説明

摺動部材用ポリアミド樹脂組成物

【課題】 低吸水性で寸法安定性、耐薬品性に優れ、成形加工性に優れるのみならず、摺動付与剤を配合することなく摺動性に優れるポリアミド樹脂系成形材料を提供する。
【解決手段】 (a)デカンテレフタルアミド単位50〜98モル%及び(b)ウンデカンアミド単位又は/及びドデカンアミド単位50〜2モル%からなる共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、無機充填材(B)を30〜150質量部含有し、摺動剤を含有しない樹脂組成物であり、該樹脂組成物を下記(イ)の条件で射出成形して得た試験片が以下の(ロ)を満足することを特徴とする摺動部材用ポリアミド樹脂組成物。(イ)金型温度120℃、厚さ2mm平板、(ロ)動摩擦係数0.40以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動剤を使用することなく摺動性に優れ、低い発塵性のポリアミド系の成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジニアリングプラスチックが多くの摺動部品に採用されるようになっているが、熱可塑性プラスチックを定常的に摩擦が生じるような条件下で使用した場合、摩擦熱による温度上昇で、ある限界を越えると、溶融が起こると同時に著しい摩耗を起こし、定常の摩擦運動が続けられなくなることが知られている。従来のポリアミド6、ポリアミド66に代表される脂肪族ポリアミド樹脂は、過酷な条件下で使用した場合には試料全体の温度が上昇し、最終的には摩耗面全体が溶融する場合もある。
【0003】
これに対し、高融点の脂肪族系ポリアミドとしてポリアミド46(例えば、特許文献1など)、半芳香族ポリアミドとして1,6−ヘキサンジアミンとテレフタル酸からなるポリアミドを主成分とした6T系ポリアミド(例えば、特許文献2など)などが成形材料として開発されている。しかしながら、ポリアミド46では、吸水による寸法安定性などの諸物性の変動が問題であり、6T系ポリアミドでは、アジピン酸、イソフタル酸などのジカルボン酸成分、あるいはポリアミド6などの脂肪族ポリアミドを30〜40モル%共重合することにより、280〜320℃程度にまで低融点化するとともに、摺動剤として二硫化モリブデンや超高分子量ポリオレフィンなどを必要とするものである(特許文献3)。このような摺動性付与剤を配合する方法では、摩擦係数などが低下して一般的を摺動性は向上するものの、耐熱性や機械強度が低下するとともに、微細な塵埃の発生を抑制する効果は乏しく、発塵性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−149430号公報
【特許文献2】特開昭62−256830号公報
【特許文献3】特開2001−279093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低吸水性で寸法安定性、耐薬品性に優れ、成形加工性に優れるのみならず、摺動付与剤を配合することなく、摺動性に優れるポリアミド樹脂組成物であり、低い発塵性を示すことができ、光学部品に好適なポリアミド樹脂系成形材料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、10Tポリアミドの共重合成分として11ポリアミドおよび/又は12ポリアミドを特定の割合で共重合したポリアミド(以下、簡略のために単に10T11共重合ポリアミドと略記することがある。)は、低吸水性で寸法安定性、耐薬品性に優れ、しかも半芳香族系ポリアミドでありながら低温成形性に優れるのみならず、摺動付与剤を配合することなく摺動性に優れる成形体を提供できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、
(1). (a)デカンテレフタルアミド単位50〜98モル%及び(b)ウンデカンアミド単位又は/及びドデカンアミド単位50〜2モル%からなる共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、無機充填材(B)を30〜150質量部含有し、摺動剤を含有しない樹脂組成物であり、該樹脂組成物を下記(イ)の条件で射出成形して得た試験片が以下の(ロ)を満足することを特徴とする摺動部材用ポリアミド樹脂組成物。
(イ)金型温度120℃、厚さ2mm平板
(ロ)動摩擦係数0.40以下
ここで、動摩擦係数の測定条件は、鈴木式スラスト摺動試験機使用し、荷重:55kg/cm、摺動速度:15cm/sec、相手材:SUS304リング(外径20mm、内径14mm、高さ20mm、2000番鏡面仕上げ)、雰囲気温度:23℃である。
(2). 共重合ポリアミド樹脂(A)が、(a)デカンテレフタルアミド単位75〜98モル%及び(b)ウンデカンアミド単位又は/及びドデカンアミド単位25〜2モル%からなる前記(1)に記載の摺動部材用ポリアミド樹脂組成物。
(3). 共重合ポリアミド樹脂(A)が、(c)前記(a)の構成単位以外のジアミンとジカルボン酸から得られる構成単位、または前記(b)の構成単位以外のアミノカルボン酸もしくはラクタムから得られる構成単位を最大30モル%まで含有する前記(1)に記載の摺動部材用ポリアミド樹脂組成物。
(4). 共重合ポリアミド樹脂(A)のアミノ末端基が60当量/トン未満である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の摺動部材用ポリアミド樹脂組成物。
(5). (1)〜(4)のいずれかに記載の摺動部材用ポリアミド樹脂組成物を用いて成形された摺動部材。
(6). 摺動部材が、事務機・動力機器の軸受け、歯車、ブッシュ、スペーサー、ローラー、カム、ベアリング、ベアリングリテーナー、メカニカルシールの端面材、バルブの弁座、Vリング、ロッドパッキン、ピストンリング、圧縮機の回転軸・回転スリーブ、ピストン、インペラー、ベーン、ローター、ガイドレール、スイッチ部品、カメラモジュール部品のいずれかである前記(5)に記載の摺動部材。
ここで、カメラモジュール部品とは、レンズホルダー、バレル、鏡筒のいずれかである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の摺動部材用ポリアミド樹脂組成物は、低吸水性で寸法安定性にも優れるのみならず、摺動性付与剤を含有することなく摺動性に優れ、極めて低い発塵性を示す。このため、該樹脂組成物から得られる成形体は、特に、カメラモジュールなどの光学部材などの摺動部材として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のポリアミド樹脂組成物について詳述する。
本発明で用いられる共重合ポリアミド樹脂(A)は、10Tポリアミドに相当する(a)成分と11ポリアミドおよび/又は12ポリアミドに相当する(b)成分を特定の割合で含有するものであり、10Tポリアミドの欠点である成形性、耐衝撃性が改良されているのみならず、低吸水性も高度に満足するという特徴を有する。
【0010】
(a)成分は、1,10−デカンジアミン(10)とテレフタル酸(T)を等量モルで共縮重合させることにより得られる10Tポリアミドに相当するものであり、具体的には、下記式(I)で表されるものである。
【0011】
【化1】

【0012】
(a)成分は、本発明で用いられる共重合ポリアミド樹脂(A)の主成分であり、共重合ポリアミドに優れた耐熱性、低吸水性、耐薬品性、摺動性、などを付与する役割を有する。共重合ポリアミド中の(a)成分の配合割合は、50〜98モル%であり、好ましくは70〜95モル%、さらに好ましくは80〜95モル%である。(a)成分の配合割合が上記下限未満の場合、結晶成分である10Tポリアミドが共重合成分により結晶阻害を受け、成形性や高温特性の低下を招くおそれがあり、一方、上記上限を超える場合、加工性や耐衝撃性が著しく低下するため好ましくない。
【0013】
(b)成分は、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、ウンデカンラクタム、又はラウリルラクタムを重縮合させることにより得られる11ポリアミド、12ポリアミドに相当するものであり、具体的には、下記式(II)、(III)で表されるものである。これらは単独で使用しても良いし、混合物を使用することもできる。
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
(b)成分は、(a)成分の欠点を改良するためのものであり、共重合ポリアミドの耐衝撃性、加工性、低吸水性の全てを改善する役割を有する。共重合ポリアミド中の(b)成分の配合割合は、50〜2モル%であり、好ましくは30〜5モル%、更に好ましくは20〜5モル%である。(b)成分の配合割合が上記下限未満の場合、共重合ポリアミドの耐衝撃性が向上せず、低吸水化効果も不十分である。上記上限を超える場合、共重合ポリアミドの結晶性が大幅に低下し結晶化速度が遅くなり成形性が悪くなるだけでなく耐衝撃性が劣るおそれがあると共に、10Tポリアミドに相当する(a)成分の量が少なくなり、耐熱性や摺動性が不足するおそれがあり、好ましくない。
【0017】
本発明で用いられる共重合ポリアミド樹脂(A)は、上記(a)成分及び(b)成分以外に、(c)上記(a)の構成単位以外のジアミンとジカルボン酸の等量モル塩から得られる構成単位、または上記(b)の構成単位以外のアミノカルボン酸もしくはラクタムから得られる構成単位を最大30モル%共重合しても良い。(c)成分としては、共重合ポリアミド樹脂(A)に10Tポリアミドや11ポリアミド、12ポリアミドによっては得られない他の特性を付与したり、10Tポリアミドや11ポリアミド、12ポリアミドによって得られる特性をさらに改良する役割を有するものである。
【0018】
(c)に用いる共重合成分は具体的には、以下のような共重合成分が挙げられる。アミン成分としては、1,2−エチレンジアミン、1,3−トリメチレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ベンタメチレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、1,13−トリデカメチレンジアミン、1,16−ヘキサデカメチレンジアミン、1,18−オクタデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン、ピペラジン、シクロヘキサンジアミン、ビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタン、ビス−(4,4'−アミノシクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミンのような脂環式ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンおよびこれらの水添物等があげられる。ポリアミドの酸成分としては、以下に示す多価カルボン酸、もしくは酸無水物を使用できる。多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボンル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホン酸ナトリウムイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,11−ウンデカン二酸、1,12−ドデカン二酸、1,14−テトラデカン二酸、1,18−オクタデカン二酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族や脂環族ジカルボン酸等があげられる。また、ε−カプロラクタムなどのラクタムおよびこれらが開環した構造であるアミノカルボン酸などがあげられる。
【0019】
具体的な(c)成分としては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリパラキシリレンアジパミド(ポリアミドPXD6)、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ポリアミド4T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミド5T)、ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミドM−5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド6T(H))ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ポリアミドPACMT)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンイソフタルアミド(ポリアミドPACMI)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテトラデカミド(ポリアミドPACM14)などが挙げられる。
前記構成単位の中でも、好ましい(c)成分の例としては、加工性、低吸水性、耐衝撃性向上のためにポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)やポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリデカメチレンドデカアミド(ポリアミド1012)などが挙げられる。共重合ポリアミド中の(c)成分の配合割合は、最大30モル%までであることが好ましく、さらに好ましくは5〜20モル%である。(c)成分の割合が上記上限を超える場合、必須成分である(a)成分や(b)成分の量が少なくなり、本発明で用いられる共重合ポリアミド樹脂(A)の本来意図される効果が十分発揮されないおそれがあり、好ましくない。
本発明で用いられる共重合ポリアミド樹脂(A)は、特性上大きな差異は無いが、植物由来の原料を用いることが、低炭素社会、環境調和を目指す上で好ましい。具体的には、食用と競合しないヒマシ油由来原料を用いることが好ましく、本発明内の(a)成分中のデカンジアミン、(b)成分中としてアミノウンデカン酸、(c)成分としてセバシン酸は植物由来原料を用いることが好ましい。本発明の好ましい樹脂組成としては、これら植物原料を用い極めて高い植物由来原料比率を示すポリアミド10T/11、ポリアミド10T/1010/11が挙げられる。
【0020】
本発明で用いられる共重合ポリアミド樹脂(A)の融点は240〜315℃、好ましくは280〜315℃である。Tmが上記上限を超える場合、共重合ポリアミドを射出成形法などにより成形する際に必要となる加工温度が極めて高くなるため、加工時に分解し、目的の物性や外観が得られない場合がある。逆にTmが上記下限未満の場合、結晶化速度が遅くなり、いずれも成形が困難になる。また、ガラス転移温度(Tg)は70℃〜120℃、好ましくは100℃〜120℃であることが好ましい。Tgが上記上限を超える場合、共重合ポリアミドを射出成形法などにより成形する際に、必要とされる金型温度が高くなり成形が困難になるだけでなく、射出成形の短いサイクルの中では十分に結晶化が進まない場合があり、離型不足等の成形難を引き起こしたり、後の使用において、高温下で結晶化が進行し二次収縮による変形などが問題となる。逆にTgが上記下限未満の場合、物性の大きな低下や、吸水後の物性が維持できないなどの問題が発生する。
【0021】
本発明で用いられる共重合ポリアミド樹脂(A)において、10Tポリアミドに特定量の11ポリアミド成分および/又は12ポリアミドを共重合することにより、低吸水性だけでなく成形性や寸法安定性のバランスに優れた樹脂が得られる。自動車部品の成形においては、280℃以上の高融点、低吸水であることに加え、ハイサイクルな成型も求められている。ポリデカメチレンテレフタルアミド重合体(10T)においては、耐熱性は良好であるものの、成形性及び耐衝撃性に劣る。また、ガラス転移温度が高いことから成型時に高い金型温度が必要となるため、射出成型加工性に難がある。たとえ低温金型で成型できても使用時の結晶化進行による二次収縮が問題となる。上記のような背景より、280℃以上の高融点および低吸水、易成形性を有する樹脂が求められており、本発明における共重合ポリアミドにおいては、10Tポリアミドに特定量の11ポリアミドおよび/又は12ポリアミドを共重合することにより耐衝撃性を改良できるだけでなく、射出成形時の金型温度が低く抑えられ、射出成形の加工性を改善できる。
融点280℃以上の共重合ポリアミド樹脂(A)は、(a)デカンテレフタルアミド単位75〜98モル%及び(b)ウンデカンアミド単位又は/及びドデカンアミド単位25〜2モル%とすることにより得られる。
【0022】
本発明で用いられる共重合ポリアミド樹脂(A)を製造するに際に使用する触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸もしくはその金属塩やアンモニウム塩、エステルが挙げられる。金属塩の金属種としては、具体的には、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモンなどが挙げられる。エステルとしては、エチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルなどを添加することができる。また、溶融滞留安定性向上の観点から、水酸化ナトリウムを添加することが好ましい。
【0023】
本発明で用いられる共重合ポリアミド樹脂(A)の96%濃硫酸中(1g/100mlの濃度)20℃で測定した相対粘度(RV)は0.4〜4.0であり、好ましくは1.0〜3.5、より好ましくは1.5〜3.0である。ポリアミドの相対粘度を一定範囲とする方法としては、分子量を調整する手段が挙げられる。
【0024】
本発明で用いられる共重合ポリアミド樹脂(A)は、アミノ基量とカルボキシル基とのモル比を調整して重縮合する方法や末端封止剤を添加する方法によって、ポリアミドの末端基量および分子量を調整することができる。アミノ基量とカルボキシル基とのモル比を一定比率で重縮合する場合には、使用する全ジアミンと全ジカルボン酸のモル比をジアミン/ジカルボン酸=1.00/1.05から1.10/1.00の範囲に調整することが好ましい。
【0025】
末端封止剤を添加する時期としては、原料仕込み時、重合開始時、重合後期、または重合終了時が挙げられる。末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はないが、モノカルボン酸またはモノアミン、無水フタル酸等の酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類などを使用することができる。末端封止剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン、アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン等が挙げられる。
【0026】
本発明で用いられる共重合ポリアミド樹脂(A)の酸価およびアミン価としては、それぞれ0〜200当量/10g、0〜200当量/10gであることが好ましい。末端官能基が200当量/10g以上であると、溶融滞留時にゲル化や劣化が促進されるだけでなく、使用環境下においても、着色や加水分解等の問題を引き起こす。一方、ガラスファイバーやマレイン酸変性ポリオレフィンなどの反応性化合物をコンパウンドする際は、反応性および反応基に合わせ、酸価および/又はアミン価を5〜100当量/10gとすることが好ましい。
【0027】
本発明で用いられる共重合ポリアミド樹脂(A)は、従来公知の方法で製造することができるが、例えば、(a)成分の原料モノマーであるデカンジアミン、テレフタル酸、及び(b)成分である11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタム及びこれら混合物からなる群より選ばれた原料モノマー、並びに必要により(c)前記(a)の構成単位以外のジアミンとジカルボン酸の等量モル塩、または前記(b)の構成単位以外のアミノカルボン酸もしくはラクタムから得られる原料モノマーを共縮合反応させることによって容易に合成することができる。共縮重合反応の順序は特に限定されず、全ての原料モノマーを一度に反応させてもよいし、一部の原料モノマーを先に反応させ、続いて残りの原料モノマーを反応させてもよい。また、重合方法は特に限定されないが、原料仕込みからポリマー作製までを連続的な工程で進めても良いし、一度オリゴマーを作製した後、別工程で押出し機などにより重合を進める、もしくはオリゴマーを固相重合により高分子量化するなどの方法を用いても良い。原料モノマーの仕込み比率を調整することにより、合成される共重合ポリアミド中の各構成単位の割合を制御することができる。
【0028】
本発明で用いられる無機充填材(B)としては、強度や剛性および耐熱性等の物性を最も効果的に改良するものであり、繊維状強化材が好ましい。具体的にはガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ジルコニヤ繊維等の繊維状のもの、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム等のウイスカー類、針状ワラストナイト、ミルドフィバー等を挙げることができる。これらの中でも、特に、ガラス繊維、炭素繊維などが好ましく用いられる。これらの繊維状強化材は、有機シラン系化合物、有機チタン系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ系化合物等のカップリング剤で予め処理をしてあるものが好ましく、カルボン酸基又は/及びカルボン酸無水物基と反応しやすいものが特に好ましい。カップリング剤で処理してあるガラス繊維を配合したポリアミド系樹脂組成物では優れた機械的特性や外観特性の優れた成形品が得られるので好ましい。また 他の繊維状強化材においても、カップリング剤が未処理の場合は後添加して使用することが出来る。
【0029】
ガラス繊維としては、繊維長1〜20mm程度に切断されたチョップドストランド状のものが好ましく使用できる。ガラス繊維の断面形状としては、円形断面及び非円形断面のガラス繊維を用いることができる。ガラス繊維の断面形状としては、物性面より非円形断面のガラス繊維が好ましい。非円形断面のガラス繊維としては、繊維長の長さ方向に対して垂直な断面において略楕円系、略長円系、略繭形系であるものをも含み、偏平度が1.5〜8であることが好ましい。ここで偏平度とは、ガラス繊維の長手方向に対して垂直な断面に外接する最小面積の長方形を想定し、この長方形の長辺の長さを長径とし、短辺の長さを短径としたときの、長径/短径の比である。ガラス繊維の太さは特に限定されるものではないが、短径が1〜20μm、長径2〜100μm程度である。無機充填材(繊維状強化材)の添加量は、共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、30〜150質量部を添加することが可能であるが、配合量が150質量部を超えると生産性が悪くなる。また30質量部未満では強化材の効果が充分発揮できない場合がある。無機充填材の添加量は、共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、35〜100質量部がより好ましく、40〜80質量部がさらに好ましい。
【0030】
本発明におけるポリアミド樹脂組成物は、摺動性付与剤を含有することなく、下記(イ)の条件で射出成形して得た試験片が以下の(ロ)を満足することが特徴である。
(イ)金型温度120℃、厚さ2mm平板
(ロ)動摩擦係数0.40以下
(測定条件:鈴木式スラスト摺動試験機使用、荷重:55kg/cm、摺動速度:15cm/sec、相手材:SUS304リング(外径20mm、内径14mm、高さ20mm、2000番鏡面仕上げ)、雰囲気温度:23℃)
本発明におけるポリアミド樹脂組成物は、高分子量ポリエチレン、酸変性高分子量ポリエチレン、フッ素樹脂粉末、二硫化モリブデン、シリコン樹脂、シリコンオイル、グラファイト、鉱物油等などの、配合することで摺動性を付与できることが知られている一般的な摺動剤を配合することなしに、動摩擦係数0.40以下の低いすべり摩擦を発現し、金属などとの摩擦によっても塵埃の発生が極めて少なく、低発塵性の成形材料を提供できる。
本発明により得られる成形材料が、このような効果を発現する理由は定かではないが、本発明における共重合ポリアミド樹脂が、樹脂中のメチレン鎖が10〜12の間でバランスよく揃っているため、芳香族環及びアミド基が比較的均等に分散した形態となり、かつ脂肪族鎖長が炭素数10〜12で適度に長く、アミド基含有量が比較的低い半芳香族系ポリアミド樹脂であるため、耐熱性、低吸水性、耐薬品性、さらにはすべり摩擦が低い特性を発現し、(ロ)を満足することができると考えられる。
【0031】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、本発明の特性を損なわない範囲において、上記のもの以外に、従来のポリアミド用の各種添加剤を使用することができる。添加剤としては、安定剤、衝撃改良材、難燃剤、離型剤、着色剤、可塑剤、結晶核剤、本発明で用いられる共重合ポリアミド樹脂(A)とは異なるポリアミド、ポリアミド以外の熱可塑性樹脂などが挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、組成物全体に対して、共重合ポリアミド樹脂(A)と無機充填材(B)の合計が、70質量%以上であることが好ましい。重合ポリアミド樹脂(A)と無機充填材(B)の合計は、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0032】
安定剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などの有機系酸化防止剤や熱安定剤、ヒンダードアミン系、ベンゾフェノン系、イミダゾール系等の光安定剤や紫外線吸収剤、金属不活性化剤、銅化合物などが挙げられる。銅化合物としては、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、塩化第二銅、臭化第二銅、ヨウ化第二銅、燐酸第二銅、ピロリン酸第二銅、硫化銅、硝酸銅、酢酸銅などの有機カルボン酸の銅塩などを用いることができる。さらに銅化合物以外の構成成分としては、ハロゲン化アルカリ金属化合物を含有することが好ましく、ハロゲン化アルカリ金属化合物としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウムなどが挙げられる。これら添加剤は、1種のみの単独使用だけではなく、数種を組み合わせて用いても良い。安定剤の添加量は最適な量を選択すれば良いが、共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0〜5質量部を添加することが可能である。
【0033】
本発明におけるポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲においてポリアミド以外の一般的に摺動性を付与できると知られていない、熱可塑性樹脂を添加しても良い。これら熱可塑性樹脂は、溶融混練により、溶融状態でブレンドすることも可能であるが、熱可塑性樹脂を繊維状、粒子状にし、本発明で用いられる共重合ポリアミド樹脂(A)に分散しても良い。熱可塑性樹脂の添加量は最適な量を選択すれば良いが、共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0〜50質量部を添加することが可能である。
【0034】
難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤とアンチモン化合物の組み合わせが好ましい。ハロゲン系難燃剤としては、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ビスフェノール型エポキシ系重合体、臭素化スチレン無水マレイン酸重合体、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、デカブロモジフェニルエーテル、デカブロモビフェニル、臭素化ポリカーボネート、パークロロシクロペンタデカン及び臭素化架橋芳香族重合体等が好ましく、アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム等が好ましい。中でも、熱安定性の面よりジブロムポリスチレンと三酸化アンチモンとの組み合わせが好ましい。また、非ハロゲン系難燃剤としては、メラミンシアヌレート、赤リン、ホスフィン酸の金属塩、含窒素リン酸系の化合物が挙げられる。特に、ホスフィン酸金属塩と含窒素リン酸系化合物との組み合わせが好ましく、含窒素リン酸系化合物としては、メラミンまたは、メラム、メロンのようなメラミンの縮合物とポリリン酸の反応性生物またはそれらの混合物を含む。その際、金型等の金属腐食防止として、ハイドロタルサイト系化合物の添加が好ましい。難燃剤の添加量は最適な量を選択すれば良いが、共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0〜50質量部を添加することが可能である。
【0035】
離型剤としては、長鎖脂肪酸またはそのエステルや金属塩、アマイド系化合物、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。長鎖脂肪酸としては、特に炭素数12以上が好ましく、例えばステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸などが挙げられ、部分的もしくは全カルボン酸が、モノグリコールやポリグリコールによりエステル化されていてもよく、または金属塩を形成していても良い。アマイド系化合物としては、エチレンビステレフタルアミド、メチレンビスステアリルアミドなどが挙げられる。これら離型剤は、単独であるいは混合物として用いても良い。離型材の添加量は最適な量を選択すれば良いが、共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0〜5質量部を添加することが可能である。
【0036】
本発明の特許請求の範囲ではないが、更なる摺動性の改良のために、高分子量ポリエチレン、酸変性高分子量ポリエチレン、フッ素樹脂粉末、二硫化モリブデン、シリコン樹脂、シリコンオイル、亜鉛、グラファイト、鉱物油等を本発明の機械特性を損なわない範囲、例えば0.05〜3質量部の範囲で添加することも可能である。
【0037】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、特に制限はなく、当業者に周知のいずれの方法も可能であり、単軸押出機、2軸押出機、加圧ニーダ、バンバリーミキサ等が使用することができる。なかでも2軸押出機を使用することが好ましい。
【0038】
2軸押出機の条件は、ポリアミド樹脂の種類、添加剤種類・量など種々の要因により異なり一義的に決められない。ポリアミド樹脂の融点は170〜320℃範囲であり、その加工温度は融点+25℃前後で温度設定をすればよい。反応時間は10分間以内、例えば1分から数分間で充分目的とする溶融粘度に到達すると考えてよい。スクリュー構成は練りの優れるニーデングディスクを数箇所組み込むことが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は、以下の方法によって測定したものである。
【0040】
(1)原料、原料の調整法及び測定法
[相対粘度]
ポリアミド樹脂0.25gを96%硫酸25mlに溶解し、オストワルド粘度計を用いて20℃で測定した。
[融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)]
105℃で15時間減圧乾燥したポリアミドをアルミニウム製パン(TA Instruments社製、品番900793.901)に10mg計量し、アルミニウム製蓋(TA Instruments社製、品番900794.901)で密封状態にして、測定試料を調製した後、示差走査熱量計DSCQ100(TA INSTRUMENTS製)を用いて室温から20℃/分で昇温し、350℃で3分間保持した後に測定試料パンを取出し、液体窒素に漬け込み、急冷させた。その後、液体窒素からサンプルを取出し、室温で30分間放置した後、再び、示差走査熱量計DSCQ100(TA INSTRUMENTS製)を用いて室温から20℃/分で昇温し、350℃で3分間保持した。その際の融解による吸熱のピーク温度を融点(Tm)とした。また、ガラス転移温度(Tg)は、2度目の昇温過程でガラス転移点以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの間での最大傾斜を示す接線との交点の温度で求めた。
【0041】
〔ポリアミド10T11の合成(A−1)〕
デカメチレンジアミン8.26kg、テレフタル酸7.97kg、11−アミノウンデカン酸6.43kg、触媒としてジ亜リン酸ナトリウム9g、末端調整剤として酢酸40gおよびイオン交換水17.52kgを50リットルのオートクレーブに仕込み、常圧から0.05MPaまでN2で加圧し、放圧させ、常圧に戻した。この操作を3回行い、N2置換を行った後、攪拌下135℃、0.3MPaにて均一溶解させた。その後、溶解液を送液ポンプにより、連続的に供給し、加熱配管で240℃まで昇温させ、1時間、熱を加えた。その後、加圧反応缶に反応混合物が供給され、290℃に加熱され、缶内圧を3MPaで維持するように、水の一部を留出させ、低次縮合物を得た。その後、この低次縮合物を、溶融状態を維持したまま直接二軸押出し機(スクリュー径37mm、L/D=60)に供給し、樹脂温度を330℃、3箇所のベントから水を抜きながら溶融下で重縮合を進め、共重合ポリアミドを得た。得られた共重合ポリアミドは、10T/11=60/40(モル比)の組成で融点250℃、相対粘度2.6、ガラス転移温度75℃であった。
【0042】
〔ポリアミド10T11の合成(A−2)〕
デカメチレンジアミンの量を11.01kgに変更し、テレフタル酸の量を10.62kgに変更し、11−アミノウンデカン酸の量を3.22kgに変更した以外は合成例(A−1)と同様にして、共重合ポリアミドを合成した。得られた共重合ポリアミドは、10T/11=80/20(モル比)の組成で融点289℃、相対粘度2.6、ガラス転移温度93℃であった。
〔ポリアミド10T11の合成(A−3)〕
デカメチレンジアミンの量を12.38kgに変更し、テレフタル酸の量を11.95kgに変更し、11−アミノウンデカン酸の量を1.61kgに変更した以外は合成例(A−1)と同様にして、共重合ポリアミドを合成した。得られた共重合ポリアミドは、10T/11=90/10(モル比)の組成で融点302℃、相対粘度2.8、ガラス転移温度104℃であった。
〔ポリアミド10T12の合成(A−4)〕
11−アミノウンデカン酸3.22kgをウンデカンラクタム2.93kgに変更した以外は合成例(A−1)と同様にして、共重合ポリアミドを合成した。得られた共重合ポリアミドは、10T/12=80/20(モル比)の組成で融点288℃、相対粘度2.4、ガラス転移温度92℃であった。
【0043】
〔ポリアミド46の合成〕
特開昭56−149430号公報の実施例IVに記載された方法に従い、1,4−ジアミノブタンとアジピン酸から、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)の合成を行った。得られたポリアミド46の相対粘度は2.9、融点は295℃であった。
〔ポリアミド6T66の合成〕
WO06/112300号公報の実施例2に記載された方法に従い、テレフタル酸単位とアジピン酸単位、および1,6−ヘキサメチレンジアミン単位(テレフタル酸単位:アジピン酸単位のモル比が45:55)からなる共重合ポリアミドの合成を行った。得られた共重合ポリアミド樹脂の相対粘度は2.0、融点は295℃であった。
[ポリアミド6]
東洋紡績社製 T−800 相対粘度2.5
【0044】
[繊維状強化材]
ガラス繊維:日本電気硝子社製T-275H(カップリング剤:アミノシラン化合物)
[その他 添加剤]
摺動性付与剤C−1:二硫化モリブデン(ダイゾー社製 T−パウダー)+変性ポリエチレン(モデック社製DH−0200)
摺動性付与剤C−2:Fluon PTFEルブリカントL150J(AGC ケミカルズ社)
離型剤:モンタン酸エステルワックス(クラリアントジャパン社製、WE40)
【0045】
(2)実施例、比較例のポリアミド系樹脂組成物の製造法
上記した各原料を表1に示した配合(質量部:離型剤は、(A)+(B)の合計100質量部に対し、0.5質量部添加した)に従い計量して、35φ二軸押出機(東芝機械社製)でシリンダ温度は、ポリアミドの融点+30℃に設定し、スクリュー回転数100rpmにて溶融混錬した。ガラス繊維以外の原料はあらかじめ混合しメインホッパーから投入し、ガラス繊維はベント口からサイドフィードで投入した。押出機から吐出されたストランドは水槽で冷却してストランドカッターでペレット化し、125℃にて5時間乾燥後、各種評価に供した。
得られたポリアミド樹脂組成物のペレットは、射出成形機でそれぞれの評価試料を成形し、特性を評価した。
【0046】
(3)ポリアミド樹脂組成物の評価法
[成形性評価法]
東芝機械製射出成形機EC−100を用い、シリンダ温度は樹脂の融点+40℃、金型温度は120℃に設定し、フィルムゲートを有する縦100mm、横100mm、厚み1mmtの平板作成用金型を使用し、射出成形を実施した。射出速度50mm/sec、保圧30MPa、射出時間10秒、冷却時間10秒で成型を行い、成形性の良悪は以下のような評価を行った。
○:問題なく成型品が得られる。
△:時々スプルーが金型に残る。
×:離型性が不十分であり、成型品が金型に貼り付いたり変形する。
【0047】
[95%RH吸水率及び95%RH吸水寸法変化率の測定法]
上記と同様にして測定用平板を成形した。成形した試料について、95%RH平衡吸水時の吸水率と寸法増加率で測定した。吸水処理は、95%相対湿度の恒温槽中で80℃にて加速吸水処理した。
寸法変化率(%)は、以下の尺度で評価した。
◎:0.2%未満、 ○:0.2〜0.5%未満、 ×:0.5%以上
【0048】
[摺動性(摩擦・摩耗試験)]
上記した方法で、厚み2mmの平板を射出成形(金型温度120℃)後、切削して評価用試験片(30×30×2mm)を作製した。
下記の条件にて、オリエンテック社製鈴木式スラスト摺動試験機にて試験を実施し、動摩擦係数、樹脂摩耗量(mg)、金属摩耗量(mg)を測定した。
(試験条件)
荷重:55kg/cm
摺動速度:15cm/sec
相手材:SUS304リング(外径20mm、内径14mm、高さ20mm、2000番鏡面仕上げ)
雰囲気温度:23℃
時間:20分間
評価結果は表1に示した。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から明らかなように、実施例1〜4のポリアミド樹脂組成物は、低吸水性で寸法安定性に優れ、成形加工性に優れるのみならず、摺動付与剤を配合することなく、動摩擦係数が0.40以下で、樹脂、金属摩耗量ともに少ない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明で得られるポリアミド系成形材料は、事務機・動力機器の軸受け、歯車、ブッシュ、スペーサー、ローラー、カム、ベアリング、ベアリングリテーナー、メカニカルシールの端面材、バルブの弁座、Vリング、ロッドパッキン、ピストンリング、圧縮機の回転軸・回転スリーブ、ピストン、インペラー、ベーン、ローター、ガイドレール、スイッチ部品、カメラモジュール部品(レンズホルダー、バレル、鏡筒)などに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)デカンテレフタルアミド単位50〜98モル%及び(b)ウンデカンアミド単位又は/及びドデカンアミド単位50〜2モル%からなる共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、無機充填材(B)を30〜150質量部含有し、摺動剤を含有しない樹脂組成物であり、該樹脂組成物を下記(イ)の条件で射出成形して得た試験片が以下の(ロ)を満足することを特徴とする摺動部材用ポリアミド樹脂組成物。
(イ)金型温度120℃、厚さ2mm平板
(ロ)動摩擦係数0.40以下
【請求項2】
共重合ポリアミド樹脂(A)が、(a)デカンテレフタルアミド単位75〜98モル%及び(b)ウンデカンアミド単位又は/及びドデカンアミド単位25〜2モル%からなる請求項1に記載の摺動部材用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
共重合ポリアミド樹脂(A)が、(c)前記(a)の構成単位以外のジアミンとジカルボン酸から得られる構成単位、または前記(b)の構成単位以外のアミノカルボン酸もしくはラクタムから得られる構成単位を最大30モル%まで含有する請求項1〜2のいずれかに記載の摺動部材用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
共重合ポリアミド樹脂(A)のアミノ末端基が60当量/トン未満である請求項1〜3のいずれかに記載の摺動部材用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の摺動部材用ポリアミド樹脂組成物を用いて成形された摺動部材。
【請求項6】
摺動部材が、事務機・動力機器の軸受け、歯車、ブッシュ、スペーサー、ローラー、カム、ベアリング、ベアリングリテーナー、メカニカルシールの端面材、バルブの弁座、Vリング、ロッドパッキン、ピストンリング、圧縮機の回転軸・回転スリーブ、ピストン、インペラー、ベーン、ローター、ガイドレール、スイッチ部品、カメラモジュール部品のいずれかである請求項5に記載の摺動部材。

【公開番号】特開2012−246420(P2012−246420A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120410(P2011−120410)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】