説明

摺接部材

【課題】摺接部と被接触部との摺動抵抗を大きくすることなく摺接部を嵩高くすることが可能な摺接部材を提供する。
【解決手段】摺接部材としてのブラシ体32は、床面に対して摺接しながら回転移動する状態で使用される摺接部としての毛羽部36を備えている。そして、毛羽部36は、シェニール糸35によって構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接触部に対して摺接しながら相対移動する状態で使用される摺接部を備えた摺接部材に関する。
【背景技術】
【0002】
このような摺接部材としては、例えば、電気掃除機のヘッド内に回転可能に収容された回転体に取り付けられて回転ブラシとして使用されるものが知られている(例えば、特許文献1)。そして、この電気掃除機で床面(被清掃面)を清掃する際に、回転ブラシが回転することで、床面上の塵埃が該回転ブラシによって掻き取られるようになっている。こうした回転ブラシにおける床面に摺接する部分である毛羽部は、床面の塵埃を漏れなく掻き取るという観点からできるだけ嵩高い方が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−228990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の回転ブラシは、床面に摺接する毛羽部が多数の直線状のモノフィラメント糸によって構成されているため、毛羽部を嵩高くするには毛羽部を構成する糸の数を増やしたり毛羽部を構成する糸を太くしたりすることが考えられるが、このようにすると、毛羽部の剛性が高まって床面に対する摺動抵抗が大きくなってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたものである。その目的とするところは、摺接部と被接触部との摺動抵抗を大きくすることなく摺接部を嵩高くすることが可能な摺接部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、被接触部に対して摺接しながら相対移動する状態で使用される摺接部を備えた摺接部材であって、前記摺接部は、少なくともシェニール糸を含む糸からなることを要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、摺接部が少なくともシェニール糸を含む糸からなるため、摺接部と被接触部との摺動抵抗を大きくすることなく摺接部を嵩高くすることが可能となる。なお、一般に、「シェニール糸」は、芯糸と押さえ糸との間に複数の花糸を挟んだ状態で該芯糸と該押さえ糸とを撚り合わせてなるものであり、通常の糸(フィラメント糸やスパン糸など)に比べて1本あたりの嵩が高い。また、「摺接」とは、摺接部が被接触部に接触した状態で被接触部に沿って相対移動することだけを意味するのではなく、例えば、摺接部材が回転しながら摺接部が被接触部と接触する状態も含む。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記シェニール糸は、少なくとも一部が導電性を有していることを要旨とする。
上記構成によれば、シェニール糸の少なくとも一部が導電性を有しているため、摺接部が静電気を帯びることを抑制することが可能となる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記摺接部は、パイル糸として前記シェニール糸が用いられたカットパイル織物の起毛された部分によって構成されていることを要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、例えば被接触部に付着した塵埃や粉粒体などの付着物を漏れなく掻き取ることができるとともに、掻き取った付着物が静電気によって摺接部に付着して溜まることを抑制することが可能となる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記摺接部は、前記シェニール糸を含む織物または編物によって構成されていることを要旨とする。
上記構成によれば、織物または編物を構成するシェニール糸の花糸の長さを変更するだけで、摺接部である織物または編物の表面に容易に段差を設けることが可能となる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記織物または前記編物は、筒状に形成されていることを要旨とする。
上記構成によれば、柱状や筒状のものに被着する際に都合がよい。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記織物または前記編物は、弾性繊維を含んでいることを要旨とする。
上記構成によれば、筒状の織物または編物が弾性変形するため、該織物または編物を柱状や筒状のものに被着する際の作業を容易に行うことが可能となる。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記弾性繊維は筒状に形成された前記織物または前記編物の周方向に沿って延びていることを要旨とする。
上記構成によれば、筒状の織物または編物を特にこれらの内径が大きくなるように容易に弾性変形させることができるので、該織物または編物を柱状や筒状のものに被着する際の作業をより一層容易に行うことが可能となる。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜請求項7のうちいずれか一項に記載の発明において、被清掃面上の塵埃を吸い込むための電気掃除機のヘッド内に回転可能に収容された回転体に取り付けられることを要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、電気掃除機で被清掃面を清掃する際に、回転体が回転することで、被清掃面上の塵埃を摺接部によって漏れなく掻き取ることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、摺接部と被接触部との摺動抵抗を大きくすることなく摺接部を嵩高くすることが可能な摺接部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態の電気掃除機のヘッドを示す平断面図。
【図2】図1の電気掃除機のヘッドの使用状態を示す側断面図。
【図3】第1実施形態において、(a)は電気掃除機の回転ブラシを示す斜視図、(b)は(a)の側面拡大図。
【図4】第1実施形態のブラシ体の断面図。
【図5】第1実施形態のブラシ体の毛羽部を構成するシェニール糸の模式図。
【図6】第2実施形態の車輪を示す斜視図。
【図7】図6の分解斜視図。
【図8】第2実施形態において、電気掃除機のヘッドに車輪を取着したときの状態を示す底面簡略図。
【図9】第3実施形態において、(a)は車輪の分解斜視図、(b)は(a)の断面図。
【図10】変更例において、筒体を金型内にセットしたときの状態を示す模式図。
【図11】変更例において、画像形成装置用の帯電ブラシ及び除電ブラシとして用いられるロールブラシを示す模式斜視図。
【図12】変更例において、シェニール糸を含む織物を示す要部拡大模式図。
【図13】変更例において、図12の織物の表面に段差を設けたときの状態を示す模式断面図。
【図14】変更例において、電気掃除機用吸い込み具に図12の織物を取着したときの状態を示す斜視図。
【図15】変更例において、フィルタ用清掃ブラシとして用いられるロールブラシを示す要部拡大正面図。
【図16】変更例において、画像形成装置用のシール材を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明の摺接部材を電気掃除機のヘッド内に配設される回転ブラシのブラシ体に具体化した第1実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
まず、回転ブラシが配設される電気掃除機のヘッドの構成について説明する。
図1及び図2に示すように、電気掃除機のヘッド11は、平面視略T字状のケース12を備えている。ケース12の後端部には、接続パイプ13の一端側が該ケース12に対して回動可能に接続されているとともに、接続パイプ13の他端側は図示しない電気掃除機の本体部に接続されている。ケース12の底面における前端部には、左右方向に長い矩形状の吸込口14が開口している。
【0021】
ケース12の内底面上には四角枠状をなす仕切板15が吸込口14を囲むように立設されており、該仕切板15の後端部中央にはエア吸引口16が貫通するように形成されている。ケース12の左内側面にはモータ軸受17が設けられており、該モータ軸受17にはケース12内に設けられたモータ18から延びる出力軸19の先端が回転可能に支持されている。
【0022】
仕切板15の左右両側壁にはそれぞれ回転支持体20が設けられており、該両回転支持体20はケース12の左右両内側面にそれぞれ設けられたブラシ軸受21によってそれぞれ回転可能に支持されている。仕切板15の内側には左右方向に延びる回転ブラシ22が収容されており、該回転ブラシ22の両端部は両回転支持体20にそれぞれ支持されている。
【0023】
また、モータ18の出力軸19の先端部にはローラ19aが取着されており、該ローラ19aと左側の回転支持体20との間には無端状のベルト23が掛装されている。そして、モータ18の回転駆動力は、出力軸19、ローラ19a、ベルト23、及び左側の回転支持体20を介して回転ブラシ22に伝達されるようになっている。すなわち、モータ18を駆動することで、回転ブラシ22が回転されるようになっている。
【0024】
そして、電気掃除機の使用時には、仕切板15の内側のエアがエア吸引口16及び接続パイプ13を介して図示しない電気掃除機の本体部内へと吸引されるとともに回転ブラシ22が回転されることにより、床面F上の塵、埃、毛髪等の塵埃が掻き取られてエアとともに吸込口14から吸い込まれるようになっている。この場合、回転ブラシ22は、電気掃除機のヘッド11の前進を妨げない方向(図2の矢印で示す方向)に回転されるようになっている。
【0025】
次に、回転ブラシ22の構成について詳述する。
図3(a)、(b)に示すように、回転ブラシ22は、断面視X字状をなす棒状の金属よりなる回転体31と、該回転体31に取着される摺接部材としてのブラシ体32とを備えている。回転体31は、断面視T字状をなす4つの突条31aの基端部同士を、該各突条31aが互いに回転体31の周方向に等間隔に配置されるように互いに一体に連結し、さらにその全体にわたって周方向に約180度捻ることで形成されている。したがって、回転体31の周面における各突条31a間には、該回転体31の長手方向に沿って螺旋状に延びる4本の凹溝33が形成される。そして、各凹溝33の開口部33aは、各突条31aの先端部に備えられた突片31bによりそれぞれ狭められている。
【0026】
図4に示すように、ブラシ体32は、導電性繊維よりなるヨコ糸34a及びタテ糸34bを織り上げることにより形成された帯状の織布からなる基布34と、該基布34上に導電性繊維よりなる複数本のシェニール糸35をパイル織りすることで形成(起毛)された摺接部としての毛羽部36とを備えている。すなわち、ブラシ体32は、カットパイル織物によって構成されており、該カットパイル織物のパイル糸としてシェニール糸35が用いられている。なお、本実施形態では、ヨコ糸34a、タテ糸34b、及びシェニール糸35を構成する導電性繊維として、日本蚕毛染色株式会社製のサンダーロン(登録商標)が用いられている。
【0027】
さらに、ブラシ体32の基布34における毛羽部36が形成された面の反対側の面にはコーティング層37が設けられており、該コーティング層37により毛羽部36を構成する各シェニール糸35の根元部分と基布34とが強固に接合されている。コーティング層37を形成するコーティング剤としては、導電性を有するエマルションが用いられている。なお、図3(b)に示すように、基布34における短手方向の幅は、回転体31の凹溝33内に挿入可能でかつ凹溝33の開口部33aの幅よりも大きくなるように設定されている。
【0028】
図5に示すように、シェニール糸35を形成する場合には、まず、芯糸38と押さえ糸39と熱融着繊維からなる低融点溶融糸40とを互いに平行となるように配置する。続いて、芯糸38と押さえ糸39との間に、これら芯糸38及び押さえ糸39と直交するように複数の花糸41を並列させた状態で挟み込む。この状態で芯糸38と押さえ糸39と低融点溶融糸40とを撚り合わせた後、加熱して低融点溶融糸40を溶融させて芯糸38及び押さえ糸39と、花糸41とを接合することでシェニール糸35が得られる。なお、本実施形態において、芯糸38、押さえ糸39、及び花糸41は導電性繊維(日本蚕毛染色株式会社製のサンダーロン(登録商標))によって構成されている。
【0029】
次に、回転体31へのブラシ体32の取り付け方法について説明する。
図3(a)、(b)に示すように、回転体31へブラシ体32を取り付ける場合、毛羽部36が凹溝33の開口部33aから外側へ突出するように、回転体31の端部から各凹溝33内にブラシ体32の基布34をそれぞれスライド挿入する。これにより、ブラシ体32は、各凹溝33に沿ってそれぞれ螺旋状に捻れた状態で回転体31に挿着される。このとき、基布34における短手方向の幅は回転体31の凹溝33の開口部33aの幅よりも大きいため、凹溝33の開口部33aからブラシ体32が脱落することはない。
【0030】
次に、回転ブラシ22の作用について説明する。
さて、電気掃除機によって被接触部としての被清掃面である床面Fの清掃を行う場合には、図2に示すように、まず、ヘッド11を床面F上に載せる。この状態で電気掃除機を稼動させると、モータ18が駆動されるとともに、仕切板15の内側のエアがエア吸引口16から接続パイプ13を介して図示しない電気掃除機の本体部内に吸引される。このとき、モータ18の駆動によって回転ブラシ22が左側から見て反時計方向(図中の矢印で示す方向)に回転されるとともに、該回転ブラシ22の毛羽部36が床面Fに摺接される。この毛羽部36の床面Fへの摺接により、該床面F上の塵埃が掻き取られてエアとともに図示しない電気掃除機の本体部内に吸引される。
【0031】
このとき、回転ブラシ22を構成する回転体31及びブラシ体32は導電性を有しているため、毛羽部36と床面Fとの摩擦によって発生する静電気が毛羽部36に溜まりにくくなる。この結果、塵埃の毛羽部36に対する静電気による付着力が低減され、該毛羽部36に付着した塵埃は、エアとともにエア吸引口16から電気掃除機の本体部内に円滑に吸引されて除去される。
【0032】
この場合、毛羽部36が通常の糸よりも嵩高いシェニール糸35によって構成されているため、床面F上の塵埃が漏れなく掻き取られるとともに、床面Fに対する拭き取り効果も得られる。加えて、毛羽部36が通常の糸よりも嵩高いシェニール糸35によって構成されていることで、通常の糸よりも少ない本数で毛羽部36の嵩が十分に確保されるので、床面Fに対する毛羽部36の摺動抵抗が大きくなることもない。
【0033】
以上詳述した第1実施形態によれば次のような効果が発揮される。
(1)毛羽部36がシェニール糸35によって構成されているため、通常の糸よりも少ない本数で毛羽部36の嵩を十分に確保することができる。このため、毛羽部36と床面Fとの摺動抵抗を大きくすることなく毛羽部36を嵩高くすることができる。
【0034】
(2)毛羽部36を構成するシェニール糸35は導電性繊維からなるため、毛羽部36と床面Fとの摩擦によって毛羽部36に溜まる静電気を低減することができる。したがって、毛羽部36によって床面Fから掻き取った塵埃が静電気によって該毛羽部36に付着して溜まることを抑制することができる。
【0035】
(3)シェニール糸35によって構成された毛羽部36を有するブラシ体32が床面F上の塵埃を吸い込むための電気掃除機のヘッド11内に回転可能に収容された回転体31に取り付けられているため、電気掃除機で床面Fを清掃する際に、回転体31が回転することで、床面F上の塵埃を毛羽部36によって漏れなく掻き取ることができる。
【0036】
(第2実施形態)
以下、本発明の摺接部材を電気掃除機のヘッドに回転可能に取着するための車輪60に具体化した第2実施形態を図面に基づいて説明する。
【0037】
図6及び図7に示すように、摺接部材としての車輪60は、円筒状をなす本体ローラ61と、該本体ローラ61の外周面61aに被着された円筒状の摺接部としての筒体62とを備えている。そして、図8に示すように、車輪60は回転軸63を介して電気掃除機のヘッド80における床面F(図2参照)との接触面80aの所定位置に所定数(本実施形態では4つ)だけ回転可能にそれぞれ取り付けられる。
【0038】
図6及び図7に示すように、本体ローラ61は硬質の合成樹脂によって構成され、筒体62はポリアミド製のシェニール糸35(花糸41の長さは3〜4mm程度に設定されている)と弾性繊維としてのスパンデックス糸(ポリウレタン系の弾性糸)とを綾織り構造で筒織り加工してなる織物によって構成されている。筒体62を構成する織物に使用されるスパンデックス糸には、ポリアミド製の糸でカバーされたものが用いられている。また、筒体62を構成する織物は、該筒体62の周方向に沿ってスパンデックス糸が延びるとともに、該筒体62の軸方向に沿ってシェニール糸35が延びるように織られている。したがって、筒体62は、径方向において弾力性(伸縮性)を有するとともに、軸方向においてほとんど弾力性を有さない。
【0039】
また、筒体62を構成する織物において、スパンデックス糸の太さはシェニール糸35の太さの半分以下となるように設定されることが好ましく、本実施形態ではスパンデックス糸の太さがシェニール糸35の太さの8分の1程度に設定されている。このため、筒体62を構成する織物は、シェニール糸35が高密度で配列されるので、起毛加工を施さなくても通常のベロア材と遜色のない程度で表面が起毛された状態になっている。さらに、筒体62の軸方向の両側面62a(筒体62を構成する織物の切断面)には、ほつれを抑制するための合成樹脂製のコーティング剤が塗布されている。なお、筒体62の内径は本体ローラ61の外径よりも少し小さくなるように設定されるとともに、軸方向における本体ローラ61と筒体62との長さは同じになるように設定されている。
【0040】
そして、本体ローラ61と筒体62とを接合して車輪60を形成する場合には、まず、本体ローラ61の外周面61aの数箇所に両面粘着テープを粘着する(あるいは、接着剤を塗布する)。この状態で、筒体62を該筒体62の内径が本体ローラ61の外径よりも大きくなるまで弾性変形させた状態で本体ローラ61の外周面61aに被せる。すると、筒体62の弾性復元力により本体ローラ61の外周面61aに筒体62の内周面62bが密着して車輪60が形成される。
【0041】
このとき、軸方向において本体ローラ61と筒体62との位置がずれていた場合には、筒体62を軸方向に引っ張ってずれを直す必要があるが、筒体62は軸方向においてほとんど弾力性を有さないため、該ずれを容易に直すことができる。因みに、筒体62が軸方向においても弾力性を有していた場合には、筒体62を軸方向に引っ張ってずれを直す際に該筒体62が伸びてしまい、該ずれを直すことが困難になってしまう。
【0042】
さて、上述のように形成された車輪60が取り付けられた電気掃除機のヘッド80を被清掃面である床面Fに沿って移動させると、車輪60が床面F上を転がることで、該ヘッド80の移動が円滑になる。このとき、車輪60は本体ローラ61を筒体62で覆ったものであるため、床面F上には本体ローラ61が接触することなく筒体62が接触する。このため、筒体62のクッション性により、車輪60で床面Fが傷つけられることが抑制されるとともに、車輪60が床面F上を転がるときに発生する音が小さくなる。
【0043】
以上詳述した第2実施形態によれば次のような効果が発揮される。
(4)筒体62は径方向において弾力性(伸縮性)を有するとともに軸方向においてほとんど弾力性を有さない。このため、筒体62を拡径するように弾性変形させることで該筒体62を本体ローラ61に対して容易に被せることができる。加えて、本体ローラ61に対して筒体62を被せる位置が軸方向にずれた場合に該筒体62を正規の位置に向かって軸方向に引っ張っても該筒体62がほとんど伸びないので、該ずれを容易に直すことができる。
【0044】
(5)筒体62は、筒織りした織物で構成されているため、その周方向において継ぎ目がない。このため、車輪60が床面F上を転がる際に、筒体62を構成する織物がほつれることを抑制することができる。すなわち、筒体62の耐久性を向上させることができる。
【0045】
(第3実施形態)
以下、本発明の第3実施形態を、上記第2実施形態と異なる点を中心に説明する。
図9(a)、(b)に示すように、この第3実施形態の摺接部材としての車輪70は、第2実施形態の車輪60において筒体62を軸方向に長くして該筒体62の軸方向の両端部がそれぞれ本体ローラ61の軸方向の両側面を覆うようにした状態で、軸方向の両側から本体ローラ61内にそれぞれキャップ71を嵌着したものである。
【0046】
キャップ71は、本体ローラ61内に嵌入可能に構成された円筒状の嵌入部71aと、該嵌入部71aの軸方向の一端側に設けられた円環状のフランジ部71bとを備えている。フランジ部71bの外径は、本体ローラ61の内径よりも大きく且つ本体ローラ61の外径よりも小さくなるように設定されている。なお、車輪70において、本体ローラ61の内周面とキャップ71の嵌入部71aの外周面との間には接着剤または両面粘着テープが数箇所にわたって介在している。
【0047】
以上詳述した第3実施形態によれば次のような効果が発揮される。
(6)車輪70は、筒体62の軸方向の両側面62a(筒体62を構成する織物の切断面)がキャップ71によってそれぞれ保護されるので、該両側面62aにコーティング剤を塗布することなく、ほつれを抑制することができる。
【0048】
(7)車輪70は、本体ローラ61内に各キャップ71がそれぞれ嵌着されているため、第2実施形態の車輪60よりも強度を向上させることができる。
(8)車輪70において、筒体62の軸方向の両端部が本体ローラ61とキャップ71とによって挟持されているので、筒体62の位置がずれることを効果的に抑制することができる。
【0049】
(変更例)
なお、上記各実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・第2及び第3実施形態において、筒体62はシェニール糸35とスパンデックス糸とを筒編みにしてなる編物によって構成してもよい。
【0050】
・第2及び第3実施形態において、車輪60,70は、台車、机、椅子などのキャスターとして使用してもよい。
・第1実施形態の回転体31に第2及び第3実施形態の筒体62を被着することで、回転ブラシ22を構成してもよい。この場合、ブラシ体32は省略される。
【0051】
・第2実施形態の車輪60は、筒体62をインサート品として該筒体62内に本体ローラ61をインサート成形することで製造してもよい。この場合、図10に示すように、筒体62は、2重に筒織りされた織物(または2重に筒編みされた編物)によって構成されており、内側部分62Aがポリプロピレン製の糸によって織られる(編まれる)とともに、外側部分62Bがポリアミド製の糸によって織られている(編まれている)。そして、このようにして形成された筒体62を金型(図示略)内にセットし、該金型内のキャビティSに溶融したポリプロピレンを注入し、その後冷却して固化させることで、筒体62内にポリプロピレン製の本体ローラ61が一体に成形された車輪60が製造される。この場合、筒体62の内側部分62AはキャビティSに注入するポリプロピレンと同じ材質であるため、注入したポリプロピレンと筒体62の内側部分62Aとが溶け合う。したがって、本体ローラ61の成形時に該本体ローラ61と筒体62の内側部分62Aとが同種の材料同士で溶着されるので、本体ローラ61と筒体62とが強固に接合される。
【0052】
・図11に示すように、丸棒状の軸部材50の表面に摺接部としての帯状の織物51(編物でもよい)を1周分巻き付けた状態で貼り付けてなるロールブラシ52を摺接部材とし、該摺接部材の用途を変更してもよい。この場合、織物51は、図12に示すように、タテ糸及びヨコ糸のうち少なくとも一方にシェニール糸35が用いられていればよいが、織物51を構成するタテ糸及びヨコ糸のうちいずれか一方をシェニール糸35にした場合には、被接触部に摺接する側の面(外側の面)にシェニール糸35が70%以上露出するように、該織物51を織ることが好ましい。
【0053】
このように構成されたロールブラシ52は、例えば、画像形成装置(図示略)内において、回転可能に支持された感光ドラム(図示略)の表面に摺接することで感光ドラムの表面を帯電させる帯電ブラシや、該帯電ブラシによって帯電された感光ドラムの表面に摺接することで感光ドラムを除電する除電ブラシなどに用いることができる。
【0054】
また、ロールブラシ52における織物51の表面に段差を設ける場合には、図13に示すように、織物51を構成する各シェニール糸35の中に花糸41の長さが他のシェニール糸35より短いものや長いものを所望の位置に所望の数だけ混在させればよい。また、ロールブラシ52における織物51を編物にした場合でも、編物の表面に段差を設ける場合には、織物51の場合と同様に、編物を構成する各シェニール糸35の中に花糸41の長さが他のシェニール糸35より短いものや長いものを所望の位置に所望の数だけ混在させればよい。なお、編物の表面に段差を設ける場合には、その作業の容易性を考慮すると、該編物をヨコ編みではなくタテ編みにすることが好ましい。
【0055】
このように、軸部材50にシェニール糸35を含む織物51または編物を巻き付けてロールブラシ52を構成すれば、該各シェニール糸35の花糸41の長さを変更するだけで、シャーリング加工などの面倒な作業を必要とすることなく、摺接部を構成する織物51または編物の表面に容易に段差を設けることができる。
【0056】
・図11のロールブラシ52において、摺接部を構成する織物51または編物を筒状に形成してもよい。このようにすれば、ロールブラシ52の摺接部を構成する織物51または編物の継ぎ目をなくすことができる。この場合、摺接部を構成する織物51または編物を構成する糸に熱収縮糸を合糸し、筒状の織物51または編物に軸部材50を挿入した状態で加熱して織物51または編物を熱収縮させることで、軸部材50に織物51または編物を密着させるようにしてもよい。あるいは、摺接部を構成する織物51または編物を構成する糸に伸縮性の糸を合糸し、内径が軸部材50の外径よりも小さくした筒状の織物51または編物に軸部材50を該伸縮性の糸の弾性力に抗して挿入することで、軸部材50に織物51または編物を密着させるようにしてもよい。
【0057】
・図11のロールブラシ52において、帯状の織物51または編物の代わりにシェニール糸35を摺接部として軸部材50の表面に直接巻き付けて貼り付けてもよい。この場合、軸部材50に花糸41の長さが異なる複数のシェニール糸35を巻き付けることで、摺接部に容易に段差を設けることができる。
【0058】
・タテ糸及びヨコ糸のうち少なくとも一方にシェニール糸35が用いられた図12に示す織物51を摺接部材とし、該摺接部材の用途を変更してもよい。このように構成された摺接部材としての織物51は、例えば、図14に示すような電気掃除機用吸い込み具53のパッドとして用いることができる。この場合、織物51における被清掃面に摺接する側の面が摺接部として機能する。なお、織物51を構成するタテ糸及びヨコ糸のうちいずれか一方をシェニール糸35にした場合には、被清掃面に摺接する側の面(外側の面)にシェニール糸35が70%以上露出するように、該織物51を織ることが好ましい。
【0059】
・図15に示すように、丸棒状の軸部材54の表面に両面粘着テープ(図示略)などによりブラシ体32の基布34における毛羽部36とは反対側の面が順次貼り付けられるように該ブラシ体32が螺旋状に巻き付けられてなるロールブラシ55を摺接部材とし、該摺接部材の用途を変更してもよい。このように構成されたロールブラシ55は、例えば、フィルタ用清掃装置(図示略)に装備されるフィルタ用清掃ブラシとして用いることができる。そして、このロールブラシ55は、例えば、被接触部としての空気調和機(図示略)のフィルタの表面に摺接部としての毛羽部36を摺接させた状態で、駆動手段(図示略)によって回転駆動させることで、該フィルタの表面に付着した塵埃などを掻き取って除去するようになっている。
【0060】
・摺接部材と摺接する物体が該摺接部材に対して相対的に移動するのであれば、摺接部材は静止したままで使用する形態であってもよく、摺接部材を、例えば図16に示すような画像形成装置用のシール材56として用いてもよい。シール材56は、ブラシ体32と、該ブラシ体32の基布34における毛羽部36とは反対側の面に設けられたフォーム材からなる支持層57と、該支持層57におけるブラシ体32とは反対側の面に設けられた粘着剤よりなる貼付層58とを備えている。
【0061】
そして、シール材56は、画像形成装置(図示略)内において回転可能に支持された感光ドラム(図示略)の表面からトナーを掻き取る長板状のブレード(図示略)の端部に設けられた支持体に、ブラシ体32が最上層となるようにして貼付層58によって貼着される。これにより、シール材56は、その上面が感光ドラム(図示略)の軸線方向における両端部の被接触部としての表面に毛羽部36が摺接することで、支持体と感光ドラムとの隙間を介して外部に漏出しようとするトナーを捕集及びブロックしてトナーの漏れをシールするように機能する。
【0062】
・第1実施形態において、シェニール糸35は、芯糸38及び押さえ糸39を非導電性にし、該芯糸38及び押さえ糸39に別途導電性の糸を搦めるようにしてもよい。
・第1実施形態において、シェニール糸35の花糸41は、導電糸と非導電糸とを合糸したもので構成してもよい。このようにすれば、毛羽部36に溜まる静電気を低減できるとともに、高価な導電糸の使用量を減らし、製品コストを抑えることができる。
【0063】
・第1実施形態において、ブラシ体32の基布34を構成するヨコ糸34a、タテ糸34b、コーティング層37の全て、あるいはその一部を非導電性としてもよい。このようにすれば、ブラシ体32全体としての導電性は確保できなくなるが、シェニール糸35そのものに導電性が付与されてさえいれば、コロナ放電効果により、ある程度の静電気低減効果が期待できる。
【0064】
・第1実施形態において、ブラシ体32をカットパイル織物ではなくループパイル織物で構成してもよい。この場合、基布34には摺接部を構成するシェニール糸35がループ状に織り込まれる。したがって、摺接部は、ループパイル織物の起毛された部分によって構成される。
【0065】
・第1実施形態において、ブラシ体32の毛羽部36は、少なくとも一部がシェニール糸35によって構成されていればよく、シェニール糸35と通常の糸(フィラメント糸やスパン糸など)とによって混成されていてもよい。
【0066】
・第1実施形態において、シェニール糸35は、必ずしも導電性を有している必要はない。すなわち、シェニール糸35全体を非導電性繊維によって構成してもよい。
・第2及び第3実施形態において、筒体62を構成する織物に使用されるシェニール糸35を、一般的な嵩高い紡績糸(例えば500〜1000デシテックス相当の太さのもの)に変更してもよい。このようにすれば、筒体62を構成する織物にシェニール糸35を使用した場合に比べて車輪60の製造コストを低く抑えることができる。また、筒体62を構成する嵩高い紡績糸が有するクッション性により、車輪60によって床面Fが傷つけられることを抑制することができるともに、車輪60が床面Fを転がるときに発生する音を小さくすることができる。さらに、筒体62は、嵩高い紡績糸を含んだ筒織り品(筒編み品でもよい)であるため、周方向に継ぎ目が生じない。したがって、筒織り品が本体ローラ61の外周面61aから剥がれたり、筒織り品と本体ローラ61の外周面61aとの間にゴミなどが進入したりすることを抑制することができるので、車輪60の耐久性を向上させることができる。
【0067】
・第2及び第3実施形態において、筒体62を二重に筒織りされた織物(または二重に筒編みされた編物)によって構成するとともに該織物の内側部分を熱溶着糸(例えば低融点ポリアミド糸)で構成し、筒体62を本体ローラ61に被せた後、スチーム処理などの熱処理を施すことにより、本体ローラ61に筒体62を熱溶着するようにしてもよい。このようにすれば、粘着面や接着面に触れることなく本体ローラ61に筒体62を接合することができるため、両面粘着テープや接着剤によって本体ローラ61に筒体62を接合する場合よりも、車輪60の製造時における作業性を向上させることができる。
【0068】
さらに、上記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)前記摺接部は、パイル糸として前記シェニール糸が用いられたループパイル織物の起毛された部分によって構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の摺接部材。
【0069】
(ロ)画像形成装置内において、回転可能に支持された感光ドラムの表面に前記摺接部が摺接することで前記感光ドラムの表面を帯電させる帯電ブラシに用いられることを特徴とする請求項1〜請求項4及び上記(イ)のうちいずれか一項に記載の摺接部材。
【0070】
(ハ)画像形成装置内において、回転可能に支持されるとともに帯電された感光ドラムの表面に前記摺接部が摺接することで前記感光ドラムを除電する除電ブラシに用いられることを特徴とする請求項1〜請求項4及び上記(イ)のうちいずれか一項に記載の摺接部材。
【0071】
(ニ)前記摺接部がフィルタの表面に摺接した状態で回転可能であるとともに、前記フィルタの表面に付着した塵埃を除去するフィルタ用清掃ブラシに用いられることを特徴とする請求項1〜請求項4及び上記(イ)のうちいずれか一項に記載の摺接部材。
【0072】
(ホ)画像形成装置内において、回転可能に支持された感光ドラムの表面からトナーを掻き取る長板状のブレードの端部に設けられた支持体に前記摺接部が前記感光ドラムの表面に摺接するように取り付けられ、前記ブレードの端部から前記支持体と前記感光ドラムとの隙間を介して外部に漏出しようとするトナーを捕集及びブロックしてトナーの漏れをシールするシール材に用いられることを特徴とする請求項1〜請求項4及び上記(イ)のうちいずれか一項に記載の摺接部材。
【0073】
(ヘ)前記シェニール糸を構成する花糸は、導電糸と非導電糸とを合糸してなることを特徴とする請求項1〜請求項4及び上記(イ)のうちいずれか一項に記載の摺接部材。
【符号の説明】
【0074】
11,80…電気掃除機のヘッド、31…回転体、32…カットパイル織物を構成する摺接部材としてのブラシ体、35…摺接部を構成するシェニール糸、36…パイル糸を構成する摺接部としての毛羽部、51…摺接部材及び摺接部としての織物、52,55…摺接部材としてのロールブラシ、56…摺接部材としてのシール材、60,70…摺接部材としての車輪、62…摺接部としての筒体、F…被接触部としての被清掃面である床面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接触部に対して摺接しながら相対移動する状態で使用される摺接部を備えた摺接部材であって、
前記摺接部は、少なくともシェニール糸を含む糸からなることを特徴とする摺接部材。
【請求項2】
前記シェニール糸は、少なくとも一部が導電性を有していることを特徴とする請求項1に記載の摺接部材。
【請求項3】
前記摺接部は、パイル糸として前記シェニール糸が用いられたカットパイル織物の起毛された部分によって構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の摺接部材。
【請求項4】
前記摺接部は、前記シェニール糸を含む織物または編物によって構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の摺接部材。
【請求項5】
前記織物または前記編物は、筒状に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の摺接部材。
【請求項6】
前記織物または前記編物は、弾性繊維を含んでいることを特徴とする請求項5に記載の摺接部材。
【請求項7】
前記弾性繊維は筒状に形成された前記織物または前記編物の周方向に沿って延びていることを特徴とする請求項6に記載の摺接部材。
【請求項8】
被清掃面上の塵埃を吸い込むための電気掃除機のヘッド内に回転可能に収容された回転体に取り付けられることを特徴とする請求項1〜請求項7のうちいずれか一項に記載の摺接部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−67585(P2011−67585A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262294(P2009−262294)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(596024426)槌屋ティスコ株式会社 (47)
【Fターム(参考)】