説明

摺動面材及び該摺動面材を備えた複層摺動部材

【課題】水中などの湿潤雰囲気での使用における低膨潤性及び同条件での優れた摩擦摩耗特性をそのまま生かすと共に大気中の乾燥摩擦条件下での摩擦摩耗特性を向上させた摺動面材及び該摺動面材を摺動面に備えた複層摺動部材を提供する。
【解決手段】ふっ素樹脂繊維の片撚り糸とポリフェニレンサルファイド繊維の片撚り糸を少なくとも2本引き揃え、該片撚り糸の片撚り方向と反対側の撚りを掛けて形成した双糸を経糸及び緯糸として形成した織布からなる補強基材に、四ふっ化エチレン樹脂が分散含有されたレゾール型フェノール樹脂を含浸してなる摺動面材(12)。全体形状が平板状または円筒状でありかつ少なくとも摺動面において前記摺動面材を備えた複層摺動部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り軸受等の摺動部材に用いられる摺動面材及びこの摺動面材を摺動面に備えた複層摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、補強基材である綿布に対しフェノール樹脂を含浸してなる繊維強化樹脂組成物、あるいは補強基材である綿布に対しフェノール樹脂に四ふっ化エチレン樹脂を添加した樹脂組成物を含浸してなる繊維強化樹脂組成物が知られている(特許文献1)。この繊維強化樹脂組成物を平面状あるいは円筒状に積層して形成した積層摺動部材は、耐摩耗性及び耐荷重性に優れ、剛性にも優れる。このような積層摺動部材は、例えば油圧シリンダーのピストン外周面に嵌着されるウエアリングや水中用の滑り軸受等として使用されている。フェノール樹脂は、特に水潤滑で優れた性能を示す特徴がある。これは、その表面特性によるところが大きいとされている。具体的には、基材である綿布に水分が吸着し易いこと、並びに、フェノール樹脂のOH基と水との親和性がよいことが挙げられる。
【0003】
しかしながら、綿布とフェノール樹脂とからなる繊維強化樹脂組成物を用いて作製された円筒状積層摺動部材は、湿潤な雰囲気あるいは水中での使用において膨潤をきたし、相手軸とのクリアランス(摺動隙間)を一定に保ち難いという問題がある。この円筒状積層摺動部材の膨潤は、主として補強基材である綿布の高吸水性に起因している。このことから、水中用途においては綿布以外の補強基材として、低吸水性であるポリエステル繊維やポリアクリロニトリル繊維などの合成繊維織布が注目されている。上記利点を有する合成繊維織布であっても、補強基材として使用する場合は、使用する合成樹脂との接着性を改善する必要がある。
【0004】
特許文献2には、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアクリロニトリル繊維又は炭素繊維等の織布を補強基材とし、フッ素系ポリマーを添加したフェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂又はアルキッド樹脂等の熱硬化性合成樹脂を含浸した繊維強化樹脂組成物並びにこれを用いた滑りベアリングが開示されている。そして、これらの合成繊維織布と合成樹脂との接着性を改善するために、合成樹脂に対し接着性改良剤としてポリアミドの共縮合生成物及びポリビニルアルコール誘導体を添加することが開示されている。
【0005】
特許文献3には、ポリエステル繊維織布を補強基材とし、不飽和ポリエステル樹脂を含浸させ積層した強化プラスチック板が開示されている。ポリエステル繊維は官能基に乏しいため、そのままでは不飽和ポリエステル樹脂との接着が困難という問題がある。そこで、特許文献3では、樹脂との接着性すなわち親和性を改善するために、ポリエステル繊維を、ビスフェノール系エポキシ系接着剤と有機溶剤で150℃以下の温度で5〜120分間加熱処理している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭39−14852号公報
【特許文献2】特開平4−225037号公報
【特許文献3】特公昭43−27504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したポリエステル繊維は、低吸水性であることから水潤滑用途の摺動部材用の補強繊維としては膨潤を起こさないという利点を有する反面、樹脂に対する補強効果を得る上で樹脂との接着性を改善する必要がある。また、乾燥摩擦条件下で使用される摺動部材における補強材としてのポリエステル繊維は、耐熱性に問題があり、例えば250℃を超える雰囲気での使用には耐え難く、耐熱性が要求される用とへの適用に問題がある。
【0008】
上記実情に鑑み本出願人は先に、繊維補強材として吸水性が極めて低くかつ耐熱性を有するポリフェニレンサルファイド繊維に着目し、このポリフェニレンサルファイド繊維からなる織布に、四ふっ化エチレン樹脂を含有した特定のレゾール型フェノール樹脂を含浸した摺動部材用繊維強化樹脂組成物及びこの摺動部材用繊維強化樹脂組成物を用いて作製された積層摺動部材を提案した(特願2008−293692号)。
【0009】
上記提案の積層摺動部材は、織布に表面処理を施すことなく特定のレゾール型フェノール樹脂との充分な接着が得られ、剛性が高く機械的強度に優れていると共に高湿度雰囲気や水中用途で使用した場合にも膨潤量は小さく、乾燥摩擦条件、グリース潤滑条件、さらには水潤滑条件下で優れた摩擦摩耗特性を発揮するものであり、幅広い用途への適用を可能とするものであった。
【0010】
しかし、上記幅広い用途へ適用を可能とする提案の積層摺動部材であっても、特に大気中の乾燥摩擦条件におけるジャーナル揺動条件での摩擦摩耗特性に改良が望まれている。
【0011】
本発明は前記特願2008−293692号の改良に係るもので、その目的とするところは、前記特願2008−293692号の摺動部材の利点、すなわち水中などの湿潤雰囲気での使用における低膨潤性及び同条件での優れた摩擦摩耗特性をそのまま生かすと共に大気中の乾燥摩擦条件下での摩擦摩耗特性を向上させた摺動面材及び該摺動面材を摺動面に備えた複層摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の摺動面材は、ふっ素樹脂繊維の片撚り糸とポリフェニレンサルファイド(以下「PPS」という)繊維の片撚り糸を少なくとも2本引き揃え、これを該片撚り糸の片撚り方向と反対方向の撚りを掛けて形成した双糸を経糸及び緯糸として織った織布からなる補強基材と、該補強基材に含浸された四ふっ化エチレン樹脂粉末を分散含有したレゾール型フェノール樹脂とからなることを特徴とする。
【0013】
ふっ素樹脂繊維は、ポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」という)繊維、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下「PFA」という)繊維、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下「FEP」という)繊維及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(以下「ETFE」という)繊維から選択される。特に、摺動部材の用途において、耐熱性が要求される場合は、PTFE繊維を選択することが好ましい。
【0014】
上記補強基材を形成するふっ素樹脂繊維の片撚り糸は、少なくとも400デニールの片撚り糸であることがこのましく、PPS繊維の片撚り糸は、少なくとも20綿番手の片撚り糸であることが好ましい。
【0015】
ふっ素樹脂繊維の片撚り糸及びPPS繊維の片撚り糸は、下撚り(Z撚り)糸であることが好ましく、ふっ素樹脂繊維の片撚り糸及びPPS繊維の片撚り糸の撚り数は、260〜300T/mであることが好ましい。
【0016】
該ふっ素樹脂繊維の片撚り糸とPPS繊維の片撚り糸を少なくとも2本引き揃え、これを該片撚り糸の片撚り方向と反対方向の撚り(S撚り)を掛けて形成した双糸の撚り数は、255〜295T/mであることが好ましい。
【0017】
双糸を織って形成される補強基材としての織布は、平織織布であることが好ましく、該平織織布の密度は、経糸(たて糸)36〜44本/インチ、緯糸(よこ糸)36〜44本/インチであることが好ましい。
【0018】
本発明の摺動面材は、レゾール型フェノール樹脂35〜50質量%、PTFE10〜30質量%及び補強基材35〜50質量%(ただし、前記3成分の合計は100質量%である)からなることが好ましい。
【0019】
摺動面材を形成するレゾール型フェノール樹脂は、ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量Mnが500〜1000でありかつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15であるレゾール型フェノール樹脂であることが好ましい。
【0020】
該レゾール型フェノール樹脂に分散含有されるPTFE粉末は、分子量が数1,000,000〜数10,000,000の高分子量PTFE又は分子量が数1,000〜数100,000の低分子量PTFEのいずれかが使用されることが好ましい。
【0021】
本発明の複層摺動部材は、全体形状が平板状でありかつ例えば繊維強化合成樹脂製の方形状裏金の少なくとも摺動面において前記の摺動面材を一体的に備えたもの、あるいは全体形状が円筒状でありかつ例えば繊維強化合成樹脂製の円筒状裏金の少なくとも摺動面に前記の摺動面材を一体的に備えたものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ふっ素樹脂繊維及びPPS繊維の片撚り糸を少なくとも2本引き揃え、これを該片撚り糸の片撚り方向(Z撚り)と反対方向の撚り(S撚り)を掛けて撚った双糸を経糸及び緯糸として織った織布からなる補強基材は、少なくとも摺動面となる一方の表面にふっ素樹脂糸とPPS繊維糸がほぼ均等な面積割合をもって露出するので、該補強基材に含浸されたPTFEの低摩擦性と相俟って摩擦摩耗特性を向上させた摺動面材を提供することができる。
【0023】
また、上記双糸を経糸及び緯糸として織った補強基材としての織布は、その織布厚さが、例えば片撚り糸を経糸及び緯糸として織った織布の織布厚さよりも厚く形成することができるので、該補強基材にPTFEを分散含有した特定のレゾール型フェノール樹脂を含浸して形成される摺動面材を摺動面に一体的に備えた複層摺動部材における摺動面を機械加工することができるので、当該複層摺動部材の寸法精度を高くすることができる。
【0024】
本発明で好適に使用されるレゾール型フェノール樹脂は、ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量Mnが500〜1000でありかつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15を示すレゾール型フェノール樹脂であり、このフェノール樹脂はPPS繊維との親和性が格段に向上しているので、織布に対し充分に含浸し強固に接着することができる。したがって、従来必要であったPPS繊維を含む織布に対する表面処理が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】摺動面材のプリプレグの製造装置を示す説明図である。
【図2】摺動面材のプリプレグを示す斜視図である。
【図3】積層体(裏金)を形成する樹脂加工基材(プリプレグ)の斜視図である。
【図4】図2に示すプリプレグと図3に示すプリプレグとを用いた平板状の複層摺動部材の製造方法の一例を概略的に示した図である。
【図5】平板状の複層摺動部材を示す斜視図である。
【図6】図2に示すプリプレグを使用した円筒状の複層摺動部材の製造方法の一例を概略的示した図である。
【図7】円筒状の複層摺動部材の斜視図である。
【図8】スラスト試験方法を示す斜視図である。
【図9】ジャーナル揺動試験方法を示す斜視図である。
【図10】双糸の製造方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の摺動面材及び該摺動面材を使用した複層摺動部材について詳細に説明する。
【0027】
本発明の摺動面材は、ふっ素樹脂繊維の片撚り糸とPPS繊維の片撚り糸を少なくとも2本引き揃え、これを該片撚り糸の片撚り方向(Z撚り)と反対方向の撚り(S撚り)を掛けて形成した双糸を経糸(よこ糸)及び緯糸(たて糸)として織った織布からなる補強基材に、PTFEを分散含有したレゾール型フェノール樹脂を含浸してなるものである。
【0028】
ふっ素樹脂繊維としては、PTFE繊維、PFA繊維、FEP繊維及びETFE繊維から選択されて使用される。中でもPTFE繊維は、耐熱性(融点327℃)を有することから、複層摺動部材の用途に耐熱性が要求される場合は、特に好ましいものである。これらふっ素樹脂繊維は、紡績糸あるいはフィラメント糸のいずれをも使用することができるが、好ましくは紡績糸である。
【0029】
ふっ素樹脂繊維の片撚り糸は、少なくとも400デニールの紡績糸あるいはフィラメント糸、好ましくは紡績糸を260〜300T/mで下撚り(Z撚り)して形成したものである。
【0030】
PPS繊維は、一般式が(Ar−S)nで表わされるPPS重合体を通常の溶融紡糸方法によって繊維状に形成されるもので、式中Arは芳香族の基を意味し、フェニレン基、ビフェニレン基、ビフェニレンエーテル基、ナフタレン基などである。このPPS繊維は、耐熱性、耐酸化性、耐熱性、耐薬品性等の優れた特性を具備しており、特に耐熱性においては190℃の温度で連続使用に耐えるという特性を備えている。また、PPS繊維は、吸湿性、吸水性が少なく水分率0.2%を示す。
【0031】
本発明に使用されるPPS繊維の具体例としては、東レ社製の「トルコン(商品名)」、東洋紡績社製の「プロコン(商品名)」などを挙げることができる。そして、PPS繊維の片撚り糸は、少なくとも20綿番手(デニール換算で、おおよそ265デニール)のフィラメント糸あるいは紡績糸、好ましくは紡績糸を260〜300T/mで下撚り(Z撚り)して形成したものである。
【0032】
本発明において、双糸は、上記ふっ素樹脂繊維の紡績糸あるいはフィラメント糸からなる片撚り糸1本とPPS繊維の紡績糸あるいはフィラメント糸からなる片撚り糸1本を引き揃え、該片撚り糸の片撚り方向(Z撚り方向)と反対方向の撚り(S撚り方向)を掛けて形成したものである。
図10は、双糸の製造方法の一例を説明するための図である。図10において、A繊維の単糸80に撚りを掛けてA繊維の片撚糸100を作る。これとは別に、B繊維の単糸120に撚りを掛けてB繊維の片撚糸140を作る。それらA繊維の片撚糸100とB繊維の片撚糸140とを揃え、それら片撚糸100,140の撚りと反対方向に撚りを掛けて双糸160を作ることができる。
【0033】
そして、上記双糸を経糸(たて糸)及び緯糸(よこ糸)として織ることによって補強基材としての織布が形成される。補強基材としての織布は、たて(経糸)36〜44本/インチ、よこ(緯糸)36〜44本/インチの密度で織った平織織布が好適に使用される。この補強基材としての平織織布においては、少なくとも摺動面となる一方の表面にふっ素樹脂繊維とPPS繊維とがほぼ均等な面積割合をもって露出するので、該織布に含浸されたPTFE粉末の低摩擦性と相俟って摩擦摩耗特性を向上させた摺動面材とすることができる。また、機械加工された場合であっても、摺動面となる表面にはふっ素樹脂繊維とPPS繊維とがほぼ均等な面積割合をもって露出するので、補強基材の摩擦摩耗特性を長期にわたって維持することができる。
【0034】
また、上記双糸を経糸及び緯糸として織った補強基材としての織布は、その織布厚さを厚く形成することができる。このことは該織布にPTFEを分散含有した特定のレゾール型フェノール樹脂を含浸して形成される摺動面材を摺動面に一体的に備えた複層摺動部材における摺動面を機械加工することができるので、当該複層摺動部材の寸法精度を高くすることができるという効果を創出することになる。
【0035】
本発明の摺動面材中に含まれる補強基材の量は、35〜50質量%が適当である。補強基材の量が35質量%未満では、充分な摩擦摩耗特性が発揮されず、また50質量%を超えてはいると後述するレゾール型フェノール樹脂の量が少なくなり、成形性を著しく阻害する虞がある。
【0036】
本発明において、レゾール型フェノール樹脂は、ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成されたものである。加えて、このレゾール型フェノール樹脂は、GPC測定による数平均分子量Mnが500〜1000であり、かつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15であることが好ましい。
【0037】
上記のように、本発明において使用されるレゾール型フェノール樹脂は、フェノール類のうち、ビスフェノールA(C1516)の割合を50〜100モル%とすることが好ましい。これは、合成開始時に投入する全フェノール類の合計モル数に対するビスフェノールAのモル数の比率である。
【0038】
合成後のレゾール型フェノール樹脂は、GPC測定による数平均分子量Mnが500〜1000であり、かつ分子量分布の分散度Mw/Mnが2.5〜15であることが好ましい。このレゾール型フェノール樹脂では、補強基材としての前記織布との親和性が格段に向上している。したがって、前記織布に表面処理等の加工を施すことなく織布との接着性が良好な摺動面材を得ることができる。
【0039】
上記のレゾール型フェノール樹脂において、ビスフェノールAが50モル%未満では、前記補強基材との充分な親和性が得られず、該補強基材との充分な接着性を得ることができない。また、GPC測定による数平均分子量Mnが500〜1000であり、かつ分散度Mw/Mnが2.5〜15であることが好ましい。数平均分子量Mnが500未満では、該補強基材との親和性が良好であっても機械的強度の低下をきたし、また数平均分子量Mnが1000を超えるとレゾール型フェノール樹脂の粘度が高くなりすぎて該補強基材への含浸が困難となる。さらに分散度Mw/Mnが2.5未満では補強基材との充分な接着力が得られず、また、分散度Mw/Mnが15を超えると、数平均分子量Mnが1000を超える場合と同様、補強基材への含浸が困難となる。
【0040】
よって、該補強基材に含浸させるレゾール型フェノール樹脂において、フェノール類のビスフェノールAのモル比率、GPC測定による数平均分子量Mn及び分散度Mw/Mnを上記の範囲とすることにより、補強基材に対する含浸性及び接着性を確保できると共に摺動面材の機械的強度を確保できる。
【0041】
なお、フェノール類中のビスフェノールAが100モル%未満のときは、ビスフェノールA以外のフェノール類を含むことになる。ビスフェノールA以外のフェノール類としては、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、アミノフェノール、レゾルシノール、キシレノール、ブチルフェノール、トリメチルフェノール、カテコール、フェニルフェノール等を挙げることができ、中でもフェノールがその特性から好ましく使用される。これらのビスフェノールA以外のフェノール類は、夫々単独で使用してもよく、また二種類以上を混合物として使用してもよい。
【0042】
ホルムアルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、サリチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒドなどを挙げることができる。特に、合成の容易さからホルマリンやパラホルムアルデヒドが好ましく使用される。これらのホルムアルデヒド類は、夫々単独で使用してもよく、また二種類以上を混合物として使用してもよい。
【0043】
触媒として用いるアミン類としては、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン、アンモニア水などを挙げることができ、中でもトリエチルアミンやアンモニア水が合成の容易さから好ましく使用される。
【0044】
本発明の摺動面材中に含まれるレゾール型フェノール樹脂の含有量は、35〜50質量%が好適である。レゾール型フェノール樹脂の含有量が35質量%未満では、摺動面材の成形性(製造)に支障をきたし、また50質量%を超えると摺動面材の機械的強度を低下させる。
【0045】
上記レゾール型フェノール樹脂に配合されるPTFE粉末としては、成形用のモールディングパウダー(以下「高分子量PTFE」と略称する)と、放射線照射などにより高分子量PTFEに比べて分子量を低下させたPTFE(以下「低分子量PTFE」と略称する)のいずれも使用できる。低分子量PTFEは、主に添加材料として使用され、粉砕し易く分散性がよい。
【0046】
高分子量PTFEの具体例としては、三井デュポンフロロケミカル社製の「テフロン(登録商標)7-J」、「テフロン(登録商標)7A-J」、「テフロン(登録商標)70-J」等、ダイキン工業社製の「ポリフロンM‐12(商品名)」等、旭硝子社製の「フルオンG163(商品名)」、「フルオンG190(商品名)」等が挙げられる。
【0047】
また、低分子量PTFEの具体例としては、三井デュポンフロロケミカル社製の「TLP-10F(商品名)」等、ダイキン工業社製の「ルブロンL‐5(商品名)」等、旭硝子社製の「フルオンL150J(商品名)」、「フルオンL169J(商品名)」等、喜多村社製の「KTL‐8N(商品名)」、「KTL‐2N(商品名)」等が挙げられる。
【0048】
本発明においては、高分子量PTFE及び低分子量PTFEのいずれも使用することができるが、レゾール型フェノール樹脂と混合するにあたって、均一に分散しボイドを生成し難くするためには、低分子量PTFEの粉末が好ましい。また、PTFE粉末の平均粒径は、均一に分散し、ボイドの生成を防ぐという観点から、1〜50μm、好ましくは1〜30μmである。
【0049】
そして、摺動面材中に含まれるPTFEの量は、10〜30質量%が適当である。PTFEの量が10重量%未満では、摩擦摩耗特性の向上に効果が得られず、また30重量%を超えると成形の際に樹脂の粘度が増大し、ボイドを生成する虞があることに加え、上記レゾール型フェノール樹脂の接着性を低下させ、摺動面材あるいは複層摺動部材としての強度低下を来たしたり、層間剥離を惹起させたりする虞がある。
【0050】
以上の説明から、本発明の摺動面材は、ふっ素樹脂繊維の片撚り糸とPPS繊維の片撚り糸からなる双糸を経糸(たて糸)及び緯糸(よこ糸)として形成した補強基材としての織布35〜50質量%、PTFE10〜30質量%及びレゾール型フェノール樹脂35〜50質量%からなり、成形性、機械的強度及び摩擦摩耗特性のいずれについても良好な摺動面材が得られる。
【0051】
次に、上記の摺動面材及びこの摺動面材を用いた複層摺動部材ついて、好ましい実施例を示した図を参照して説明する。
【0052】
<摺動面材>
図1は、摺動面材のプリプレグ(樹脂加工基材)の製造方法の一例を概略的に示した図である。図1に示す製造装置において、アンコイラ1に巻かれたふっ素樹脂繊維の片撚り糸とPPS繊維の片撚り糸からな双糸を経糸(たて糸)及び緯糸(よこ糸)として形成した織布からなる補強基材2は、送りローラ3によってPTFE粉末とレゾール型フェノール樹脂ワニスとの混合液4を貯えた容器5に送られ、容器5内に設けられた案内ローラ6及び7によって容器5内に貯えられた混合液4内を通過せしめられることにより、該補強基材2の表面に該混合液4が塗工される。ついで、混合液4が塗工された補強基材2は送りローラ8によって圧縮ロール9及び10に送られ、該圧縮ロール9及び10によって補強基材2の表面に塗工された混合液4が繊維組織隙間にまで含浸せしめられる。そして、該混合液4が含浸塗工された補強基材2に対して乾燥炉11内で溶剤が飛ばされると同時に該レゾール型フェノール樹脂ワニスの反応が進められ、これにより成形可能な摺動面材のプリプレグ(樹脂加工基材)12が作製される。図2は、方形状に切断した摺動面材用のプリプレグ12を示す斜視図である。
【0053】
レゾール型フェノール樹脂を揮発性溶剤に溶かして調製されるレゾール型フェノール樹脂の固形分は、樹脂ワニス全体に対して約30〜65質量%であり、樹脂ワニスの粘度は、約800〜5000cPが好ましく、特に1000〜4000cPが好ましい。
【0054】
<平板状の複層摺動部材>
上記摺動面材のプリプレグ12を使用した複層摺動部材13を図3〜図5に基づき説明する。複層摺動部材13の裏金14は、前記摺動面材のプリプレグ12の製造方法で使用した図1に示す製造装置と同様の製造装置によって同様の製造方法によって作製される。すなわち、アンコイラ1に巻かれた有機繊維又は無機繊維からなる織布15は、送りローラ3によってレゾール型フェノール樹脂ワニス16を貯えた容器5に送られ、容器5内に設けられた案内ローラ6及び7によって容器5内に貯えられたレゾール型フェノール樹脂ワニス16内を通過せしめられることにより、該織布15の表面に該樹脂ワニスが塗工される。ついで、樹脂ワニスが塗工された織布15は送りローラ8によって圧縮ロール9及び10に送られ、該圧縮ロール9及び10によって該樹脂ワニスが含浸塗工された織布15に対して乾燥炉11内で溶剤が飛ばされると同時に該樹脂ワニスの反応が進められ、これにより成形可能な裏金14のプリプレグ17が作製される。図3は、方形状に切断した複数枚の裏金14用のプリプレグ17を示す斜視図である。
【0055】
裏金14に使用される強化繊維織布としては、ガラス繊維織布、炭素繊維織布などの無機繊維織布、又はアラミド樹脂繊維織布(コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタルアミド樹脂繊維織布)などの有機繊維織布がそれぞれ複層摺動部材の用途、例えば乾燥摩擦条件、水中摩擦条件、境界摩擦条件などの用途に応じて適宜選択されて使用される。
【0056】
前記図3に示すように、所望の平板面積が得られる方形状に切断した裏金14用のプリプレグ17を所望の仕上がり厚さが得られる枚数だけ準備する。また、前記摺動面材用のプリプレグ12もまた裏金14用のプリプラグ17と同様の方形状に切断したものを少なくとも1枚準備する。ついで、図4に示すように、加熱加圧装置の金型18の方形状の凹所19内に、所定の枚数の裏金14用のプリプレグ17を重ね合わせて積層したのち、その上面に摺動面材用のプリプレグ12を載置し、これらを金型18内において140〜160℃の温度に加熱し、4.9〜7MPaの圧力でラム20により積層方向に加圧成形して方形状の複層成形物を得る。積層された摺動面材用のプリプレグ12と裏金14用のプリプレグ17は互いに接合され、融着した状態となる。得られた複層成形物に対し、図5に示すように機械加工を施して平板状の複層摺動部材13を作製する。このように作製された平板状の複層摺動部材13は、無機繊維織布又は有機繊維織布の積層体からなる裏金14と該裏金14の一方の表面に一体に接合された摺動面材用のプリプレグ12からなる滑り層21とを備えている。この複層摺動部材13において、裏金14上に一体に接合された摺動面材用のプリプレグ12からなる滑り層21は、摩擦摩耗特性に優れていると共に耐荷重性が高められている。さらに油中あるいは水中等の湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて小さいので、乾燥摩擦条件、境界摩擦条件、さらには水潤滑条件など幅広い用途への適用が可能となる。
【0057】
<円筒状の複層摺動部材>
図6及び図7は、前記摺動面材を内周面(摺動面)に一体的に接合した円筒状の複層摺動部材の製造方法の一例を概略的に示した図である。円筒状の複層摺動部材は、ロールド成形装置を用いたロールド成形により作製することができる。図6に示すロールド成形装置は、通常、2つの加熱ローラ22と1つの加圧ローラ23をそれぞれが三角形の頂点に位置するように配置し、その真ん中に芯型24を置いて、この芯型24に前記摺動面材用のプリプレグ12及び裏金14用のプリプレグ17を巻きつけ、該芯型24を一定方向に駆動回転させながら成形するもので、前記3本のローラ22、22及び23によって加熱、加圧しながら円筒状の複層摺動部材を得る成形方法である。
【0058】
図6に示すロールド成形装置において、予め120〜200℃の温度に加熱された芯型24の外周面に、所定の幅に切断した前記摺動面材用のプリプレグ12を少なくとも1周分巻きつけた後、その外周面に前記裏金14用のプリプレグ17を巻きロール25より120〜200℃の温度に加熱された加熱ローラ22及び22を介して供給し、2〜6MPaの圧力を掛けて加圧ローラ23で所望する最終厚さ(外径)まで巻きつけてロールド成形する。このようにして成形された円筒状の複層成形体26を芯型24に保持した状態で20〜180℃の雰囲気温度に調整された加熱炉で加熱硬化させた後、冷却し、芯型24を抜き取り、円筒状の複層成形体26を成形する。ついで、このように作製された円筒状の複層成形体26に機械加工を施して、図7に示すように所望の寸法を有する円筒状の複層摺動部材27を形成する。このように形成された円筒状の複層摺動部材27においては、円筒状の裏金28の内周面に一体的に接合された摺動面材からなる滑り層29を有する。滑り層29は、その内周面が摺動面として機能する。円筒状の複層摺動部材27は、摩擦摩耗特性が優れていると共に耐荷重性が高められており、さらに油中あるいは水中等の湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて小さいので、乾燥摩擦(ドライ)条件、境界摩擦条件、さらには水潤滑条件など幅広い用途への適用が可能となる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を各実施例により詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
<平板状の複層摺動部材>
実施例1〜3
(摺動面材用の補強基材)
ふっ素樹脂繊維としてPTFE繊維を使用し、400デニールの紡績糸を280T/mで下撚り(Z撚り)を掛けて形成した片撚り糸と、20綿番手のPPS繊維の紡績糸を280T/mで下撚り(Z撚り)を掛けて形成した片撚り糸を準備した。これら片撚り糸をそれぞれ1本ずつ2本引き揃え、該片撚り糸の片撚り方向(Z方向)と反対側(S方向)に275T/mで撚り(S撚り)を掛けて双糸を形成した。この双糸を経糸(たて糸)及び緯糸(よこ糸)として、経糸の打ち込み本数を40本/インチ、緯糸の打ち込み本数を40本/インチの密度で平織した平織織布を作製し、これを補強基材とした。
【0061】
(レゾール型フェノール樹脂)
撹拌機、温度計及び冷却管を備えたセパラブルフラスコに、ビスフェノールA300gと37%ホルムアルデヒド水溶液192gを投入し、撹拌しながら25%アンモニア水溶液9gを投入したのち、常圧下で昇温し90℃の温度に到達後、2.5時間縮合反応させた。その後、0.015MPaの減圧下で80℃の温度まで昇温して水分の除去を行った。ついで、メタノール64gを添加して常圧下で85℃の温度まで昇温し、4時間縮合反応させて濃縮し、これを樹脂固形分60質量%となるようにメタノールで希釈してレゾール型フェノール樹脂(固形分60質量%のワニス)を作製した。実施例1ないし実施例3では、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比率は、100モル%である。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは900、分子量分布の分散度Mw/Mnは5.6であった。
【0062】
前記レゾール型フェノール樹脂ワニスに対し、PTFEとして低分子量PTFE(喜多村社製「KTL−2N」(商品名))を使用し、該低分子量PTFE粉末を、実施例毎に所定量配合して分散含有させ、該レゾール型フェノール樹脂ワニスと低分子量PTFE粉末との混合液を準備した。
【0063】
(摺動面材用のプリプレグ)
図1に示した製造装置を使用し、アンコイラ1に巻かれた平織織布からなる補強基材2を送りローラ3によって前記混合液4を貯えた容器5に送り、容器5内に設けられた案内ローラ6及び7によって容器5内に貯えられた混合液4内を通過させることにより、補強基材2の表面に混合液4を塗工した。ついで、混合液4が塗工された補強基材2を送りローラ8によって圧縮ロール9及び10に送り、圧縮ロール9及び10によって補強基材2の表面に塗工された混合液4を該補強基材の繊維組織隙間にまで含浸させた。そして、混合液4が塗工された補強基材2を乾燥炉11に送り、溶剤を飛ばすと同時に該混合液4の反応を進め、実施例1ないし実施例3の摺動面材用のプリプレグを作製した。
(実施例1)補強基材(平織織布)43.5質量%、PTFE13質量%、レゾール型
フェノール樹脂43.5質量%
(実施例2)補強基材(同上)40.0質量%、PTFE20質量%、レゾール型フェ
ノール樹脂40質量%
(実施例3)補強基材(同上)37.0質量%、PTFE26質量%、レゾール型フェ
ノール樹脂37.0質量%
【0064】
(裏金)
補強繊維織布として、単繊維(モノフィラメント)の直径が5μmで、集束本数が100本で構成されたガラス繊維単糸を使用し、経糸(たて糸)の打ち込み本数を65本/インチ、緯糸(よこ糸)の打ち込み本数を65本/インチの密度で平織してガラス繊維平織織布を作製し、これを補強繊維織布とした。熱硬化性合成樹脂として、前記と同様のレゾール型フェノール樹脂(固形分60質量%)を使用した。図1に示す製造装置のアンコイラ1に巻かれた補強繊維織布(ガラス繊維平織織布)15を送りローラ3によってレゾール型フェノール樹脂ワニス16を貯えた容器5に送り、容器5内に設けられた案内ローラ6及び7によって容器5内に貯えられたレゾール型フェノール樹脂ワニス16内を通過せしめることにより、該補強繊維織布15の表面に該レゾール型フェノール樹脂ワニス16を塗工した。ついで、レゾール型フェノール樹脂ワニス16が塗工された補強繊維織布15を送りローラ8によって圧縮ロール9及び10に送り、該圧縮ロール9及び10によって補強繊維織布15の表面に塗工されたレゾール型フェノール樹脂ワニス16を該補強繊維織布15の繊維組織隙間にまで含浸させた。該レゾール型フェノール樹脂ワニス16を含浸塗工した補強繊維織布15を乾燥炉11内に送り、該乾燥炉11内で溶剤を飛ばすと同時に該レゾール型フェノール樹脂ワニス16の反応を進め、補強繊維織布40質量%、レゾール型フェノール樹脂60質量%からなる成形可能な裏金用のプリプレグ17を作製した。
【0065】
(複層摺動部材)
前記裏金用のプリプレグを一辺の長さが31mmの方形状に切断し、これを前記図4に示す加熱加圧装置の金型18の方形状の凹所19内に10枚重ね合わせて積層した。一方、前記実施例1ないし実施例3の摺動面材用のプリプレグをそれぞれ一辺の長さが31mmの方形状に切断し、これを金型の凹所19内に積層された裏金用のプリプレグの上に3枚重ね合わせて積層したのち、金型18内で積層方向に160℃の温度で10分間加熱し、圧力7MPaで加圧成形して方形状の複層成形体を作製し、この複層成形体に機械加工を施して一辺が30mm、厚さが5mmであって、裏金と裏金の表面に一体的に接合された摺動面材の滑り層21からなる複層摺動部材13を作製した。
【0066】
実施例4〜6
(摺動面材用の補強基材)
ふっ素樹脂繊維として、FEP繊維(実施例4)、PFA繊維(実施例5)及びETFE繊維(実施例6)を使用し、それぞれ400デニールの紡績糸を300T/mで下撚り(Z撚り)を掛けて形成した片撚り糸と、20綿番手のPPS繊維の紡績糸を300T/mで下撚り(Z撚り)を掛けて形成した片撚り糸を準備した。これら片撚り糸をそれぞれ1本ずつ2本引き揃え、該片撚り糸の片撚り方向(Z方向)と反対側(S方向)に295T/mで撚り(S撚り)を掛けて双糸を作製した。この双糸を経糸(たて糸)及び緯糸(よこ糸)として、経糸の打ち込み本数を40本/インチ、緯糸の打ち込み本数を40本/インチの密度で平織した平織織布を作製し、これを補強基材とした。
【0067】
(レゾール型フェノール樹脂)
前記実施例1と同様のセパラブルフラスコに、ビスフェノールA160gと37%ホルムアルデヒド水溶液79gを投入し、撹拌しながらトリエチルアミン1.3gを投入したのち、常圧下で昇温し100℃の還流条件下で1時間縮合反応させた。その後一旦冷却し、フェノール32gと37%ホルムアルデヒド水溶液30gとトリエチルアミン0.3gとを投入した。ついで、常圧下で昇温し、100℃の還流条件下で2時間縮合反応を行ったのち、0.015MPaの減圧下で80℃の温度まで昇温して水分の除去を行った。ついで、メタノール24gを添加して常圧下で90℃の温度まで昇温し、4時間縮合反応させて濃縮し、これを樹脂固形分60質量%となるようにメタノールで希釈してレゾール型フェノール樹脂(固形分60質量%のワニス)を作製した。実施例4〜6では、使用したフェノール類中のビスフェノールAのモル比率は、67.4モル%である。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPC測定による数平均分子量Mnは720、分子量分布の分散度Mw/Mnは14.3であった。
【0068】
前記レゾール型フェノール樹脂ワニスに対し、PTFEとして低分子量PTFE(前記実施例1と同じ)を使用し、該低分子量PTFE粉末を、実施例毎に所定量配合して分散含有させ、該レゾール型フェノール樹脂ワニスと低分子量PTFE粉末との混合液を準備した。
【0069】
(摺動面材用のプリプレグ)
前記実施例1と同様、図1に示す製造装置を使用し、アンコイラ1に巻かれた補強基材2を送りローラ3によって混合液4を貯えた容器5に送り、容器5内に設けられた案内ローラ6及び7によって容器5内に貯えられた混合液4内を通過させることにより、補強基材2の表面に混合液4を塗工した。ついで、混合液4が塗工された補強基材1を送りローラ8によって圧縮ロール9及び10に送り、圧縮ロール9及び10によって補強基材2の表面に塗工された混合液4を、繊維組織隙間にまで含浸させた。そして、混合液4が含浸塗工された補強基材2を乾燥炉11に送り、溶剤を飛ばすと同時に該混合液4の反応を進め、実施例4ないし実施例6の摺動面材用のプリプレグを作製した。
(実施例4)補強基材(平織織布)43.5質量%、PTFE13質量%、レゾール型
フェノール樹脂43.5質量%
(実施例5)補強基材(同上)40.0質量%、PTFE20質量%、レゾール型フェ
ノール樹脂40質量%
(実施例6)補強基材(同上)37.0質量%、PTFE26質量%、レゾール型フェ
ノール樹脂37.0質量%
【0070】
(裏金)
裏金は、前記実施例1と同様のガラス繊維平織織布からなる補強繊維織布40質量%とレゾール型フェノール樹脂60質量%からなる成形可能な裏金用のプリプレグを使用した。
【0071】
(複層摺動部材)
前記実施例1と同様にして、一辺が30mm、厚さ5mmであって、裏金と該裏金の表面に一体的に接合した摺動面材用の滑り層とからなる複層摺動部材を作製した。
【0072】
<円筒状の複層摺動部材>
実施例7〜9
摺動面材用のプリプレグとして、前記実施例1ないし実施例3と同様の摺動面材用のプリプレグを、また裏金用のプリプレグとして、前記実施例1と同様の裏金用のプリプレグをそれぞれ使用した。図6に示すロールド成形装置において、予め150℃の温度に加熱し、外径が60mmの芯型24の外周面に、幅51mmの長さに切断した摺動面材用のプリプレグを3周分巻きつけた後、その外周面に裏金用のプリプレグを巻きロール25より150℃の温度に加熱された加熱ローラ22を介して供給し、5MPaの圧力を掛けて加圧ローラ23で15周分巻きつけてロールド成形した。このようにして成形した円筒状の複層成形体26を芯型24に保持した状態で150℃の雰囲気温度に調整した加熱炉で加熱硬化させた後冷却し、芯型24を抜き取り、円筒状の複層成形体26を作製した。この円筒状の複層積層体26に機械加工を施し、内径60mm、外径75mm、長さ50mmの寸法を有する図7に示すような円筒状の複層摺動部材27を作製した。
【0073】
実施例10〜12
摺動面材用のプリプレグとして、前記実施例4ないし実施例6と同様の摺動面材用のプリプレグを、また裏金用のプリプレグとして、前記実施例1と同様の裏金用のプリプレグをそれぞれ使用した。図6に示すロールド成形装置において、予め150℃の温度に加熱し、外径が60mmの芯型24の外周面に、幅51mmの長さに切断した摺動面材用のプリプレグ12を3周分巻きつけた後、その外周面に裏金用のプリプレグ17を巻きロール25より150℃の温度に加熱された加熱ローラ21を介して供給し、5MPaの圧力を掛けて加圧ローラ23で15周分巻きつけてロールド成形した。このようにして成形した円筒状の複層成形体26を芯型24に保持した状態で150℃の雰囲気温度に調整した加熱炉で加熱硬化させた後冷却し、芯型24を抜き取り、円筒状の複層成形体26を作製した。この円筒状の複層積層体26に機械加工を施し、図7に示すような内径60mm、外径75mm、長さ50mmの寸法を有する円筒状の複層摺動部材27を作製した。
【0074】
<平板状の複層摺動部材>
比較例1〜3
(摺動面材用のプリプレグ)
補強基材として、経糸及び緯糸を20綿番手のポリエステル繊維の紡績糸を使用し、経糸の打ち込み本数を43本/インチ、緯糸の打ち込み本数を42本/インチの密度で平織した平織織布を使用した。前記実施例1ないし実施例3と同様の低分子量PTFE粉末を分散含有したレゾール型フェノール樹脂を使用し、前記実施例1と同様の方法で、比較例1ないし比較例3の摺動面材用のプリプレグを作製した。
(比較例1)補強基材(平織織布)43.5質量%、PTFE13質量%、レゾール型
フェノール樹脂43.5質量%
(比較例2)補強基材(同上)40.0質量%、PTFE20質量%、レゾール型フェ
ノール樹脂40質量%
(比較例3)補強基材(同上)37.0質量%、PTFE26質量%、レゾール型フェ
ノール樹脂37.0質量%
【0075】
(裏金)
裏金用のプリプレグとして、前記実施例1と同様のガラス繊維平織織布からなる補強繊維織布40質量%とレゾール型フェノール樹脂60質量%からなる成形可能な裏金用のプリプレグを使用した。
【0076】
(複層摺動部材)
前記裏金用のプリプレグを、一辺の長さが31mmの方形状に切断し、これを前記図4に示す加熱加圧装置の金型18の方形状の凹所19内に10枚重ね合わせて積層した。一方、前記比較例1ないし比較例3の摺動面材用のプリプレグをそれぞれ一辺の長さが31mmの方形状に切断し、これを金型の凹所19内に積層した裏金用のプリプレグ17の上に3枚重ね合わせて積層したのち、金型18内で積層方向に160℃の温度で10分間加熱し、圧力7MPaで加圧成形して方形状の複層成形体を作製し、これに機械加工を施して一辺の長さが30mm、厚さが5mmであって、裏金14と該裏金14の表面に一体的に接合した摺動面材の滑り層21とからなる複層摺動部材13を作製した。
【0077】
<円筒状の複層摺動部材>
比較例4〜6
(摺動面材用のプリプレグ)
前記比較例1ないし比較例3と同様の摺動面材用のプリプレグを使用した。
【0078】
(裏金)
裏金用のプリプレグとして、前記実施例1と同様のガラス繊維平織織布からなる補強繊維織布40質量%とレゾール型フェノール樹脂60質量%からなる成形可能な裏金用のプリプレグを使用した。
【0079】
(複層摺動部材)
図6に示すロールド成形装置において、予め150℃の温度に加熱し、外径が60mmの芯型の外周面に、幅51mmの長さに切断した摺動面材用のプリプレグ12を3周分巻きつけた後24、その外周面に裏金用のプリプレグ16を巻きロール25より150℃の温度に加熱された加熱ローラ22を介して供給し、5MPaの圧力を掛けて加圧ローラ23で15周分巻きつけてロールド成形した。このようにして成形した円筒状の複層成形体26を芯型24に保持した状態で150℃の雰囲気温度に調整した加熱炉で加熱硬化させた後冷却し、芯型24を抜き取り、円筒状の複層成形体26を作製した。この円筒状の複層積層体26に機械加工を施し、図7に示すような内径60mm、外径75mm、長さ50mmの寸法を有する円筒状の複層摺動部材27を作製した。
【0080】
次に、上記した実施例及び比較例の複層摺動部材について、摩擦摩耗特性及び水中における膨潤量(%)を試験した結果を説明する。
【0081】
実施例1ないし6及び比較例1ないし3の平板状複層摺動部材の摩擦摩耗特性
(1)スラスト試験
表1に示す試験条件で摩擦係数及び摩耗量を測定した。摩耗量については、試験時間30時間終了後の寸法変化量で示した。
【0082】
【表1】

【0083】
実施例7ないし12及び比較例4ないし6の円筒状複層摺動部材の摩擦摩耗特性
(1)ジャーナル揺動試験
表2及び表3に記載の試験条件で摩擦係数及び摩耗量を測定した。摩耗量については、試験時間100時間終了後の寸法変化量で示した。
【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【0086】
上記摩擦摩耗試験の試験結果を表4〜表6に示す。表4〜表6において、レゾール型フェノール樹脂の数平均分子量Mn及び分散度Mw/Mnの測定は、GPCにより測定し、数値はポリスチレン標準物質による検量線から算出した。計測装置等は以下の通りである。
GPC装置:東ソー社製HLC−8120
カラム:東ソー社製TSKgel G3000HXL〔排除限界分子量(ポリスチレン換算)1×10〕1本に続けて、TSKgel G2000HXL〔排除限界分子量(ポリスチレン換算)1×10〕2本使用
検出器:東ソー社製のUV−8020
【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【0089】
【表6】

【0090】
【表7】

【0091】
表4ないし表7中のビスフェノールAのモル比率は、モル比率=(投入時のビスフェノールAのモル数/投入時のフェノール類の合計モル数)×100(モル%)である。
【0092】
上記の試験結果、とくに表6及び表7中のジャーナル揺動条件下での摩擦摩耗特性を比較すると、実施例7〜実施例12の複層摺動部材は、比較例4〜比較例6の従来の複層摺動部材よりも摩擦係数が低く、耐摩耗性が向上していることが分かる。とくに、ジャーナル揺動角度が90°(±45°)の試験においては、実施例7〜実施例12の複層摺動部材は、比較例4〜比較例6の従来の複層摺動部材よりも耐摩耗性が大幅に向上されていることが分かる。また、膨潤量については、実施例の複層摺動部材と比較例の複層摺動部材ともほぼ同等の性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上のように、本発明の摺動面材を構成するふっ素樹脂繊維及びPPS繊維の片撚り糸を少なくとも2本引き揃えて該片撚り糸の片撚り方向と反対方向の撚りを掛けて形成した諸撚り糸を経糸及び緯糸として形成した補強基材としての織布は、少なくとも摺動面となる一方の表面にふっ素樹脂繊維とPPS繊維がほぼ均等の面積割合をもって露出するので、該織布に含浸されたPTFE粉末の低摩擦性と相俟って摩擦摩耗特性を向上させるものであり、この摺動面材を摺動面に具備した複層摺動部材は優れた摩擦摩耗特性を有すると共に、剛性が高く、機械的強度に優れている。加えて、この複層摺動部材は、水中など湿潤雰囲気での使用においても膨潤量が極めて小さいので、膨潤に起因する寸法変化も極めて小さいものとなり、乾燥摩擦(ドライ)条件、グリース潤滑条件、さらには水潤滑条件など幅広い用途への適用が可能である。
【符号の説明】
【0094】
2 補強基材
12 摺動面材用のプリプレグ
13 平板状の複層摺動部材
14 裏金
17 裏金用のプリプレグ
21 滑り層
27 円筒状複層摺動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ふっ素樹脂繊維の片撚り糸とポリフェニレンサルファイド繊維の片撚り糸を少なくとも2本引き揃え、該片撚り糸の片撚り方向と反対側の撚りを掛けて形成した双糸を経糸及び緯糸として形成した織布からなる補強基材に、四ふっ化エチレン樹脂が分散含有されたレゾール型フェノール樹脂を含浸してなる摺動面材。
【請求項2】
ふっ素樹脂繊維は、ポリテトラフルオロエチレン繊維、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体繊維、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体繊維及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体繊維から選択される請求項1に記載の摺動面材。
【請求項3】
ふっ素樹脂繊維の片撚り糸は、少なくとも400デニールの糸である請求項1又は2に記載の摺動面材。
【請求項4】
ポリフェニレンサルファイド繊維の片撚り糸は、少なくとも20綿番手の糸である請求項1から3のいずれか一項に記載の摺動面材。
【請求項5】
片撚り糸は、下撚り(Z撚り)糸である請求項1から4のいずれか一項に記載の摺動面材。
【請求項6】
片撚り糸の撚り数は、260〜300T/mである請求項1から5のいずれか一項に記載の摺動面材。
【請求項7】
双糸の撚り数は、255〜295T/mである請求項1から6のいずれか一項に記載の摺動面材。
【請求項8】
補強基材は平織織布であり、該平織織布の密度は、経糸(たて糸)36〜44本/インチ、緯糸(よこ糸)36〜44本/インチである請求項1から7のいずれか一項に記載の摺動面材。
【請求項9】
レゾール型フェノール樹脂35〜50質量%、四ふっ化エチレン樹脂10〜30質量%及び補強基材35〜50質量%含む請求項1から8のいずれか一項に記載の摺動面材。
【請求項10】
レゾール型フェノール樹脂は、ビスフェノールAを50〜100モル%含むフェノール類とホルムアルデヒド類とをアミン類を触媒として合成され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による数平均分子量Mnが500〜1000でありかつ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比としての分散度Mw/Mnが2.5〜15であるレゾール型フェノール樹脂ある請求項1から9のいずれか一項に記載の摺動面材。
【請求項11】
四ふっ化エチレン樹脂は、高分子量四ふっ化エチレン樹脂又は低分子量四ふっ化エチレン樹脂のいずれかである請求項1から10のいずれか一項に記載の摺動面材。
【請求項12】
全体形状が平板状でありかつ少なくとも摺動面において請求項1から11のいずれか一項に記載の摺動面材を備えた複層摺動部材。
【請求項13】
全体形状が円筒状でありかつ少なくとも摺動面において請求項1から11のいずれか一項に記載の摺動面材を備えた複層摺動部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−75057(P2011−75057A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228606(P2009−228606)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】