説明

撥水性ポリエステル混繊糸

【課題】本発明の目的は、布帛等の繊維構造物にした後に撥水加工処理を施さなくても優れた撥水性能を有し且つ長期間の使用や繰返しの洗濯等による撥水性能の低下が少なく、しかも高反撥性に加え、ウールに似たヌメリ感に優れたポリエステル混繊糸及びそれからなる布帛を提供することにある。
【解決手段】沸水収縮率5%以下、単繊維繊度が4dtex以下の特定のエステル反応性シリコーンを含有するポリエステル繊維Aと沸水収縮率が8%以上、単繊維繊度3〜10dtexのポリエステル繊維Bとが交絡処理された後収縮処理されて得られる芯鞘構造混繊糸及びそれを含む布帛とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐久撥水性を有する撥水性芯鞘構造ポリエステル混繊糸及びそれからなるウールライクなタッチと風合い及び長期間にわたる使用においても撥水性の低下が小さい高反撥性撥水性織物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルはその優れた特性を生かし衣料用布帛素材として広く使用されている。衣生活の多様化、高級化、個性化と共に、天然繊維が持つ繊維物性の不規則性によりもたらされる自然で、好ましい特徴、例えば“ウールに近い風合”をポリエステル繊維で実現する試みが続けられている。収縮特性の異なる複数のポリエステル糸条群を混繊し、仮撚加工および熱処理を施すことにより、糸条にジクザクの捲縮構造を付与し、また高収縮糸条が収縮し低収縮糸条が外側に張り出すことによって、糸条に嵩高さを付与する方法が広く採られている。例えば特開平5−209366号公報に示されるように、収縮率差のある芯糸と鞘糸を交絡、撚糸して製織、リラックス熱処理、アルカリ減量することにより高反撥性ウールライク織物を得る方法が提案されている。こうした混繊糸はウールライクなポリエステル繊維及び布帛とすることが可能となるので、近年スポーツ用、カジュアル用に用いられるようになってきたが、こうした用途の場合高撥水機能やよりウールタッチに近いヌメリ感の付与など、更なる高機能化、風合いの改良が求められている。
【0003】
混繊糸及びそれからなる布帛等に撥水性を付与する方法として、例えば特開平5−106171号公報等に示されるように、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂を含有する撥水性樹脂分散液等で処理して表面にこれらの樹脂を付着せしめて、撥水処理を施すことは広く行われている。しかしながら、これらの加工処理で得られた繊維、糸、布帛等には撥水性はあるものの、耐久性が低く、使用に伴って処理した樹脂が、その表面から脱落して撥水性を失い易いという欠点を有している。又十分な撥水耐久性を付与する程の量を処理すると混繊糸内部に入り込み高反発性が失われたり、布帛の風合いが硬くなるという問題点があった。そのためにポリエステル繊維のスポーツウェア分野等撥水耐久性と風合いが共に要求される分野への応用が大きく制限されていた。
こうした現状に鑑み、後撥水処理を施さずとも高撥水性でその性能が耐久性のあり、且つヌメリ感や触感に優れるポリエステル混繊糸の開発が大いに望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開平5−209366号公報
【特許文献2】特開平5−106171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、布帛等の繊維構造物にした後に撥水後加工処理を施さなくても優れた撥水性能を有し且つ長期間の使用や繰返しの洗濯等による撥水性能の低下が少なく、しかもウールに似たヌメリ感に優れたポリエステル混繊糸及びそれからなる織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
鞘糸として沸水収縮率が5%以下、単繊維繊度が4dtex以下の特定のエステル反応性シリコーンを含有するポリエステル繊維A、芯糸として沸水収縮率が8%以上、単繊維繊度が3〜10dtexのポリエステル繊維Bとが交絡処理され、下記要件を満足する撥水性芯鞘構造ポリエステル混繊糸とする。
a)鞘糸のポリエステル繊維Aが、液量500ピコリットルの純水を単繊維上に乗せたとき、単繊維と水滴との接触角が110度以上であること。
b)ポリエステル繊維Aがエステル反応性シリコーンをポリエステル100重量部に対し、2〜20重量部含有すること。
【0007】
ここでエステル反応性シリコーンのうち、ポリエステルと共重合しているものが、エステル反応性シリコーンの全重量に対して、20〜50重量%の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、沸水収縮率の異なる2成分のポリエステルからなる芯鞘型ポリエステル混繊糸において、鞘糸に特定のエステル反応性シリコーンを含有するポリエステルを用いることにより、撥水後加工処理しなくても、液量500ピコリットルの純水に対する接触角が110度以上という高撥水性能と高耐久撥水性とすることができること、及び良好なヌメリ感や、染色後の深色性にも優れるポリエステル混繊糸とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の混繊糸の鞘糸に配置する撥水性ポリエステル繊維Aについて詳述する。本発明で鞘糸に用いるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびこれらを主体としたポリエステルにエステル反応性シリコーンを含有するポリエステルであることが必要である。
【0010】
ここでエステル反応性シリコーンとしてはポリエステル成分の酸成分とエステルを形成する官能基を有するものを指し、ポリマーに共重合する上で2官能性エステル反応性シリコーンが好ましく、下記一般式(1)で示されるエステル反応性シリコーンが好ましく挙げられる。
【0011】
【化1】

[上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。]
【0012】
更に、エステル反応性シリコーンを含有するポリエステルとは、エステル反応性シリコーンがポリエステルに対して化学結合により分子鎖に取り込まれて共重合されている状態であっても、ポリエステルとは化学結合せずブレンド状態で存在する状態、又両方の状態であっても良い。共重合していない成分はブレンド状態でポリエステル組成物中に安定に存在し、繊維化での悪影響を及ぼさない。これはエステル反応性シリコーン共重合ポリエステルが未反応のエステル反応性シリコーン部分を安定化するのではないかと推定している。
【0013】
本発明のエステル反応性シリコーン含有ポリエステルを得る方法としては、公知の任意の方法で合成すればよい。例えば、ジカルボン酸成分がテレフタル酸の場合、テレフタル酸とアルキレングリコールとを直接エステル化反応させる方法と、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとアルキレングリコールとをエステル交換反応や又はテレフタル酸とアルキレンオキサイドを反応させる方法によってテレフタル酸のグリコールエステルを生成させる第一段の反応を行い、引続いて重合触媒の存在下に減圧加熱して所望の重合度になるまで重縮合させる第二段の反応によって製造する方法があるが、どちらの方法でも可能である。エステル反応性シリコーン化合物の添加時期は、共重合の割合を満足させる観点から、このポリエステルの重縮合反応の前から重縮合反応の終了以前に行なうのが好ましく、複数回に分けて添加しても良い。そして、この添加時期や添加量、反応時間等によって上記ポリエステルに共重合しているエステル反応性シリコーン化合物の割合を調整することができる。
【0014】
ここで該エステル反応性シリコーン成分はポリエステル全重量に対して2〜20重量%含有する必要がある。2重量%未満では、十分な撥水性が得られず、20重量%を超える場合には、繊維としての強度が低下するために長期間の製糸ランニング時に安定した生産が困難になる。
【0015】
更にエステル反応性シリコーンのうち、ポリエステルと共重合しているものが、エステル反応性シリコーンの全重量に対して、20〜50重量%の範囲であることが好ましい。20%未満ではブレンド状態のエステル反応性シリコーンのポリエステル中への分散性が悪化し好ましくなく、50%を超える場合はポリエステル繊維の強度が低下し紡糸性も悪化し好ましくない。好ましくはエステル反応性シリコーンの共重合量は25〜40%重量である。
【0016】
反応の途中若しくは反応終了後のいずれかにおいて安定剤を添加することも好ましい。その安定剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類、トリフェニルホスファイト等の亜リン酸エステル類、メチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート等の酸性リン酸エステル、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、若しくはポリリン酸等のリン化合物、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が好ましい。
【0017】
得られたポリエステルは公知の方法により製糸する。例えば、得られたシリコーン含有ポリエステルを溶融状態で繊維状に押出し、それを500〜3500m/分の速度で溶融紡糸し、延伸、熱処理する方法、1000〜5000m/分の速度で溶融紡糸し、延伸する方法、5000m/分以上の高速で溶融紡糸し、用途によっては延伸工程を省略する方法などが好ましく挙げられる。
【0018】
鞘糸としてエステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維Aの沸水収縮率が5%以下とすることが必要で、好ましくは0〜5%より好ましくは0.5〜4.5%である。5%を超える場合は嵩性やふくらみ感が得れず好ましくない。収縮率を調整する方法としては公知の方法を用いることができるが、例えば引取速度2,000〜4,500m/分で紡糸した単繊維繊度が0.1〜4.0dtexのポリエステル未延伸糸を、オーバーフィード量0.5〜5.0%、非接触型ヒーター温度160〜240℃で0.01〜0.30秒間セットして得ることができる。
【0019】
このようにして得られる繊維に関しては、溶融紡糸法により繊維を作成する製糸工程において、長期のランニングにおいても良好な繊維製造が可能である。
得られたエステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維Aの撥水性能は液量500ピコリットルの純水に対する単繊維の接触角が110度以上好ましくは115度以上であることが必要である。110度未満の場合では、布帛にした場合に十分な撥水性が得られない。
【0020】
また、エステル反応性シリコーンを含有させることにより繊維に撥水性とともに様々な他の特性を付与できる。特に式(1)で表されるエステル反応性シリコーンを含有させることにより、繊維化後に独特のヌメリタッチを付与することが出来る他に、エステル反応性シリコーン共重合により、繊維形成時にポリエステルの非晶部分の配向を乱す効果が大きく、濃染化が可能になる。この濃染特性は混繊鞘糸に配置した時にいっそう優位になる。
【0021】
又本発明の鞘糸に配置するエステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維Aの断面形状は、特に限定されるものではなく、用途等に応じて任意の形状とすることができ、例えば円形の他、三角、偏平、星型、V型、楔型 等の異形断面またはそれらの中空断面が例示できる。
【0022】
本発明の鞘糸に配置するエステル反応性シリコーン含有ポリエステル繊維Aの単繊維繊度は4dtex以下が好ましい。4dtexを超える場合には、混繊時に芯鞘構造とすることが難しい。一方、単繊維繊度の下限については特に制限はないが、実用的に繊維形成可能で、かつ布帛の耐摩耗性を著しく損なわないという観点から、0.1dtex以上が好ましい。
【0023】
また、事後のアルカリ減量によりフィラメント表面にミクロボイドを形成するようなポリマー(微細孔形成剤が導入されたポリマー)を用いることにより、表面凹凸による単繊維の接触角向上すなわち撥水性向上効果があり、更には染色での濃色、深色化効果も発現することから、好ましく用いられる。
【0024】
次に、本発明の混繊糸の芯糸を構成するポリエステル繊維Bとしては、沸水収縮率が8.0%以上、好ましくは10〜20%、単繊維繊度が3.0〜10.0deの範囲にあることが好ましい。また、このポリエステル繊維Bは35〜60%の伸度を有することが好ましい。ポリエステル繊維Bの沸水収縮率が8.0%未満の場合、ポリエステル繊維Aと混繊した際の糸足差が小さくなり、反撥性や嵩高性に悪影響を及ぼすので好ましくない。
【0025】
イソフタル酸を5〜30モル%共重合したポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。または事後のアルカリ減量処理によりミクロボイドを形成するポリマーで構成されるものであることも好ましい用いることができる。後者については、例えば特開昭57−112464号公報、同57−103518号公報などに開示されている。
【0026】
上記の芯糸ポリエステル繊維Bおよび鞘糸ポリエステル繊維Aは、一緒に引き揃えて空気交絡処理に付され混繊糸とする。この場合、両者の使用割合は芯糸:鞘糸=25:75〜75:25(重量)とすれことが好ましい。空気交絡としては、インターレース、タスラン加工の何れであってもよい。
ここで、交絡付与後にオーバーフィードをかけながらヒーターで熱処理すると、芯糸は収縮し、鞘糸は殆ど収縮しないかあるいは自己伸長し、芯糸と鞘糸との間に糸足差が生じ、芯鞘構造混繊糸を形成し、これが布帛とした時の膨らみ、嵩高性に繋がる。
【0027】
このようにして得られた空気交絡混繊糸には、その繊度(dtex)に応じて、2,700/(dtex)1/2〜31,000/(de)1/2の範囲の中〜強撚を施して撚糸とすることにより高反発性、嵩高性を付与できるが、この撚糸には必要に応じてサイジング−熱セットなどの後処理を施してもよい。
【0028】
本発明では、このような撚糸を経および/または緯糸に用いて製織し、リラックス熱処理を施してから、あるいはこれと同時にアルカリ減量を行う。この場合のアルカリ減量率は、目的とする反撥性、嵩高性などに応じて、5〜30重量%の範囲から適宜選べばよい。なお、当然のことながら、芯糸、鞘糸の単繊維繊度は、アルカリ減量処理後においても、それぞれ3de以上、および0.1de以上に維持されねばならない。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚測定方法は下記の方法で行った。
【0030】
(1)強度
20℃、65%RHの雰囲気下で引張試験機により、試料長20cm、速度20cm/分の条件で破断時の強度を測定した。測定数は10とし、その平均をそれぞれの強度とした。
【0031】
(2)沸水収縮率
JIS L 1013に準拠して行った。
【0032】
(3)接触角(繊維の撥水性)
試験片から単糸を採取し、協和界面科学(株)社製 自動微小接触角測定装置「MCA−2」を使用し、蒸留水を使用して単糸表面の繊維上に500pLの蒸留水を滴下したときの繊維と水滴との接触角を測定した。接触角が大きいほど、撥水性に優れると判断した。
【0033】
(4)ヌメリ感
最終加工布帛を熟練した5人のパネラーによる官能評価で、全員が極めて良好と判定したものを(優)、3人以上が良好と判断したものを(可)、3人以上が不良と判定したものを(不良)と、三段階にランク付けした。
【0034】
(5)反撥性
最終加工布帛についてKESの曲げ特性の2HB(ヒステリシス幅)を5級に等級化し判定した。
【0035】
(6)含有シリコーン化合物量:
H−NMR法にてポリエステル組成物中に含有している変性シリコーン量を定量した。更にポリエステル試料を適切な溶媒に溶解させて貧溶媒を加えて再沈殿操作を行い、濾過により得られた固形物についてもH−NMR測定を行った。後者の再沈殿操作後の測定結果の値からポリエステル中に共重合している変性シリコーン化合物の量を定量し、前者の再沈殿前の測定結果の値と、後者の測定結果の値との差からブレンドしているシリコーン化合物量を定量した。また変性シリコーン化合物の化学構造においてはブレンドしている成分については再沈殿操作の溶媒中の成分を回収成分を、共重合されている成分については再沈殿後のポリエステルを加水分解後の残渣成分を測定することにより行うことができる。
【0036】
(7)紡糸性:
紡糸工程における紡糸性について、以下の4段階評価で表した。
◎:毛羽発生・糸切れが無く、非常に良好。
○:やや毛羽の発生があるものの糸切れが無く良好。
△:やや毛羽の発生があり、糸切れが発生(1〜2回/hr)
×:毛羽が発生・糸切れが多発(3回/hr以上)
これらの評価の中で○以上が実用的に使用可能な評価結果である。
【0037】
(8)撥水性(布帛の撥水性):
各実施例および比較例で得られたポリエステル繊維を経糸及び緯糸に使用して、平織物を製織し、この布帛を常法により精錬、乾燥したのち、180℃でヒートセットした。また、その一部を常法により減量率が30重量%となるようにアルカリ減量した。このようにして得られたアルカリ減量後の布帛を、JIS−L−1092(スプレー法)(1992)により測定した。その測定後の布帛の状態から該JIS規格に記載の以下の基準で0〜100点の点数で評価を行った。
100点:表面に湿潤や水滴の付着が無いもの。
90点:表面に湿潤しないが、小さな水滴の付着を示すもの。
80点:表面に小さな個々の水滴状の湿潤を示すもの。
70点:表面の半分以上に湿潤を示し、小さな個々の湿潤が布を浸透する状態を示すもの。
50点:表面全体に湿潤を示すもの。
0点:表面及び裏面が全体に湿潤を示すもの。
【0038】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エステル反応性シリコーン化合物(一般式(1)のRがエチル基、n=9である化合物チッソ株製 FM−DA11)10重量部、酢酸マンガン4水塩0.031部を反応器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で3時間かけて140℃から240℃まで昇温して、生成するメタノールを系外に留出しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応を終了させた後、安定剤としてリン酸0.024部及び重縮合反応触媒として三酸化アンチモン0.04部を添加した後、285℃まで昇温して、減圧下で重縮合反応して得たポリエステルを溶融温度285℃で、公知の溶融紡糸法により紡糸速度3000m/分で捲取り、90dtex36フィラメントの高配向未延伸糸ポリエステル繊維Aを得た。エステル反応性シリコーンの含有量、共重合率、沸水収縮率、強度、反発性、ヌメリ感、紡糸性は表1の通りである。
【0039】
一方、イソフタル酸を10モル%共重合したポリエステルを285℃で公知の溶融紡糸延伸法により、沸水収縮率15%の延伸糸56dtex/12フィラメントのポリエステル繊維Bを得た。
【0040】
上記で得られたエステル反応性シリコーンを含有するポリエステル繊維Aを鞘糸、ポリエステル繊維Bを芯糸となるように、公知のインタレースノズルにて圧空圧0.2MPaで交絡処理し、引続き加熱ローラー温度120℃、オーバーフィード量2%、非接触式ヒーター温度230℃、ヒーター内の糸通過時間0.04秒で混繊を行い、146dtex48フィラメントの芯鞘構造混繊糸を得た。
この混繊糸から鞘糸のシリコーン含有繊維を抜き取り、単繊維の接触角を測定したところ、120°であった。
【0041】
得られた混繊糸を1,200T/Mに加撚した撚糸を経緯に用い、2/2の綾組織で、生機密度経42.2本/cm、緯21.9本/cmで製織した。この生機を100℃で20秒予備リラックスし、サーキュラーリラクサーでトップ温度120℃で40分リラックスし、風乾後プレセットで充分経糸、緯糸を収縮させてから、公知の方法により水酸化ナトリウム溶液で13重量%のアルカリ減量を行った。次いで、液流染色機で分Dianix Black HGFS(三菱化成工業製)15%owfで135℃、60分間染色を行い、水酸化ナトリウム1g/l及びハイドロサルファイト1g/lを含む水溶液で70℃20分還元洗浄して黒染布を得た。
得られた染色布には撥水性があり、また、L値9の黒発色性を有し、しかも好ましい張り腰、高反撥性、嵩高性を兼備し、ウールに似たヌメリ感を呈する織物であった。
【0042】
[実施例2]
実施例1において反応時間を調整し、エステル反応性シリコーンの共重合率を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維を製造した。
【0043】
[実施例3]
実施例1において鞘糸をエステル反応性シリコーンを5重量%含有するポリエステルとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維を製造した。
【0044】
[実施例4]
実施例3において反応時間を調整し、エステル反応性シリコーンの共重合率を変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で繊維を製造した。
【0045】
[実施例5]
実施例1において鞘糸をエステル反応性シリコーンを20重量%含有するポリエステルとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維を製造した。
【0046】
[比較例1]
実施例1において鞘糸をエステル反応性シリコーンを1重量%含有するポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維を製造した。目標の撥水性が得られなかった。
【0047】
[比較例2]
実施例1において鞘糸をエステル反応性シリコーンを30重量%含有するポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で繊維を製造した。本例では、エステル反応性シリコーンの添加量が多すぎ、重合工程で安定にチップ化できない、製糸中に毛羽、断糸が多い等の不具合があった。
【0048】
[比較例3]
実施例1において鞘糸をエステル反応性シリコーンを含有しないポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は実施例1と同様にした。本例では、繊維中にシリコーンが存在しないことにより、撥水性・ヌメリ感に劣るものとなった。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
高耐久性の撥水性を有する高反発性ウールライク調織物として、スポーツ用、カジュアル用、紳士婦人スーツ等の衣料用として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸水収縮率が5%以下、単繊維繊度が4dtex以下であり、下記一般式で表されるエステル反応性シリコーンを含有するポリエステル繊維Aと、沸水収縮率が8%以上、単繊維繊度が3〜10dtexのポリエステル繊維Bとを交絡処理した後収縮処理して得られる芯鞘構造ポリエステル混繊糸であって、下記要件を満足することを特徴とする撥水性芯鞘構造ポリエステル混繊糸。
a)鞘糸がポリエステル繊維Aを主たる成分として構成され、該ポリエステル繊維Aの撥水性が、液量500ピコリットルの純水を単繊維上に乗せたとき、単繊維と水滴との接触角で110度以上であること。
b)ポリエステル繊維Aがエステル反応性シリコーンをポリエステル100重量部に対し、2〜20重量部含有すること。
【化1】

[上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。]
【請求項2】
エステル反応性シリコーンのうち、ポリエステルと共重合しているものが、エステル反応性シリコーンの全重量に対して、20〜50重量%の範囲である請求項1記載の撥水性芯鞘構造ポリエステル混繊糸。
【請求項3】
芯糸がポリエステル繊維Bを主たる成分として構成され、該ポリエステル繊維Bがイソフタル酸共重合ポリエステル繊維である請求項1〜2いずれか1項記載の撥水性芯鞘構造ポリエステル混繊糸。
【請求項4】
請求項1〜3記載の撥水性芯鞘構造ポリエステル混繊糸を含む布帛。
【請求項5】
沸水収縮率が5%以下、単繊維繊度が4dtex以下であり、下記一般式で表されるエステル反応性シリコーンを含有するポリエステル繊維Aと、沸水収縮率が8%以上、単繊維繊度が3〜10dtexのポリエステル繊維Bとを交絡処理して得られる混繊糸に、該混繊糸の太さに応じて、2,450/(dtex÷1.111)1/2 〜 28,000/(dtex÷1.111)1/2で示される範囲の撚を施し、これらを経糸および/又は緯糸に用いて製織してからリラックス熱処理し、次いでアルカリ減量に付することを特徴とする、高反撥性撥水織物の製造方法。
【化2】

[上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。]

【公開番号】特開2009−7683(P2009−7683A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167681(P2007−167681)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】