説明

撥水性ポリエステル混繊糸

【課題】優れた撥水性能を有し、長期間の使用や繰返しの洗濯等により初期の撥水性が低下が少ない布帛とすることが可能な混繊糸を提供する。
【解決手段】ポリエステル延伸糸Aを鞘糸、ポリエステル延伸糸Bを芯糸として混繊交絡してなる芯鞘構造ポリエステル混繊糸であって、下記要件を満足することを特徴とするポリエステル混繊糸。
a)ポリエステル延伸糸Aが、沸水収縮率が8%以下、単糸繊度が1.5dtex以下であり、特定のエステル反応性シリコーンをポリエステル100重量部に対し2〜20重量部含有すること。
b)ポリエステル延伸糸Bが、ポリエステル延伸糸Aより沸水収縮率が2〜20%以上大きく、単糸繊度が1.5〜10dtexであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた撥水性を有する撥水性芯鞘構造ポリエステル混繊糸関する。更に詳しくは長期間に亘る使用においても撥水性の低下が少なく耐水性に優れた高密度織物に使用可能な混繊糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりポリエステル繊維製品への撥水性を付与する方法として、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂を含有する分散液等で布帛を処理して布帛表面にこれらの樹脂を付着させ、撥水処理を施すことは広く行われている(特開平5−106171号公報)。また織編物を高密度の緻密化構造とし、さらに撥水後加工処理を施す方法も提案されている(特公昭63−36380号公報、特公昭63−58942号公報)。しかしながら、これらの加工処理で得られた布帛には撥水性はあるものの、耐久性が低く、布帛の使用に伴って処理した樹脂が、その表面から脱落して撥水性を失い易いという欠点を有している。一方、十分な撥水耐久性を付与する程の量を処理すると布帛の風合いが硬くなるという問題点があった。そのためにポリエステル繊維のスポーツウェア等の撥水耐久性と風合いが共に要求される分野への応用が大きく制限されている。
【0003】
後加工での撥水処理に対し、特開昭62−238822号公報にはフッ素系樹脂を溶融混練して得られた繊維が提案され、特開平2−26919号公報にはフッ素系重合体微粒子を練り込んで得られた繊維が提案されている。また、特開平9−302523号公報および特開平9−302524号公報ではテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフルオリドの共重合体を撥水成分としてポリエステルに含有した繊維が提案されている。しかしながら、フッ素樹脂は一般に融点と分解点が近いため、長期のランニングでは分解熱劣化したポリマーが影響して、安定して良好な糸質の繊維を得ることが困難である。また、加熱によるフッ化水素の発生により装置を劣化させてしまう危険性やフッ素化合物を用いることによる環境負荷の増大の問題がある。
【0004】
一方で、フッ素系化合物を用いない方法として、特開2005−105424号公報では鞘成分に特定の反応性シリコーンを共重合したポリエステルを使用した芯鞘型複合繊維が開示されている。この方法である程度撥水性は耐久性があるものに出来るが、撥水性の程度はは十分でなく、高撥水性にするためには反応性シリコーンの含有量を上げる必要があり、そのため強度が低下するという相反する問題や、アルカリ減量により表面に微細孔を形成させると繊維強度もさらに低下するという問題があった。
【0005】
上記の通り、布帛とした際に均一で緻密な構造とすることが可能で、かつ撥水後加工処理を施さなくても十分な撥水性を有し、耐久性に優れたポリエステル混繊糸が大いに望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−106171号公報
【特許文献2】特公昭63−36380号公報
【特許文献3】特公昭63−58942号公報
【特許文献4】特開昭62−238822号公報
【特許文献5】特開平2−26919号公報
【特許文献6】特開平9−302523号公報
【特許文献7】特開平9−302524号公報
【特許文献8】特開2005−105424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来技術の有する課題を克服した、優れた撥水性能を有し、長期間の使用や繰返しの洗濯等により初期の撥水性が低下が少ない布帛とすることが可能な混繊糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、このような問題を解決するため検討した結果、本発明を完成した。
すなわち、本発明によれば、
ポリエステル延伸糸Aを鞘糸、ポリエステル延伸糸Bを芯糸として混繊交絡してなる芯鞘構造ポリエステル混繊糸であって、下記要件を満足することを特徴とするポリエステル混繊糸。
a)ポリエステル延伸糸Aが、沸水収縮率が8%以下、単糸繊度が1.5dtex以下であり、下記式(1)で表されるエステル反応性シリコーンをポリエステル100重量部に対し2〜20重量部含有すること。
b)ポリエステル延伸糸Bが、ポリエステル延伸糸Aより沸水収縮率が2〜20%大きく、単糸繊度が1.5〜10dtexであること。
【化1】

(上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。)
が提供される。
【0009】
また、ポリエステル延伸糸Bを構成するポリエステルの少なくとも1成分が上記エステル反応性シリコーンをポリマー100重量部に対し2〜20重量部含有する撥水性ポリエステル繊維、より好ましくはポリエステル延伸糸Bが鞘部ポリエステルが上記エステル反応性シリコーンをポリマー100重量部に対し2〜20重量部含有するポリエステルである芯鞘複合繊維である、混繊糸である。
【0010】
さらに別の態様として、該細繊度ポリエステルAとして、液量500plの純水を単繊維上にのせた際、単繊維と水滴との接触角が110度以上であるものを用い、混繊糸としての撥水性が、液量0.05μlの純水をのせた際、混繊糸と水滴との接触角が120度以上であることを特徴とする撥水性ポリエステル混繊糸、およびエステル反応性シリコーンのうち、ポリエステルと共重合しているものが、エステル反応性シリコーンの全重量に対して、20〜50重量%の範囲である撥水性ポリエステル混繊糸が提供される。
【発明の効果】
【0011】
特定のエステル形成性シリコーンを含有することにより、撥水性高密度化織物に好適な、優れた耐久撥水性と優れた風合いと独特の触感を併せもつポリエステル混繊糸を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の撥水性ポリエステル混繊糸ついて詳述する。
本発明の撥水性ポリエステル混繊糸は、芯糸と鞘糸からなる芯鞘構造の混繊糸である。鞘糸となるポリエステル延伸糸Aを構成するポリマーは、撥水性を発現する為、後述の通り、式(1)で示されるエステル反応性シリコーンを含有するポリエステルである必要があり、芯糸となるポリエステル延伸糸Bを構成するポリエステルは、混繊糸としての撥水性をさらに向上させる上で、式(1)のエステル反応性シリコーンを、2〜20重量部含有する撥水性ポリエステルであることが好ましい。
【0013】
【化2】

(上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。)
【0014】
さらに、芯糸であるポリエステル延伸糸Bは、鞘成分として該撥水性ポリエステルポリマー、芯成分としてエステル反応性シリコーンを含有しないポリエステルからなる芯鞘型複合繊維とすることが好ましく、撥水性に加えて、強度面、製糸性の面から好ましい。
【0015】
本発明に使用されるポリエステルは、ポリエステルを主体としてなり、芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールから形成される成分を主たる繰り返し単位とするポリエステルである。芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールを繰り返し単位とするポリエステルは対応する芳香族ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体ならびにジオールとから合成されるポリエステルであって、汎用樹脂としてその物性を損なわない範囲で目的に応じて他の成分が共重合されていても良い。
【0016】
エステル形成誘導体とは炭素数1〜6個の低級アルキルエステル、炭素数6〜12個の低級アリールエステル、酸ハロゲン化物を挙げることができる。主たる繰り返し単位とは、ポリエステルを構成する全繰り返し単位中70モル%がその芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールから形成される成分で構成されていることを表している。
【0017】
その芳香族ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、無水フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸、テレフタル酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、セバシン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、または5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸ジメチルなどを挙げることができる。またエステル形成性誘導体としては、上記のようなジメチルエステルその他の低級アルキルエステル以外に、酸塩化物を用いても良い。これらの中でも特に、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸ジメチルまたは2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルを用いることが好ましい。
【0018】
またジオールとして、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジメチロールプロピオン酸、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、またはポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールなどを挙げることができ、特にエチレングリコール、1,3−プロピレングリコールまたは、1,4−ブタンジオールを用いることが好ましい。
【0019】
これらのジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体ならびにジオールはそれぞれ1種ずつを単独で用いても、2種以上をを併用してもどちらでも良い。またこれらの好ましい組み合わせから得られるポリエステルである、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレート、ポリテトラメチレンー2,6−ナフタレートが本発明のポリエステルに好ましく用いられる。なかでも機械的性質、成形性等のバランスのとれたポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0020】
本発明の撥水性ポリエステル混繊糸の鞘部を構成するポリエステルポリマーには撥水性を付与する為、上述したポリエステルに下記式(1)で示されるエステル反応性シリコーンを含有するポリエステルを使用することが必要である。
【0021】
【化3】

(上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。)
【0022】
Rのアルキル基は炭素数18個以下、エステル反応性シリコーンの数平均分子量は10000以下であり、好ましくは300以上6000以下であることが好ましい。数平均分子量が10000より大きい場合は、ポリエステルとの相溶性が低下し、ポリエステル中に均一に存在させることが困難となる。
【0023】
さらに該エステル反応性シリコーンは、該撥水性ポリエステルに対して2〜20重量%含有されることが必要である。2重量%未満の場合には、繊維として十分な撥水性が得られず、20重量%を超える場合には、ポリエステルの有する物性が損なわれ、繊維としての強度が低下し、単糸繊度1.5dtex以下の繊維が製造困難となるばかりか、長期間のランニング時に安定した生産が困難となる。
【0024】
ここでエステル反応性シリコーンを含有するとは、エステル反応性シリコーンがポリエステルに対して化学結合により分子鎖に取り込まれ共重合されている状態と、ポリエステルとは化学結合せずにブレンド状態で存在する状態の双方を含んでいることを指す。共重合されていない成分はブレンド状態でポリエステル中に安定に存在し、繊維化での悪影響を及ぼさない。この理由は、エステル反応性シリコーンが共重合されたポリエステルが、未反応のエステル反応性シリコーン部分を安定化するのではないかと推定している。
【0025】
本発明ではポリマーが含有しているエステル反応性シリコーンのうち、ポリエステルと共重合しているものが、エステル反応性シリコーンの全重量に対して20〜50重量%であることが好ましい。20%未満ではブレンド状態のエステル反応性シリコーンのポリエステル中への分散性が悪化し、製糸性が低下し、50%を超える場合は物性が損なわれ、製糸性が低下し、毛羽が発生するなどの原因となる。エステル反応性シリコーンの共重合量は、エステル反応性シリコーンの全重量に対して好ましくは25〜40重量%である。
【0026】
本発明のエステル反応性シリコーン共重合ポリエステルを得る方法としては、公知の任意の方法で合成すればよい。例えば、ジカルボン酸成分がテレフタル酸の場合、テレフタル酸とアルキレングリコールとを直接エステル化反応させる方法と、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとアルキレングリコールとをエステル交換反応や又はテレフタル酸とアルキレンオキサイドを反応させる方法によってテレフタル酸のグリコールエステルを生成させる第一段の反応を行い、引続いて重合触媒の存在下に減圧加熱して所望の重合度になるまで重縮合させる第二段の反応によって製造する方法があるが、どちらの方法でも可能である。エステル反応性シリコーン化合物の添加時期は、共重合の割合を満足させる観点から、このポリエステルの重縮合反応の前から重縮合反応の終了以前に行なうのが好ましく、複数回に分けて添加しても良い。そして、この添加時期や添加量によって上記共重合しているエステル反応性シリコーン化合物の割合を調整することができる。
【0027】
上記エステル反応性シリコーン含有ポリエステルは、公知の方法により製糸することにより、本発明のポリエステル延伸糸Aあるいはポリエステル延伸糸Bとすることができる。例えば、得られたシリコーン含有ポリエステルを溶融状態で繊維状に押し出し、それを500〜3500m/分の速度で溶融紡糸し、延伸する方法、1000〜5000m/分の速度で溶融紡糸し、延伸する方法、5000m/分以上の高速で溶融紡糸する方法などが好ましく用いられる。
【0028】
ここで、ポリエステル延伸糸Aの沸水収縮率は8%以下であることが必要で、芯糸となるポリエステル延伸糸Bの沸水収縮率より小さく、ポリエステル延伸糸Aとポリエステル延伸糸Bの沸水収縮率差が2〜20%以上とすることが必要である。本発明の混繊糸は織編物とした後に収縮処理によって、混繊糸の芯糸を鞘糸以上に収縮させ、鞘糸を布帛表面に緻密なループ状に配し、布帛としての高密度化を図るものである。その為ポリエステル延伸糸Aの沸水収縮率が8%を超える場合は、混繊糸の嵩高性が得られず、織編物などの布帛とした後で鞘糸によるカバリング効果が得られなくなり、撥水性能が低下する。ポリエステル延伸糸Aの沸水収縮率は好ましくは2〜7%である。
【0029】
ポリエステル延伸糸Bとポリエステル延伸糸Aとの沸水収縮率差は2〜20%の範囲であることが必要で、沸水収縮率差が2%未満となると鞘糸、芯糸との収縮率差が不十分となり、嵩高性が低下し、逆に20%を超えると収縮差が大きくなりすぎて、織編物とした際に鞘糸の均一なループが形成されず撥水性が低下する。沸水収縮率差は好ましくは3〜15%である。
【0030】
また、本発明のポリエステル延伸糸Aの単糸繊度は1.5dtex以下であることも肝要である。1.5dtexを超えると鞘糸が太すぎて微細凹凸とならず撥水性能に劣るものとなる。ポリエステル延伸糸Aの単糸繊度は好ましくは0.3〜1.0dtexである。
【0031】
一方、ポリエステル延伸糸Bの単糸繊度は1.5〜10dtexであることが必要である。1.5dtex未満となると鞘糸との繊度差が小さく、混繊糸の芯鞘構造差がつきにくくなり、撥水性能が劣るものとなり、10dtexを超えると鞘糸との繊度差が大きくなりすぎて鞘糸によるカバリング効果が低下し撥水性能が低下する。好ましくは2〜4dtexである。
【0032】
ポリエステル延伸糸Aは、液量500plの純水を単繊維上にのせた際、単繊維と水滴との接触角が110度以上であることが特に好ましい。110度未満となると混繊糸として十分な撥水性が発現しない。さらに好ましくは120度以上である。
【0033】
なお、本発明の混繊糸の芯糸を構成するポリエステル延伸糸Bは、芯鞘型複合繊維としても良く、この場合撥水性と繊維の強度を合わせて芯糸に付与することができる為好ましい。芯鞘型複合繊維とした場合の鞘成分/芯成分の重量比率は、70/30〜5/95の範囲が好ましい。70/30より鞘が多くなると、物性面で強度が低くなり、5/95で鞘が少なくなると鞘の厚みが薄くなりすぎ、制御が困難となる他、鞘が破れ芯が露出することにより、撥水性が低下したり染色斑の原因となる。好ましくは50/50〜10/90である。
【0034】
ポリエステル延伸糸Aとポリエステル延伸糸Bは共に、事後のアルカリ減量によりフィラメント表面にミクロボイドを形成するような、微細孔形成剤が導入されたポリマーを用いることにより、表面凹凸による単繊維の接触角の向上が見込まれるため好ましく用いられる。また、ポリエステル延伸糸Aとポリエステル延伸糸Bは、必要に応じて任意の添加剤、例えば触媒、着色防止剤、耐熱剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、着色剤等が含まれていても良く、その断面形状は、用途等に応じて任意の形状とすることができ、例えば円形の他、三角、偏平、星型、V型等の異形断面またはそれらの中空断面が例示できる。
【0035】
本発明の撥水性ポリエステル混繊糸は、鞘糸となるポリエステル延伸糸Aと芯糸となるポリエステル延伸糸Bを、一緒に引き揃えて空気交絡処理に付され混繊糸とする。この場合、両者の使用割合は、重量比で芯糸:鞘糸=25:75〜75:25とすることが好ましい。空気交絡としては、インターレース、タスラン加工のいずれであっても良い。ただし混繊糸作成時には熱処理は行わないことが好ましい。混繊糸作成時に熱処理を行うと布帛化した際に熱処理をしても、鞘糸と芯糸との収縮率差による均一な鞘糸の微細ループ構造が形成されず、織編物としての撥水性が低下する。布帛化後、熱処理を施して高密度化する方法が好ましく用いられる。また、混繊糸としての撥水性は、液量0.05μlの純水をのせた際、混繊糸と水滴との接触角が120度以上であることが好ましい。120度未満であると十分な撥水性は発現しない。さらに好ましくは130度以上である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例における各項目は下記の方法で測定した。
【0037】
(1)強度
20℃、65%RHの雰囲気下で、引張試験機により、試料長20cm、速度20cm/分の条件で破断時の強度を測定した。測定数は10とし、その平均をそれぞれの強度とした。
【0038】
(2)沸水収縮率
JIS L 1013に準拠して行った。
【0039】
(3)接触角
フィラメントを筒編として精錬し、油剤除去後、繊維を抜き出して、協和界面科学(株)社製自動微小接触角測定装置「MCA−2」を使用し、蒸留水を繊維表面上に滴下したときの繊維と水滴との接触角を測定数5で測定し、平均値を求めた。ポリエステル延伸糸Aに対しては、単糸を抜き出し、蒸留水の滴下量は500plとして測定し、混繊糸に対しては滴下量0.05μlとして測定し、接触角が大きいほど撥水性に優れると判断した。
【0040】
(4)紡糸性:
紡糸工程における紡糸性について、以下の4段階評価で表した。
◎:毛羽発生・糸切れが無く、非常に良好。
○:やや毛羽の発生があるものの糸切れが無く良好。
△:やや毛羽の発生があり、糸切れが発生(1〜2回/hr)
×:毛羽が発生・糸切れが多発(3回/hr以上)
これらの評価の中で○以上が実用的に使用可能な評価結果である。
【0041】
(5)含有シリコーン化合物量:
1H−NMR法にてポリエステル組成物中に含有している変性シリコーン量を定量した。更にポリエステル試料を適切な溶媒に溶解させて貧溶媒を加えて再沈殿操作を行い、濾過により得られた固形物についても1H−NMR測定を行った。後者の再沈殿操作後の測定結果の値からポリエステル中に共重合している変性シリコーン化合物の量を定量し、前者の再沈殿前の測定結果の値と、後者の測定結果の値との差からブレンドしているシリコーン化合物量を定量した。また変性シリコーン化合物の化学構造においてはブレンドしている成分については再沈殿操作の溶媒中の成分を回収成分を、共重合されている成分については再沈殿後のポリエステルを加水分解後の残渣成分を測定することにより行うことができる。
【0042】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エステル反応性シリコーン化合物(一般式(I)のRがエチル基、n=9である化合物、チッソ社製FM−DA11)10重量部、酢酸マンガン4水塩0.031部を反応器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で3時間かけて140℃から240℃まで昇温し、精製するメタノールを系外に除去しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応を終了させた後、安定剤としてリン酸0.024部および重縮合反応触媒として三酸化アンチモン0.04部を添加した後、285℃まで昇温して、減圧下で重縮合反応させ、シリコーン含有ポリエステルを得た。得られたポリエステルの固有粘度は0.65であった(35℃、オルソクロロフェノール中)。
【0043】
このポリエステルを、水分率70ppm以下となるまで乾燥した後、溶融温度300℃で押出機にて溶融し、72孔の円形の吐出孔を有する口金から吐出し、紡糸速度1000m/分にて引き取り、未延伸糸Aを得た。この未延伸糸Aを予熱温度90℃、延伸倍率2.6倍、熱セット温度180℃にて延伸熱セットを実施し、2本引き揃えて合糸して単糸繊度0.7dtex、144本からなる総繊度96dtexのマルチフィラメントをポリエステル延伸糸Aとして得た。このポリエステル延伸糸Aは、沸水収縮率6.2%、単糸の水との接触角は130度であった。
【0044】
一方、エステル反応性シリコーン化合物を用いずに重合した固有粘度0.64(35℃、オルソクロロフェノール中)のポリエチレンテレフタレートを、同様の水分率となる様に乾燥した後、溶融温度285℃で押出機にて溶融し、24孔の円形の吐出孔を有する口金から吐出し、紡糸速度1100m/分にて引き取り、未延伸糸Bを得た。
【0045】
この未延伸糸Bを予熱温度90℃、延伸倍率3.25倍で延伸し、熱セットせず、太繊度ポリエステル延伸糸Bとして、上記で得られたポリエステル延伸糸Aが鞘糸、ポリエステル延伸糸Bが芯糸となる様に、公知のインターレースノズルにて圧空圧0.15MPaで交絡処理し、150dtex、168本からなる混繊糸を得た。
【0046】
鞘糸との交絡処理をせずに得られたポリエステル延伸糸Bの単糸繊度は2.3dtex、沸水収縮率は11.0%であり、得られた混繊糸は、表1に示す通り、強度3.0cN/dtex、水との接触角は135度で撥水性に優れたものであった。この混繊糸を用いて公知の方法で高密度タフタ織物を作成したところ、織物表面には均一なループが形成されており、撥水性に優れ、しなやかでヌメリ感のある独特の触感を備えたものが得られた。
【0047】
[実施例2〜3、比較例3〜4]
ポリエステル延伸糸Aを構成するポリエステルに含有されるエステル反応性シリコーンの含有量を、それぞれ2重量部、15重量部、1重量部、23重量部とした以外は実施例1のポリエステル延伸糸Bを芯糸として実施例1と同様の方法で混繊糸を得た。表1に示す通り、得られた混繊糸は、実施例2、3については強度、撥水性共に十分優れるものであったが、エステル反応性シリコーンの含有量の少ない比較例3においては撥水性が劣り、含有量の多い比較例4においては鞘糸作成時の紡糸安定性に劣り、得られた延伸糸の強度も低く、混繊糸の強度も低いものしか得られず耐久性に劣るものとなった。
【0048】
[比較例1]
実施例1のポリエステル延伸糸Aの作成時、熱セット温度を変更し、沸水収縮率9.2%とした以外は、実施例1のポリエステル延伸糸Bを芯糸として実施例1と同様の方法で混繊糸を得た。表1に示す通り、得られた混繊糸は芯糸との収縮率差が十分でなく、接触角が低く撥水性に劣るものとなった。
【0049】
[実施例4]
実施例1において、ポリエステル延伸糸Aを合糸せずに実施例1のポリエステル延伸糸Bを芯糸として同様の方法で混繊糸を得た。表1に示す通り、得られた混繊糸は強度、撥水性共に優れるものであった。
【0050】
[比較例2]
実施例4において、ポリエステル延伸糸Aの製糸時に吐出量を変更し、単糸繊度1.8dtexのものを鞘糸とし、同様の方法で混繊糸を得た。得られた混繊糸は表1に示す通り、鞘糸が太く、混繊糸の接触角が劣るものとなった。
【0051】
[比較例5、6]
実施例1において、未延伸糸Bの作成時に吐出量を変更して単糸繊度を1.2dtexのものとし、延伸時に実施例1と同様の方法で混繊糸を作成し比較例5とした。また、未延伸糸Bの作成時に6孔の紡糸口金を用い、吐出量を変更して単糸繊度12dtexのものとし、延伸時に実施例1と同様の方法で混繊糸を作成し、比較例6とした。比較例6は芯糸の単糸繊度が細い為、交絡時に鞘糸と芯糸がランダムに絡んだ状態となり、また比較例7は、芯糸が太すぎる為、共に混繊糸としての撥水性は劣るものとなった。
【0052】
[比較例7、8]
実施例1において、ポリエステル延伸糸Bの作成時に熱セットし、沸水収縮率を6.5%としたものを作成した。また、ポリエステルとしてイソフタル酸を5モル%共重合したものを用いて、実施例1と同様の方法で沸水収縮率を32%のポリエステル延伸糸Bとして作成した。それぞれ比較例7、比較例8として、実施例1と同様の方法でこれらを芯糸として混繊糸を作成した。比較例7は鞘糸との収縮差が小さく、鞘糸と芯糸がランダムに絡んだ状態となり、比較例8では鞘糸との収縮差が大きすぎる為、交絡状態に斑が生じ、共に接触角は劣るものとなった。
【0053】
[実施例5]
実施例1において、未延伸糸Bのポリマーを、ポリエステル延伸糸Aと同等のものを用いた他は実施例1と同様の方法で混繊糸を得た。得られた混繊糸は撥水性に非常に優れるものとなった。
【0054】
[実施例6]
実施例1において、未延伸糸Bの作成にあたり、エステル反応性シリコーンを含有するポリエステルが鞘成分に配置され、エステル反応性シリコーン化合物を用いずに重合したポリエチレンテレフタレートが芯成分に配置されるような36孔の円形の吐出孔を有する芯鞘型複合繊維用口金を用い、鞘成分/芯成分の重量比が30/70となるように吐出し、芯鞘型の未延伸糸Bを作成した。この未延伸糸Bを芯糸として用い、実施例1と同様の方法で混繊糸を得た。得られた混繊糸は強度も高く、かつ撥水性にも優れるものであった。
【0055】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
高い耐久性を有する撥水性を有し、かつ強度や風合い、審美性にも優れるポリエステル布帛用混繊糸として、スポーツ用、カジュアル用、紳士婦人スーツ等の衣料用途をはじめ、手術衣やテント用生地、フィルターなどの産業用途としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル延伸糸Aを鞘糸、ポリエステル延伸糸Bを芯糸として混繊交絡してなる芯鞘構造ポリエステル混繊糸であって、下記要件を満足することを特徴とするポリエステル混繊糸。
a)ポリエステル延伸糸Aが、沸水収縮率が8%以下、単糸繊度が1.5dtex以下であり、下記式(1)で表されるエステル反応性シリコーンをポリエステル100重量部に対し2〜20重量部含有すること。
b)ポリエステル延伸糸Bが、ポリエステル延伸糸Aより沸水収縮率が2〜20%の範囲で大きく、単糸繊度が1.5〜10dtexであること。
【化1】

(上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。)
【請求項2】
ポリエステル延伸糸Bを構成するポリエステルが、下記式(1)で表されるエステル反応性シリコーンをポリマー100重量部に対し2〜20重量部含有する請求項1記載の撥水性ポリエステル混繊糸。
【化2】

(上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。)
【請求項3】
ポリエステル延伸糸Bが芯鞘型複合繊維であって、鞘成分を構成するポリエステルが、下記式(1)で表されるエステル反応性シリコーンをポリエステル100重量部に対し2〜20重量部含有する芯鞘型ポリエステル複合繊維である、請求項1記載の撥水性ポリエステル混繊糸。
【化3】

(上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。)
【請求項4】
ポリエステル延伸糸Aとして、液量500plの純水を単繊維上にのせた際、単繊維と水滴との接触角が110度以上であるものを用い、混繊糸としての撥水性が、液量0.05μlの純水をのせた際、混繊糸と水滴との接触角が120度以上であることを特徴とする請求項1〜3記載の撥水性ポリエステル混繊糸。
【請求項5】
エステル反応性シリコーンのうち、ポリエステルと共重合しているものが、エステル反応性シリコーンの全重量に対して、20〜50重量%の範囲であることを特徴とする請求項1〜4記載の撥水性ポリエステル混繊糸。

【公開番号】特開2009−287128(P2009−287128A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138112(P2008−138112)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】