説明

撥水層の製造方法、撥水フィルムの製造方法、撥水層および撥水フィルム

【課題】 撥水性に優れる撥水層を、真空排気やガス置換等を行うことなく、簡易な条件および装置で製造することができる撥水層の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の撥水層の製造方法は、フッ素を含有する撥水層の製造方法であって、大気圧下、フッ素原子および水素原子を含むガス、ならびに不活性ガスを含むガス中において、プラズマ放電処理により、フッ素含有層を形成するフッ素含有層形成工程と、前記フッ素含有層の表面に溶剤を接触させる溶剤処理工程とを含み、前記フッ素含有層形成工程の前記ガス中の前記フッ素原子数(X)および前記水素原子数(Y)の割合(X/Y)が、8以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水層の製造方法、撥水フィルムの製造方法、撥水層および撥水フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フィルム等の基材の撥水性を高めるために、フッ素等を湿式コーティングする方法が、一般的に用いられている。しかし、塗工液等に溶剤を使用するため環境負荷が高く、非溶剤化への転換が求められている。一方、乾式処理による方法としては、例えば、大気圧近傍でのプラズマ放電処理時にフッ素を用いることで、基材表面をフッ素化する方法(特許文献1参照)、基材上にフッ素を含む層を形成する方法(特許文献2参照)、および基材上にフッ素を含む凝集体を形成することで撥水性薄膜表面に凹凸を形成することにより、撥水性を高める方法(特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3465999号公報
【特許文献2】特開平8−188663号公報
【特許文献3】特開2007−308752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法には、基材表面をフッ素化処理するため、その撥水性が基材の影響を受けるという問題があった。また、特許文献2に記載の方法には、基材にモノマーを付着させる工程が必要であるため、生産性に優れず、また、例えば、高撥水性(例えば、水の接触角が110°以上)のものを得ることが困難であるという問題があった。また、特許文献3に記載の方法には、プラズマ放電処理に回転電極という特別な電極を使用し、この回転電極に100kHz以上という高い周波数の高周波電圧を印加する必要があるため、装置が煩雑かつ高価になるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、撥水性に優れる撥水層を、真空排気やガス置換等を行うことなく、簡易な条件および装置で製造することができる撥水層の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の撥水層の製造方法は、
フッ素を含有する撥水層の製造方法であって、
大気圧下、フッ素原子および水素原子を含むガス、ならびに不活性ガスを含むガス中において、プラズマ放電処理により、フッ素含有層を形成するフッ素含有層形成工程と、
前記フッ素含有層の表面に溶剤を接触させる溶剤処理工程とを含み、
前記フッ素含有層形成工程の前記ガス中の前記フッ素原子数(X)および前記水素原子数(Y)の割合(X/Y)が、8以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
前述のとおり、本発明の撥水層の製造方法は、大気圧下、前記所定の割合でフッ素原子および水素原子を含むガス、ならびに不活性ガスを含むガス中において、プラズマ放電処理を実施することで、フッ素含有層を形成し、形成されたフッ素含有層の表面に溶剤を接触させる。これにより、例えば、水の接触角が110°以上の高撥水性を有する撥水層を製造することが可能である。また、本発明の撥水層の製造方法によれば、例えば、一般的な装置を用いて、簡易な条件により撥水層を製造することが可能である。このため、本発明の撥水層の製造方法は、生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、フッ素含有層形成工程を実施する装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、実施例1における溶剤処理工程実施前のフィルムのTEM写真である。
【図3】図3は、実施例1における溶剤処理工程実施後のフィルムのTEM写真である。
【図4】図4は、実施例1における溶剤処理工程実施前のフィルムにおけるフッ素含有層の表面の原子間力顕微鏡像である。
【図5】図5は、実施例1における溶剤処理工程実施後のフィルムにおけるフッ素含有層の表面の原子間力顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の撥水層の製造方法において、前記フッ素含有層形成工程における前記フッ素原子および水素原子を含むガスは、下記(A)および(B)の少なくとも一方のガスを含むことが好ましい。
(A)フッ素原子および水素原子を含む化合物のガス
(B)フッ素含有ガスおよび水素含有ガスの混合ガス
【0010】
本発明の撥水層の製造方法の前記フッ素含有層形成工程において、基材の上に前記フッ素含有層を形成することが好ましい。
【0011】
本発明の撥水フィルムの製造方法は、基材フィルムの上に撥水層が形成された撥水フィルムの製造方法であって、前記基材フィルムの上に、前記本発明の撥水層の製造方法により撥水層を形成することを特徴とする。
【0012】
本発明の撥水層は、フッ素を含有する撥水層であって、前記本発明の撥水層の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0013】
本発明の撥水層の表面において、フッ素原子含有割合は、40原子%以上であり、算術平均表面粗さRa(JIS B 0601:1994年版)は、2nm以上であり、かつ、水の接触角は、110°以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の撥水フィルムは、基材フィルムの上に撥水層が形成された撥水フィルムであって、前記撥水層は、前記本発明の撥水層を含むことを特徴とする。
【0015】
つぎに、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の記載により制限されない。
【0016】
1.撥水層の製造方法
前述のように、本発明の製造方法は、フッ素含有層形成工程と溶剤処理工程とを含む。
【0017】
1−1.フッ素含有層形成工程
図1に、本工程を実施する装置の構成の一例を示す。図示のとおり、この装置10は、電源11、処理容器12、上部電極13、下部電極14、フッ素含有ガス導入管16、水素含有ガス導入管17および不活性ガス導入管18を主要な構成部材として備える。前記処理容器12内には、前記上部電極13および前記下部電極14が、対向するように配置され、前記電源11に接続されている。前記上部電極13および前記下部電極14は、特別な形状のものである必要はなく、一般的な平行平板タイプの電極でよい。基材15は、前記下部電極14の上面に配置されている。前記フッ素含有ガス導入管16、前記水素含有ガス導入管17および前記不活性ガス導入管18は、前記上部電極13と前記下部電極14との間の空間(プラズマ発生部)に、例えば、フッ素含有ガスと水素含有ガスと不活性ガスとを供給できるように、それぞれ配置されている。この装置10は、さらに排出口19を備える。前記上部電極13および前記下部電極14の少なくとも一方は、誘電体に覆われている。すなわち、この装置10は、誘電体バリア放電処理を実施することができる装置である。
【0018】
本工程において、基材の上にフッ素含有層を形成することが好ましい。前記基材は、特に限定されない。前記基材としては、例えば、アルミニウム、銅、ステンレス等の金属基材;ガラス、シリコン等のセラミックス基材;合成樹脂等の有機高分子基材等があげられる。前記基材は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、前記基材の形状も、特に限定されない。前記基材の形状としては、例えば、シート状、フィルム状、前記基材の成形品や完成品等があげられる。前記基材の形状がシート状またはフィルム状である場合には、前記基材は、枚葉であっても、ロールであってもよい。前記基材として、前記有機高分子基材を用いる場合は、その形状がフィルム状であってもよい。以下、フィルム状の有機高分子基材を、基材フィルムということがある。
【0019】
前述のとおり、本工程は、大気圧下、前記所定の割合でフッ素原子および水素原子を含むガス、ならびに不活性ガスを含むガス中において実施する。前記割合(X/Y)は、好ましくは0.1〜6の範囲であり、より好ましくは0.5〜3.5の範囲である。
【0020】
本工程における前記フッ素原子および水素原子を含むガスは、前記(A)および(B)の少なくとも一方のガスを含むことが好ましい。前記フッ素原子および水素原子を含む化合物のガス(A)としては、例えば、ハイドロフルオロカーボン系(HFC系)ガスまたはハイドロクロロフルオロカーボン系(HCFC系)ガスがあげられる。前記HFC系ガスとしては、例えば、フルオロメタン(CHF)、ジフルオロメタン(CH)、トリフルオロメタン(CHF)、1,2,2,2−テトラフルオロエタン(CHFCF)、1,1,2,2,2−ペンタフルオロエタン(CHFCF)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(CFCHCF)等のガスがあげられる。前記HFC系ガスは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。前記HCFC系ガスとしては、例えば、クロロジフルオロメタン(CHClF)、1−クロロ−1,2,2,2−テトラフルオロエタン(CHClFCF)、クロロジフルオロエタン(CHCClF)等のガスがあげられる。前記HCFC系ガスは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、前記HFC系ガスと前記HCFC系ガスとを、併用してもよい。
【0021】
前記(B)のフッ素含有ガスとしては、例えば、パーフルオロカーボン系(PFC系)ガス、前記HFC系ガス、前記HCFC系ガス、六フッ化硫黄(SF)ガス等があげられる。前記PFC系ガスとしては、例えば、パーフルオロメタン(CF)、パーフルオロエタン(C)、パーフルオロプロパン(C)、パーフルオロブタン(C10)、パーフルオロペンタン(C12)、パーフルオロヘキサン(C14)、パーフルオロシクロブタン(c−C)等のガスがあげられる。前記PFC系ガスは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
前記(B)の水素含有ガスとしては、例えば、水素(H)ガス;炭化水素(C)ガス;メタノール、エタノール等のアルコール類(CO)のガス等があげられる。前記炭化水素(C)ガスとしては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン等のアルカン類;エチレン、プロピレン、ブテン等のアルケン類;アセチレン等のアルキン類等があげられる。前記水素含有ガスは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
前記不活性ガスとしては、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、窒素等があげられる。前記不活性ガスは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
前記(A)および前記(B)のフッ素含有ガスの少なくとも一方のガスと前記不活性ガスとの割合(前記(A)および前記(B)のフッ素含有ガスの少なくとも一方のガス:前記不活性ガス)は、特に限定されない。前記割合は、前記不活性ガスに対する前記(A)および(B)の少なくとも一方のガスの体積%として、0.1〜10体積%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5〜8体積%の範囲であり、さらに好ましくは1〜5体積%の範囲である。
【0025】
前述のとおり、本工程におけるプラズマ処理を実施する圧力条件は、大気圧下である。前記大気圧下とは、大気圧近傍を含み、具体的には、例えば、0.09〜0.12MPaの範囲である。また、本工程を実施する際の前記基材の温度は、前記基材に影響を与えない温度であればよく、好ましくは、20〜50℃の範囲であり、例えば、室温であってもよい。
【0026】
前記装置10を用いた前記フッ素含有層形成工程は、例えば、つぎのように実施される。この例においては、本工程における前記フッ素原子および水素原子を含むガスが、前記(B)を含む場合として説明する。
【0027】
まず、前記基材15を、前記所定の温度に維持した状態で、前記フッ素含有ガス導入管16、前記水素含有ガス導入管17および前記不活性ガス導入管18から、それぞれ、前記フッ素含有ガス、前記水素含有ガスおよび前記不活性ガスを、前記処理容器12内に供給することで本工程におけるガスを形成する。過剰量のガスは、前記排出口19を通じて排出される。なお、この例においては、前記ガスを形成するにあたり、真空排気やガス置換等を実施しなくてもよい。このため、簡易な条件や装置で前記フッ素含有層を形成することが可能である。
【0028】
この例においては、前記フッ素含有ガスの供給量(流量)および前記水素含有ガスの供給量(流量)を調節することで、前記ガスに含まれるフッ素原子数(X)と水素原子数(Y)との割合(X/Y)を調節することが可能である。前記割合(X/Y)は、例えば、前記フッ素含有ガスが1,2,2,2−テトラフルオロエタン(CHFCF)ガスであり、前記水素含有ガスが水素(H)ガスである場合は、下記式(I)のように計算することができる。

(I) X/Y=4a/(2a+2b)

a:前記1,2,2,2−テトラフルオロエタン(CHFCF)ガスの供給量(流量)
b:前記水素(H)ガスの供給量(流量)

【0029】
ついで、前記上部電極13と前記下部電極14との間に電圧を印加して、プラズマを発生させることにより、前記基材15上に前記フッ素含有層を形成する。前記電源11としては、例えば、100kHz未満の、好ましくは1kHz以上100kHz未満の範囲、より好ましくは1〜50kHzの範囲の交流電源を使用でき、これをパルス化した電源を使用してもよい。
【0030】
前記上部電極13と前記下部電極14との間の距離は、放電を維持できる距離であればよく、1〜3mmの範囲が一般的である。
【0031】
本工程において形成されるフッ素含有層の厚みは、特に限定されない。前記厚みとしては、例えば、3〜1000nmの範囲であり、好ましくは4〜500nmの範囲であり、より好ましくは5〜300nmの範囲である。
【0032】
本工程におけるプラズマ放電処理の処理時間(プラズマ放電処理時間(秒))および処理電力(プラズマ放電処理電力(W))は、特に制限されず、前述のフッ素含有層を形成可能であればよい。また、前記プラズマ放電処理時間とプラズマ放電処理電力とから算出される、単位面積あたりのプラズマ照射エネルギー量(プラズマ処理量(J/cm))は、特に制限されず、前述のフッ素含有層を形成可能であればよい。前記プラズマ処理量を調整することにより、前述のフッ素含有層の厚みを調整可能である。前記プラズマ処理量は、例えば、0.1〜5000J/cmの範囲であり、好ましくは0.5〜1000J/cmの範囲であり、より好ましくは1〜500J/cmの範囲である。
【0033】
なお、この例においては、前記基材は、枚葉のものを用いている。ただし、本発明の製造方法は、この例に限定されない。本発明の製造方法は、前記装置を連続生産可能な装置とし、前記基材としてロール状のものを用いることで、前記フッ素含有層を連続的に形成することも可能である。
【0034】
1−2.溶剤処理工程
本工程において、前記フッ素含有層形成工程において形成されたフッ素含有層の表面に溶剤を接触させる。本工程を実施することで、前記フッ素含有層の表面が凹凸化される。
【0035】
前記溶剤は、特に限定されない。前記基材の上に前記フッ素含有層を形成した場合には、前記基材に影響を及ぼすものでなければよい。前記溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;水等があげられる。溶剤を接触させる方法は、特に限定されない。前記接触方法は、例えば、前記形成されたフッ素含有層を、前記溶剤に浸漬してもよいし、前記溶剤で洗い流してもよいし、前記形成されたフッ素含有層を溶剤に浸漬した状態で、超音波処理を実施してもよい。前記処理時間は、特に制限されず、例えば、接触方法に応じて適宜決定すればよい。
【0036】
本発明の撥水層の製造方法において、前記溶剤処理工程後のフッ素含有層表面の水の接触角が、前記溶剤処理工程前の水の接触角より高いことが好ましい。
【0037】
前記溶剤処理工程後、前記溶剤を乾燥させる方法は、特に限定されない。例えば、自然乾燥させてもよいし、ドライヤーやデシケータ等を用いて乾燥させてもよい。
【0038】
このようにして、真空排気やガス置換等を行うことなくプラズマ放電処理を実施し、かつ、溶剤で処理する等の簡易な条件および装置で、撥水性に優れ、かつ、耐久性にも優れたフッ素含有層を製造することが可能である。
【0039】
2.撥水フィルムの製造方法
前述のとおり、本発明の撥水フィルムの製造方法は、基材フィルムの上に撥水層が形成された撥水フィルムの製造方法であって、前記基材フィルムの上に、前記本発明の撥水層の製造方法により撥水層を形成することを特徴とする。前記基材フィルムは、例えば、溶剤処理工程において用いる溶剤の影響を受けないものであればよい。前記基材フィルムの形成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系高分子等があげられる。前記基材フィルムの厚みは、例えば、5〜400μmの範囲であり、好ましくは15〜300μmの範囲であり、より好ましくは20〜200μmの範囲である。
【0040】
本発明の撥水フィルムの製造方法は、例えば、図1に示す前記装置における基材15を前記基材フィルムとすること以外は、前記本発明の撥水層の製造方法と同様に実施することができる。また、本発明の撥水フィルムの製造方法は、前記装置を連続生産可能な装置とし、前記基材フィルムとしてロール状のものを用いることで、前記フッ素含有層を連続的に形成することも可能である。
【0041】
3.撥水層
前述のとおり、本発明の撥水層は、フッ素を含有する撥水層であって、前記本発明の撥水層の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0042】
本発明の撥水層の表面において、フッ素原子含有割合は、40原子%以上であることが好ましい。前記フッ素原子含有割合は、例えば、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。前記フッ素原子含有割合は、42原子%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは45原子%以上である。
【0043】
本発明の撥水層の表面において、JIS B 0601(1994年版)に規定される算術平均表面粗さRaは、2nm以上であることが好ましい。前記算術平均表面粗さRaは、例えば、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。前記算術平均表面粗さRaを、前記範囲とすることで、より撥水性に優れ、かつ、耐久性にも優れる撥水層を得ることができる。前記算術平均表面粗さRaは、より好ましくは2〜100nmの範囲であり、さらに好ましくは2〜10nmの範囲である。
【0044】
本発明の撥水層の表面において、水の接触角は、110°以上であることが好ましく、より好ましくは113°以上であり、さらに好ましくは115°以上である。
【0045】
前記撥水層の厚みは、特に限定されない。前記厚みは、例えば、1〜1000nmの範囲であり、好ましくは2〜500nmの範囲であり、より好ましくは5〜300nmの範囲である。
【0046】
4.撥水フィルム
前述のとおり、本発明の撥水フィルムは、基材フィルムの上に撥水層が形成された撥水フィルムであって、前記撥水層が、前記本発明の撥水層を含むことを特徴とする。前記基材フィルムとしては、前述のものと同様のものがあげられる。
【実施例】
【0047】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例によってなんら限定ないし制限されない。また、各実施例および各比較例における各種特性および物性の測定および評価は、下記の方法により実施した。
【0048】
(算術平均表面粗さRa)
実施例および比較例の撥水フィルムにおける撥水層の表面の算術平均表面粗さRaを、原子間力顕微鏡(VEECO社製、商品名:Dimension3100およびNanoscopeV)を用いて得られた断面情報を元に求めた。測定レンジは、2μm×2μmとした。前記算術平均表面粗さRaは、JIS B 0601(1994年度版)に基づくものである。また、溶剤処理工程前のフィルムについても、同様にして求めた。
【0049】
(水の接触角)
実施例および比較例の撥水フィルムにおける撥水層の表面の水の接触角は、接触角計(
協和界面科学株式会社製、商品名:DropMaster DM500)を用いて、次の
ようにして測定した。すなわち、前記撥水フィルム表面に、蒸留水1μLを滴下し、5秒
後の接触角を測定した。また、溶剤処理工程前のフィルムについても、同様にして測定し
た。
【0050】
(フッ素原子含有割合)
実施例および比較例の撥水フィルムにおける撥水層の表面のフッ素原子含有割合は、X線光電子分光装置(アルバック・ファイ株式会社製、商品名:Quantum2000)を用いて、X線光電子分光法により測定した。X線源には、モノクロ化したAlKα線(200μmφ、30W、15kV)を用いた。測定深さを、6mmとした。また、溶剤処理工程前のフィルムについても、同様にして測定した。
【0051】
(フッ素含有層の断面観察)
実施例および比較例の撥水フィルムの断面観察は、透過型電子顕微鏡(TEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ製、商品名:H−7650)を用いて行った。また、溶剤処理工程前のフィルムについても、同様にして行った。
【0052】
[実施例1]
〔基材フィルムの準備〕
基材フィルムとして、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、厚み:125μm、三菱樹脂株式会社製、商品名:ダイアホイル O300E)を準備した。前記PETフィルムのサイズは、200mm×130mmとした。
【0053】
〔フッ素含有層形成工程〕
図1に示す装置の前記上部電極13と前記下部電極14との間に、前記PETフィルムを配置した。前記両電極間の距離は、1mmとした。前記PETフィルムの温度を、30℃に維持した。ついで、不活性ガス導入管18からアルゴンガスを、フッ素含有ガス導入管16からヘキサフルオロエタン(C)ガスを、水素含有ガス導入管17から水素(H)ガスを、それぞれ、前記製造装置に供給することで本工程におけるガスを形成した。この状態で、前記上部電極13と前記下部電極14との間に、30kHz、15kVの高周波パルスを印加することにより、プラズマを発生させた。このようにして、前記PETフィルム上にフッ素含有層を形成した。この際、アルゴンガスの供給量(流量)は、10000sccm(10000×1.69×10−3Pa・m/秒)、ヘキサフルオロエタン(C)ガスの供給量(流量)は、100sccm(100×1.69×10−3Pa・m/秒)、水素(H)ガスの供給量(流量)は、100sccm(100×1.69×10−3Pa・m/秒)とした。前記ガス中のフッ素原子数(X)および水素原子数(Y)の割合(X/Y)は、3であった。また、プラズマ処理量は、70J/cmとした。
【0054】
〔溶剤処理工程〕
つぎに、前記フッ素含有層形成工程後のPETフィルムを、前記処理容器12から取り出した。ついで、前記PETフィルムをメタノールに浸漬した。この状態で、超音波処理(振幅:40kHz)を1分間実施した。前記溶剤処理工程後のPETフィルムを、真空デシケータ中で充分に乾燥させ、本実施例の撥水フィルムを得た。
【0055】
[実施例2]
前記ヘキサフルオロエタン(C)ガスに代えて、1,2,2,2−テトラフルオロエタン(CHFCF)ガスとし、その供給量(流量)を、300sccm(300×1.69×10−3Pa・m/秒)としたこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の撥水フィルムを得た。前記ガス中のフッ素原子数(X)および水素原子数(Y)の割合(X/Y)は、2.0であった。
【0056】
[比較例1]
前記ヘキサフルオロエタン(C)ガスの供給量(流量)を、500sccm(5
00×1.69×10−3Pa・m/秒)としたこと以外は、実施例1と同様にして、
本比較例の撥水フィルムを得た。前記ガス中のフッ素原子数(X)および水素原子数(Y
)の割合(X/Y)は、15であった。
【0057】
[比較例2]
前記ヘキサフルオロエタン(C)ガスに代えて、パーフルオロメタン(CF)ガスとし、その供給量(流量)を、500sccm(500×1.69×10−3Pa・m/秒)とし、水素(H)ガスの供給量(流量)を、70sccm(70×1.69×10−3Pa・m/秒)としたこと以外は、実施例1と同様にして、本比較例の撥水フィルムを得た。前記ガス中のフッ素原子数(X)および水素原子数(Y)の割合(X/Y)は、14.3であった。
【0058】
[比較例3]
前記ヘキサフルオロエタン(C)ガスの供給量(流量)を、200sccm(200×1.69×10−3Pa・m/秒)とし、水素(H)ガスを供給しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、本比較例の撥水フィルムを得た。
【0059】
実施例および比較例の撥水フィルムの各種特性および物性の測定結果を、下記表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
前記表1に示すように、前記ガス中のフッ素原子数(X)および水素原子数(Y)の割合(X/Y)が、8以下であった実施例1の撥水フィルムでは、前記溶剤処理工程実施前のフィルムにおける水の接触角が、100°であったのに対し、前記溶剤処理工程実施後のフィルムにおける水の接触角は、116°に向上した。また、前記HFC系ガスである1,2,2,2−テトラフルオロエタン(CHFCF)ガスを用いた実施例2の撥水フィルムでは、溶剤処理工程実施後のフィルムにおける水の接触角は、118°に向上した。
【0062】
図2に、実施例1における溶剤処理工程実施前のフィルムのTEM写真を示す。図示のように、前記フッ素含有層形成工程により、前記PETフィルム上に前記フッ素含有層が形成されていることが確認できた。また、図3に、実施例1における溶剤処理工程実施後のフィルムのTEM写真を示す。図示のように、前記溶剤処理工程後のフィルムにおいても、前記フッ素含有層が残存していることが確認できた。
【0063】
図4に、実施例1における溶剤処理工程実施前のフィルムにおけるフッ素含有層の表面の原子間力顕微鏡像(2μm角スキャン、Zスケール:30nm)を示す。また、図5に、実施例1における溶剤処理工程実施後のフィルムにおけるフッ素含有層の表面の原子間力顕微鏡像(2μm角スキャン、Zスケール:30nm)を示す。前記両図において、原子間力顕微鏡像における濃淡は、Zスケールの高低を示し、前記Zスケールの高い箇所は、薄く示されている。図4に示すとおり、前記原子間力顕微鏡像には、ほとんど濃淡が見られなかった。すなわち、前記溶剤処理工程実施前のフィルムにおけるフッ素含有層の表面は、ほぼ平滑であることがわかった。一方、図5に示すとおり、前記原子間力顕微鏡像には、微細な濃淡が多数見られた。すなわち、前記溶剤処理工程実施後のフィルムにおけるフッ素含有層の表面は、微細に凹凸化されていることがわかった。
【0064】
一方、前記ガス中のフッ素原子数(X)および水素原子数(Y)の割合(X/Y)が、8を超えた比較例1および2は、前記溶剤処理工程の実施による水の接触角の向上が見られず、撥水性が充分ではなかった。また、水素原子を含まないガス中でフッ素含有層積層工程を実施した比較例3は、前記溶剤処理工程の実施による水の接触角の向上が見られず、撥水性が充分ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明によれば、撥水性に優れ、かつ、耐久性に優れる撥水層を、真空排気やガス置換等を行うことなく、簡易な条件および装置で製造することができる。本発明の撥水層および撥水フィルムは、例えば、防汚性、防染性、防曇性、防水性などの機能を有するフィルムに使用することができ、その用途は限定されず、広い分野に適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 製造装置
11 電源
12 処理容器
13 上部電極
14 下部電極
15 基材
16 フッ素含有ガス導入管
17 水素含有ガス導入管
18 不活性ガス導入管
19 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を含有する撥水層の製造方法であって、
大気圧下、フッ素原子および水素原子を含むガス、ならびに不活性ガスを含むガス中において、プラズマ放電処理により、フッ素含有層を形成するフッ素含有層形成工程と、
前記フッ素含有層の表面に溶剤を接触させる溶剤処理工程とを含み、
前記フッ素含有層形成工程の前記ガス中の前記フッ素原子数(X)および前記水素原子数(Y)の割合(X/Y)が、8以下であることを特徴とする撥水層の製造方法。
【請求項2】
前記フッ素含有層形成工程における前記フッ素原子および水素原子を含むガスが、下記(A)および(B)の少なくとも一方のガスを含む請求項1記載の撥水層の製造方法。
(A)フッ素原子および水素原子を含む化合物のガス
(B)フッ素含有ガスおよび水素含有ガスの混合ガス
【請求項3】
前記フッ素含有層形成工程において、基材の上に前記フッ素含有層を形成する請求項1または2記載の撥水層の製造方法。
【請求項4】
基材フィルムの上に撥水層が形成された撥水フィルムの製造方法であって、前記基材フィルムの上に、請求項1または2記載の製造方法により撥水層を形成することを特徴とする撥水フィルムの製造方法。
【請求項5】
フッ素を含有する撥水層であって、請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする撥水層。
【請求項6】
前記撥水層の表面において、フッ素原子含有割合が、40原子%以上であり、算術平均表面粗さRa(JIS B 0601:1994年版)が、2nm以上であり、かつ、水の接触角が、110°以上である請求項5記載の撥水層。
【請求項7】
基材フィルムの上に撥水層が形成された撥水フィルムであって、前記撥水層が、請求項5または6記載の撥水層を含むことを特徴とする撥水フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−270291(P2010−270291A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187033(P2009−187033)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】