説明

撚線機のフライヤー弓

【課題】フライヤー弓の回転時の空気抵抗を軽減して、省エネルギー化に貢献するフライヤー弓を提供する。
【解決手段】長手方向端部10aの幅Wに比べて、長手方向中央部10bの幅Wが狭い平面形状を備える。長手方向中央部と長手方向端部との間の中間部は、当該長手方向中央部から当該長手方向端部に行くに従って、なめらかに幅が漸増する平面形状にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撚線機のフライヤー弓に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤ中に補強材として用いられるスチールコードは、複数本の金属線を撚った撚線が用いられる。この撚線を製造するための撚線機には、バンチャー型撚線機、チューブラー型撚線機、スキップ型撚線機など種々ものがある。このうちバンチャー型撚線機やスキップ型撚線機等は、複数の金属線を撚線機の入口に導入しつつ回転シャフトの周りを回転するフライヤー弓にこれらの金属線を案内して、フライヤー弓の回転により各金属線を撚ることによって撚線を形成している。
【0003】
撚線機のフライヤー弓に関して、そのフライヤー弓の回転方向に対して直角方向から見た断面形状が台形状の断面を有し、その台形の上底を外周側としてバンチャー撚線機に装着すると共に下底側に撚線ガイドチップを設けたフライヤー弓がある(特許文献1)。この構成のフライヤー弓は、回転時の接線方向から見た側面が楔状に傾斜しているため、長方形断面のフライヤー弓に比べて、フライヤー弓の回転抵抗を小さくすることができ、よってバンチャー型撚線機の省エネルギーを図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平4−60331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、スチールコードの撚線機において使用される電力の大部分は、撚線のための動力ではなく撚線機のフライヤー弓等を回転させるための動力のために消費されている。特に、撚線機の回転数が上がるほど、その割合は増し、撚線機のフライヤー弓等を回転させるための動力が90%以上になる場合もある。したがって、この電力を節約するためには、このフライヤー弓を回転する動力を軽減することが有効となる。そのため特許文献1に記載されたフライヤー弓のように、フライヤー弓の回転時の空気抵抗を小さくすることで省エネルギー化を図っていた。
【0006】
近年において、地球環境保護及び生産コスト軽減の観点から生産工場における省エネルギーへの要請は止むところがない。撚線機を設置した工場においても例外ではなく、撚線機の更なる省エネルギーが求められている。
【0007】
そこで0本発明は、上記の問題を有利に解決するものであり、フライヤー弓の形状に工夫を加えることにより、従来よりもフライヤー弓の回転時の空気抵抗を軽減して、更なる省エネルギー化に貢献し得る撚線機のフライヤー弓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の撚線機のフライヤー弓は、長手方向端部の幅に比べて、長手方向中央部の幅が狭い平面形状を備えることを特徴とすることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るフライヤーは、上記長手方向中央部と上記長手方向端部との間の中間部は、当該長手方向中央部から当該長手方向端部に行くに従い幅が漸増する平面形状を有することが好ましく、具体的には平面形状が長方形の撚線機のフライヤー弓の長辺部分をくびれさせた形状がある。また、幅が狭い部分と幅が広い部分とが滑らかに接続されていることがより好ましい。さらに、本発明は、長手方向端部の幅に比べて、長手方向中央部の幅が狭い平面形状を有するフライヤー弓を備える撚線機の構成とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の撚線機のフライヤー弓によれば、長手方向端部の幅に比べて、長手方向中央部の幅が狭い平面形状を備えることから、フライヤー弓の回転時における平面部に空気が触れることによる空気抵抗を減少させることができ、よって省エネルギー化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のフライヤー弓を適用するスキップ型撚線機の駆動部の平面的な模式図である。
【図2】本発明の実施形態のフライヤー弓の平面図である。
【図3】図2の断面図である。
【図4】従来のフライヤー弓の平面図である。
【図5】図4の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の撚線機のフライヤー弓の一実施形態を、図面を用いて具体的に説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態のフライヤー弓を適用することのできる、スキップ型撚線機の駆動部の平面的な模式図を示す。同図のスキップ型撚線機1は、複数の本実施形態のフライヤー弓10を防音カバー2内に備えている。これらのフライヤー弓10は、主モータ3から駆動力が伝達される回転シャフト4を回動可能に支持する複数の軸受5間で、この回転シャフト4に取付具(図示せず)を介して固着されており、この回転シャフト4の回転により、回転シャフト4を回転中心として回動する。
【0014】
本実施形態のフライヤー弓10の平面図を図2に、また、図2に示したフライヤー弓10のIII−III線視の断面図を図3に示す。フライヤー弓10は、図2に示すように長手方向両端近傍の、取付具にボルト等で取り付けるための固定孔11が形成されている端部10aの幅Wに比べて、長手方向中央部近傍の中央部10bの幅Wが狭い、くびれ形状の平面形状となっている。また、図示した本実施形態では、中央部10bと端部10aとの間の中間部10cは、長手方向中央部10bから端部10aに行くに従い幅が漸増する平面形状となっている。なお、本実施形態において端部10aは、フライヤー弓10の長手方向において固定孔11が形成されている領域及びその近傍のことであり、中央部10bは、フライヤー弓10の長手方向において端部以外の部分のことであり、フライヤー弓10の長手方向中央部及びその近傍を含む。中間部はフライヤー弓10の長手方向に端部10aと中央部10bとを接続する部分のことであり、図2に示したフライヤー弓10の例では中間部10cを有しているが、この中間部10cは必須の部分ではない。
【0015】
フライヤー弓10の一方の表面には、金属線ガイド20が複数設けられている。金属線ガイド20は、図3に示すように金属線30を案内する孔21が形成されている。また、金属線ガイド20は、金属線ガイド20の底部から突出する雄ネジ22をフライヤー弓10の厚み方向に貫通させて、フライヤー弓10の他方の表面にてナット23と締結することによってフライヤー弓10に固着されている。
【0016】
比較のために従来のフライヤー弓100の平面図を図4に、また、図4に示したフライヤー弓100のV−V 線視の断面図を図5に示す。図4及び図5に示した従来のフライヤー弓100は、長手方向両端近傍の、取付具にボルト等で取り付けるための固定孔101が形成されている端部の幅Wとの対比で、長手方向中央部の幅が同じWであり長方形の平面形状となっている。また、図5において、符号Rはフライヤー弓100の仮想的な回転経路を示している。
【0017】
この従来のフライヤー弓100の一方の表面には、本実施形態のフライヤー弓10と同様に、金属線ガイド20が複数設けられている。金属線30が案内されるようになっている。図5では、図3と同一の部材については同一符号を付しており、これらの部材について以下では重複する説明は省略する。
【0018】
図4及び図5に示した従来のフライヤー弓100と対比すると、図2及び図3に示した本実施形態のフライヤー弓10は、くびれ形状の平面形状となっている点で相違している。このくびれ形状のフライヤー弓10の作用効果について以下に説明する。
【0019】
撚線機の消費電力の大部分を占める、フライヤー弓を回転させる動力を軽減させるためには、フライヤー弓が受ける空気抵抗を減らせばよい。特許文献1も、このような考え方に基づくものである。もっとも、従来の考えでは、フライヤー弓が回動しているとき、空気はフライヤー弓の断面形状に沿って、フライヤー弓の平面と平行に流れ、平面部分が空気抵抗に及ぼす影響はないと考えられていた。そのためフライヤー弓の回転時に静止空気と対向する部分である、フライヤー弓の厚さの部分を縮小することによる空気抵抗の低減が志向されてきた。しかし、現在のフライヤー弓の厚さtは1mm程度であり、それ以上厚さを薄くしてもフライヤー弓を回転させる動力を軽減させる効果は少ないと思われていた。よって、フライヤー形状の改善によるフライヤー弓を回転させる動力を軽減の試みは停滞していた。
【0020】
ここに発明者らがフライヤー形状の改善について研究を重ねた結果、フライヤー弓の回転時においては、空気抵抗に最も関与するのは、フライヤー弓の平面的な投影幅であることが分かった。これは、フライヤー弓が回転する際、フライヤー弓の平面的な幅方向の部分に静止空気が触れ、これが空気抵抗になることが判明したためである。そこで、本実施形態のように、長手方向中央部近傍の中央部10bの幅Wが、端部10aの幅Wよりも狭い、くびれ形状の平面形状とすることにより、空気抵抗を減らすことができ、実際の消費電力を低減することができた。
【0021】
一般的に、空気抵抗Fは、次の関係式:F∝ρVSで表わされる。ここに、ρは空気密度であり、上記式により空気密度を減圧すると空気抵抗は減る。しかし、減圧動力が増大するので省エネルギーの点からは逆効果となる。上記関係式中のVは速度である。もっとも、撚線機において速度Vは撚線機の回転数によるので、空気抵抗の低減のために撚線機の回転数を変更することは実操業では困難である。上記関係式中のSは投影面積であり、上記関係式における空気抵抗に関する他のパラメータに比べると数値を変更することは可能である。
【0022】
上記の関係式から、投影面積を小さくすることが空気抵抗低減に対し効果的に働くといえる。そこで、本発明では、投影面積を下げるためにフライヤー弓をくびれ形状の平面形状とする。
【0023】
なお、単純にフライヤー弓の幅を長手方向全体にわたって細くするのではなく、長手方向中央部の幅のみを狭幅とした、くびれ形状とすることを特徴とする。この理由を説明すると、スキップ型撚線機で所望のコード品質を得るためには、巻出しから撚り点までコードを個別にガイドする必要があるため、端部10aにおいては、フライヤー幅方向にガイド(図2の金属線ガイド20)を設けるスペースが必要となる。更に、フライヤー固定のボルト孔(図2の固定孔11)も必要であるため、図1に示す端部10aの幅Wが決まる。逆に、フライヤー中央部10bはガイド幅さえ設ければよいので、くびれ形状にすることができる。
【0024】
また、このような空気抵抗の低減は、騒音源エネルギーの削減になるため、騒音低減にもなり、実際に本実施形態のフライヤー弓は、騒音も低下するという効果があった。
【0025】
本発明のフライヤー弓は、平面形状がくびれ形状でありさえすれば、本発明で所期した課題を解決することができるが、フライヤー遠心力の応力集中を避ける観点から、図2に示したフライヤー弓10のように、中央部10bと端部10aとの間の中間部10cは、長手方向中央から端部に行くに従いなめらかに幅が漸増する平面形状となっていることが好ましい。
【0026】
上記した応力集中を回避するという観点では、端部10aの側端と中間部10cの側端との接続は、図2に示した直線的な接続に限られず、平面からみて、なめらかな曲線で接続されてもよい。同様に、中央部10bの側端と中間部10cの側端との接続は、平面からみて、なめらかな曲線で接続されてもよい。
【0027】
中央部10bの幅Wは、細ければ細いほど省エネルギーであるが、フライヤーの遠心力に耐えられる強度を有する必要がある。フライヤーの遠心力に耐えられる強度を有しているならば、中央部10bの幅Wは、金属線ガイド20の幅よりも小さくてもよい。
【0028】
フライヤー弓10の厚さtも、薄ければ薄いほど省エネルギーであるが、フライヤーの遠心力に耐えられる厚さでなければならない。
【0029】
本実施形態のフライヤー弓10は、バンチャー型撚線機のフライヤー弓に適用することができ、また、スキップ型撚線機のフライヤー弓に適用することもできる。
【実施例】
【0030】
図2及び図3に示す本実施形態のフライヤー弓10と、比較のために図4及び図5に示す従来のフライヤー弓100とを作製し、スキップ型撚線機のフライヤー弓に適用した。フライヤー弓10のサイズは、長さ:900mm、厚さ:1mmであり端部10aの幅は75mm、端部10aの長手方向長さは両端それぞれ80mm、中央部10bの幅は30mmであった。また、中間部10cは図2に示したように中央部10bから端部10aに長手方向に行くにしたがって幅が直線的に広くなる形状とした。
【0031】
従来のフライヤー弓100のサイズは、長さ:900mm、厚さ:1mm、幅は75mmの長方形の平面形状とした。
【0032】
これらの本実施形態のフライヤー弓10又は従来のフライヤー弓100を適用したスキップ型撚線機について、空気抵抗の相違による消費電力の相違を調査した。また騒音の相違についても調査した。これらの調査は、主モータの電力と騒音計による防音カバー外の騒音を測定することにより行った。
【0033】
その結果、従来のフライヤー弓100の場合が消費電力14kW、騒音86dBAであり、本実施形態のフライヤー弓10の場合が消費電力11kW、騒音84dBAであり、本実施形態のフライヤー弓10の空気抵抗が小さく、また、騒音が小さかった。
【符号の説明】
【0034】
1 撚線機
10 フライヤー弓
10a 端部
10b 中央部
10c 中間部
11 固定孔
20 金属線ガイド
30 金属線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向端部の幅に比べて、長手方向中央部の幅が狭い平面形状を備えることを特徴とする撚線機のフライヤー弓。
【請求項2】
前記長手方向中央部と前記長手方向端部との間の中間部は、当該長手方向中央部から当該長手方向端部に行くに従い幅が漸増する平面形状を有することを特徴とする請求項1に記載の撚線機のフライヤー弓。
【請求項3】
平面形状が長方形の撚線機のフライヤー弓の長辺部分をくびれさせた形状を有することを特徴とする請求項1に記載の撚線機のフライヤー弓
【請求項4】
幅が狭い部分と幅が広い部分とが滑らかに接続されていることを特徴とする請求項1に記載の撚線機のフライヤー弓。
【請求項5】
長手方向端部の幅に比べて、長手方向中央部の幅が狭い平面形状を有するフライヤー弓を備える撚線機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−167755(P2011−167755A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36486(P2010−36486)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】