説明

撥水性材料、それを用いた撥水膜形成方法、及び撥水性塗料組成物

【課題】本発明の課題は、水との接触角が140°以上である撥水性材料を非常に簡単な方法で形成することにある。
【解決手段】本発明の撥水性材料は、低分子ゲル化剤と有機溶媒に溶解、又は分散することが可能な高分子材料とを含んでいることを特徴とし、両者を適切な有機溶媒に均一に溶解、または分散することにより得られるコーティング液を基材にコーティングし、その後有機溶媒を除去することにより簡単に撥水性膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性材料、それを用いた撥水膜形成方法、及び撥水性塗料組成物に関し、詳しくは低分子ゲル化剤と有機溶媒に溶解、又は分散することが可能な高分子材料とを含む撥水性材料、それを用いた撥水膜形成方法、及び撥水性塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基材表面の撥水性を高めるための手段として、一般的に基材表面にシリコーンやフッ素系化学物質などの撥水剤を含む皮膜を、積層または塗布することにより形成している(例えば、特許文献1,2参照)。しかし、表面の化学的成分を改質するだけでは、水との接触角が140°以上の撥水表面を得ることが難しいため、疎水性微粒子を用いて表面に微細凹凸構造を形成する方法が提案されている(特許文献3)。最近では、より簡単な方法として低分子ゲル化剤が自己集合により微細凹凸構造を形成することを利用した撥水膜の作製が報告されている(非特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−147340号公報
【特許文献2】特開2002−38094号公報
【特許文献3】特開2003−172808号公報
【非特許文献1】Yamanaka et al.,Chemical Communication,2006,2248−2250.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の特許文献3では水との撥水角が140°以上の撥水表面を作製にあたり疎水性微粒子を用いているが、この微粒子を均一に分散させることが難しい、もしくは新たな装置を使って分散性を上げる必要があるなどの課題があった。また、前述の非特許文献1では、撥水膜を簡便に作製することができるが、撥水膜がもろく簡単に崩れてしまうことに加え、基材との接着がきわめて弱いため基材表面から簡単に剥離してしまうという欠点があった。従って、ある程度の柔軟性を有する撥水性材料、さらには材料表面との接着がよい撥水膜とその作製方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、前記課題を達成するために検討した結果、低分子ゲル化剤と有機溶媒に溶解、又は分散することが可能な高分子材料とを含む複合材料から安定な撥水性材料が得られることを見出し、本願発明を達成するに至った。
すなわち、本発明は、低分子ゲル化剤と有機溶媒に溶解、又は分散することが可能な高分子材料とが混合されている撥水性材料である。
ここで、低分子ゲル化剤とは、液体に対し10重量%以下の添加量で加熱溶解などの処理をした後、常温で溶液全体をゲル化、もしくは著しく増粘させることができる化合物(分子量1500以下)を指す。この際、液体とは水、鉱物油、植物油、有機溶媒など常温で液体である化合物を指し、この中の少なくとも1種類を常温で溶液全体をゲル化、もしくは著しく増粘させることができる化合物をゲル化剤と呼ぶ。
【0006】
前記低分子ゲル化剤はパーフルオロアルキル基、又は炭素数4以上のアルキル鎖を有することが好ましい。さらに好ましくは、低分子ゲル化剤は炭素数4以上のパーフルオロアルキル鎖、又は炭素数8以上の長鎖アルキル鎖を有することが好ましい。こうであれば、撥水性材料表面と水との接触角が大きくなるからである。
【0007】
前記高分子材料はポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、又はそれらの変性物であることが好ましい。こうであれば、高分子材料が溶媒に容易に溶解するため撥水性材料が形成しやすいためである。
【0008】
前記低分子ゲル化剤と高分子材料の配合比は、低分子ゲル化剤/(低分子ゲル化剤+高分子材料)の重量比が0.2〜0.95となる範囲であることが好ましい。こうであれば、撥水性を損なうことなく、比較的柔軟な撥水性材料が形成できるからである。
【0009】
なお、水と前記撥水性材料との接触角は140°以上である。
【0010】
また、本発明の撥水性材料は、低分子ゲル化剤と高分子材料とを有機溶媒に溶解、または分散させてコーティング液を調整するコーティング液調整工程と、該コーティング液を基材にコーティングするコーティング工程と、該基材にコーティングされた該コーティング液に含まれている溶媒を乾燥させて撥水性膜を形成する膜形成工程とを備える撥水膜形成方法により得ることができる。
【0011】
前記低分子ゲル化剤はパーフルオロアルキル基、又は炭素数4以上のアルキル鎖を有することが好ましい。さらに好ましくは、低分子ゲル化剤は炭素数4以上のパーフルオロアルキル鎖、又は炭素数8以上の長鎖アルキル鎖を有することが好ましい。
【0012】
前記高分子材料はポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、又はそれらの変性物であることが好ましい。
【0013】
前記低分子ゲル化剤と高分子材料の配合比は、低分子ゲル化剤/(低分子ゲル化剤+高分子材料)の重量比が0.2〜0.95となる範囲であることが好ましい。
【0014】
なお、上記製造方法で製造される撥水性材料の水との接触角は140°以上である。
【0015】
なお、上記撥水性材料は撥水性塗料組成物として有用である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の低分子ゲル化剤と有機溶媒に溶解、又は分散することが可能な高分子材料とを含む撥水性材料は、非常に簡単な方法で様々な基材表面に撥水膜を形成することができる。また、形成される撥水膜はある程度の柔軟性を持ち材料表面との接着がよいため、温度や経時による変化が少なく安定性に優れた撥水膜を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明において撥水性材料は、低分子ゲル化剤と有機溶媒に溶解、又は分散することが可能な高分子材料とを含む。両者を適切な有機溶媒に均一に溶解、または分散した後、溶媒を除去することにより撥水膜を得る。
【0019】
該低分子ゲル化剤としてその分子構造中にパーフルオロアルキル鎖、又は炭素数4以上のアルキル鎖を有するものが望ましく、例えば、含フッ素アルキルジエステル化合物、含フッ素アルキルエステルアミド化合物、含フッ素アルキルエステル化合物、含フッ素アルキルアミド化合物、含フッ素アルキルエーテル化合物、12−ヒドロキシステアリン酸、L−イソロイシン誘導体やL−バリン誘導体をはじめとするアミノ酸誘導体、シクロヘキサンジカルボキシアルキルアミド、シクロヘキサントリカルボキシアルキルアミド、トリメット酸トリアルキルアミド、ジアルキルウレア誘導体、アントラセンジアルキルエーテル、アントラキノンジアルキルエーテル、テトラアルキルアンモニウム塩、脂肪酸アルカリ金属塩、脂肪酸アルミニウム塩、アビエチン酸カルシウム塩、尿素誘導体、環状ジペプチド誘導体、コレステロール誘導体、胆汁酸誘導体などの化合物が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0020】
また、前述の高分子材料としては、高分子材料自体やプレポリマーが有機溶媒に溶解、もしくは分散するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ニトロセルロース、アクリル樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂、塩化ビニル樹脂、ブチラール樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ビニルゾル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ゴム樹脂、ケイ素樹脂、アクリル・シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、ポリ酢酸ビニル、天然ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム等が挙げられるが、特に有機溶媒に溶解しやすく扱いやすいという観点からポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、又はそれらの変性物であることが好ましい。
【0021】
また、前述の有機溶媒としてアルコール類、ケトン類、エステル類、アルコールエステル類、ケトンエステル類、エーテル類、ケトンアルコール類、エーテルアルコール類、ケトンエーテル類、エステルエーテル類、ニトリル類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、ハロゲン化物等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0022】
該低分子ゲル化剤と高分子材料の配合比は、低分子ゲル化剤/(低分子ゲル化剤+高分子材料)の重量比が0.2〜0.95となる範囲であることが好ましい。該重量比が0.2未満では撥水性が著しく低下するおそれがあり、該重量比が0.95以上では得られる被膜がもろくなったり剥離したりするおそれがある。
【0023】
低分子ゲル化剤と高分子材料とを有機溶媒に溶解、または分散させてコーティング液を調整するコーティング液調整工程には特に限定がなく、例えば加熱して溶解させたり、攪拌機を用いて溶解、または分散させたりすることができる。
【0024】
基材に本発明の撥水性材料を塗布したり、吹き付けたりするコーティング工程には特に限定がなく、例えばスピンコーティング法、フローコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法、バーコーター法、刷毛塗り、スポンジ塗り等の従来公知の塗布方法が使用できる。
【0025】
コーティング液に含まれている溶媒を乾燥させて撥水性膜を形成する膜形成工程には特に限定がなく、例えば加熱、送風、減圧等により従来公知の溶媒乾燥法により膜形成することができる。
【0026】
本発明の撥水性材料には、必要に応じて公知の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、着色材、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、防カビ剤などが例示される。
【0027】
本発明の撥水性材料が使用できる被塗布物には特に制限がなく、各種材料の被覆のために使用することができ、例えば金属(例えば、鉄、アルミニウム、これらを含む合金など)、木、ガラス、プラスチック、コンクリート、セラミックス、有機又は無機質塗膜を施した基材などが挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を具体化した実施例をあげて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
表1に示す各種低分子ゲル化剤と高分子材料を各種有機溶媒1mLに加熱溶解、又は分散させ、その溶液を各種基材(38mm×26mm×1mm)の上にキャストし、室温で放置した。キャストしてから3日後に水の接触角を光学式接触角計(ERMA社;G−1)で測定し、表1の結果を得た。
【0029】
(比較例)
表1に示すゲル化能を有しない低分子化合物と高分子材料を各種有機溶媒に溶解させ、実施例と同様の条件でサンプル調整し、接触角を測定した。
【0030】
【表1】

* 1:接触角が140°以上の場合に○、140°未満の場合に×
* 2:東京化成製(H0308)
* 3:PSジャパン社製(HF−55)
* 4:アルドリッチ社製(189480)
* 5:キシダ化学社製(020−50005)
* 6:三井化学社製(H400)
* 7:下記式で表される含フッ素アルキルジエステル化合物を常法(例えば非特許文献1に示されている)により合成

* 8:フルカ社製(87990)
* 9:東京化成製(S0163)
* 10:東京化成製(O0006)
* 11:東京化成製(D1630)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子ゲル化剤と有機溶媒に溶解、又は分散することが可能な高分子材料とが混合されている撥水性材料。
【請求項2】
前記低分子ゲル化剤はパーフルオロアルキル基、又は炭素数4以上のアルキル鎖を有する請求項1に記載の撥水性材料。
【請求項3】
前記低分子ゲル化剤は炭素数4以上のパーフルオロアルキル鎖、又は炭素数8以上の長鎖アルキル鎖を有する請求項1又は2に記載の撥水性材料。
【請求項4】
前記高分子材料はポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、又はそれらの変性物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の撥水性材料。
【請求項5】
前記低分子ゲル化剤と高分子材料の配合比は、低分子ゲル化剤/(低分子ゲル化剤+高分子材料)の重量比が0.2〜0.95となる範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の撥水性材料。
【請求項6】
水と撥水性材料の接触角が140°以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の撥水性材料。
【請求項7】
低分子ゲル化剤と高分子材料とを有機溶媒に溶解、または分散させてコーティング液を調整するコーティング液調整工程と、
該コーティング液を基材にコーティングするコーティング工程と、
該基材にコーティングされた該コーティング液に含まれている溶媒を乾燥させて撥水性膜を形成する膜形成工程と
を備える撥水膜形成方法。
【請求項8】
前記低分子ゲル化剤はパーフルオロアルキル基、又は炭素数4以上のアルキル鎖を有する請求項7に記載の撥水膜形成方法。
【請求項9】
前記低分子ゲル化剤は炭素数4以上のパーフルオロアルキル鎖、又は炭素数8以上の長鎖アルキル鎖を有する請求項7又は8に記載の撥水膜形成方法。
【請求項10】
前記高分子材料はポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、又はそれらの変性物である請求項7〜9のいずれか1項に記載の撥水膜形成方法。
【請求項11】
前記低分子ゲル化剤と高分子材料の配合比は、低分子ゲル化剤/(低分子ゲル化剤+高分子材料)の重量比が0.2〜0.95となる範囲である請求項7〜10のいずれか1項に記載の撥水膜形成方法。
【請求項12】
水と撥水性膜との接触角が140°以上である請求項7〜11のいずれか1項に記載の撥水膜形成方法。
【請求項13】
低分子ゲル化剤と高分子材料とが有機溶媒に溶解、又は分散されている撥水性塗料組成物。

【公開番号】特開2009−51921(P2009−51921A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219260(P2007−219260)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【Fターム(参考)】