説明

撥水性組成物、撥水層を有する基材、その製造方法および輸送機器用物品

【課題】優れた水滴滑落性と耐摩耗性を有し、長期間の視界確保に優れた撥水層を形成できる撥水性組成物の提供。
【解決手段】RCON(R)−A−Si(R(X3−p(化合物1)および/またはRSON(R)−B−Si(R(X3−q(化合物2)と(RSi(X4−r(化合物3)とを、(化合物1および/または化合物2の合計)/化合物3が2/100〜100/100の質量比で部分共加水分解して得た部分共加水分解体を含む撥水性組成物(R:酸素原子を含んでもよい炭素数3〜17のポリフルオロアルキル基。A、B:窒素原子を含んでもよい炭素数1〜4の2価有機基。R、R:水素原子または炭素数1〜3の1価炭化水素基。R、R、R:フッ素原子を含まない炭素数1〜6の1価炭化水素基。X、X、X:アルコキシ基等。p、q、r:0、1、2。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性組成物、該撥水性組成物から形成された撥水層を有する基材、該基材の製造方法および該基材からなる輸送機器用物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用フロントガラス等の基材表面には、水滴滑落性(水滴転落性ともいう。)を付与することが強く求められている。基材表面に耐久性に優れる水滴滑落性を付与するために、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物の部分加水分解縮合物と、シラン化合物とからなるガラス表面の撥水撥油剤が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物とシラン化合物との相溶性が充分でないため、塗布時に両成分を基材表面に均一に塗布することが難しく、水滴滑落性と耐磨耗性とを安定的に両立することができなかった。
【0003】
また、シリカマトリックス中に、ジメチルシリコーンの末端にウレタン結合を介してシランカップリング剤を結合させてなる滑水成分を分散させた高滑水性被膜が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、該高滑水性被膜は、自動車用ウィンドウガラスとしての耐久性、耐薬品性、耐候性、特にワイパー摺動やウィンドウ昇降に対する耐摩耗性が充分ではなかった。
【0004】
本発明者らは、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物からなる撥水性組成物を提案した(例えば、特許文献3参照。)。該撥水性組成物は、耐摩耗性には優れるものの、水滴転落性が充分でなく、自動車用ウィンドウとしては視認性が充分ではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平8−12375号公報
【特許文献2】特開2002−294151号公報
【特許文献3】特開2002−226838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記のような問題点を解決し、水滴滑落性と耐摩耗性に優れた撥水層を形成しうる撥水性組成物、該撥水性組成物から形成された撥水層を有する基材、該基材の製造方法および該基材からなる輸送機器用物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下式1で表される化合物1および/または下式2で表される化合物2と、下式3で表される化合物3とを、(化合物1および/または化合物2の合計)/化合物3が2/100〜100/100の質量比で部分共加水分解して得た部分共加水分解体をを含むことを特徴とする撥水性組成物を提供する。
【0008】
CON(R)−A−Si(R(X3−p・・・式1
SON(R)−B−Si(R(X3−q・・・式2
(RSi(X4−r・・・式3
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:炭素原子数3〜17のポリフルオロアルキル基または酸素原子を含む炭素原子数3〜17のポリフルオロアルキル基。
A、B:それぞれ独立して、窒素原子を含む炭素数1〜4の2価有機基または炭素原子数1〜4の2価有機基。
、R:それぞれ独立して、炭素原子数1〜3の1価炭化水素基または水素原子。
、R、R:それぞれ独立して、フッ素原子を含まない炭素原子数1〜6の1価炭化水素基。
、X、X:それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルコキシ基またはイソシアネート基。
p、q、r:それぞれ独立して、0、1または2。
【0009】
また、本発明は該撥水性組成物から形成された撥水層を有する基材を提供する。また、該撥水性組成物を基材に塗布し、ついで、温度0〜100℃、相対湿度10〜80%の条件下に保持することを特徴とする撥水層を有する基材の製造方法を提供する。さらに、本発明は該撥水層を有する基材からなる輸送機器用物品を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の撥水性組成物を用いて形成された撥水層は、水滴滑落性に優れ、耐摩耗性に優れ、雨天走行時の視界確保が容易であり、水滴滑落性の耐久性に優れ、長期間雨天走行時の良好な視界が維持できる。また、基材に特別な前処理を必要とせず、0〜100℃の温度、特に室温に保持することで撥水層を形成できるため、経済的にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における部分共加水分解体は、式1で表される化合物1(以下化合物1と記す。)および/または式2で表される化合物2(以下、化合物2と記す。)と、式3で表される化合物3(以下、化合物3と記す。)とを共加水分解して得る。
【0012】
化合物1、化合物2におけるR、R、R、Rは、水素原子または炭素原子数1〜3の1価炭化水素基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。化合物3におけるRは、炭素原子数1〜6の1価炭化水素基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。化合物1、化合物2、化合物3におけるX、X、Xは、アルコキシ基が好ましい。アルコキシ基であると化合物1、化合物2、化合物3の取扱いが容易である。
【0013】
本発明における化合物1は、ポリフルオロアルキル基(以下、R基と記す。)含有化合物1aとアミノシラン化合物1bとを反応させて得られる。化合物1aとしては、ポリフルオロアルキルカルボン酸、ポリフルオロアルキルカルボン酸エステル、ポリフルオロアルキルカルボン酸フルオリド等が好ましく、ポリフルオロアルキルカルボン酸エステルがより好ましい。化合物1bとしては、分子内にアミノ基を1〜3個および加水分解性反応基を2〜3個有する化合物が好ましい。
【0014】
化合物2は、R基含有化合物2aとアミノシラン化合物2bとを反応させて得られる。化合物2aとしては、ポリフルオロアルキルスルホン酸、ポリフルオロアルキルスルホン酸エステル、ポリフルオロアルキルスルホン酸フルオリド等が好ましく、ポリフルオロアルキルスルホン酸エステルがより好ましい。化合物2bとしては、上記化合物1bと同様の化合物が好ましい。
【0015】
化合物1a、化合物2aにおけるR基の構造は特に制限されず、RとしてはF(CF−D−(ただし、Dは単結合、炭素原子数1〜4の2価有機基、または、窒素原子および/または酸素原子を含む炭素原子数1〜4の2価有機基。aは3〜17の整数を示す。)が好ましい。上記Rの炭素原子数であるaは、4〜8がより好ましい。R基は、直鎖構造でも分岐構造でもよい。また、R基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0016】
化合物1aの具体例を以下に挙げるが、これらに限定されない。
17COH、C15COH、C13COH、C11COH、CCOH、C17COCH、C15COCH、C13COCH、C11COCH、CCOCH、C17COF、C15COF、C13COF、C11COF、CCOF、COCOCFCOH、COCOCOCFCOH、COCOCOCFCOH、F[CF(CF)CFO]COH、F[CF(CF)CFO]COCHCOH、F[CF(CF)CFO]COH、COCOCFCOCH、COCOCOCFCOCH、COCOCOCFCOCH、F[CF(CF)CFO]COCH、F[CF(CF)CFO]COCH、COCOCFCOF、COCOCOCFCOF、COCOCOCFCOF、F[CF(CF)CFO]COF、F[CF(CF)CFO]COF。
【0017】
化合物2aの具体例を以下に挙げるが、これらに限定されない。
17SOH、C15SOH、C13SOH、C11SOH、CSOH、C17SOCH、C15SOCH、C13SOCH、C11SOCH、CSOCH、C17SOF、C15SOF、C13SOF、C11SOF、CSOF、COCOCFSOH、COCOCOCFSOH、COCOCOCFSOH、F[CF(CF)CFO]SOH、F[CF(CF)CFO]COCHSOH、F[CF(CF)CFO]SOH、COCOCFSOCH、COCOCOCFSOCH、COCOCOCFSOCH、F[CF(CF)CFO]SOCH、F[CF(CF)CFO]COCHSOCH、F[CF(CF)CFO]SOCH、COCOCFSOF、COCOCOCFSOF、COCOCOCFSOF、F[CF(CF)CFO]SOF、F[CF(CF)CFO]COCHSOF、F[CF(CF)CFO]SOF。
【0018】
化合物1b、2bの具体例を以下に挙げるが、これらに限定されない。
NHSi(OCH、NHSi(CH)(OCH、NHNHCSi(OCH、NHNHCSi(CH)(OCH、(C)NHCSi(OCH、CHNHCSi(OCH、(CHO)SiCNHCSi(OCH、NHNHCSi(OCH、NHCHCHNHCSi(OCH、CCHNHCNHCSi(OCH、NHNHCNHCSi(OCH
【0019】
本発明における化合物1の具体例を以下に挙げるが、これらに限定されない。
17CONHCSi(OCH、C15CONHCSi(OCH、C13CONHCSi(OCH、C11CONHCSi(OCH、CCONHCSi(OCH、C17CON(CH)CSi(OCH、C15CON(CH)CSi(OCH、C13CON(CH)CSi(OCH、C11CON(CH)CSi(OCH、CCON(CH)CSi(OCH、C17CONHCSi(OCH、C15CONHCSi(OCH、C13CONHCSi(OCH、C11CONHCSi(OCH、CCONHCSi(OCH、C17CONHCNHCSi(OCH、C17CONHCNHCSi(CH)(OCH、C15CONHCNHCSi(OCH、C15CONHCNHCSi(CH)(OCH、C13CONHCNHCSi(OCH、C13CONHCNHCSi(CH)(OCH、C11CONHCNHCSi(OCH、C11CONHCNHCSi(CH)(OCH、CCONHCNHCSi(OCH、CCONHCNHCSi(CH)(OCH、COCOCFCONHCSi(OCH、COCOCOCFCONHCSi(OCH、COCOCOCFCONHCSi(OCH、F[CF(CF)CFO]CONHCSi(OCH、F[CF(CF)CFO]CONHCSi(OCH
【0020】
本発明における化合物2の具体例を以下に挙げるが、これらに限定されない。
17SONHCSi(OCH、C15SONHCSi(OCH、C13SONHCSi(OCH、C11SONHCSi(OCH、CSONHCSi(OCH、C17SON(CH)CSi(OCH、C15SON(CH)CSi(OCH、C13SON(CH)CSi(OCH、C11SON(CH)CSi(OCH、CSON(CH)CSi(OCH、C17SONHCSi(OCH、C15SONHCSi(OCH、C13SONHCSi(OCH、C11SONHCSi(OCH、CSONHCSi(OCH、C15SON(C)CSi(OCH、C15SON(C)CSi(OCH、C15SON(C)CSi(OCH
【0021】
本発明における化合物3の具体例を以下に挙げるが、これらに限定されない。
テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、エチルメチルジメトキシシラン、エチルフェニルジメトキシシラン等。
【0022】
部分共加水分解時の化合物1〜3の混合割合は、(化合物1および/または化合物2の合計)/化合物3の質量比として2/100〜100/100であり、2/100〜50/100が好ましく、2/100〜30/100がより好ましい。該範囲であると、撥水層は、最表層に配向するR基が充分であり、撥水性に優れ、撥水層の内部のR基の割合が適度であり、撥水層の硬度が充分であり、耐久性に優れ、耐摩耗性に優れる。
【0023】
また、化合物1と化合物2とを合わせて用いる場合、その混合割合は、化合物2/化合物1の質量比として、5/10〜10/10が好ましい。該範囲であると、水滴滑落性に優れる。
【0024】
本発明の撥水性組成物から形成された撥水層をX線光電子分光装置を用いて測定した結果(図1)、撥水層中のフッ素原子濃度が、撥水層の表面近くで高く、基材方向に向かって低くなる濃度分布を有することがわかった。
本発明における部分共加水分解体は、分子量が500〜20,000であるのが好ましく、1,000〜15,000がより好ましく、2,000〜10,000が最も好ましい。
【0025】
本発明における部分共加水分解体は、化合物1および/または化合物2と、化合物3とを、酸性触媒または塩基性触媒、水、溶媒の存在下、加水分解反応することにより製造できる。
【0026】
前記溶剤は、化合物1、化合物2、化合物3を溶解する化合物であれば特に限定されない。たとえば、アルコール類、ケトン類、芳香族炭化水素類、パラフィン系炭化水素類、酢酸エステル類等が好ましく、アルコール類または酢酸エステル類がより好ましく、炭素原子数1〜6のアルコールが最も好ましい。具体的には、イソプロピルアルコール(以下、IPAと記す。)が最も好ましい。溶剤は1種を使用してもよく、極性、蒸発速度等の異なる2種以上の溶剤を併用してもよい。
通常、仕込んだ原料は全て反応して部分共加水分解体が生成する。
【0027】
前記酸性触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸、クエン酸、硫酸、燐酸、スルホン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等が好ましく、最適な分子量に制御しやすく、揮発しやすいという点で、塩酸がより好ましい。また、前記塩基性触媒としては、アンモニア水が好ましい。触媒としては、塩酸が最も好ましい。
【0028】
前記溶剤の割合は、化合物1および/または化合物2と化合物3との合計の100質量部に対して、1,000〜4,000質量部が好ましく、1,000〜2,000質量部がより好ましい。該範囲であると、化合物1および/または化合物2と化合物3とが相分離せず、各成分単独の加水分解体が生成しにくく、均質な部分共加水分解体が生成しやすい。そのため、水滴滑落性、耐久性が充分に発現できる。また、重合度の制御が容易で、粘度制御が容易であり、撥水性組成物を塗布する際の作業性に優れる。
【0029】
本発明における部分共加水分解体には、ジルコニウム、アルミニウム、チタニウム、セリウム等の塩化物、アルコキシド、アセチルアセトナート、酸化物等の添加物を添加してもよい。該添加物の添加量は、化合物1および/または化合物2と化合物3の合量の100質量部に対して、0.01〜20質量部が好ましい。該範囲であると、撥水層の架橋密度が高く、水滴滑落性、耐久性に優れる。
【0030】
本発明の撥水性組成物には、部分共加水分解体のほかに、原料化合物1〜3の混合物、水、酸性触媒または塩基性触媒、アルコール類等の溶剤を含むことが好ましい。
【0031】
本発明の撥水性組成物には、目的に応じて界面活性剤、化合物1、化合物2以外のR基含有化合物、ポリジメチルシロキサン、色素等の着色用材料、各種樹脂等を含んでもよい。該含有量は、化合物1および/または化合物2と化合物3の合量の100質量部に対して、0.01〜20質量部が好ましい。該範囲であると、水滴滑落性、耐久性に優れる。
【0032】
撥水性組成物における溶媒は、加水分解反応において用いた溶媒と同様の溶媒を用いることが好ましく、溶媒の含有量は、部分共加水分解体の100質量部に対して1,000〜50,000質量部が好ましく、1,000〜20,000質量部がより好ましい。
【0033】
撥水性組成物における水の含有量は、部分共加水分解体の100質量部に対して3〜20質量部が好ましく、3〜10質量部がより好ましい。また、撥水性組成物に酸性触媒または塩基性触媒を含む場合の酸性触媒または塩基性触媒の含有量は、部分共加水分解体の100質量部に対して1〜10質量部が好ましく、2〜5質量部がより好ましい。
【0034】
また、撥水性組成物に界面活性剤を添加する場合の界面活性剤の添加量は、部分共加水分解体の100質量部に対して0.1〜5質量部が好ましく、色素を添加する場合の色素の添加量は、部分共加水分解体の100質量部に対して1〜10質量部が好ましい。
【0035】
前記、化合物1、化合物2以外のR基含有化合物の具体例としては以下の化合物が挙げられる。ただし、下式中のnは1〜10の整数を示す。
(CHO)SiC(CFSi(OCH、(CHO)(CH)SiC(CFSi(CH)(OCH、(CHO)(R)SiC(CFSi(R)(OCH、(CHO)SiCCF(CF)CFO(CFOCFCF(CF)CSi(OCH、(CHO)(CH)SiCCF(CF)CFO(CFOCFCF(CF)CSi(CH)(OCH、(CHO)(R)SiCCF(CF)CFO(CFOCFCF(CF)CSi(R)(OCH、(CHO)SiCCF(CF)(CFCF(CF)CSi(OCH、(CHO)(CH)SiCCF(CF)(CFCF(CF)CSi(CH)(OCH、(CHO)(R)SiCCF(CF)(CFCF(CF)CSi(R)(OCH
【0036】
本発明の撥水性組成物は公知の方法で基材に塗布できる。たとえば、はけ塗り、流し塗り、回転塗布、浸漬塗布、スキージ塗布、スプレー塗布等の方法を用いることができる。そして、塗布後に、大気中または窒素雰囲気中で乾燥させて、撥水層を形成できる。余剰の撥水性組成物は、溶剤含む布または溶剤を含まない布で拭きとる方法等で除去して、外観を調節することが好ましい。撥水層を有する基材の製造において、本発明の撥水性組成物を基材に塗布する際および塗布した後に、温度を0〜100℃に保持することが好ましく、10〜80℃がより好ましく、20〜40℃が最も好ましい。また、相対湿度を10〜100%に保持することが好ましく、10〜80%がより好ましく、20〜70%がとりわけ好ましく、25〜60%が最も好ましい。温度、相対湿度が該範囲であると、撥水層内部および撥水層と基材との架橋反応が充分進行し、撥水層は基材との密着性に優れ、撥水層自体の硬度が充分高くなり、耐摩耗性に優れる。
【0037】
本発明の撥水性組成物を用いて基材上に形成される撥水層の厚さは、2〜100nmが好ましく、10〜50nmがより好ましい。該範囲であると、撥水層は透明性に優れ、経済性にも優れる。
【0038】
本発明の撥水性組成物を用いて形成された撥水層表面の算術平均粗さ(R)は、0.1〜10nmが好ましい。該範囲であると、自動車用ウィンドウとして用いた場合にワイパー摺動が円滑で、不快な摺動音を生じにくく、直径5mm以下の小さな水滴が残存しにくく視認性に優れる。
【0039】
本発明の撥水層を有する基材において、撥水層と基材の間に下地層を有してもよいが、最外層が本発明の撥水性組成物から形成された撥水層であることが好ましい。撥水層の耐磨耗を向上させるために、下地層としてシリカ層を設けることが好ましい。
【0040】
撥水層と下地層とは、その境界線が厳密に分かれた状態で形成されるとは限らず、層界面の一部または全部が相互に入り交じっていてもよい。このような構成は、シリカ層と撥水層との密着性が高いため、特に耐摩耗性を向上させる効果がある。シリカ層に化合物1または化合物2等の成分に基づくR成分が含まれると、水に伴う各種劣化因子が下地層と基材との界面に浸透するのを防止する効果を有する。
【0041】
本発明における撥水層を有する基材の製造方法としては、以下の(1)〜(3)の工程を含む。(1)基材を洗浄および乾燥する工程、(2)化合物1および/または化合物2と化合物3との部分共加水分解体を含む撥水性組成物を基材に塗布する工程、(3)0〜室温、相対湿度10〜80%の条件下に該基材を保持する工程。
【0042】
本発明における基材は特に限定されず、金属、プラスチック、ガラス、セラミック、またはその組み合わせ(複合材料、積層材料等)が好ましく、ガラスまたはプラスチック等の透明な基材がより好ましい。基材の形状は平板でもよく、全面または一部に曲率を有していてもよい。
【0043】
本発明の輸送機器用物品は撥水層を有する基材からなる。
本発明の撥水層を有する基材は、表面が水滴滑落性に優れる。その発現機構としては以下が考えられる。化合物1のアミド基、化合物2のスルホンアミド基は水素結合を形成し易く、最表面でR基が配向し易い。そのため、水との相互作用を引き起こすシラノール基等が最表面に存在しにくくなり、優れた水滴滑落性が発現すると考えられる。
本発明の撥水層を有する基材および輸送機器用物品は、その表面が撥水性、水滴滑落性、耐磨耗性に優れることから、水滴がすみやかにはじかれ、急速に移動する。特に、各種窓ガラス等の透視野部での用途において、低速走行時、霧雨時、多量の泥水がかかった場合に、視認性に優れ、車輌等の運行において安全性が向上する。また、本発明における撥水層の表面は撥油性にも優れ、指紋除去性に優れる。さらに、水滴が氷結するような環境下でも氷結しにくく、氷結したとしても解凍は著しく速い。さらに、汚れを含む水滴の付着がほとんどないため、清浄の作業回数を少なくでき、しかも清浄作業を容易に行うことができる。
【実施例】
【0044】
以下に本発明を、実施例(例1〜8、13、14)、比較例(例9〜12、15〜19)を挙げてさらに具体的に説明するが、この説明が本発明を限定するものではない。各例における各種物性の測定は以下の方法で行い、結果を表1に示した。
【0045】
1.基材
酸化セリウム系微粒子を含む研磨剤で研磨洗浄し、純水ですすいで風乾したソーダライムガラス板(10cm×10cm×厚さ3cm、R=0.1nm)。
【0046】
2.水滴滑落性
2−1.接触角
サンプル基材の表面に直径約1mmの水滴を5滴置き、その接触角の測定値の平均値を示した。未処理のソーダライムガラス板の接触角は約30°である。
【0047】
2−2.転落角
サンプル基材を水平に保持し、その表面に50μLの水滴を滴下した後、サンプル基材を徐々に傾け、水滴が転落しはじめた時のサンプル基材と水平面との角度(転落角)を測定した。転落角が小さいほど水滴滑落性に優れる。
【0048】
3.耐摩耗性
3−1.ケイエヌテー社往復式トラバース試験機を用いて、ネル布、荷重1kg、摩耗回数3000往復の条件にてサンプル基材について磨耗試験を行った後、接触角および転落角を測定した。
【0049】
3−2.ドア昇降試験機を用いてサンプル基材を、泥水、摩耗回数3000回往復の条件にて摩耗試験を行った後、接触角および転落角を測定した。
【0050】
4.膜厚
アルバック社製DEKTAK3030を用いて測定した。
【0051】
5.表面平滑性
セイコー電子社製AFM/SPI3700を用いコンタクトモードにて測定した。
【0052】
[使用化合物]
化合物1−1:F(CFCONH(CHSi(OCH
化合物1−2:F(CFCONH(CHSi(OCH
化合物1−3:F(CFCONH(CHSi(OCH
化合物1−4:F(CFCONH(CHSi(OCH
化合物1−5:F(CFCONH(CHSi(OCH
化合物1−6:F(CFCONH(CHSi(OCH
化合物1−7:F(CFCONH(CHSi(NCO)
化合物1−8:F(CFCONH(CHSiCl
化合物2−1:F(CFSONH(CHSi(OCH
化合物2−2:F(CFSONH(CHSi(OCH
化合物3−1:Si(OC
化合物3−2:Si(NCO)
化合物3−3:SiCl
化合物4−1:F(CF(CHSi(OCH
化合物4−2:F(CF(CHSi(OCH
【0053】
[撥水性組成物1〜14の調整]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に下記の原料および溶剤を下記の量(括弧内は質量比)入れ、25℃にて10分間撹拌し、次いで塩酸水溶液(0.03mol/L)の33.72gを滴下して、50℃にて3時間撹拌した。
【0054】
撥水性組成物1:化合物1−1の0.36g、化合物3−1の2.7g、IPAの97.0g(化合物1−1/化合物3−1=1.33/10)。
撥水性組成物2:化合物2−1の0.36g、化合物3−1の2.7g、IPAの97.0g(化合物2−1/化合物3−1=1.33/10)。
撥水性組成物3:化合物1−2の0.36g、化合物3−1の2.7g、IPAの97.0g(化合物1−2/化合物3−1=1.33/10)。
撥水性組成物4:化合物1−3の0.36g、化合物3−1の2.7g、IPAの97.0g(化合物1−3/化合物3−1=1.33/10)。
【0055】
撥水性組成物5:化合物2−2の0.36g、化合物3−1の2.7g、IPAの97.0g(化合物2−2/化合物3−1=1.33/10)。
撥水性組成物6:化合物1−4の0.36g、化合物3−1の2.7g、IPAの97.0g(化合物1−4/化合物3−1=1.33/10)。
撥水性組成物7:化合物1−5の0.36g、化合物3−1の2.7g、IPAの97.0g(化合物1−5/化合物3−1=1.33/10)。
撥水性組成物8:化合物1−6の0.36g、化合物3−1の2.7g、IPAの97.0g(化合物1−6/化合物3−1=1.33/10)。
【0056】
撥水性組成物9:化合物1−3の0.05g、化合物3−1の2.7g、IPAの97.0g(化合物1−3/化合物3−1=0.18/10)。
撥水性組成物10:化合物1−3の3.0g、化合物3−1の2.7g、IPAの97.0g(化合物1−3/化合物3−1=11.11/10)。
撥水性組成物11:化合物4−1の0.36g、化合物3−1の2.7g、IPAの97.0g(化合物4−1/化合物3−1=1.33/10)。
撥水性組成物12:化合物4−2の0.36g、化合物3−1の2.7g、IPAの97.0g(化合物4−2/化合物3−1=1.33/10)。
【0057】
撥水性組成物13:化合物1−7の0.36g、化合物3−2の2.7g、酢酸ブチルの97.0g(化合物1−7/化合物3−2=1.33/10)。
撥水性組成物14:化合物1−8の0.36g、化合物3−3の2.7g、酢酸ブチルの97.0g(化合物1−8/化合物3−3=1.33/10)。
【0058】
[撥水性組成物15の調整]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に化合物1−7の0.36g、化合物3−2の2.7g、酢酸ブチルの97.0gを入れ、25℃にて10分間撹拌した(化合物1−7/化合物3−2=1.33/10)。
【0059】
[撥水性組成物16の調整]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、化合物1−3の0.36g、化合物3−1の2.7g、IPAの97.0gを入れ、25℃にて10分間撹拌し、塩酸水溶液(0.03mol/L)の33.72gを滴下して、50℃にて3時間撹拌した。さらにIPAの100gを添加して10分間撹拌した(化合物1−3/化合物3−1=1.33/10)。
【0060】
[例1]
基材に撥水性組成物1を約1mL滴下し、スピンコート法(3000rpm)にて塗布して、1昼夜(24時間)、室温(20〜25℃)、相対湿度(50〜60%)にて保持し、サンプル基材1を得た。
【0061】
[例2〜16]
例1の撥水性組成物1の代わりに撥水性組成物2〜16を用いた以外は、例1と同様にしてサンプル基材2〜16を得た。
【0062】
[例17]
例4において、3000rpmを1000rpmにした以外は、例4と同様にしてサンプル基材17を得た。
【0063】
[例18]
例4において、基材をR=30nmのソーダライムガラス板にした以外は、例4と同様にしてサンプル基材18を得た。
【0064】
[例19]
例4で得られたサンプル基材4を、200℃にて1時間熱処理してサンプル基材19を得た。
【0065】
【表1】

【0066】
[例20]
自動車用フロント合わせガラスの外側表面に、撥水性組成物4をフローコート法にて塗布して、1昼夜(24時間)、室温(20〜25℃)、相対湿度50〜60%にて保持して撥水層を有する合わせガラスを得た。得られた合わせガラスを自動車のフロントに装着し、該自動車を用いて日中2時間の走行テストを3ケ月間行い、雨天時の水滴の付着状態を肉眼で観察した。その結果、特に低速走行時に表面の水滴がすみやかに移動し、ワイパーをほとんど使用することなく視野が確保できた。また付着した指紋もティッシュペーパーで軽く拭くだけで容易に除去できた。
【0067】
[例21]
例20におけるフロント合わせガラスを、サイドガラスまたはリアガラスに変更して走行テストを行ったところ、例20と同じ効果が確認できた。
【0068】
[例22]
X線光電子分光装置を用いてサンプル基板4の表面の測定を行った。X線光電子分光による分析では、撥水層表面から基材方向へ向かって表面を削りながら存在する原子の強度を測定していく。結果を図1に示す。図1において横軸は撥水層の深さを示し、縦軸は存在する原子の強度を示す。F1sで示される撥水層中のフッ素原子濃度が、撥水層の表面近くで高く、基材方向に向かって低くなる濃度分布を有することがわかる。25min付近からは基材に達していることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の撥水性組成物を用いて形成された撥水層を有する基材は輸送機器用物品に最適である。輸送機器用物品としては、電車、自動車、船舶、航空機等におけるボディー、窓ガラス(フロントガラス、サイドガラス、リアガラス)、ミラー、バンパー等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施例で得られた撥水層のX線光電子分光による測定結果の一例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式1で表される化合物1および/または下式2で表される化合物2と、下式3で表される化合物3とを、(化合物1および/または化合物2の合計)/化合物3が2/100〜100/100の質量比で部分共加水分解して得た部分共加水分解体を含むことを特徴とする撥水性組成物。
CON(R)−A−Si(R(X3−p・・・式1
SON(R)−B−Si(R(X3−q・・・式2
(RSi(X4−r・・・式3
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:炭素原子数3〜17のポリフルオロアルキル基または酸素原子を含む炭素原子数3〜17のポリフルオロアルキル基。
A、B:それぞれ独立して、炭素原子数1〜4の2価有機基または窒素原子を含む炭素数1〜4の2価有機基。
、R:それぞれ独立して、炭素原子数1〜3の1価炭化水素基または水素原子。
、R、R:それぞれ独立して、フッ素原子を含まない炭素原子数1〜6の1価炭化水素基。
、X、X:それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルコキシ基またはイソシアネート基。
p、q、r:それぞれ独立して、0、1または2。
【請求項2】
前記化合物1または化合物2におけるRが、F(CF−D−(ただし、Dは単結合、炭素原子数1〜4の2価有機基、または、窒素原子および/または酸素原子を含む炭素原子数1〜4の2価有機基、aは3〜17の整数を示す。)である、請求項1に記載の撥水性組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の撥水性組成物から形成された撥水層を有する基材。
【請求項4】
請求項1または2に記載の撥水性組成物を基材に塗布し、ついで、温度0〜100℃、相対湿度10〜80%の条件下に該基材を保持することを特徴とする撥水層を有する基材の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の撥水層を有する基材からなる輸送機器用物品。
【請求項6】
基材が透明材料である請求項5に記載の輸送機器物品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−206765(P2006−206765A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21408(P2005−21408)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】