説明

摺動部材用樹脂組成物および摺動部材

【課題】 自己の摩耗だけでなく、相手部材の摩耗も防止する摺動部材、および該摺動部材を溶融成形により生産性よく製造可能な樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 成分A;テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体75〜94重量%、成分B;芳香族ポリアミド5〜20重量%、および成分C;二硫化モリブデン微粒子、窒化ホウ素微粒子およびポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子からなる群から選択される1種類以上の固体潤滑剤0.1〜10重量%を含んでなる摺動部材用樹脂組成物、および該樹脂組成物を溶融成形および冷却してなる摺動部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摺動部材用樹脂組成物および該樹脂組成物からなる摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
他の部材(相手部材)に対して相対的に摺動するように使用される摺動部材として、例えば、ベアリング(軸受)、シールリング、ピストンリング等が挙げられる。そのような摺動部材を形成する材料として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂は低摩擦特性に非常に優れているため、摺動界面に油などの潤滑剤を必要としない、いわゆる無潤滑下でも有用であることが知られている。しかしながら、PTFE樹脂からなる摺動部材は圧縮成形・焼成により得た素材を切削加工して得る必要があり、生産性が低い問題があった。
【0003】
溶融成形可能なフッ素樹脂としてテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)等が知られており、これらの樹脂は押出成形・射出成形などが可能であるため、複雑な形状の部材を高効率で生産することが可能である。しかしながら、PTFE樹脂に比べ摩擦係数が大きいため、無潤滑下での使用が困難であった。例えば、FEP樹脂を用いた摺動部材は表面の動摩擦係数が大きすぎるため、無潤滑下では製品使用時に機械トルクが高く、また自身が摩耗した。
【0004】
そこで、溶融成形可能なフッ素樹脂と芳香族ポリアミド樹脂とを所定の比率で組み合わせて用いる技術が報告されている(特許文献1〜2)。そのような技術で得られる摺動部材は上記したような動摩擦係数および自己の耐摩耗特性が未だ十分ではなく、特に負荷が大きい場合において低摩擦特性、自己の耐摩耗特性の低下は顕著であった。しかも、相手部材が摩耗するという新たな問題を生じることがあった。
【特許文献1】特開昭62−146944号公報
【特許文献2】特開平2−163147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、自己の摩耗だけでなく、相手部材の摩耗も防止する摺動部材、および該摺動部材を溶融成形により生産性よく製造可能な樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、成分A;テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体75〜94重量%;
成分B;芳香族ポリアミド5〜20重量%;および
成分C;二硫化モリブデン微粒子、窒化ホウ素微粒子およびポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子からなる群から選択される1種類以上の固体潤滑剤0.1〜10重量%
を含んでなる摺動部材用樹脂組成物、および該樹脂組成物を溶融成形および冷却してなる摺動部材に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂組成物は溶融成形が可能であるので、摺動部材を生産性よく製造できる。
また本発明の樹脂組成物からなる摺動部材は表面の動摩擦係数が低減され、無潤滑下でもほとんど摩耗しないので、自己の耐摩耗特性に優れている。
さらに本発明の摺動部材は無潤滑下において相手部材の摩耗も防止できる。相手部材が金属からなる場合、わずかに摩耗した金属が研磨材として作用するので、その摩耗は顕著になる傾向がある。特に軟質金属からなる相手部材の摩耗は一層、著しい。しかしながら、本発明においては、そのような場合においても、相手部材の摩耗防止効果を有効に発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の樹脂組成物は以下の成分A〜Cを含んでなる。
成分Aはテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体である。
【0009】
パーフルオロアルキルビニルエーテルは、アルキル基とビニル基とがエーテル結合(−O−)によって連結されてなり、アルキル基およびビニル基の全ての水素原子がフッ素原子に置換されたものである。パーフルオロアルキル基の炭素数は本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではなく、通常は1〜6、特に1〜3である。そのようなパーフルオロアルキル基の具体例として、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロ−n−プロピル基、パーフルオロイソプロピル基等が挙げられる。
【0010】
テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の汎用的に使用されているものとして、「示差走査熱量計測定(DSC)、測定温度:室温〜350℃、加熱速度:10℃/分、窒素流量:20ml/分」によって測定した融点が298℃〜310℃程度のものが例示されるが、本発明では特にこの範囲に限定されるものではない。
【0011】
テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体は市販品として入手することができる。
例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体(以下、PFA)は、フルオンPFA(旭硝子社製)、ネオフロンPFA(ダイキン工業社製)、テフロンPFA(三井・デュポン フロロケミカル社製)として入手可能である。
また例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(以下、MFAということがある)は、アルゴフロンMFA(アウジモント社製)として入手可能である。
【0012】
成分Aの含有量は組成物全量(成分A〜Cの合計量)に対して75〜94重量%、好ましくは80〜92重量%である。成分Aの含有量が少なすぎると、成分Aの持つ流動性が大幅に低下するため、押出成形や射出成形などの溶融成形において、摺動部品として使用する精密製品などの成形が困難となる。成分Aの含有量が多すぎると、耐摩耗特性、低摩擦特性を向上するために充填している芳香族ポリアミドや固体潤滑剤の効果が発現されず、摩耗量が増加し、摩擦トルクが増加するなどの、不良現象を生じる。
【0013】
成分Bは芳香族ポリアミドである。芳香族ポリアミドは主鎖にベンゼン環または/およびナフタレン環等の芳香族環を含有するものであれば、特に制限されないが、耐熱性、摩擦摩耗特性の観点からパラ配向型芳香族ポリアミドを使用することが好ましい。
【0014】
パラ配向型芳香族ポリアミドとは、パラ位に2個の結合手が位置する芳香族基がアミド結合によって連結されてなるポリアミドである。
【0015】
そのようなパラ配向型芳香族ポリアミドの具体例として、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド等が挙げられる。
【0016】
本発明において使用可能なパラ配向型芳香族ポリアミド以外の芳香族ポリアミドとして、例えば、メタ配向型芳香族ポリアミドが挙げられる。
【0017】
メタ配向型芳香族ポリアミドの具体例として、例えば、ポリメタフェニレンイソフタラミド等が挙げられる。
【0018】
芳香族ポリアミドは市販品として入手することができる。
例えば、パラ配向型芳香族ポリアミドは、トワロン(帝人社製)、テクノーラ(帝人社製)、ケブラー(東レ・デュポン社製)として入手可能である。
また例えば、メタ配向型芳香族ポリアミドは、コーネックスポリマー(帝人社製)、ノーメックス(東レ・デュポン社製)として入手可能である。
【0019】
成分Bの含有量は組成物全量(成分A〜Cの合計量)に対して5〜20重量%、好ましくは5〜15重量%である。成分Bの含有量が少なすぎると、摩擦係数が大きく、しかも安定せず、摺動部材自身の耐摩擦摩耗性が悪化する。成分Bの含有量が多すぎると、成分Aの持つ流動性が大幅に低下するため、押出成形や射出成形などの溶融成形において、摺動部品として使用する精密製品などの成形が困難となる。成分Bの代わりに他の耐熱性有機フィラー、例えば、ポリイミドを配合すると、摺動部材自身の耐摩耗性が悪化する。また成分Bの代わりに炭素繊維、ガラス繊維等を配合すると、相手部材を損傷する。
【0020】
使用される芳香族ポリアミドの形態は特に制限されず、例えば、粒子またはパルプの形態で使用されてもよいし、繊維の形態で使用されてもよい。粒子またはパルプの形態で使用される場合の好ましい平均一次粒径は10〜300μm、特に20〜150μmである。繊維の形態で使用される場合の平均繊維径は5〜40μm、特に8〜25μmであり、平均繊維長は50〜300μm、特に70〜200μmである。
【0021】
成分Cは、二硫化モリブデン微粒子、窒化ホウ素微粒子およびポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子からなる群から選択される固体潤滑剤であり、単独で使用されても、2種類以上組み合わせて使用されてもよい。高荷重条件や高速条件において、低摩擦性や自己の耐摩耗特性をさらに向上させる観点から、二硫化モリブデン微粒子を単独で使用することが好ましい。
【0022】
成分Cの平均一次粒径は本発明の目的が達成される限り特に制限されず、0.2〜20μm、特に0.5〜15μmが好ましい。
【0023】
成分Cの含有量は組成物全量(成分A〜Cの合計量)に対して0.1〜10重量%、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは2〜7重量%である。成分Cの含有量が少なすぎると、摩擦係数が大きく、しかも安定せず、摺動部材自身の耐摩耗性が悪化するだけでなく、相手部材を損傷する。成分Cの含有量が多すぎると、摺動部材自身の耐摩耗性が悪化する。成分Cの代わりにグラファイト、タルク等の他の固体潤滑剤を配合すると、摩擦トルクが高く、摺動部材自身の耐摩耗性が悪化する。
【0024】
本発明の樹脂組成物には、上記成分A〜C以外に、無機系添加剤、耐熱材料等の他の成分が含有されてもよい。他の成分の含有量は本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではない。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、溶融可能であるので、組成物を溶融させる必要のある溶融成形、例えば、射出成形、押出成形等に適用可能である。成形時の溶融温度は樹脂組成物の組成に応じて適宜設定されればよく、例えば、340〜400℃、特に350〜380℃が適当である。
【0026】
本発明の摺動部材は相手部材に対して相対的に摺動するように使用されるものであり、例えば、ベアリング(軸受)、シールリング、ピストンリング等の用途に使用可能である。本発明の摺動部材を上記用途に使用すると、当該摺動部材は表面の動摩擦係数が有効に低減されており、無潤滑下でもほとんど摩耗せず、しかも相手部材の摩耗も有効に防止できる。
【0027】
本発明の摺動部材は相手部材が金属からなるような用途に使用されることが好ましく、特に相手部材が軟質金属からなることがより好ましい。相手部材が金属からなる場合、わずかに摩耗した金属が研磨材として作用するので、摺動部材および相手部材の摩耗は顕著になる傾向がある。特に軟質金属からなる相手部材の摩耗は一層、著しい。しかしながら、本発明においては、そのような場合においても、摺動部材および相手部材の摩耗防止効果をより有効に発揮できるためである。
【0028】
相手部材の構成金属として、例えば、アルミニウム、ステンレス、鉄、真鍮、銅、ニッケル等が挙げられる。これらの金属のうち、本発明の摺動部材は、特に摩耗しやすい軟質金属、例えばアルミニウム、真鍮、銅、ニッケルに対して好ましい効果を示す。中でも、アルミニウムに対しては非常に好ましい性能を有する。
【0029】
また本発明の摺動部材は高荷重条件および/または高速条件で使用されることが好ましい。そのような条件で摺動部材および相手部材の摩耗は顕著になる傾向があるが、本発明においては、そのような条件においても、摺動部材および相手部材の摩耗防止効果をより有効に発揮できるためである。
【実施例】
【0030】
(実施例および比較例)
後述の表2〜4に示すように、所定の材料を所定の配合割合となるように計量した。計量した材料を二軸混練押出機に投入し、溶融混練を行い、ペレット材料を得た。ペレット材料を射出成形機に投入し、円板状試験片(φ40mm、厚み3mm)を作成した。射出成形機はJ100EII(日本製鋼所(株)製)を用い、シリンダ温度は350℃、金型温度は150℃であった。
【0031】
(評価)
得られた試験片を用い、以下の項目についてJIS K−7218(1986)A法(プラスチックの滑り摩耗試験方法)に準拠して評価した。
(i)摩耗量:上記方法で、試験片の摩耗重量を測定した。
(ii)動摩擦係数:上記方法で、摩擦力を測定し、動摩擦係数を得た。
(iii)相手部材摩耗量:上記方法で、相手部材の摩耗重量を測定した。
【0032】
試験条件を以下に示す。
【表1】

【0033】
試験条件ごとに評価結果を示す。なお、動摩擦係数の評価結果について範囲で示されているものは、測定時間中の摩擦トルクの変動が大きいことを示し、摩擦特性が不安定のため実用上問題があるものである。
【0034】
【表2】

【0035】
条件Aでは以下の結果が実用上問題がない。
摩耗量は15mg以下、好ましくは10mg以下である。
動摩擦係数は0.28以下、好ましくは0.22以下で安定している。
相手部材摩耗量は0mgである。
【0036】
【表3】

【0037】
条件Bでは以下の結果が実用上問題がない。
摩耗量は30mg以下、好ましくは25mg以下である。
動摩擦係数は0.30以下、好ましくは0.25以下で安定している。
相手部材摩耗量は0mgである。
【0038】
【表4】

【0039】
条件Cでは以下の結果が実用上問題がない。
摩耗量は15mg以下、好ましくは10mg以下である。
動摩擦係数は0.25以下、好ましくは0.21以下で安定している。
相手部材摩耗量は0mgである。
【0040】
本実施例において各成分は以下の市販品を使用した。
PFA樹脂;フルオンPFA P−63P(旭硝子社製)
MFA樹脂;アルゴフロンMFA(アウジモント社製)
FEP樹脂;ネオフロンFEP NP−20(ダイキン工業社製)
パラ配向型芳香族ポリアミド;トワロンチョップドファイバー1088(帝人社製)
メタ配向型芳香族ポリアミド;コーネックス ポリマー(帝人社製)
二硫化モリブデン;マイクロサイズパウダー(ダウコーニング社製)
窒化ホウ素;デンカボロンナイトライド(電気化学工業社製)
PTFEパウダー;L180J(旭硝子社製)
グラファイト;人造黒鉛微粉末 UF−G10(昭和電工社製)
炭素繊維;ドナカーボ・SG(ドナック社製)
熱硬化性ポリイミド;UIP−R(宇部興産社製)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分A;テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体75〜94重量%;
成分B;芳香族ポリアミド5〜20重量%;および
成分C;二硫化モリブデン微粒子、窒化ホウ素微粒子およびポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子からなる群から選択される1種類以上の固体潤滑剤0.1〜10重量%
を含んでなる摺動部材用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物を溶融成形および冷却してなる摺動部材。
【請求項3】
金属からなる相手部材に対して、相対的に摺動するように使用される請求項2に記載の摺動部材。
【請求項4】
金属が、アルミニウム、真鍮、銅、またはニッケルからなる群から選択される一種類以上の軟質金属である請求項3に記載の摺動部材。



【公開番号】特開2006−225433(P2006−225433A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−37802(P2005−37802)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】