説明

撥水塗膜

【課題】 塗膜中の顔料の配向を制御することによって撥水性の高い塗膜を提供する。
【解決手段】 被塗物の塗装面上に塗料によって形成される塗膜層2と、該塗膜層内に分散せしめられる細長い顔料3とを具備する撥水塗膜1において、ほぼ全ての顔料は、その長手軸線が上記塗膜層表面に対して所定角度となるように上記顔料が配向せしめられると共にこれら顔料の少なくとも一部が上記塗膜層表面から突出せしめられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
腐食等に対する車両表面の保護および車両表面の美粧を目的として自動車等の表面には塗装が行われる。塗装に使用される塗料は、一般に、樹脂、顔料、溶剤から構成される。このうち顔料は、塗装によって形成される塗膜に色彩を与えるのが主な目的であるが、塗装の作業性や塗膜の機能を向上させたり、塗膜を丈夫にしたり等の目的で用いられることもある。
【0003】
特許文献1は、適度な透明度を有する塗膜内の顔料の配向を制御することで、被塗物上に模様塗膜を形成する方法を開示している。すなわち、塗膜において視覚的な凹凸感を得るために、凹状に見せたい領域では顔料の長手軸線が塗膜に対して垂直になるように、凸状に見せたい領域では顔料の長手軸線が塗膜に対して平行になるように顔料を配向させている。各顔料は、磁性を有する箔片または短繊維からなり、塗装中に被塗物の塗装面近傍に磁場をかけることによって磁力線に沿った配向となる。
【0004】
【特許文献1】特開平8−323947号公報
【特許文献2】特開平7−16535号公報
【特許文献3】特開平5−255617号公報
【特許文献4】特開平5−70208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車等の塗膜の性能を表す指標の一つに撥水性がある。塗膜表面の撥水性が高いと、塗膜表面の撥水性が高いと塗膜表面上に汚れ(塵、埃、垢等)が付着しにくくなると共に塗膜が浸食されにくくなって塗膜自体の耐久性が高いものとなる。このため、塗膜を美しく保つためおよび塗膜の寿命を延ばすためにも、塗膜には高い撥水性があることが好ましい。
【0006】
このような塗膜の撥水性は、塗膜中の顔料の配向を制御することによっても得られると考えられる。ところが、特許文献1に記載の発明では、顔料の配向を制御しているが、塗膜の撥水性を得るためのものではなく、よって十分な撥水性を得ることができない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、塗膜中の顔料の配向を制御することによって撥水性の高い塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1の発明では、被塗物の塗装面上に塗料によって形成される塗膜層と、該塗膜層内に分散せしめられる細長い顔料とを具備する撥水塗膜において、ほぼ全ての顔料は、その長手軸線が上記塗膜層表面に対して所定角度となるように上記顔料が配向せしめられると共にこれら顔料の少なくとも一部が上記塗膜層表面から突出せしめられる。
第1の発明によれば、ほぼ全ての顔料が互いに平行に配向されると共に顔料の少なくとも一部が塗膜層表面から突出せしめられる。このため、撥水塗膜上に水滴をたらした場合、この水滴は塗膜層によって面で支持されるのではなく、塗膜層表面から突出した顔料の先端部によって点で支持されるため、いわゆる「蓮の葉効果」により、撥水塗膜上の水滴の塗膜表面に対する接触角(水接触角)が大きなものとされる。
また、各顔料は塗膜層内に完全にまたは部分的に埋め込まれているため、撥水塗膜の表面をワイピングまたは研磨しても顔料が脱落することはほとんどない。したがって、例えば、塗膜層表面上に粒子を分散させて接着させた場合に比べて、ワイピングや研磨に対する耐久性が高いものとなる。
なお、第1に発明には、撥水塗膜形成時には顔料が塗膜層表面から突出していなくても、ワイピングや摩耗等により塗膜層が研削された結果、顔料が塗膜層表面から突出してきたような場合も含まれる。
【0009】
第2の発明では、第1の発明において、上記所定角度が垂直である。
【0010】
第3の発明では、第1または2の発明において、上記顔料は当該撥水塗膜中に15〜25wt%含有される。
【0011】
第4の発明では、第1〜第3のいずれか一つの発明において、上記顔料の軸線方向における一方の端部が磁性材料で形成されている。
【0012】
第5の発明では、第4の発明において、被塗物を磁化させた状態で上記顔料を含有する塗料を該被塗物の塗装面に塗装することで、上記塗膜層内において上記顔料が配向せしめられる。
【0013】
第6の発明では、第4または第5の発明において、上記顔料は、磁化された電極上に磁性材料がほぼ均一に付着している状態で磁性材料に接着剤を塗布し、その後、上記電極を帯電させることで顔料基材が磁性材料上に接着されることにより形成される。
【0014】
第7の発明では、第1〜第3のいずれか一つの発明において、上記顔料の軸線方向における一方の端部が誘電体で形成されている。
【0015】
第8の発明では、第7の発明において、被塗物を帯電させた状態で上記顔料を含有する塗料を該被塗物の塗装面に塗装することで、上記塗膜層内において上記顔料が配向せしめられる。
【0016】
第9の発明では、第7または第8の発明において、上記顔料は、電圧が印加された電極上に誘電体がほぼ均一に付着している状態で誘電体に接着剤を塗布し、その後、上記電極を帯電させることで顔料基材が誘電体上に接着されることにより形成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、いわゆる「蓮の葉効果」により、撥水塗膜上に付着した水滴の水接触角が大きなものとされるため、撥水塗膜の撥水性を高いものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は本発明の第一実施形態の撥水塗膜1を概略的に示した図である。
【0019】
図1に示したように、本発明の撥水塗膜1は、被塗物である鉄板10の表面上に形成される。撥水塗膜1は、一般的なクリア塗料から形成される塗膜層2と、塗膜層2内に分散せしめられる顔料3とを具備する。なお、撥水塗膜1は、被塗物である鉄板10の表面上に直接形成されなくてもよく、鉄板の表面上に形成された単層または複数層の塗膜層の表面上に形成されてもよい。この場合、上記単層または複数層の塗膜層としては着色顔料やメタリック顔料、パール顔料を含んだものが用いられる。
【0020】
クリア塗料は、基本的に樹脂バインダから成り、必要に応じて硬化剤、硬化触媒、溶剤、体質顔料、安定剤、可塑剤、その他の通常の成分が含まれる。樹脂バインダとしては、液状すなわち流動状態で塗装された後、焼き付けや乾燥等の適当な手段で固化させて透明な塗膜を形成するものであれば、通常の各種塗料で用いられるものが使用でき、例えば、アクリル、アクリルメラミン、メラミン、ポリエステル、ポリウレタン、エポキシ、ポリ塩化ビニル等の樹脂が挙げられる。本発明では、撥水性を向上させるためにクリア塗料中にフッ素元素を多く配合したものを用いるのが好ましい。例えば、アクリル樹脂の側鎖としてフッ素官能基をグラフトさせたアクリルフッ素樹脂、あるいは同様に側鎖としてフッ素官能基を持ったポリエステル樹脂、または主鎖にフッ素官能基をもったフルオロ樹脂等が挙げられる。
【0021】
顔料3は、主に透明で且つ少なくとも樹脂バインダよりも硬い物質、例えばマイカ、ガラス、アルミナ等(以下、「顔料基材」と称す)4から成る。各顔料3は細長く、その断面直径は例えば0.5μmであり、その長さは約5〜15μm、好ましくは約10μmである。撥水塗膜1中に占める顔料3の質量分率は、約10〜30wt%であり、好ましくは約15〜25wt%である。
【0022】
また、各顔料3は、その軸線方向における一方の端部が磁性材料5で形成されている。磁性材料5としては、強磁性体、常磁性体、反磁性体のいずれでも良く、例えば、純鉄、炭素鋼、ケイ素鋼、KS鋼、パーマロイ、AlNiCo、酸化鉄、コバルト、ニッケル、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等が挙げられる。磁性材料5は、後述するように顔料基材4に対して接着剤により結合せしめられる。なお、磁性材料5は、溶接等他の方法によって顔料基材4に結合されてもよい。
【0023】
ほぼ全ての顔料3は、その長手軸線が塗膜層2の表面に対して所定角度となるように配向せしめられる。したがって、ほぼ全ての顔料3は、塗膜層2中において互いにほぼ平行に配置される。また、所定角度については、ほぼ全ての顔料3の長手軸線が、塗膜層2の表面に対して垂直であるのが好ましいが、塗膜層2の表面の垂線に対して僅かな角度が付いていてもよく、例えば塗膜層2の表面の垂線に対して数度〜数十度程度の角度が付いていてもよい。これら顔料3は、磁性材料5が設けられた側の端部が鉄板10に近接するように配置される。
【0024】
さらに、図1に示したように、全ての顔料3のうちの少なくとも一部の顔料が塗膜層2の表面から突出せしめられる。上述したように、ほぼ全ての顔料3は互いにほぼ平行に配置されているため、塗膜層2から突出する顔料3の先端部も互いにほぼ平行に配置される。このように塗膜層2の表面から突出せしめられるのは、全ての顔料3のうちの一部の顔料だけでなく全ての顔料3であってもよい。また、撥水塗膜1の塗装直後から全ての顔料3または一部の顔料3の先端部が塗膜層2の表面から突出しているのが好ましい。
【0025】
ところで、自動車等の塗膜に関しては、塗膜表面の撥水性が高いと塗膜表面上に汚れ(塵、埃、垢等)が付着しにくくなると共に塗膜が浸食されにくくなって塗膜自体の耐久性が高いものとなる。これは、塗膜表面の撥水性が高い場合には降水時に水滴が塗膜表面上に付着した汚れを洗い流してくれるのに対して、塗膜表面の撥水性が低い場合には降水時に雨水の汚れが塗膜表面上に付着せしめられるためである。すなわち、塗膜表面の撥水性が高い場合には水滴が塗膜表面上の汚れを取り込みながら塗膜表面上を流れるのに対して、塗膜表面の撥水性が低い場合には水滴が水滴中の汚れを塗膜表面上に付着させながら塗膜表面上を流れる。
【0026】
このように、塗膜の汚れおよび耐久性の観点から、塗膜表面の撥水性が高いことは非常に重要である。このため、従来から、撥水物質であるフッ素成分を塗膜中に混入させることで撥水塗膜を形成するようにしている。また、塗膜表面上にシリカ等の微粒子を付着させることで塗膜の撥水性を発現させる方法が提案されている。
【0027】
ところが、被塗装面に塗装するための塗料中のフッ素含有割合が高すぎると塗料の流動性が低くなって塗装できなくなってしまうため、フッ素含有割合を50%よりも高くするのは困難である。そしてフッ素含有割合が50%以下の条件で塗膜を構成した場合、塗膜表面上に付着した水滴の塗膜表面に対する接触角(以下、単に「水接触角」と称す)は最大で約120°である。水接触角が120°の条件では、水平に近い塗膜では、降雨後等に塗膜表面上に水が残り、次第にその水中の汚れが塗膜表面に付着して塗膜表面が汚れると共に、水接触角がさらに低下する。そしてこの水接触角の低下に伴って汚れが塗膜表面に付着し易くなり、水接触角が更に低下する。したがって、初期においては或る程度の撥水性を保っていた塗膜も、屋外において1ヶ月も暴露することにより水接触角が90°以下となり、撥水性が消失してしまう。
【0028】
また、塗膜表面上にシリカ等の微粒子を付着させた場合、何らかの物体(例えばウェス等)が塗膜表面に接触するだけで微粒子が脱落してしまう等、非常に耐久性が低い。したがって、この場合、塗装直後における水接触角は150°以上と優れているが、耐久性の低さゆえに実用化には適していない。このように、従来では、十分な水接触角を得ることができないかまたは十分な耐久性を得ることができないため、効果的な撥水塗膜を形成することが困難であった。
【0029】
これに対して、本発明の撥水塗膜1によれば、水接触角が大きく且つ耐久性の高い塗膜が提供される。以下、このことについて詳述する。
【0030】
図2は、後述するように製造された撥水塗膜1中の顔料3の質量分率と水接触角との関係を示した図である。図2において、撥水塗膜中に占める顔料3の質量分率が零wt%である場合、すなわち撥水塗膜がクリア塗料のみから形成される場合には、水接触角が115°となっている。このような水接触角となっているのは、塗膜表面にフッ素基が配向しているためだと考えられる。この状態から、顔料3の質量分率を増大させると、顔料3の質量分率が10wt%となったあたりから水接触角が急激に増大し、顔料3の質量分率が15〜25wt%であるときに水接触角が最大となる(約160°)。一方、顔料3の質量分率が30wt%を超えると塗料中の顔料の量が増大し過ぎて塗料の粘度が高くな過ぎ、適切に塗装することができなくなってしまう(図中の破線部分)。
【0031】
このように、本発明の撥水塗膜1によれば、撥水塗膜1中に占める顔料3の質量分率を調整することで、水接触角を大きなものとすることができる。この理由として考えられるのは、撥水塗膜1上の水滴が塗膜層2によって面で支持されるのではなく、塗膜層2の表面から突出した顔料3の先端部によって点で支持されることが挙げられる。すなわち、表面に非常に細くて短い毛のようなものが密に生えている蓮の葉と同様な原理で水接触角が大きなものとなっていると考えられる(以下、「蓮の葉効果」と称す)。そして、顔料3の質量分率を増大させることで塗装膜2の表面から突出した顔料3の密度を増大させることができ、よって水接触角を大きなものとすることができる(図2中の0〜25wt%参照)。ただし、顔料3の質量分率が大きくなり過ぎると、撥水塗膜1中の顔料3の配向が乱れるため、水接触角が低下してしまう(図2中の30wt%〜参照)。
【0032】
図3は、本発明の撥水塗膜1をネル素材の布で水拭きし(以下、「ワイピング」と称す)、ワイピング回数に応じた水接触角の変化を測定したものである。撥水塗膜1は顔料3の質量分率が15wt%のものを用いており、本発明の撥水塗膜1についての測定結果は図3中に丸マークで示されている。図3から分かるように、本発明の撥水塗膜1では、ワイピング初期においては水接触角が若干低下するが、その後はほぼ一定の水接触角となり、水接触角が150°以下にまで低下することはない。
【0033】
一方、図3中の三角マークは、本発明の撥水塗膜1から顔料3を除いた塗膜層(フッ素塗膜層)の表面にアクリルシリコーン/シリカ粒子を塗布、乾燥させることによって形成された塗膜について、比較例としてワイピング回数に応じた水接触角の変化を測定したものである。図3から分かるように、斯かる塗膜の水接触角は、ワイピング初期においては本発明の撥水塗膜1と同様な水接触角を示すが、数回のワイピングにより一気に低下してしまう。これは、アクリルシリコーン/シリカ粒子がワイピングによって容易に脱落し、数回のワイピングによってこれら粒子の無い本来の塗膜表面の水接触角にまで低下することが考えられる。
【0034】
本発明の撥水塗膜1では顔料3がワイピングによって脱落することはほとんどないため、ワイピングに対する耐久性が非常に高いことが分かる。さらに、撥水塗膜1表面の研磨によって多少撥水塗膜1の表面が削られたとしても、顔料3は塗膜層2よりも硬い材料で形成されているため顔料3の方が削られにくく、よって塗膜層2の表面から顔料3の先端部はなおも突出し続けると考えられるため、ワイピングだけでなく研磨に対しても耐久性が高いと考えられる。
【0035】
図4は、撥水塗膜1の屋外暴露時間に応じた水接触角の変化を測定したものである。撥水塗膜1は顔料3の質量分率が15wt%のものを用いており、本発明の撥水塗膜1についての測定結果は図4中に丸マークで示されている。図4から分かるように、本発明の撥水塗膜1では、暴露初期においては水接触角が若干低下するが、その後はほぼ一定の水接触角となり、水接触角が140°以下にまで低下することはない。これは、水接触角が大きいことにより撥水塗膜1の表面に汚れが付着しにくいことによると考えられる。
【0036】
一方、図4中の三角マークは、本発明の撥水塗膜1から顔料3を除いた塗膜(フッ素塗膜)について、比較例として屋外暴露時間に応じた水接触角の変化を測定したものである。図4から分かるように、斯かる塗膜の水接触は、暴露初期においては約115°となっているが、暴露時間の経過に伴って徐々に水接触角が低下し、遂にはフッ素を含有していない塗膜と同様な水接触角となってしまう。これは、暴露初期においても十分に水接触角が大きくないため、暴露時間経過に伴って塗膜表面上に徐々に汚れが付着し、これによって水接触角が低下するためであると考えられる。
【0037】
以上より、本発明の撥水塗膜1は、屋外暴露時間に対する耐久性も高いことが分かる。すなわち、本発明の撥水塗膜1は、ワイピングおよび屋外暴露に対する耐久性が高く、よって本発明によれば耐久性の高い塗膜が実現される。
【0038】
なお、上述したように本発明の撥水塗膜1では、撥水塗膜1の塗装直後から全ての顔料3または一部の顔料3の先端部が塗膜層2の表面から突出しているのが好ましいが、塗装直後には顔料3の先端部の全てが塗膜層2の表面から突出しておらず、塗膜層2の表面がワイピングや研磨等により削られることによって先端部が塗膜層2の表面から徐々に突出してくるように撥水塗膜1を形成してもよい。すなわち、塗装直後には顔料3全てが塗膜層2内に完全に埋め込まれていてもよい。
【0039】
次に、図5を参照して、本発明の第一実施形態の撥水塗膜1の製造方法について説明する。まず、図5に示したように、被塗物である鉄板10の背後に磁石または電磁石11を配置することにより、鉄板10を一時的に磁化させる。そして、上述したように顔料基材4の一方の端部に磁性材料5が配置された顔料3を上述したクリア塗料中に混合したものを、鉄板10の塗装面上に塗装する。このとき、磁性材料5が設けられた顔料3の端部が、磁化された鉄板10により引き寄せられて鉄板10に近づこうとするため、顔料3は磁性材料5が鉄板10に近接するように鉄板10に対してほぼ垂直に配向せしめられる。その後、鉄板10から磁石11を取り外すと共に塗料を乾燥させることにより上述したような撥水塗膜1を製造することができる。
【0040】
次に、図6および図7を参照して、本発明の第一実施形態の撥水塗膜1で用いられる顔料3の製造方法について説明する。まず、図6(a)に示したように、(被塗物ではない)鉄板(電極)20の裏面に磁石(または電磁石)21を配置して鉄板20を一時的に磁化させ、その状態で鉄板20の表面に向かって直径約0.5μmの球状の磁性粒子22を噴霧等により近接させる。噴霧等された磁性粒子22は、図6(b)に示したように、磁化された鉄板20の磁力により鉄板20の表面上にほぼ一様に整列せしめられる。その後、磁石21を鉄板の裏面に配置したまま、図6(c)に示したように、磁性粒子22で覆われた鉄板20の表面に向かって接着剤を噴霧する。これにより、図6(d)に示したように、鉄板20と対面している側とは反対側の磁性粒子22の表面上に接着剤23が塗布される。
【0041】
その後、図7(a)に示したように鉄板20をプラスに印加し、直径約0.5μm、長さ約10μmの針状の顔料基材24をマイナスに帯電させると、針状の顔料基材24は起毛塗装のように鉄板20の表面上に(実際には、鉄板20の表面上に配置された磁性粒子22上に)、垂直に吸着せしめられる(図7(b)参照)。すなわち、針状の顔料基材24の一方の端部に接着剤23を介して磁性粒子22が結合せしめられる。そして、図7(c)に示したように、鉄板20の裏面に配置されていた磁石21を取り除くことによって、鉄板20から顔料基材24と接着剤23と磁性粒子22との結合体、すなわち顔料3が形成せしめられる。このようにして形成された顔料3は、そのままクリア塗料中に混合して上述したように鉄板10の塗装面上に塗装してもよいが、疎水性処理(パーフルオロアルキルシラン等)を行ってもよい。このように疎水性処理を行うことで、顔料3自体の撥水性が向上せしめられ、よって撥水塗膜1の水接触角を更に大きいものとすることができる。
【0042】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態の撥水塗膜30は基本的に第一実施形態の撥水塗膜1と同様であるが、顔料31が顔料基材4と誘電体32とから形成される点で第一実施形態の撥水塗膜1と異なる。すなわち、第二実施形態においては、各顔料31は、その軸線方向における一方の端部が誘電体32で形成されている。誘電体32としては、顔料31よりもマイナスに帯電しやすい物質が用いられ、例えば、フッ素樹脂、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン等が用いられる。特に、誘電体32は、塗膜層2を形成するクリア塗料よりもマイナスに帯電しやすい物質であるのが好ましい。誘電体32は、後述するように顔料基材4に対して接着剤により結合せしめられる。なお、誘電体32は、溶接等他の方法によって顔料基材4に結合されてもよい。
【0043】
そして、本実施形態でも第一実施形態と同様に、ほぼ全ての顔料31はその長手軸線が塗膜層2の表面に対して所定角度(好ましくは垂直)となるように配向せしめられ、誘電体32が設けられた側の端部が鉄板10に近接するように配置される。また、第一実施形態と同様に、全ての顔料31のうちの少なくとも一部の顔料が塗膜層2の表面から突出せしめられる。このため、第一実施形態の撥水塗膜1と同様に、第二実施形態の撥水塗膜30においても水接触角が大きく且つ耐久性の高い塗膜が実現される。
【0044】
図8を参照して、本発明の第二実施形態の撥水塗膜30の製造方法について説明する。撥水塗膜30の製造は、上述したように顔料基材4の一方の端部に誘電体32が配置された顔料31を上述したクリア塗料中に混合したものを、鉄板10の塗装面上に静電塗装することによって行われる。静電塗装においては顔料31を含む塗料を鉄板10の塗装面に塗装する際に放電等により塗料が帯電せしめられる。このとき、誘電体32は、マイナスに帯電し易い物質で形成されているため、顔料基材4および周囲のクリア塗料よりも強くマイナスに帯電する。このように塗料がマイナスに帯電せしめられると、被塗物である鉄板10は相対的にプラス電位となる。これにより、誘電体32が設けられた顔料31の端部が、相対的にプラス電位となっている鉄板10により引き寄せられて鉄板10に近づこうとするため、顔料31は誘電体32が鉄板10に近接するように鉄板10に対してほぼ垂直に配向せしめられる。その後、塗料を乾燥させることにより上述したような撥水塗膜30を製造することができる。
【0045】
次に、図9を参照して、本発明の第二実施形態の撥水塗膜30で用いられる顔料31の製造方法について説明する。まず、図9(a)に示したように、(被塗物ではない)鉄板(電極)35に電圧を印加して鉄板35をプラスに帯電させ、その状態で鉄板35の表面に向かって直径約0.5μm、長さ約0.5μmの円柱状の誘電体粒子36を噴霧等により近接させる。噴霧等された誘電体粒子36は、プラスに帯電している鉄板35に引き寄せられて、図9(b)に示したように鉄板35の表面上にほぼ一様に整列せしめられる。その後、鉄板35に電圧を印加したまま、図9(c)に示したように、誘電体粒子36で覆われた鉄板35の表面に向かって接着剤を噴霧する。これにより、図9(d)に示したように、鉄板35と対面している側とは反対側の誘電体粒子36の表面上に接着剤37が塗布される。
【0046】
その後、図7に示した方法と同様に、鉄板35をプラスに帯電させたまま、直径約0.5μm、長さ約10μmの針状の顔料基材24をマイナスに帯電させると、針状の顔料基材24は起毛塗装のように鉄板20の表面上に垂直に吸着せしめられる。すなわち、針状の顔料基材24の一方の端部に接着剤37を介して誘電体粒子36が結合せしめられ、顔料31が形成せしめられる。このようにして形成された顔料31は、そのままクリア塗料中に混合して上述したように鉄板10の塗装面上に塗装してもよいが、疎水性処理(パーフルオロアルキルシラン等)を行ってもよい。
【0047】
なお、本明細書中における「ほぼ全て」という用語は、基本的に全てを意味するが、現実的には多少の誤差があるためその分は排除することを意味する。すなわち、ほぼ全ての顔料は所定角度となるように配向せしめられるという表現は、基本的には全ての顔料が所定角度となるように配向せしめられるが、多少の誤差により例外的に所定角度にならない顔料もあり、そのような顔料を含まないことを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の撥水塗膜を概略的に示した図である。
【図2】撥水塗膜中の顔料の含有量と水接触角との関係を示した図である。
【図3】撥水塗膜のワイピング回数と水接触角との関係を示した図である。
【図4】撥水塗膜の屋外暴露時間と水接触角との関係を示した図である。
【図5】本発明の第一実施形態の撥水塗膜の製造方法を説明するための図である。
【図6】本発明の第一実施形態の撥水塗膜で用いられる顔料の製造方法を説明するための図である。
【図7】本発明の第一実施形態の撥水塗膜で用いられる顔料の製造方法を説明するための図である。
【図8】本発明の第二実施形態の撥水塗膜の製造方法を説明するための図である。
【図9】本発明の第二実施形態の撥水塗膜で用いられる顔料の製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0049】
1 撥水塗膜
2 塗膜層
3 顔料
4 顔料基材
5 磁性材料
10 鉄板(被塗物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物の塗装面上に塗料によって形成される塗膜層と、該塗膜層内に分散せしめられる細長い顔料とを具備する撥水塗膜において、
ほぼ全ての顔料は、その長手軸線が上記塗膜層表面に対して所定角度となるように上記顔料が配向せしめられると共にこれら顔料の少なくとも一部が上記塗膜層表面から突出せしめられる撥水塗膜。
【請求項2】
上記所定角度が垂直である請求項1に記載の撥水塗膜。
【請求項3】
上記顔料は当該撥水塗膜中に15〜25wt%含有される請求項1または2に記載の撥水塗膜。
【請求項4】
上記顔料の軸線方向における一方の端部が磁性材料で形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の撥水塗膜。
【請求項5】
被塗物を磁化させた状態で上記顔料を含有する塗料を該被塗物の塗装面に塗装することで、上記塗膜層内において上記顔料が配向せしめられる請求項4に記載の撥水塗膜。
【請求項6】
上記顔料は、磁化された電極上に磁性材料がほぼ均一に付着している状態で磁性材料に接着剤を塗布し、その後、上記電極を帯電させることで顔料基材が磁性材料上に接着されることにより形成される請求項4または5に記載の撥水塗膜。
【請求項7】
上記顔料の軸線方向における一方の端部が誘電体で形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の撥水塗膜。
【請求項8】
被塗物を帯電させた状態で上記顔料を含有する塗料を該被塗物の塗装面に塗装することで、上記塗膜層内において上記顔料が配向せしめられる請求項7に記載の撥水塗膜。
【請求項9】
上記顔料は、電圧が印加された電極上に誘電体がほぼ均一に付着している状態で誘電体に接着剤を塗布し、その後、上記電極を帯電させることで顔料基材が誘電体上に接着されることにより形成される請求項7または8に記載の撥水塗膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−205001(P2006−205001A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18202(P2005−18202)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】