説明

撥水性ポリエステル繊維およびその製造方法

【課題】製糸安定性が良好であり、優れた撥水性能を有する撥水性ポリエステル繊維を提供することにある。また、優れた撥水性能を有する撥水性ポリエステル繊維を安定して生産する撥水性ポリエステル繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステルからなり撥水性ポリエステル繊維であって、該繊維に、該繊維の重量に対して3〜10重量%のシリコーン微粒子が含有されている撥水性ポリエステル繊維とする。ポリエステルに、シリコーン微粒子をこれらの合計重量に対して3〜10重量%ブレンドし溶融紡糸する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製糸安定性が良好であり、優れた撥水性を有する撥水性ポリエステル繊維に関するものである。さらには、優れた撥水性を有するポリエステル繊維に安定して製造することができる撥水性ポリエル繊維の製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂を含有する分散液等で布帛を処理して布帛表面にこれらの樹脂を付着せしめて、撥水処理を施すことは広く行われている。しかしながら、これらの加工処理で得られた布帛には撥水性はあるものの、耐久性が低く、布帛の使用に伴って処理した樹脂が、その表面から脱落して撥水性を失い易いという欠点を有している。一方、十分な撥水耐久性を付与する程の量を処理すると布帛の風合いが硬くなるという問題点があった。そのためにポリエステル繊維のスポーツウェア分野等撥水耐久性と風合いが共に要求される分野への応用が大きく制限されていた。
【0003】
これに対して、特許文献1にはフッ素系樹脂を溶融混練して得られた繊維が提案されている。また、特許文献2ではテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフルオリドの共重合体を撥水成分としてポリエステルに含有した繊維が提供されている。しかしながら、フッ素樹脂は一般に融点と分解点が近いため、長期のランニングでは分解熱劣化したポリマーが影響して、安定して良好な糸質の繊維を得ることが困難である。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−238822号公報
【特許文献2】特開2000−96348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明のこのような現状に鑑みなされたもので、その目的は、製糸安定性が良好であり、優れた撥水性能を有する撥水性ポリエステル繊維を提供することにある。また、優れた撥水性能を有する撥水性ポリエステル繊維を安定して生産する撥水性ポリエステル繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリエステル繊維にシリコーン微粒子を含有させたポリエステル繊維が優れた撥水性を有し、製糸安定性にも優れていること、さらに特定のシリコーン微粒子を選んだときその効果がより顕著なものとなることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
かくして本発明によれば、ポリエステルからなる撥水性ポリエステル繊維であって、該繊維に、該繊維の重量に対して3〜10重量%のシリコーン微粒子が含有されていることを特徴とする撥水性ポリエステル繊維が提供される。その際、該シリコーン微粒子が、無機微粒子にジメチルシリコーンオイルを坦持させた微粒子であることが好ましい。
【0008】
また、ポリエステルに、シリコーン微粒子をこれらの合計重量に対して3〜10重量%ブレンドし溶融紡糸すること特徴とする撥水性ポリエステル繊維の製造方法が提供される。その際、シリコーン微粒子が、無機微粒子にジメチルシリコーンオイルを坦持させた微粒子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製糸安定性が良好であり、優れた撥水性能を有する撥水性ポリエステル繊維を提供することができる。また、優れた撥水性能を有する撥水性ポリエステル繊維を安定して生産する撥水性ポリエステル繊維の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の撥水性ポリエステル繊維について詳述する。該繊維はポリエステルからなり、該ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびこれらを主体として、これらのジカルボン酸成分またはグリコール成分をイソフタル酸、5−ナトリウムイソフタル酸、アジピン酸、トリメリット酸、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールまたはペンタエリスリトール等で共重合したものを挙げることができる。なかでも機械的性質、成形性等のバランスのとれたポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0011】
また、上記ポリエステルには、本発明の目的を阻害しない範囲で、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、艶消剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料、着色剤、難燃剤、強化剤、潤滑剤、帯電防止剤等を含有していてもよい。
【0012】
本発明の撥水性ポリエステル繊維おいては、該繊維に、該繊維の重量に対して3〜10重量%のシリコーン微粒子が含有されていることが肝要である。上記共重合フッ素樹脂の含有量が3重量%未満では十分な撥水性が得られない。また、本発明は、かかるシリコーン微粒子が含有する撥水性ポリエステル繊維は、従来提案されているフッ素樹脂を含有するものと比較し、撥水性のみならず製糸安定性にも優れることを見出しなされたものであるが、上記含有量が10重量%を超える場合は製糸安定性が悪くなり好ましくない。
【0013】
また、本発明においては、上記シリコーン微粒子が、無機微粒子にジメチルシリコーンオイルを坦持させた微粒子であることが好ましい。かかるシリコーン微粒子を含有するポリエステル繊維は製糸安定性が格段に向上し、溶融紡糸法による長期のランニングにおいても安定した製造が可能である。
【0014】
本発明の撥水性ポリエステル繊維は、該繊維1本の上に10pLの蒸留水を滴下したときの該繊維と水滴とのなす角(以下、接触角と称することがある)が、100°以上であることが好ましく、105°以上であることがより好ましい。かかる接触角を有するポリエステル繊維は撥水性が極めて優れている。
【0015】
本発明のポリエステル繊維の断面形状は、用途等に応じて任意の形状とすることができ、例えば円形の他、三角、偏平、星型、V型等の異形断面またはそれらの中空断面が例示できる。
【0016】
本発明のポリエステル繊維は、ポリエステルに、シリコーン微粒子をこれらの合計重量に対して3〜10重量%ブレンドして溶融紡糸し、必要に応じて延伸、熱処理を施すことにより製造することができる。またこの際、例えば次の方法を採用することができる。すなわち、共重合フッ素樹脂を20〜50重量%ブレンドしたポリエステルを、270〜300℃で溶融して紡糸口金から押し出し、500〜3000m/minで巻き取り未延伸を得、巻き取った未延伸糸を60〜100℃で延伸し、150〜200℃で熱処理することにより本発明のポリエステル繊維を製造することができる。さらに、上記シリコーン微粒子として、無機微粒子にジメチルシリコーンオイルを坦持させた微粒子を用いることによって、格段に製糸安定性を向上させることができる。
【0017】
なお、本発明のポリエステル繊維は、上記のように前述したフッ素樹脂を含有させたポリエステルを単独で紡糸したブレンド繊維のほか、該フッ素樹脂を含有したポリエステルが繊維表面を形成するように他のポリマーと複合紡糸した繊維も含まれ、かかる複合繊維は、繊維の機械的特性保持やコストダウンの点で有利である。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<測定方法>
(1)接触角
1本の繊維上に10pLの蒸留水を滴下したときの繊維と水滴とのなす角を測定した。
(2)強度・伸度
20℃、65%RHの雰囲気下で引張試験機により、試料長20cm、速度20cm/分の条件で測定したときの、破断時の強度及び伸度である。測定数は10とし、その平均を求めた。
【0019】
[実施例1]
30000センチストークの粘度であるジメチルシリコーン坦持微粒子(東レダウコーニングシリコーン社製トレフィルF−201)を3重量%ブレンドしたポリエチレンテレフタレートを用いて、285℃で溶融し、0.3mmφ×0.6mmL−24ホールの紡糸口金からトータル吐出量36g/minで押し出し、1500m/minで巻き取った。巻き取った未延伸糸を80度で延伸、180℃で熱処理することによりポリエステル繊維を製造した。結果を表1に示す。
【0020】
[実施例2および3、比較例1および2]
実施例1においてジメチルシリコーン坦持微粒子のブレンド量(重量%)を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリエステル繊維を製造した。結果を表1に示す。
【0021】
[比較例3]
実施例1において、シリコーン坦持微粒子ブレンドしたポリエチレンテレフタレートに代えて、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン−ビニリデンフルオリド共重合(住友スリーエム社製THV500G)を20重量%ブレンドしたポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてポリエステル繊維を製造した。結果を表1に示す。
【0022】
[比較例4および5]
テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン−ビニリデンフルオリド共重合(住友スリーエム社製THV500G)のブレンド量(重量%)を表1のように変更したこと以外は、比較例3と同様にしてポリエステル繊維を製造した。結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の撥水性ポリエステル繊維は、製糸安定性が良好であり、繊維自身が優れた撥水性を有しているため、布帛等の繊維構造物として撥水後加工処理を施すことなく、あらゆる用途に用いることができる。このため、一般衣料のみならず、スポーツ衣料、作業服などの特殊衣料、靴、鞄、傘などにも広く用いることができる。また、本発明の撥水性ポリエステル繊維の製造方法によれば、安定して優れた撥水性を有するポリエステル繊維を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルからなる撥水性ポリエステル繊維であって、該繊維に、該繊維の重量に対して3〜10重量%のシリコーン微粒子が含有されていることを特徴とする撥水性ポリエステル繊維。
【請求項2】
シリコーン微粒子が、無機微粒子にジメチルシリコーンオイルを坦持させた微粒子である請求項1に記載の撥水性ポリエステル繊維。
【請求項3】
ポリエステルからなる撥水性ポリエステル繊維であって、該ポリエステル繊維1本の上に10pLの蒸留水を滴下したときの繊維と水滴とのなす角直が100°以上である請求項1または2に記載の撥水性ポリエステル繊維。
【請求項4】
ポリエステルに、シリコーン微粒子をこれらの合計重量に対して3〜10重量%ブレンドし溶融紡糸すること特徴とする撥水性ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項5】
シリコーン微粒子が、無機微粒子にジメチルシリコーンオイルを坦持させた微粒子である請求項4に記載の撥水性ポリエステル繊維の製造方法。

【公開番号】特開2008−248444(P2008−248444A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93072(P2007−93072)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】