5A〜5Cにそれぞれ対向可能に配置されている。図示の例では、摩耗側コイル5Aと対向側コイル7Aが対向すると同時に、摩耗側コイル5Bと対向側コイル7Bが対向し、摩耗側コイル5Cと対向側コイル7Cが対向するようになっている。
【0096】
また、各閉回路11A〜11Cの電流計測用抵抗13A〜13Cの両端にはそれぞれ、計測回路8A〜8Cが接続されており、各閉回路11A〜11Cは当該各計測回路8A〜8Cを介して独立的に制御装置9に接続されている。これにより、各閉回路11A〜11Cの電流計測用抵抗13A〜13Cに流れる電流値を計測した計測信号が、制御装置9の入力端子に入力される。
【0097】
以上のような回路構成により、摩耗側部品2の摺動中に、対向側部品3の各対向側コイル7A〜7Cは、摩耗側部品2の各摩耗側コイル5A〜5Cと同時に対向してすれ違う。この際、摩耗検知ライン43A〜43Cが断線していなければ、3対の対向側コイル7A〜7Cと各摩耗側コイル5A〜5Cとが同時に電磁的に結合し、それぞれの結合時において、対向側部品3の閉回路11A〜11Cに流れる交流電流が一時的に低下する。
【0098】
一方、摩耗検知ライン43A〜43Cの少なくともいずれかが断線している場合、当該断線した摩耗検知ライン43に接続された摩耗側コイル5は、対応する対向側コイル7と電磁的に結合しないので、当該対向側コイル7を含む閉回路11の電流低下が発生しない。例えば、摩耗検知用ライン43Aが断線している場合には、摩耗側コイル5Aと対向側コイル7Aとがすれ違ったとしても、摩耗側コイル5Aは対向側コイル7Aと電磁的に結合しないので、閉回路11Aの電流低下は発生しない。他の摩耗検知用ライン43B〜43Cや摩耗側コイル5B〜5C、閉回路11B〜11Cについても同様である。
【0099】
かかる回路構成においては、3つの対向側コイル7A〜7Cと3つの摩耗側コイル5A〜5Cをそれぞれ対応させ、同時に対向する3対の対向側コイル7と摩耗側コイル5を用いて、各摩耗検知ライン43A〜43Cの断線の有無を個別に検出することが好ましい。つまり、一対の摩耗側コイル5Aと対向側コイル7Aで摩耗検知ライン43Aの断線の有無を検知すると同時に、一対の摩耗側コイル5Bと対向側コイル7Bで摩耗検知ライン43Bの断線の有無を検知し、一対の摩耗側コイル5Cと対向側コイル7Cで摩耗検知ライン43Cの断線の有無を検知すればよい。これにより、摩耗側部品2の摺動ストロークが短い場合や、設置スペースの制約により摩耗側コイル5A〜5Cを摺動方向に対して垂直方向に配列する場合などであっても、全ての摩耗検知ライン43A〜43Cの断線の有無を同時に検知可能となる。なお、図7に示す第2の回路構成例でも、第1の回路構成例と同様に、3つの対向側コイル7A〜7Cのいずれか1つを用いて、摩耗側コイル5A〜5Cの全てに対して順次、電磁的に結合させ、3本の摩耗検知ライン43A〜43Cの全ての断線の有無を検出することも可能である。
【0100】
以上のような回路構成により、摩耗側部品2の摺動中に、対向側部品3の各対向側コイル7A〜7Cがそれぞれ、摩耗側部品2の各摩耗側コイル5A〜5Cと対向してすれ違う。この際、摩耗検知ライン43A〜43Cが断線していなければ、各対向側コイル7A〜7Cと各摩耗側コイル5A〜5Cが同時に電磁的に結合し、対向側部品3の閉回路11A〜11Cに流れる交流電流が一時的に低下する。
【0101】
一方、摩耗検知ライン43A〜43Cの少なくともいずれかが断線している場合、当該断線した摩耗検知ライン43に接続された摩耗側コイル5は、対向側コイル7A〜7Cと電磁的に結合しない。このため、当該摩耗側コイル5と対向側コイル7A〜7Cがすれ違っても、対向側部品3の閉回路11の電流低下が発生しない。例えば、摩耗検知用ライン43Aが断線している場合には、摩耗側コイル5Aと対向側コイル7Aとがすれ違ったとしても、摩耗側コイル5Aは対向側コイル7Aと電磁的に結合しないので、閉回路11の電流低下は発生しない。他の摩耗検知用ライン43B〜43Cや摩耗側コイル5B〜5Cについても同様である。
【0102】
したがって、摩耗により断線した摩耗検知ライン43に対応する閉回路11には、電流低下が発生しない。例えば、摩耗検知ライン43Aが断線し、摩耗検知ライン43B、43Cが導通している場合、3対の摩耗側コイル5A〜5Cと対向側コイル7A〜7Cとが同時に対向したとき、摩耗検知ライン43Aに対応する閉回路11Aには、電流低下が発生しないが、摩耗検知ライン43B、43Cに対応する閉回路11B、11Cには、電流低下が発生する。よって、制御装置9は、各摩耗検知ライン43A〜43Cに対応する閉回路11A〜11Cの電流低下の発生の有無を検知することで、各摩耗検知ライン43A〜43Cの断線の有無を検知可能である。
【0103】
なお、上記のような摩耗検知ライン43Aのみが断線している場合であっても、各対向側コイル7A〜7Cは、断線していない摩耗検知ライン43B、43Cに接続された摩耗側コイル5B、5Cと順次すれ違うので、1回の摺動ストローク中において、各閉回路11A〜11Cには2回の電流低下が発生する。また、摩耗検知ライン43Aおよび43Bが断線し、摩耗検知ライン43Cが導通している場合、1回の摺動ストローク中における各閉回路11A〜11Cの電流低下の発生回数は1回である。したがって、第1の回路構成例と同様に、制御装置9は、各閉回路11A〜11Cの電流低下の発生回数に基づいて、摩耗検知用ライン43A〜43Cの断線の有無を検知することも可能である。
【0104】
以上のように、複数対の摩耗側コイル5A〜5Cと対向側コイル7A〜7Cの電磁的な結合による閉回路11A〜11Cの電流低下の有無、或いは発生回数を利用して、摩耗ゲージ40の各摩耗検知用ライン43A〜43Cの断線の有無を、摩耗側部品2から対向側部品3に伝達することができる。したがって、制御装置9は、1回の摺動ストローク中における閉回路11A〜11Cの電流低下の有無、或いは閉回路11の電流低下の発生回数に基づいて、摩耗検知用ライン43A〜43Cの断線の有無を検知することができる。よって、制御装置9は、摩耗側部品2の摩耗量が、0〜L3の範囲内のどの程度であるかを段階的に検知でき、摩耗側部品2の摩耗状態を多段階で検知することができる。
【0105】
さらに、第2の回路構成例によれば、複数の摩耗検知ライン43A〜43Cに対応する複数対の摩耗側コイル5A〜5Cおよび対向側コイル7A〜7Cを設置しているので、各摩耗検知ライン43A〜43Cの断線の有無に関する情報を同時に、摩耗側部品2から対向側部品3に伝達することができる。さらに、摩耗側部品2の摺動ストロークが短い場合や、設置スペースの制約により、摩耗側部品2の対向面22に沿って複数の摩耗側コイル5A〜5Cを摺動方向に配列できない場合であっても、各摩耗検知ライン43A〜43Cの断線の有無に関する情報を摩耗側部品2から対向側部品3に好適に伝達できる。
【0106】
[2.4.効果]
以上説明したように、第2の実施形態の摩耗検知装置によれば、第1の実施形態に係る効果に加えて、以下の効果がある。
【0107】
即ち、本実施形態によれば、摩耗ゲージ40に複数の摩耗検知用ライン43A〜43Cを設置するとともに、摩耗側部品2に、各摩耗検知用ライン43A〜43Cに接続される複数の摩耗側コイル5A〜5Cを設ける。また、対向側部品3には、複数の摩耗側コイル5A〜5Cに対して順次、電磁的に結合可能な1つの対向側コイル7を設けるか、または摩耗側コイル5A〜5Cに対して同時に電磁的に結合可能な複数の対向側コイル7A〜7Cを設ける。そして、摩耗側部品2の摩耗に伴って摩耗ゲージ40が摩耗し、摩耗検知用ライン43A〜43Cが順次断線したときに、摩耗側コイル5A〜5Cと対向側コイル7(7A〜7C)の電磁的結合の有無を利用して、当該断線を表す情報を、摩耗側部品2から対向側部品3に伝達する。これにより、制御装置9は、上記電磁的結合による閉回路11の電流低下の有無、或いは、電流低下の有無の発生回数に基づいて、摩耗検知用ライン43A〜43Cの断線の有無を検知することができる。
【0108】
したがって、摩耗側部品2と対向側部品3を複数の配線等で電気的に接続しなくても、対向側部品3の制御装置9は、摩耗側部品2の摩耗量を多段階で適切に検知することができる。よって、摩耗側部品2の摩耗量の変化を段階的に把握できるため、摩耗量の変化の傾向を把握でき、摩耗側部品2の余寿命と最適なメンテナンスの時期を予測することが可能となる。
【0109】
[3.第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態に係る摩耗検知装置について説明する。第3の実施形態に係る摩耗検知装置は、上記第1の実施形態と比べて、摩耗側コイルおよび対向側コイルの配置が相違し、その他の機能構成は上記第1の実施形態と同様であるので、その詳細説明は省略する。
【0110】
上述した第1の実施形態では、図2に示すように、摩耗側コイル5は、摩耗側部品2の摺動方向と平行な対向面22(摺動面21)に沿って配置され、および対向側コイル7も、当該摺動方向と平行な対向面32(摺動面31)に沿って配置されている。ところが、摩耗側部品2の摺動中は、対向面22と対向面32が摺動方向に相対移動するため、摩耗側コイル5と対向側コイル7も摺動方向に相対移動する。したがって、摩耗側部品2が高速で摺動する場合には、コイル間の電磁的な結合を瞬時に行うことが要求されるので、計測のタイミングを取ることが困難であるとともに、計測時間を短時間で行わなければならず、計測精度を向上し難いという問題があった。
【0111】
そこで、第3の実施形態では、かかる問題を解決するために、摩耗側部品2における摩耗側コイル5の配置と、対向側部品3における対向側コイル7の配置を変更したことを特徴とする。以下に、第3の実施形態に係る摩耗検知装置の構成について詳述する。
【0112】
[3.2.摩耗検知装置の構成]
まず、図8を参照して、本発明の第3の実施形態に係る摩耗検知装置の全体構成について説明する。図8は、本実施形態に係る摩耗検知装置の回路構成を示す図である。なお、図8(a)は、摩耗側部品2が摺動ストロークの端部に移動して、一時停止した状態を示し、図8(b)は、摩耗側部品2が摺動ストロークの中央付近で移動中の状態を示す。
【0113】
図8に示すように、第3の実施形態に係る摩耗検知装置では、摩耗側コイル5と対向側コイル7が電磁的に結合する箇所を、摩耗側部品2の摺動方向(図8の上下方向)と平行な対向面22、32(摩耗側部品2の摺動ストロークの途中)ではなく、当該摺動方向と垂直な対向面23、33(即ち、摩耗側部品2の摺動ストロークの端部)に配置する。
【0114】
このために、摩耗側部品2の摺動方向の一側端部と対向する対向部34が、対向側部品3に設けられている。この対向側部品3の対向部34は、対向側部品3の本体部から摩耗側部品2側に向けて突出形成された部分である。対向部34は、摺動する摩耗側部品2と衝突せず、かつ、摺動ストロークの端部に移動した摩耗側部品2と近接する位置に設置される。この対向側部品3の対向部34の対向面33は、摺動方向に対して垂直であり、摩耗側部品2の摺動方向の一側端部の対向面23と対向する。そして、かかる対向部34の対向面33に沿って対向側コイル7が配置される。
【0115】
一方、摩耗側部品2には、摺動方向の一側端部の対向面23に沿って摩耗側コイル5が配置される。このとき、摩耗側コイル5と対向側コイル7とが摺動方向に対向するように配置される。かかる摩耗側コイル5およびマッチング抵抗6は、閉回路10により摩耗ゲージ4に接続されている。また、上記摩耗側コイル5のコイル軸と対向側コイル7のコイル軸とが相互に平行になるように摩耗側コイル5と対向側コイル7が配置される。また、コイル間の電磁的な結合を好適に実現するため、摩耗側コイル5のコイル軸および対向側コイル7のコイル軸が、摩耗側部品2の摺動方向に対して垂直であることが好ましいが、かかる例に限定されず、これらコイル軸が摺動方向に平行であってもよい。
【0116】
かかる配置により、摩耗側部品2の摺動中に、当該摩耗側部品2が摺動ストロークの端部に移動して一次停止したときに(図8(a)参照。)、摩耗側部品2の一側端部の対向面23と対向側部品3の対向部34の対向面33とが、最も接近した状態で相互に対向する。このとき、摩耗側コイル5は対向側コイル7に接近し、摩耗検知用ライン43が断線していない場合には、摩耗側コイル5と対向側コイル7が電磁的に結合して、閉回路11の電流計測用抵抗13に流れる電流が低下する。
【0117】
したがって、摺動ストロークの端部において摩耗側部品2の移動速度が最も遅くなるときに、摩耗側コイル5と対向側コイル7を最も近接させた状態で対向させることができるので、これらコイル間での電磁的な結合を的確に実現することができる。よって、計測タイミングが取りやすくなり、比較的長い計測時間を確保できるので、対向側部品3から摩耗側部品2の摩耗量状態の計測を容易かつ正確に行うことが可能となる。さらに、摩耗側部品2の摺動面21や摩耗ゲージ4の摩耗粉が、摩耗側コイル5およびマッチング抵抗6の近傍に到達しにくくなるので、当該摩耗粉が摩耗側コイル5と対向側コイル7の電磁的な結合を妨害することを抑制して、当該電磁的な結合を安定的に実現できる。
【0118】
なお、図8の例では、対向面23、33が摺動方向に対して垂直であったが、かかる例に限定されない。例えば、対向面23、33が摺動方向に対して傾斜していても、上記と同様に電磁的に結合することが可能である。
【0119】
また、図8の例では、摩耗側部品2の一側端部の対向面23に摩耗側コイル5を配置したが、かかる例に限定されない。例えば、摩耗側部品2の一側端部の近傍の対向面22に摩耗側コイル5を配置し、これに対向するようにして対向側部品3の対向面32に対向側コイル7を配置してもよい。これによっても、摩耗側部品2の移動速度が遅くなる箇所で、これら素子を対向させることができるので、計測タイミングや計測時間に関して、ほぼ同様の効果が得られる。
【0120】
また、図8の例では、摩耗ゲージ4には摩耗検知用ライン43を1本だけ設けたが、かかる例に限定されない。第2の実施形態の摩耗ゲージ40のように複数本の摩耗検知用ライン43A〜43Cを設け、各摩耗検知用ライン43A〜43Cに接続される複数の摩耗検知用回路を、摩耗側部品2の一側端部に設けてもよい。これにより、摩耗側部品2の摩耗量を多段階で検知可能となる。
【0121】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0122】
例えば、上述した実施形態では、摩耗検知装置の具体的構成について説明したが、摩耗検知装置を用い、摩耗側コイルが対向側コイルに対して摺動方向に接近または離隔したときの対向側コイルを含む対向側閉回路に流れる電流を検出し、検出した電流に基づいて摩耗ゲージの摩耗状態を検知する摩耗検知方法も提供される。また、摩耗検知装置の各構成要素に基づく処理や動作は当該摩耗検知方法にも適用される。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明は、産業機械の摺動部の摩耗を検知する摩耗検知装置および摩耗検知方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0124】
1 …摺動部
2 …摩耗側部品
3 …対向側部品
4、40 …摩耗ゲージ
5 …摩耗側コイル
6 …マッチング抵抗
7 …対向側コイル
8 …計測回路
9 …制御装置
10、11 …閉回路
12 …交流電源
13 …電流計測用抵抗
21、31 …摺動面
22、32 …対向面
23、33 …対向面
34 …対向部
41 …先端部
41a …先端面
42 …プリントライン
43 …摩耗検知用ライン
44 …端子
45 …共通プリントライン
46 …共通端子
47 …端子
81 …整流回路
82 …コンパレータ
83 …遅延回路
84 …コンパレータ
100 …レシプロコンプレッサ
101 …シリンダ
102 …ピストン
103 …ピストンロッド
104 …ピストンリング
105 …プルリング
106 …吸入弁
107 …排出弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向側部品との摺動に伴う摩耗側部品の摩耗を検知する摩耗検知装置において、
前記摩耗側部品に設けられ、前記摩耗側部品の摺動面に沿って配置された先端部に摩耗検知用ラインが設けられた摩耗ゲージと、
前記対向側部品に設けられる対向側コイルと、
前記摩耗側部品に設けられ、前記摩耗検知用ラインに接続され、前記摩耗側部品の摺動に伴って前記対向側コイルに対して摺動方向に接近または離隔する摩耗側コイルと、
前記対向側部品に設けられ、前記対向側コイルを含む対向側閉回路に流れる電流に基づいて前記摩耗ゲージの摩耗状態を検知する制御装置と、
を備えることを特徴とする摩耗検知装置。
【請求項2】
前記摩耗側コイルのコイル軸および前記対向側コイルのコイル軸は、前記摩耗側部品の摺動方向に対して平行であることを特徴とする請求項1に記載の摩耗検知装置。
【請求項3】
前記対向側閉回路は、交流電源と電流計測用抵抗をさらに含み、
前記摩耗検知装置は、
前記対向側閉回路の前記電流計測用抵抗に流れる交流電流を直流電流に整流する整流回路と、
前記整流回路により整流された前記直流電流に対応する直流電圧を基準値と比較し、当該比較結果を示す計測信号を前記制御装置に出力するコンパレータと、
前記直流電圧を所定時間だけ遅延させることにより、前記制御装置による検出タイミングを示す検出タイミング信号を生成する遅延回路と、
をさらに備え、
前記制御装置は、前記検出タイミング信号が示す検出タイミングにおける前記計測信号に基づいて、前記摩耗ゲージの摩耗状態を検知することを特徴とする請求項1または2に記載の摩耗検知装置。
【請求項4】
対向側部品に設けられる対向側コイルと、該対向側部品との摺動に伴って摩耗する摩耗側部品に設けられ、該摩耗側部品の摺動面に沿って配置された先端部に摩耗検知用ラインが設けられた摩耗ゲージと、該摩耗側部品に設けられ、該摩耗検知用ラインに接続され、該摩耗側部品の摺動に伴って該対向側コイルに対して摺動方向に接近または離隔する摩耗側コイルと、により該摩耗側部品の摩耗を検知する摩耗検知方法であって、
前記摩耗側コイルが前記対向側コイルに対して摺動方向に接近または離隔したときの前記対向側コイルを含む対向側閉回路に流れる電流を検出し、
前記検出した電流に基づいて前記摩耗ゲージの摩耗状態を検知することを特徴とする摩耗検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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