説明

摺動部材

【課題】潤滑油保持機能を有し、初期なじみ性に優れ、厳しい摺動条件下においても優れた摺動特性を有する摺動部材を提供する。
【解決手段】斜板式コンプレッサー用の斜板等の摺動部材は、金属材料等の基材1と、該基材1の表面に形成された、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤とポリアミドイミド樹脂等のバインダー樹脂からなる固体潤滑皮膜2とを有する摺動部材であって、該固体潤滑皮膜2はその摺動面に開口する油溜まりとなる複数の穴4を有し、該穴4の中心軸5が該摺動面に対し15°〜75°の範囲の傾斜角で傾斜しており、かつ該穴5の内壁面が中心軸に対し概略対称であり、穴の開口直径40〜100μm、穴の深さ5〜40μm、穴のピッチは穴の開口直径の2〜20倍である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンプレッサー用斜板等の摺動部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から種々の摺動部材において、その境界潤滑性やドライ特性を向上させるために、摺動表面に固体潤滑皮膜を施す技術が広く知られている。
【0003】
例えば斜板式コンプレッサーは、回転軸に斜めに固着された斜板、若しくは回転軸に斜めに取り付けられた傾斜角度変更可能な斜板が、回転軸の回転に応じてコンプレッサー内の仕切られた空間の体積を増減することにより冷却媒体の膨張、圧縮を行うものである。上記斜板はシューと称される密封部材と摺動し、かつ気密な封止を図ることにより冷却媒体が所定の空間にて膨張、圧縮が可能である。
【0004】
上記のようなコンプレッサーに用いられる摺動部材間の潤滑は、通常コンプレッサー内部に保持された潤滑オイルをコンプレッサーの運転に伴って流通ガス(例えば冷媒ガス)でミスト化し、そのミスト化したオイルを各摺動部材に搬送することで行われている。しかしコンプレッサーを運転停止状態で長時間放置した後に再起動するような場合には、摺動部材に付着していた潤滑オイルが流通ガスによって洗い流される場合がある。
【0005】
固体潤滑皮膜を用いることにより、コンプレッサーの運転初期等の潤滑油がないドライの摺動条件に対しても耐焼付性をある程度良好にすることが出来る。しかし固体潤滑皮膜は摩耗しやすいという弱点を有する。一方、流体潤滑下では高速かつ高温での摺動特性も必要であり、そのためには初期なじみ性が必要である。
【0006】
耐摩耗性を向上させるために固体潤滑皮膜の塗膜強度を強くするとなじみ性が悪くなり耐焼き付け性が低下するという問題があった。逆になじみ性を重視して塗膜強度を低くすると耐摩耗性やドライ特性が低下するという問題があった。
【0007】
例えば、下記特許文献1においては、固体潤滑皮膜に複数の同心状の周方向の溝を設定し、且つ隣接する溝間に山部を形成することが開示されている。
【特許文献1】国際公開第2002/75172号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら特許文献1では、潤滑油保持機能として溝構造を形成しているが、溝構造であるため、いったん保持した潤滑油が溝を伝って流出する恐れがある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、潤滑油保持機能を有し、初期なじみ性に優れ、厳しい摺動条件下においても優れた摺動特性を有する摺動部材を提供することを目的とする。特に流体潤滑、境界潤滑、ドライ潤滑下で摩擦特性が良く、耐摩耗性に優れる固体潤滑皮膜付き摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者等はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、固体潤滑皮膜表面に摺動面に対し斜めに油溜まりとなる穴を形成することにより、例えば斜板のような重力方向に対し傾斜して摺動する摺動面に対しても潤滑油が流出しにくいものとなり、ドライ潤滑下においても優れた摺動特性を有することを発見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明の摺動部材は、基材と該基材の表面に形成された固体潤滑皮膜とを有する摺動部材であって、該固体潤滑皮膜はその摺動面に開口する油溜まりとなる複数の穴を有し、該穴の中心軸が該摺動面に対し傾斜しており且つ該穴の内壁面が中心軸に対し概略対称であることを特徴とする。
【0012】
基材に固体潤滑皮膜が形成されることにより耐焼き付け性が向上する。また該固体潤滑皮膜上に油溜まりとなる複数の穴を有することにより、穴の中に潤滑油等を保持出来、摺動初期のオイル不足による固体接触を低減することが出来る。またその穴を摺動面に対して傾斜して形成することにより、溜まった潤滑油等の流出を防ぐことが出来る。また該穴の内壁面が中心軸に対し概略対称であることにより、より潤滑油などの流出を抑えることが出来る。
【0013】
また本発明の摺動部材において、該穴の中心軸の傾斜方向が摺動方向に対して一方向に配列していてもよいし、摺動方向に対して二以上の方向に配列していてもよい。また穴の中心軸の傾斜方向が摺動方向に対して二方向、かつ交互に配列していてもよい。
【0014】
中心軸の傾斜方向は、摺動部材の摺動方向及び摺動面の重力方向に対する傾斜によって決定される。例えば回転摺動する摺動部材の場合、摺動部材の摺動方向は摺動部材の中心に対して円周状になるため、ここでいう「摺動方向に対して一方向に配列する」とは摺動方向に合わせ摺動部材の中心に対してうずまき状、らせん状または放射状に配列していることになる。また直線状に往復摺動する摺動部材の場合の「摺動方向に対して一方向に配列する」は摺動部材の往復方向に対する方向を指す。二以上の方向に配列する場合も同様である。
【0015】
また中心軸の傾斜方向は、摺動面の重力方向に対する傾斜によっても決定される。従って摺動時に摺動面の傾斜が変化する摺動部材においては、潤滑油等の油溜まり穴の中心軸の傾斜方向が摺動面に対し、二以上の方向に配列している方がよい。
【0016】
潤滑油等の油溜まり穴の中心軸の傾斜方向が摺動面に対し一方向或いは二以上の方向に配列している又は穴の中心軸の傾斜方向が二方向、かつ交互に配列していることにより、摺動部材の摺動にあわせ、摺動面の潤滑油等の保持効果を保つことが出来る。
【0017】
また本発明の摺動部材において油溜まりとなる穴の中心軸の傾斜は該摺動面に対して15°以上75°以下の傾斜角を持つ傾斜であることが好ましい。傾斜角は摺動面から穴の中心軸までの傾斜を表す角度である。傾斜角0°が摺動面に平行、傾斜角90°が摺動面に対して直角を表す。上記傾斜角を持つことにより摺動面の傾斜に対して潤滑油等の保持効果を保つことが出来る。
【0018】
また本発明の摺動部材において前記穴の開口面の最大長さは40μm以上100μm以下であることが好ましい。穴の開口面の形状は特に限定されない。穴の開口面の最大長さがこの範囲にあることにより、加工性、コスト性に優れ、強度的にも優れた摺動部材を提供できる。
【0019】
また本発明の摺動部材において前記穴のピッチは少なくとも前記穴の開口面の最大長さの2倍以上20倍以下であることが好ましい。この範囲にあることによりコスト性に優れ、また潤滑皮膜の強度も優れた摺動部材を提供できる。
【0020】
また本発明の摺動部材において前記穴の深さは5μm以上40μm以下であることが好ましい。この範囲の深さを有することにより、潤滑油等の保持量と強度に優れた摺動部材を提供できる。
【0021】
また本発明の摺動部材において前記穴は摺動面の全面ではなく摺動時に力のかかる特定部位に形成されていてもよい。摺動時に力のかかる部位に形成されていれば、優れた摺動特性を有する摺動部材となる。
【0022】
また本発明の摺動部材はコンプレッサー用の斜板であることが好ましい。斜板のように傾斜して使用するものに本発明の摺動部材を用いるとその摺動特性が向上するのが顕著となる。
【0023】
また本発明の摺動部材において、油溜まり穴はUVレーザーによって形成されてもよい。UVレーザーによって穴を形成することにより、コスト性に優れ、且つ精密な穴形成が出来る。
【発明の効果】
【0024】
本発明の摺動部材は、基材と該基材表面に形成された固体潤滑皮膜とからなり、該固体潤滑皮膜に摺動面に対して傾斜している油溜まりとなる複数の穴を有することにより、潤滑油等の保持性に優れ、それにより初期なじみ性に優れ、摺動時の潤滑油等の不足による固体接触を低減し優れた摺動特性を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明の摺動部材を実施するための最良の形態を、図1〜図6を用いて説明する。図1は本発明の摺動部材の構成を表す模式図である。図1の1は基材、2は固体潤滑皮膜、3は固体潤滑剤を示す。
【0026】
図1に示すように本発明の摺動部材は、基材と該基材の表面に形成された固体潤滑皮膜とを有する。基材は特に限定されず、摺動部材において公知の種々の基材を用いることが出来る。具体的には鉄系、アルミニウム系、銅系の金属材料やアルミニウム等を固着、接合させた複合材料等を挙げることが出来る。また基材は特に平板に限らず、円筒物や球体物更には特殊曲面を有するものでもよい。
【0027】
固体潤滑皮膜は、固体潤滑剤とバインダー樹脂とからなる皮膜である。本発明に用いることが出来る固体潤滑剤としては、特に限定されないが、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシエチレン(PFA)が挙げられる。
【0028】
固体潤滑剤は1種また複数種を合わせて使用することが出来る。これらの固体潤滑剤は、摩擦係数を低く且つ安定にする作用とともに、焼き付きを防止する作用を有する。また皮膜材料中に含まれる固体潤滑皮膜の含有量は好ましくは25〜75質量%、より好ましくは40〜60質量%であり、含有量がその範囲にあることにより摩擦特性や耐摩耗性に優れた固体潤滑皮膜となる。
【0029】
バインダー樹脂は特に限定されないが、耐熱性の高いものが好ましく、例えばポリアミドイミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。これらのバインダー樹脂は固体潤滑剤の保持及び耐摩耗性の付与の作用を有する。バインダー樹脂の皮膜への含有量は40〜60質量%であることが好ましい。含有量がこの範囲にあることにより固体潤滑皮膜中の固体潤滑剤の保持性が維持され、上記効果を有効に発揮できる。
【0030】
また固体潤滑皮膜材料は、上記以外にも添加剤等も含むことが出来る。例えばAl23、Si24、TiO2及びSiO2等の硬質粒子や極圧剤が挙げられる。
【0031】
固体潤滑皮膜の基材表面への形成方法は特に限定されないが、例えば、粗面化された基材表面に固体潤滑皮膜材料を混合してスプレーで塗布後、150〜300℃で乾燥、焼成することによっても得られる。スプレー塗装法(例えばエアスプレー、エア静電塗装等)の他に、タンブリング法、浸漬法、はけ塗り法、ロール型印刷法(例えばスクリーン印刷法、パッド印刷法等)、ベル型回転霧化型静電塗装法等の方法により固体潤滑皮膜を被覆形成することが出来る。固体潤滑皮膜の厚みは1〜50μmであることが好ましい。
【0032】
基材に形成された固体潤滑皮膜は、その摺動面に開口する油溜まりとなる複数の穴を有する。上記穴の中心軸が該摺動面に対し傾斜しており且つ該穴の内壁面が中心軸に対し概略対称である。図2に固体潤滑被膜に形成された穴の概略図を示す。図2の2は固体潤滑皮膜、4は穴、5は穴の中心軸を表す。
【0033】
穴の開口面の形状は、特に限定されない。例えば円形、楕円形、多角形等が挙げられる。穴の内壁面は穴の中心軸に対し概略対称になる。
【0034】
図3に穴が形成された摺動部材の模式図を示す。図3の1は基材、2は固体潤滑皮膜、4は穴、5は穴の中心軸を表す。図3のa図は中心軸の傾斜方向が一方向に配列しているもの、b図は中心軸の傾斜方向が二以上の方向に配列しているものを表す。また図4に摺動部材が傾斜して用いられた状態の模式図を示す。図4において1は基材、2は固体潤滑皮膜、4は穴を示す。
【0035】
図2、図3、図4に示すように上記穴は穴の中心軸が摺動面に対して傾斜しており且つ該穴の内壁面が中心軸に対し概略対称である。該穴の内壁面が中心軸に対し概略対称であることにより、摺動部材が傾斜して用いられた場合でも、中に溜まった潤滑油等が流出しにくい。
【0036】
図3に示すように中心軸の傾斜方向は、一方向に配列していてもよいし、二以上の方向に配列していてもよい。中心軸の傾斜方向は、摺動部材の摺動方向及び摺動部材として重力方向に対してどのような傾斜を持って使用されるかによって決められる。例えば重力方向に対し多方向の傾斜を持ち摺動する部材の場合、上記穴の中心軸の傾斜方向も二以上の方向に配列しているほうが穴に溜まった潤滑油等が流出しにくい。穴の中心軸の傾斜方向は、摺動部材の重力方向に対する傾斜方向に対して反対の傾斜方向を持つことが望ましい。
【0037】
例えば、中心軸の傾斜は摺動面に対して15°以上75°以下の傾斜角を持つ傾斜であることが好ましい。上記範囲の傾斜角を持つ傾斜であることにより、摺動部材が重力方向に対し傾斜して摺動しても、潤滑油等の穴からの流出を抑制することが出来る。
【0038】
また穴の開口面の最大長さは40μm以上100μm以下であることが好ましい。この範囲にあることにより、潤滑油等の保持性に優れ、強度的にも優れた摺動部材を提供できる。
【0039】
また本発明の摺動部材において前記穴のピッチは少なくとも前記穴の開口面の最大長さの2倍以上20倍以下であることが好ましい。この範囲にあることによりコスト性に優れ、また潤滑皮膜の強度も優れた摺動部材を提供できる。
【0040】
また上記穴の深さは5μm以上40μm以下であることが好ましい。この範囲の深さを有することにより、潤滑油等の流出を抑え、潤滑油等を保持することが出来る。また強度的にも優れた摺動部材となる。また上記穴の深さは、固体潤滑皮膜の厚みより小さいことが望ましい。
【0041】
また上記穴は必ずしも摺動面全体に形成されている必要はなく、摺動時に力のかかる特定部位に形成されていてもよい。図5に穴が形成された斜板の模式図を示す。図5において6は斜板、4は穴を示す。また図中の矢印は穴の中心軸の傾斜方向を示す。図5の矢印に示す様に穴の中心軸の傾斜方向は、斜板の中心に向かって一方向に配列されている。
【0042】
また図6に穴の中心軸の傾斜方向が二方向で且つ交互に配列している穴が形成された斜板の模式図を示す。図5及び図6に示すように斜板の場合、摺動時に力のかかる部位としては斜板の中央部の円周状の部位が挙げられ、そこに穴を形成すればよい。また斜板の重力方向に対する傾斜にあわせ、穴の中心軸の傾斜方向は一方向に配列していてもよいし、二方向で且つ交互に配列していてもよい。
【0043】
このような穴を形成するには例えばUVレーザーによって形成することが出来る。
【0044】
穴の形成方法は、任意の角度に傾斜させることが可能な回転冶具に斜板をチャッキングし、任意の角度に傾けた後レーザービームを照射して穴を形成する。穴を形成したのちに斜板を回転させて、再びレーザービームを照射し、これらの作業を繰り返して円周状に穴を形成する。
【0045】
レーザー加工は、一般的に被加工物に工具等接触させずに、微細な加工を精度良く行うことが出来る。例えばUVレーザーによって穴を形成することにより、基材に穴を開けないように調節し、固体潤滑皮膜のみに穴を形成できる。またUVレーザーのパワー密度及びパルス幅を調整することによって該穴の開口部が開口部以上に溶けず該穴の内壁面が中心軸に対し概略対称とすることが出来る。またレーザーとして、炭酸レーザー、エキシマレーザー、半導体レーザーを加工機として使用してもよい。
【0046】
上記のような好ましい実施形態を有する摺動部材を例えばコンプレッサー用の斜板に用いることが出来る。またその摺動面に固体潤滑皮膜を形成することが出来る摺動部材であれば、各種の摺動部材に用いることが出来る。例えば本発明の摺動部材は、ピストン、シュー、エンジンボア等であってもよい。
【0047】
このような本発明の摺動部材は、摺動部材に付着していた潤滑オイルが流通ガスによって洗い流される場合でも、油溜まりとなる穴に潤滑油等が保持できる。そのため運転初期の表面に潤滑油等がない状態でも油溜まりとなる穴内に保持された潤滑油等がしみ出すことによって固体接触を低減し、耐焼き付け性を向上することが出来る。
【0048】
特に本発明の摺動部材は斜板のような、摺動面が傾斜して摺動する摺動部材において特に効果を発揮する。本発明の摺動部材を用いることによって、初期なじみ性と固体潤滑皮膜の耐摩耗性を合わせ持つ摺動部材となることが出来る。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明の摺動部材の実施例を説明する。
【0050】
直径97mm、厚み6mmの円板形状である鉄系材料(FCD700の鋳鉄)の斜板と、固体潤滑皮膜組成物として、市販のポリアミドイミド樹脂60質量%、二硫化モリブデン20質量%、グラファイト10質量%、PTFE10質量%を上記組成となるように準備した。樹脂の溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを固体潤滑皮膜原料組成物に添加し、全体を混合してスプレー塗装にて上記斜板上に被着させ、30μmの厚さの固体潤滑皮膜を形成した。その後240℃で1時間焼成し、固体潤滑皮膜を斜板上に固着した。
【0051】
次に固体潤滑皮膜を形成した斜板にUVレーザー加工装置(Spectra-Physics社製HIPPO-355Q発振機)にて、図6に示すような斜板中央部に円周状に穴あけ加工を行った。
【0052】
穴の深さ30μm、穴の開口面直径50μm、穴開け加工ピッチ250mmであった。穴の中心軸の角度は摺動面から45°であり、傾斜方向は静止時の摺動面の傾斜方向に対し、相対する2方向とした。
【0053】
図7に穴開け加工を行った加工断面の金属顕微鏡写真を示す。写真を撮影する際には3%硫酸エタノール溶液に10秒程度浸して基材を腐食させた試料を用いた。図7によると摺動面に対し穴の中心軸が傾斜した穴が形成されていることがわかる。
【0054】
上記のようにして得られた斜板を試験片とし下記条件にて摺動試験を行った。摺動試験はドライ条件での(潤滑剤なし)焼き付きを想定して行った。
【0055】
まず上記試験片を室温付近の冷凍機油に120分浸漬した後、表面の油をウェスで拭き取り試験に供した。摺動試験は神鋼造機株式会社製摩擦磨耗試験機を用い上記試験片を回転数2000rpmで回転させ、直径10mmのSUJ2製の円板を試験面に荷重1960Nの力で押しつけた。この条件で摺動させ、試験片と円板が焼き付き、ロックするまでの時間を測定した。結果と条件を表1に示す。比較例として同様に固体潤滑皮膜を形成した斜板で穴開け加工を行っていないものを用いた。
【0056】
【表1】

【0057】
表1から実施例1〜2は比較例1に比べて大幅に焼き付き迄の時間が長くなっており、摺動部材として優れた性能を発揮できることが確認できた。これは固体潤滑皮膜に形成したレーザー加工穴がオイル溜まりとなった為であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態における摺動部材の構成を表す模式図である。
【図2】本発明の実施形態における摺動部材の、穴が形成された固体潤滑被膜を表す模式図である。
【図3】本発明の実施形態における穴が形成された摺動部材の模式図である。a図は傾斜方向が一方向に配列しているもの、b図は傾斜方向が二以上の方向に配列しているものを表す。
【図4】本発明の実施形態における摺動部材が傾斜して用いられた状態の模式図である。
【図5】本発明の実施形態における穴が形成された斜板の模式図である。
【図6】本発明の実施形態における穴の傾斜方向が二方向で且つ交互に配列している穴が形成された斜板の模式図である。
【図7】本発明の実施例における穴開け加工した斜板の断面を表す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0059】
1、基材、2、固体潤滑皮膜、3、固体潤滑剤、4、穴、5、穴の中心軸、6、斜板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と該基材の表面に形成された固体潤滑皮膜とを有する摺動部材であって、該固体潤滑皮膜はその摺動面に開口する油溜まりとなる複数の穴を有し、該穴の中心軸が該摺動面に対し傾斜しており且つ該穴の内壁面が中心軸に対し概略対称であることを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記穴の中心軸の傾斜方向が摺動方向に対して一方向に配列している請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】
前記穴の中心軸の傾斜方向が摺動方向に対して二以上の方向に配列している請求項1記載の摺動部材。
【請求項4】
前記穴の中心軸の傾斜方向が摺動方向に対して二方向、かつ交互に配列している請求項3記載の摺動部材。
【請求項5】
前記穴の中心軸の傾斜は該摺動面に対して15°以上75°以下の傾斜角を持つ傾斜である請求項1〜4のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項6】
前記穴の開口面の最大長さは40μm以上100μm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項7】
前記穴のピッチは少なくとも前記穴の開口面の最大長さの2倍以上20倍以下である請求項1〜6のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項8】
前記穴の深さは5μm以上40μm以下である請求項1〜7のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項9】
前記穴は前記摺動面の全面ではなく摺動時に力のかかる特定部位に形成されている請求項1〜8のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項10】
前記摺動部材はコンプレッサー用の斜板である請求項1〜9のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項11】
前記穴は、UVレーザーによって形成された請求項1〜10のいずれかに記載の摺動部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−192206(P2007−192206A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13861(P2006−13861)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】