説明

撚り機、撚り線製造方法、プライ、及び空気入りタイヤ

要求される性能を満たす短尺の撚り線を効率良く製造できるコンパクトな撚り機、撚り線製造方法、この撚り機又は撚り線製造方法で撚られてなるプライ及び空気入りタイヤを提供することを課題とする。
撚り機は、供給された複数本の素線を撚ってコード20とすると共に、このコード20に送り力を加える回転体30を有する。回転体30は送り機構58をハウジング31内に有しており、送り機構58によって回転体30からコード20が送り出される。また、撚り機は、撚り点のコード側又は素線側の何れか一方を開放にして撚る。これにより、回転性、真直性に優れたコード20を形成することができるコンパクトな撚り機を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、複数本の線材を撚って撚り線を製造する撚り機、撚り線製造方法、プライ、及び空気入りタイヤに関し、更に詳細には、タイヤに用いるタイヤ補強コードを製造するのに最適な撚り機、撚り線製造方法、プライ、及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
従来、スチールコード等のコード製品の量産では、撚り機を用い、連続的に撚り上げた製品(コード)をリールに巻き上げていくことを基本としており、複数の単線を撚り合わせてコードを製造する際には、撚り点を境に進行方向の両側で捻じり回転させる必要がある。このため、材料である単線側、もしくは製品であるコード側のどちらか片端を捻じり回転と同じく回転させるか、あるいは、回転体の内部に浮動して支持させて、周囲を回転する回転体に沿って単線もしくはコードを進ませることで、コードリールもしくは単線リールのどちらかの片端をくぐらせる必要がある(例えば、特開平6−200491号公報や特開平9−291488号公報を参照)。
また、タイヤの製造では、すだれ状に並べられたスチールコードをゴム中に打ち込んだシート状のタイヤ中間材料を作っている。このため、タイヤの補強材として使用されるスチールコードはできるだけ長く連続した状態であることが望まれており、数千から数万メートルにわたって連続して製品化することを基本としていた。
なお、撚り方向をある周期で正逆交互に繰り返しながら、両端の回転を固定したままで製品(撚り線)を製造する方法が知られている。しかし、交互に繰り返す周期より短い範囲で見れば撚り加工が残っているものの、繰り返し周期の間に2回撚りがゼロになる区間が発生し、また、繰り返し周期で製品の撚り加工は正逆で打ち消されてしまうので、良好な撚り線を製造しているとみなすことはできない。
ところで、コードを製造するには、短時間にできるだけ多く撚ることが必要である。
しかし、1回の装置回転(回転体の回転)で1回もしくは2回の撚りしか行うことができないため、多くの装置(撚り機)が必要になるという問題があり、この装置の設備投資は、コードの製造コストの大きな割合を占めている。
撚り機は高速回転できることが望ましいが、高速回転によって耐えられる遠心力負荷や、回転振動面で自ずと限界がある。撚り機をコンパクトにして回転数を上げることにより設備投資を押えようとすると、ボビンの巻きサイズが小さくなり、ボビンの交換作業頻度が増加して効率が低下するほか、タイヤ製造時の連続性を確保するためにも小型化の限界がある。
逆に、作業工数を少なくするためにボビンの巻きサイズを大きくすれば、撚り機が巨大となって遠心力が増し、回転数を上げられずに設備投資が増加する。この二律背反のために、撚り機のサイズと回転数とはバランスを考慮して妥協的な値にされており、現状以上の製造コストを下げることを困難にしている。
また、数千から数万メートルの製品を連続して製造することを基本としているので、製造途中で断線等の問題が発生すると、規定長さに達していない製品をスクラップにしたり溶接などの非定常的な処置をして取り除く必要があり、多くの工数を掛けて生産を復旧しなくてはならない。
一方で、タイヤ製造においては、大型のカレンダー装置又はステラスティックにより一度に大量のスチールコードを処理する。このため、処理ロットが大きくなり在庫の増加や生産から出荷までのリードタイムの増加の問題が潜在的に存在していた。また、個別のタイヤ製品毎や使用部位毎によってスチールコードの特性を変えることは手間が掛かって生産効率が悪化するため、多品種化を阻害していた。
また、従来のスチールコード製法では連続したスチールコードを生産して供給するため、コードの長手方向で品質特性を変化させることはできても、各部をタイヤの特定位置に常に正しく配置することは困難である。このため、タイヤの部位に応じてスチールコードの品質特性を変化させるには、その数だけのコード・ゴム複合の中間製品を準備した状態でタイヤを成形していく必要があった。
更に、従来の撚り機を用いたコード製造では、タイヤ工場での裁断工程や成型工程での作業性に多大な影響を及ぼすコードの回転性や真直性のレベル低減やその安定化が困難である。従来から、コードの回転性や真直性の品質向上や安定化のために多大な労力を要してきているが、いまだ完全に解決できていない課題となっている。
本発明は、上記事実を考慮して、要求される性能を満たす短尺の撚り線を効率良く製造できるコンパクトな撚り機及び撚り線製造方法を提供することを課題とする。また、この撚り機又は撚り線製造方法で撚られてなる撚り線を有するプライ、及びこのプライを有する空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【発明の開示】
請求の範囲第1項に記載の発明は、供給された複数本の線材を撚って撚り線とする回転体と、前記撚り線を前記回転体から搬出する搬出手段と、を有し、撚り点の前後で撚り線側又は線材側の何れか一方を開放していることを特徴とする。
本明細書で開放しているとは、撚り点の片方の端部を撚り回転に応じて回転できる状態にしていることをいう。
請求の範囲第1項に記載の発明では、撚り線側と線材側との相対的な回転が撚り点の前後で不可避的に生じていても、撚り線側又は線材側の何れか一方で端部を開放しているので、撚り加工する際、撚り線を回転させたまま撚り機から搬出するか、又は、線材を回転させたまま撚り機へ供給(投入)して引き込ませることができる。開放させる側の線材又は撚り線が短尺であるほうが、撚り機の構成、製品(撚り線)の品質、何れの観点からも好ましい。
開放させる側の線材が充分に短い場合、線材の剛性によって線材の形状が維持される。従って、回転している線材に全く触れない状態にするか、軽く触れて位置案内する程度の簡単なガイド部品によって線材端部を位置決めでき、線材を回転させたままで撚り線の射出あるいは線材の供給を行うことができる。
開放させる側の線材が比較的長い場合や、開放させる側の線材を高い精度で位置決めする場合、線材又は撚り線の回転を拘束しないように自由回転もしくは同期回転させることができるガイド部品やチャック部品を使用することにより、開放する側の線材又は撚り線を長くすることが可能である。ただし、長いほど設備が大きくなるため、10m程度にとどめておいたほうが経済的観点から好ましい。
線材の材質は特に限定されず、また、線材は素線であってもストランドであってもよい。撚る撚り方は、単撚り、複撚り、層撚り等、特に限定しない。線材が素線である場合にはストランドが製造される(例えば素線の材質がスチールである場合には撚り機でスチール製のストランドが製造される)。
搬出手段としては、撚り線を挟み付けて引っ張るチャック式のものや、撚り線を挟み付けて回転体から押し出すローラを有するものなど、様々なものが考えられるが、開放した側の線材又は撚り線の回転を妨げないようにすることが必要である。
撚り機への線材の供給方法については、従来の巻出技術をそのまま使うことができる。例えば、定テンションで巻き出された素線を、最終的なコード品質を得るために型付けの装置もしくは冶具を通らせて必要な型付けを確保した上で、撚り機によって捻じりながら回転体から送り出してもよい。送り出された撚り線はそのまま自身の剛性で押し出され、回転体と同じ方向へ回転しながら外部へ出てくる。
例えば、タイヤ補強コードを製造する場合、その後、所定の長さへカットすることによりタイヤ用補強コードとして完成品が得られる。なお、この場合、撚り機の出口を直接タイヤ部材製造装置へつないで、カットとゴムコーティングを複合的に行う方が設備コストや製造効率などの観点で有利である。更には、タイヤ部材加工成形用の設備に連結または複合化することが有利である。
また、コードの回転性が完全に開放された状態でタイヤ補強材であるゴムとの複合体として形成されるため、この複合体内部でのコードの回転性は完全にゼロとなる。
更に、コードの真直性に関しては、各素線に捻りが入るため、素線円周方向での応力分布が均一化され、真っ直ぐなコードが得られる。この原理はこれまでのバンチャータイプの撚り機においても同様であるが、従来のバンチャータイプの撚り機においては、コードが撚り合わせられた後、ガイドやプーリー、ローラー等を通過することにより、捻りにより真っ直ぐとなったコードの真直性を悪化させていた。更に従来の製造方法では、製造後のコードをリールに巻き取る為に、時間の経過と共に巻癖により真直性を更に悪化させていた。一方、本発明では、コードを撚り合わせた後直線的に搬出すること、及び、リールに巻き取らないことにより、真っ直ぐなコードを安定して連続的に供給することが可能である。
以上説明したように、請求の範囲第1項に記載の発明では、複数の単線を撚って回転体から搬出することにより撚り線を形成でき、従来のように撚り線を回転体から巻き取らなくても済む撚り機が実現される。これにより、回転性、真直性に優れた撚り線を形成することができるコンパクトな撚り機を実現することができ、スチールコードの製造に一般的に使用されている従来の撚り機に比べ、スペース、価格とも1/10以下とすることが可能となる。
請求の範囲第1項に記載の撚り機を用いて撚り線を製造する際、線材の選定は任意に行うことができる。例えば、コアとなる1本又は複数本の素線と、シースとなる複数本の素線と、を線材として供給し、コアとシースとが同方向、同ピッチで撚り合わされたコンパクトな構造の層撚りコードを製造してもよい。また、コアとなる複数本の素線を既に撚り合わせた状態で巻き出して撚り機に供給し、シースとでピッチが異なる層撚りコードを製造してもよい。更に、巻き出して供給する線材として2〜7本の素線を既に撚り合わせたストランドを使用し、複撚りのコードを製造してもよい。また、供給する線材として複数本の素線の材質を非同一とすることにより、製造する撚り線の材質を2種以上にしてもよい。また、スチールその他の素線と同時に、ゴム被覆済みの線材或いはひも状にした加工したゴムを撚り合わせることで、コードとゴムとの複合体を製造してもよい。
前記搬出手段が前記回転体に設けられていてもよい。これにより、搬出手段と回転体とが一体的になっているので、撚り機の小型化を図ることができる。
また、前記搬出手段が、前記撚り線の搬出方向に前記回転体を移動可能なように保持する移動機構と、前記回転体に設けられ前記撚り線を着脱自在にチャックする回転チャックと、で構成されてもよい。
移動機構としては、軸受け部等により回転体を回転自由なように保持する機構とする。撚り線を回転チャックから所定長さ搬出するには、回転チャックで撚り線をチャックして回転させた状態で移動機構により回転チャックを搬出方向へ移動させる。次に、チャックを解除し、この状態で移動機構により回転チャックをもとの位置に戻す。この結果、回転チャックから撚り線が所定長さ搬出された状態になる。
このように、撚り線を搬出する機能と回転体に回転を加える機能とが一体であっても別体であってもよい。
別体にする場合には、搬出手段のワイヤーを掴んだ部分については自由に回転できるようにして、搬出手段が撚り回転を拘束して阻害することのないようにする。別体にすることにより、回転体による撚り機能、及び、搬出手段による搬出機能をそれぞれ最適なように設計することや、複数の撚り機を連動させた撚り設備を設けることなどが容易になる。
上記の機能を一体にする場合については、搬出手段を回転体と一体的に又は同期させて回転させるための工夫が必要となるが、撚り機全体が小型で簡潔であるという利点を活かすことが容易である。この場合、複数のロールでコードを挟みつけて摩擦力で駆動してもよい。但し、単にロールで挟むだけでは、必要な駆動力を得るために大きな接触圧力が必要になるので、製品の品質や装置としての耐久性の低下を防止するために、多段式にしたり、無限軌道に似た機構で挟み付けた方がよい。大きな接触圧力を低減させる工夫として、キャプスタンに巻き付けることで相応の摩擦力を確保した上でローラーで挟み付け、最小限の接触圧力で駆動する方法もある。
また、撚り機には、撚られてなる製品(撚り線)をカットする機能を設けてもよい。これにより、必要な長さに応じて逐次容易にカットすることができる。
更に、前記回転体の回転速度と前記搬出手段の搬出速度との比が可変であってもよく、更には、回転と搬出を別々のタイミングで行ってもよい。これにより、撚りピッチを可変にし易い。例えば、上記の回転チャックと移動機構とを有する撚り機の場合、移動機構によって所定長さの線材を引出して移動を停止し、更に回転チャックを回転させて必要な数に撚りを加えてもよい。この場合、引き出された撚り線区間全体で撚り加工が更に進行する。従って、撚り加工が点ではなく長さを持って広がっているが、撚り点という言葉は撚り加工される場所を指すものであって、長い短いの差は発明の要旨に矛盾するものではない。
なお、回転体の回転速度と撚り線の送り速度との比(撚りの回転速度と撚り線の送り速度との比)で撚りピッチが決まる。従って、撚りピッチを一定にするためには機械式で速比を設定した方がよいが、これを可変式にしたり、別駆動で自由に速度設定できるようにすることで、撚りのピッチを自在に都度変更することが可能である。
本発明の撚り機では、数千から数万メートルの長尺な撚り線製品を製造するのではなく、実際のタイヤで使用される長さ数十センチメートルから数メートルのごく短尺な撚り線製品を生産する場合に最適な装置である。この場合、撚り線を長く引き取ったりあるいはリールに巻き取る必要がないため、撚り上げた撚り線端部を回転させたままで直線的に回転体から搬出して撚り線を製造することが可能となる。従って、従来の撚り機のように大きな回転部が必要なく、また巻取のための装置が不要なので、従来装置と比べて非常に小さくかつ簡易な装置とすることが可能となる。すなわち、装置コストを低くし、小さい空間で撚り線の製造を行うことができる。
更に、本発明の複数の装置は、単一の動力装置に接続して並列に駆動することで、装置の持つ低コストでコンパクトな利点を追求することも容易である。
また、コードを製造する際、製品であるコードや、コードの構成部材である素線を回転体の外部に位置させることができる。従って、素線を巻いているボビンを、回転するコードの内側に設けていないので、素線を補充するためにボビン(リール)を交換する際、回転体の回転を止める必要がない。更に、素線の巻き量を大きくするか、連続式で素線を巻出すようにすれば、回転体の回転を止めずに無停止で連続してコードの生産を行うことができる。
更には、タイヤ製造装置と請求の範囲第1項〜第4項に記載の撚り機とを連動させることにより、小ロットへの迅速な対応、スペースの削減、コード在庫の撲滅、運搬作業の撲滅、ボビン等の梱包資材が不要となる等、多大な効果が得られる。
また、従来のような巨大なカレンダー装置でタイヤ中間部材を製造する場合と異なり、少量のコード生産が可能なので、タイヤ生産設備の直前でコードを都度生産することができる。
請求の範囲第5項に記載の発明は、複数本の線材を撚って短尺の撚り線を製造する方法であって、撚り点の前後で撚り線側又は線材側の何れか一方を開放して撚ることを特徴とする。これにより、回転性、真直性に優れた撚り線を形成することができる。
この場合、前記複数本の線材を撚って前記撚り線とする回転体と、前記撚り線を前記回転体から搬出する搬出手段と、を有する撚り機を用いた撚り線製造方法であって、前記回転体の回転速度と前記搬出手段の搬出速度との比を可変にすることにより、前記撚り線の撚りピッチを部分的に異ならせてもよい。
これにより、撚りピッチが部分的に異なる一本の連続した撚り線を製造でき、しかも、この撚りピッチを意図したピッチにすることができる。このようにして得られる撚り線は、タイヤ補強コードとして最適である。すなわち、タイヤへの打ち込み位置を特定することにより、タイヤで使用する位置に応じて、コードの撚り特性品質を短尺コード毎さらには短尺コード内の位置別に都度変更して製造することが可能なので、タイヤの使用部位に応じた撚り品質特性の調整が可能になる。従って、要求される性能を満たす短尺の撚り線を効率良く製造することができる。また、残留応力の付与、型付け等を行うことにより、タイヤ補強コードとしての品質を更に付加して製造することが可能である。
なお、前記線材は、素線であってもストランドであってもよい。
請求の範囲第8項に記載のプライは、請求の範囲第1項〜第4項のうち何れか1項に記載の撚り機で製造された撚り線、又は、請求の範囲第5項〜第7項のうち何れか1項に記載の撚り線製造方法で製造された撚り線をコードとして有することを特徴とする。
このコードは、回転性や真直性に優れているので、請求の範囲第8項に記載の発明により、ねじれや反りを抑えたフラットなベルトプライを実現できる。
請求の範囲第9項に記載の空気入りタイヤは、請求の範囲第8項に記載のプライを有することを特徴とする。
これにより、ユニフォミティ等のタイヤ性能が上げられた空気入りタイヤを実現できる。
【図面の簡単な説明】
図1は、第1形態の撚り機の構成を示す側面断面図である。
図2は、第1形態の撚り機の平面断面図である。
図3は、第2形態の撚り機の回転体の構成を示す斜視図である。
図4は、第2形態の撚り機の回転体の構成を示す斜視断面図である。
構成を示す斜視断面図である。
図5は、第2形態の撚り機が撚り線製造ラインに設けられていることを示す斜視図である。
図6は、第3形態の撚り機の側面断面図である。
図7は、第4形態の撚り機の斜視図である。
図8は、第4形態の撚り機を構成する回転体の斜視図である。
図9は、第4形態で、回転体を構成する多段巻きキャプスタンと押圧ローラとによってコードが押圧されていることを示す側面図である。
図10は、第4形態の撚り機の型付け部の変形例を示す構成図である。
図11は、第4形態の撚り機の型付け部の変形例を示す構成図である。
図12は、第4形態の撚り機のコード送出し側を示す構成図である。
図13は、第5形態で用いるコード片載置台の斜視図である。
図14は、第5形態で用いるコード片載置台にコード片を載置したことを示す部分斜視図である。
図15は、第5形態で、コード片載置台をゴムシート上に押圧したことを示す斜視図である。
図16は、図15に示した状態からコード片載置台を除去した状態を示しており、ゴムシート上にコード片が吸着されたことを示す斜視図である。
図17は、第5形態で、打抜きによって得られたベルト小片を示す平面図である。
図18は、第5形態で製造した空気入りタイヤの幅方向断面図である。
図19は、第6形態で用いる上型と下型とを示す斜視図である。
図20は、第6形態で用いるプレス機の斜視図である。
図21は、第7形態で、インシュレーションヘッドにコードを通過させることによりゴム被覆付きコードを製造することを示す斜視図である。
図22Aは、第8形態で用いる被覆装置の上金型と下金型とを示す斜視図である。
図22Bは、第8形態で、コード片を入れて組立てた被覆装置を示す斜視図である。
図23は、第8形態で得られたゴム被覆付きコード片を示す斜視図である。
図24は、第9形態で用いるゴム打ち込み機の斜視図である。
図25は、第9形態で、ゴム打ち込み機の下金型にコードを載置したことを示す斜視図である。
図26は、図25に示した状態から上金型を下降させてクローズ状態としたことを示す斜視図である。
図27は、ゴム投入口に超硬ポンチをセットしたことを示す斜視図である。
図28は、第9形態のゴム打ち込み機で形成されたゴム被覆付きコード片を示す斜視図である。
図29は、第10形態で、グリーンタイヤにコード片が配置され、圧着ロールで植え込んでいくことを示す模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施形態を挙げ、本発明の実施の形態について説明する。
[第1形態]
まず、第1形態について説明する。図1は、コード製造ライン10に設けられた第1形態の撚り機22の構成を示す側面図である。コード製造ライン10には、素線がそれぞれ巻かれている複数のボビン14A〜Cと、ボビンA〜Cから巻き出された素線18A〜Cのテンションを制御するテンション制御部16A〜Cと、テンション制御部16を経由した素線18A〜Cを撚ってコード20にする撚り機22と、が設けられている。撚り機22は、素線18A〜Cを撚って1本のコード20を製造する送り・回転一体式の装置である。
撚り機22は、素線18A〜Cにクセ(型)を付けるクセ付け部(型付け部)24と、撚り点26を形成している撚り点形成部28と、撚り点形成部28の下流側に設けられた回転体30と、回転体30に回転力を与えると共にコード20を回転体30から送り出す送り力を与えるモータ34と、を備えている。回転体30は、撚り機22に設けられたベアリング部36A、Bによって回転可能に保持されている。
図1、図2に示すように、回転体30の下流側には、回転体30のハウジング31から短筒状に延び出した回転駆動用軸部40に回転駆動用プーリ42が固定されており、回転駆動用プーリ42と、モータ34に取付けられた第1回転板44とには無端ベルト46が掛けられている。
回転駆動用軸部40には、コード20の送り力を伝達する細長筒状の送り駆動用軸部材50が、回転軸が一致するように挿通しベアリング部51によって回転体30に支えられている。そして、回転駆動用プーリ42の下流側には、送り駆動用軸部材50に固定された送り駆動用プーリ52が設けられており、送り駆動用プーリ52と、モータ34に取付けられた第2回転板54とには無端ベルト56が掛けられている。
ハウジング31内には、コード20を送る送り機構58が設けられている。送り機構58は、送り駆動用軸部材50の同軸上で先端側に固定された第1ギア60と、第1ギア60と噛み合う第2ギア62と、を有する。第2ギア62の回転中心には小径の小ギア部64が設けられている。また、送り機構58は、コード20が数回巻かれる巻回部66を有すると共に小ギア部64と噛み合う大ギア部67を有する多段巻きキャプスタン68と、多段巻きキャプスタン68に当接してコード20を巻回部66に押し付けるピンチローラ70と、を有する。更に、送り機構58は、多段巻きキャプスタン68に巻回されたコード20が更に数回巻かれる多段巻きダミープーリ72を有する。
多段巻きキャプスタン68及び多段巻きダミープーリ72の径は、回転体30から送り出されたコード20を使用する際に真直性の観点で支障がないように、素線18A〜Cの径、材質等を考慮して決定されている。
また、撚り機22には、送り駆動用軸部材50を挿通して、多段巻きダミープーリ72から巻き出されたコード20を回転体30の下流側へ案内するコード排出用パイプガイド74が設けられている。
第2回転板54に比べ、第1回転板44の径は少し大きくされており、回転体30の回転速度(撚り線の撚り速度)と、コード20の送り速度との比が調整されている。
このように、本形態では、回転駆動用軸部40と送り駆動用軸部材50とを同軸上に配置しており、回転体30に送り駆動用のモータを更に設けることに比べ、撚り機22の構成が簡素になっている。
撚り機22を使用するには、モータ34を所定回転数で回転させると、送り駆動用プーリ52が回転し、第1ギア60、第2ギア62、多段巻きキャプスタン68、多段巻きダミープーリ72に回転力が順次伝達される。この結果、撚り点形成部28を経由した素線18A〜Cが所定の送り出し速度で回転体30から送り出される。
また、回転駆動用ダミープーリ72が回転し、回転体30が所定回転速度で回転する。従って、素線18A〜Cは、撚り点形成部28から引き出されつつ撚られ、コード20となって回転体30から送り出される。
このように、コード20の送り駆動は、回転体30上で送り駆動用軸部材50が回転駆動用軸部40と相対的に回転することで行われ、すなわち送り駆動用の軸の回転数と回転体30の回転数との差によって送り速度が決定される。
回転駆動用軸部40と送り駆動用軸部材50との回転速度比は、ベルトが掛けられたプーリ径及びギア比によって固定されており、意図した撚りピッチで撚られたコード20を得るために、本形態では、素線材料の弾性変形回復分を考慮した比に設計されている。
また、回転速度比を固定しているのは、撚り機22が制御不要な簡素な装置であっても製品(コード20)の撚りピッチを所定比に維持するためであり、この比が変速式である構造にしたり、上記の2軸を別々に駆動して回転速度の任意の速度に設定できる構造にすることで、撚りピッチを自在に都度変更することが可能である。これにより、タイヤ中の使用される部位に合わせて撚りピッチを変更することができ、一本の連続したコード部材の中でも撚りピッチを変化させてタイヤの特性を調整することが可能になる。
なお、このような可変ピッチ機能を有する撚り機を使用して製造されたコードをタイヤに使用することは、従来、非常に困難であった。従って、この機能を十分活かすためには、タイヤの使用部位との位置決めを容易にする上で、撚り機を設ける位置をタイヤ部材あるいはタイヤそのものを製造する装置の近くにすることが好ましく、さらにはこの装置と連携して複合的に動作できるようにすることが望ましい。
撚り機22で製造できるコードはスチールコードに限られず、有機繊維材料からなるコードも製造でき、同様の効果を得ることができる。更に、コードと有機繊維とを撚り合わせた複合体、コードとひも状のゴムとを撚り合わせた複合体、コードと有機繊維とひも状のゴムとを撚り合わせた複合体、の何れも製造することができ、要求されるタイヤ品質に合った補強材を提供することが可能である。
以上説明したように、本形態では、回転体30には、回転体全体を回転駆動するための回転駆動用軸部40と、ベアリング部51によって回転駆動用軸部40と同軸上に保持された送り駆動用軸部材50と、を設けており、これらの2軸は1台のモータ34によって回転駆動される。これにより、撚り機22の構成を著しく簡素にすることができる。なお、送り機構58の駆動力を発生させるため回転体30に電気モータなどを設けてもよいが、より簡潔な装置にするために、回転体30の回転軸と同軸上に送り駆動用の軸を配して、回転体30内の送り機構58を駆動するようにしている。
また、多段巻きキャプスタン68及び多段巻きプーリ72によって撚り点形成部28からコード20を引出して回転体30から送り出しているので、ピンチローラ70でコード20をさほど高い力で押圧しなくても済む。また、多段巻きキャプスタン68及び多段巻きダミープーリ72の巻き方向が逆であり、しかも、コード20をリールに巻き取らなくてもよいので、真直性が大幅に改善されたコード20を製造することができる。
なお、本形態では、撚り機22が撚り点形成部28の下流側に設けられた例で説明したが、撚り機22が撚り点形成部28の上流側に設けられ、予め切断した短尺の素線を撚り機22に供給して撚り点形成部28から撚り線を引き出すことも可能である。
[実験例]
第1形態の撚り機22で作成した1×3×0.30のコードの回転性及び真直性と、従来よリ一般的に使用されているバンチャータイプの撚り機で製造した1×3×0.30のコードの回転性及び真直性と、の実験による比較データを表1に示す。
【表1】

撚り機22で製造したコードは、理論的にも、本実験例からも、回転性及び真直性は、共に、平均値がゼロでばらつきもゼロであり、完全な理想状態の品質を連続的に安定して供給できたことが判る。
このように、コードの回転性や真直性が平均値、ばらつきを共にゼロとなることから、コードをすだれ状に打ち込んだタイヤ補強材のトリートにねじれや反りが発生することなく、完全にフラットなトリートを製造することができた。これにより、トリートのねじれや反り起因によるタイヤ工場での作業性の悪化を完全に撲滅できると共に、ユニフォミティ等のタイヤ性能を向上させることも可能となることが判った。
[第2形態]
次に、第2形態について説明する。第2形態では、第1形態と同様の構成要素には同じ符号を付してその説明を省略する。
図3〜図5に示すように、第2形態の撚り機82は、第1形態に比べ、回転体80に設けられた送り機構78の構成、作用が異なっている。すなわち、ピンチローラ70、多段巻きキャプスタン68、及び多段巻きダミープーリ72(図2参照)に代えて、小ギア部64と噛み合う中間ギア86と、中間ギア86と噛み合う第1送りギア部88を有すると共に第1ピンチローラ部90を有する第1送りローラ92と、第1送りギア部88と噛み合う第2送りギア部94を有すると共に第2ピンチローラ部96を有する第2送りローラ98と、が回転体80の枠部材81内に設けられている。
第1ピンチローラ部90及び第2ピンチローラ部96は互いに押圧して接触しており、両ピンチローラ部によって複数本の素線18A〜Cが挟まれる。
また、撚り機82には、送り駆動用プーリ52の下流端にカッタ99(図5参照)が設けられており、コードが設定長さで切断されるようになっている。なお、カッタ99の下流側に、切断されたコードを収容する収容部100が設けられている。収容部100には、コードの送り方向に沿って中央に凹部101が形成されている。収容部100はなくてもよい。
第2形態の撚り機82では、モータの回転によって回転体80が回転すると共に送り駆動用軸部材50が回転し、第1ギア60、第2ギア62、中間ギア86、第1送りローラ92、第2送りローラ98、に回転力が順次伝達される。この結果、第1ピンチローラ部90及び第2ピンチローラ部96によって挟まれた素線18A〜Cに送り力が加えられる。従って、素線18A〜Cが撚られると共に、拠られてなるコード20が回転体80の下流側へ送り出される。
このように、第2形態では、多段巻きキャプスタン68及び多段巻きダミープーリ72(図2参照)に代えて、これよりも径が小さい第1送りローラ92及び第2送りローラ98を回転体80の枠部材81内に設けており、回転体80を更に小型化することができる。
[第3形態]
次に、第3形態について説明する。図6に示すように、第3形態の撚り機102は、第1形態と同じクセ付け部(型付け部)24及び撚り点形成部28と、撚り点形成部28の下流側に設けられた回転チャック104と、回転チャック104に回転力を与えるモータ106と、を備えている。回転チャック104及びモータ106には、それぞれ、回転チャック駆動プーリ108及び回転板110が設けられており、回転チャック駆動プーリ108と回転板110とには無端ベルト118が掛けられている。回転チャック104は、ベアリング部116によって回転自在に支えられている。
回転チャック104は、拠り点形成部26から引き出されたコード20をチャックするチャック部118と、チャック部118の挟持状態、解除状態の切り替えを行うピストン状のリリース部120と、を有する。また、撚り機102は、チャック解除する際にリリース部120に移動力をを伝達するてこ部122と、てこ部122に駆動力を伝達するリリースピストン部124と、を有する。更に、撚り機102は、回転チャック104の下流側に、コード20を案内するガイドパイプ128と、ガイドパイプ128から送り出されたコード20をカットするカッタ130と、を有する。
また、撚り機102は、回転チャック104やモータ106を支えている支持台部134をコード送り方向Uに沿って移動できるように、支持台部134を支えるスライドベアリングレール136、ラックギア138、及び、支持台部移動用モータ146を備えている。また、撚り機102は、撚り点形成部28と回転チャック104との間、及び、スライドベアリングレール136の後端近くに、それぞれ、コード20を着脱自在にチャックするチャック部148、150を有する。
撚り機102でコード20を製造するには、チャック部148、150を解除状態にすると共に回転チャック104を挟持状態にし、モータ106の回転により回転チャック104を回転させることによって複数本の素線18A〜Cを撚ると共に、支持台部移動用モータ146の回転により支持台部134を所定速度で後退させる。これにより、複数本の素線18A〜Cが1本のコード20となって撚り点形成部28から引き出される。
必要な長さだけコード20を引き出した状態で、チャック148、150を挟持状態にすると共に回転チャック104を解除状態にし、更に、支持台部134をもとの位置に戻す。この結果、コード20が必要な長さだけ回転チャック104から搬出された状態になり、カッタ130でコード20を切断することにより、必要長さのコード20が得られる。
第3形態では、回転チャック104を回転させるモータ106と、支持台部134を移動させる支持台部移動用モータ146と、が互いに独立して駆動するので、長さや撚り点ピッチの要求に応じて多品種のコード20を製造できる簡素な構造の撚り機102が実現される。
また、回転チャック104を挟持状態にして後退させる際、後退速度を後退途中で変更してもよい。これにより、一本のコード内で撚りピッチを部分的に異ならせることができる。
[第4形態]
次に、第4形態について説明する。図7は、第4形態に係る撚り機162の斜視図である。第4形態では、第1形態と同様の構成要素には同じ符号を付してその説明を省略する。
[回転体]
図8に示すように、第4形態の撚り機162は、コード160の送り出し側の1ヵ所で回転可能に支えられた回転体170を第1形態の回転体30(図1参照)に代えて、撚り点形成部158の下流側に備えている。
本形態では、撚り点形成部158から引き出されつつコード160は多段巻きダミープーリ172の外周に巻き付けられ、次に多段巻きキャプスタン168に巻き付けられることを交互に数回に亘って繰り返している。
コード160は、回転体170の回転中心軸を通って入線するので、最初に巻き付ける多段巻きプーリ172は、外周が回転体170の回転中心軸に接するように配置されている。第1形態においては、多段巻きキャプスタン168に撚られたコード20を最初に巻き付ける構成であったため、多段巻きキャプスタン168の外周が回転体30の回転中心軸に接するように配置されていた。しかしながら、多段巻きキャプスタン168よりも、駆動部を有していない多段巻きプーリ172の方が小型軽量化が容易であるので、半径長さ分オフセットさせた場合の遠心力による影響を小さくできる。
このような構成により、回転中心軸回りの回転体170の慣性モーメントが第1形態に比べて大幅に小さくなっており、高速回転させても耐久性が良好な回転体170になっている。コード160の通線経路を変更させるために新たにベンディングプーリを用いると、回転体の重量増大化や大型化を招くため、本形態によるこの効果は絶大なものである。
なお、回転体170の部品の配置位置を決定する際、3次元計算を行って、回転バランス用の重量が最小となるように、すなわち重心位置が回転中心軸上に位置するように配慮されており、更には、必要に応じてバランスウェイト166を設けている。このことは、上記効果を一層顕著なものとしている。
また、回転体170にハウジングが設けられていない。従って、撚り点形成部158から回転体170までの距離を第1形態に比べて短くでき、その距離を極限にまで近づけることが可能である。これにより、コード160の撚りピッチを途中で変更してコードを製作した場合に、撚り機162で与えた回転数変化に対する実際のコード160の撚りピッチの形状変化の応答性を高めることができる。
当機構による撚り線製造方法では、撚り点形成部158と回転体170の区間コード160に対して、各素線材料の捻り降伏点以上の捻り変形を付加することにより、塑性変形を生じさせてコードとして形成させているため、撚り点形成部158と回転体170の区間ではコード160の捻りが伝播し平均化されてしまう。従って、回転体170の回転数を途中で変化させて撚りピッチを変更させようとした場合に、撚り点形成部158と回転体170の距離が長い程、捻りが伝播し平均化される影響範囲が長くなり、回転体170の回転数変化のスピードにコード160の撚りピッチ変化の応答が追従できない問題が生じる。従って、第4形態のように、撚り点形成部158と回転体170の距離を極限まで近づけることで、回転体170の回転数変化と実際に製作されるコード160の撚りピッチ形状変化の応答性を高めることが可能になった。
更に、回転体170には、多段巻きキャプスタン168との間でコード160を押圧する押圧ローラ180と、押圧ローラ180を多段巻きキャプスタン168に向けて押圧すると共に回転可能に支持する押圧ローラ支持装置182と、が設けられている。多段巻きキャプスタン168から送り出されるコード160は、押圧ローラ180の外周面180Sで、多段巻きキャプスタン168の外周面168Sに一定の押圧力で押圧されるようになっている(図9参照)。押圧ローラ支持装置182による押圧ローラ180のコード160への押圧力は、一定の設定力とすること可能になっている。
多段巻きキャプスタン168の外周面168Sは円筒側面状にされている。多段巻きキャプスタン168の最上位置に巻きつけられているコードは、回転体170に設けられた出線ガイドパイプ188内へ引き込まれ、回転体170の搬出側から送り出されるようになっている。ここで、多段巻きキャプスタン168のうち最上位置のコード160の位置を出線ガイドパイプ188に案内されやすい位置とするために、押圧ローラ180の外周面180Sには、リング状の凸部181(図9参照)が形成されており、多段巻きキャプスタン168に巻回される最上位置のコード160が凸部181と多段巻きキャプスタン168の上側の縁部168Fとの間に位置するようにされている。
図9では、凸部181を最上段にのみ形成しているが、この凸部を各段全てに対して形成しても良い。更には、押圧ローラ180の外周面180Sを平面のままとして、多段巻きキャプスタン168の側に溝部を設けることでも同様の効果を得ることが可能である。
この押圧ローラ180は、多段巻きキャプスタン168や押圧ローラ180の寸法誤差を許容できるように、しかも、コード160の結節部が損傷することなく通過できるように構成されている。また、押圧ローラ支持装置182にワンタッチで着脱可能とされており、コード160を多段巻きキャプスタン168と押圧ローラ180との間に通線させる作業が容易である。更に、振動や遠心力で押圧力が緩まないようになっている。また、押圧ローラ180も回転体170に設けられているので、多段巻きキャプスタン168や他の部品と同様に押圧ローラ180にも遠心力が作用するが、伸縮方向や支持方向を遠心力の影響を避けるように設定することで、回転体170の回転によって押圧力の変動が生じることを防止している。
コード160等のワイヤ素材は強い弾性力を有しているため、撚り加工を受けた後、撚り戻ろうとする力を蓄えており、拘束の開放が行われると撚り方向と逆方向にスプリングバックする現象が生じる。コードの品質を長手方向について均一とするためには、このスプリングバックをコード長手方向に安定的に均一に生じさせる必要がある。
本形態では、多段巻きキャプスタン168と押圧ローラ180とによってコード160を一定の設定力で押圧することにより、多段巻きキャプスタン168の出口と撚り点形成部158との間でコード160の張力を一定の設定値としている。また、多段巻きキャプスタン168の外周面168S、及び、押圧ローラ180の外周面180Sを何れも円筒側面状として、平溝でコード160を押圧する構成としており、押圧した際のコード160との接触面をコード160と直交する方向に広げている。
これにより、コード160の撚り戻し(スプリングバック)を長手方向に連続的に安定して生じさせることができる。
[駆動モータ]
図12に示すように、撚り機162には、回転駆動用プーリ42を回転させる回転駆動用モータ184と、送り駆動用プーリ52を回転させる送り駆動用モータ185と、が第1形態のモータ34(図1参照)に代えて設けられており、回転駆動用プーリ42と回転駆動用モータ184とには無端ベルト186が、送り駆動用プーリ52と送り駆動用モータ185とには無端ベルト187が、それぞれ掛けられている。
多段巻きキャプスタン168は、回転体170の回転軸位置に設けられた駆動入力シャフト(図示せず)によって駆動ギア(図示せず)を介して駆動されている。従って、回転体170の回転数と駆動入力シャフトの回転数との差、つまり相対回転数によって多段巻きキャプスタン168の回転速度が決定される。
一方、多段巻きキャプスタン168の回転速度によってコード160の送り速度が決定され、回転体170の回転速度によってコード160の撚り速度が決定される。従って、本形態のように回転駆動用モータ184と送り駆動用モータ185とを互いに独立に設け、この2つのモータの回転数比、すなわち軸速比をコード製造中に変更することにより、コード途中で撚りピッチを自在に変更することができる。なお、撚り機162は、コード160の送り速度を一定としたまま、所望のピッチに切り替えることができるように、回転駆動用モータ184と送り駆動用モータ185との回転数を算出して制御するコンピュータプログラムが組込まれた制御部(図示せず)が設けられている。
撚りピッチを可変する運転は、コード160の送り速度を一定としなくても可能であるが、送り速度が一定になるように運転すれば各素線材料の供給量が安定するため、テンション制御を容易に且つ安定して行うことができる。
[型付け部]
図7に示すように、撚り機162には、3本の素線18をそれぞれ通過させるホールガイド202、204が撚り点形成部158の上流側に順次設けられており、ホールガイド204の上流側に、素線18の型付けを行う型付け部200が設けられている。
この型付け部200は、3本の素線18A〜Cに型付けを行う型付けロール206を備えている。更に、型付け部200は、型付けロール206の上流側に設けられ、下側の外周面で素線18A〜Cと接触して型付けロール206への入射角度を調整する入射角度調整プーリ210と、入射角度調整プーリ210を素線18A〜Cの送り方向と略直交する方向である上下方向に移動可能に支えているプーリ位置調整部212と、を備えている。
更に、型付け部200は、入射角度調整プーリ210の上流側に設けられたガイドプーリ214を備えている。なお、ガイドプーリ214の上流側には、素線18の送り速度を検出する線速検出プーリ216が設けられている。
このような構成のもとで、入射角度調整プーリ210の位置を上下方向に調整することにより、型付けロール206への入射角度を調整することができる。
なお、プーリ位置調整部212に代えて、図10、図11に示すように、外形形状が扇状であって入射角度調整プーリ210を上端部で回転自在に保持すると共に、回動中心211の回りに回動可能とされたプーリ保持部220を備えてもよい。この場合、外周側に従動ギア221が形成された円弧外形部222がプーリ保持部220に設けられ、この従動ギア221と噛み合う駆動ギア224と、駆動ギア224を駆動させる駆動ギア用モータ(図示せず)とが型付け部に備えられ、撚り機の運転中に駆動ギア用モータを制御することで、入射角度調整プーリ210の位置を正確に調整することができる。これにより、任意の型付け量を都度付与しながらコードを加工することが可能になり、連続的に膨らみ量を調整したコードを製作することができる。
[カッタ]
また、撚り機162には、回転体170から送り出されたコード160を一定の設定長さで切断するカッタ(図示せず)が設けられている。
このカッタは、コード160に向けて移動する刃と、刃を付勢するバネと、バネを収縮させるモータ或いはアクチュエータと(何れも図示せず)を備えている。モータやアクチュエータによってバネを収縮させてエネルギーを蓄えさせ、この収縮を開放することにより、刃を瞬時に移動させてコード160を切断するようになっている。
これにより、カッタで所望の設定長さにコード160を切断でき、応え得るタイヤの設計条件、製造条件を広くすることができる。また、バネを用いることによって刃の移動を高速にしているので、カッタを充分に小型にできる。
高速であることの一例を挙げると、切断を指令してから刃の移動が停止するまで20/1000秒であり、切断している時間が5/1000秒である。また、切断してから次の切断までの時間間隔は通常1秒であるので、バネの収縮にかかる時間を充分にとることができる。
なお、バネを用いずにコード160の送出し速度と同じ速度で刃の位置を移動させる機構を設けることによっても、コード160を一定の設定長さで切断することができる。
以上説明したように、本形態では、回転中心軸回りの回転体170の慣性モーメントが第1形態に比べて大幅に小さくなっている。従って、多段巻きキャプスタン168の軸受けに作用する遠心力が抑えられるので、高速回転させても耐久性が良好な回転体170になっている。
また、回転駆動用プーリ42を回転させる回転駆動用モータ184と、送り駆動用プーリ52を回転させる送り駆動用モータ185と、が設けられており、回転駆動用プーリ42と送り駆動用モータ185とが別々に駆動される。従って、モータの回転速度を変更することによってコード160の引出速度とピッチとを別々に制御することができる。
また、回転体170には第1形態のようなハウジングが設けられていないので、第1形態に比べ、撚り点の位置を多段巻きキャプスタン168や多段巻きダミープーリ172に近い位置とすることができる。これにより、第1形態に比べ、撚り点から回転体170に巻かれるまでの距離が短いので、回転体170の回転数を変化させて撚りピッチを変更したときに、実際に加工されたコード160の撚りピッチ変化に対する応答性を高めることができる。
また、多段巻きキャプスタン168を駆動させる駆動ギア(図示せず)を、自己潤滑作用がある樹脂製としている。これにより、潤滑用のグリスやオイルを用いなくても済むので、回転体170の回転によって駆動ギア遠心力が生じていても潤滑性に問題が生じない上、回転体170のコンパクト化及び軽量化の点で大きな効果を得ることができる。
なお、回転体170、型付け部200、カッタ等、回転駆動用モータ184及び送り駆動用モータ185以外の構成要素を複数並べ、共通の回転駆動用モータ184と送り駆動用モータ185とで複数本のコード160を同時に製造してもよい。これにより、複数本のコードを製造する場合に更にコンパクトにすることができる。この場合、空気入りタイヤの製造場所で、適切な間隔でコードを並べることができるように、回転体170からコードを誘導するチューブガイドを設けてもよい。これにより、空気入りタイヤを効率良く製造することができる。
[第5形態]
次に、第5形態について説明する。本形態では、第1形態のようにしてスチール製のコード(スチールコード)を製造し、これを所定長さに切断してなるコード片21(図14、図16参照)を内蔵するベルトプライを製造し、このベルトプライを用いて空気入りタイヤを製造する。
本形態では、図13に示すように、上記のコード片21を互いに平行に整列させる多数の溝230が形成されたコード片載置台232を予め製造しておく。コード片載置台232には平面視ひし形状の突出部234が形成され、上記の多数の溝230は突出部234の上面側に形成されている。各溝230の長さはコード片21の長さと同一であって両端が開放されており、突出部234の平面形状はベルト小片236(図17参照)の形状を考慮して決められている。また、突出部234には、コード片21を磁力で吸着する磁石(図示せず)が内蔵されている。
本形態で空気入りタイヤを製造するには、まず、図14に示すように、所定長さに裁断したコード片21を突出部234の溝230に入れる。この結果、磁石(図示せず)によってコード片21が突出部234の溝底に保持される。
次に、図15に示すように、コード片載置台232を反転させてゴム片238の上から押圧する。この結果、コード片21へのゴム片238の粘着力が磁石の吸着力よりも上回るので、コード片載置台232を引き上げると、図16に示すように、コード片21がゴム片238に転写されている。
更に、上方からゴムシートで覆い、プレス機で打ち抜くことによって、図17に示すように、ひし形状のベルト小片236が形成される。
このベルト小片236を、コード片21が互いに平行であるように順次接続していき、ベルトプライ240を製造する。
そして、このベルトプライ240を用い、空気入りタイヤを製造する。
以上説明したように、本形態では、第1形態で製造したスチールコードを所定長さに切断してなるコード片21を用いてベルトプライ240を製造し、このベルトプライ240を用いて空気入りタイヤを製造している。第1形態のようにして製造したスチールコードは、コードの回転性や真直性が平均値、ばらつきを共にゼロとなることから、これを切断してなるコード片21を用いたベルトプライ240にねじれや反りが発生することなく、完全にフラットにすることができる。また、このベルトプライ240を用いた空気入りタイヤ242(図18参照)は、ユニフォミティ等のタイヤ性能が上げられている。
なお、本形態では、第1形態のようにして製造したスチールコードを切断してなるコード片21を用いたが、第2形態や第3形態のようにして製造したスチールコードを切断して用いてもよい。
[第6形態]
次に、第6形態について説明する。本形態では、図19に示すように、平面視ひし形状の凹部250を有する下型252と、平面視でこの凹部250と同形状の凸部254を有する上型256と、を用いてベルト小片を製造する。凹部250の底側には磁石が内蔵されている。
まず、凹部250に、平面視で凹部250と同形状のゴムシート(図示せず)を敷く。次に、このゴムシートの上に、所定長さに裁断されたスチール製のコード片21を1本ずつ配列する。
また、凸部254の上に、凸部254と同じ形状(すなわち凹部250内に入れたゴムシートを反転させた形状)のゴムシート257を敷く。
そして、上型256を反転させて、凸部254を凹部250に合わせる。
そして、図20に示すように、プレス機258にセットしてプレス加工することによりベルト小片を形成する。
これにより、第5形態よりも簡易な構造のジグを用いてベルト小片を得ることができる。
[第7形態]
次に、第7形態について説明する。本形態では、図21に示すように、コード片21にゴム部材を被覆する被覆装置259を用いる。
被覆装置259は、コード片21を通過させる貫通孔259Aが形成されたインシュレーションヘッド259Bと、貫通孔259Aに直交する方向から被覆用のゴム材料を供給するゴム押出機259Cと、を有する。
本形態では、インシュレーションヘッド259Bの貫通孔259Aにコード片21を通過させると、ゴム押出機259Cから押し出されたゴム材料によって貫通孔259A内でコード片21が被覆される。この結果、インシュレーションヘッド259Bからゴム被覆付きコード261が送り出される。
このゴム被覆付きコード片261をタイヤ骨格材として用いることにより、ねじれや反りが発生しない完全にフラットなベルトプライを製造することができる。
[第8形態]
次に、第8形態について説明する。本形態では、コード片21(図23参照)にゴム部材を被覆する被覆装置260(図22B参照)を用いる。
被覆装置260は、図22Aに示すように、コード片を入れる溝262、264がそれぞれ形成された下金型266及び上金型268で構成される。
本形態では、まず、下金型266の溝262にコード片21を入れて上金型268を上から合わせる。
そして、ゴムインジェクション用の口金部材(図示せず)を取り付け、ゴムを注入する。
この結果、図23に示すように、コード片21の周囲にゴム被覆層270が施されたゴム被覆付きコード片271が形成される。
このゴム被覆付きコード片271をタイヤ骨格材として用いることにより、ねじれや反りが発生しない完全にフラットなベルトプライを製造することができる。
なお、コード片21の断面が露出しないように、コード片21の両端部を完全にゴムで覆ってもよい。
[第9形態]
次に、第9形態について説明する。本形態では、図24に示すように、高圧でゴムを打ち込むゴム打ち込み機280を用い、図28に示すように、コード片281にゴム被覆層290を強固に圧着させる。
ゴム打ち込み機280には、上金型286と下金型282とが設けられており、図25に示すように、下金型282にはコード片281を入れる溝283が形成されている。
本形態では、下金型282の溝283にコード片281を入れ、図26に示すように、上金型286を下降させて金型をクローズ状態とし、金型内を一定温度にまで上昇させる。この一定温度は例えば90℃である。
その後、上金型のゴム投入口290(図24、図26参照)から定量のゴムを入れる。更に、図27に示すように、打ち込み用の超硬ポンチ292をゴム投入口290にセットして打ち込む。打ち込み圧は例えば40MPaである。
この結果、図28に示すように、コード片281に強固にゴム被覆層290が圧着されてなるゴム被覆付きコード片291が得られる。
なお、第8形態と同様、コード片281の断面が露出しないようにコード片281の両端部を完全にゴムで覆ってもよい。
[第10形態]
次に、第10形態について説明する。本形態では、図29に示すように、コード片21を1本づつロボットハンドリングによりシート状のグリーンタイヤ294上に位置決めし、圧着ロール296で押圧してグリーンタイヤに植え込んでいくことによりベルトプライとする。
これにより、コード片載置台にコード片21を載置することや、コード片21にゴム被覆層を形成することなく、ねじれや反りが発生しない完全にフラットなベルトプライを製造することができる。
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
以上のように、本発明にかかる撚り機は、コンパクトな撚り機として好適であり、例えば、回転性、真直性に優れた撚り線を効率良く製造するのに適している。また、本発明にかかるプライは、ねじれや反りを抑えたフラットなプライとして好適であり、このプライを用いた本発明にかかる空気入りタイヤは、ユニフォミティ等のタイヤ性能が上げられた空気入りタイヤとして好適である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】


【図23】

【図24】

【図25】

【図26】

【図27】

【図28】

【図29】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給された複数本の線材を撚って撚り線とする回転体と、
前記撚り線を前記回転体から搬出する搬出手段と、
を有し、撚り点の前後で撚り線側又は線材側の何れか一方を開放していることを特徴とする撚り機。
【請求項2】
前記搬出手段が前記回転体に設けられていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の撚り機。
【請求項3】
前記搬出手段が、前記撚り線の搬出方向に前記回転体を移動可能なように保持する移動機構と、
前記回転体に設けられ前記撚り線を着脱自在にチャックする回転チャックと、
で構成されることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の撚り機。
【請求項4】
前記回転体の回転速度と前記搬出手段の搬出速度との比が可変にされたことを特徴とする請求の範囲第1項〜第3項のうち何れか1項に記載の撚り機。
【請求項5】
複数本の線材を撚って短尺の撚り線を製造する方法であって、
撚り点の前後で撚り線側又は線材側の何れか一方を開放して撚ることを特徴とする撚り線製造方法。
【請求項6】
前記複数本の線材を撚って前記撚り線とする回転体と、前記撚り線を前記回転体から搬出する搬出手段と、を有する撚り機を用いた撚り線製造方法であって、前記回転体の回転速度と前記搬出手段の搬出速度との比を可変にすることにより、前記撚り線の撚りピッチを部分的に異ならせることを特徴とする請求の範囲第5項に記載の撚り線製造方法。
【請求項7】
前記線材として素線又はストランドを用いることを特徴とする請求の範囲第5項又は第6項に記載の撚り線製造方法。
【請求項8】
請求の範囲第1項〜第4項のうち何れか1項に記載の撚り機で製造された撚り線、又は、請求の範囲第5項〜第7項のうち何れか1項に記載の撚り線製造方法で製造された撚り線をコードとして有することを特徴とするプライ。
【請求項9】
請求の範囲第8項に記載のプライを有することを特徴とする空気入りタイヤ。

【国際公開番号】WO2004/048679
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555035(P2004−555035)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015025
【国際出願日】平成15年11月25日(2003.11.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】