説明

摺動接点材料

【課題】直流小型モーターのコンミテータ等の電気・機械的摺動部における接点材料であって、これらの使用環境を考慮して耐久性に優れたものを提供する。
【解決手段】本発明は、Auを40〜60重量%、Pdを15〜25重量%含み、更に、SnとInを合計で1〜4重量%、又は、Znを0.1〜5重量%を含み、残部がAgである摺動接点材料である。本発明は、接点材料を使用する際に必須となるグリースによる相互作用の影響を受け難く、接触抵抗の安定性が良好なものであり、長時間の使用を可能とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流小型モーター、スライドスイッチ等の電気・機械的摺動部で使用される接点材料に関する。
【背景技術】
【0002】
直流小型モーターのコンミテータ、スライドスイッチ等の電気・機械的摺動部で使用される接点材料としては、これまで各種組成のものが知られており、例えば、本願出願人によるものとして特許文献1記載の材料がある。
【0003】
この接点材料は、広い温度域での耐久性確保を目的として見出されたものであり、Au−Ag合金にCuを添加したAu−Ag−Cu合金を基本組成とし、更にPd,Ni等を微量添加した合金である。この合金は、従来から接点材料として知られているAu−Ag合金にCu、Pdなどを添加することで、Au−Ag合金が有する接触安定性を維持しつつ、凝着による摩耗を抑制し耐久性を向上させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−291349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の接点材料は、その要求に応じ得るものであり、一定の耐久性を示すことができる。もっとも、この種の材料に対する性能向上の要求には限界というものがなく、上記材料よりも更に耐久性に優れた材料の開発が望まれる。特に、本願発明者等によると、上記の接点材料であっても、例えば、これを直流小型モーターのコンミテータに使用した場合、長時間の使用により接触抵抗の増加がみられ接触障害の問題が生じることが確認されており、従来以上に長時間の使用を可能とする材料開発が検討されている。そこで、本発明は、直流小型モーターのコンミテータ等の電気・機械的摺動部における接点材料であって、これらの使用環境を考慮してより耐久性に優れたものを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するため、接点材料の使用環境と耐久性との関係について検討した。通常、モーターのコンミテータ等の摺動部における接点材料は、オレフィン系、エステル系、フッ素系等のグリースを塗布した状態で使用されている。これは、如何に耐摩耗性に優れた材料であっても、そのままの状態で使用すると短時間で摩耗が進行し使用不可能となるからである。よって、グリースの使用自体に問題がある訳ではない。但し、本発明者等の検討では、従来の接点材料は、使用過程におけるグリースとの間の相互作用により接触抵抗が増加する傾向にあるという。このグリースによる相互作用とは、グリース中の有機成分が、接点材料との接触により、接触障害を起こす何らかの物質へ変質するものと考察する。
【0007】
グリースとの相互作用による接点材料の特性変化については、これまで検討例は少ない。通常、接点材料の特性は、接点材料同士の摩耗特性や使用温度に関する検討が主体である。また、接点材料の特性にグリースが影響するとしても、その使用を回避することは困難である。そこで、本発明者等は、接点材料の構成として、グリースによる影響を考慮して構成元素、組成を検討し本発明に想到した。
【0008】
即ち、本発明は、Auを40〜60重量%、Pdを15〜25重量%含み、更に、SnとInを合計で1〜4重量%、又は、Znを0.1〜5重量%を含み、残部がAgである摺動接点材料である。
【0009】
本発明は、Au−Ag−Pd合金を基本とするものであるが、上記した従来技術のようにCuの添加を排除する。これは、グリースによる影響を軽減する観点において、Cuの削減がその効果が大きいことによる。また、グリースの影響は、Pdの添加量とも関連がある。Pdは、合金の耐摩耗性を確保する上で必要であるが、その配分が大きいとグリースによる接触抵抗が高くなる。そこで、本発明は、Cuを排除したAu−Ag−Pd合金に対し、Pd添加量を調整しつつ、Sn及びInの合金化、又は、Znの合金化により耐摩耗性の向上を図ったものである。
【0010】
本発明に係る接点材料の各構成元素の組成範囲について説明すると、まず、Auは、接点材料としての導電性及び耐食性を確保する金属である。そして、Auが40重量%未満であると耐食性が悪化する一方、60重量%を超えても前記特性にさほどの改善はみられない。また、Pdは、耐摩耗性を向上させるものであり、15重量%未満では合金の硬度が低くなり摩耗しやすくなる。但し、上記の通り、Pdはグリースによる接触抵抗の増加が生じやすい構成元素であることから、その上限を25重量%とする。
【0011】
そして、本発明は、耐摩耗性改善のため、更に、Sn及びIn、又は、Znを合金化する。Sn、Inについては合計濃度で1〜4重量%とするが、1重量%未満では耐摩耗性の向上に寄与しない。また、4重量%を超えるとSn、Inの酸化により接触抵抗が不安定となり、素材の加工性にも悪影響を与える。尚、Sn、Inそれぞれの添加量としては、Snを0.5〜3.5重量%、Inを0.5〜3.5重量%とし、その合計を上記範囲内とする。また、Znについては、添加量を0.1〜5重量%とするが、0.1重量%未満では耐摩耗性が向上しないからであり、5重量%を超えるとZnの酸化により接触抵抗が不安定となり、加工性が悪化するからである。
【0012】
以上説明した摺動接点材料は、その使用において、クラッド材の形態とされることが多い。このとき本願に係る摺動接点材料を表面層とし、Cu又はCu合金のいずれかからなるベース層を接合したものが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上の通り、本発明に係る摺動接点材料は、使用時におけるグリースによる相互作用の影響を受け難く、接触抵抗の安定性が良好である。従って、長時間の使用においても接触障害を生じさせることなく使用可能である。本発明は、直流小型モーターのコンミテータに特に好適であるが、これに限らずスライドスイッチ等の電気・機械的摺動部における材料として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明における実施例、比較例について説明する。本実施形態では、各種組成の合金を製造・成形加工して、その特性を検討した。試験材の製造は、所定組成の合金インゴットをアーク溶解で製造し、圧延して2mmの厚さとした後、700℃、N雰囲気下で40分間保持してアニーリングし、さらにこれを1mm(圧延率50%)にしたものを試験材とした。そして、試験材について、加工性、耐摩耗性、腐食性、グリース塗布の影響、の各特性を評価・検討した。
【0015】
加工性の評価は、上記の試験材への加工過程において、圧延後の試験片を外観観察し割れの有無により判定した。そして、割れが生じないものを「加工性良:○」、割れが生じたものを「加工性不良:×」と評価した。
【0016】
また、耐摩耗性の評価は、回転するディスク材(Ag−50重量%Pd合金)に試験材を一定時間押付けて、その後の摩耗量を測定して評価した。この摩耗試験の条件は、ディスクの回転速度50rpm、回転数1万回とし、試験材の付加荷重を0.49Nとした。そして、摩耗量(μm)を測定し、摩耗量5μm以下を「最良:◎」、摩耗量10μm以下を「良:○」、摩耗量10μmを超えるものを「不良:×」と判定した。
【0017】
更に、耐食性の評価は、各試験材を2種の腐食環境に暴露し、暴露後の接触抵抗を測定することとした。腐食試験の暴露環境は、恒温恒湿環境(温度85℃、湿度90%RH)、ガス腐食環境(SOガス、温度40℃、湿度80%RH)とし、暴露時間をいずれも240時間とした。そして、グリースによる影響の有無は、試験材にグリースを塗布し、300℃で10分間の熱処理後の接触抵抗を測定した。腐食試験及びグリース試験における接触抵抗の評価については、抵抗値10mΩ以下を「最良:◎」、抵抗値15mΩ以下を「良:○」、抵抗値25mΩ以下を「可:△」とし、抵抗値25mΩを超えるものは「不可:×」と判定した。
【0018】
以上の各評価試験についての結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表1から、まず、従来のCuを含む接点材料(従来例1、2)は、グリース塗布による接触抵抗の上昇が著しく、各実施例のCuを含まないPd量が調整されたものと大きく相違することがわかる。
【0021】
そして、実施例に係る試験材の各構成元素の作用をみると、Pdは、適正範囲未満では耐摩耗性が乏しくなり、適正範囲を超えるとグリースによる接触抵抗が増加する(比較例1〜4との対比より)。また、Auは、主に耐食性に影響を及ぼし、適正範囲以下のものは腐食試験の結果が芳しくない(比較例5との対比より)。そして、Sn,In又はZnの添加効果についてみると、添加量が多くなると(比較例7、8)加工性が悪化し、試験材を製造することができない。一方、これらの添加がない場合(比較例9)、耐摩耗性が劣ることとなり、また、接触抵抗の安定性にも影響が生じる。これらから、製品(接点材料)への加工効率から接点材料としての要求特性を総合的に勘案して、各構成元素の組成範囲を適正にする必要があることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、電気的機械的摺動部において使用が必須とされるグリスによる影響を低減した接点材料であり、直流小型モーターにおいて好適に使用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Auを40〜60重量%、Pdを15〜25重量%含み、更に、SnとInを合計で1〜4重量%、又は、Znを0.1〜5重量%を含み、残部がAgである摺動接点材料。
【請求項2】
請求項1記載の摺動接点材料を表面層とし、前記表面層にCu又はCu合金のいずれかからなるベース層が接合ざれたクラッド複合材料。


【公開番号】特開2010−277833(P2010−277833A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128906(P2009−128906)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【特許番号】特許第4467635号(P4467635)
【特許公報発行日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000217228)TANAKAホールディングス株式会社 (146)
【Fターム(参考)】