説明

撥水性繊維集合体および撥水加工方法

【課題】優れた撥水性を有しながらも、温度上昇により吸水性が向上する撥水性繊維集合体、および該撥水性繊維集合体を製造するための繊維集合体の撥水加工方法を提供すること。
【解決手段】0〜100℃の範囲内で可逆的に固液相転移する撥水剤を含有する被膜で繊維表面が被覆されてなることを特徴とする撥水性繊維集合体。0〜100℃の範囲内で可逆的に固液相転移する撥水剤を含む溶液を繊維集合体に適用し、乾燥することを特徴とする撥水加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は撥水性繊維集合体および撥水加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スポーツウェア、カジュアルウェア等の各種衣料用途に用いられる生地に撥水性を付与することが知られている。
【0003】
例えば、ポリエステル糸を主体とする布帛の片面又は全面を、ポリエステル系樹脂とフッ素系撥水剤とを含有する被膜で被覆して撥水性布帛を得る技術が報告されている(特許文献1)。しかしながら、そのような技術によって、一旦、付与された撥水性は周囲温度が上昇しても変化しないため、当該撥水性布帛を用いて製造された各種衣料は着衣時において内側温度が上昇したときに内側が蒸れることが新たな問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−1933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れた撥水性を有しながらも、周囲温度の上昇によって撥水性が適度に低下し、十分な撥水性と吸水性とを発揮する撥水性繊維集合体を提供することを目的とする。
【0006】
本発明はまた上記撥水性繊維集合体を製造するための繊維集合体の撥水加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、0〜100℃の範囲内で可逆的に固液相転移する撥水剤を含有する被膜で繊維表面が被覆されてなることを特徴とする撥水性繊維集合体に関する。
【0008】
本発明はまた、0〜100℃の範囲内で可逆的に固液相転移する撥水剤を含む溶液を繊維集合体に適用し、乾燥することを特徴とする撥水加工方法に関する
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る撥水性繊維集合体は、優れた撥水性を有しながらも、周囲温度の上昇によって撥水性が適度に低下する。詳しくは、周囲温度の上昇に伴って、撥水性は低下してゆき、一方で当該撥水性と相反する吸水性は向上してゆく。従って、本発明に係る撥水性繊維集合体には、周囲温度の上昇時において、撥水性と吸水性とが良好なバランスで現れる温度が存在し、このとき、十分な撥水性と向上した吸水性を発揮する。そのような温度は用途に応じて後述する方法によって容易に制御できる。そのため、本発明に係る撥水性繊維集合体は、例えば、スポーツウェア、カジュアルウェア等の日常衣料、消防士の防火服、高温作業で用いる作業服等の耐熱衣料、スキーウェア、防寒着等の耐寒衣料などのような各種衣料用途に有用であり、着衣時において撥水性を維持しながらも、内側の蒸れを十分に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(A)および(B)はそれぞれ実施例2で得られた撥水加工生地のオモテ面およびウラ面のSEM写真を示す。
【図2】(A)および(B)はそれぞれ実施例3で得られた撥水加工生地のオモテ面およびウラ面のSEM写真を示す。
【図3】(A)および(B)はそれぞれ比較例1で得られた撥水加工生地のオモテ面およびウラ面のSEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[撥水性繊維集合体]
本発明に係る撥水性繊維集合体は、所定の撥水剤を含有する被膜で繊維表面が被覆されている。繊維表面に被覆・形成される被膜には少なくとも所定の撥水剤が含有される限り、他の成分が含有されてよく、例えば、所望により分枝鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルで例示されるような固液相転移温度を調節する薬剤、架橋剤、バインダー樹脂等の添加剤、フッ素系撥水剤やシリコン系撥水剤のような公知の撥水剤が含有されてもよい。
【0012】
本発明で使用される撥水剤は、0〜100℃の範囲内で可逆的に固液相転移し、かつ撥水性を有する有機化合物であり、本発明の撥水性繊維集合体が発揮する撥水性の洗濯耐久性の観点から、さらにラジカル重合性基を1分子あたり1個だけ有することが好ましい。
【0013】
有機化合物が0〜100℃の範囲内で可逆的に固液相転移するとは、当該有機化合物を加熱したとき、0〜100℃の範囲内で固体状態から液体状態への相転移を起こす一方で、冷却したとき、当該相転移温度で液体状態から固体状態への相転移を起こす、という意味である。そのような相転移温度は示差走査熱量測定(DSC)法によってピーク温度を測定することによって求めることができる。本発明においては、DSC法を採用した「DSC7」(パーキンエルマー社製)によって、昇温速度10℃/minの条件で測定されたピーク温度を相転移温度として用いる。
【0014】
撥水剤が有する好ましい固液相転移温度は撥水性繊維集合体の用途によって異なる。例えば、撥水性繊維集合体をカジュアルウェア等の日常衣料用途に用いる場合、撥水剤の固液相転移温度は15〜30℃程度が好ましい。また、撥水性繊維集合体を防火服や高温作業服等の耐熱衣料用途に用いる場合、撥水剤の固液相転移温度は30〜70℃程度が好ましい。また、撥水性繊維集合体をスキーウェア、防寒着等の耐寒衣料用途に用いる場合、撥水剤の固液相転移温度は0〜20℃程度が好ましい。
【0015】
有機化合物が撥水性を有するとは、当該有機化合物の溶液に浸漬処理して得られた生地の表面に対して各種周囲温度で吸水性試験を行ったとき、0〜100℃のいずれかの温度で吸水時間が2秒以上となる、という意味である。好ましい吸水時間および所定の吸水時間を達成する好ましい周囲温度は、本発明の撥水性繊維集合体の用途によって異なる。例えば、本発明の撥水性繊維集合体を、日常衣料、耐熱衣料または耐寒衣料などの衣料用途に用いる場合、15℃で吸水試験を行ったとき、吸水時間が20秒以上となるような撥水性を有する有機化合物を用いることが好ましい。吸水性試験とは所定の生地に対して、所定の周囲温度下で1滴(0.3mL)の水(15℃)を滴下したとき、生地が当該水滴を完全に吸い込むまでの吸水時間を測定する試験である。浸漬処理に使用される生地は、詳しくは、綿100%の生地(目付240g/m)である。浸漬処理は、詳しくは、当該生地を当該有機化合物の10重量%溶液に浸漬し絞った後、70℃で1分間加熱乾燥させ、付着率1.6重量%を達成する処理である。生地が浸漬される溶液の溶媒は、当該有機化合物が溶解し得る溶媒であれば特に制限されず、例えば、イソプロパノール、トルエン、メチルエチルケトン等が使用できる。
【0016】
撥水剤が好ましく有するラジカル重合性基は炭素間二重結合を有する有機基であり、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基等が挙げられる。
【0017】
撥水剤として使用できる有機化合物として、直鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。本明細書中、(メタ)アクリル酸アルキルエステルはアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルを包含して意味するものとする。
【0018】
直鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルが有するアルキル基は直鎖状であり、炭素数が12〜22、好ましくは14〜20である。アルキル基の炭素数が少なすぎると、撥水性が低下し、多すぎると固液相転移温度の調節が難しい。
【0019】
直鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例として、例えば、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、ミリスチルアクリレート、ミリスチルメタクリレート、ペンタデシルアクリレート、ペンタデシルメタクリレート、セチルアクリレート、セチルメタクリレート、ヘプタデシルアクリレート、ヘプタデシルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ノナデシルアクリレート、ノナデシルメタクリレート、ベヘニルアクリレート、ベヘニルメタクリレート、エイコシルアクリレート、エイコシルメタクリレート等が挙げられる。これらの中で好ましい(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、ミリスチルアクリレート、セチルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレートである。
【0020】
撥水剤は、繊維集合体の撥水性の観点からは、被膜中においてモノマーの形態で含有されることを妨げるものではないが、当該撥水性の洗濯耐久性の観点からは、後述するキュアリング処理によって硬化された形態で含有されていることが好ましい。
【0021】
固液相転移温度を調節する薬剤として、ブタンジオールアクリレート、ベンジルアクリレート、ネオペンチルグリコールアクリレート、ジエチルアミノメチルアクリレート、アメチルアミノメチルアクリレート及び炭素数12〜22、好ましくは16〜20の分枝鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル等が例示される。分枝鎖アルキル基(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例として、イソステアリルアクリレート、イソステアリルメタクリレート等が挙げられる。
【0022】
架橋剤は1分子あたり2個以上の反応性部位、例えば2個以上のラジカル重合性基を有する有機化合物である。洗濯耐久性の観点から好ましい架橋剤は1分子あたり3〜4個のラジカル重合性基を有する有機化合物である。架橋剤として、例えば、メチロールメラミン、グリオキザール、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリグリセリンアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が使用できる。
【0023】
撥水性繊維集合体を構成する繊維は特に制限されず、例えば、セルロース系繊維、獣毛繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維及びポリアクリル系繊維、ならびにそれらの混合繊維が挙げられる。これらの中でも、本発明の撥水性繊維集合体が発揮する撥水性の洗濯耐久性の観点から、繊維集合体は、電子線照射処理または加熱硬化処理によってラジカルが発生するラジカル形成性繊維を含むことが好ましい。ラジカル形成性繊維を含む繊維集合体を用いて、後述するキュアリング処理、特に電子線照射処理を行うことにより、撥水剤とラジカル形成性繊維との化学的結合が形成され、洗濯耐久性が向上する。ラジカル形成性繊維として、例えば、セルロース系繊維、獣毛繊維、ポリアミド繊維が挙げられる。繊維集合体におけるラジカル形成性繊維の含有量は20重量%以上であればよく、洗濯耐久性のさらなる向上の観点から好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは100%である。
【0024】
セルロース系繊維としては、例えば、天然繊維である綿、リネン及びラミー、その他植物繊維、再生繊維であるレーヨン、ポリノジック、モダール、キュプラ及びテンセル、半合成繊維であるトリアセテート及びジアセテートのセルロース系繊維等が挙げられる。特に、天然セルロース繊維、再生セルロース繊維、アセテート等のセルロース誘導体を含むセルロース系繊維が好ましい。天然セルロースには天然のままのもののほか、シルケット加工されたものおよび液体アンモニア処理されたものを含む。セルロース系繊維に生じるラジカルはセルロース分子の構造単位における5位の炭素、次に4位や1位の炭素に生成しやすく、さらには2,3,6位の炭素にも生成するものと考えられる。
【0025】
獣毛繊維としては、例えば、羊毛、モヘア及びカシミヤ等が挙げられる。
ポリアミド繊維はナイロン繊維とも呼ばれるものである。
【0026】
繊維集合体はいかなる形態を有していてもよく、例えば、ワタ形態;織物、編物、不織布等の布帛形態;及びこれらの布帛からなる繊維製品であってもよい。繊維集合体の目付は特に制限されるものではなく、例えば、50〜400g/m、特に100〜350g/mが好ましい。
【0027】
本発明の撥水性繊維集合体における被膜の付着率(被覆率)は、本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではなく、通常は0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%である。
本明細書中、付着率は、撥水剤溶液の適用前における繊維集合体の乾燥重量に対する適用・乾燥後の増加量(乾燥時)の割合で示される。
【0028】
本発明の撥水性繊維集合体が有する撥水性は温度依存撥水性である。温度依存撥水性とは、周囲環境の温度上昇に伴い、撥水性が低下する特性である。撥水性が低下すると、当該撥水性に相反する吸水性が向上するため、温度依存撥水性とは、周囲環境の温度上昇に伴い、撥水性が低下すると同時に吸水性が向上する特性と言い換えることもできる。本発明の撥水性繊維集合体において温度上昇に伴い撥水性が低下するメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のメカニズムに基づくものと考えられる。繊維表面の被膜中に固液相転移温度が所定範囲内の撥水剤が含有されるので、周囲温度が上昇したとき、被膜中、当該撥水剤の固液相転移温度近傍において相転移が起こって、撥水剤の嵩が減少し、水分が移動する隙間が生じるものと考えられる。
【0029】
本発明の撥水性繊維集合体は、例えば、目付が後述の範囲の場合、周囲温度を−5℃から100℃まで上昇させたとき、吸水性試験における吸水時間が20秒以上、好ましくは40秒以上減少する。特に、日常衣料、耐熱衣料および耐寒衣料等の衣料用途に用いる場合、本発明の撥水性繊維集合体は、周囲温度を−5℃から50℃まで上昇させたとき、吸水性試験における吸水時間が60秒以上、特に100秒以上減少することが好ましい。そのような周囲温度の上昇による吸水時間の減少は、撥水性繊維集合体の少なくとも一方の面において達成されればよく、好ましくは両方の面において達成される。吸水性試験における吸水時間は、生地として所定の撥水性繊維集合体を用いること、所定の周囲温度に設定すること以外、前記吸水性試験と同様の方法により測定された吸水時間である(以下、同様である)。
【0030】
本発明の撥水性繊維集合体は、周囲環境の温度上昇に伴い、撥水性が適度に低下し、その一方で当該撥水性と相反する吸水性が向上するため、周囲温度の上昇時において、撥水性と吸水性とが良好なバランスで現れる。その結果、本発明の撥水性繊維集合体は、低温時には高撥水性を有し、内部に存在する湿気を保持するが、温度上昇に伴い、内部の湿気を放出するようになる。
【0031】
例えば、本発明の撥水性繊維集合体が日常衣料用途に使用される場合、周囲温度15℃における吸水時間T15が60秒以上、特に70〜170秒であり、周囲温度30℃における吸水時間T30が5〜60秒、特に10〜60秒であり、周囲温度50℃における吸水時間T50が15秒以下、特に0〜5秒であることが好ましい。
【0032】
また例えば、例えば、本発明の撥水性繊維集合体が耐熱衣料用途に使用される場合、周囲温度30℃における吸水時間T30が60秒以上、特に180秒以上であり、周囲温度50℃における吸水時間T50が5〜60秒、特に10〜60秒であり、周囲温度90℃における吸水時間T90が15秒以下、特に0〜5秒であることが好ましい。特に、高耐熱用途の場合は、周囲温度30℃における吸水時間T30及び周囲温度50℃における吸水時間T50が180秒以上であり、周囲温度90℃における吸水時間T90が60秒以下、特に15秒以下であることが好ましい。
【0033】
また例えば、本発明の撥水性繊維集合体が耐寒衣料用途に使用される場合、周囲温度−5℃における吸水時間T−5が60秒以上、特に180秒以上であり、周囲温度15℃における吸水時間T15が5〜60秒、特に10〜60秒であり、周囲温度30℃における吸水時間T30が15秒以下、特に5〜15秒であることが好ましい。
【0034】
本明細書中、上記した所定温度での吸水時間およびそれらの差等は繊維集合体の一方の面において達成されればよく、好ましくは両方の面において達成される。
【0035】
本発明の撥水性繊維集合体は、周囲温度の上昇に伴い、吸水時間が減少するものである。すなわち、周囲温度が比較的低温(例えば、−5℃)のとき吸水時間Tは比較的大きく、比較的高温(例えば、100℃)のとき吸水時間Tは比較的小さい。このとき、それらの間の温度において、吸水時間はTとTとの間となり、撥水性と吸水性とが良好なバランスで現れる。
【0036】
本発明の撥水性繊維集合体において、周囲温度の上昇時に撥水性と吸水性とが良好なバランスで現れる温度TGB、例えば吸水時間が5〜60秒となる温度は、撥水剤の固液相転移温度、繊維表面の被膜中に任意成分として含有される分枝鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル、架橋剤およびバインダー樹脂の含有量、撥水性繊維集合体を得るための後述する撥水加工方法におけるキュアリング処理および当該処理条件によって制御できる。
【0037】
例えば、撥水剤の固液相転移温度が高いほど、温度TGBは高くなり、一方で固液相転移温度が低いほど、温度TGBは低くなる。
また例えば、分枝鎖アルキル基(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有させることによって、温度TGBを低減できる。分枝鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量が高いほど、温度TGBの低減幅は大きくなり、一方で当該含有量が低いほど、温度TGBの低減幅は小さくなる。
また例えば、架橋剤、バインダー樹脂を含有させることによって、温度TGBを上昇させ得る。架橋剤、バインダー樹脂の含有量が高いほど、温度TGBの上昇幅は大きくなり、一方で当該含有量が低いほど、温度TGBの上昇幅は小さくなる。
また例えば、キュアリング処理を行うことによって、温度TGBを上昇させ得る。キュアリング処理条件が強いほど、温度TGBの上昇幅は大きくなり、一方で当該条件が弱いほど、温度TGBの上昇幅は小さくなる。
【0038】
本発明の撥水性繊維集合体の目付は特に制限されるものではなく、例えば、60〜410g/m、特に110〜360g/mが好ましい。
【0039】
以上の撥水性繊維集合体は、繊維集合体を以下に示す撥水加工方法に供することによって製造できる。
【0040】
[撥水加工方法]
本発明に係る撥水加工方法は、少なくとも所定の撥水剤を含む溶液を繊維集合体に適用し、乾燥することを特徴とし、所望により、さらにキュアリング処理を行う。撥水剤溶液を繊維集合体に適用することにより、繊維集合体の繊維間に当該溶液が浸透し、これを乾燥することにより、各繊維の表面に撥水剤含有被膜が形成され、結果として撥水剤含有被膜で各繊維の表面が被覆される。
【0041】
撥水剤溶液の適用方法は、当該溶液が繊維集合体に含浸される限り特に制限されず、例えば、溶液に繊維集合体を浸漬して絞る方法、溶液を繊維集合体に塗布する方法、溶液をスプレーなどを用いて噴霧する方法等を採用すればよい。温度依存撥水性を簡便かつ均一に付与する観点からは、溶液に繊維集合体全体を浸漬して絞る方法を採用することが好ましい。
【0042】
撥水剤溶液の溶媒としては、少なくとも撥水剤、好ましくは撥水剤も添加剤も溶解し得る有機溶媒が使用される。そのような有機溶媒として、例えば、イソプロパノール、トルエン、メチルエチルケトン、3−メトキシ−3メチル−1−ブタノール、3−メトキシ−3メチル−1−ブチルアセテート等が挙げられる。また、これら有機溶媒で溶解させた溶液を、さらに水で分散させた撥水剤溶液を使用することもできる。
【0043】
撥水剤溶液中の撥水剤の濃度は、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、好ましくは1〜30重量%であり、より好ましくは5〜25重量%である。
本明細書中、撥水剤溶液に含まれる各種成分の濃度は溶液全量に対する割合で示すものとする。
【0044】
撥水剤溶液中の分枝鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルの濃度は、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、好ましくは1〜25重量%であり、より好ましくは2〜15重量%である。分枝鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルは2種類以上組み合わせて使用されてよく、その場合、それらの合計濃度が上記範囲内であればよい。
【0045】
撥水剤溶液中の架橋剤の濃度は、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、好ましくは2〜15重量%であり、より好ましくは3〜12重量%である。架橋剤は2種類以上組み合わせて使用されてよく、その場合、それらの合計濃度が上記範囲内であればよい。
【0046】
繊維集合体に含浸させる撥水剤溶液の量は、本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではなく、通常は乾燥後において前記した被膜の付着率が達成されればよい。
【0047】
撥水剤溶液の適用方法として溶液に繊維集合体を浸漬して絞る方法を採用する場合、絞る方法としては、均一性の観点から、マングルに通す方法を採用することが好ましい。
【0048】
撥水剤溶液の適用処理の後、通常は乾燥を行う。これによって、溶媒が蒸発され、結果として撥水剤含有被膜で繊維表面が被覆されてなる本発明の撥水性繊維集合体が得られる。
【0049】
乾燥は例えば、繊維集合体を70〜150℃程度で0.5〜5分程度保持することによって達成される。キュアリング処理を行う場合は、撥水剤の適用処理を行った繊維集合体に対して、乾燥を行うことなしに、キュアリング処理を行ってもよい。
【0050】
キュアリング処理は、繊維表面に形成された撥水剤含有被膜を硬化させるための処理である。撥水剤がラジカル重合性基を有する場合、撥水剤含有被膜中において撥水剤はラジカル重合し、例えば重合体の形態のような、硬化された形態を有するようになる。キュアリング処理によって撥水剤と繊維とが化学的に結合し、温度依存撥水性の洗濯耐久性を向上させることができる。
【0051】
キュアリング処理は、電子線照射による硬化処理であってもよいし、または加熱による硬化処理であってもよい。耐久性を向上させる観点から、電子線照射による硬化処理を行うことが好ましい。
【0052】
電子線照射による硬化処理を行う場合、電子線の照射線量は通常、1〜300kGyであり、好ましくは10〜200kGy、より好ましくは10〜50kGyである。
【0053】
電子線照射処理は、繊維集合体の一方の面に実施されてもよいし、または両方の面に実施されてもよい。電子線照射処理を一方の面に実施する場合であっても、両方の面に実施する場合であっても、それぞれの面に対する照射線量はそれぞれ独立して上記範囲内であればよい。
【0054】
電子線照射処理は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
電子線照射装置としては市販のものが使用可能であり、例えば、エレクトロカーテン型電子線照射装置としてEC250/15/180L(岩崎電気(株)社製)、EC300/165/800(岩崎電気(株)社製)、EPS300((株)NHVコーポレーション製)などが使用される。
【0055】
加熱による硬化処理を行う場合、加熱処理は通常、120〜200℃程度、好ましくは130〜170℃で、0.5〜5分間程度、好ましくは1〜3分間行う。
【0056】
キュアリング処理した後は通常、水洗し、乾燥を行う。
【実施例】
【0057】
ステアリルアクリレートは「ステアリルアクリレート」(ナカライ社製)を用いた。
イソステアリルアクリレートは「NKエステルS-1800A」(新中村化学工業社製)を用いた。
ベヘニルアクリレートは「NKエステルA-BH」(新中村化学工業社製)を用いた。
イソプロパノールは「イソプロパノール」(ナカライ社製)を用いた。
トルエンは「トルエン」(ナカライ社製)を用いた。
バインダーKMはアクリル酸エステル共重合物(バインダーKM;新中村化学工業社製)を用いた。
架橋剤はジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(730;荒川化学工業社製)を用いた。
【0058】
<実験例1>
(サンプル1A)
ステアリルアクリレートをそのままDSC試験に供し、ピーク温度を測定した。
【0059】
(サンプル2A)
ステアリルアクリレートに対して、エレクトロカーテン型電子線照射装置EC250/15/180L(岩崎電気(株)製)により窒素雰囲気下で電子線を、加速電圧150kVにて照射線量40kGyで照射した。得られたステアリルアクリレートを示差走査熱量測定(DSC)試験に供し、ピーク温度を測定した。
【0060】
(サンプル3A)
電子線照射線量を200kGyに変更したこと以外、サンプル2Aと同様の方法によりピーク温度を測定した。
【0061】
(サンプル4A)
イソステアリルアクリレートを用いたこと以外、サンプル1Aと同様の方法によりピーク温度を測定した。
【0062】
【表1】

【0063】
<実験例2>
(サンプル1B)
綿100%の生地全体を、20重量%のステアリルアクリレート(ナカライ社製)、80重量%のイソプロパノールの混合液に浸漬し、マングルで絞って、70℃で1分間加熱乾燥させ、表2に記載の付着率を達成した。当該生地を用いたこと以外、サンプル1Aと同様の方法によりピーク温度を測定した。
【0064】
(サンプル2B〜13B)
混合液の薬剤およびその濃度ならびに付着率を表2に記載のように変更したこと、および乾燥後、以下の方法により電子線照射処理を行ったこと以外、サンプル1Bと同様の方法によりピーク温度を測定した。なお、サンプル12Bにおいては、イソプロパノールの代わりにトルエンを用いた。
特にサンプル13Bでは、綿100%の生地をDSC試験に供し、ピーク温度を測定した。
【0065】
・電子線照射処理
生地の一方の面に対して、エレクトロカーテン型電子線照射装置EC250/15/180L(岩崎電気(株)製)により窒素雰囲気下で電子線を、加速電圧150kVにて、表2に示す照射線量で照射した。照射後、未反応の薬剤を除去するために70℃の温水で20分間洗浄をし、ついで150℃で90秒間乾燥した。
【0066】
【表2】

【0067】
表2より、撥水剤の固液相転移温度(ピーク温度)は、生地上においても、被膜中の分枝鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量およびキュアリング処理によって制御できることがわかる。
【0068】
<実験例3>
(実施例1)
綿100%の生地(目付240g/m)全体を、10重量%のステアリルアクリレートおよび90重量%のイソプロパノールの混合液に浸漬し、マングルで絞って、70℃で1分間加熱乾燥させ、表3に記載の付着率を達成した。当該生地を165℃、105秒間加熱した後(加熱硬化処理)、未反応の薬剤を除去するために70℃の温水で20分間洗浄をし、ついで150℃で90秒間乾燥して撥水加工生地を得た。
【0069】
(実施例2)
混合液の薬剤およびその濃度ならびに付着率を表3に記載のように変更したこと以外、実施例1と同様の方法により撥水加工生地を得た。
【0070】
(実施例3〜7)
混合液の薬剤およびその濃度ならびに付着率を表3に記載のように変更したこと、および165℃で105秒間の加熱硬化処理の代わりに、以下に示す電子線照射処理を行ったこと以外、実施例1と同様の方法により撥水加工生地を得た。
特に実施例7では、加熱硬化処理も電子線照射処理もその後の洗浄・乾燥処理も行わなかった。
【0071】
(実施例8〜9)
10重量%のベヘニルアクリレートおよび90重量%のトルエンの混合液を用いたこと、および付着率を表3に記載のように変更したこと以外、実施例1と同様の方法により撥水加工生地を得た。
特に実施例9では、加熱硬化処理も電子線照射処理もその後の洗浄・乾燥処理も行わなかった。
【0072】
・電子線照射処理
生地の一方の面に対して、エレクトロカーテン型電子線照射装置EC250/15/180L(岩崎電気(株)製)により窒素雰囲気下で電子線を、加速電圧150kVにて照射線量40kGyで照射した。
【0073】
(参考例1)
綿100%の生地をそのまま用いた。
【0074】
(比較例1)
綿100%の生地(目付240g/m)全体を、8重量%のアサヒガードAG7000(旭硝子株式会社製、固形分20質量%のフッ素系撥水剤エマルジョン)、1重量%のプラスコートZ−850(互応化学工業株式会社製、固形分25質量%の水系飽和ポリエステル樹脂)、3重量%のイソプロピルアルコール(浸透性向上剤)および88重量%の水の混合液に浸漬し、マングルで絞って表3に記載の付着率を達成し、170℃で40秒間加熱処理した。
【0075】
【表3】

【0076】
実施例2で得られた撥水加工生地のオモテ面およびウラ面のSEM写真をそれぞれ図1(A)および図1(B)に示す。
実施例3で得られた撥水加工生地のオモテ面およびウラ面のSEM写真をそれぞれ図2(A)および図2(B)に示す。
比較例1で得られた撥水加工生地のオモテ面およびウラ面のSEM写真をそれぞれ図3(A)および図3(B)に示す。
【0077】
(評価)
得られた生地を吸水性試験に供した。
生地の表面に1滴(0.3mL)の水(15℃)を滴下し、生地が当該水滴を完全に吸い込むまでの時間を測定した。
吸水性試験は生地のオモテ面およびウラ面に対して、−5℃以下、15℃、30℃、50℃および90℃の周囲環境下で行った。またそのような吸水性試験は、洗濯する前と洗濯を10回行った後とに行った。洗濯は、JIS L 0217:1995の付表1(番号103)に記載される試験法に準じて実施した。
【0078】
生地のオモテ面とは、電子線照射処理を行った場合は、電子線を照射した面を意味するものとする。また、加熱硬化処理を行った場合、又は加熱硬化処理も電子線照射処理も行わなかった場合は、生地のオモテ面およびウラ面は任意の面であってよい。
周囲環境の温度は、試験を行う冷凍庫内または室内の設定温度を調整することによって制御した。
【0079】
【表4】

【0080】
表2および表4より、吸水時間は撥水剤の固液相転移温度(ピーク温度)とよく相関していることがわかる)。また、吸水時間は、撥水剤の固液相転移温度(ピーク温度)、繊維表面の被膜中に任意成分として含有される分枝鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル、架橋剤およびバインダー樹脂の含有量、キュアリング処理および当該処理条件によって制御できることがわかる。
【0081】
表4より、実施例1〜9の撥水性繊維集合体は、少なくとも未洗濯の状態のオモテ面およびウラ面において、周囲環境の温度上昇に伴い、撥水性が適度に低下し、撥水性と吸水性とが良好なバランスで現れることがわかる。よって、そのような撥水性繊維集合体を衣料に用いた場合、当該衣料は適度な撥水性が維持されながらも、衣料内側の蒸れが防止されることは明らかである。
比較例1の撥水性繊維集合体は、少なくとも未洗濯の状態のオモテ面およびウラ面において、周囲環境の温度上昇によっても、撥水性は低下せず、吸水性が得られないことがわかる。よって、そのような撥水性繊維集合体を衣料に用いた場合、当該衣料の内側に蒸れが生じることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0〜100℃の範囲内で可逆的に固液相転移する撥水剤を含有する被膜で繊維表面が被覆されてなることを特徴とする撥水性繊維集合体。
【請求項2】
前記撥水剤が炭素数12〜22の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルである請求項1に記載の撥水性繊維集合体。
【請求項3】
前記撥水剤がステアリル(メタ)アクリレートである請求項1または2に記載の撥水性繊維集合体。
【請求項4】
前記繊維がセルロース系繊維、ポリアミド繊維または獣毛繊維を含む請求項1〜3のいずれかに記載の撥水性繊維集合体。
【請求項5】
0〜100℃の範囲内で可逆的に固液相転移する撥水剤を含む溶液を繊維集合体に適用し、乾燥することを特徴とする撥水加工方法。
【請求項6】
前記撥水剤が炭素数12〜22の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルである請求項5に記載の撥水加工方法。
【請求項7】
前記撥水剤がステアリル(メタ)アクリレートである請求項5または6に記載の撥水加工方法。
【請求項8】
前記繊維がセルロース系繊維、ポリアミド繊維または獣毛繊維を含む請求項5〜7のいずれかに記載の撥水加工方法。
【請求項9】
乾燥前又は乾燥後、キュアリング処理する請求項5〜8のいずれかに記載の撥水加工方法。
【請求項10】
キュアリング処理が電子線照射による硬化処理であるか、または加熱による硬化処理である請求項9に記載の撥水加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−1849(P2012−1849A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138074(P2010−138074)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】