説明

摺動部材

【課題】相手材との初期なじみ性に優れるとともに、高負荷での摺動が継続した場合であっても耐スカッフ性と耐摩耗性を継続的に維持できる摺動部材を提供する。
【解決手段】少なくとも摺動面11に、母材10側より耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3とが繰り返し形成された摺動部材1であって、耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3とからなる層7,…,7を2以上有する摺動部材1により、上記課題を解決した。この摺動部材1において、少なくとも耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3との間に、耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3の中間組成からなる傾斜膜が形成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材に関し、更に詳しくは、初期なじみ性、耐スカッフ性及び耐摩耗性に優れた摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関である自動車エンジン等の軽量化と高出力化に伴い、厳しい摺動条件下で使用される摺動部材、特に内燃機関用ピストンリングにおいては、耐摩耗性や耐スカッフ性等のさらなる向上が要求されている。
【0003】
こうした中、ピストンリングの外周摺動面や上下面に、クロムめっき皮膜や窒化層、また、PVD法で形成された窒化クロム(CrN、CrN)皮膜、金属クロムを含有した窒化クロム皮膜、窒化チタン(TiN)皮膜等の耐摩耗性皮膜を形成することにより、上記の要求に対応している。特にピストンリングの外周摺動面はシリンダライナの内周面に摺動接触することから、特に優れた耐摩耗性が要求され、クロムめっき皮膜、窒化層又はPVD法で形成された金属窒化物層等の耐摩耗性皮膜が好ましく用いられている。
【0004】
また、近年では、上記のクロムめっき皮膜等の耐摩耗性皮膜は初期なじみ性が十分でなく、スカッフが発生するおそれがあるとの問題に対し、摩擦係数が低く、耐摩耗性のよい硬質炭素皮膜(ダイヤモンドライクカーボン膜ともいう。)をピストンリングの外周摺動面や上下面に形成する例が提案されている。例えば、下記特許文献1には、ピストンリングの外周摺動面にCrめっき皮膜、窒化層、イオンプレーティング皮膜のいずれかを形成し、その上に硬質炭素皮膜を形成してなるピストンリングが提案されている。また、下記特許文献2には、ピストンリングの外周摺動面にSiを含有する第1硬質炭素皮膜とW又はW,Niを含有する第2硬質炭素皮膜とを積層したピストンリングが提案されている。
【特許文献1】特開平11−172413号公報
【特許文献2】特開2003−14121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1で提案されたピストンリングにおいては、外周摺動面に形成する硬質炭素皮膜は成膜速度が遅く厚膜化が困難であり、薄膜としている。硬質炭素皮膜は、耐スカッフ性に優れているが、耐摩耗性が劣るため、摩耗量が増加する傾向にある。その結果、外周摺動面では、硬質炭素皮膜の下の耐摩耗性の表面処理層が露出するので、摩耗は抑制されるが、耐スカッフ性の点で問題が生じる。一方、そうした硬質炭素皮膜を厚くしようとすると、成膜速度が遅いためにコストアップになるという問題がある。
【0006】
また、特許文献2では、積層の硬質炭素皮膜として性質を変えて初期なじみと耐摩耗性を両立しているが、成膜速度が遅いため皮膜形成の低コスト化に対しては解決できていなかった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、相手材との初期なじみ性に優れるとともに、高負荷での摺動が継続した場合であっても耐スカッフ性と耐摩耗性を継続的に維持できる摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の摺動部材は、少なくとも摺動面に、母材側より耐摩耗性皮膜と硬質炭素皮膜とが繰り返し形成された摺動部材であって、前記耐摩耗性皮膜と前記硬質炭素皮膜とからなる層を2以上有することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、最表面に硬質炭素皮膜を有するので、相手材に対する初期なじみ性を良好なものとすることができる。さらに、耐摩耗性皮膜と硬質炭素皮膜とからなる層を2以上有する積層膜が少なくとも摺動面に形成されているので、高負荷での摺動が継続して最表面の硬質炭素皮膜が部分的に摩耗してその下の耐摩耗性皮膜がその部分に現れた場合であっても、その耐摩耗性皮膜により耐摩耗性を保持することができる。そして、この耐摩耗性皮膜が摩耗した場合には、さらにその下の摩擦特性の良い硬質炭素皮膜がその部分に現れるので、耐スカッフ性と耐摩耗性を継続的に維持できる。
【0010】
本発明の摺動部材において、少なくとも前記耐摩耗性皮膜と前記硬質炭素皮膜との間に、前記耐摩耗性皮膜と前記硬質炭素皮膜の中間組成からなる傾斜膜が形成されていることが好ましい。この発明によれば、傾斜膜を設けることにより、安定した成膜と皮膜間の密着性を向上させることができる。
【0011】
本発明の摺動部材において、前記耐摩耗性皮膜の厚さが0.01μm以上0.5μm以下であり、前記硬質炭素皮膜の厚さが前記耐摩耗性皮膜の厚さの1/1〜1/10であり、前記積層膜の全体厚さが1μm以上30μm以下であることが好ましい。この発明によれば、耐摩耗性皮膜よりも成膜速度が遅い硬質炭素皮膜の厚さを上記範囲のように薄くしたので、硬質炭素皮膜の上記効果を奏する状況下で、硬質炭素皮膜の成膜時間を短くすることができる。その結果、成膜時のコストアップを極力抑制できる。
【0012】
本発明の摺動部材において、前記硬質炭素皮膜の厚さが、前記耐摩耗性皮膜の表面粗さよりも小さいことが好ましい。この発明によれば、硬質炭素皮膜の厚さが耐摩耗性皮膜の表面粗さよりも小さい場合においては、高負荷での摺動が継続して硬質炭素皮膜が部分的に摩耗した場合に、その下の耐摩耗性皮膜やさらにその下の摩擦特性の良い硬質炭素皮膜がその部分に現れ易く、良好な耐スカッフ性と耐摩耗性を継続的に維持できる。
【0013】
本発明の摺動部材において、前記耐摩耗性皮膜と前記硬質炭素皮膜が、スパッタリング法又はイオンプレーティング法で形成されていることが好ましい。耐摩耗性皮膜と硬質炭素皮膜は物理的蒸着(PVD)や化学的蒸着(CVD)のいずれでも成膜可能であるが、スパッタリング法やイオンプレーティング法で形成することで成膜条件のコントロールを容易にすることができる。
【0014】
本発明の摺動部材において、前記耐摩耗性皮膜がCr−N系皮膜又はCr−B−N系皮膜であることが好ましい。
【0015】
本発明の摺動部材において、前記硬質炭素皮膜が、炭素からなる硬質炭素皮膜、又は、炭素と、ケイ素、酸素、水素、窒素、アルゴンのうち少なくとも1種以上とからなる硬質炭素皮膜であることが好ましい。
【0016】
本発明の摺動部材において、前記摺動部材が内燃機関用ピストンリングであることが好ましい。この発明によれば、耐摩耗性皮膜と硬質炭素皮膜とからなる層を2以上有する積層膜をピストンリングの外周摺動面に形成することにより、シリンダライナの内周面との初期なじみ性に優れるとともに、耐スカッフ性と耐摩耗性を継続的に維持するピストンリングとして好ましく適用できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の摺動部材によれば、相手材に対する初期なじみ性を良好なものとすることができるとともに、高負荷での摺動が継続して最表面の硬質炭素皮膜が部分的に摩耗してその下の耐摩耗性皮膜がその部分に現れた場合であっても、その耐摩耗性皮膜により耐摩耗性を保持することができ、さらに、その耐摩耗性皮膜が摩耗した場合には、その下の摩擦特性の良い硬質炭素皮膜がその部分に現れるので耐スカッフ性と耐摩耗性を継続的に維持できるという、従来のものでは奏し得ない格別の効果を奏する。特にピストンリングに適用すれば、今後開発が予想される高出力、高温高負荷のエンジンに対応可能なピストンリングを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の摺動部材について図面を参照しつつ説明する。以下に示す実施の形態は本発明の一例であって、本発明の技術的範囲は以下の実施の形態に限定されるものではない。なお、以下においては、摺動部材として内燃機関用ピストンリングを用いて説明するので、摺動部材をピストンリングと読み替えて説明する。
【0019】
[ピストンリング]
図1は、本発明のピストンリングの一例を示す模式断面図であり、図2は、本発明のピストンリングの他の一例を示す模式断面図である。また、図3及び図4は、積層膜の模式的な拡大断面図である。本発明のピストンリング1は、図1〜図4に示すように、外周摺動面11に、耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3とからなる層7,…,7を2以上有する積層膜6が形成されている。
【0020】
本発明のピストンリング1は、ピストンに形成されたピストンリング溝に装着され、ピストンの上下運動(往復運動に同じ。)によってシリンダライナの内周面を摺動しながら上下運動する摺動部材である。本発明のピストンリング1は、トップリング、セカンドリング、オイルリングの何れかであっても又はそれらの全てであってもよい。なお、本発明のピストンリング1は、アルミニウム合金製やステンレス鋼製等、各種の材質からなるピストンに装着されるピストンリングとして好ましく用いられる。また、摺動の相手材となるシリンダライナには、鋳鉄、ボロン鋳鉄、鋳鋼、アルミニウム合金等が好ましく用いられ、本発明の所期の目的である、優れた初期なじみ性と耐摩耗性と耐スカッフ性を達成することができる。
【0021】
(母材)
図1、図2に示すピストンリング1の母材10は、従来使用されている材質からなるものであればよく特に限定されない。したがって、いかなる材質からなる母材10に対しても本発明を適用でき、従来好ましく用いられている例えばステンレススチール材、鋳物材、鋳鋼材、鋼材等の母材10を適用でき、また、母材に予め図3に示す窒化処理を施して窒化層が形成されているものや、母材に予め耐摩耗性皮膜2(下記同様のCr−N系、Cr−B−N系等)が形成されているものも、積層膜6の形成対象である母材10として適用できる。
【0022】
(下地膜)
母材10上には、図1及び図2に示すように、必要に応じて下地膜5を形成する。この下地膜5は、母材10上に形成する積層膜6、詳しくは耐摩耗性皮膜2の密着性を向上させるものであり、したがって、下地膜5は耐摩耗性皮膜2が形成される面に形成される。下地膜5の組成は、耐摩耗性皮膜2の組成に対応して選ばれる。例えば、耐摩耗性皮膜2が後述のようなCr−N系皮膜やCr−B−N系皮膜であれば、下地膜5として金属Cr膜を形成することが密着性の観点から好ましい。下地膜5は種々の形成手段で形成することができ、例えばスパッタリング法やイオンプレーティング法で形成できるが、特にその下地膜5上に形成する耐摩耗性皮膜2と同じ成膜手法で形成することがコストの観点からは好ましい。また、下地膜5の厚さは特に限定されないが、例えば0.01μm以上3μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0023】
(積層膜)
積層膜6は、図1及び図2に示すように、ピストンリング1の少なくとも外周摺動面11に形成されるが、その他の面、例えば上面12、下面13、内周面14にも任意に形成できる。例えば、図1に示すように外周摺動面11のみに形成する場合、図2に示すように外周摺動面11、上面12及び下面13に形成する場合、図示しないが外周摺動面11、上面12、下面13及び内周面14の全周に形成する場合等を挙げることができる。
【0024】
この積層膜6は、少なくとも外周摺動面11の母材10上に直接又は下地膜5を介して設けられたものであり、図3に例示するように、母材側より耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3とが繰り返し形成されたものであって、耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3とからなる層7,…,7を2以上有する多層構造からなる。また、積層膜6には、図4に例示するように、耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3の他、後述の傾斜膜4が含まれていてもよい。積層膜6の全体厚さは、必要に応じて設けられた傾斜膜4を含む厚さであるが、1μm以上30μm以下で形成されていることが好ましく、より好ましくは3μm以上20μm以下である。積層膜6を構成する層7は、耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3とがその順で積層された単位であり、少なくとも2以上で構成され、それぞれの皮膜の厚さにもよるが、その層7を最大1500回繰り返した多層構造とすることもできる。なお、製造上、積層膜6を構成する層7,…,7は、10回〜100回の範囲で形成されることがコストの面から好ましい。
【0025】
(耐摩耗性皮膜)
積層膜6を構成する耐摩耗性皮膜2は、相手材であるシリンダライナの内周面との間で、優れた耐摩耗性や耐スカッフ性等の摺動特性を発揮できる化合物皮膜である。具体的には、Cr−N系、Cr−B−N系、Cr−B−V−N系及びTi−N系から選ばれる皮膜を好ましく適用できる。この耐摩耗性皮膜2は、硬質炭素皮膜3とで構成される層7においては、母材10側に設けられる。
【0026】
耐摩耗性皮膜2は種々の形成手段で形成することができ、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法等で形成できる。制御の容易さの観点からは、スパッタリング法とイオンプレーティング法が好ましく、中でも、マグネトロンスパッタリング法や反応性イオンプレーティング法等が好ましい。
【0027】
上記のCr−N系耐摩耗性皮膜2は、窒化クロムを主成分とした皮膜であり、例えばマグネトロンスパッタリング法により、クロムターゲットと、導入ガスとしてのアルゴン及び窒素とを用いて成膜できる。ここで、主成分である窒化クロム以外の成分としては、クロム、酸素、炭素、不可避不純物等を挙げることができる。なお、主成分である窒化クロムは、皮膜中におよそ80原子%以上の割合で含まれている。
【0028】
また、上記のCr−B−N系耐摩耗性皮膜2は、窒素とホウ素のクロム化合物を主成分とした皮膜であり、例えばマグネトロンスパッタリング法により、クロム−ボロン合金ターゲットと、導入ガスとしてのアルゴン及び窒素とを用いて成膜できる。ここで、主成分である窒素とホウ素のクロム化合物以外の成分としては、クロム、ホウ素、酸素、炭素、不可避不純物等を挙げることができる。なお、主成分であるクロム化合物は、皮膜中におよそ80原子%以上の割合で含まれている。
【0029】
また、上記のCr−B−V−N系耐摩耗性皮膜2は、窒素とホウ素とバナジウムのクロム化合物を主成分とした皮膜であり、例えばマグネトロンスパッタリング法により、クロム−ボロン−バナジウム合金ターゲットと、導入ガスとしてのアルゴン及び窒素とを用いて成膜できる。ここで、主成分である窒素とホウ素とバナジウムのクロム化合物以外の成分としては、クロム、ホウ素、バナジウム、酸素、炭素、不可避不純物等を挙げることができる。なお、主成分であるクロム化合物は、皮膜中におよそ80原子%以上の割合で含まれている。
【0030】
また、上記のTi−N系耐摩耗性皮膜2は、窒化チタンを主成分とした皮膜であり、例えばマグネトロンスパッタリング法により、チタンターゲットと、導入ガスとしてのアルゴン及び窒素とを用いて成膜できる。ここで、主成分である窒化チタン以外の成分としては、クロム、酸素、炭素、不可避不純物等を挙げることができる。なお、主成分である窒化チタンは、皮膜中におよそ80原子%以上の割合で含まれている。
【0031】
耐摩耗性皮膜2の厚さは特に限定されないが、例えば0.01μm以上0.5μmの範囲内であることが好ましい。この範囲内の厚さで耐摩耗性皮膜2を成膜することにより、ピストンリング1に良好な耐摩耗性を付与することができる。
【0032】
耐摩耗性皮膜2の表面粗さは、JIS B0601(1994)に準拠した十点平均粗さRzで、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。耐摩耗性皮膜2はスパッタリング法やイオンプレーティング法等のPVD法によって好ましく成膜されるので、成膜時の各部の膜厚は均一であり、その結果、表面粗さは主には母材10の表面粗さに大きく影響する。母材10の表面粗さは、ラッピング等の研磨手段によって任意に調整できるので、耐摩耗性皮膜2の表面粗さは、上記の範囲内で任意に調整することができる。なお、表面粗さ(十点平均粗さRz)は、表面粗さ測定装置で測定できる。
【0033】
(硬質炭素皮膜)
積層膜6を構成する硬質炭素皮膜3は、いわゆるダイヤモンドライクカーボン膜(以下、DLC膜と称す。)と呼ばれ、アモルファス状の炭素膜のことをいい、相手材であるシリンダライナの内周面に対する摩擦係数が低く、相手材に対する初期なじみ性が良好な皮膜である。具体的には、炭素の他に、ケイ素、酸素、水素、窒素、アルゴンのうち少なくとも1種以上からなる硬質炭素皮膜を好ましく適用できる。この硬質炭素皮膜3は、耐摩耗性皮膜2とで構成される層7においては、母材10の反対側、すなわち表面側に設けられる。
【0034】
硬質炭素皮膜3は上記の耐摩耗性皮膜2と同様、種々の形成手段で形成することができ、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法等で形成できる。制御の容易さの観点からは、スパッタリング法とイオンプレーティング法が好ましく、中でも、マグネトロンスパッタリング法や反応性イオンプレーティング法等が好ましい。
【0035】
上記の硬質炭素皮膜3は、炭素を主成分としたDLC皮膜であり、例えばマグネトロンスパッタリング法により、炭素ターゲットと、導入ガスとしてのアルゴンとを用いて成膜できる。また、必要に応じてメタン等の炭素源を導入ガスとして用いてもよい。ここで、硬質炭素皮膜3の主成分である炭素以外の成分としては、水素と不可避不純物等を挙げることができる。また、アルゴンガスを積極的に導入することにより、アルゴンを含有する硬質炭素皮膜を成膜することができる。同様に、酸素ガスや窒素ガスを導入することにより、酸素や窒素を含有する硬質炭素皮膜3を成膜することができる。なお、主成分である炭素は皮膜中におよそ60原子%以上の割合で含まれ、水素は皮膜中におよそ40原子%以下の割合で含まれている。また、アルゴン、酸素、窒素はともに10原子%以下の割合で含まれていることが好ましい。
【0036】
また、上記のケイ素を含有した硬質炭素皮膜3は、炭素とケイ素を主成分としたDLC皮膜であり、例えばマグネトロンスパッタリング法により、炭素ターゲットと、導入ガスとしてのアルゴン及びケイ素化合物ガス(例えば、テトラメチルシラン等)とを用いて成膜したり、炭素とケイ素とからなるターゲットと、導入ガスとしてのアルゴンとを用いて成膜する。また、必要に応じてメタン等の炭素源を導入ガスとして用いたり、ケイ素化合物ガス(例えば、テトラメチルシラン等)をケイ素源として用いてもよい。ここで、主成分である炭素とケイ素以外の成分としては、水素と不可避不純物等を挙げることができる。なお、主成分である炭素は皮膜中におよそ50原子%〜80原子%の割合で含まれ、ケイ素は皮膜中におよそ2原子%〜6原子%の割合で含まれている。
【0037】
硬質炭素皮膜3の厚さは特に限定されないが、前記の耐摩耗性皮膜2の厚さの1/1〜1/10の範囲内であることが好ましい。この範囲内の厚さで硬質炭素皮膜3を成膜することにより、相手材に対する初期なじみ性を付与することができるとともに、摩擦係数の低下効果による摩耗特性の向上を実現できる。さらに、成膜速度が耐摩耗性皮膜2に比べて相対的に遅い硬質炭素皮膜3の厚さを耐摩耗性皮膜2の厚さよりも薄くしたので、硬質炭素皮膜3の摩擦係数低減効果を奏する状況下で、硬質炭素皮膜3の成膜時間を少なくすることができる。その結果、成膜時のコストアップを極力抑制できる。
【0038】
さらに、硬質炭素皮膜3の厚さは、上記した耐摩耗性皮膜2の表面粗さ(十点平均粗さRzで、0.1μm以上1.0μm以下)よりも小さいことが好ましい。図5は、積層膜を構成する硬質炭素皮膜が部分的に摩耗した場合の一例を示す模式的な拡大断面図である。こうした厚さで硬質炭素皮膜3を形成することにより、高負荷条件下でのピストンリング1の摺動が継続して、積層膜6を構成する硬質炭素皮膜3が部分的に摩耗した場合であっても、その下の耐摩耗性皮膜2やさらにその下の摩擦特性の良い硬質炭素皮膜3がその部分に現れる。こうした外周摺動面11には、図5に示すように、耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3とが斑(まだら)に現れるので、硬質炭素皮膜3による摩擦係数低減効果と、耐摩耗性皮膜2による耐摩耗性効果との両方を兼ね備える摺動面を常に有することとなり、本発明のピストンリング1は、優れた摩耗特性を有するものとなる。
【0039】
また、硬質炭素皮膜3の組成を積層膜6の厚さ方向Y(図3〜図5参照)で変化させてもよい。例えば、硬質炭素皮膜3においては、炭素ターゲットに印加する電流を上げて硬質炭素皮膜3に含まれる炭素の割合を増すことにより硬質炭素皮膜3の硬さを低くしたり、炭素ターゲットに印加する電流を下げて硬質炭素皮膜3に含まれる炭素の割合を減らすことにより硬質炭素皮膜3の硬さを高くしたりすることができる。こうした組成の変化を厚さ方向Yで行うことにより、硬質炭素皮膜3の硬さとそれに伴う耐摩耗性や摩擦係数を変化させることができる。また、硬質炭素皮膜3においては、導入ガスとしてメタンガスを用いれば、硬質炭素皮膜3の硬さを増すことができるので、メタンガスの導入量を調整して厚さ方向の特性を変化させることができる。こうした厚さ方向の特性の変化は、成膜条件を変化させることにより行うことも可能である。もちろん他の組成系の硬質炭素皮膜3に対しても同様に行うことができ、また、上述した耐摩耗性皮膜2に対しても同様に行うことができる。
【0040】
本発明のピストンリング1においては、上記の耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3とで構成される層7を2以上有する積層膜6を少なくともピストンリング1の外周摺動面11に形成するが、図2に示すように、ピストンリング1の上面12と下面13にも形成してもよい。ピストンリング1の上下面12,13に積層膜6を形成することにより、ピストンに形成された溝であるピストンリング溝が有する面(ピストンリングの上面と下面がそれぞれ対向する面)に摺動接触した場合の摩耗を防ぐことができる。また、ピストンリング溝がアルミニウム又はその合金で形成された場合に、そのピストンリング溝に対して、優れた耐Al凝着性を示すことができる。
【0041】
積層膜6の硬さは、耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3との存在割合、すなわち厚さの程度によって異なるので一概に言えないが、例えばCr−N系、Cr−B−N系、Cr−B−V−N系及びTi−N系から選ばれる耐摩耗性皮膜2は、ビッカース硬さで1000Hv(0.05)以上2000Hv(0.05)以下の範囲で容易に制御可能であり、炭素からなる硬質炭素皮膜3、又は、炭素と、ケイ素、水素、酸素、窒素、アルゴンのうちの少なくとも1種以上とからなる硬質炭素皮膜3は、ビッカース硬さで1000Hv(0.05)以上4000Hv(0.05)以下の範囲で容易に制御可能である。特に硬質炭素皮膜3は硬いので、より硬度を高める場合には、積層膜6を構成する硬質炭素皮膜3の厚さ割合を増せばよく、硬度を下げたい場合には、積層膜6を構成する硬質炭素皮膜3の厚さ割合を減らせばよい。また、こうした積層膜6の硬さを、積層膜6の厚さ方向Yで変化させてもよく、その場合には、上記のように厚さ方向Yでの硬質炭素皮膜3の厚さ割合を変化させたり、既述のように各皮膜の組成を変化させたりして制御することができる。
【0042】
積層膜6を構成する層7の厚さ(耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3との合計厚さ)は、積層するにつれて薄くしていってもよいし、厚くしていってもよい。また、層7を構成する耐摩耗性皮膜2の厚さと硬質炭素皮膜3の厚さも、積層するにつれて変化させてもよい。例えば、積層初期の積層膜6では耐摩耗性皮膜2を厚くして硬質炭素皮膜3を薄くした層7とし、積層後期の積層膜6では耐摩耗性皮膜2を積層初期に比べて相対的に薄くして硬質炭素皮膜3を積層初期に比べて相対的に厚くした層7とすれば、摺動初期時には高い初期なじみ性を持たせることができるとともに、摺動継続時には安定した耐摩耗性を持たせることができるという効果がある。
【0043】
こうした積層膜6を有するピストンリングによれば、最表面に硬質炭素皮膜3を有するので、相手材に対する初期なじみ性を良好なものとすることができ、さらに、高負荷での摺動が継続して最表面の硬質炭素皮膜3が部分的に摩耗した場合であっても、その下の耐摩耗性皮膜2やさらにその下の摩擦特性の良い硬質炭素皮膜3がその部分に現れるので、耐スカッフ性と耐摩耗性を継続的に維持できる。
【0044】
(傾斜膜)
層7を構成する耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3との間には、密着性を向上させる等の目的で傾斜膜4が形成されていることが好ましい。すなわち、傾斜膜4は、耐摩耗性皮膜2上に少なくとも設けられており、その1つ上に設けられている硬質炭素皮膜3の下に設けられている。こうした構成とすることにより、硬質炭素皮膜3を傾斜膜4上に密着性よく安定して成膜することができ、密着性を向上させることができる。また、傾斜膜4は、積層方向の耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3との間に設けられていてもよいし、積層方向の硬質炭素皮膜3と耐摩耗性皮膜2との間に必ず設けられていてもよいし、下側や上側の任意の部分にのみ設けられていてもよい。
【0045】
傾斜膜4は、上記の耐摩耗性皮膜2や硬質炭素皮膜3と同様の形成手段で形成することが好ましく、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法等で形成できる。この傾斜膜4は、耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3との中間組成からなるものであり、積層膜6の厚さ方向Yで一定の組成であってもよいし、厚さ方向Yで各傾斜膜の組成を変化させてもよいし、一つの傾斜膜4における組成を耐摩耗性皮膜2に接触する側から硬質炭素皮膜3に接触する側に向かって徐々に変化させてもよい。
【0046】
例えば硬質炭素皮膜3が炭素を主成分とする皮膜であり、耐摩耗性皮膜2がCr−N系皮膜である場合には、耐摩耗性皮膜2上に形成する傾斜膜4の組成は、Cr−N系の耐摩耗性皮膜2内に所定量の炭素を含有させたものであることが好ましい。この場合の炭素含有量としては、例えば30原子%〜60原子%の割合とすることが好ましく、窒素含有量としては、例えば0原子%〜20原子%の割合とすることが好ましい。こうした組成は、所定の圧力のアルゴンガス導入下でクロムターゲットに電流を印加してCr−N系の耐摩耗性皮膜2を形成した後に、クロムターゲットとは別に設けられた炭素ターゲットにも電流を印加することにより形成することができる。また、組成の変化は、成膜条件を変化させることにより容易に行うことができる。
【0047】
また、硬質炭素皮膜3がケイ素を含有する皮膜であり、耐摩耗性皮膜2がCr−N系皮膜である場合には、耐摩耗性皮膜2上に形成する傾斜膜4の組成は、Cr−N系の耐摩耗性皮膜2内に所定量の炭素やケイ素を含有させたものであることが好ましい。他の系の組合せについても同様の傾斜膜組成にすることができる。
【0048】
傾斜膜4の厚さは特に限定されないが、例えば0.01μm以上20μmの範囲内であることが好ましい。
【0049】
以上説明したピストンリング1は本発明に係る摺動部材の一例であり、上記の構成は他の摺動部材、例えばシリンダライナの内周摺動面、ロッカーアームの摺動面、カムシャフトの摺動面、コンプレッサー用ベーンの摺動面等の負荷の大きい過酷な摺動環境に用いられる摺動部材に好ましく適用できる。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明に係る摺動部材について、実施例と比較例と従来例を挙げてさらに詳しく説明する。
【0051】
(実施例1)
C:0.85質量%、Si:0.4質量%、Mn:0.3質量%、Cr:17.5質量%、Mo:1.1質量%、V:0.1質量%、P:0.02質量%、S:0.02質量%、残部:鉄及び不可避不純物からなるSUS440B相当(17Crステンレス鋼)製で、予めガス窒化処理してなる母材10を使用した。この母材10の外周摺動面11に、下地膜5として、厚さ0.5μmの金属Cr膜を形成した。この金属Cr膜は、マグネトロンスパッタリング装置を用い、アルゴンを導入ガスとした圧力0.5Paの条件下で、チャンバー内のクロムターゲットに−50Vのバイアス電圧を印加して成膜した。
【0052】
次いで、その下地膜5上に、耐摩耗性皮膜2として厚さ0.1μmのCr−N皮膜(Cr:7.4原子%、CrN:4.5原子%、CrN:88.1原子%)を形成した後、耐摩耗性皮膜2上に厚さ0.03μmの傾斜膜4(C:42.7原子%、Cr:38.8原子%、Hその他:18.5原子%)を形成した。さらにその上に硬質炭素皮膜3として厚さ0.04μmの炭素を主成分とするDLC皮膜(C:97.2原子%、Hその他:2.7原子%)を形成して層7とした。次いで、硬質炭素皮膜3上にも厚さ0.03μmの傾斜膜4(C:42.7原子%、Cr:38.8原子%、Hその他:18.5原子%)を形成した。こうした、耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3の間に傾斜膜4を形成し、それらを繰り返して積層膜6を形成した。これらの層7を25回繰り返して形成し、合計厚さ5μmの積層膜6を形成した。こうして実施例1のピストンリングを形成した。
【0053】
なお、各皮膜はマグネトロンスパッタリング装置を用いて成膜した。具体的には、Cr−N皮膜は、アルゴンと窒素を導入ガスとした圧力0.5Paの条件下で、チャンバー内のクロムターゲットに−100Vのバイアス電圧を印加して成膜し、また、炭素を主成分とするDLC皮膜は、アルゴンとメタンを導入ガスとした圧力0.8Paの条件下で、チャンバー内の炭素ターゲットに−200Vのバイアス電圧を印加して成膜し、また、傾斜膜4は、アルゴンとメタンの導入ガスに窒素を加えた圧力0.8Paの条件下で、チャンバー内の炭素ターゲットに−50Vのバイアス電圧を印加するとともに、チャンバー内のクロムターゲットに−50Vのバイアス電圧を印加して成膜した。また、Cr−N皮膜を構成する組成、炭素を主成分とする硬質炭素皮膜の組成、傾斜膜の組成は、後方散乱測定装置(日新ハイボルテージ株式会社製)を用いて定量した結果である。
【0054】
(実施例2)
実施例1において、硬質炭素皮膜3の厚さを0.04μmから0.1μmに変更した他は、実施例1と同様にして実施例2のピストンリングを作製した。なお、積層膜6の総厚さは実施例1と同様の5μmとするため、層7の形成を19回繰り返した。
【0055】
(実施例3)
実施例2において、硬質炭素皮膜3の組成を原子比でC99.7原子%、Hその他0.3原子%とした他は、実施例2と同様にして実施例3のピストンリングを作製した。なお、こうした組成は、アルゴンとメタンを導入ガスとした圧力0.8Paの条件下で、チャンバー内の炭素ターゲットに−200Vのバイアス電圧を印加して成膜した。
【0056】
(比較例1)
実施例1において、下地膜5上に、耐摩耗性皮膜2として厚さ4μmのCr−N皮膜(Cr:7.4原子%、CrN:4.5原子%、CrN:88.1原子%)を同様の条件で形成した後、その上に硬質炭素皮膜3として厚さ1μmの炭素を主成分とするDLC皮膜(C:97.2原子%、Hその他:2.7原子%)を同様の条件で形成し、合計厚さ5μmの2層膜を形成した。こうして比較例1のピストンリングを形成した。なお、耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3は各1層であり、耐摩耗性皮膜2と硬質炭素皮膜3との間に傾斜膜4を形成した。この傾斜膜の組成は、C:42.7原子%、Cr:38.8原子%、Hその他:18.5原子%である。
【0057】
(従来例1)
実施例1において、下地膜5上に、耐摩耗性皮膜2として厚さ5μmのCr−N皮膜(Cr:7.4原子%、CrN:4.5原子%、CrN:88.1原子%)を同様の条件で形成して従来例1のピストンリングを形成した。なお、耐摩耗性皮膜2は単一層であり、硬質炭素皮膜3と傾斜膜4は形成しなかった。
【0058】
(従来例2)
実施例1において、下地膜5上に、硬質炭素皮膜3として厚さ5μmの炭素を主成分とするDLC皮膜(C:97.2原子%、Hその他:2.7原子%)を同様の条件で形成して従来例2のピストンリングを形成した。なお、硬質炭素皮膜3は単一層であり、耐摩耗性皮膜2と傾斜膜4は形成しなかった。
【0059】
(摩耗試験)
摩耗試験は、図6に示すアムスラー型摩耗試験機20を使用し、上記実施例1〜3、比較例1、従来例1,2で得られたピストンリングと同じ条件で得た供試材21(7mm×8mm×5mm)を固定片とし、相手材22(回転片)にはドーナツ状(外径40mm、内径16mm、厚さ10mm)のものを用い、供試材21と相手材22を接触させ、荷重Pを負荷して行った。各供試材21を用いた摩擦係数試験条件は、潤滑油23:クリセフH8(1号スピンドル油相当品)、油温:80℃、周速:1m/秒(478rpm)、荷重:1471.5N、試験時間:7時間の条件下で、ボロン鋳鉄を相手材22として行った。このボロン鋳鉄からなる相手材22は、所定形状に研削加工した後、研削砥石の細かさを変えて順次表面研削を行い、最終的に2μmRz(十点平均粗さ。JIS B0601(1994)に準拠。)となるように調整した。摩擦係数は、摩擦抵抗を荷重で割ることにより算出した。
【0060】
表1に示す耐摩耗指数は、実施例1〜3、比較例1、従来例2に相当する各供試材の摩耗指数を、従来例1に対応する供試材の摩耗指数に対しての相対比として比較し、耐摩耗指数とした。従って、各供試材の耐摩耗指数が100より小さいほど摩耗量が小さいことを表す。実施例1〜3に対応する各供試材は、耐摩耗指数が小さく、比較例1、従来例1,2に対応する供試材よりも耐摩耗性に優れていた。結果を表1に示した。
【0061】
(スカッフ試験)
スカッフ試験も、上記の摩耗試験で使用したアムスラー型摩耗試験機20と、上記同様の供試材21を用い、その供試材に潤滑油を付着させ、スカッフ発生まで荷重を負荷させて行った。供試材としては、上記の摩耗試験で用いた供試材を用いてスカッフ試験を行い、耐スカッフ性の評価を行った。試験条件は、潤滑油:クリセフH8(1号スピンドル油相当品)、周速:1m/秒(478rpm)の条件下で、ボロン鋳鉄を相手材として行った。このボロン鋳鉄も上述の方法により最終的に2μmRzとなるように調整した。
【0062】
耐スカッフ性は、従来例1に対応する供試材のスカッフ発生荷重を100とし、実施例1〜3、比較例1、従来例2に相当する各供試材のスカッフ発生荷重を従来例1に対応する供試材の結果に対する耐スカッフ指数として比較した。従って、各供試材の耐スカッフ指数が100より大きいほど、スカッフ発生荷重が大きくなり、従来例1に対応する供試材よりも耐スカッフ性に優れることとなる。実施例1〜3に対応する各供試材は、耐スカッフ指数が大きく、比較例1、従来例1,2に対応する供試材よりも耐スカッフ性に優れていた。結果を表1に示した。
【0063】
(摩擦係数試験)
摩擦係数試験も、上記摩耗試験で使用したアムスラー型摩耗試験機20と、上記同様の供試材21とを用い、同様の方法で行った。この摩擦係数試験は、上記の摩耗試験において、各供試材のトルク(摩擦抵抗)を荷重Pで割ることにより算出した。
【0064】
摩擦係数は、実施例1、比較例1の各供試材の摩摩擦係数を、従来例1に対応する供試材の摩擦係数に対しての相対比として比較し、摩擦係数指数とした。従って、各供試材の摩擦係数指数が100より小さいほど摩擦係数が小さいことを表す。実施例1と比較例1の供試材の摩擦係数指数は90であり、従来例1の供試材の結果に比べて小さい摩擦係数を示していた。その結果を表1に示した。
【0065】
(その他の評価)
硬さ測定は、微小ビッカース硬さ試験機(株式会社アカシ製)を用いて測定した。厚さは、断面観察から算出し、表面粗さは、JIS B0601(1994)に準拠し、表面粗さ測定装置(株式会社東京精密製)で測定し、十点平均粗さRzで評価した。
【0066】
以上の結果より、本発明に係る実施例1〜3の測定試料は、従来例1,2及び比較例1に比べて優れた耐摩耗性と耐スカッフ性を持つ、摩擦係数の小さい皮膜とすることができる、という結果が得られた。
【0067】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明のピストンリングの一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明のピストンリングの他の一例を示す模式断面図である。
【図3】積層膜の模式拡大図の一例である。
【図4】積層膜の模式拡大図の他の一例である。
【図5】積層膜を構成する硬質炭素皮膜が部分的に摩耗した場合の一例を示す模式的な拡大断面図である。
【図6】測定に用いたアムスラー型摩耗試験機の構成原理図である。
【符号の説明】
【0069】
1 ピストンリング
2 耐摩耗性皮膜
3 硬質炭素皮膜
4 傾斜膜
5 下地膜
6 積層膜
7 層(耐摩耗性皮膜と硬質炭素皮膜からなる層)
10 母材
11 外周摺動面
12 上面
13 下面
14 内周面
20 アムスラー型摩耗試験機
21 測定試料
22 相手材
23 潤滑油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも摺動面に、母材側より耐摩耗性皮膜と硬質炭素皮膜とが繰り返し形成された摺動部材であって、前記耐摩耗性皮膜と前記硬質炭素皮膜とからなる層を2以上有することを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
少なくとも前記耐摩耗性皮膜と前記硬質炭素皮膜との間に、前記耐摩耗性皮膜と前記硬質炭素皮膜の中間組成からなる傾斜膜が形成されている、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記耐摩耗性皮膜の厚さが0.01μm以上0.5μm以下であり、前記硬質炭素皮膜の厚さが前記耐摩耗性皮膜の厚さの1/1〜1/10であり、前記積層膜の全体厚さが1μm以上30μm以下である、請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記硬質炭素皮膜の厚さが、前記耐摩耗性皮膜の表面粗さよりも小さい、請求項1〜3のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項5】
前記耐摩耗性皮膜と前記硬質炭素皮膜が、スパッタリング法又はイオンプレーティング法で形成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項6】
前記耐摩耗性皮膜がCr−N系皮膜又はCr−B−N系皮膜である、請求項1〜5のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項7】
前記硬質炭素皮膜が、炭素からなる硬質炭素皮膜、又は、炭素と、ケイ素、酸素、水素、窒素、アルゴンのうち少なくとも1種以上とからなる硬質炭素皮膜である、請求項1〜6のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項8】
前記摺動部材が内燃機関用ピストンリングである、請求項1〜7のいずれかに記載の摺動部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−286354(P2008−286354A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134146(P2007−134146)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(390022806)日本ピストンリング株式会社 (137)
【Fターム(参考)】