説明

撚り糸およびその製造方法、織物、編物

【課題】放射線グラフト重合で消臭作用を付与しても引張強度を確保しつつ、十分に消臭機能を発揮させることが可能な撚り糸およびその製造方法、織物、編物を提供する。
【解決手段】放射線グラフト重合で消臭作用を付与されたセルロース系繊維糸である綿糸2と、未加工糸の綿糸3とを撚り合わせることで撚り糸1する。この撚り糸1は、引き揃えにより合糸することで形成する。また、消臭作用を付与した綿糸2より未加工の綿糸3の方を細くしている。この撚り糸1を用いて織物や編物を織ることで、引張力に対する強度を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系繊維糸に放射線グラフト重合を施すことで消臭作用を付与した撚り糸およびその製造方法、織物、編物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系繊維糸に消臭作用を付与する方法として、放射線グラフト重合を用いることが知られている。例えば、特許文献1の放射線グラフト重合された繊維物質を含んでなる製品においては、放射線グラフト重合で加工された綿と、ポリエステルとの混紡糸を用いて織物を製造することが記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−339187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
綿などのセルロース系繊維においては、放射線グラフト重合を施すと基材が劣化してしまうが、特許文献1では、放射線グラフト重合された綿とポリエステルとを混紡させた混紡糸を用いているので、綿が劣化することで低下した引張強度をポリエステルで補うことができる。
混紡糸は、引張強度を確保するために異なる繊維を紡いで1本の糸にしたものであり、それぞれの繊維は複雑に絡み合った状態で糸になっている。従って、ポリエステル繊維に埋もれた状態で糸状となったグラフト重合加工綿繊維も存在するものと思われる。そうなると、グラフト重合加工綿繊維は、その表面で消臭機能を発揮するものなので、混紡糸としたためにグラフト重合加工綿繊維の露出する面積が減少してしまい、消臭機能が十分に発揮できない。
【0005】
そこで本発明は、放射線グラフト重合で消臭作用を付与しても引張強度を確保しつつ、十分に消臭機能を発揮させることが可能な撚り糸およびその製造方法、織物、編物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の撚り糸は、放射線グラフト重合で消臭作用を付与されたセルロース系繊維糸と、未加工糸とが撚り合わされたことを特徴とする。放射線グラフト重合で消臭作用が付与されたセルロース系繊維糸は、劣化して引張力に対して強度が低下している。しかし、未加工糸と撚り合わせた撚り糸とすることで、未加工糸が引張力に対しての強度を確保する。また、それぞれが糸となった状態で絡み合っているので、放射線グラフト重合されたセルロース系繊維糸は、未加工糸に埋もれた状態とはならないため、その表面を十分に露出させた状態とすることができる。
【0007】
前記セルロース系繊維糸と、前記未加工糸とは、その太さをほぼ同じ太さとすることができる。同じ太さとすることで、撚り合わせるときに、いずれか一方が偏った状態とならずにほぼ均一に撚り合わせることができる。
【0008】
また、前記セルロース系繊維糸より、前記未加工糸の太さを細くすることもできる。放射線グラフト重合されたセルロース系繊維糸は、その表面で消臭する。つまり表面積が広い方が消臭をより大きく作用させることができる。撚り糸は、撚り合わせることで1本の糸として太くなる。従って、放射線グラフト重合されたセルロース系繊維糸と、それより細い未加工糸とを撚り合わせることで、消臭作用を確保しつつ、全体の太さを抑制することができる。
【0009】
本発明の撚り糸の製造方法は、放射線グラフト重合で消臭作用を付与されたセルロース系繊維糸と、未加工糸とを引き揃えにより合糸して撚り糸とすることを特徴とする。放射線グラフト重合で消臭作用を付与されたセルロース系繊維糸と、未加工糸とを引き揃えにより合糸することで、グラフト重合されたセルロース系繊維糸と未加工糸とが緩やかに交絡しながら撚り糸とすることができる。緩やかに交絡した状態の撚り糸は、グラフト重合されたセルロース系繊維糸が未加工糸に接触する面積が少ないので、その表面を多く露出させた状態とすることができる。従って、放射線グラフト重合されたセルロース系繊維糸の消臭作用が阻害されない。
【0010】
本発明の織物は、本発明の撚り糸を、緯糸または経糸のいずれか一方、または両方に用いて織成されたことを特徴とする。本発明の撚り糸を、緯糸または経糸のいずれか一方、または両方に用いて織物を織成することで、それぞれ方向の引張力に対しても十分な強度を確保することができる。
【0011】
また、本発明の編物は、本発明の撚り糸を用いて編まれたことを特徴とする。本発明の織物と同様に、編物においても本発明の撚り糸で編むことで、それぞれ方向の引張力に対しても十分な強度を確保することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以下の効果を奏する。
(1)放射線グラフト重合で消臭作用を付与されたセルロース系繊維糸と、未加工糸とが撚り合わされていることで、未加工糸が引張力に対しての強度を確保しつつ、放射線グラフト重合されたセルロース系繊維糸が消臭機能を発揮させることができる。
(2)セルロース系繊維糸と、未加工糸とは、その太さをほぼ同じ太さとしたことにより、ほぼ均一に撚り合わせることができるので、撚り糸が解れたりすることが防止でき、撚り糸としての強度を確保することができる。
(3)セルロース系繊維糸より、未加工糸の方を細くしたことにより、消臭作用を確保しつつ、全体の太さを抑制することができるので、布地としたときに、消臭作用を発揮しつつ、風合いを損なうことが防止できる。
(4)放射線グラフト重合で消臭作用を付与されたセルロース系繊維糸と、未加工糸とを引き揃えにより合糸して撚り糸とすることにより、放射線グラフト重合されたセルロース系繊維糸の消臭作用が阻害されないので、未加工糸が引張力に対しての強度を確保しつつ、放射線グラフト重合されたセルロース系繊維糸が消臭作用を発揮することができる。また引き揃えで合糸することで、ツイスターのようにテンションを高くして撚り合わせないため、グラフト重合されたセルロース系繊維糸が引き千切れるようなことが少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態に係る撚り糸を図1に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る撚り糸を説明する図である。
【0014】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る撚り糸1は、放射線グラフト重合により消臭作用が付与された綿糸2と、未加工糸として放射線グラフト重合の加工を施していない綿糸3とを撚り合わせたものである。
【0015】
本実施の形態では、綿糸2より綿糸3の方を細くしており、綿糸2は20番手の太さのもので、綿糸3は30番手の太さのものである。これは、撚り合わせることで撚り糸1全体の太さが太くなるので、例えば綿糸2と綿糸3として同じ番手のものを使用すると糸としては2倍の太さとなってしまう。また、消臭は綿糸2の表面で作用するので、綿糸2の太さが太い方が、消臭作用が高い。従って、綿糸2より綿糸3を細くすることで、撚り糸1として太さを抑制しつつ、消臭作用を高いものとすることができる。
【0016】
また、綿糸2は、放射線グラフト重合により、アルカリ性の臭いに作用するものと、酸性の臭いに作用するものとのどちらかを付与することができるので、用途に応じて適宜選択することができる。
【0017】
本実施の形態では、放射線グラフト重合された糸を綿糸2としているが、放射線グラフト重合により消臭作用が付与することができれば、綿以外に、麻など天然セルロース系、レーヨンやポリノジックなどの再生セルロース系、テンセル(商標)などの精製セルロース系などが使用することができる。
【0018】
また綿糸3である未加工糸としては、放射線グラフト重合された綿糸より引張強度が高ければ使用することができるので、天然繊維であれば、綿や麻などの植物繊維、羊毛や絹などの動物繊維とすることができる。また化学繊維であれば、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ポリエステルやアクリルやポリアミドなどの合成繊維とすることができる。また、無機繊維であればガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維などを使用することができる。
【0019】
この放射線グラフト重合された綿糸2と、未加工の綿糸3とを引き揃えにより合糸することで撚り合わせる。つまり、それぞれをボビンに巻いた放射線グラフト重合された綿糸2と未加工の綿糸3とを、ワインダーでS撚りまたはZ撚りなどせずに巻き取りボビンに引き揃えることで、あえてS撚りまたはZ撚りを施さなくても、撚り回数が1インチ(2.54cm)当たり5回以下の緩やかに交絡した状態の撚り糸1とすることができる。
【0020】
このように、撚り回数が1インチ当たり5回以下の緩やかに交絡した状態の撚り糸1とすることで、綿糸2と綿糸3との接触する面積が少ない。放射線グラフト重合で消臭作用が付与された綿糸2は、その表面で消臭機能が発揮されるので、綿糸3との接触により露出する部分が少なくなると消臭作用も減退する。従って、緩やかに交絡した状態の撚り糸1は、綿糸2の表面を、6回以上としたときよりも多くすることができるので、より消臭作用を発揮させることができる。
【0021】
また、引き揃える際に、綿糸2と綿糸3とが同じ太さとすると、いずれか一方が偏った状態とならずにほぼ均一に撚り合わせることができる。本実施の形態では、消臭作用の観点では上述したように、綿糸2よりも綿糸3の方を細くすることで、全体の太さを抑制しつつ、消臭機能を高めることができるので、綿糸2を20番手、綿糸3を30番手としている。このように異なる番手の綿糸を引き揃えする場合には、巻き取る際のテンションを調整することで、ある程度撚り合わせの偏りを緩和することが可能である。
【0022】
次に、本発明の実施の形態に係る撚り糸1を用いた織物について図2に基づいて説明する。図2は、本発明の実施の形態に係る撚り糸を用いた織物を説明する図である。なお図2においては、撚り糸1を1本の糸として図示している。
【0023】
図2に示すように、本発明の実施の形態に係る撚り糸1を用いた織物5は、緯糸6として撚り糸1を用い、経糸7として未加工の綿糸を用いている。
【0024】
この織物5は、例えば織機としてウォータジェットルームやエアジェットルームなどで織ることが可能である。撚り糸1を緯糸6とする場合には、アルカリ性、あるいは酸性の臭いに作用する撚り糸1を巻いたボビンと、貯留装置と、撚り糸1を緯糸6として噴射する噴射装置とを備えた織機で織成する。この場合には、織成された織物5は、アルカリ性、あるいは酸性の臭いのいずれか一方に作用させることができる。
【0025】
また、アルカリ性の臭いに作用する撚り糸1を巻いたボビンと、酸性の臭いに作用する撚り糸1を巻いたボビンとを準備し、貯留装置と噴射装置とをそれぞれ2台ずつ準備して、緯糸6を交互に噴射するようにすれば、アルカリ性、酸性、および中性の臭いに作用する織物とすることができる。更に、アルカリ性の臭いに対して強く作用するようにしたけえれば、アルカリ性の臭い作用する撚り糸1を緯糸6として複数本噴射した後に、酸性の臭いに作用する撚り糸1を1本噴射するなど、緯糸6として適宜選択して噴射させることで対応することができる。
【0026】
本実施の形態では、緯糸6を撚り糸1としたが、経糸7を撚り糸1とすることも可能であり、また両方を撚り糸1とすることで更に消臭機能を高めた織物5とすることができる。
【0027】
このように織物5の緯糸6を撚り糸1とすることで、引張強度を確保しつつ、消臭機能を発揮させることができるだけでなく、アルカリ性や酸性のそれぞれの臭いに対応させた布地とすることが容易にできる。また、消臭作用が付与された綿糸2より、未加工糸である綿糸3を細くすることで、撚り糸1全体の太さを抑制することができるので、織物5の風合いを損なうことを防止することができる。
【0028】
次に、本発明の実施の形態に係る撚り糸1を用いた編物について図3に基づいて説明する。図3は、本発明の実施の形態に係る撚り糸を用いた編物を説明する図である。なお図3においては、撚り糸1を1本の糸として図示している。
【0029】
図3に示すように、本発明の実施の形態に係る撚り糸1を用いた編物10は、撚り糸1を用いて、横編機で平編みに編まれたものである。本実施の形態では、平編みで編んだ編物10としているが、撚り糸1を用いた編物を編む場合に、用途に応じてリブ編みや、パール編みや、両面編みなど、各種の編み方で編むことが可能である。また、縦糸として多くの撚り糸1を予め準備することができれば、編物を縦編みで編むことも可能である。
【0030】
編物10として用いられる撚り糸1は、未加工糸にポリエステルなどの合成繊維を用いると、編物10の引張強度を更に増加させることができるので望ましい。また、撚り糸1として、消臭作用が付与された綿糸2より、未加工糸である綿糸3を細くすることで、撚り糸1全体の太さを抑制することができるので、編物10も同様に、風合いを損なうことを防止することができる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、放射線グラフト重合された綿糸2を複数本と、未加工の綿糸3を1本とを撚り合わせることも可能であり、その本数は適宜選択することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の撚り糸は、放射線グラフト重合で消臭作用を付与しても引張強度を確保しつつ、十分に消臭機能を発揮させることが可能なので、織物や編物とすると、服や下着など様々な用途に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態に係る撚り糸を説明する図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る撚り糸を用いた織物を説明する図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る撚り糸を用いた編物を説明する図である。
【符号の説明】
【0034】
1 撚り糸
2,3 綿糸
5 織物
6 緯糸
7 経糸
10 編物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線グラフト重合で消臭作用を付与されたセルロース系繊維糸と、未加工糸とが撚り合わされたことを特徴とする撚り糸。
【請求項2】
前記セルロース系繊維糸と、前記未加工糸とは、その太さをほぼ同じ太さとしたことを特徴とする請求項1記載の撚り糸。
【請求項3】
前記セルロース系繊維糸より、前記未加工糸の太さを、細くしたことを特徴とする請求項1記載の撚り糸。
【請求項4】
放射線グラフト重合で消臭作用を付与されたセルロース系繊維糸と、未加工糸とを引き揃えにより合糸して撚り糸とすることを特徴とする撚り糸の製造方法。
【請求項5】
前記請求項1から3のいずれかの項に記載の撚り糸を、緯糸または経糸のいずれか一方、または両方に用いて織成されたことを特徴とする織物。
【請求項6】
前記請求項1から3のいずれかの項に記載の撚り糸を用いて編まれたことを特徴とする編物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−154392(P2007−154392A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355350(P2005−355350)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(504304293)有限会社オオヤブ (1)
【Fターム(参考)】