説明

撥水性ポリエステル混繊糸

【課題】本発明の目的は、優れた撥水性能を有し、長期間の使用や繰返しの洗濯等により初期の撥水性の低下が少ない布帛とすることが可能な、強度が高く加工性に優れた極細撥水性混繊糸を提供することにある。
【解決手段】芯鞘構造を有するポリエステル混繊糸であって、下記一般式(1)で示されるエステル反応性シリコーン化合物をポリマー100重量部に対し2〜20重量部含有するポリエステルを主たる成分とするポリエステル組成物からなる、平均繊維径が50〜2000nmの極細繊維Aを鞘糸とし、極細繊維Aより沸水収縮率が2〜50%大きく且つ単糸繊度が1.5〜10dtexの高収縮繊維Bを芯糸として交絡されてなることを特徴とする撥水性ポリエステル混繊糸。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた撥水性を有する撥水性芯鞘構造ポリエステル混繊糸に関する。更に詳しくは長期間に亘る使用においても撥水性の低下が少なく耐水性に優れた高密度織物に使用可能な混繊糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりポリエステル繊維製品への撥水性を付与する方法として、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂を含有する分散液等で布帛を処理して布帛表面にこれらの樹脂を付着させ、撥水処理を施すことは広く行われている(特開平5−106171号公報)。また織編物を高密度の緻密化構造とし、さらに撥水後加工処理を施す方法も提案されている(特公昭63−36380号公報、特公昭63−58942号公報)。しかしながら、これらの加工処理で得られた布帛には撥水性はあるものの、耐久性が低く、布帛の使用に伴って処理した樹脂が、その表面から脱落して撥水性を失い易いという欠点を有している。一方、十分な撥水耐久性を付与する程の量を処理すると布帛の風合いが硬くなるという問題点があった。そのためにポリエステル繊維のスポーツウェア等の撥水耐久性と風合いが共に要求される分野への応用が大きく制限されている。
【0003】
後加工での撥水処理に対し、特開昭62−238822号公報にはフッ素系樹脂を溶融混練して得られた繊維が提案され、特開平2−26919号公報にはフッ素系重合体微粒子を練り込んで得られた繊維が提案されている。また、特開平9−302523号公報および特開平9−302524号公報ではテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフルオリドの共重合体を撥水成分としてポリエステルに含有した繊維が提案されている。しかしながら、フッ素樹脂は一般に融点と分解点が近いため、長期のランニングでは分解熱劣化したポリマーが影響して、安定して良好な糸質の繊維を得ることが困難である。また、加熱によるフッ化水素の発生により装置を劣化させてしまう危険性やフッ素化合物を用いることによる環境負荷の増大の問題がある。
【0004】
一方で、フッ素系化合物を用いない方法として、特開2005−105424号公報では鞘成分に特定の反応性シリコーンを共重合したポリエステルを使用した芯鞘型複合繊維が開示されている。この方法である程度撥水性は耐久性があるものに出来るが、撥水性の程度は十分でなく、高撥水性にするためには反応性シリコーンの含有量を上げる必要があり、そのため強度が低下するという相反する問題や、それにより細繊度化が困難であるという問題、およびアルカリ減量により表面に微細孔を形成させると繊維強度もさらに低下するという問題があった。
【0005】
上記の通り、布帛とした際の工程安定性に優れ、均一な構造とすることが可能で、かつ撥水後加工処理を施さなくても十分な撥水性を有し、耐久性に優れたポリエステル繊維が現状望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−106171号公報
【特許文献2】特公昭63−36380号公報
【特許文献3】特公昭63−58942号公報
【特許文献4】特開昭62−238822号公報
【特許文献5】特開平2−26919号公報
【特許文献6】特開平9−302523号公報
【特許文献7】特開平9−302524号公報
【特許文献8】特開2005−105424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来技術の有する課題を克服した、優れた撥水性能を有し、長期間の使用や繰返しの洗濯等により初期の撥水性の低下が少ない布帛とすることが可能な、強度が高く加工性に優れた混繊糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、このような問題を解決するため検討した結果、極細の撥水繊維からなる鞘糸を用いた混繊糸によって達成されることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、
極細繊維Aを鞘糸とし、ポリエステル繊維Bを芯糸とする芯鞘2層構造を有するポリエステル混繊糸であって、下記要件を満足することを特徴とする撥水性ポリエステル混繊糸、
a)極細繊維Aが下記一般式(1)で示されるエステル反応性シリコーン化合物をポリエステル100重量部に対し2〜20重量部含有するポリエステル組成物からなること。
b)極細繊維Aの平均単糸繊維径が50〜2000nmであること。
c)ポリエステル繊維Bの沸水収縮率が極細繊維Aの沸水収縮率より2〜50%大きく且つ単糸繊度が1.5〜10dtexであること。
d)極細繊維Aとポリエステル繊維Bとが交絡していること。
【化1】

(上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。)
好ましくは、極細繊維Aが海島型複合繊維の海成分を溶解除去した後の島成分からなる極細繊維である撥水性ポリエステル混繊糸、
またポリエステル繊維Bを構成するポリマーが、上記式(1)で表されるエステル反応性シリコーン化合物をポリマー100重量部に対し2〜20重量部含有するポリエステルである撥水性ポリエステル混繊糸、
さらに極細繊維Aの平均単糸繊維径のCV%が0〜25%である撥水性ポリエステル混繊糸、
また、上記撥水性ポリエステル混繊糸を含む布帛、
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
特定のエステル形成性シリコーン化合物を含有する極細繊維(海島型複合繊維から海成分を除去した島成分からなる極細繊維が好ましい)と該極細繊維Aより沸水収縮率の大きいポリエステル繊維Bから成る混繊糸とすることにより、撥水性高密度化織物に好適な、優れた耐久撥水性と優れたソフト性風合いと独特の触感を併せもつ撥水性ポリエステル混繊糸とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の撥水性ポリエステル混繊糸について詳述する。
本発明の撥水性ポリエステル混繊糸は、芯糸と鞘糸からなる構造の混繊糸である。鞘糸となる極細繊維Aを構成するポリマーは、撥水性を発現する為、後述の通り、エステル反応性シリコーン化合物を含有するポリエステルである必要があり、芯糸となる高収縮繊維Bを構成するポリエステルは、特に限定されないが、ポリエステル延伸糸Aを構成するポリエステルと同種で該エステル反応性シリコーンを含有するポリエステルが好ましく用いられる。
【0012】
本発明の撥水性ポリエステル混繊糸の鞘糸を構成する極細繊維Aは、ポリエステルを主体としてなり、芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールから形成される成分を主たる繰り返し単位とするポリエステルである。芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールを繰り返し単位とするポリエステルは対応する芳香族ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体ならびにジオールとから合成されるポリエステルであって、汎用樹脂としてその物性を損なわない範囲で目的に応じて他の成分が共重合されていても良い。エステル形成誘導体とは炭素数1〜6個の低級アルキルエステル、炭素数6〜12個の低級アリールエステル、酸ハロゲン化物を挙げることができる。主たる繰り返し単位とは、ポリエステルを構成する全繰り返し単位中70モル%がその芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールから形成される成分で構成されていることを表している。
【0013】
その芳香族ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、無水フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸、テレフタル酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、セバシン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、または5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸ジメチルなどを挙げることができる。またエステル形成性誘導体としては、上記のようなジメチルエステルその他の低級アルキルエステル以外に、酸塩化物を用いても良い。これらの中でも特に、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸ジメチルまたは2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルを用いることが好ましい。
【0014】
またジオールとして、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジメチロールプロピオン酸、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、またはポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールなどを挙げることができ、特にエチレングリコール、1,3−プロピレングリコールまたは、1,4−ブタンジオールを用いることが好ましい。
【0015】
これらのジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体ならびにジオールはそれぞれ1種ずつを単独で用いても、2種以上を併用してもどちらでも良い。またこれらの好ましい組み合わせから得られるポリエステルである、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレート、ポリテトラメチレンー2,6−ナフタレートが本発明のポリエステルに好ましく用いられる。なかでも機械的性質、成形性等のバランスのとれたポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0016】
本発明の撥水性ポリエステル混繊糸を構成するポリマーには撥水性を付与する為、上述したポリエステルに下記式(1)で示されるエステル反応性シリコーン化合物を含有するポリエステルを使用することが必要である。
【0017】
【化2】

(上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。)
【0018】
Rのアルキル基は炭素数18個以下、エステル反応性シリコーンの数平均分子量は10000以下であり、好ましくは300以上6000以下であることが好ましい。数平均分子量が10000より大きい場合は、ポリエステルとの相溶性が低下し、ポリエステル中に均一に存在させることが困難となる。
【0019】
さらに該エステル反応性シリコーン化合物は、該撥水性ポリエステル100重量%に対して2〜20重量%含有されることが必要である。2重量%未満の場合には、繊維として十分な撥水性が得られず、20重量%を超える場合には、ポリエステルの有する物性が損なわれ、繊維としての強度が低下し、単糸繊度3.0dtex以下の繊維が製造困難となるばかりか、極細繊維の均一性が損なわれ、長期間のランニング時に安定した生産も困難となる。
【0020】
ここでエステル反応性シリコーン化合物を含有するとは、エステル反応性シリコーン化合物がポリエステルに対して化学結合により分子鎖に取り込まれ共重合されている状態と、ポリエステルとは化学結合せずにブレンド状態で存在する状態の双方を含んでいることを指す。共重合されていない成分はブレンド状態でポリエステル中に安定に存在し、繊維化での悪影響を及ぼさない。この理由は、エステル反応性シリコーン化合物が共重合されたポリエステルが、未反応のエステル反応性シリコーン化合物を安定化するのではないかと推定している。
【0021】
本発明ではポリマーが含有しているエステル反応性シリコーン化合物のうち、ポリエステルと共重合しているものが、エステル反応性シリコーン化合物の全重量に対して20〜50重量%であることが好ましい。20%未満ではブレンド状態のエステル反応性シリコーン化合物のポリエステル中への分散性が悪化し、製糸性が低下し、50%を超える場合は物性が損なわれ、製糸性が低下し、毛羽が発生するなどの原因となる。エステル反応性シリコーンの共重合量は、エステル反応性シリコーン化合物の全重量に対して好ましくは25〜40重量%である。
【0022】
本発明に使用するエステル反応性シリコーン含有ポリエステルを得る方法としては、公知の任意の方法で合成すればよい。例えば、ジカルボン酸成分がテレフタル酸の場合、テレフタル酸とアルキレングリコールとを直接エステル化反応させる方法と、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとアルキレングリコールとをエステル交換反応や又はテレフタル酸とアルキレンオキサイドを反応させる方法によってテレフタル酸のグリコールエステルを生成させる第一段の反応を行ない、引続いて重合触媒の存在下に減圧加熱して所望の重合度になるまで重縮合させる第二段の反応によって製造する方法があるが、どちらの方法でも可能である。エステル反応性シリコーン化合物の添加時期は、共重合の割合を満足させる観点から、このポリエステルの重縮合反応の前から重縮合反応の終了以前に行なうのが好ましく、複数回に分けて添加しても良い。そして、この添加時期や添加量によって上記共重合しているエステル反応性シリコーン化合物の割合を調整することができる。
【0023】
本発明の極細繊維Aは、平均単糸繊維径が50〜2000nmであることが必要である。平均単糸繊維径が50nm未満となると強度が低く、取り扱い性が困難となり、2000nmを超えると極細繊維Aによる撥水性向上効果が低下する。極細繊維Aの平均単糸繊維径は、100〜1500nmであることが好ましく、さらに好ましくは300〜1000nmである。
【0024】
上記の極細繊維Aを得るには、海島型複合繊維から海成分を溶解除去する方法が好ましく用いられる。上記のエステル反応性シリコーン含有ポリエステルを島成分とし、島成分に対する溶解速度の比率(減量速度差)が5〜5000倍である海成分からなる海島型複合繊維とし、海成分を除去することにより島成分からなる極細繊維Aを得る方法が好ましい。
【0025】
海成分の溶解速度の比率は好ましくは、10〜3000倍である。5倍未満の場合には、繊維断面表層部の分離した島成分の一部が溶解されて、繊維断面中央部にある海成分まで溶解されないという問題が起こり易くなる。これにより、島成分の太さ斑が発生し、撥水性や品位が低下する。一方、5000倍を超えると、減量斑によって混繊糸とした場合に収縮斑が生じ、均一な撥水性が得られない。
【0026】
かかる海島型複合繊維を構成する海成分のポリマーとしては、島成分との溶剤溶解速度差が5倍以上であれば、いかなる繊維形成性ポリマーであってもよいが、スルホイソフタル酸金属塩化合物及びポリエチレングリコールが共重合されているエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましく用いられる。
【0027】
該共重合ポリエステルの全ジカルボン酸成分に対する該スルホイソフタル酸金属塩化合物の含有量S(モル%)、該共重合ポリエステルに対するポリエチレングリコールの含有量P(重量%)、及びポリエチレングリコールの数平均分子量Wが下記(a)〜(c)を同時に満足していることが好ましい。
(a)5≦S≦12
(b)2≦P≦8
(c)1000≦W≦8000
【0028】
ここで、スルホイソフタル酸金属塩化合物は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコールは親水性を向上させる。また、スルホイソフタル酸金属塩化合物の含有量が5モル%未満であると島成分に対する海成分の溶解速度が不十分であり、繊維断面中央部の海成分を溶解する間に、分離した繊維断面表層部の島成分が、繊維径が小さいために溶解されるため、海相当分が減量されているにもかかわらず、繊維断面中央部の海成分を完全に溶解除去できず、島成分の太さ斑や溶剤侵食による強度劣化が発生して、毛羽や染め斑が起こるなどの問題が生じる。一方、上記スルホイソフタル酸金属塩化合物の含有量が12モル%を超えると、固有粘度が低下し、紡糸性が悪くなるので好ましくない。上記スルホイソフタル酸金属塩化合物の含有量は6〜10モル%の範囲がより好ましい。また、上記のスルホイソフタル酸金属塩化合物としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を好ましく挙げることができる。
【0029】
また、ポリエチレングリコールの含有量が2重量%未満であると島成分に対する海成分の溶解速度が不十分であり好ましくない。一方、ポリエチレングリコール含有量が8重量を超えると、溶融粘度低下作用があるので好ましくない。なお、ポリエチレングリコールの含有量は3〜6重量%の範囲がより好ましい。
【0030】
さらに、ポリエチレングリコールの数平均分子量が1000未満の場合には共重合ポリエステルの耐熱性が低下し、一方8000を超えると、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加作用があるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性や紡糸安定性の面で問題が生じる可能性がある。上記数平均分子量は2000〜6000の範囲がより好ましい。
【0031】
他の海成分ポリマーとしてはポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどを挙げることができる。それぞれのポリマーが可溶な溶媒、溶液を用いて海成分を除去することができる。
【0032】
また、極細繊維Aの繊維径のばらつきを表すCV%値は、好ましくは0〜25%であり、より好ましくは0〜20%、さらに好ましくは0〜15%である。CV値の低い、ばらつきが少ない極細繊維によって、混繊糸表面に均一な凹凸形状を形成することが可能となり、撥水性能が大きく向上する。
【0033】
海島型複合繊維は、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、まず溶融粘度が高く且つ易溶解性であるポリマーと溶融粘度が低く且つ難溶解性のポリマーとを、前者が海成分で後者が島成分となるように溶融紡糸する。ここで、海成分と島成分の溶融粘度の関係は重要で、海成分の比率が小さくなって島間の厚みが小さくなると、海成分の溶融粘度が島成分よりも低い場合には島間の一部の流路を海成分が高速流動するようになり、島間に接合が起こりやすくなるので好ましくない。
【0034】
溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面形成がなされるいかなる紡糸口金でもよい。
【0035】
吐出された海島型複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。400m/分以下では生産性が低く、また、6000m/分以上では紡糸工程の安定性が良くない。より好ましくは1000〜3500m/分である。
【0036】
得られた海島型複合繊維の未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の伸度を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程を通した後に巻き取る方法のいずれでも延伸処理することが好ましい。具体的には60〜190℃ 、好ましくは75℃〜180℃の予熱ローラー上で予熱し、延伸倍率1.2〜6.0倍、好ましくは2.0〜5.0倍で延伸し、セットローラー120〜220℃、好ましくは130〜200℃で熱セットを実施することが好ましい。予熱温度不足の場合には、目的とする高倍率延伸を達成することができなくなる。セット温度が低すぎると沸水収縮率が高すぎるため好ましくない。また、セット温度が高すぎると該繊維の物性が著しく低下するため好ましくない。
【0037】
一方、本発明の混繊糸の芯糸であるポリエステル繊維Bは、極細繊維Aに対し、沸水収縮率が2〜50%大きいことが必要である。より好ましくは5〜30%である。上記沸水収縮率差が2%未満の場合には、芯鞘型2層構造糸を形成するのが難しくなり、撥水性を発揮することができず、50%を超えると収縮斑によりかえって撥水性が低下する。ここで沸水収縮率の差は海島型複合繊維との差であってもよい。海島型複合繊維の沸水収縮率がポリエステル繊維Bの沸水収縮率より小さいことが、エステル反応性シリコーン含有極細繊維Aが鞘糸となりやすく混繊糸の高撥水性にとって好ましい。
【0038】
さらにポリエステル繊維Bの単糸繊度は1.5〜10dtexであることが必要である。単繊維繊度1.5dtex未満では混繊後、極細繊維Aによる芯鞘構造の形成が不十分となり、一方、上記単繊維繊度が10dtexを超えると布帛の風合いが硬くなる傾向にある。本発明においては、ポリエステル繊維Bは太さ斑を有しない均一な繊維であることが好ましい。なお、ここでいう太さ斑を有しないというのは通常のフラットな太細を意識していないマルチフィラメントのことである。フィラメント数は特に限定されないが、少ない場合には混繊する際の均一混合性が低下するので、好ましくない。このため、フィラメント数は4〜40が好ましく、6〜30がより好ましい。
【0039】
ポリエステル繊維Bを構成するポリマーは、得られる布帛の風合いや染色などの取り扱い性から、芳香族ポリエステル系ポリマーであることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。該ポリエステルは前記海島型複合繊維の海成分に好ましく用いられるポリエステルと比較して難溶解性である必要がある。さらに、該ポリエステル繊維Bを構成するポリエステルポリマーには収縮性を向上させる為に、第3成分が共重合されていることが好ましい。好ましく用いられる第3成分としては、イソフタル酸、ビスフェノールA およびそのエチレンオキサイド付加体、ネオペンチルグリコールなどをあげることができる。その共重合量は、高収縮特性を発揮する上で通常2モル%以上であり、上限は得られる布帛の風合いや機械的特性の点から通常は20モル%以下であることが好ましい。また、極細繊維Aと同様のエステル反応性シリコーン化合物を2〜20重量%含有していることにより、撥水性が向上し特に好ましい。
上記のポリエステル繊維Bの沸水収縮率は公知の方法で紡糸延伸し、延伸倍率を適宜調整することにより任意に設定することができる。
【0040】
本発明の撥水性ポリエステル混繊糸とするには、まず鞘糸となる極細繊維Aを島成分とする海島型複合繊維と芯糸となるポリエステル繊維Bとを、一緒に引き揃えて空気交絡処理に付され混繊糸とすることが好ましい。この場合、両者の使用割合は、海島型複合繊維の海成分を除去した後の重量比で芯糸:鞘糸=25:75〜75:25とすることが好ましい。空気交絡としては、インターレース、タスラン加工のいずれであっても良い。ただし混繊糸作成時には熱処理は行わないで得られるものが好ましい。混繊糸作成時に熱処理を行うと布帛化した際に熱処理をしても、鞘糸と芯糸との収縮率差による均一な鞘糸の微細ループ構造が形成されず、織編物としての撥水性が低下する。布帛化後、熱処理を施して高密度化する方法が好ましく用いられる。また、得られた混繊糸を織編物にする際、撚糸を施こしても良い。
【0041】
なお、布帛を製造する場合においては、織編機、織編組織等については何等制約することはなく、本発明の混繊糸を少なくとも一部に用いることによって、本発明の目的とする撥水性に優れた布帛を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。各評価項目は下記の方法で測
定した。
【0043】
(1)平均繊維径、繊度のばらつきCV%
海成分溶解除去後の微細繊維の30000倍のTEM観察により、繊維径を求めた。ここで繊維径は膠着していない単糸の繊維径を測定した。ランダムに選択した400本の微細繊維の繊維繊維径データにおいて、平均繊維径rと標準偏差σを算出し、以下で定義する繊維径変動係数CV%を算出した。
CV%=標準偏差σ/平均繊維径r×100 (%)
【0044】
(2)強度
20℃、65%RHの雰囲気下で、引張試験機により、試料長20cm、速度20cm/分の条件で破断時の強度を測定した。測定数は10とし、その平均をそれぞれの強度とした。
【0045】
(3)沸水収縮率
JIS L 1013に準拠して行った。
【0046】
(4)接触角
混繊糸を筒編として精錬し、油剤除去後、繊維を抜き出して、協和界面科学(株)社製自動微小接触角測定装置「MCA−2」を使用し、蒸留水を繊維表面上に滴下したときの繊維と水滴との接触角を測定数5で測定し、平均値を求めた。細繊度ポリエステル延伸糸Aに対しては、単糸を抜き出し、蒸留水の滴下量は0.05μlとして測定し、接触角が大きいほど撥水性に優れると判断した。
【0047】
(5)撥水性(布帛の撥水性)
各実施例および比較例で得られたポリエステル繊維を経糸および緯糸に使用して、目付75g/mの平織物を製織し、定法により精錬、乾燥した後、180℃でヒートセットした。さらにこの一部を用いて減量率10%となる様にアルカリ減量をして布帛を得た。この布帛を用いて、JIS L−1092のスプレー試験法を同一サンプルに対して5回繰り返し行い、布帛の濡れ具合に対する点数表示による評価を行った。
100点:表面に湿潤や水滴が付着していないもの
90点:表面に湿潤しないが、小さな水滴が付着しているもの
80点:表面に小さな個々の水滴状の湿潤があるもの
70点:表面の半分以上が湿潤し、小さな個々の湿潤が布を浸透する状態を示すもの
50点:表面全体が湿潤したもの
0点:表面および裏面が全体に湿潤を示すもの
【0048】
(6)含有シリコーン化合物量:
1H−NMR法にてポリエステル組成物中に含有している変性シリコーン量を定量した。更にポリエステル試料を適切な溶媒に溶解させて貧溶媒を加えて再沈殿操作を行い、濾過により得られた固形物についても1H−NMR測定を行った。後者の再沈殿操作後の測定結果の値からポリエステル中に共重合している変性シリコーン化合物の量を定量し、前者の再沈殿前の測定結果の値と、後者の測定結果の値との差からブレンドしているシリコーン化合物量を定量した。また変性シリコーン化合物の化学構造においてはブレンドしている成分については再沈殿操作の溶媒中の成分を回収成分を、共重合されている成分については再沈殿後のポリエステルを加水分解後の残渣成分を測定することにより行うことができる。
【0049】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エステル反応性シリコーン化合物(一般式(1)のRがエチル基、n=9である化合物、チッソ社製FM−DA11)10重量部、酢酸マンガン4水塩0.031部を反応器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で3時間かけて140℃から240℃まで昇温し、精製するメタノールを系外に除去しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応を終了させた後、安定剤としてリン酸0.024部および重縮合反応触媒として三酸化アンチモン0.04部を添加した後、285℃まで昇温して、減圧下で重縮合反応させ、シリコーン含有ポリエステルを得た。得られたシリコーン含有ポリエステルの固有粘度は0.65であった(35℃、オルソクロロフェノール中)。
該シリコーン含有ポリエステルを島成分とし、海成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸9モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール3重量%を共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、両ポリエステルを乾燥させた後、押出機にて島ポリマーを285℃、海ポリマーを275℃で別々に溶融し、フィラメント当たりの島数800の公知の海島複合繊維口金を用いて、島/海(重量比)=70:30で紡糸し、紡速1000m/分で巻き取った。引き続いて延伸温度90℃、熱セット温度160℃にてスリット型ヒーターを用いて延伸し、総繊度56dtex、10フィラメントからなる海島型複合繊維マルチフィラメントを得た。
該海島型複合繊維を用いて筒編みを作成し、4%NaOH水溶液で95℃にて30%減量した繊維の断面を観察したところ、海成分減量後の極細繊維束の繊維径の平均値は780nmでありCV%は12%であった。また、強度は3.2cN/dtex、伸度は34%、沸水収縮率は6.2%であった。
【0050】
一方、ポリエステル繊維Bとして、イソフタル酸を10モル%共重合した固有粘度0.64(35℃、オルソクロロフェノール中)のポリエチレンテレフタレートを紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で紡糸した未延伸糸を87℃の加熱ローラーに6ターンし、120℃の延伸ローラーに3ターン巻きつけて3倍延伸し、沸水収縮率が15%、40dtex、フィラメント数12のポリエステル繊維Bを得た。該糸と海島型複合繊維をひきそろえてインターレースノズルを用いて空気交絡処理を行い、混繊糸を得た。得られた混繊糸の物性を表1に示す。
この混繊糸を経糸及び緯糸に用い、経糸は600回のS撚り、緯糸には800回のSZ撚りを施して平織を作成した。その後常法に従って精練し、4%NaOH水溶液中での減量工程(30%)を経て、120℃、60分染色し、ファイナルセットした。得られた平織物中の混繊糸はポリエステル繊維Bが芯糸、海島型複合繊維の海成分が除去された島成分からなる極細繊維Aが鞘糸、とする芯鞘2層構造糸となっており、布帛は水滴を吸収せず僅かに傾けただけで転がり落ち、ソフト感・ぬめり感に優れた、高級感のある織物であった。
【0051】
[実施例2]
ポリエステル繊維Bとして、実施例1の極細繊維Aを構成するポリマーと同様のエステル反応性シリコーンを含むポリマーにイソフタル酸が10%共重合されたポリマーを用いた以外は実施例1と同様にして混繊糸を作成した。得られた混繊糸および、布帛は非常に撥水性に優れ、風合いにも優れるものであった。
【0052】
[比較例1、2]
実施例1の極細繊維Aを構成するポリエステルとして、エステル反応性シリコーンを含有しないポリエステル(固有粘度0.64)、およびシリコーン含有率を30重量%としたものを用いた以外は、それぞれ実施例1と同様の方法で混繊糸を得た。表1に示す通り、撥水ポリマーを用いない比較例1で得られた混繊糸、および布帛は、撥水性が劣るものとなり、シリコーン共重合量の過剰な比較例2は撥水性はみられるものの、島径が不均一となり、紡糸安定性、強度に劣るものとなった。
【0053】
[比較例3]
実施例1で極細繊維Aを作成する際に、フィラメント当たりの島数20島の口金を用いた以外は実施例1と同様の方法で混繊糸を得た。得られた混繊糸の物性を比較例3として表1に示す。得られた混繊糸は、鞘糸の繊維径が大きく撥水性が劣り、布帛としても斑があり品位に欠けるものであった。
【0054】
[比較例4、5]
実施例1において、ポリエステル繊維Bの作成時にイソフタル酸を共重合していない固有粘度0.63のポリエステルを用い、沸水収縮率を6.5%としたものを作成した。また、ポリエステルとしてイソフタル酸を15モル%共重合したものを用いて、実施例1と同様の方法で延伸時に熱セットせず、沸水収縮率を57%のポリエステル繊維Bとして作成した。それぞれ比較例4、比較例5として、実施例1と同様の方法でこれらを芯糸として混繊糸を作成した。比較例4は鞘糸との収縮差が小さく、鞘糸と芯糸がランダムに絡んだ状態となり撥水性に劣るものとなり、比較例5では鞘糸との収縮差が大きすぎる為、交絡状態に斑が生じ、これも撥水性が劣るものとなった。
【0055】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により、着用、洗濯を繰返しても撥水性能の低下が少ない優れた撥水性を示し、かつ実用に耐えうる十分な強度や伸度などの機械的物性を有する極細ポリエステル繊維糸を得ることができ、耐久撥水性が要求される衣料用途、産業資材用途の素材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維Aを鞘糸とし、ポリエステル繊維Bを芯糸とする芯鞘2層構造を有するポリエステル混繊糸であって、下記要件を満足することを特徴とする撥水性ポリエステル混繊糸。
a)極細繊維Aが下記一般式(1)で示されるエステル反応性シリコーン化合物をポリエステル100重量部に対し2〜20重量部含有するポリエステル組成物からなること。
b)極細繊維Aの平均単糸繊維径が50〜2000nmであること。
c)ポリエステル繊維Bの沸水収縮率が極細繊維Aの沸水収縮率より2〜50%大きく且つ単糸繊度が1.5〜10dtexであること。
d)極細繊維Aとポリエステル繊維Bとが交絡していること。
【化1】

(上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。)
【請求項2】
極細繊維Aが海島型複合繊維の海成分を溶解除去した後の島成分からなる極細繊維である請求項1記載の撥水性ポリエステル混繊糸。
【請求項3】
ポリエステル繊維Bを構成するポリマーが、下記式(1)で表されるエステル反応性シリコーンをポリマー100重量部に対し2〜20重量部含有するポリエステルである請求項1〜2記載の撥水性ポリエステル混繊糸。
【化2】

(上記式中、Rはアルキル基を表し、nは1〜100の整数である。)
【請求項4】
極細繊維Aの平均単糸繊維径のCV%が0〜25%である請求項1〜3のいずれかに記載の撥水性ポリエステル混繊糸。
【請求項5】
請求項1〜4記載の撥水性ポリエステル混繊糸を含む布帛。

【公開番号】特開2011−47068(P2011−47068A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195563(P2009−195563)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】