説明

撚糸巻取方法、撚糸巻取装置、および、この撚糸巻取方法および撚糸巻取装置に用いられる冶具

【課題】送られてくる糸を弛ませずボビンに糸を素早く付着させることができ、さらに撚りをかけながら糸を巻取る作業に直ぐに移ることができ、もって作業効率を向上させる。
【解決手段】昇降基板の隅には、一時中継冶具30が設置されている。一時中継冶具30は、昇降基板に設置されるベース31と、ベース31に回転可能に軸支される係止腕部32と、一端が係止腕部32側に接続され他端がベース31側に接続され係止腕部32を案内レールの外径外方に付勢するコイルばね33と、ベース31に支持されコイルばね33の引張長さを設定する付勢調節部34とを備える。係止腕部32は、ベース31にて軸支側の反対の揺動側にガイドローラから送り出された糸を引掛ける引掛け凹部32aが設けられた略矩形に形成される。この引掛け凹部32aの隣接位置には、この引掛け凹部32aから揺動側の先端に向けて傾斜面32bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸に撚りをかけながら高速で巻き取る撚糸巻取方法および撚糸巻取装置、加えて、この撚糸巻取方法および撚糸巻取装置に用いられる冶具に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系を原材料とする樹脂製の糸にあっては、原材料を製造加工して糸とし、この製造加工された糸に撚りをかける作業を行う。この撚りをかけられた糸は、ボビンに高速で巻き取られて保管される。従来、この撚りをかける作業と、ボビンに高速で巻取る作業とを、連続的に行う装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に開示される撚糸巻取装置は、ボビンを回転駆動させるスピンドルと、ボビンの回転軸線と同一の中心軸線を有してボビンの周囲に配される環状の案内レールと、ボビンの回転に追従して案内レール上を滑走し且つ送り出される糸を撚りながらボビンに巻き付けるトラベラとを備える。
なお、この糸に撚りをかけながら巻取る際のスピンドルの回転速度は、例えば1500rpmという高速なものであり、このスピンドルの回転を受けてボビンも高速度で回転し、トラベラもボビンの回転に追従して滑走する。
【特許文献1】特開平6−158445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記撚糸巻取装置にあっては、ボビン一杯に糸を巻き取ると、この一杯に糸を巻き取ったボビンをスピンドルから外して、新たな空のボビンをスピンドルに設置する。新たな空のボビンを設置した場合には、この取り替えた新たな空のボビンに、製造加工された糸を素早く付着させ、撚りをかけながら糸を巻き取る作業に直ぐに移りたい。
また、新たな空のボビンに糸を付着させるにあたっては、糸を送り出す供給ローラからは、製造加工された糸が順次送り出されているので、この送り出されている糸を弛ませることなく付着させたい。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、解決しようとする課題は、撚糸巻取方法、撚糸巻取装置、および、この撚糸巻取方法および撚糸巻取装置に用いられる冶具において、送られてくる糸を弛ませずボビンに糸を素早く付着させることができ、さらに撚りをかけながら糸を巻取る作業に直ぐに移ることができ、もって作業効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明に係る撚糸巻取方法、撚糸巻取装置、および、これらに用いる冶具は、次の手段を採用する。
すなわち、請求項1に係る撚糸巻取方法は、糸を、撚りをかけながらボビンに巻き取る撚糸巻取方法であって、糸を送り出す供給ローラと、前記供給ローラから送られてきた糸を案内するガイドローラと、前記ボビンを回転駆動させるスピンドルと、前記ボビンの回転軸線と同一の中心軸線を有し前記ボビンの周囲に配される環状の案内レールと、前記ボビンの回転に追従して前記案内レール上を滑走し前記ガイドローラから送り出される糸を撚りながら前記ボビンに巻き付けるトラベラとを備え、前記スピンドルの回転速度を、前記ボビンに糸を付着させるにあたり前記供給ローラから送り出される糸の送り出し速度に合わせた付着速度とし、前記ガイドローラから送られ前記トラベラに到達するまでの糸を、前記案内レールの外径外方位置で新たに設定された一時中継部を経由させて前記トラベラに送り出す一時中継オン状態と、前記一時中継オン状態において前記ボビンに糸を付着させた場合には、前記スピンドルの回転速度を前記付着速度から糸を撚りながら巻き取る巻取速度に変更し、前記一時中継オン状態により経由させていた新たな前記一時中継部の設定を解除し、前記ガイドローラから送られる糸を前記トラベラに直で送り出す一時中継オフ状態とを具備したことを特徴とする。
【0007】
この撚糸巻取方法によれば、一杯に糸を巻き取ったボビンをスピンドルから外して、新たな空のボビンをスピンドルに設置した場合には、一時中継オン状態として、スピンドルの回転速度をボビンに糸を付着させるにあたり供給ローラから送り出される糸の送り出し速度に合わせた付着速度とし、ガイドローラから送られトラベラに到達するまでの糸を、案内レールの外径外方位置で新たに設定された一時中継部を経由させるので、付着させる糸を一定方向の適切な張力とすることができて、ボビンに糸を素早く付着させることができる。
また、スピンドルの回転速度は、ボビンに糸を付着させるにあたり供給ローラから送り出される糸の送り出し速度に合わせた付着速度となっているので、供給ローラから送り出される糸を弛ませることもなく、絡みによる問題も発生しない。
【0008】
さらに、この撚糸巻取方法によれば、ボビンに糸を付着させた後にあたっては、一時中継オフ状態とし、スピンドルの回転速度を付着速度から糸を撚りながら巻き取る巻取速度に変更し、新たな一時中継部の設定を解除し、ガイドローラから送られる糸をトラベラに直で送り出す。これによって、ボビンに糸を付着させた後には、直ぐに撚りをかけながら糸を巻取る作業に移ることができる。
【0009】
また、請求項2に係る撚糸巻取装置は、糸を、撚りをかけながらボビンに巻き取る撚糸巻取装置であって、糸を送り出す供給ローラと、前記供給ローラから送られてきた糸を案内するガイドローラと、前記ボビンを回転駆動させるスピンドルと、前記ボビンの回転軸線と同一の中心軸線を有し前記ボビンの周囲に配される環状の案内レールと、前記ボビンの回転に追従して前記案内レール上を滑走し前記ガイドローラから送り出される糸を撚りながら前記ボビンに巻き付けるトラベラとを備え、前記ガイドローラから送られ前記トラベラに到達するまでの糸を、前記案内レールの外径外方位置で中継させる一時中継手段を具備し、前記一時中継手段は、前記スピンドルの回転速度を前記ボビンに糸を付着させるにあたり前記供給ローラから送り出される糸の送り出し速度に合わせた付着速度とした場合に、前記ガイドローラから送られ前記トラベラに到達するまでの糸を経由させる一時中継部として機能する一時中継オン状態と、前記ボビンに糸を付着させ前記スピンドルの回転速度を前記付着速度から糸を撚りながら巻き取る巻取速度に変更した場合に、前記一時中継オン状態により経由させていた一時中継部として機能を解除し、前記ガイドローラから送られる糸を前記トラベラに直で送り出す一時中継オフ状態とを備えていることを特徴とする。
【0010】
この撚糸巻取装置によれば、一杯に糸を巻き取ったボビンをスピンドルから外して、新たな空のボビンをスピンドルに設置した場合には、一時中継手段を一時中継部として機能する一時中継オン状態として、スピンドルの回転速度をボビンに糸を付着させるにあたり供給ローラから送り出される糸の送り出し速度に合わせた付着速度とし、ガイドローラから送られトラベラに到達するまでの糸を、案内レールの外径外方位置で新たに設定された一時中継手段を経由させるので、付着させる糸を一定方向の適切な張力とすることができて、ボビンに糸を素早く付着させることができる。
また、スピンドルの回転速度は、ボビンに糸を付着させるにあたり供給ローラから送り出される糸の送り出し速度に合わせた付着速度となっているので、供給ローラから送り出される糸を弛ませることもなく、絡みによる問題も発生しない。
【0011】
さらに、この撚糸巻取装置によれば、ボビンに糸を付着させた後にあたっては、一時中継手段を一時中継オフ状態とし、スピンドルの回転速度を付着速度から糸を撚りながら巻き取る巻取速度に変更し、新たな一時中継部としての設定機能を解除し、ガイドローラから送られる糸をトラベラに直で送り出す。これによって、ボビンに糸を付着させた後には、直ぐに撚りをかけながら糸を巻取る作業に移ることができる。
【0012】
また、請求項3に係る冶具は、請求項1に記載の撚糸巻取方法における前記一時中継部として用いられる冶具、または請求項2に記載の撚糸巻取装置の一時中継手段として用いられる冶具であって、前記トラベラが設けられた基台側に設置されるベースと、前記ベースに回転可能に軸支され、前記ガイドローラから送り出された糸を引掛ける引掛け状態と、その引掛け状態を解除する解除状態とを有する係止腕部と、一端が前記係止腕部側に接続され、他端が前記ベース側に接続されて、前記係止腕部を前記案内レールの外径外方に付勢するコイルばねと、前記ベースに支持され前記コイルばねの引張長さを設定して前記コイルばねの付勢力を調節する付勢調節部とを備え、前記一時中継オン状態では、前記係止腕部は前記引掛け状態となって前記ガイドローラから送り出された糸を、前記係止腕部を介して前記トラベラに送り出し、前記一時中継オフ状態では、前記係止腕部は前記解除状態となって前記ガイドローラから送り出された糸を、前記係止腕部を介することなく前記トラベラに直で送り出すことを特徴とする。
【0013】
なお、係止腕部が引掛け状態を解除して解除状態となる場合とは、係止腕部がコイルばねの付勢力に抗して回転し、それまで引っ掛かっていた糸の引っ掛かりを解除する状態となる場合である。
つまり、係止腕部は、スピンドルの回転速度が付着速度(付着速度に依存した糸の張力)となっている場合には引掛け状態となるように、スピンドルの回転速度が巻取速度(巻取速度に依存した糸の張力)となっている場合には解除状態となるように、付勢調節部を調節することによりコイルばねの付勢力を設定している。
【0014】
この冶具によれば、簡易な構成としながら、ボビンの回転状態に依存して係止腕部を引掛け状態あるいは解除状態とすることができるので、スピンドルの回転速度をフィードバックさせて引掛け状態あるいは解除状態とするような制御装置を、新たに設置する必要も無くなり、コスト面において安価とする利点がある。
【発明の効果】
【0015】
上記した本発明に係る撚糸巻取方法、撚糸巻取装置、および、これらに用いる冶具によれば、スピンドルに新たなボビンを設置した場合等において、送られてくる糸を弛ませずボビンに糸を素早く付着させることができ、さらに撚りをかけながら糸を巻取る作業に直ぐに移ることができ、もって作業効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施の形態の撚糸巻取装置1を示す斜視図である。
撚糸巻取装置1は、図1に示すように、大まかに、糸供給部10と、巻取部20とを備えて構成される。なお、符号Sは、製造加工された糸を示している。
【0017】
糸供給部10は、製造加工された糸を整えて送り出すための供給ローラ11と、次いで供給ローラ11から送り出された糸を巻取部20に送り出し案内するためのガイドローラ12とを備える。
具体的には、供給ローラ11は、適宜に軸支されて回転する二つのローラ11a,11bが、互いの外周面を接触させるようにして配置され構成される。供給ローラ11は、製造加工された糸Sを、接触する二つのローラ11a,11bの外周面同士の間に入り込ませ送り出している。ガイドローラ12は、適宜に軸支された滑車状に構成されており、後述するスピンドル22の回転軸線の延長線上方に配置されている。つまり、ガイドローラ12は、設置されたボビンBの回転軸線の上方に配置されており、供給ローラ11から送り出された糸Sを巻取部20に送り出している。
【0018】
巻取部20は、各部が設置される基台21と、基台21の略中心に配置され回転駆動するスピンドル22と、基台21に対して昇降する昇降基板23とを備えて構成される。
具体的には、基台21は、囲うような壁部21wが適宜設けられ、図示されていない内部には、適宜のプーリおよびベルトを介してスピンドル22を回転駆動させる電動モータを備える。また、基台21には、特に図示していないが、昇降基板23を昇降させるような、例えばラックアンドピニオン構造のような装置が設けられている。
【0019】
スピンドル22は、図1に示すように、上記電動モータの駆動を受けてボビンBを回転駆動させるものであって、鉛直方向に延びるように棒状に構成される。なお、スピンドル22の回転速度には、少なくとも、ボビンBに糸を付着させるにあたり供給ローラ11から送り出される糸Sの送り出し速度に合わせた回転速度となる付着速度と、ボビンBにて糸を撚りながら巻き取る回転速度となる巻取速度とがある。なお、これらの速度の切替は、電動モータに接続された切替スイッチにて行う。
【0020】
なお、付着速度とは、具体的には、ボビンBが回転することにより糸Sを巻き取る時間当たりの巻取り量が、供給ローラ11から送り出される糸Sの時間当たり送り出し量と一致するように設定された速度であり、例えば100〜500rpmに設定されている。
これに対して、巻取り速度とは、具体的には、ボビンBが回転することにより糸Sを巻き取る時間当たりの巻取り量が、供給ローラ11から送り出される糸Sの時間当たり送り出し量に比して大きく設定された速度であり、例えば1500〜2500rpmに設定されている。
【0021】
昇降基板23は、ボビンBに満遍なく糸Sを巻き付けるためにボビンBに対し相対的に昇降するものであって、図1に示すように、略中央が円状に開口された円形開口部24を有して、水平方向に延びる板状で構成されている。昇降基板23の円形開口部24内にボビンBが配され、不図示の昇降装置により、昇降基板23は基台21上で昇降する。
【0022】
円形開口部24の内周上端縁には、この内周に沿って、上方にやや突出して形成された案内レール25が設けられている。案内レール25は、スピンドル22の回転軸線(ボビンBの回転軸線と同一軸線)と同一の中心軸線を有しボビンBの周囲に配された環状となっている。
【0023】
案内レール25には、ガイドローラ12から送り出される糸を撚りながらボビンBに巻き付けるように、ボビンBの回転に追従して案内レール25上を滑走するトラベラ26が配されている。トラベラ26は、その上部において、糸を挿通させる鉤状部26hを有している。この鉤状部26hは、案内レール25より僅かに上方に突出しており、糸が挿通させ易いようになっている。
【0024】
一方、図1に示すように、昇降基板23の隅には、一時中継手段(一時中継部)としての一時中継冶具30が設置されている。図2は、撚糸巻取装置1に用いられる一時中継冶具30の拡大斜視図である。
図2に示すように、一時中継冶具30は、基台21側となる昇降基板23に設置されるベース31と、このベース31に回転可能に軸支される係止腕部32と、一端が係止腕部32側に接続され他端がベース31側に接続され係止腕部32を案内レール25の外径外方に付勢するコイルばね33と、ベース31に支持されコイルばね33の引張長さを設定する付勢調節部34とを備える。
【0025】
なお、一時中継冶具30は、ベース31に対し、円形開口部24(ボビンB)側から順に、係止腕部32、コイルばね33、付勢調節部34と並ぶように配されるものであり、以下において、この係止腕部32が配される側を先端側と称し、反対側の付勢調節部34が配される側を後端側と称する。
【0026】
ベース31は、適宜の固定部材を介して昇降基板23に設置されるものであって、図2に示すように、先端側に係止腕部32を回転可能に収容するための切欠き凹部31aが設けられ、後端側に付勢調節部34を支持する突出板部31bが設けられ、略矩形に形成される。また、切欠き凹部31aの近傍には、係止腕部32の回転軸を保持する軸支孔31cが設けられ、突出板部31bには、付勢調節部34を挿通させる貫通孔(不図示)が設けられている。なお、この貫通孔の内周面には、雌ねじが切られている。
【0027】
係止腕部32は、図2に示すように、ベース31にて軸支側の反対の揺動側にガイドローラ12から送り出された糸を引掛ける引掛け凹部32aが設けられた略矩形に形成される。この引掛け凹部32aの隣接位置には、この引掛け凹部32aから揺動側の先端に向けて傾斜面32bが形成されている。また、係止腕部32の中間部には、コイルばね33の一端を接続する引掛け孔32cが設けられている。つまり、この係止腕部32は、軸支側が上記したベース31の切欠き凹部31a内に配され、軸支孔31cにより保持された回転軸およびコイルばね33により揺動側が後端側に付勢されつつ、回転可能に軸支されている。
【0028】
付勢調節部34は、コイルばね33の付勢力を調節するものであって、突出板部31bに設けられた貫通孔に挿通されるの進退棒状部34aと、この進退棒状部34aに進退ロック用の六角ナット34bを備える。進退棒状部34aは、その外周面において、貫通孔に切られた雌ねじと螺合する雄ねじが切られている。つまり、進退棒状部34aは、回転させることによりベース31に対して先端あるいは後端に向かって進退移動する。また、この進退棒状部34aは、その先端側において、コイルばね33の他端を接続する引掛け孔34cが設けられている。
六角ナット34bは、突出板部31bの接触位置で、進退棒状部34aに切られた雄ねじと螺合し、進退棒状部34aの進退移動を規制している。
つまり、付勢調節部34は、六角ナット34bの進退ロックを解除して、進退棒状部34aを回転させてベース31に対して進退移動させ、コイルばね33の引張長さを設定している。
【0029】
このように構成された一時中継冶具30を構成する各部(係止腕部32、コイルばね33、付勢調節部34)は、糸の張力が予め定めた張力を超えた場合に引掛け状態を解除して解除状態なるように適宜設定されて構成されている。
すなわち、ボビンBに糸を付着させるにあたっての回転速度となる付着速度(付着速度に依存した糸の張力)においては、係止腕部32の引掛け凹部32aにガイドローラ12から送り出された糸を引掛ける引掛け状態となるように、さらに、ボビンBにて糸を撚りながら巻き取る際の回転速度となる巻取速度(巻取速度に依存した糸の張力)においては、係止腕部32がコイルばね33の付勢力に抗して回転し、それまで引っ掛かっていた糸の引っ掛かりを解除する(引掛け状態を解除して解除状態なる)ように、係止腕部32,コイルばね33,付勢調節部34は、それぞれ適切に設定されている。
【0030】
なお、この一時中継冶具30が引掛け状態となっている場合が、一時中継オン状態であり、ガイドローラ12から送られトラベラ26に到達するまでの糸を経由させる一時中継部として機能している状態である。
また、この一時中継冶具30が解除状態となっている場合が、一時中継オフ状態であり、ガイドローラ12から送られる糸をトラベラ26に直で送り出す一時中継部として機能を解除している状態である。
【0031】
以上のように構成された本実施の形態の撚糸巻取装置1および一時中継冶具30によれば、ボビン一杯に糸Sを巻き取ると、この一杯に糸Sを巻き取ったボビンをスピンドル22から外して、新たな空のボビンBをスピンドル22に設置する。この新たな空のボビンBをスピンドル22に設置した場合に、作業者は次の処理を行うことができる。なお、次の処理は、撚糸巻取方法の実施の形態となる。
【0032】
新たな空のボビンBをスピンドル22に設置した場合には、作業者は、まず切替スイッチによりスピンドル22の回転速度を付着速度(100〜500rpm)に設定する。そうすると、ボビンBは付着速度に対応した速度で回転する。
なお、一杯に糸Sを巻き取ったボビンをスピンドル22から外して、新たな空のボビンBをスピンドル22に設置する場合には、供給ローラ11から送り出される糸Sを一時的に、適宜の固定型吸引機にて吸引しておく。
【0033】
次いで作業者は、固定型吸引機にて吸引されていた糸Sを切断して、供給ローラ11から出てくる糸Sを、適宜の移動型吸引機にて吸引し糸Sを把持する。そして作業者は、この把持した糸Sを、ガイドローラ12に巻回させるように誘導する。その後、作業者は、その巻回させた糸Sを一時中継冶具30の引掛け凹部32aに引っ掛かるように誘導し、さらに引掛け凹部32aに引っ掛けた糸Sをトラベラ26の鉤状部26hに挿通させる。
【0034】
この際、糸Sの張力は付着速度に依存した力となり、一時中継冶具30は、ガイドローラ12から送り出された糸Sを、係止腕部32の引掛け凹部32aに引掛ける引掛け状態となる。また、トラベラ26は、一時中継冶具30により糸Sを引掛けているので、図1に示す位置で停止している。
つまり、一時中継冶具30は一時中継オン状態となっており、ガイドローラ12から送られトラベラ26に到達するまでの糸を経由させる一時中継部として機能している状態となっている。
【0035】
この一時中継オン状態となっている場合に、ボビンBにトラベラ26の鉤状部26hに挿通させた糸Sを付着させる。このボビンBへの糸Sの付着には、例えばマジックテープ(登録商標)を用いた貼着等、適宜の手段を採用することができる。
ここで、トラベラ26は上記した位置で停止している上、ボビンBも付着速度に対応した速度となっているので、付着させる糸を一定方向の適切な張力とすることができて、ボビンに糸を素早く付着させることができる。
また、スピンドル22の回転速度は、ボビンBに糸Sを付着させるにあたり供給ローラ11から送り出される糸の送り出し速度に合わせた付着速度となっているので、供給ローラ11から送り出される糸を弛ませることもなく、絡みによる問題も発生しない。
【0036】
次いで、作業者は、ボビンBに糸Sが付着したと確認できた場合には、移動型吸引機にて吸引されていた糸Sを切断して、糸Sの把持を解除する。そして作業者は、スピンドル22の回転速度を、切替スイッチにて、付着速度から巻取速度(1500〜2500rpm)に切り替える。
【0037】
そうすると、ボビンBの回転速度も付着速度から巻取速度となる。これに応じて、糸Sの張力は、付着速度に依存した張力から巻取速度に依存した張力に変わる。この巻取速度に依存した張力は、コイルばね33の付勢力に抗して、一時中継冶具30の係止腕部32を回転させ、それまで引っ掛かっていた糸の引っ掛かりを解除する(引掛け状態を解除して解除状態なる)。つまり、一時中継冶具30は一時中継オフ状態となっており、ガイドローラ12から送られる糸Sをトラベラ26に直で送り出す、一時中継部として機能を解除している状態となっている。
これにより、ガイドローラ12から送られる糸Sは、トラベラ26に直で送り出されるようになり、トラベラ26は、ボビンBの回転に追従して案内レール25上を滑走することとなり、ボビンBに撚りをかけながら糸Sを巻取る作業に直ぐに移ることができる。
【0038】
以上、スピンドル22に新たなボビンBを設置した場合等において、送られてくる糸を弛ませずボビンBに糸Sを素早く付着させることができ、さらに撚りをかけながら糸Sを巻取る作業に直ぐに移ることができ、もって作業効率を向上させることができる。
【0039】
また、上記一時中継冶具30によれば、簡易な構成としながら、ボビンBの巻取り状態に依存して係止腕部32を引掛け状態あるいは解除状態とすることができるので、スピンドル22の回転速度をフィードバックさせて引掛け状態あるいは解除状態とする制御装置を新たに設ける必要も無くなり、コスト面において安価とする利点がある。
【0040】
なお、本発明に係る撚糸巻取方法、撚糸巻取装置、および、これらに用いる冶具は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更、追加、削除をすることができる。
例えば、上記実施の形態においては、撚糸巻取装置1の一時中継手段あるいは一時中継部として機能する一時中継冶具30にあっては、一時中継オン状態あるいは一時中継オフ状態の切替えを、巻き糸Sの張力が変わることによって速度変化を検出し、それに基づき行われるものであった。しかしながら、本発明に係る撚糸巻取方法、撚糸巻取装置に用いられる冶具としては、この例に限定されることなく、たとえば、スピンドル22あるいは切替スイッチに速度が切り替わったことを検出する検出器を別途に設けて、その検出に応じて電気制御により一時中継オン状態あるいは一時中継オフ状態と切り替わるように、一時中継手段あるいは一時中継部として機能する一時中継冶具を構成するようにしてもよい。
【0041】
また、一時中継冶具30の係止腕部32の形状は、上記実施の形態の例に限定されることなく、ガイドローラ12から送り出された糸を引掛ける引掛け状態と、その引掛け状態を解除する解除状態とを有するように、適宜の凹凸形状を選択することができる。
【0042】
さらに、上記実施の形態においては、一杯に糸Sを巻き取ったボビンをスピンドル22から外して、新たな空のボビンBをスピンドル22に設置した場合の糸の付着に関して説明するものであったが、本発明に係る撚糸巻取方法、撚糸巻取装置、および、これらに用いる冶具としては、この例に限定されることなく、たとえば、送り出される糸Sが切れてしまったことにより再びボビンBに糸を付着させたい場合等、ボビンBに糸を付着させるようなあらゆる場合において応用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施の形態の撚糸巻取装置を示す斜視図である。
【図2】図1の撚糸巻取装置に用いられる冶具の拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1 撚糸巻取装置
10 糸供給部
11 供給ローラ
12 ガイドローラ
20 巻取部
21 基台
22 スピンドル
23 昇降基板
24 円形開口部
25 案内レール
26 トラベラ
26h 鉤状部
30 一時中継冶具
31 ベース
32 係止腕部
32a 引掛け凹部
32b 傾斜面
33 コイルばね
34 付勢調節部
B ボビン
S 糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を、撚りをかけながらボビンに巻き取る撚糸巻取方法であって、
糸を送り出す供給ローラと、前記供給ローラから送られてきた糸を案内するガイドローラと、前記ボビンを回転駆動させるスピンドルと、前記ボビンの回転軸線と同一の中心軸線を有し前記ボビンの周囲に配される環状の案内レールと、前記ボビンの回転に追従して前記案内レール上を滑走し前記ガイドローラから送り出される糸を撚りながら前記ボビンに巻き付けるトラベラとを備え、
前記スピンドルの回転速度を、前記ボビンに糸を付着させるにあたり前記供給ローラから送り出される糸の送り出し速度に合わせた付着速度とし、前記ガイドローラから送られ前記トラベラに到達するまでの糸を、前記案内レールの外径外方位置で新たに設定された一時中継部を経由させて前記トラベラに送り出す一時中継オン状態と、
前記一時中継オン状態において前記ボビンに糸を付着させた場合には、前記スピンドルの回転速度を前記付着速度から糸を撚りながら巻き取る巻取速度に変更し、前記一時中継オン状態により経由させていた新たな前記一時中継部の設定を解除し、前記ガイドローラから送られる糸を前記トラベラに直で送り出す一時中継オフ状態とを具備したことを特徴とする撚糸巻取方法。
【請求項2】
糸を、撚りをかけながらボビンに巻き取る撚糸巻取装置であって、
糸を送り出す供給ローラと、前記供給ローラから送られてきた糸を案内するガイドローラと、前記ボビンを回転駆動させるスピンドルと、前記ボビンの回転軸線と同一の中心軸線を有し前記ボビンの周囲に配される環状の案内レールと、前記ボビンの回転に追従して前記案内レール上を滑走し前記ガイドローラから送り出される糸を撚りながら前記ボビンに巻き付けるトラベラとを備え、
前記ガイドローラから送られ前記トラベラに到達するまでの糸を、前記案内レールの外径外方位置で中継させる一時中継手段を具備し、
前記一時中継手段は、前記スピンドルの回転速度を前記ボビンに糸を付着させるにあたり前記供給ローラから送り出される糸の送り出し速度に合わせた付着速度とした場合に、前記ガイドローラから送られ前記トラベラに到達するまでの糸を経由させる一時中継部として機能する一時中継オン状態と、前記ボビンに糸を付着させ前記スピンドルの回転速度を前記付着速度から糸を撚りながら巻き取る巻取速度に変更した場合に、前記一時中継オン状態により経由させていた一時中継部として機能を解除し、前記ガイドローラから送られる糸を前記トラベラに直で送り出す一時中継オフ状態とを備えていることを特徴とする撚糸巻取装置。
【請求項3】
請求項1に記載の撚糸巻取方法における前記一時中継部として用いられる冶具、または請求項2に記載の撚糸巻取装置の一時中継手段として用いられる冶具であって、
前記トラベラが設けられた基台側に設置されるベースと、
前記ベースに回転可能に軸支され、前記ガイドローラから送り出された糸を引掛ける引掛け状態と、その引掛け状態を解除する解除状態とを有する係止腕部と、
一端が前記係止腕部側に接続され、他端が前記ベース側に接続されて、前記係止腕部を前記案内レールの外径外方に付勢するコイルばねと、
前記ベースに支持され前記コイルばねの引張長さを設定して前記コイルばねの付勢力を調節する付勢調節部とを備え、
前記一時中継オン状態では、前記係止腕部は前記引掛け状態となって前記ガイドローラから送り出された糸を、前記係止腕部を介して前記トラベラに送り出し、前記一時中継オフ状態では、前記係止腕部は前記解除状態となって前記ガイドローラから送り出された糸を、前記係止腕部を介することなく前記トラベラに直で送り出すことを特徴とする冶具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−1585(P2010−1585A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161743(P2008−161743)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(508187632)日本紡織機械製造株式会社 (1)
【Fターム(参考)】