説明

撥水処理剤

【課題】本発明では、基材との反応性の高い撥水性化合物を用いたとしても撥水処理剤のポットライフを長いものとできる撥水処理剤を提供することを課題とする。
【解決手段】撥水処理剤は、下記一般式[1]で表される撥水性化合物
Si(OR4−a [1]
と、ハロゲン化水素、下記一般式[2]〜[5]からなる群から選ばれる少なくとも1つの酸
−C(O)OH [2]
−S(O)OH [3]
(CHSi−OC(O)−R [4]
(CHSi−OS(O)−R [5]
とを含み、
撥水処理剤総量に対して水の含有量が5000質量ppm以下とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面を撥水性とすることに最適な撥水処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等の窓ガラスやサイドミラーに水滴等が付着し、雨中での走行がしづらくなる現象が日常的に発生している。また、建築物、内装に使用されるガラスや鏡の表面が汚染物で汚染されるような現象も日常的に発生している。このような問題点を解消するために、撥水性の高い被膜をガラス等の基材上に形成させる等の手段がとられている。
【0003】
基材の表面を撥水性の機能をもたらす撥水処理剤として、特許文献1、2で開示されているような撥水処理剤が知られている。
【特許文献1】特開平2−233535号公報
【特許文献2】特開2006−144019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基材の表面に撥水性の機能をもたらす撥水処理剤は、基材に塗布したときに撥水性の機能をもたらす化合物(撥水性化合物)の基材との反応性を高いものとすることが好ましい。なぜなら、撥水処理剤と基材表面との接触により当該化合物と基材表面と反応し、撥水性の機能をもたらす層、すなわち、撥水性の被膜が容易に形成されるからである。これが達成できれば、撥水処理剤を綿布、刷毛、ローラーなどを使用して基材表面に接触させるといった簡単な塗布方法によって、均質な撥水性の被膜を得やすくなる。
【0005】
しかしながら、基材との反応性の高い撥水性化合物は、撥水処理剤中で失活しやすく撥水処理剤のポットライフも短いものとなる。本発明では、基材との反応性の高い撥水性化合物を用いても撥水処理剤のポットライフを長いものとできる撥水処理剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の撥水処理剤は、下記一般式[1]で表される撥水性化合物
Si(OR4−a [1]
と、ハロゲン化水素、下記一般式[2]〜[5]からなる群から選ばれる少なくとも1つの酸
−C(O)OH [2]
−S(O)OH [3]
(CHSi−OC(O)−R [4]
(CHSi−OS(O)−R [5]
とを含み、撥水処理剤総量に対して水の含有量が5000質量ppm以下であることを特徴とする。
【0007】
前記一般式[1]において、aは、1〜3の整数、Rは、それぞれ互いに独立してC2m+1(m=1〜18)、および、C2n+1CHCH(n=1〜8)から選ばれる少なくとも1つの基、Rは、炭素数が1〜8のアルキル基、一般式[2]〜[5]では、R、R、R、Rは、炭素数が1〜8の少なくとも一部の水素がフッ素に置き換えられた炭化水素基、好ましくは炭素数が1〜8のパーフルオロアルキル基である。
【0008】
一般式[1]で示される撥水性化合物は、アルコキシ基(OR基)が、基材表面に存在する水酸基などの反応活性点と化学的に結合することにより、Rによって基材表面が覆われる被膜が形成される。前記一般式で[1]で、Rを、それぞれ互いに独立してC2m+1(m=1〜18)、および、C2n+1CHCH(n=1〜8)から選ばれる少なくとも1つの基とすることにより、当該被膜が撥水性の被膜として機能するようになる。
【0009】
そして、本発明の撥水処理剤は、さらに前記酸を含んでなるものとし、撥水処理剤総量に対して水の濃度を5000質量ppm以下とすることで、基材との反応性の高い撥水性化合物を用いても撥水処理剤のポットライフを長いものとできる撥水処理剤を提供することに奏功する。
【0010】
水が5000質量ppm超の場合、撥水性化合物のアルコキシ基の加水分解が生じやすく、撥水処理剤のポットライフが短くなりやすい。本発明の撥水性の撥水処理剤においては、水の量は、1000質量ppm以下、さらには500質量ppm以下としてもよく、またさらに水の量は、50質量ppm以上であってもよい。
【0011】
前記酸は、水を含有するものであると、前記薬液中に含まれる水の増加につながりやすく、撥水処理剤中の水分量の低下させることが煩雑なものとなる。このため、前記酸は、水の含有量が少ないものほど好ましく、好ましい水の含有率は、35質量%以下であり、特に好ましくは10質量%、さらに好ましくは5質量%以下であり、さらには1質量%以下が好ましい。また、前記酸の水の含有量は0.01質量%以上であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の撥水処理剤は、基材との反応性の高い撥水性化合物を用いても撥水処理剤のポットライフを長いものとでき、しかも、撥水処理剤を綿布、刷毛、ローラーなどを使用して基材表面に接触させるといった簡単な塗布方法によっても、均質な撥水性の被膜を効率よく形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の撥水処理剤は、下記一般式[1]で表される撥水性化合物
Si(OR4−a [1]
と、ハロゲン化水素、下記一般式[2]〜[5]からなる群から選ばれる少なくとも1つの酸
−C(O)OH [2]
−S(O)OH [3]
(CHSi−OC(O)−R [4]
(CHSi−OS(O)−R [5]
とを含み、撥水処理剤総量に対して水の含有量が5000質量ppm以下である。
【0014】
前記一般式[1]で示される撥水性化合物としては、例えば、CHSi(OCH、CSi(OCH、CSi(OCH、CSi(OCH、C11Si(OCH、C13Si(OCH、C15Si(OCH、C17Si(OCH、C19Si(OCH、C1021Si(OCH、C1123Si(OCH、C1225Si(OCH、C1327Si(OCH、C1429Si(OCH、C1531Si(OCH、C1633Si(OCH、C1735Si(OCH、C1837Si(OCH、(CHSi(OCH、CSi(CH)(OCH、(CSi(OCH、CSi(CH)(OCH、(CSi(OCH、CSi(CH)(OCH、(CSi(OCH、C11Si(CH)(OCH、C13Si(CH)(OCH、C15Si(CH)(OCH、C17Si(CH)(OCH、C19Si(CH)(OCH、C1021Si(CH)(OCH、C1123Si(CH)(OCH、C1225Si(CH)(OCH、C1327Si(CH)(OCH、C1429Si(CH)(OCH、C1531Si(CH)(OCH、C1633Si(CH)(OCH、C1735Si(CH)(OCH、C1837Si(CH)(OCH、(CHSiOCH、CSi(CHOCH、(CSi(CH)OCH、(CSiOCH、CSi(CHOCH、(CSi(CH)OCH、(CSiOCH、CSi(CHOCH、(CSiOCH、C11Si(CHOCH、C13Si(CHOCH、C15Si(CHOCH、C17Si(CHOCH、C19Si(CHOCH、C1021Si(CHOCH、C1123Si(CHOCH、C1225Si(CHOCH、C1327Si(CHOCH、C1429Si(CHOCH、C1531Si(CHOCH、C1633Si(CHOCH、C1735Si(CHOCH、C1837Si(CHOCH等のアルキルメトキシシラン、あるいは、CFCHCHSi(OCH、CCHCHSi(OCH、CCHCHSi(OCH、CCHCHSi(OCH、C11CHCHSi(OCH、C13CHCHSi(OCH、C15CHCHSi(OCH、C17CHCHSi(OCH、CFCHCHSi(CH)(OCH、CCHCHSi(CH)(OCH、CCHCHSi(CH)(OCH、CCHCHSi(CH)(OCH、C11CHCHSi(CH)(OCH、C13CHCHSi(CH)(OCH、C15CHCHSi(CH)(OCH、C17CHCHSi(CH)(OCH、CFCHCHSi(CHOCH、CCHCHSi(CHOCH、CCHCHSi(CHOCH、CCHCHSi(CHOCH、C11CHCHSi(CHOCH、C13CHCHSi(CHOCH、C15CHCHSi(CHOCH、C17CHCHSi(CHOCH等のフルオロアルキルメトキシシラン、あるいは、前記メトキシシランのメトキシ基のメチル基部分を、メチル基以外の炭素数が12〜8の1価のアルキル基に置き換えた化合物等が挙げられる。
【0015】
前記一般式[1]のRのC2m+1やC2n+1は、直鎖基であると、前記撥水性化合物の反応性が高いためより好ましい。また、前記一般式[1]のRが、直鎖基であると、前記撥水性化合物の反応性が高いためより好ましい。また、前記一般式[1]のRが、炭素数が1〜6であると、前記撥水性化合物の反応性が高いためより好ましい。また、前記一般式[1]の4−aで表されるアルコキシ基の数が1または2、特に好ましくは1であると、前記撥水性化合物の反応性が高いため好ましい。
【0016】
前記一般式[1]で表される撥水性化合物と前記酸との総量を100質量%としたときに、酸の量は、0.01〜60質量%、好ましくは0.5〜50質量%であることが好ましい。酸は、一般式[1]で示される撥水性化合物が基材表面の反応活性点と反応する際の触媒としての役割を持っており、0.01質量%未満などのように酸の濃度が少ない場合、触媒効果の低下が生じることがある。他方、60質量%超などように酸の量が多い場合、撥水処理剤の取り扱いにくくなる懸念が生じうる。
【0017】
前記酸の一般式である一般式[2]のR、前記一般式[3]のR、前記一般式[4]のR、前記一般式[5]のRとしては、例えば、−CH、−C、−C、−C、−C、−C−CH、−CF、−C−CF、−C、−C、−C、−C、−C−CHなどがある。特に、−CF、−C、−C、−Cは触媒の効果が高いため好ましく、さらに−CFが好ましい。また、酸としてハロゲン化水素を用いる場合、HF、HCl、HBr、HIを使用してもよい。中でもHClが好ましい。また、一般式[2]や[3]の酸を用いる場合、無水物の酸を用いて撥水処理剤を形成してもよい。
【0018】
また、前記撥水処理剤において、前記撥水性化合物は、前記薬液の総量100質量%に対して、0.01〜25質量%、好ましくは0.1〜20質量%、さらに好ましくは1〜15質量%とするのが好ましい。0.01質量%未満では、一回の塗布で得られる被膜の撥水性が不十分となりやすい。一方、25質量%超では、被膜形成に寄与しなかった撥水性化合物が多くなり、塗布後にこれらが払拭などによって除去を必要とする乾固物などの余剰分となりやすい。
【0019】
さらに本発明の撥水処理剤に含まれてもよい溶媒の例としては、炭化水素類、エステル類、エーテル類、ケトン類、含ハロゲン系溶媒、スルホキシド系溶媒、アルコール類、多価アルコールの誘導体が挙げられる。
【0020】
前記炭化水素類の例としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなど、前記エステル類の例としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、アセト酢酸エチルなど、前記エーテル類の例としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなど、前記ケトン類の例としては、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトンなどが、前記ハロゲン系溶媒の例としては、テトラクロロメタン、クロロホルム、ジクロロジフルオロメタン、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロアルカン、ヘキサフルオロベンゼンなど、前記スルホキシド系溶媒の例としては、ジメチルスルホキシドなど、前記アルコール類の例としては、タノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、エチレングリコール、グリセリン、1,2−プロパンジオール、1,3プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオールなど、前記多価アルコールの誘導体の例としては、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。
【0021】
なお、本発明の撥水処理剤では、希釈溶媒にアルコール、あるいは、多価アルコールの誘導体でOH基を持つものなどのプロトン性溶媒を用いても、驚くべきことだが、前記撥水性化合物の反応性が低下し難い。従って安全性の高いプロトン性溶媒、特にはアルコール類を希釈溶媒として用いることが出来るため、前記撥水処理剤を安全性の高いものとすることができる。
【0022】
次に、本発明の撥水処理剤の好ましい調製方法について説明する。本発明の撥水処理剤は、前記一般式[1]で示される撥水化合物、前記酸などの原料を混合することにより得られる。ここで、前記撥水性化合物と前記酸は反応する場合があるので、本発明の撥水処理剤に溶媒が含まれる場合は、前記撥水性化合物、および/または、前記酸を溶媒で予め希釈した後に、2つを混合するのが好ましい。
【0023】
また、本発明の撥水処理剤は、前記一般式[1]で示される撥水性化合物、前記酸などの原料を2つ以上に分けた状態で保管し、使用前に混合して使うこともできる。例えば、前記撥水性化合物と前記酸を個別に保管し、使用前に混合することもできる。また、前記撥水性化合物と前記酸を同じ溶液で保管し、使用前に別の原料からなる溶液と混合することもできる。なお、混合前の撥水性化合物と酸は、それぞれ、希釈された溶液状態であっても良いし、どちらか一方が希釈された状態でも良い。
【0024】
また、本発明の撥水処理剤は、調製時に、原料や混合後の溶液の少なくとも1つの水分を除去することができる。特に、前記酸、前記溶媒、あるいはそれらの混合液の水分を除去するのが好ましい。水分の除去方法としては、モレキュラーシーブ等の吸着剤や蒸留等を用いることができる。
【0025】
次に、本発明の撥水処理剤を使用して、撥水性の被膜を得る方法について説明する。上記で得られた撥水処理剤を基材表面に塗布する塗布方法としては、手塗り、刷毛塗り、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、スピンコート法、ディップコート法、ノズルフローコート法、リバースコート法、フレキソ法、印刷法、フローコート法、スリットコート法それらの併用等各種被膜の形成方法が適宜採用し得る。撥水処理剤を塗布する前には、基材表面を洗浄処理することにより、基材表面の水酸基などの反応活性点を増やすことができ好ましい。洗浄処理としては、研磨(好ましくは研磨剤を用いての研磨)、酸性水溶液を用いた洗浄、塩基性水溶液を用いた洗浄、界面活性剤を用いた洗浄、オゾン水を用いた洗浄、UV照射、プラズマ照射、オゾン照射、あるいは、それらの併用等各種基材の洗浄方法が適宜採用し得る。
【0026】
撥水処理剤が塗布される基材は、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス基材の場合には、建築物用窓ガラスや鏡に通常使用されているフロ−ト板ガラス、又はロ−ルアウト法で製造されたソーダ石灰ガラス等無機質の透明性がある板ガラスを使用できる。当該板ガラスには、無色のもの、着色のもの共に使用可能で、他の機能性膜との組み合わせ、ガラスの形状等に特に限定されるものではない。平板ガラス、曲げ板ガラスはもちろん風冷強化ガラス、化学強化ガラス等の各種強化ガラスの他に網入りガラスも使用できる。さらには、ホウケイ酸塩ガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス、低膨張結晶化ガラス、ゼロ膨張結晶化ガラス等の各種ガラス基材、鏡などの基材を用いることができる。
【0027】
ガラス基材は単板で使用できるとともに、複層ガラス、合わせガラス等としても使用できる。また、前記被膜の形成は基材の片面であっても両面であってもかまわないし、基材表面の全体であっても、一部分であってもかまわない。
【0028】
本発明の撥水処理剤から得られる被膜は、可視光透過性に優れるものであるが、可視光透過性を要求されない用途であっても使用することができ、その場合、セラミックス、金属等の基材を使用してもよい。
【0029】
また、本発明の撥水処理剤は特に加熱を必要としないので、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、その他のプラスチック基材を使用することが可能である。
【0030】
さらに、基材には、官能基を4個有するケイ素化合物が添加された溶液を基材に塗布し、そして固化することで前記ケイ素化合物由来のプライマ−層が形成されたものを使用しても良い。該プライマ−層は、被膜との結合サイト、すなわちシラノール基の数を基材そのものに比べて、多くすることができる。かくして、該プライマ−層が形成された基材を使用して形成された撥水性の被膜は、更なる耐久性向上が期待できる。そして、前記プライマ−層は、単分子でなる層としてもよい。
【0031】
前記官能基を4個有するケイ素化合物としては、テトライソシアネートシラン、テトラハロゲン化シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等を使用できる。そして、これら化学種を、溶媒に添加し、基材表面に塗布するための溶液を調製する。該溶媒には、アルコール類、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、又は、パラフィン系炭化水素や芳香族炭化水素の一般有機溶剤、例えばn−ヘキサン、トルエン、クロロベンゼン等、又はこれらの混合物を使用することができ、これらを手塗り、刷毛塗り、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、スピンコート法、ディップコート法、ノズルフローコート法、リバースコート法、フレキソ法、印刷法、フローコート法、スリットコート法等の公知手段を使用することができる。そして、プライマ−層の形成のしやすさ、溶液の調製のしやすさ、そして、シラノール基の形成数等を考慮すると、前記化学種には、テトライソシアネートシランを使用することが好ましい。
【0032】
次に、撥水処理剤を基材に塗布後の処理について述べる。基材に撥水処理剤を塗布し、乾燥させることで、前記撥水性化合物を基材と結合させる。乾燥手段は、風乾でよく、室温で、例えば、15℃〜30℃、相対湿度30%〜60%の環境で、5分間〜20分間で放置するだけでよい。乾燥時間を短くするために、汎用のドライヤー等で熱風を吹き付けてもよく、基材を加熱できる環境であれば、80℃〜250℃で加熱してもよい。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例について説明する。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。評価方法を以下に示す。
〔評価方法〕
【0034】
(1)接触角
撥水性の被膜を有するサンプル表面に、純水約2μlを置いたときの水滴とサンプル表面とのなす角を接触角計で測定した。尚、接触角計には協和界面科学製CA−X型を用い、大気中(約25℃)で測定した。接触角の初期性能が、80°以上のものを撥水性の指標に関し合格(表1中で○と表記)とした。
【0035】
(2)保管安定性(撥水処理剤のポットライフの評価)
撥水液を調製後、密栓状態で室温で24h放置し、その後、撥水性の被膜を有するサンプルを作製して、接触角を測定した。接触角が80°以上を合格(表1中で○と表記)とした。
【0036】
実施例1
(1)撥水処理剤の調製
酸としてトリフルオロメタンスルホン酸;1.1g、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート;103.4gを混合し、モレキュラーシーブ4A(ユニオン昭和製)により混合液から水分を除去した。水分除去後の該混合中の水分量をカールフィッシャー式水分計(平沼産業製、AQ−6)により測定を行ったところ、水分量は該薬液総量に対し50質量ppmであった。この混合液;95gと、撥水性化合物としてトリメチルメトキシシラン〔(CHSi−OCH〕;5gを混合し、室温で5分攪拌して撥水処理剤を得た。以上の方法により、撥水処理剤の総量に対する撥水性化合物の濃度(以降「撥水性化合物濃度」と記載する)が5質量%、撥水処理剤の総量に対する酸の濃度(以降「酸濃度」と記載する)が1質量%の撥水処理剤を得た。
【0037】
(2)ガラス基材の洗浄
300mm×300mm×2mm厚サイズのフロートガラス研磨液を用いて研磨し、水洗及び乾燥した。なお、ここで用いた研磨液は、ガラス用研磨剤ミレークA(T)(三井金属鉱業製)を水に混合した2質量%のセリア懸濁液を用いた。
【0038】
(3)撥水性の被膜の形成
上記(1)で調製した撥水処理剤;約2.0ml(300mm×300mm×2mm厚サイズ)をガラス基板上に滴下し、綿布(商品名;ベンコット)でガラス全面に十分引き伸ばした後、5分程度風乾した。その後、目視で見える余剰分を紙タオルで拭き上げて透明なサンプルを得た。
【0039】
上記[評価方法]に記載した要領で評価したところ、表1に示すとおり、初期の接触角は88°と良好であった。また、室温で24h保管した撥水処理剤を用いても、接触角は88°と良好であり、保管安定性に優れていた。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例2
撥水成分濃度を10質量%とした以外は全て実施例1と同じとした。結果は表1に示すとおり、初期の接触角は92°と良好であった。また、室温で24h保管した撥水液を用いても、接触角は92°と良好であり、保管安定性に優れていた。
【0042】
実施例3
酸をトリフルオロメタンスルホン酸無水物とした以外は全て実施例1と同じとした。結果は表1に示すとおり、初期の接触角は86°と良好であった。また、室温で24h保管した撥水液を用いても、接触角は86°と良好であり、保管安定性に優れていた。
【0043】
比較例1
酸を用いなかった以外は全て実施例1と同じとした。結果は表1に示すとおり、初期の接触角は10°と性能が低かった。
【0044】
比較例2
実施例1で調製した撥水処理剤100gに水を2g添加し、水を含む撥水処理剤を作製した以外は全て実施例1と同じとした。結果は表1に示すとおり、室温で24h保管後の撥水液では、接触角は12°と低く、保管安定性が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥水処理剤であり、下記一般式[1]で表される撥水性化合物
Si(OR4−a [1]
(一般式[1]において、aは、1〜3の整数、Rは、それぞれ互いに独立してC2m+1(m=1〜18)、および、C2n+1CHCH(n=1〜8)から選ばれる少なくとも1つの基、Rは、炭素数が1〜8のアルキル基)
と、ハロゲン化水素、下記一般式[2]〜[5]からなる群から選ばれる少なくとも1つの酸
−C(O)OH [2]
−S(O)OH [3]
(CHSi−OC(O)−R [4]
(CHSi−OS(O)−R [5]
(一般式[2]〜[5]において、R、R、R、Rは、炭素数が1〜8の少なくとも一部の水素がフッ素に置き換えられた炭化水素基である。)
とを含み、撥水処理剤総量に対して水の含有量が5000質量ppm以下であることを特徴とする撥水処理剤。
【請求項2】
前記撥水性化合物と前記酸との総量を100質量%としたときに、前記酸が0.01〜60質量%であることを特徴とする請求項1に記載の撥水処理剤。
【請求項3】
前記撥水性化合物と前記酸に加え、溶媒を含み、該溶媒が炭素数が1〜8のアルコールであることを特徴とする請求項1又は2に記載の撥水処理剤。
【請求項4】
前記撥水性化合物と、前記酸と、そして溶媒との総量を100質量%としたときに、前記撥水性化合物が0.01〜25質量%であることを特徴とする請求項3に記載の撥水処理剤。
【請求項5】
基材を準備する工程
請求項1乃至4のいずれかに記載の撥水処理剤を基材表面に塗布する工程
を含むことを特徴とする撥水性の被膜が形成された基材の作製方法。

【公開番号】特開2012−12449(P2012−12449A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148721(P2010−148721)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】