説明

摺動部材

【課題】従来より生産性が良く耐疲労性および非焼付性に優れる摺動部材を提供する。
【解決手段】摺動部材11は、軸受合金層13と、軸受合金層13上に設けられたNi基中間層14と、Ni基中間層14上に設けられたSn基オーバレイ層15とを備えている。Sn基オーバレイ層15は、少なくとも1層から構成されている。Sn基オーバレイ層15を構成する層のうち最も摺動面側に位置する層は、Snと3質量%以上のCuとを含んでいる。Sn基オーバレイ層15を構成する層のうちNi基中間層14に接する層は、Snと8質量%以下のCuとを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受合金層上にNi基中間層を介してSn基オーバレイ層が設けられた摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受合金層上にNi基中間層が設けられ、Ni基中間層上にSn基オーバレイ層が設けられた摺動部材は、耐疲労性に優れ、例えば自動車の内燃機関のすべり軸受に用いられている。このような構成の摺動部材は、例えば特許文献1、2に開示されている。
特許文献1の摺動部材は、軸受合金層とSn基オーバレイ層との間に2層構造の中間層が設けられた構成である。すなわち、この摺動部材は、軸受合金層上にNiからなる第1のNi基中間層が設けられ、第1のNi基中間層上にSnとNiとからなる第2のNi基中間層が設けられ、第2のNi基中間層上にSn基オーバレイ層が設けられた構成である。また、Sn基オーバレイ層は、39〜55質量%のCuを含んでいる。そして、特許文献1では、Sn基オーバレイ層中のSnの中間層側への拡散によりSn基オーバレイ層中のCuの濃度を高めている。これにより、摺動部材の耐疲労性の向上が図られている。
【0003】
特許文献2の摺動部材は、Ni基中間層上に0.5〜20質量%のCuを含むSn基オーバレイ層が設けられた構成である。そして、特許文献2では、内燃機関の使用などによって摺動部材が加熱されるときに、Ni基中間層中のNiがSn基オーバレイ層中のSnと結合して、非焼付性に優れるSn−Ni系化合物が形成されるようになっている。これにより、摺動部材の非焼付性の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−247995号公報
【特許文献2】特表2007−501898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の摺動部材は、SnとNiとからなるNi基中間層を電気めっきによって形成しなければならない。そのNi基中間層は、成分が偏在したり表面が粗くなり易く、非常に形成しにくいため、摺動部材としての生産性が悪い。
特許文献2の摺動部材は、内燃機関の使用などによって摺動部材が加熱されるときに、非焼付性に優れるSn−Ni系化合物が生成されるとともに、非焼付性に劣るSn−Ni−Cu系化合物の層も生成されることがある。そのため、特許文献2の摺動部材は、昨今の苛酷な使用では十分な非焼付性を有さないことがある。
【0006】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来より生産性が良く耐疲労性および非焼付性に優れる摺動部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態の摺動部材は、軸受合金層と、この軸受合金層上に設けられたNi基中間層と、Ni基中間層上に設けられたSn基オーバレイ層とを備えている。そして、この摺動部材は、Sn基オーバレイ層が少なくとも1層から構成され、Sn基オーバレイ層を構成する層のうち最も摺動面側に位置する層がSnと3質量%以上のCuとを含み、Sn基オーバレイ層を構成する層のうちNi基中間層に接する層がSnと8質量%以下のCuとを含むことを特徴としている(請求項1)。
【0008】
軸受合金層としては、例えばCu基軸受合金層、Al基軸受合金層などがある。軸受合金層がCu基軸受合金層である場合、当該Cu基軸受合金層は、Cu、あるいはCuに必要に応じてCu以外の元素を含ませたCu合金から形成されている。Cu合金としては、Cu−Sn合金、Cu−Sn−Bi合金、Cu−Sn−Pb合金などがある。軸受合金層がAl基軸受合金層である場合、当該Al基軸受合金層は、Al、あるいはAlに必要に応じてAl以外の元素を含ませたAl合金から形成されている。Al合金としては、Al−Sn合金、Al−Sn−Si合金、Al−Zn−Si合金などがある。
軸受合金層は、鉄などから形成される裏金層上に設けられていてもよい。
【0009】
本発明のNi基中間層は、軸受合金層とSn基オーバレイ層とを接着する機能を有するとともに、Sn基オーバレイ層中のSnが軸受合金層側へ拡散して脆性化合物を生成するのを実質的に防止する機能も有するものである。Ni基中間層は、NiまたはNi合金から形成されている。Ni合金としては、Ni−Cr合金、Ni−Fe合金、Ni−Co合金などがある。
また、Ni基中間層は、多層構造としてもよい。Ni基中間層が多層構造の場合、Ni基中間層を構成する各層はNiまたは上述のNi合金から形成されている。
【0010】
Sn基オーバレイ層は、SnにCuを含ませて形成され、必要に応じてそれら以外の元素を含ませて形成されている。Sn基オーバレイ層中のSnは、当該Sn基オーバレイ層の靱性を良好にし、耐疲労性を向上させている。また、このSn基オーバレイ層にCuを含ませることにより、Sn基オーバレイ層の強度を高めることができる。
【0011】
ただし、Cuを含ませると、Ni基中間層中に元々存在していた形態のNiとSn基オーバレイ層中のSnとCuとの結合による非焼付性に劣るSn−Ni−Cu系化合物生成のリスクがある。一方、本実施形態の摺動部材が内燃機関などの高温環境下で使用される場合において、当該摺動部材が加熱されると、Sn基オーバレイ層中のSnは、Sn基オーバレイ層からNi基中間層側へ拡散しやすくなる。これにより、Ni基中間層中に元々存在していた形態のNiとSn基オーバレイ層中のSnとが結合して、Ni3Sn4などのSn−Ni系化合物の層がSn基オーバレイ層とNi基中間層との界面に形成されやすくなる。このSn−Ni系化合物は非焼付性に優れるため、摺動部材の非焼付性は向上する。これにより、SnとNiとからなるNi基中間層を製造時に形成せずとも、本実施形態の摺動部材を高温環境下で使用することにより、当該摺動部材の非焼付性を良好にすることができる。
【0012】
Sn基オーバレイ層は、少なくとも1層から構成されている。以下、Sn基オーバレイ層を構成する層のうち最も摺動面側、すなわち摺動相手の相手部材と接する層を「Sn基摺動層」と称し、Ni基中間層に接する層を「Sn基底部層」と称して説明する。
【0013】
Sn基オーバレイ層が2層から構成されている場合、Sn基オーバレイ層は、Sn基底部層上にSn基摺動層が設けられた構成となる。
Sn基オーバレイ層が1層から構成されている場合、Sn基摺動層とSn基底部層とは、同じ層となる。なお、Sn基オーバレイ層が1層から構成され、層の厚さが2μmを超え、且つSn基オーバレイ層の厚さ方向において成分に傾斜、すなわち濃度勾配がある場合、当該Sn基オーバレイ層のうちNi基中間層に接する面から厚さ方向で2μmの厚さ部分までをSn基底部層とし、残りの部分をSn基摺動層とする。
上記「厚さ方向」とは、Sn基オーバレイ層の摺動面を水平な面とみなしたときに、この水平な面に対して垂直な方向のことである。
【0014】
Sn基オーバレイ層が3層以上から構成されている場合、Sn基オーバレイ層は、Sn基摺動層と、Sn基底部層と、これらの層に挟まれた1層以上のSn基中間層とから構成される。各層は、Snに、必要に応じてSn以外の元素を含ませて形成されている。
【0015】
Sn基オーバレイ層のSn基摺動層は、3質量%以上のCuを含んでいる。Sn基摺動層にCuが3質量%以上含まれている場合、耐疲労性を十分に発揮させることができる。このSn基摺動層は、12質量%以下のCuを含んでいることが好ましい(請求項2)。Sn基摺動層にCuが12質量%以下含まれている場合、Sn基摺動層は、硬くなり過ぎず良好な靱性を有し、Sn基摺動層の耐疲労性の低下を抑制することができる。
【0016】
Sn基オーバレイ層のSn基底部層は、8質量%以下のCuを含んでいる。Sn基底部層にCuが8質量%以下含まれていることにより、Ni基中間層中に元々存在していた形態のNiとSn基オーバレイ層中のSnとCuとが結合して形成されるSn−Ni−Cu系化合物の生成量を減らしてSn基オーバレイ層とNi基中間層との界面でのSn−Ni−Cu系化合物の層の形成を極力抑制することができる。Sn−Ni−Cu系化合物は、非焼付性が劣る性質があるため、Sn−Ni−Cu系化合物の生成量が減らされている本実施形態の摺動部材の非焼付性は良好となる。
【0017】
Sn基底部層は、5質量%未満のCuを含んでいることがより好ましい(請求項3)。Sn基底部層にCuが5質量%未満含まれている場合、Sn−Ni−Cu系化合物の生成量を極力減らしてSn−Ni−Cu系化合物の層の形成を防止することができるので、上述した非焼付性の効果を一層得ることができる。なお、Sn基オーバレイ層が2層以上から構成されている場合、Sn基底部層は、Cuを含んでいなくてもよい。
【0018】
Sn基オーバレイ層を構成する層のうちNi基中間層に接する層であるSn基底部層は、厚さが0.5μm以上であることが好ましい(請求項4)。Sn基底部層の厚さが0.5μm以上である場合、Sn基摺動層中のCuがNi基中間層に到達しにくくなる。これにより、Ni基中間層中に元々存在していた形態のNiとSn基摺動層中のSnとCuとが結合して生成されるSn−Ni−Cu系化合物の生成量が減り、相対的にSn−Ni系化合物の生成量の割合が増し、摺動部材の非焼付性をより一層良好にすることができる。また、Sn基底部層の厚さは、耐疲労性の観点から15μm以下であることが好ましい。
【0019】
Sn基オーバレイ層の断面は、FIB−SIM(Focus Ion Beam 走査イオン顕微鏡)、SEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)、EPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)、EDS(EDX)(エネルギー分散型X線分光分析法)、WDX(波長分散型X線分光法)などで観察、測定される。Sn基底部層の厚さおよびSn基摺動層の厚さは、上述の電子顕微鏡などの画像から観察視野内の各層の最大の厚みの寸法を測定して求められる。
【0020】
Ni基中間層は、0.01質量%以上3質量%以下のFeを含んでいることが好ましい(請求項5)。Ni基中間層にFeが含まれている場合、Ni基中間層中のNiとFeとが結合してFeNi3が生成される。このFeNi3がNi基中間層中に存在することにより、Ni基中間層のNi中に格子欠陥が存在しやすくなる。格子欠陥が存在することにより、Sn基オーバレイ層中のSnとNi基中間層中のNiとが拡散移動し易くなってSnとNiとが結合しやすくなる。これにより、非焼付性の向上を図るNi3Sn4等のSn−Ni系化合物が生成されやすくなり、摺動部材の非焼付性は良好となる。Ni基中間層中にFeが0.01質量%以上含まれている場合、上述したFeの効果を十分に得ることができる。Ni基中間層中にFeが3質量%以下含まれている場合、Ni基中間層中のNiのひずみが大きくなり過ぎず、Ni基中間層が脆くなることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態を示す摺動部材でありSn基オーバレイ層が2層構造の断面図
【図2】摺動部材のSn基オーバレイ層が1層構造の断面図
【図3】摺動部材のSn基オーバレイ層が多層構造の断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜図3に示す本発明の一実施形態の摺動部材11は、裏金層12上に設けられた軸受合金層13と、軸受合金層13上に設けられたNi基中間層14と、Ni基中間層14上に設けられたSn基オーバレイ層15とを備えている。この実施形態では、軸受合金層13がCu基軸受合金層であるとして説明する。
【0023】
図1に示す摺動部材11のSn基オーバレイ層15は、2層構造であり、Sn基摺動層15aとSn基底部層15bとを有している。
図2に示す摺動部材11のSn基オーバレイ層15は1層構造であり、Sn基摺動層15aは摺動面側の領域であり、Sn基底部層15bはNi基中間層14側の領域である。
図3に示す摺動部材11のSn基オーバレイ層15は、多層構造であり、Sn基摺動層15aと、Sn基底部層15bと、少なくとも1層からなるSn基中間層15cとを有している。
【0024】
次に、本実施形態の摺動部材11の耐疲労性および非焼付性の効果について説明する。
まず、本実施形態の摺動部材11と同様の構成の試料である実施例品1〜16及び比較例品1〜4の製造方法について説明する。
【0025】
まず、軸受合金層としてのCu基軸受合金層を、鉄から形成された裏金層上にCu基軸受合金用粉末を散布し、焼結、圧延することによって、当該裏金層上に設けた。これにより、裏金層とCu基軸受合金層とからバイメタルが形成される。次に、このバイメタルをプレスによって加工し、半割軸受を得た。そして、この半割軸受の内周側の表面に、電気めっきによって表1に示す成分のNi基中間層を形成し、このNi基中間層上に電気めっきによって表1に示す成分のSn基オーバレイ層を形成し、表1に示す試料を得た。
【0026】
実施例品1〜6は、Sn基オーバレイ層が1層構造であるため、Sn基摺動層の成分および厚さはSn基底部層の成分および厚さと同じである。したがって、実施例品1〜6のSn基摺動層の成分および厚さについては、表1のSn基摺動層の欄の記載を省略し、表1のSn基底部層の欄に記載する。
【0027】
実施例品7〜16は、Sn基オーバレイ層が2層構造であり、Ni基中間層上にSn基オーバレイ層のSn基底部層が形成され、Sn基底部層上にSn基摺動層が形成されている。
実施例品1〜16のNi基中間層は、塩化ニッケル、ホウ酸、スルファミン酸ニッケルを含むスルファミン酸浴で形成した。また、実施例品1、3〜5、11〜16のスルファミン酸浴には、鉄の成分が含まれている。本実施例では、厚さはそれぞれ3.5μmとした。
実施例品1〜16のSn基オーバレイ層は、一般的なスルホン酸浴で形成した。
【0028】
比較例品1〜4は、Ni基中間層の成分、Sn基オーバレイ層の成分および厚さが実施例品1〜16と異なる以外、実施例品1〜16と同様の製造方法によって得た。
比較例品1、2、4はSn基オーバレイ層が1層構造であるため、比較例品1、2、4のSn基摺動層の成分および厚さについては、表1のSn基摺動層の欄の記載を省略し、表1のSn基底部層の欄に記載する。
【0029】
試料のSn基底部層およびSn基摺動層の厚さは、電流密度の大きさ、めっき時間を適宜変更して調整した。例えば、実施例品9、10では、Sn基底部層をそれぞれ1分、3分の電気めっきで形成し、Sn基摺動層をそれぞれ15分、10分の電気めっきで形成して得た。
【0030】
Sn基オーバレイ層およびNi基中間層の断面は、FIB−SIM、SEM、TEM、EPMAなどを適宜選択して観察した。
この実施形態では、層の厚さが2μm以上の場合、濃度分析は、EPMAまたはSEM−EDX(WDX)を用いて行った。この場合の濃度分析は、次の長方形の領域で行った。この濃度分析では、濃度分析する長方形の一方の辺を、測定する層の厚さ方向に延び、測定する層の厚さの80%の長さの辺とした。このとき、長方形の一方の辺の中心を、層の厚さ方向の中央と一致させている。長方形の他方の辺は、測定する層の厚さ方向に対して垂直方向に20μm延びる辺とした。
【0031】
また、層の厚さが2μm未満の場合、濃度分析は、TEM−EDX(WDX)を用いて行った。この場合の濃度分析は、濃度分析する長方形の一方の辺を、測定する層の厚さ方向に延び、測定する層の厚さの80%の長さの辺とした。このとき、長方形の一方の辺の中心を、層の厚さ方向の中央と一致させている。長方形の他方の辺は、測定する層の厚さ方向に対して垂直方向に2μm延びる辺とした。
【0032】
例えば、実施例品7では、SEMを用いてSn基摺動層、TEMを用いてSn基底部層の厚さを測定した。実施例品7の顕微鏡倍率はそれぞれ2,000倍、10,000倍であり、SEM−EDXによってSn基摺動層のCuの成分量、TEM−EDXによってSn基底部層のCuの成分量を定量化した。
実施例品10では、SEMを用いてSn基摺動層およびSn基底部層の厚さを測定した。実施例品10の顕微鏡倍率は2,000倍であり、この顕微鏡倍率で画像解析を行い、Sn基摺動層のCuの成分量およびSn基底部層のCuの成分量を定量化した。
【0033】
また、実施例品3では、ICP分析装置によってNi基中間層のFeの成分量を定量化した。ICP分析ではその性質上、Sn基オーバレイ層や軸受合金層の成分の影響もあるので、予めそれらの成分量も測定して補正を行ってFeの成分量を求めた。
また、GDS分析装置によってもNi基中間層のFeの成分量を求めることができた。
【0034】
表1中の「Ni系化合物の組成」の欄は、試料に150℃の熱を500時間加えた後にNi基中間層とSn基オーバレイ層との界面を観察し、当該界面近傍に存在するNi系化合物のうち観察している断面に占める面積の割合が最も多いNi系化合物を示している。各Ni系化合物の面積は、上述の電子顕微鏡の画像解析によって得た。試料に150℃の熱を500時間加えた理由は、製品として使用される摺動部材の使用環境に近い環境での当該摺動部材の耐疲労性及び非焼付性の効果を確認するためである。
【0035】
このようにして得られた実施例品1〜16については、表2に示す試験条件で耐疲労性試験を行い、表3に示す試験条件で非焼付性試験を行った。比較例品1〜3については、表3に示す試験条件で非焼付性試験を行った。比較例品4については、表2に示す試験条件で耐疲労性試験を行った。
耐疲労性試験の結果および非焼付性試験の結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
次に、耐疲労性試験および非焼付性試験の結果について解析する。
実施例品1〜16と比較例品1〜3との対比から、実施例品1〜16は、「Ni系化合物の組成」がSn−Ni化合物であったため、摺動部材の使用環境に近い環境において比較例品1〜3よりも非焼付性に優れていると推測できる。
また、実施例品1と比較例品4の対比から、実施例品1は、Sn基オーバレイ層を構成する層のうち最も摺動面側に位置する層が3質量%以上のCuを含んでいるため、比較例品4よりも耐疲労性に優れていることが理解できる。
【0040】
実施例品6と比較例品1との対比から、実施例品6は、Sn基底部層が8質量%以下のCuを含んでいるため、比較例品1よりも非焼付性に優れていることが理解できる。
実施例品10、13の対比から、実施例品10は、Sn基オーバレイ層を構成する層のうち最も摺動面側に位置する層であるSn基摺動層が12質量%以下のCuを含んでいるため、実施例品13よりも耐疲労性に優れていることが理解できる。
【0041】
実施例品3、4の対比から、実施例品3は、Sn基底部層に5質量%未満のCuを含んでいるため、実施例品4よりも非焼付性に優れていることが理解できる。
実施例品7、8の対比から、実施例品8は、Sn基底部層の厚さが0.5μm以上であるため、実施例品7よりも非焼付性に優れていることが理解できる。
【0042】
実施例品2、11の対比、および実施例品6、15の対比から、実施例品11、15は、Ni基中間層に0.01質量%以上のFeを含んでいるため、それぞれ実施例品2、6よりも非焼付性に優れていることが理解できる。
【0043】
なお、図示はしないが、Ni基中間層を、Niの代わりにNi合金を用いても、耐疲労性試験の結果および非焼付性試験の結果は、Ni基中間層としてNiを用いた場合とほぼ同じであった。
また、Sn基オーバレイ層を、3層以上の構成にしても、耐疲労性試験の結果および非焼付性試験の結果は、2層構造の場合とほぼ同じであった。
【0044】
軸受合金層を、Cu基軸受合金層の代わりにAl基軸受合金層を用いても、耐疲労性試験の結果および非焼付性試験の結果は、Cu基軸受合金層を用いた場合とほぼ同じであった。この軸受合金層がAl基軸受合金層の場合の試料は、一般的に製造されるAl基軸受合金層上に、上述のNi基中間層およびSn基オーバレイ層を形成させることにより得られる。軸受合金層がAl基軸受合金層からなる摺動部材は、例えば次のようにして得られる。
【0045】
まず、Al基軸受合金層を形成するAl合金を溶融し、必要に応じてその他の成分を添加し、連続鋳造によってAl基軸受合金板を得る。その後、Al基軸受合金板に薄いAl板を圧接する。次に、そのAl板を介してAl基軸受合金板を裏金鋼板に圧接する。これによりバイメタルが形成される。このバイメタルを軸受合金層がCu基軸受合金層であるバイメタルと同様に、半割軸受状に加工し、内周側の表面にNi基中間層およびSn基オーバレイ層を設けることにより、軸受合金層がAl基軸受合金層からなる摺動部材が得られる。
【0046】
本実施形態は、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。
軸受合金層、Ni基中間層、Sn基オーバレイ層、裏金層には、不可避的不純物が含まれ得る。また、これらの各層には、必要に応じて、酸化物や炭化物等の硬質粒子、硫化物やグラファイト等の固体潤滑剤が含まれていてもよい。
【符号の説明】
【0047】
図面中、11は摺動部材、13は軸受合金層、14はNi基中間層、15はSn基オーバレイ層を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受合金層と、
前記軸受合金層上に設けられたNi基中間層と、
前記Ni基中間層上に設けられたSn基オーバレイ層とを備え、
前記Sn基オーバレイ層は、少なくとも1層から構成され、
前記Sn基オーバレイ層を構成する層のうち最も摺動面側に位置する層は、Snと、3質量%以上のCuとを含み、
前記Sn基オーバレイ層を構成する層のうち前記Ni基中間層に接する層は、Snと、8質量%以下のCuとを含むことを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記Sn基オーバレイ層を構成する層のうち最も摺動面側に位置する層は、12質量%以下のCuを含んでいることを特徴とする請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】
前記Sn基オーバレイ層を構成する層のうち前記Ni基中間層に接する層は、5質量%未満のCuを含んでいることを特徴とする請求項1または2記載の摺動部材。
【請求項4】
前記Sn基オーバレイ層を構成する層のうち前記Ni基中間層に接する層は、厚さが0.5μm以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の摺動部材。
【請求項5】
前記Ni基中間層は、0.01質量%以上3質量%以下のFeを含んでいることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の摺動部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−62942(P2012−62942A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206673(P2010−206673)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】